ゴブリンスレイヤー ―灰色の狼―   作:渡り烏

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1か月ぶりの更新となります(震え声


深淵禍(後編)

「ちょ、ちょっと待って、剣狼とあなたがこの世界の住人じゃないってどういうこと!?」

 

「……」

 

 女魔術師は動揺しながら白猫に聞き、ゴブリンスレイヤーはその様子を腕を組んで見ていた。

 

「この世界が四方世界と呼ばれ、神々の骰子遊戯の盤上だって言うのは知っているだろう?

 あたしたちは……というよりも剣狼はちょいと特殊でね。

 元居た世界では死んでいるんだよ」

 

『何故かこの世界に流れ着いてしまったのだがな』

 

「え……」

 

 再び白猫と剣狼の口からもたらされた情報に、周囲の人間は唖然としていた。

 ただでさえ剣を扱い共通語を解する狼と、共通語を話す猫の出現だけで思考のキャパシティがオーバー寸前だ。

 そこに実は剣狼と白猫は外世界の存在であり、しかも剣狼は出身世界で死亡していると言うのだから、この場にいる者たちの正気度(SAN値)が墓場までいってしまいそうになっている。

 

「ま、その辺りはこの騒動が収まってからゆっくり話すさね。

 で、あたしは自分の配下をこの場に呼べるけれど……」

 

『不要だ。

 吾輩の隣に立つのは親友と戦友だけで良い』

 

「あんたも頑固だねぇ、誰に似たのやら……幸い時間はまだある。

 その間に手を打っておくから、あんたが持ってるあいつのソウルを渡しておくれ」

 

『……これだ』

 

 剣狼は何処からともなく取り出した黒く濁り切った大きなソウルを白猫に渡す。

 そのソウルを見た者達は、なにか胸がざわつく感覚を持った。

 神官職や魔術を嗜む者は、ソウルと言うからには魂だろうと当たりを付け、かつて雄々しかったであろうその魂が、あそこまで汚れ切るほどの相手だと再認識し冷や汗を流す。

 

「さて、それじゃあたしはちょっと用事を済ませておくよ。

 すぐに戻るからその間に方針を決めといておくれ、……この街を失っても良い様にね」

 

 最後にそう言い残すと、白猫は薄れるように消えて行き、瞬きする頃にはその姿は完全に消えていた。

 事情説明はそこで一旦終わって皆が屋内に入り、更に1刻を過ぎた所で辺境の街にある各神殿の神官長や商館の長達、そして領主の姿も見せる。

 最初に口を開いたのは領主だった。

 

「さて、事態は大体聞いた。

 この街に危機が迫っていると言う事だが……」

 

『その原因である魔物の存在は吾輩が保証する。

 そして奴は周囲を浸食させ、人間は自分の配下にするか、人間性だけの存在となって深淵を彷徨う存在となる。

 この状態になると同じく闇魔法を使える個体も出始め、神性を持つ者や聖職者には猛毒となるだろう』

 

 剣狼の言葉に女神官をはじめ、聖職に就く者達は顔色を青くする。

 

『加えて魔法や魔術に対する抵抗力も高く、それによる攻撃もあやつにはあまり効果は期待できない。

 まあ効きにくいと言うだけで効果自体は出るので、一概に無意味ではないだろう』

 

「じゃがそれでも焼け石に水じゃろうな。

 して魔法の威力や抵抗力は高いようじゃが、近接はどうなんじゃ?」

 

「そうだな。

 近接が弱ければ或いはと思うのだが……」

 

 鉱人道士と女騎士が質問する。

 

『近接の攻撃力も馬鹿にできんな。

 食らえば並の人間……屈強な戦士でも瀕死は免れん。

 接近しすぎれば薙ぎ払いをし続け、盾で受けても体力(スタミナ)を軒並み持っていかれる』

 

「物理的な防御力はどうなんだ?」

 

 これは重戦士からの質問だ。

 近接戦闘手段しかない彼等にとっては己の

 

『それに関しては問題ない。

 むしろ魔法の武器などよりは、吾輩の弟子が持っているクレイモアのような、純粋に物理攻撃に特化した武器の方が好ましい。

 もちろん奴の分厚い表皮と筋肉を貫けるものがあればだが』

 

「なら、俺の愛剣は相性が良さそうだな」

 

