ゴブリンスレイヤー ―灰色の狼―   作:渡り烏

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長らくお待たせして申し訳ない。
生存報告がてらの投稿になります。
ちょっと短い上にただでさえ拙い文章力が落ちてるかも。


エンカウント

 

 

 

 

 

『むぐぅ……』

 

「にひひ♪」

 

 剣狼は先程ギルドに入ってきた少女……勇者と自己紹介した冒険者に、頬の肉を両手で持ち上げられていた。

 

『以前にも似た様な事をされた記憶があるのだが……』

 

「き、気のせいじゃないかしら?」

 

 剣狼の台詞に妖精弓手は片手で口を押さえ、顔を背けながら笑いを堪えていた。

 そして親友である狼の騎士と、戦友の悪魔殺し、そして弟子である女戦士も剣狼に背中を向けているが、その肩が微妙に揺れているのは女魔術師の目から見ても明らかだった。

 

『兎も角放すが良い勇者とやらよ』

 

「はーい!」

 

 剣狼が頼むと勇者も素直に手を放す。

 そして持ち上げられた頬の毛や髭が気持ち悪いので顔を振る剣狼、決戦間際でピリピリしていたギルド内がホッコリした。

 

「お久しぶりです」

 

「……ああ」

 

「むぅ……」

 

 そしてもう一方ではゴブリンスレイヤーが剣の乙女と女神官に挟まれていた。

 彼女もまた、至高神の託宣によってこの街へ向かうように知らされ、馬車の用意をしている所で替えの馬が調達できなかった勇者一行と遭遇、この街まで一緒に相乗りする事となった。

 一通りゴブリンスレイヤーとの会話を終えると、剣狼の元へ歩み寄る。

 

「微力ながら私もお力添えいたします」

 

『助かる。

 だが奴には魔術や奇跡の類は効き難い。

 取り巻きの変異種に対し広域で使った後、術はとっておいた方が良いだろう』

 

「分かりましたわ」

 

「あとは奴がゴブリンの巣で捕らわれていた虜囚を使ってきた場合だな。

 その時は躊躇なく攻撃する事を推奨する」

 

「な、何故ですか!?」

 

 悪魔殺しが言った台詞に、冒険者を代表するかのように女神官が聞き返す。

 

「単純にもう助からないからだ。

 奴の周りにいたのでは体の変異はもう手遅れになっているだろう。

 我々の世界の魔術師の街(ウーラシール)で奴が起こしたのは、そこの住民が奴の深淵に当てられて頭部が肥大化し、奴の意のままに操られる異形の怪物にした。

 しかも自分たち以外の生物が立ち入れば問答無用で襲ってくる。

 奴の傍に居る事自体が既に手遅れなんだ」

 

「加えて言えば女性体ではどのような変異が起きているか分からない。

 我々の想像を絶する異形にされている可能性もあるのだ」

 

『ただのゴブリン相手ならまだ助かる目はあるだろう。

 だが奴と相手にするにはその様な覚悟ではだめだ』

 

 三者三葉に冷徹な答えを返す。

 そこで勇者が前に出た。

 

「僕も似た様な奴に遭遇したよ。

 鱗と後ろ足が無い白い巨大な竜で、街の人を捕まえて蜥蜴人みたいな姿に替えられていた。

 中には全身から結晶を生えさせたり、貝みたいな姿にされていたり……」

 

「あの禿この世界にも居たのか……」

 

「そう言うな。白竜の鱗への願望は凄まじいからな……」

 

『やはりあの噂の竜は奴だったのか……』

 

 勇者の言葉を聞いて三人は集まって小声で話すが、剣狼の声は女戦士の指輪から発せられるので、一人の少女の左手に男二人と狼一頭が寄り添うという、実にシュールな光景が出来上がった。

 しかも会話の内容は女戦士に駄々洩れであり、彼女はそれにどう反応すれば良いのか困惑気味である。

 

「……それで敵の首魁の絵姿は出来たのか?」

 

「ああ、会心の出来だと思う」

 

