ゴブリンスレイヤー ―灰色の狼―   作:渡り烏

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今回はゆったり回。
小説版イヤーワン2巻目の内容も少しあります。
もしよろしければそちらを読んでから見て頂ければ幸いです(ダイマ


ある日の休日

「シフ、騎士たる者、得物は死ぬまで手放すな」

 

――ウォン!――

 

 若い狼の声が森の中に響く。

 

「そうだ。我々は光の大王グウィン様の矛であり剣だ。

 だからこそ、己の得物は最期のその時まで手放すことなく、己の信念に従って振り続けるんだ」

 

――クゥン?――

 

 それでは忠義と相反するのではないか。

 そう言いたげに狼は鳴く。

 

「ははは、確かにそうだな。

 だが己の信念を持たねば力を発揮できない。

 それは忠義以前に騎士として失格なんだ」

 

 そう言いながら狼の騎士は狼の頭をポンポンと撫でる。

 

「そして明確な信念を持てばそれを目標に頑張れる。

 もちろん全ての者が頑張れるわけではない。

 中には挫折をし、そのまま消えて行くこともあるだろう」

 

 狼の騎士は大剣を片手に、もう片方には大盾を構える。

 

「だがお前には光る物がある。

 グウィン様への忠義は力を付けた後でも付けられる。

 さぁ、もう一度打ち込んで来い!」

 

――ウォン!――

 

 

 

 ……随分と懐かしい夢を見たな。

 

 寝床に使っている藁から這い出て朝日を拝む。

 人であれば両手を上げて、この日の光を一身に浴びたいところだが、生憎と吾輩は狼である。

 

――おはよう、今日も良い天気であるな――

 

――ヒヒン――

 

 吾輩は夢から覚めると寝床にした馬小屋から這い出る。

 最初にここで寝泊まりした時は、隣の馬が口から泡を吹いていたものだが、今ではこうして気さくに挨拶する間柄だ。

 そして水路に体を浸からせ、水路の壁に体をこすり付けて汚れを取る。

 この辺りは程よくごつごつしていて大変気持ちが良い。

 

「おはよう、灰色さん」

 

――ああ、おはよう――

 

 吾輩が水路から上がるとちょうど新米剣士が起きて来た。

 飛沫が当たらない辺りで体を振るうと、吾輩の体躯に見合った水飛沫が撒き散らされる。

 

「うわぁ、虹が出来てら」

 

 後ろから新米剣士の声が聞こえてくるが、藁に体をこすり付けて水気を拭いとる。

 そう言えば何時も寝床に使っているこの藁、吾輩の臭いが付くせいか狼除けに売れているのだとか。

 吾輩にはどうでも良い話ではあるか……。

 さて、ゴブリンスレイヤーが装備の修理に出しているし、新人冒険者3人もここの所出ずっぱりでロクに休息も取れていなかった為、しばらくは休日と言う事だが……どうしたものやら。

 

――久しぶりにあの村に行ってみるか――

 

 新米剣士殿に大剣を背負うのを手伝って貰い、吾輩は辺境の街から足早に出立した。

 

 

 

「行ったわね」

 

 剣狼が街から出ていくのを確認して妖精弓手が言う。

 その後ろにはゴブリンスレイヤーと女神官以外の一党全員が居た。

 

「しかしあの方角だと、この村ですかな?」

 

「ちょうど灰色のが出現した村じゃな」

 

「あ、この村知ってます。ゴブリンのせいで寒村だったけど、師父が出てから被害が少なくなったから、作物もたくさん採れるようになったって」

 

「それと特産品の木で出来た首飾りもね。

 ゴブリン除け目当てで、あそこの首飾りを買う人が居るとか」

 

「ほほう、狼は厄介者だと聞き及んでおりましたが、その狼である灰色殿のお陰で村の資産が潤うとは、何とも皮肉な話ですな」

 

「そうですね。

 あ、そろそろギルドへ行かないと」

 

「確か今日は3人の昇格試験じゃったな。

 ま、大丈夫だと思うが、頑張るんだぞ」

 

「はい、では師父のこと、よろしくお願いしますね」

 

 2人はそう言いながらギルドの方へ歩いて行く。

 

「して、本日の頭目殿はどうするのですかな?」

 

 鉱人道士と蜥蜴僧侶が妖精弓手を見る。

 

「もちろん、付いていくわよ!」

 

 

 

 目的の村へは、ほんの半日で到着した。

 

「わっ!剣狼様ようこそお越しくださいました!」

 

 一番初めに吾輩を出迎えてくれたのは、あの村娘だった。

 

「剣狼様、今日はどんなご用事で?」

 

――実は最近首飾りの紐が解れてきてな――

 

 そう声を出しながら首飾りを外して娘に出す。

 

「あらら、かなり解れてきてますね。

 すぐに直しますのでごゆっくりどうぞ!」

 

 娘は家があるであろう方向に走って行ってしまった。

 困った……ここの家畜は吾輩には慣れていないため、天敵の臭いと勘違いされては面倒だ。

 仕方なくすごすごと村の門から外に出る。

 

「あ……」

 

――……――

 

 門を出た所で一党のメンバーと遭遇した。

 何をやっとるんだこやつらは。

 