 質問した重戦士が口元を歪ませながら、自分の愛剣であるグレートソードを軽く叩く。

 

「俺も久々にあいつを引っ張り出すか……。

 しかしそいつはどんな奴なんだ?それだけでたらめな強さならぱっと見で判別できそうだが」

 

『うむ……言うなれば巨大なヘラジカの角を付けた紅い多眼の巨人だな。

 筋骨も隆々であり、右手には棍棒と言わんばかりの巨大な杖を持っている』

 

「……確かにそんなもんでぶん殴られたら、俺でも生きてるか怪しいな」

 

「というか戦闘続行不可能だろ。

 金等級でも怪しいぜ」

 

「さしもの私もその様な連撃を食らえばただでは済まないな……」

 

「魔法が、利きにくい。近接の、攻撃も、難しい。少し、困ったわ、ね」

 

「あたしも矢で攻撃してみるけれど、あんまし効果が出なさそうね」

 

「拙僧も身のこなしは長けている方ですが、そのようなでたらめな攻撃をされては」

 

「じゃがやっこさんが相手にできるのは正面のみじゃろ。

 いっそ、囲んじまった方がええかもな。

 なぁに、こういう時こそ高度な柔軟性を維持して、臨機応変に対応するのがわし等のやり方じゃろ」

 

「手数を増やして交互に攻撃か、それにはまず周りの邪魔な奴等を倒すのが先だろう」

 

 この街の最高戦力である銀等級8人がそれぞれ案を出し合う。

 場数を踏んでいるだけあって、一旦方針が決まればまとまるのが速い。

 

「こちらでも守備隊から戦力を抽出する。

 いざとなれば弩砲(バリスタ)投石機(カタパルト)、いざとなれば先端を強化させた破城槌を出しても良い。

 ……守備隊長、状態と数はいかほどだったか?」

 

「いつでも組み立てて使用できるように整備してあります。

 弩砲は10基、投石機は4基、破城槌はありませんが、日付までには2基用意して見せましょう。

 弩砲は壁上に設置し、投石機と破城槌は壁外に配置すれば即応できます」

 

 領主がさらに案を追加し、守備隊長がそれに補足を加える。

 そして昼食を挟み日が少し降りるまで、ゴブリンスレイヤーと剣狼、そしてこの街の名士達が付き合わせた会議が続けられた。

 そうして決められた事柄は次の通りだった。

 

 

 

1.辺境の街の住民の避難と移送

 これは領主命令であり、広場において此度の襲撃を行う魔物の危険性を、小鬼王の死体も使って知らせるとともに、移送計画についても大々的に発表を行い避難を促す。

 移送計画としては水の街と王都への移送を計画しており、旅馬車や商館、はては行商人の馬車を使っての移送となり、馬車に乗る者の序列は体が女性と子供、男性そして体が弱い者と老人となる。

 

2.王都と水の街への伝令

 伝令には早馬を使い、4人一組でそれぞれに向かう。

 途上で盗賊や魔物に襲われた場合は散会し、各々の判断でそれぞれの目的地へ向かう事。

 伝令は1日毎の夜明けに出立し、戦闘は避けて一刻も早く伝えられた時点の情報を伝える事。

 

3.戦力の招集

 休暇や予備役に入っている身体に障害が無い兵役経験者の招集。

 冒険者は翠玉等級以上の冒険者を対象にした防衛線依頼を、青玉等級以下には移送の護衛依頼を張り出し参加を促す。

 前者に関してはその冒険者、一党を組んでいる場合は頭目の判断に任せ、仮に参加しなくても罪には問わない。

 その代わりこの脅威を項目1と同様に、王都や近隣の街へ知らせるようにする事。

 

 

 

 領主の館では、参加者がほとんど帰った会議室で領主と守備隊長が居た。

 

「正直この街に住む数千人の人口を2日で疎開させなければならんとは……。

 先代陛下から任された身としては腸が煮えくり返る思いだ」

 

「それでもなさないよりはましです。

 ここで疎開させなければ、敵に戦力を与える材料を与えてしまいます」

 

「……そうだな。

 人がいれば街は再建できる。

 防衛が成った暁には宮殿に復興支援資金を強請るとしよう」

 

 手を叩き改めて領主は配下に指示を出す。

 

