青年剣士君は犠牲になったのだ。
作者のダイス運の犠牲にな……。
ここではないどこかでサイコロの音がした。
おや、と≪真実≫が見ると、そこには≪幻想≫にしては珍しく、とある少女の為に最後の抵抗で振った増援が来るか来ないかの幸運の出目がありました。
結果は2D6で12、
やったと≪幻想≫が喜びを露にし、傍らでハラハラとお気に入りの女神官を見守っていた地母神とハイタッチ、≪真実≫はふむんと珍しい事があるものだと鼻を鳴らします。
さて、ここで例の変なのが来れば、この冒険はもう勝ったも同然です。当然ほかの冒険者が来ても、剣士を欠いた一党が無事なのには変わりありません。
今か今かと≪幻想≫と地母神、そして≪真実≫がワクワクしながら盤面を見ていると、そこに現れたのは一頭の剣を咥えた狼と例の変なのでした。
おや?っと≪幻想≫と≪真実≫は顔を見合わせます。
はて、≪幻想≫は確かに幸運にも奇跡を引いたわけだが、この狼はなんなのだろうか?と二柱とも疑問符が絶えません。
そこへ地母神はとりあえずサイコロを振れば分かるだろうと提案し、それはそうだと≪真実≫と≪幻想≫は頷き、≪幻想≫がサイコロに手を伸ばそうとすると、狼がそのサイコロを自分で退かしてしまいました。
その狼の行動に地母神はあっと声を上げ、≪幻想≫は申し訳なさそうな表情を浮かべ、≪真実≫は君は悪くないと言いながら真顔になります。
何故ならその行動は、例の変なのと同じ行動だったのです。
目が覚めると吾輩が居たのは親友の墓前ではなく、木々の葉から木漏れ日が漏れ、草木生い茂る森の中だった。
――ここは……――
あの不死人に吾輩が倒されたのは記憶している。
そして親友から託され、キアランが預けてくれたあの指輪も、力あるあの不死人に渡った……筈だ。
吾輩の体の中に親友のソウルがまだあるのを確認し、一息吐きながら身を起こし周りを改めて見てみる。傍らには親友から授かったあの剣が地面に刺さっていた。
――この二つがある限り、吾輩はまだ戦える――
ここが例え如何様な場所であろうとも、吾輩は親友の誇りを守り続ける。
剣の柄を咥え引き抜く。
そしてもう一度見まわすと違和感があったが、すぐに察しがついた。
――背が縮んでいる?――
吾輩の背丈が縮んでいたのだ。
藪の高さからして人の背丈ほどではないが、あの不死人の肩くらいはあるだろう。
だが、これならば大抵の害ある者には負けない筈だ。
さて、これからどうしたものだろうか……。
この世に墜ちてから1年が経った。
あれから吾輩はこの世について断片的にだが分かってきた。
どうもここは天ではないらしく、同時に地獄でもないらしい。
この世界には親友のような神族はおらず、吾輩が認識している小人の末裔である人間が繁栄している世界、所謂闇の時代だと言われていた状況だが、アノールロンドほどではないが大きな街、その周囲には村も点在しており、少なくとも小ロンドやウーラシールの様に荒廃した様子はない。
むしろ人間たちに活気が満ちており、吾輩としても親友が居ない寂しさを紛らわすには調度良い騒がしさだった。
そんな世界だがその中でも吾輩が我慢できない輩が居る。
ゴブリンと呼ばれている緑色の体色をした小人だ。
初めて奴等を見たときは人間の娘を凌辱している所で、携えている剣で叩き切ってやり娘を救助した。
四騎士である親友の誇りを継ぐものとして、そのような行いを見過ごす訳にはいかなかった。
娘は剣を咥えた吾輩を見て最初は困惑していたが、吾輩が剣を置いて汚れている場所を舐めると、吾輩にしがみ付いて泣きながら「ありがとう」と繰り返し礼を言い、そしてヨロヨロと歩き出すので吾輩も剣を携えながら娘の後を追う。
幸い娘にとって土地勘が働く場所だったのだろう、娘の出身であろう村に到着すると娘の惨状と、剣を咥えているという吾輩の姿を見て村人達が当惑する。
これ以上人間の許へ近寄るのは危険か、そう判断して吾輩は娘が人間達に保護されるのを見届けると踵を返す。
「狼さん、助けてくれてありがとう!」
吾輩の背後から娘の声が聞こえてきた。
振り返ると娘は泣き腫らした顔に喜色を浮かべ、こちらに手を振っているのが見えた。
まあ、こうして人間を助けるのも悪い気はしない。
