ゴブリンスレイヤー ―灰色の狼―   作:渡り烏

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( ゚д゚) < え……。
(゜д゜) < え?


薪はよく乾かした物に限る

 一党を結成してから数週間経ったある日の事。

 

「何故ゴブリンは頻繁に村を襲うのでしょうね」

 

 その受付嬢の疑問にゴブリンスレイヤーが、簡単な話だ……と答える。

 彼曰く自分達の住処が化け物に襲われたとする。

 そして身内や友人を我が物顔で殺して回り蹂躙し、略奪の限りを尽くす。

 例えば自分の姉がその対象となり、それを最初から最後まで見続けた生き残りがどう思うか……、当然復讐してやろうと行動を開始する。

 探し回り、追い詰め、襲い掛かり、殺して回る。

 上手くやれた時もあれば失敗する時もある。

 ならば次はどういう手で殺そうかと何日と何か月と考え、機会があればそれを試して行く。

 そうして殺しまわって行く内に、タノシクナッテクルのだと……。

 

――ふむ……――

 

 確かに悪意の塊のような闇の一派が居たなら、そう言う手合いも居るだろうな……と、吾輩は同意する。

 特にゴブリンと言うのはその傾向が強い。

 そして仲間の死ですら嘲って嗤う様など、群れを作って行動する生物として破綻しているのは明白だ。

 もちろん人間でもその手の者はいるが、そう言うのは己に誇りがないものだと吾輩は思う。

 

「そしてお情けで見逃された手合いが憎しみを持ち、渡りとなって成長して力を付け、巣穴の長や用心棒となる。

 事の始まりはこんなものだろう……だから」

 

 つまり俺は奴等にとってのゴブリンだ。

 

 それを聞いた吾輩はゴブリンスレイヤーの後頭部を前脚で叩く。

 

「ぐっ」

 

「わっ!」

 

「「「!?」」」

 

 吾輩の突然の行動に周囲の者たちが各々に驚きの反応をする。

 

――それでも率先して、被害を少なくしようと努力する者が言う台詞か!――

 

「……!あのですね。その理屈ならあなたに依頼している私は何なんです?

 魔神とか邪神とかの類ですか?私の頭に角でも生えてるんですか?」

 

 そういった意味を込めて吠え立て、その様子を見ていた受付嬢も吾輩に続いてこの戯けを叱りつける。

 前門の受付嬢に後門の吾輩と、挟まれタジタジになるゴブリンスレイヤー。

 

「そんな風にギルドの評価を落とすことを言うなら、依頼の斡旋をしてあげませんよ!?」

 

「それは……困る……」

 

「誰かがやらなければいけない事をやっているんです!そこは堂々としてください!

 ……貴方は銀等級の冒険者なんですから」

 

「……」

 

 まったく世話のかかる小僧だ。

 そうして荒く息を吐くと吾輩に近づく気配がした。

 

「ありがとね。彼を叱ってくれて」

 

 そこに居たのは赤毛の女だった。

 恰好からして冒険者ではない……臭いでの推察だが牧場で働いている者か?牛の臭いが強いので牛飼娘とするか。

 

「貴方が灰色の剣狼さんでしょ?」

 

――うむ、吾輩がそう呼ばれているのは事実だ――

 

「ふふ、本当にお利口さんなんだねぇ」

 

 そう言いながら牛飼の娘は恐る恐るとだが、吾輩の頭を撫でてくれた。

 

「彼、無茶するかもしれないけれど、その時は助けてあげてね?」

 

――あやつが無茶をする事態などそうそう無いだろうが、留意しておこう――

 

 そうしている内にギルドの扉が開き、あの3人が入ってきた。

 

「師父、ゴブリンスレイヤーさん、おはようございます!」

 

「2人ともおはよう」

 

「おはようございます!ゴブリンスレイヤーさん、灰色さん!」

 

「おお……」

 

 三人の娘を見て牛飼娘が動揺する。

 