 

 

 冒険者ギルドでは改めて依頼の張り出しが行われていた。

 

「依頼に関してだが、前者に関してはゴブリンスレイヤー君が出した報酬に加え、一人頭金貨100枚を追加し、後者に関しても、金貨30枚を払うと領主閣下は約束された。

 加えて襲撃する魔物の首魁を討伐した者、或いは一党には金貨5000枚を与える」

 

「100枚!?」

「護衛でも30枚だってよ!」

 

 報酬額に冒険者達、特に翠玉以下はその額に驚いていた。

 だが同時にこの街の存亡が現実のものになりつつあるのを、皆が改めて感じ取るには十分な額だったが、その恐怖を覆い隠すように奮起するしかなかった。

 

「じゃあお前たちはここに残るんだな?」

 

「ああ、だけど死ぬ気はないぜ?

 危ないと思ったらすぐに離脱しろって大将に言われてるからな」

 

「私達じゃ足手纏いだから……、せめて斥候と治療くらいは役に立たないと」

 

 新米戦士の言葉に少年斥候が答え、少女巫術師も彼に続けて言う。

 

「でもあたしなんて術は1回しか使えないし、しかも使えるのは≪聖撃≫(ホーリースマイト)だけだし、今回出てくる敵はその神聖魔法も効果が薄いし……。

 それに比べたら断然役に立てるわよ」

 

「俺なんて武器がこの二つしかないからなぁ」

 

 新米戦士が腰に下げている棍棒と剣に触れる。

 どちらも今回の急襲戦(レイドバトル)には不向きな得物であり、彼の身を守る防具も心もとない。

 

「とにかく、そっちも気張って行けよ。

 護衛が多数付くと言っても、盗賊やゴブリンの奇襲が無いとはいえないからな」

 

「ああ、そっちも死なないようにな」

 

 

 

「師父」

 

『うむ……』

 

 女戦士と剣狼は互いの目を見合う。

 

「……私は、私はあなたの隣には立てませんか?」

 

『……』

 

 女戦士の問いに剣狼は瞑目する。

 その問いの原因は間違いなく剣狼自身が言った言葉のせいだろう。

 だが剣狼はその事を撤回するつもりはなかった。

 

『確かにお前は強く、そして変化した。

 3月前のお前が見たら信じ難いと思うくらいだろう……だが』

 

「もとよりこの命は……私の純潔は師父から守られた物、ならその礼は返さなければなりません」

 

 剣狼の言葉を女戦士が遮る。

 

「……ですから、貸し逃げなんてさせませんから」

 

『ふふ、まったく誰に似たのやら』

 

「弟子は師に似ると言いますから」

 

「おやおや、これまた懐かしい光景だね」

 

 そんな二人の会話の中で白猫が入り込む。

 

『用事とやらは済んだのか?』

 

「ああ、勿論さ。

 探し物は見つかったし、あとはこちらの準備をするだけだよ」

 

『しかし、そうポンポンと枠から出て大丈夫なのか?』

 

「なに、『樹』は寛容なものだよ。

 猫の気まぐれぐらいで怒るようなことはないさ」

 

『気まぐれにしては外側に出過ぎだろうに……』

 

 剣狼が呆れたように言う。

 

「さっき『樹』とかなんとか言ってましたけど、何のことです?」

 

「んー、これは言って良いのかねぇ……。

 いや、ちょっと外っ側の連中と相談してから喋るとするかね」

 

「あ、白猫が居る。

 なになに、何の話よ?」

 

 1人と2頭の会話が終わりかけた頃、妖精弓手が声を掛けて来た。

 その後ろにはゴブリンスレイヤー含む一党の姿もあり、剣狼たちに歩み寄る。

 

『そちらは話はついたのか?』

 

「ああ、全員参加だ」

 

「勿論、危なくなったら嬢ちゃん達は真っ先に逃がすつもりじゃがな」

 

「危険な仕事は熟練者がやるべきですからな。

 経験が浅い者は先達を見て学び、何が危険かを覚えてから取り掛かるのが、万物の基本でしょうや」

 

「私の奇跡がどこまで通じるか分かりませんが、精一杯お役に立とうと思います」

 

「私も2回しか魔法が使えないけど、広域魔法を魔女さんから教わったから雑魚散らしには使えるわよ」

 

「私は弓しか取り柄が無いけれど、逆に言えば目とか急所を狙って支援するわ」

 

 各々が言葉を並べる。

 あの遺跡の依頼から今日まで、互いに手の内を知りつくした仲だ。

 

「それよりも白猫、さっき剣狼たちと何話してたのよ?