吾輩は一声、元気でなと鳴くと、当惑する村人達を尻目に森の中へと戻っていった。
そして緑色の小人の臭いを確実に覚える。
こやつ等は唾棄すべき闇の者の手先だろう事は、吾輩の矮小な頭でもすぐに理解できた。
ならば我が親友の名を汚さぬよう、奴等を討伐して回るのも良いだろう。
吾輩は今後の方針を決めると行動に出る。
ある時は村の物見をしようとしていた小人を斬り、ある時は村娘の救助のために単身洞窟の中に潜り、ある時は襲撃されている村に突入し制圧した。
そうしている内に吾輩は灰色の剣狼と呼ばれ始め、そして御礼なのか最初に助けた村娘の村に立ち寄った際、あの娘から首飾りを頂戴した。
なんでも大恩ある方が野生の狼と同じように狩られてはいけないと、収入が乏しい中態々作ったそうだ。
吾輩としても剣は何時も携えているわけではないから、他の狼と差別化ができるならこれ以上の事はない。
付けてもらった首飾りは邪魔にならず、かつ音もあまり出ないように細工されており、奇襲の際に気付かれる恐れはないであろう出来で、このまま上達すればこの娘は細工師として栄達できるであろう代物であった。
だがここは寒村でありそれほどの余裕もないであろう。
吾輩は獣であるし、狩った鹿を持って行ったとしても大した助けにはなるまい。
少々尾を引かれる思いではあったが、礼の為に一声鳴くと吾輩はまた放浪の旅に出た。
――む?――
あれからしばらくしてあの小人の臭いがしたので周囲を探ると、そこには奇妙なトーテムと洞窟があった。
確かこのトーテムはあの小人の妖術師が居る証拠だったはず、そして入り口には小人の臭いに交じって、若い人間の男と複数の女の臭いがあった。
――まずい、年若い人間であの呪術師の相手は無茶だ――
明らかに苦戦を強いる戦力差なのに、それを見過ごすのは友が教えてくれた騎士道の流儀に反する。
そこまで考えを纏めると吾輩は洞窟へ突入した。
「そんな……!」
憎からず思っていた青年剣士の最期を見て女武闘家は束の間思考を停止してしまう。
あれだけ槍や短剣で刺されたり、棍棒で殴られたらまず助からない。
仮に生きていたとしても、最早通常の生活には戻れないだろう。
「……二人共、逃げなさい!」
「で、ですが……!どうして、
女神官の返事に女武闘家は経験の足りない頭で考えに考える。
そうしている間にも小鬼達はジリジリと近寄ってくる。
一か八か女武闘家が前に飛び出そうとしたその時、真横を灰色の風と蒼い軌跡が奔り、岩と金属が擦れる音と共に小鬼の胴が縦に真っ二つに割れた。
「……え?」
「GOB?」
女武闘家と小鬼は共に困惑する。
何が起きたのか、何が通り過ぎたのか。
女武闘家は倒れた小鬼の向こう側を、小鬼達は自分たちの後ろを同時に見た。
そこに居たのは蒼く煌めき血が付いた大剣の柄をその口に咥え、首には木の実の殻と削り出した木の珠で飾られた首飾りを着けた灰色の狼だった。
「おお……かみ?」
女神官の呟きに応えるように灰色の狼は、剣を咥えたまま器用に遠吠えをする。
咥えた剣の刀身が松明の光に照らされ妖しく青く輝き、その眼光は少女達よりも小鬼に対して強く注がれていた。
「GBGRB!」
「GBBG!」
小鬼が何事か叫びながら狼に向け駆け出す。
脅威度が高いのは女武闘家ではなく、この狼だと判断したのだろう。剣士を切り刻んでいた小鬼も狼に向かって飛び掛かる。
狼は右側に咥えていた剣の刀身を前に向ける。
「危ない!」
青年剣士の最期を見ていた女武闘家の声が響く。
だが女武闘家が思い描いた結果には成らなかった。
狼は一度包囲している小鬼達の一方、女武闘家たちが居る方にいる小鬼を薙ぎ払い、そのまま横跳びをして距離を開け、もう一方の着地したばかりで隙だらけなゴブリンを、正面に咥え直した剣で再び薙ぎ払う。
横幅が若干広い程度の狭い洞窟内で、己の獲物の長さを正確に把握し、そして圧倒的多数の敵を叩き伏せるその様は、亡き青年剣士が目指していた騎士の様な勇ましさであった。
――ウォン!――
狼が女武闘家に向け一声鳴き、運良く生き残った2匹の小鬼を警戒する。
小鬼達も青年剣士とは比べ物にならない強さの狼を見て動揺しているが、それ以上にたかが獣である狼に良い様にやられているのに我慢がならないようで、その額には血管が浮き出ていた。