「新人さん達と一党を組んでるって話だったけれど、全員女の子だったとは……」

 

――別に強い雄が雌を侍らせるのは悪くないのではないか?――

 

 人間の言葉が理解できるとは言え、吾輩の感性は獣のままだ。

 だが人間は生活するのに金銭が必要ではあるのは知っているし、それが枷となって娶る人数が限られるのも仕方が無いかもしれぬ。

 そして最近剣の稽古をしているせいか、女武闘家が吾輩の事を師父と呼んでくる。

 親友が付けてくれた名前と被って仕方がないのだが……。

 

 

 

 一党のメンバーが揃った所で受付嬢に、ゴブリンの依頼はあるか聞いた。

 今日は2件ゴブリン退治の依頼があった。

 

「北の山奥の砦……住み着いたか。

 他所から来た大規模な群れかもしれんな」

 

「既に被害も出ています。

 善意で向かった冒険者達も未だ……」

 

「時間が経ち過ぎている。手遅れだな……だが放置はできん。

 更に被害が増える前に叩くぞ。

 そしてこっちは……明け方に鶏をさらっていくのを目撃……、こっちははぐれの仕業だな。

 先の砦に行く際に通る道でもあるし、調査して群れになる前に叩く。この二枚だ」

 

「ありがとうございます!」

 

 一昨日は巨大猪の討伐を受けたが十分に休養も取れている。

 それに事前の情報収集で消耗が少ないのも働き、一党の疲れは溜まっていない。

 

「俺は行くぞ」

 

「うん、気を付けてね」

 

「気をつけて帰れ」

 

 そう言い残してゴブリンスレイヤーの一党はギルドを後にする。

 

「今の方ってゴブリンスレイヤーさんの彼女ですか?」

 

「違う」

 

「ちょっと、詮索は無しよ」

 

「そうですよ!」

 

 女三人集まれば姦しいと言うが、文字通りだなとゴブリンスレイヤーは溜め息を吐く。

 だが彼の傍らにはもう一頭のメンバーが居る。

 

「お前は気楽そうで良いな」

 

――ワゥン?――

 

 剣狼は首を傾げながら、何のことかねとでも言いたげにそう応える。

 そこでゴブリンスレイヤーはまた溜息を吐いた。

 青年剣士の埋葬が済み、新人の三人も鮮烈な洗礼から立ち直り、幾つかの初心者向けの……主に採取や害獣退治、遺跡調査も幾つか行い、装備を整える事が出来た。

 剣狼と新人達は装備を一新していた。

 狼のその背には左側に突き出た鞘を拵えた。

 単独の時には咥えて持ち運んでいたが、一党を組むことで大剣を仕舞う事が出来るようになった為だ。抜くときは鞘の左側の留め具が圧力を感知して開くようになっているが、これは魔女の手製の魔道具らしい……詳しい事は分からない。

 

 女武闘家もそんな剣狼の見様見真似と、辺境最強の一党である女騎士に師事を受けることで、青年剣士の形見である長剣を大分扱えるようになっている上、素手でも対応できるように手甲を嵌めている。

 女魔術師はやっと杖を新調し、元の杖にあった発動体が先端に収まり、前の杖は師から初めて貰った杖であると同時に、自分への戒めとして保管してある。

 そして女神官は新たな奇跡として≪聖壁≫(プロテクション)の奇跡を授かり、女武闘家と共に服の裏側に鎖帷子を備え、女魔術師は金物があると魔法の発動に支障が出ると言う事で、ハードレザーの服とマントで防御力を上げている。

 

 

 

 ゴブリン狩りと基本的な装備の揃え方に関する復習をしながら、現場に着いたゴブリンスレイヤー達一行は、遠眼鏡で山塞の様子を見ていた。

 

「ふむ……」

 

「遠目からでもわかりますね。

 あの砦を囲んでいる木、殆ど枯れてます」

 

「砦の構造からして元は森人の城塞だったのでしょうね。

 出入口は正門の一か所のみ、老朽化で崩れている場所もあるかもしれないけれど……」

 