 『樹』とか何とか聞こえたけど」

 

「おやおや、盗み聞きとは感心しないねぇ。

 好奇心は猫をも殺すと言うのに、怖くないのかい?」

 

「え、もしかしてそういう話?」

 

 白猫の答えに妖精弓手は顔を引きつらせる。

 長い時を生きる上の森人の彼女でも、目の前にいる2頭は別格の存在なのだ。

 

「まぁ喋っていいかちょいとお伺いをしてからだね。

 それよりも道士殿、あれの調子はどうだい?」

 

「おお、今工房で見ておるんじゃ、剣狼も見ていくと良いじゃろ」

 

 

 

「むむむ……」

 

 工房を覗くとそこには銀のペンダントを、ルーペを使って見つめているあの娘が居た。

 

「細工師殿、首尾はいかがかな?」

 

「やはり装飾と一緒に、チェーンにも魔法陣が施されているみたいです。

 言葉は分かりませんがこれだけの精度で陣を彫るなんて、さすが異世界の代物です」

 

 蜥蜴僧侶に声を掛けられるとルーペを置き、目をこすりながらこちらを向くと娘……女細工師の顔に喜色が彩った。

 

「灰色様!」

 

『うむ、此度の戦で首魁を相手取ることになった。

 吾輩はあやつの放つ深淵の毒には耐えられるが、同行するものにはそれが必要となる』

 

「はい、伺っています。

 戦えない身ではありますが、私が今持っているすべてを出して準備をさせて頂きます」

 

「この娘っ子、細工と術式の才能は確かじゃ。

 このまま経験を積めば、いずれ名のある細工師になるじゃろ」

 

「い、いえ、道士さんや魔女さんの様には……」

 

「なぁに、この短期間で都の魔道具師を抜くほどの腕を持っておるんじゃ、お主は間違いなく一角の者になろうさ」

 

 女細工師の謙遜を鉱人道士が保証する。

 わたわたとしつつ魔女に視線を向ければ、彼女はウィンクをしながら笑った後煙管で紫煙を吸った。

 

「それで、どれだけ人が集まるね?」

 

「そうさな、ここの三人とあと四人ほどで七人になる予定じゃ。

 その間わし等がこのペンダントにある術式の解読をするんじゃが」

 

「ふむん、なら私が少し手助けをしてやろうじゃないか。

 娘さん、ちょいと頭を下げておくれ」

 

「え、あ、はい」

 

 白猫については道士から聞いている為驚かなかったが、それでもおずおずと頭を下げる。

 下げた女細工師の頭に白猫が前脚を添え、白猫が数秒ほど白く輝いた。

 

「今お前さんの頭の中に、剣狼の出身世界の言葉と魔術言語を追録(サプリメント)させてもらったよ。

 これで銀のペンダントの中身が分かるはずだよ」

 

「え!?そんなまさか……わぁ!ほ、ほんとだ。読める!」

 

 白猫の言葉に半信半疑ながら銀のペンダントを再度覗き込み、女細工師は驚きながらも興奮したようにルーペを片手に、陣に書き込まれている言葉を羊皮紙に書き込む。

 

『随分とサービスが良いのではないか?』

 

「なぁに許可はちゃんと取ってやっているさ。

 この世界の神だって、世界が滅びるのはごめんだからね。

 もっとも、今回の騒動の主犯はあたしの爪と相方の尻叩きで罰は済んでいるさ」

 

『それは痛そうだ』

 

 罰を負った神の事を思いながら剣狼はそう言うだけにとどめた。

 実際白猫ほどの猫の爪を受ければ、重傷待ったなしである。

 

「さて、それじゃあさっさと取り掛かるよ。

 相手は待っちゃくれないんだからね」

 

 白猫がそう言うと各々動き出した。

 すべてはこの街を守るために……。




難産オブ難産。
そして最終的には有耶無耶にして次回につなげると言う力技。
それもこれも杉花粉ってやつが悪いんだ(暴論

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