――バウ!――
狼が再び鳴く。
「……っ!後退するわ!彼女は私に任せて!」
「あ、はい!……あっ!」
狼の意図を察した女武闘家が女神官に向かって叫び、女神官は浅く息をしている女魔術師を女武闘家が背負うのを手伝おうとした所で、入り口がある方に松明を持った人影が立っているのに気付いた。
「GBRR!」
――ッ!――
小人の凶刃が吾輩の頬の毛を掠めるが、カウンターで放った大剣の一撃が迎撃する。
これでこの場に残っている小人の数は1。
だがそこで小人の増援が来た。
洞窟の奥から現れたのは小人より幾分か大きい、同じ緑色の体表を持った大柄な小人だった。
――用心棒か――
この手合いは何度も見てきており、大抵は頭が足らないが力が強いというのが相場だ。
故に小人の妖術使いが用心棒として、この大物を引き入れて戦力を整えるのは理に適っている。
だが……まあ、吾輩が居た時点で無意味な事だったが……。
「HOGGBR」
大物がその肉体に見合った石斧を振り上げる。
だが数々の不死者や墓荒らしの相手をしてきた吾輩には、その振りは余りにも遅すぎた。
大物が石斧を振り下ろすか下ろさないかの所で、吾輩の剣が大物の右腕を切り落とし、次いで傍にいる小人の首を絶つ。
剣を右側から左側に咥え直し、大物の胴を薙いで上半身と下半身を泣き別れさせる。
それで終いであった。
周囲に残敵無し、安全を確保した。
「灰色の剣狼……」
ふと人間の男の声で吾輩の異名が洞窟内に響いた。
声のした方へ振り替えるとそこに居たのは、上級騎士の鎧を見すぼらしくしたようないで立ちの男であった。
……それにしても。
――不死人と似た様な臭いを感じるな――
「あの、失礼を承知でお聞きしたいのですが!」
「医術の心得はありますか!?この子、
「……」
鎧男が少女達の声を聴きそちらに視線を向け、再び吾輩に視線を向けてくる。
これで意図が伝わればいいが……と、吾輩は洞窟の奥へと体を向けた。
狼が洞窟の奥へ向いたのを確認すると、鎧男……ゴブリンスレイヤーは女魔術師の傍で膝を突き、彼女の状態を観る。
「何でやられた?」
「ゴブリンが持っていた短剣でお腹を……」
「短剣か……運が良かったな」
そう言いながら腰の背嚢から取り出したのは解毒の水薬であった。
「これを飲ませろ」
「はい!」
ゴブリンスレイヤーから受け取った水薬を、女神官が受け取り女魔術師にゆっくりと飲ませる。
「まだ毒が回りきっていない。無理に動かしていれば全身に巡っていただろう」
「そんな、毒があったなんて……」
「掠った程度でも重症化する事もある毒だ」
水薬を飲ませ終えると、女魔術師の息遣いがゆっくりと安らかなものになってきた。
「良かった……」
「状態が安定したな……さて」
ゴブリンスレイヤーが再び狼に視線を向けた。
大きさは通常の狼の約1.8倍、只人の……ちょうど女武闘家の肩ぐらいの大きさがある。
そして蒼く煌めく大剣をその口に咥え、首には目撃され始めてから少し経った時に確認された首飾り、灰色で刃が通りにくそうな毛並み。
「間違いないな」
「あの狼について何か知ってらっしゃるんですか?」
「ああ」
彼曰く1年ほど前に辺境の街周辺の村に突然現れたという。小鬼に凌辱された娘が、彼の狼と共に戻ってきたのが最初の目撃談になっている。
それからというものの、村々を渡り歩きその周辺を巡っては小鬼に攫われた娘を奪還し、或いは小鬼に襲撃された最中に現れ屠り去る。
だが都や小鬼に直接の被害を被ったことがない人々は、そんなモノが居るわけがないと言うが、数々の物証があるので冒険者ギルドでも頭を抱える事態となっていた。
酔った
子鬼殺しを専門とするゴブリンスレイヤーも、ギルドに居る馴染みの受付嬢からその噂は聞き及んでいた。そしてその狼が自分の目の前にいる。
「……とりあえず巣の制圧から始めるか」
ゴブリンスレイヤーは警戒を続ける狼に脅威は無いと判断し、手早くそこらに散らばる小鬼の死骸を数え始める。
「……17か。
もしかしたらあと1,2匹ばかり居るだろうが、大方の残りは頭目のシャーマン1匹のみだろう」