 そう言いながら羊皮紙をテーブルの上に出す悪魔殺し。

 そこにはややデフォルメされているが、それでも十分に醜悪な姿だと分かる深淵の主(マヌス)の姿があった。

 

「うわぁ……これまた強烈な……」

 

「今の所確認されている悪魔の中じゃ一等に醜悪だな。

 で、この横に居るのが……」

 

「主観での俺の姿だ。

 頭までなら俺二人分、角を含めれば三人半と言ったところか」

 

 槍使いと重戦士が見た感想を言うと、周りに控えていた冒険者達も続々と絵姿を確認しに来る。

 それぞれ感想を言う中、再びギルドの扉が開く。

 そこには街の警備隊長と、班長らしい複数の人影があった。

 

「勇者殿と剣狼殿の援軍が来たと聞いたが」

 

「あ、はーい!ここです!」

 

「我々もここだ。それと目標の絵姿も完成している」

 

「こちらも微力ながら力を貸そう。

 そして短い間だが世話になる」

 

「そなた等が剣狼殿の援軍か……。

 その佇まい、只者ではないとお見受けしました。此度の戦いではよろしくお願いします」

 

 警備隊長がそう言うと部下に指示を出して辺境の街周辺の地図を広げる。

 そこには幾つかの攻城兵器の配置と、陥穽を使った罠の配置が予測進路上に配置されていた。

 

「まず第一に壁上設置型の弩砲と投石機による攻撃で、雑魚散らしと首魁への多少なりの痛痒を与えたい。

 投石機が投射するものは、近頃製法が再発見された粘着火薬(ギリシア火薬)を詰め込み、火種を付けた油壷を使う」

 

 見本として持ってきたのは黒々として、程々に粘着性がある油が入った瓶だった。

 

「これは引火性が高く、加えて粘性も高いため取り扱いを十分に気を付けよとのお達しだ。

 また製法は秘匿されている為、ここにあるのは以前に作り置きをしたもので、数に限りがあると言う事に留意してほしい」

 

「貴公、これをどう使う?」

 

「そうだな。遠距離で全周から投げつけて丸焼きパーティも良いが……、やはり長物武器に塗りたくってから火を点け、体内にねじ込むのも手だろうな。

 あとは傷口や口腔に油を撒いてから火を点ける等か」

 

『流石戦友、やる事が実にえげつない』

 

「「「「……」」」」

 

「なるほど……」

 

 新アイテム(新しい玩具)を見て早速悪魔殺しが何か物騒な事を言い出し、他の冒険者や警備隊の面々は冷や汗を流して閉口しているが、ただ一人ゴブリンスレイヤーだけが頷いていた。

 やはり上位の悪魔(デーモン)を倒すには、悪魔以上のえげつなさを持たなければならないのだろうかと、その場にいた者達はそう思った。

 

「……おほん、では第二段階だが、討ち漏らした取り巻きを今度は広域魔術で叩きのめす。

 これは弩砲などの再装填時間を稼ぐ目的もある」

 

「再装填までにはどれ程時間がかかるので?」

 

「弩砲は凡そ30秒、投石機は約1分半だ」

 

 重戦士の質問に警備隊長が答える。

 

「分かった」

 

「他に質問は?……無い様だな。

 第二段階を終えたらあとは前衛の仕事だ。

 もちろんこちらからも援護はするが、その際には笛を鳴らすので留意しておいてほしい。

 ……聞き逃して我々の弾に当たらんでくれよ?

 葬式代を払う気はさらさらないからな」

 

 警備隊長のブラックジョークに練達の冒険者達は笑う。

 ただ黒曜等級や白磁等級の新米たちは、その狂気を含んだ空気に当てられて顔色を蒼くしている。

 

「さて、そろそろ案が詰まってきたな。

 あと何か自己申告をする者は居るか?」

 

「ここに居るよ」

 

 警備隊長の言葉を受けてしばらく聞かなかった声が響く。

 そこへ皆が顔を向けるとそこには白猫が居た。

 

「白猫殿か、なにかな?」

 

「なに、ちょいと早い聖夜のプレゼントさね」

 

 白猫がそう言うと、何処からともなくガラガラと楔石各種を取り出した。

 

