ゴブリンスレイヤー ―灰色の狼―   作:渡り烏

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少し本編から改変を加えます。
ちょっぴりダークソウルの風味を……。


遺跡にて

 夕暮れに照らされた広野にて、ぽっかりと口を開けた様な遺跡の四角い入り口。そこには2匹の小鬼と1頭の狼が見張りを行っていた。

 狙撃を行おうとする妖精弓手も、傍らにその狼が居ることで躊躇するが、吾輩は頷く事で彼女を促す。

 

――今回は間が悪かった。致し方あるまい――

 

 妖精弓手が吾輩の心中を察して頷くと、改めて弓を構え……2射で見張りを全滅させた。

 ゴーが剛の弓ならば、彼女は柔の弓と言った所か。

 

「見事なものですな」

 

「充分に熟達した技術は、魔法と区別が付かないものよ」

 

「それをわしに言うかね……」

 

「さて……」

 

 後ろで話をしている2人をよそに、ゴブリンスレイヤーが徐にゴブリンの死体のおもむろに屈みこみ、……持っていた短剣で腹を裂いた。

 

「ちょ、何やってんの!?」

 

「ゴブリンは鼻が利く、女や子供、森人は特にな」

 

 そしてゴブリンの肝を布に包んで思いっきり絞ると、妖精弓手の前に立つ。

 

「ちょ、やだ、冗談でしょ!?あんた達も止めてよ!」

 

「慣れますよ」「慣れますから」「慣れるわよ」

 

 半ば虚ろな目をしながら三人が妖精弓手に言う。

 三人とも体臭を消す為の臭い袋は持っているのだが、妖精弓手がその様な用意をしているとは思っていなかったので、彼女に合わせて被る覚悟のようだ。

 あわれ妖精弓手は退路を完全に断たれ、小鬼の肝汁を盛大に塗り付けられるのだった。

 

 

 

 

 隊列は妖精弓手、ゴブリンスレイヤー、女武闘家、女魔術師、女神官、鉱人道士、蜥蜴僧侶、剣狼の順となって遺跡の中を進む。

 

「うえぇ~、気持ち悪いよぉ~」

 

「お湯で踏み洗いすれば多少は落ちますから……」

 

「本当に多少だけれどね」

 

「うう~、戻ったら覚えてなさいよ!オルクボルグ!」

 

「覚えておこう」

 

 文句を垂れながらも野伏としての仕事をしながら先導し、剣狼も隊列の一番後ろで歩きながら、周囲の臭いや物音を探っている。

 斥候役が実質2人居るという好条件、罠などを見逃す事はまずないだろう。

 事実分かれ道に差し掛かったところで、妖精弓手が鳴子の類の罠を見つけた。

 

「妙だな」

 

「何か気になる事でも?」

 

「ここまで来る途中にトーテムが見当たらなかった」

 

「「「?」」」

 

「つまり知識階層であるゴブリンシャーマンが居ないと言う事です」

 

 銀等級とは言え、ゴブリンに関する知識はまちまちであり、白磁の女魔術師が疑問符を立てている銀等級3人に、ゴブリンスレイヤーが言いたい事を補足する。

 

「あら、スペルキャスターが居ないなら楽じゃない!」

 

「いや、通常のゴブリンだけではこのような罠は仕掛けん」

 

「つまり、知識階層のゴブリン以外の何かが居る……と」

 

 その後の鉱人道士の目利きで、左、来た道、右の順ですり減り方が大きい事が分かり、協議に入ろうとした所で、剣狼が床の臭いを嗅ぎ……右側に顔を向け一声小さく鳴いた。

 

「師父、どうしました?……まさか!」

 

「……右から行くぞ」

 

「何でよ?奴等の寝床は左なんでしょ?」

 

「ああ……だが間に合わなくなる」

 

 ゴブリンスレイヤーの言葉に、新人3人娘の表情が硬くなる。

 臭いに関しては、この一党の中で剣狼が一番敏感だ。

 そして今自分達が居るのは小鬼共の大規模な巣穴……、おのずと剣狼が右を差した理由にも察しが付いた。

 一党は剣狼に導かれるまま通路を進む。

 そして通路の最奥に到達する手前で、一行の鼻の粘膜に耐え難い悪臭が刺さる。

 