「正面からは俺と神官で行く。

 少数で油断させ、メディアの油で城塞の木に火を点け、お前の新しい奇跡で蓋をする」

 

「え、あ、はい……え?」

 

「「ええ……」」

 

 ゴブリンスレイヤーの冒険者にあるまじき奇跡の使い方に、女性陣から困惑の声が漏れる。

 つまり彼は、本来仲間を守るべき≪聖壁≫を、蓋代わりに使おうというのだ。

 

「いや、確かに祈らぬ者やその攻撃を通さないのが≪聖壁≫ですけれど……」

 

「なら問題はない。

 武闘家と魔術師、灰色はこちらで陽動をしている間に他に出口がないか、周辺を探して欲しい。

 仮に脱出したゴブリンが居たら即座に対処しろ」

 

「わ、分かったわ」

 

「あいつ等を生かしておく理由は無いですからね」

 

――ウォン!――

 

 

 

 それからは恙無く山塞への焼き討ちは成された。

 長い年月を経っても外壁に崩れた個所はなく、あるとすれば命がけの自由落下程度だが、人間でも怪しい落差をゴブリン程度が耐えられるわけもなく、焼け出されて墜落死した死体がそこらに転がった。

 火が消えるまでにもう一件のゴブリンも見つけ、それを倒した所で一息吐くこととした。

 

「しかし見事にかかったわね」

 

「ええ、ゴブリン退治に関しては彼の右に出る人はいないでしょうね」

 

――今まで見てきたが、これほどの執念……過去にゴブリンから何かされたか?――

 

 あるとすれば家族か友人が目の前で殺された辺りだろうか、その辺りは当人から話すまで待つとするか……吾輩は喋れないがな。

 亀の甲より年の功、伊達に数百年の時を生きていないのだ。

 若い者は若い者同士でゆっくりと絆を深めるべきだろう。

 

「師父、今変なこと考えたでしょ」

 

――はて何のことやら――

 

 それは兎も角として合流するとしよう……と、そこへ雨が降ってきた。

 ……これが折角の奇跡を、間違えた方向に使ったことを知った地母神の涙で無い事を祈ろう。

 

「あらら、降ってきたわね」

 

「消火の手間が省けて良いんじゃないかしら、だとすると後は生き残りの捜索と掃討ね」

 

 それにしてもこの二人、すっかりゴブリンスレイヤーのやり方に順応しておる。

 当初の純真さは何処へ行ったのやら……。

 人の成長の早さを、吾輩は溜息を吐きながら感じた。

 

「……やはり」

 

 そこでゴブリンスレイヤーが誰ともなく呟く。

 

「銀等級らしく振る舞うのは難しいな」

 

 その言葉を聞き、三人と吾輩は彼の中にある哀愁を感じる。

 

「……これから、それらしく考えれば良いじゃないですか」

 

「そうですよ。誰だって最初から上手く出来ないものです」

 

「礼儀も魔術も最初の一歩から進めるかどうか。大体はそんな感じです」

 

「そうか?」

 

「はい!」 「ええ」 「そうですよ」

 

「そうか……」

 

 本当に、人間と言うのは成長が早い。

 吾輩はそこで彼等の将来を楽しみにして考えるのを止める。

 

――ウオォォォォォン――

 

 そして先行した冒険者達を見送る為に、遠吠えを一声鳴いた。

 

 

 

 ここは水の都、運河には荷を積んだ小舟が行き交い。

 脇にある歩道では吟遊詩人が物語を紡いでいた。

 

「小鬼殺しの鋭き致命の一撃が、小鬼王の首を宙に討つ。

 おお、見るが良い。蒼く輝くその刃、まことの銀にて鍛えられ、授けられし主を裏切らぬ」

 

 そこで一息吐き、ネタが多すぎて夜しか眠れない中、やっと纏めた間奏時の台詞を放つ。

 

