ゴブリンスレイヤー ―灰色の狼―   作:渡り烏

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冒頭から動物との触れ合いをぶっこんでゆくスタイル。


狼と耳長娘

「じー……」

 

――むぐぅ……――

 

 吾輩、依頼から帰って来た後、行き成りえらく耳の長い森人(エルフ)に両手で頬を持ち上げられ、真正面から見られていた。

 失礼な娘だ。

 

「ぷふ、ぶさいく顔可愛い♪」

 

――この娘本当に失礼であるな!?――

 

「師父で遊ばないで下さい」

 

「ごめんごめん、噂の狼剣士なんてのが目の前にいるからつい」

 

 そして女性陣は休ませ、吾輩とゴブリンスレイヤーは客人と共に応接室に入った。

 

「……それで、依頼だったか」

 

 ゴブリンスレイヤーが軌道修正を図る。

 

「ええ……都の方で悪魔(デーモン)が増えているのは知っていると思うけれど」

 

「そうだな」

 

「……その原因は魔神王の復活なの。奴は軍勢を率いて、世界を滅ぼそうとしているわ」

 

「そうか」

 

「……それで私達は……あなたnヒャ!?」

 

――良いから依頼の内容を言わんかこの耳長の――

 

 話が回りくどい上に長くなりそうだったので、森人の耳の先を歯が当たらない様に口で咥えてやる。

 ついでに匂いも覚えておこうと鼻で匂いを嗅ぐ。

 別に先程の仕返しとかそう目的ではない。決してだ。

 

「ちょ……やめ、咥え……たまま、耳元で……や……ん」

 

「あー……つまりじゃな。かみきり丸に依頼したいのはゴブリン退治なんじゃよ」

 

「そうか、ならば請けよう」

 

 横で森人が痴態を晒しているのを余所に、鉱人(ドワーフ)の道士が依頼の概要を説明すると、脊髄反射の様にゴブリンスレイヤーが即決する。

 

「剣狼殿よ。そろそろお痛が過ぎますぞ」

 

――むう……ではこの位にしておいてやろう――

 

 蜥蜴人(リザードマン)の忠言に従って耳を放してやる。

 それにしても、本当にあの変質者(シース)が生み出した蜥蜴人とは違うのだなと感心する。

 戦闘民族であるためか、僧侶でありながらも高い戦闘能力を持っている為、いざという時には前衛も張ってくれそうだ。

 

「うう……覚えてなさいよ。灰色!」

 

――善処しよう――

 

「……それでどこだ。数は?シャーマンや田舎者(ホブ)は確認しているか?」

 

「何こいつ……」

 

「はっはっは!」

 

「報酬を先に聞かれると思っていたが……」

 

 歌や噂は尾鰭が付くのが当たり前であり、噂の通りにはいかないものだ。

 大体に吾輩の歌にしても、ゴブリンスレイヤーと会った後など愛剣が伝説の武器であり、それを渡す為に各地を駆けずり回っていたとされていたらしい。

 わが身の事ながらむず痒いものだ。

 そして話し合いは進む。

 

 

 

「先程連れが述べようとしたが、今悪魔の軍勢が進攻しようとしている。

 それで拙僧らの族長、人族の諸王、森人と鉱人の長が集まり会議を開くのだがな」

 

「儂らはその使いっ走りとして雇われた冒険者じゃ」

 

「いずれ大きな戦になると思うわ。あんたは興味はないんでしょうけれど」

 

 妖精弓手は剣狼に咥えられた耳を拭きながら、諦めたように言う。

 

「問題は近頃、森人の土地であの性悪共が活発になっておってな」

 

英雄(チャンピオン)(ロード)でも生まれたか」

 

「チャンピオン?ロード?」

 

 ゴブリンスレイヤーの呟きに妖精弓手が問う。

 

「ゴブリン共の英雄や王だ。奴等にとっての白金等級と言ったところだが……情報が足らん。続けてくれ」

 

「そんで調べてみたらデカい巣穴が見つかっての……あとは政治じゃな」

 

「ゴブリン相手に軍は出せない。いつもの事だ」

 

「故に冒険者を送り込む……、なれど拙僧らだけでやると只人(ヒューム)の王達が煩いですからな」

 

「それで白羽の矢が立ったのがあなた達なのよ」

 

「ふむん……」

 

 妖精弓手が言うには、既にあの新人達も勘定に入れているらしい。

 勿論ゴブリンスレイヤーとしては、そろそろ大規模な巣の攻略を体験させたいとは思っていた。

 しかし今は別の遺跡探索の依頼を終えたばかり、あとで来るか来ないか聞かねばならない。

 だがその前に聞くべき事がある。

 

「地図はあるか」

 

「これに」

 