「さあ今回は出血大サービスだ。

 パッチみたいにケチな品揃え(数量限定)じゃないからね。

 欠片一個で銀貨6枚(600ソウル)、原盤1枚で金貨2枚(20000ソウル)だよ」

 

 そのような事を宣った白猫の目の前にデカいソウルの塊が置かれた。

 

「原盤を30枚くれ、向こう側に巨人の鍛冶師が居るからな」

 

 それを皮切りに購入する者が続出し、工房長が死ぬほど槌を振るったのは想像に難くなく、むしろ当然の帰結だった。

 これも辺境の街の為。

 

「まだ死んどらんわい」

 

 

 

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 辺境の街から遠く離れ昼時を僅かに過ぎた森の中、その中を突き進む有象無象の姿があった。

 元はゴブリンであったであろうその体は赤黒く変色し、頭部は元のものより倍以上に膨れ上がったヒトガタの異形の群れ、その後方を悠然と大角と尾を揺らしなが闊歩する深淵の主があった。

 

「くそ……これはヤバいな……」

 

「ええ……まさかこれほどの威圧感があるとは……」

 

 斥候として軽装で出された街の警備兵の二人は木陰から群れの様子を見ていた。

 二人は濃緑色に染色された皮鎧と頭巾、それに口元にも同じ色の布を身に着け、腰には短剣を着けていた。

 これは視認されにくくするための物であり、主に森の中から標的を偵察するための装備である。

 

「これは俺達がまともに相手にするのは無謀だな。

 街からの距離は掴んだな?もどっ跳べ!」

 

 戻るぞと言いそうになって途端に首筋に鳥肌が立つ、そして相方を引っ掴んで飛び退くとそこに黒い塊が着弾した。

 

「気付かれた!逃げるぞ!」

 

「畜生!」

 

 短く悪態を吐くと二人は森の中を駆け抜けて行く。

 そのすぐ後ろから木々が破砕される音が響き渡り、二人はこれでもかと脚に力を入れて駆ける。

 そして森の切れ間に木に繋いだ馬が見え、手早く解くと今までで最も早く馬に飛び乗る。

 

「っはぁ!」

 

「っやぁ!」

 

 踵で馬の腹を叩き駆け出させるのと、深淵の主がその場に飛び込んでくるのは同時だった。

 

――グルルルルル……――

 

「走れ走れ!」

 

「帰ったら水と飼葉をたらふく食わせてやる!」

 

――ゴオアアアア!――

 

 馬が最高速になると同時に深淵の主も、雄叫びと共に闇魔法を発動させた。

 だが人の足ならともかく、馬の最高速に追随できるものではないらしく、見るだけで悍ましいほどに漆黒に染まったそれは、馬が通った蹄の跡を添うように着弾した。

 しかし二人は後ろを振り向かずに、必死に手綱を操り深淵の主の元から走り去って行く。

 

「相棒、まだ生きてるか!?」

 

「生きてなきゃ会話できねぇだろ!」

 

「それもそうだ!ははは!」

 

 ある程度走り後ろを振り向くと、そこには二人を恨めしそうに睨む深淵の主の姿があったが、すぐに二人への追撃を諦めて群れの元へと去って行った。

 それを確認すると馬の駆け足を少し緩める。

 

「なんとか諦めてくれたみたいだな」

 

「魔法の速度はそれほどでも無いみたいだな。

 やはり閉所で使う事前提の魔法か」

 

「だろうな。だがこれで奴の事はより詳しく知れた。

 街まで突っ走るぞ!」

 

 再び二人は馬を駆けさせた。

 この二人の小さな英雄が街に帰還したのは、太陽が夕焼けの空を映すころだった。




なんとか年内に投稿できました。
遅れに遅れた理由としては、5月から新しい部署に配属になり、仕事に慣れるのと繁忙期に忙殺され書くのが滞っていました。
あとはtheHunter:COTWにのめり込んでいた事です(おい
鹿討ち楽しいねん。
現実でやろうとは思わないけど。

次の行進はまだ未定です。
早ければ1月には投稿したいかなとは思っています。

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