ゴブリンスレイヤー ―灰色の狼―   作:渡り烏

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いや、本当にギリギリだった……。


水の都へ

 夜のギルド前。

 休暇が終わり、妖精弓手の付き合いで森の中の遺跡を探索した後、夕食を取っていた。

 

――ベリッ、ガッガッ、バリッ!!――

 

「……すごい食べっぷりね」

 

「良いお肉と肝らしいですから……それに骨付きですし」

 

「しかも後足の部分を骨ごと丸々とね。こうしてるとやっぱり狼なのよね……」

 

「もう慣れてきてしまいましたけれどね」

 

 吾輩の食べっぷりを見て4人娘が何か言っているが気にしないでおこう。

 今吾輩が食べているのは遺跡探索の帰りに狩った鹿の足と肝だ。

 この辺りは良く肥えた鹿が居る為、こうして自分の食事は自分で狩ってきて食べている。

 何時もは皆ギルドに併設された酒場で夕食を取っているが、今宵は吾輩に合わせて月夜を見ながら屋外で食べる事になったようだ。

 ギルドの前なので敷布を引いて机を置き、その上に料理を並べている。

 

「しかし、野営以外で月を見ながら飲むと言うのも悪くないな」

 

「然様で、何時も街に居る時は屋内で食べておりますからな。

 こうして外で食べるのも悪くないと言うもの……あむっ、ふほほ、甘露甘露」

 

 そこへ何やら書面を抱えた受付嬢とゴブリンスレイヤーが来た。

 

「おお、かみきり丸、お前さんも一杯どうだ?」

 

「いや、それは今度にしよう。

 今は皆に相談したい事がある」

 

「おお、子鬼殺し殿が拙僧等に相談とは」

 

「明日はゴブリンが降るわね」

 

「掃除の事考えたらうんざりするから止めて」

 

「あはは……、それで相談とは?」

 

 女神官が気を取り直してゴブリンスレイヤーを促す。

 

「俺に指名依頼が来た。

 内容はゴブリン退治、報酬は金貨一袋を参加人数分だそうだ」

 

――ほほう?――

 

「それは……随分と大規模な巣になっているようですね」

 

「ああ、だが報酬の大きさと俺への指名だと言うのが気がかりだ」

 

「なによゴブリンスレイヤー知らないの?

 あんたと灰色、歌になってるのよ」

 

 訝しむゴブリンスレイヤーに妖精弓手がそう答える。

 

「前に剣狼さんの保護に関する説明で、私もゴブリンスレイヤーさんの事が歌になってるって言ってましたね」

 

「……その時は興味がなかった」

 

――お主は自分の事になるととことん無頓着だな――

 

 名誉欲など皆無と言わんばかりの彼の発言に皆が苦笑する。

 それでも、下宿先にしている牧場には律義に下宿代を払っているのだから決して悪い人物ではないのだが、こう言う所で損をしているとしか言いようがない。

 

「まあ、そうやってお前さんの歌が広まれば、わし等や今回みたいに外からの依頼が増えるっちゅう寸法じゃ」

 

「ふむん……」

 

 鉱人道士の言葉にゴブリンスレイヤーは兜越しに顎をしゃくる。

 彼にしてみればゴブリン退治の依頼は優先すべき事だが、ここを離れると逆に下宿先のあの女子が、ゴブリン被害に合わないか心配になる……ジレンマだな。

 

「しかしどうしましょう。

 工房長さんに頼んだ女戦士さんの両手剣……クレイモアでしたっけ?それにあの石の欠片を打ち込む作業が明後日になると……」

 

 女武闘家改め女戦士となった彼女に、転職(ジョブチェンジ)祝いとしてクレイモアにあの欠片を残った分全てつぎ込むそうだ。

 依頼料は吾輩を除く全員で分割して払い、クレイモアの代金は工房長が半値負けてくれたらしい。

 だが彼女の依頼の他にも仕事がある上に、先日の失態で押され後回しせざるを得なかったのだ。

 

「依頼を終えた後受け取るのも手だが……」

 

「指名依頼じゃと、受けてから何時向かうと連絡を入れるのも手だがの」

 

「それでも1日が限界よ。

 人間だと馬みたいに速く走れないし、馬車だってそう都合よく見つかるかも分からないわ」

 

――なら吾輩が運べば良いではないか――

 

 吾輩が机に顎を載せて全員を見る。

 

「あ、確かにあんたなら私達に追いつけそうね」

 