 蜥蜴僧侶が袂から出した巻物をゴブリンスレイヤーに渡す。

 渡されたものを広げると、彼の背後に剣狼が回り込んで地図を見始める。

 

「遺跡か」

 

「恐らく」

 

「数」

 

「大規模、としか」

 

「すぐに出る。俺達に払う報酬は好きに決めておけ」

 

 ゴブリンスレイヤーはそれだけ言うと地図を丸めて席を立ち、そのまま退室した。

 

「あいつ……一人で行くつもりなの?」

 

 妖精弓手は剣狼にそう問うと、彼は――ウォン――と一声鳴いた。

 

 

 

「そんな……!」

 

 彼の後を追ってロビーに出ると、女神官の声が響いた。

 何事かと三人と一頭が階下へ顔を覗かせる。

 そこには三人の少女達が顔を俯けていた。

 

「せめて……」

 

「せめて、決める前に相談とかしてくださいよ!」

 

「そんなに私達は頼りないですか?」

 

 三者三様にゴブリンスレイヤーを責める。

 だが当の本人は何が悪いのか分からないように、僅かに首を傾げてこう言った。

 

「しているだろう?」

 

「「「え……」」」

 

 意外な返答に三人が困惑し、続いてそれぞれ顔を赤くする。

 

「……あ、これ相談なんですね」

 

「そうだ」

 

「……あのですね。ゴブリンスレイヤーさん」

 

「……先程のは相談とは言いません」

 

「どちらかと言うと報告です」

 

「そうなのか?」

 

「そうです」

 

「そうか……」

 

 心なしか少し気落ちしたように応える。

 感情が分かり難い様で分かり易い、だからこそ3人は彼を放っておけないのだ。

 

「もう、いつも言葉が足らないんだから!」

 

「そこまで考える羽目になる私達の身にも成ってください」

 

「そう言う所も直していきましょう?ゴブリンスレイヤーさん」

 

「……そうだな」

 

「っほ、これは面白い」

 

 そんな彼等を見て、鉱人道士が一声上げる。

 

「鉄は熱い内に打てとはわしらが最初に習う諺だがの。

 なるほど、確かに結成したての良い一党だわい。面白くなってきたの」

 

「冒険者が依頼を出したのに同行しないのでは、拙僧も先祖に顔向けができませぬからな」

 

 鉱人道士に続いて蜥蜴僧侶も階下へ降りて行く。

 

――ヒュン――

 

 剣狼が妖精弓手に一つ鼻を鳴らして促す。

 

「まったく、訳が分からないわよね。あんた達」

 

――ウオン!――

 

「ふふ、あ、それから耳の一件覚えてなさいよ!」

 

――クゥン?――

 

 さて何のことやらと言いたげに、剣狼は惚けて見せた後階段を駆け下りていった。

 

「もう、年長者に敬意を払うべきよ?」

 

 

 

 そうして7人と1頭の一党となって辺境の街を出立し、各々に体験した冒険話などをしながら瞬く間に3日が過ぎた。

 目的地はすぐそこであり、英気を養うために野営をする。

 吾輩は体を横たえて寝そべり、女武闘家と女魔術師は上体を預けている。

 

「そう言えば今まで聞いていなかったけれど、みんなは何のために冒険者になったの?」

 

 妖精弓手の言葉に女武闘家は僅かに身を揺らすが、あれからもう季節が一つ過ぎた。

 故にその揺れは顔馴染みのメンバー以外の、新顔三人には気取られなかった。

 

「焼けましたぞ」

 

「そりゃ世界中の旨いもんを食うために決まっとろうが、耳長はどうなんじゃ?」

 

「私は外の世界にあこがれt「こりゃ旨い!」聞きなさいよ!」

 

「これは何の肉じゃ?」

 

「沼地の獣の肉だ。口に合ったようで何より、剣狼殿にも好評のようだ」

 

――うむ、これは中々旨いな――

 

「ええ~?沼地~?」

 

 妖精弓手が懐疑的な目で吾輩と鉱人道士が食べている肉を見ている。

 聞けば森人……特に上の森人は肉を食べないそうだ。

 

「野菜しか食わんウサギもどきには分からんだろうよ!おお、旨い旨い!」

 

「むぅ……」

 

「ではこちらはどうです?乾燥豆のスープですが」

 

「いただくわ!……う~ん、優しい味ねぇ」

 

「先程の続きとなりますが、拙僧は異端を殺して位階を高め竜となるためだ」

 

――ほほう、シースよりはまともな考えであるな――

 

「……ゴブリンを」

 

「あんたのは、なんとなく分かるから良いわ」

 

「おい、耳長の、人に聞いておいてそれかい」

 

「まあまあ、私からもこれあげるからさ」

 