「うぐ!?」

 

「くっさ!なにこの臭い!」

 

「鼻で呼吸しろ。すぐに慣れる」

 

 ゴブリンスレイヤーはそう言うと扉を蹴り放つ。

 

「うぅ……なによここ!」

 

「ゴブリン共の汚物溜めだ」

 

「おぶっ?!」

 

 ゴブリンスレイヤーが素っ気なく言った言葉に、妖精弓手が言い淀む。

 そしてゴブリンスレイヤーが持つ松明が、部屋の奥を照らし出す。

 そこに居たのは酷く傷付いた。妖精弓手と同じ上の森人だった。

 

「う……げぇっ!」

 

「なんじゃい……こりゃ」

 

「小鬼殺し殿、これは……」

 

 妖精弓手が思わずえずき、鉱人道士と蜥蜴僧侶も臭いを忘れて思わず顔をしかめる。

 その間にも、捕らえられた森人が何事かを呟く。

 森人にまだ息はあった。

 

「っ!≪小癒≫(ヒール)を!」

 

「まだよ!周囲の安全の確保を優先して!」

 

 女武闘家が持っていた松明を森人の傍に投げ、その闇から一匹の動揺した小鬼が照らし出される。

 

「っし!」

 

 ゴブリンスレイヤーは投げナイフを瞬時に引き抜き、狙い過たずに小鬼の眉間を貫いた。

 

「治療を」

 

「はい!」

 

「おうさ!」

 

 彼の声に女神官と蜥蜴僧侶が森人に駆け寄り、蜥蜴僧侶が枷を外し、女神官が傷を検める。

 そして毒や病気がない事を確認した後、女神官は≪小癒≫を掛けて傷を癒し、衰弱もひどいのでスタミナポーションをゆっくり飲ませる。

 被害にあった森人の呼吸は落ち着き、ゴブリンスレイヤーを見る。

 

「あいつらを……皆殺しにして……よ」

 

「無論だ。俺達はその為に来た」

 

 

 

 女神官が手紙を認め、蜥蜴僧侶が竜牙兵を召喚し、救助された森人は竜牙兵に抱えられ、遺跡の入り口に向かって走って行くのを見送る。

 中に充満していた臭いで鼻の感覚が麻痺しているが、しばらくすれば元に戻るだろう。

 それよりも問題なのは、恐らくこのような光景を目にせずに銀等級まで行ってしまった者たちだ。

 鉱人道士と蜥蜴僧侶はそれぞれ思う所がある顔をし、精神に痛痒(ダメージ)を負った妖精弓手は汚物溜めから出た所で座り込んで泣いている。

 同族があれだけ痛めつけられているのを見たのだ。その心痛は計り知れない。

 

「なんなのよ……わけ、わかんない!」

 

「……皆さんはこのような光景は?」

 

「生憎と拙僧は……道士殿は?」

 

「わしも1回受けた後はとんとじゃな」

 

 女武闘家は妖精弓手は見て分かるので飛ばし、鉱人道士と蜥蜴僧侶に聞くが、2人共このような経験は無い様だ。

 

「虜囚が居るゴブリン退治に当たるのは、一党が何組かのうち1組に当たるくらいだ。

 しかも虜囚が居る巣は大体20匹前後から多くて50匹程、初心者のゴブリン退治で死ぬ大半がこれだ」

 

「じゃあそれだと、小鬼禍が止まないのは自然の流れ……か……」

 

 女魔術師が呟き、それを聞いた女神官と女武闘家は、最初の冒険で命を落とした青年剣士の最期を想起する。

 もしあの時剣狼が来なければ、そしてゴブリンスレイヤーが来なければ、女武闘家は……女魔術師は、女神官はどうなっていたか。

 

「そうだ。……それよりも地図があった。

 それと……これはお前が持て」

 

 ゴブリンスレイヤーが何かを妖精弓手の前に放る。

 それはあの森人が使っていたであろう背嚢だった。

 

「……彼女の傷の仇を取りましょう」

 