「シャーマン……ですか?」
「ああ、ゴブリン共の妖術使いだ。入り口とここまで来る途中でトーテムがあっただろう」
「「……っ!!」」
二人の反応にゴブリンスレイヤーは何も応えない。そして同時に責めもしない。
小鬼の生態を知る機会などゴブリンスレイヤーが新人だった頃にすら無かったのだ。
理由としては不明だが、小鬼自体が相手にするのが面倒なのが一因だろう。
そしてゴブリンスレイヤーの頭の中にある知識は、すべて実地で経験して身に着けたものだ。
「続きはシャーマンを倒してからだ。
恐らくもう残りのゴブリンは居ないだろうが……どうする?」
それはつまり、ゴブリンシャーマンを倒すのに付いて来るか来ないかの問答だった。
「私は、行けます!」
「私はこの子の傍に居るわ」
「そうか……」
ゴブリンスレイヤーはそれだけ言うと狼に顔を向ける。
「言葉が通じるか分からんが、お前はどうする?」
鎧男……ゴブリンスレイヤーと名乗った男と、神官の娘が洞窟の奥へと進んで行くのを吾輩と武闘家の娘は見送った。……生き残りや残存戦力を警戒して、神官の娘に臭い消しでゴブリンの血を被せたのは上手い手だと思ったが、どうやら女子である神官と武闘家には堪える物だったようだ。
そろそろ首が凝ってきたので剣を壁に立てかけ、首を中心に体を振って筋肉を解し体を横たえる。
――しかし吾輩がそこまで噂になっているとはな――
何分名声の事など気にせず放浪してきた為、自分の事などそこまで頓着する気にはなれなかったのだ。
墓守の約束を果たした今、吾輩はただの根無し草。
ここらで新しい相棒を見つけるのも一興かもしれない。
――まあ、一番の相棒は親友であるアルトリウスなのは譲らんがな――
次点は戦友であったあの不死人だが……。
そこまで考えに更けてから視線を横にずらす。
そこには先程意識を取り戻して何時の間にかいる吾輩についてと、現状を説明された魔術師の娘と、毛布がかかった男の遺体を見続け、形見である長剣を掻き抱いて目元に涙を浮かべている武闘家の娘が居た。
魔術師は吾輩が視線を向けた事に驚き、「っひ」と小さく悲鳴を上げながら半ばで折れている杖を握る力を強め、武闘家は吾輩と傍らに置いてある大剣を交互に見ている。
――何も取って食いはしないというのに……――
しかしこの娘たちの今に至るまでの境遇故致し方あるまい。
魔術師の娘は毒付きの刃で腹を刺されて昏倒し、武闘家の娘はその様子から剣士だった男と憎からぬ関係だったのか、その死にかなり堪えているようだ。
「あのさ、魔術師」
唐突に武闘家の娘が口を開く。
「な、なに?」
「私、剣士になる」
一大決心である。
なるほど、先程吾輩と大剣を見ていたのはその答えに行き着いたからか。
「本気……なの?」
「うん……あいつの分も一緒に冒険してあげないと」
そう言いながら武闘家の娘は剣の鞘を強く握る。
「師の宛はあるの?」
「……まだ打診していないけど、ある」
そう言い放ちながら吾輩を見る。
そして吾輩の傍まで歩み寄り、そして膝を突いて首を垂れ……。
「灰色の剣狼さん、私の師になって頂けませんか?」
そう言った。
――ふむん――
心意気は十分にあるし、なにより生真面目で真摯な態度は好感が持てる。
アルトリウスなら……と、そこまで考えて一旦その考えを掻き消す。
これは吾輩とこの娘の問題だ……ならば。
「あーちょっと良い?」
――む?――
「なに?」
魔術師の娘が吾輩と武闘家の娘を見ながら問いかけてきた。
「貴方、この狼の言葉分かるの?」
「……あ」
「ただいま戻りました……って何ですかこの状況は!?」
ゴブリンスレイヤーと女神官が戻ってくると、そこには四つん這いになっている女武闘家と、やれやれという表情の女魔術師、そして首周りを後ろ足で掻いている狼の姿があった。
シフって過去(DLC)の時でも銀等級くらいの実力はありそう。
それに加えて数百年間の研磨で剣技に冴えが出てるから、図体小さくても金等級くらいの実力はあると思う。
つまり剣技だけで≪君≫くんや剣の乙女と同等と言うやべー性能。
なお魔法は使えないから遠距離からの攻撃は手出しできないし、言葉もしゃべれないので冒険者にも成れない。
文字は……どうなんだろ?