 その後妖精弓手からは森人の焼き菓子、ゴブリンスレイヤーからはチーズを、鉱人道士が火酒を出し合う。

 その後女神官は地母神の神殿で拾われた恩を返すために。

 女武闘家は、最初は父親から習った武術で人々を守るためだったが、今は冒険で亡くなった青年の遺志を継いで冒険をするために。

 女魔術師は弟が自慢できる魔術師になるためにと続ける。

 

「そう言えばあなたは……って聞いても喋れなかったわね。ううん……、こうしていると言葉が通じないのがじれったいわ……」

 

 吾輩の顔を見て妖精弓手が苦々しい顔になっている。

 たしかに、アルトリウスの偉大さを事細かに伝えられないのは、吾輩にとっても歯痒い事だ。

 

「しかしその剣は自分で拵えたのではないのは確か、となれば剣狼殿はその剣を譲り、鍛えてくれた者の為に剣を振るっているのでは?」

 

――その通りだ。蜥蜴の僧侶よ――

 

「じゃああなたってもう結構な年って事よね。……その割には寿命に近付いてるって感じでもないけれど」

 

「分かるんですか?」

 

「ええ、これでも2000年生きているのよ?大抵の動物の生き死にを見てきたつもりだわ。

 ……灰色はただの狼じゃない。そうね……感じた様子だと大樹ね。数百年は生きている感じの」

 

「まさか……と言いたいですけれど、確かに普通の狼とは全然違うんですよね」

 

 妖精弓手の言葉に女神官は半ば納得するようにこちらを見る。

 吾輩は惚けるように首を傾げて女神官を見返した。

 

 

 

 行きの行程で開催された最後の野営の宴も終わりに入る。

 途中で妖精弓手がゴブリンスレイヤーの、背嚢の中にあった巻物に興味を示して忠告を受けるなどあったが、そんな中蜥蜴僧侶がふと思いついたように口を開く。

 

「そう言えば、拙僧も一つ気になっていた事がありましてな」

 

 蜥蜴僧侶曰くゴブリンがどこから来るのかと言うものだ。

 蜥蜴僧侶は地底にある王国から来ると父祖から教わり、鉱人道士と妖精弓手は互いの種族が呪われた姿だと言いあい、女神官等は誰かが失敗すると一匹生まれると言う、子供に対するしつけの言葉があると言った。

 

「俺は……」

 

 そこで彼が口を開いた。

 

「俺は月から来たと聞いた」

 

「月と言うと、あの空に浮かぶ双つのか?」

 

「そうだ。あの緑色の方の月だ」

 

「拙僧らの説とは真逆ですな」

 

 それからもゴブリンスレイヤーは言葉を重ねる。

 曰く、月には草も木も水もなく岩だらけの寂しい場所、小鬼はそうでないものを欲しくて羨ましくて妬ましくて仕方ない……、だからやってくるのだと。

 

「誰から教わったんですか?」

 

「姉からだ」

 

「お姉さんがいらしたんですね」

 

「ああ……居た……。

 ……姉は、少なくとも姉は何かを失敗した事はなかった筈だ……」

 

 ゴブリンスレイヤーの言葉に吾輩と女武闘家が感付く。

 

――なるほど――

 

(私と同じか……)

 

 失った者が居る似た者同士、シンパシーを感じてとりあえずは口に出さずにおいた。

 そしてゴブリンスレイヤーはそのまま黙ってしまった……。

 いや、息遣いから寝てしまった様だ。

 

「……寝ちゃったわね」

 

「それじゃ、わしらも休むとするかの」

 

「では見張りは取り決め通りに、しっかり休まねば失敗してしまいますからな」

 

「灰色ー、また貴方の背中貸して?」

 

――まあ背中なら構わぬ。好きにしろ――

 

「へへ、ありがと」

 

 吾輩の肯定の声に妖精弓手は、背中に回り自分に毛布を掛ける。

 女神官は、ゴブリンスレイヤーに毛布を掛けた後、しばらく彼の胸当てを触って何某かを思っていた。

 

 

 

 妖精弓手は剣狼に体を預けながら、この3日間の事を考えていた。

 剣狼の大剣を見せてもらって鉱人と問答をし、夜眠る際はこうしてふかふかの毛を貸してくれる。

 時々身じろぎするのは減点だが、狼としては体臭が抑えられており、加えて野営の寒さを抑えてくれる体毛は魅力的だ。

 

(ほんと……どこから来たのかしらね。あんたは)

 

 1年前に現れた剣を携える大狼、ギルドではソードウルフとして登録されると同時に、保護対象とされていたそれが自分に温もりを貸してくれる。

 そんな3度目の体験をしながら妖精弓手は眠りに落ちた。




何とか間に合った(疲労感
でもこれからまた繁忙期に入るから更新遅くなるかも……。
日曜日も投稿できたらしたい……。

そして改めて、当SSを応援していただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。

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