「ぐす……ええ、そうね。行かないと、いけないものね。

 それにここのゴブリンをどうにかしないと、私の故郷であの娘と同じ事が起きるなんて、それだけは絶対にさせない」

 

 手を差し出す女武闘家が帯剣している剣を見て、妖精弓手は鼻をすすり、あの森人の背嚢を手にしながら女武闘家の手を取ると、その眼光に殺意が灯っていた。

 

「そうだ。ゴブリンは皆殺しにしなければならない」

 

 ゴブリンスレイヤーはそう言うと、何時もの様に無造作に歩き出す。

 一行はそれに続くが、妖精弓手に女神官が寄って小さく声を掛けた。

 

「すみません。彼も悪気はないんですけれど」

 

「言葉が足りないのよね」

 

「ううん。武闘家も言っていたけれど、あいつ等にあの人が受けた屈辱を、何倍にしてでも返してやらないと……。

 それに近くには私の故郷がある。次が私の身内かもしれないと思ったら、ここでへこたれている暇は無いわ」

 

「……はい!」

 

 傷の舐め合いと言われるかもしれない。それでも、痛みを分かち合える仲間が居るというのは大事な事だ。

 この日、白磁の冒険者3人と銀の冒険者1人の間に、確かな絆が生まれ始めたのだった。

 

 

 

「しかしなんぞ。悪魔(デーモン)でも出そうな雰囲気じゃな」

 

「ちょっと、物騒な事言わないでよね」

 

 通路の途中で散見する小鬼を掃討しながら歩いていると、鉱人道士がそう呟く。

 それに気持ち精神が回復した妖精弓手がそれに答える。

 

「っほ、少しは調子を取り戻したようじゃな」

 

「あったり前でしょ?白磁の子達が居るのに、先輩の銀等級がピーピー泣いてたんじゃかっこつかないからね」

 

――ふふ……む?

 

 どうやら彼女の調子を見るための軽口だったようだ。

 吾輩は良い一党だなと改めて認識していると、何かを叩き潰すような音が聞こえてきた。

 

「?どうしたの急に立ち止まって……いえ、何か聞こえる」

 

 妖精弓手が吾輩が足を止めたのに気が付くと、自分にも音が聞こえたのか警戒し始める。

 吾輩が音のした方へ顔を向けると、そこには厳重に木板を打ち付けられた扉があった。

 

「なんじゃこりゃ?」

 

「えらく厳重に打ち付けてありますな」

 

「ゴブリンって略奪が大好きなんでしょ?なんでここだけこんなになってるのよ?」

 

「分からん。だが用心はしろ」

 

「突入するんですか?」

 

「そうだ。奇襲(バックアタック)されてはたまらんからな」

 

――ここは任せろ――

 

 ゴブリンスレイヤーの台詞と同時に吾輩が剣を抜く。

 呪文の回数が限られているという制約上、女魔術師の術は今は温存すべきだ。

 ゴブリンスレイヤーと女武闘家が扉の両側に陣取るのを確認し、愛剣で封鎖された扉を斬る……と言うより粉砕した。

 ゴブリンスレイヤーが松明を室内に投げ入れ明かりを確保する。

 そこに浮かび上がったのは、ゴブリンの死体を叩き切り続ける料理人姿の人影だった。

 

屍人(ゾンビ)!?」

 

「いや、屍人にしては様子がおかしい。

 さながら亡者(ゴースト)と言った所か」

 

 女神官と蜥蜴僧侶がそう呟く。

 吾輩としては屍者だろうが亡者だろうが関係ない。

 吾輩の剣には聖の属性が掛けられている。死霊(アンデッド)の類でも十分な打撃になる。

 物音に感付いて亡者がこちらに振り向くと同時に吾輩は駆け出し、そして一刀の下に調理台代わりになっていた机ごと叩き伏せる。

 

「OOo……」

 

 亡者はそのままばたりと倒れ、動かなくなった。

 

「剣狼殿の剣は聖剣の類でもありましたか」

 

「だが念には念を入れる。

 油を掛けて火を点けるぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーはそう言うと油壷を取り出し、亡者の体にかけてから松明で火を点けた。