「でも師父だけだと対人関係に不安が……やはり誰かが師父と一緒に後を追うか。

 それとも依頼を終えた後に受け取るか……」

 

「じゃあ私が灰色と一緒に後を追うわ。

 明後日に出る馬車の予定も把握してるし、あてがあるから」

 

 皆が悩んでいると女魔術師が手を上げて提案する。

 

「いいのか?」

 

「良いも悪いも無いと思うんだけど、それにオーガの件だってあるし、少しでもリーチがある武器を持った方が良いと思うし、閉所でも槍代わりになるわ。

 私だって杖の石突に槍の穂先付けれるようにしてるのよ?」

 

 そう言いながら女魔術師は腰から槍の穂先を取り出し、石突を外してネジの部分が現れる。

 何時の間にそんな改造を施したのやら……。

 

「槍使いさんから長物の扱い方を習い始めてるし、女神官だってそうしてるわ」

 

「ええ、まぁ……私も石突の先に穂先を取り付けられるようにしてますし、彼女と一緒に長物の扱いを習っています」

 

 そう言いながら女神官も自分の杖の石突の先を外して見せる。

 

「おやじさんには変な顔されたけれどね」

 

「でも、術が切れたら後は自分で何とかしないといけませんし……」

 

「その時はもう撤退戦よね。

 まあそうならないようにしましょう」

 

 妖精弓手も言うが後衛が武器を持つという状況はまず避けねばならない。

 だがそれでもどうしようもない事態は発生するもので、万が一に備えて自衛手段を持つのは悪い判断ではない。

 

「しかし巫女殿も魔術師殿もたくましく成って参りましたなぁ」

 

「彼と一緒に行動すると……その……おのずとたくましくなって行くのかもしれません」

 

 最初に会ったころに比べれば、女神官も随分と遠慮が無くなってきた。

 もうそろそろ鋼鉄になっても良いのではないかな?

 

「大体の方針は決まったな。

 灰色と魔術師以外が先行して水の街へ出発、二人は武……戦士の剣を受け取った後に出る。

 待ち合わせ場所は依頼先である至高神の神殿だ」

 

 

 

「それで置いてけぼりを食らったわけか」

 

「置いてけぼりじゃないわね。

 これも必要な行動よ」

 

 剣狼に女戦士の武器を右の腹に取付けながら女魔術師は工房の翁に答える。

 バランスが取りづらそうだが、剣狼は何でもないように佇んでいる。

 

「あの連中なら今更ゴブリン相手に後れを取る事も無いと思うがな」

 

「油断と慢心は死を招くわ。

 私だってあの失敗は本当に勉強になったし」

 

 最初の冒険で小鬼の毒短剣を受けた記憶が想起される。

 もしあの時剣狼とゴブリンスレイヤーが助けに来なかったら、自分は死んでいてもおかしく無かったと、女魔術師は思っている。

 

「じゃあそろそろ行くわ。

 待たせるわけにもいかないし」

 

――ウォン!――

 

「おう、気を付けて行けよ」

 

 翁の声に送り出されながら剣狼と女魔術師はギルドから出て、すぐそばにある馬車駅に向かう。

 

「お、来た来た」

 

「すみません、お待たせしました」

 

「良い、のよ」

 

 馬車駅に泊まっている一台の馬車に乗り込むと、そこに居たのは槍使いと魔女だった。

 

「出してくれ」

 

 槍使いが御者に声を掛けると馬車が動き出す。

 

「それにしても槍使いさん達が水の街に用事があって助かりました」

 

「なぁに良いって事よ。

 仮にも弟子なんだからそれぐらいの面倒は見るさ。

 それにこの街の鑑定士はほとんど当たったしな」

 

「未だに分かっていませんか……」

 

「そう、ね。此処まで手古摺るのは、まず無かった……わ」

 

 どうやら西の辺境の街にある鑑定士では、あの魔道具の鑑定は出来なかったようだ。

 

「だから高い鑑定能力があるっていう至高神の大司祭様に依頼を出したんだ」

 

「ぶふぅ!」

 

 女魔術師が水筒で飲んでいた水を吹き出す。

 そしてその飛沫が正面にいた剣狼に当たり、ギャン!?っと悲鳴を上げた。

 

「げほっえほっ!ご、げほっごめんなさい灰色!」

 

「おいおい大丈夫か」

 

「あらあら」

 