「かくして小鬼王の野望は潰え、救われし美姫は、勇者と剣狼に身を寄せる。

 しかれど彼等こそは小鬼殺し、彷徨を誓いし身、傍に侍う事は許されず」

 

 ここで彼等が組んでいる事を明示し、小鬼殺しに灰色の剣狼という要素で神秘性を増させる。

 結果は人々によって様々だが、一見した所反応は良い様だ。

 

「伸ばす姫の手は空を掴み、勇者達は振り返ることなく立ち出づる」

 

 リュートで物悲しい余韻を奏で、締めの言葉を言う。

 

「辺境勇士、小鬼殺しと灰色の剣狼、山塞炎上の段、一先ずはこれにて」

 

 拍手と共に皿の中に硬貨が入る音が鳴る。

 小鬼殺しは以前からネタにしてきたが、灰色の剣狼はここ一年で森人と鉱人に人気が出始めた新鋭だ。

 実際に先程の聴衆の中にも森人と鉱人が居たし、やはりこれを合わせたのは正解だったと自負している。

 ぱっと見た所稼ぎは上々、やはり睡眠は大事だなと確信しながら、硬貨の具合を見始めた所で声がかかる。

 

「ねえ、さっき歌っていた冒険者と狼だけど、ホントに居るの?」

 

「ん?ああ、もちろんだとも。

 だが一見では情報をやれないな。

 こっちもあっちも仕事があるんでね」

 

 声を掛けてきたのはローブで顔を隠した女と、鉱人の男、そして珍しい事に蜥蜴人の3人組だ。

 詩人にとって彼等は間接的にだが1年ほどの付き合いだ。

 それ故にその動向には常に耳を傍立てているし、ギルドの知人に確認してその裏も取って歌を作っているのだし、詩の大部分は真実だ。

 だが最近になってオルクボルグとやらを見たさに、ギルドに情報を求める森人と鉱人が後を絶たないらしく、彼等によって収入を得ている身としては迷惑を掛けないように、こうして自分に寄ってきた連中は冷たくあしらっている。

 

「むぅ……面白くないわね」

 

「まぁまぁ耳長の、噂のかみきり丸を見たさにワシ等の同胞が集まっておるんじゃろう」

 

「吟遊詩人殿、拙僧等は小鬼殺し殿等への依頼をしたく、各部族から代表して彼等を探しているのだ。

 どうか再考をして頂けないだろうか……」

 

「再考……ねぇ……」

 

 吟遊詩人が彼等の首元を見れば、そこに光るのは銀色の等級札、この二人がそうならばローブを被っている女、こちらは恐らく森人だろうし同じく銀だろう。

 そして蜥蜴人がこう言うのだから探している理由に嘘の可能性は低い。

 

(そしてその銀等級を各部族から出しての依頼となれば、どれかの部族の近くにゴブリンの巣が出来たか?)

 

 そこまで考えを纏め、しばらく考えるフリをしてから口を開く。

 

「……ここから西の辺境へ、2,3日行った場所にある街を拠点にしている。

 あとはそこのギルドで聞く事だ」

 

「忝い!」

 

「なによもう……、まぁ良いわ!」

 

 そう言いながら森人らしきローブの女は、ようやくローブで隠した顔を見せた。

 吟遊詩人は目を見張る。森人だと予想していたが、その耳は笹葉のように長く尖っていたからだ。

 

「オルクボルグ……そして灰色の剣狼」




えー……。
作者の渡り烏です。
ちょっとなんか1週間にしてはなんか好調だなと思って、何の気なしにランキングを覗いてみたのですが……。
それはともかく、本当に読者と評価して下さったの方々に応援して頂いて感謝しております。

さて今回のシフですが、冒険するにあたって剥き身のままでは拙いだろうと言う事で、背中に鞘を背負わせてみました。
イメージとしてはコマンドウルフですね。
魔女さん探し物の蝋燭なんて魔道具作ってたし、留め具に細工するくらいはできるかなと勝手に思った具合です。
長物を横にしたまま歩くと危ないからね。

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