 

「あら、宝箱があるじゃない!」

 

「ほほう!こりゃ良い拾い物じゃの」

 

「周囲を警戒する。

 そっちは任せたぞ」

 

「りょーかい……ってあれ、これ何の仕掛けも無いわね」

 

 ゴブリンスレイヤーにそう返しながら宝箱の周囲に目を向けるが、どうやら何の仕掛けも無いらしい。

 

「……魔法の仕掛けも無いわね」

 

「一応開ける時にも気をつけるんじゃぞ。擬態箱(ミミック)だったら笑えんぞ」

 

「分かってるわよ」

 

 妖精弓手は石ナイフで箱の縁を軽く斬り付ける。

 反応がないのでどうやら擬態箱では無い様だ。

 

「じゃ、開けるわね」

 

 おもむろに箱を開けるとそこにあったのは爛々と光る物が入った石鉢だった。

 

「なにこれ?」

 

「ううん?こいつは……種火のようじゃな。しかもかなり特殊な物だの」

 

「特殊と言うのは?」

 

 女魔術師が聞く。

 

「こいつは一見只の種火じゃが、出ている火には特殊な魔法が掛けておる。

 それにこれは鍛冶に使う物みたいじゃな。種火の大きさからして『大きな種火』だの」

 

「なによそのネーミングセンス、そのままじゃない」

 

「うっせい……じゃが、これは今からでは持ち運べんな」

 

「目印をやっておいて、帰りに取りに来ましょ」

 

 妖精弓手の提案にその場にいた全員が賛成する。

 ゴブリン退治はまだ継続中なのだ。

 

 

 

 一行がさらに通路を進むと急に視界が開けた。

 そこは螺旋状に階層が設けられ、天井があったであろう先には月あかりが差し込んでいた。

 

「わぁ……」

 

「ゴブリン退治でなければ、素直に感動していたんだけれどね……」

 

 女神官が感嘆の小さく声を上げ、女魔術師が少々不満げにその光景を見て言う。

 妖精弓手が階下を見て、息を飲み一党に報告する。

 最下層には無数のゴブリンがおり、まともに当たれば危ない……と。

 だが彼だけは変わらなかった。

 

「何が使えるか改めて確認したい」

 

 術師たちが各々の持っている術と残っている使用回数を答える。

 ゴブリンスレイヤーが確認を終えると策は決まった。

 鉱人道士が≪酩酊≫(ドランク)を、女神官が≪沈黙≫(サイレンス)を使いゴブリンを無力化、万が一に備えて女魔術師は≪眠雲≫(スリープ)の術を唱えられるように待機。

 ゴブリンを無力化した後はゴブリンスレイヤー、妖精弓手、蜥蜴僧侶、女武闘家が階下に降りてゴブリンの寝首を掻き、剣狼は術師たちの護衛に回るという方針で行くことにし……その策は成った。

 

「毎回思うけれど、彼とやるゴブリン退治って冒険と言うより駆除作業よね」

 

 黙々とゴブリンを殺してゆく4人を見て、女魔術師が独り言ちるが、この場に残っている全員がそれに同意するように頷いた。

 実際にゴブリンスレイヤーが行うゴブリン退治は、退治と言うより駆除の方が合っている。

 洞窟があって巣が大規模であり、虜囚の生存が絶望的ならば巣ごと爆破。

 或いは川が近くにあればその川から水を引いて巣に流し込み。

 どちらも使えなければ火か毒気を使って炙り出して各個撃破。

 そして最近では女神官の≪聖壁≫で蓋をする始末。

 

「終わったみたいですね」

 

 女神官が階下を見て言う。

 女武闘家がこちらに手を振っているので、掃討は完了したのだろう。

 ちょうど術の効果も切れたので各々が階下へ降りて4人と合流し、さらに奥へ進もうと足を運ぼうとしたその時、大きな足音が響いた。




なんでここに種火があるって?
古代の遺跡ですべて説明が付く(無茶振り
強化材料は後々出てきます。

Q:なんで種火持ってかなかったの?

A:デカい背嚢があるならともかく、そんなに荷物をポンポン持てませぬ。

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