「貴方が行き成り変な事を言うからでしょうが!」

 

 剣狼の体毛にあたった水滴を拭きながら女魔術師が槍使いに言う。

 

「まあ快い返事を貰えたんだがな」

 

「ええ……」

 

 あまりにもあっけなく許可が出たのを聞いて、女魔術師は困惑の声を出す。

 

「まあ実際こいつが鑑定できなかった時に出したんだけどな。

 俺も呆気なく許可がもらえて二度見しちまったよ」

 

「ギルド経由、だったことも、あるわね」

 

「それで良いのかしら至高神の大司祭様……」

 

 その後も滞りなく旅路は進み、一行は2日後の昼に水の街へ到着した。

 

 

 

「はぁ……すごい神殿ね」

 

「仮にも至高神だからな。

 裁判でも活躍することがあるし、それだけ儲けてんのかね」

 

「下品な、詮索はしない、の」

 

 剣狼もそうだそうだと言いたげに槍使いの両肩に前脚を載せる。

 

「ぐぁ!お前重いんだから行き成り肩に足を掛けるな!」

 

 槍使いの抗議を受けて剣狼は素直に足を地面に降ろす。

 

「……たく、じゃあさっさと中に入ろうぜ」

 

 槍使い達が歩を進め、神殿の入り口まで行くとそこには一人の神官が居た。

 

「すみません。大司祭様に鑑定の依頼を出したものですが」

 

「割符はお持ちでしょうか?」

 

「ここに」

 

 槍使いが割符を出すと、神官はそれを受け取り両方とも懐に入れる。

 

「確かに当神殿の割符です。

 ではこちらに」

 

 神官が先導する形で一行は神殿の中へ入って行く。

 

「そう言えば、お前達もこの神殿からの依頼だっけか?」

 

「はい、そう言えば彼……ゴブリンスレイヤーさんは今どちらに?」

 

「それは……大司祭様にお聞きした方が早いかと」

 

「……へ?」

 

 女魔術師が間が抜けた声を上げると、既に神殿の最奥部にまで歩いてきていた。

 

「あら……これは獣の香り?」

 

 最奥の礼拝堂に居たのは、女神と見間違わんばかりの女性だった。

 

「剣の乙女にお会いできて光栄です。

 此度の鑑定依頼を出した槍使いです」

 

「同じく、魔女、でございます」

 

「こ、こちらから出されたゴブリン退治の依頼を受けた一行の者です!

 そしてこっちは灰色の剣狼と呼ばれる狼です!」

 

――オン!――

 

「あらあら、これはご丁寧に。

 既に知っておられるようですが改めて、私は剣の乙女、この水の街の至高神の神殿で大司祭を務めております」

 

 目隠しをした女性の大司祭、剣の乙女が微笑みながら3人と1頭に挨拶を返す。

 

「あの、先行してこちらに参った仲間たちは今どちらへ?」

 

「ゴブリンスレイヤーさん達でしたら、先日ゴブリンの第一次討伐を行った後、今日の昼頃に探索先の地下水道へと向かいましたわ」

 

「もう、せっかちなんだから……」

 

「ま、あいつはゴブリンだけで生きていけるような奴だからな。

 ……おほん、では、早速ですが鑑定を行って頂きたいのですが」

 

「ええ、どうぞ」

 

 あらかじめ用意していた敷布を侍女が敷き、剣の乙女がそこに座る。

 槍使いも依頼の品である、五つの獣の意匠をあつらえた指輪と首輪を、彼女の前に置いた。

 

「では、始めさせて頂きます」

 

 剣の乙女が品に手をかざし、そしてその造形を掌でなぞる。

 

「……これは少々難しいですね。

 もうしばらくお待ちを」

 

 それだけ言うと再び彼女は一息ついた後、再び鑑定を再開する。

 その後時間にすると10分程経った時、剣の乙女が手を依頼の品から除ける。

 

「出来ました。

 これは獣語の指輪、および首輪ですね」




さて、記念すべき10話目です。
やっと鑑定出来ました謎の装飾品。
効果は言わずともよろしいでしょう。
そして少し駆け足気味に描いた感が否めません。
もう少し練りたかった……。

さて、女戦士の新たな武器クレイモア+4が完成しました。
一応進化先は決めていますがここはあえてアンケートで決めたいと思います。
活動報告でアンケートを行いますので、候補の4つからコメントでご応募ください。
アンケートは本投稿から本日の23時までとなります。

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