「え、えーっと、良い天気ね」

 

――うむ、水浴びで濡れた毛が良く乾きそうだ――

 

 そういう意思を込めて、尾を振りながら妖精弓手をじっと見る。

 

「えー、風も気持ち良いわね」

 

――確かに、そろそろ夏も本番になるころだな――

 

 妖精弓手の台詞にウォンと鳴き、再びじっと見る。

 

「あー……うー……えー……ごめん……」

 

――よろしい――

 

 妖精弓手は落ちた。吾輩の眼力に耐えられなかったのだ。

 

「ははは、耳長娘も灰色にはかたなしじゃの」

 

「剣狼殿すみませんな」

 

――別に隠す様な事ではないからな、気にするな――

 

 しかしこれは渡りに船だ。

 人と一緒ならば村人の警戒心も薄れるだろう。

 

「おお、これは灰色様じゃないですか!」

 

「ホントじゃホントじゃ、久しぶりじゃのう」

 

 背後の門から若者と老人の声が聞こえてくる。

 振り向くとそこにはあの娘を迎えた人々に居た2人だった。

 

「御三方は灰色様のお仲間で?」

 

「ええ、そうよ」

 

「拙僧等は剣狼殿と同じ一党を組みし者、保証は剣狼殿がしてくれましょう」

 

「まあ、只人の領域にわしら三種族三人がいたら不審じゃろうがな」

 

「いえいえとんでもない。

 灰色様のお仲間でしたら大歓迎です。

 ささ、村へどうぞ」

 

 

 

「村の経済は鰻登りです。

 それもこれも地母神様と灰色様の加護のお陰です」

 

「灰色にそんな加護あったっけ?」

 

――少なくとも吾輩はその様な権能はないな――

 

 妖精弓手の質問に吾輩は首を横に振って答える。

 

「はは、灰色様の加護とは言いましたが、実のところは灰色様に贈った首飾りのお陰ですな。

 あの娘もゴブリンの被害を被ったので、最初は神殿に送ろうと言い出す者が居まして」

 

 ゴブリンに犯された娘が行く先は、神殿か娼婦のどちらかだと老人は言った。

 もっとも、大抵の娘は神殿を希望するのだが、それでもあぶれてしまう者は居る。

 

「しかしあの娘は自分で自分の道を切り開いた」

 

「もともと手先は器用なんですよ。

 それで灰色様に献上した首飾りの出どころがここだと、商人に割り出されましてね。

 それからは注文が引っ切り無しなんです」

 

「まさかあの娘に一人で全部作らせているわけじゃないでしょうね」

 

 青年農夫の言葉に妖精弓手は目を細めながら言う。

 

「それこそまさかです!

 あの娘に何かあれば灰色様に申し訳が立たない!

 他の娘達に細工の仕方を教えて、その娘達が大半の生産を担っています。

 ですがやはりあの娘程の腕には到底及ばず……」

 

「確かにあの娘、あの年にしてはかなりの細工の腕じゃな」

 

――鉱人がそう言うならば、吾輩の目に狂いはなかったと言う事か――

 

 しかし村に金銭が入っても、領主にそれ相応の税を取られるので、生活は中々よくならないらしい。

 こう言った所はあちらと変わらないようだ。

 

「しかし惜しいのう。

 あの娘っ子、魔力を扱う素養がありそうなんじゃが……」

 

――なんと――

 

「それは本当ですか!?」

 

 鉱人道士がポロリと言った言葉にその場にいた全員が驚く。

 

「じゃが魔術を使って敵を倒すと言うのには向いておらなんだ。

 あの娘っ子は道具に魔力を込めるのに長けておる」

 

――なるほど、魔道具職人か――

 

 魔道具職人はその名の通り、指輪や首飾り、サークレット等に魔術的効果が出る道具を作る職人だ。

 向こうではウーラシールやイザリスの一族が得意としていた。

 だが村人は少々残念そうな様子だ。

 

「なんだ、魔術は使えないのか……」

 

「馬鹿を言うでない。

 魔道具はわしら冒険者にとって生命線になりえる道具じゃ。

 わしか知り合いの魔女の元で鍛錬を積めば、鳴子の魔道具を作れるかもしれんぞ」

 

「そうなれば小鬼を探知できるゆえ、村にとっても損ではないかと」

 

「ふぅむ……」

 

 老人が考え込む。

 恐らく長期的な益か短期的な益かを迷っているのだろう。

 

「剣狼殿の意見は?」

 

――吾輩か?――

 

 正直言えば娘がこの村にいても貰い手が居るかどうかも怪しい。

 このまま優秀な細工師、または魔道具職人をみすみす見逃す手はない。

 

――ならば本人に聞いて見るか――

 

「なら本人に聞いて見れば良いじゃない」

 

 吾輩と妖精弓手が同じ意見を出すと、吾輩は物陰まで走り寄りそこで聞き耳を立てている村娘を見つけた。

 

「あ……」

 

 

 

「聞いておったのか……」

 

「うん……」

 

 私は村の老人……村長と自宅で話していた。

 灰色様と冒険者の方々、それに青年は表で待っていてくれる。

 

「それで村長さん、さっきの話だけど……私、道士様の師事を受けたいの!」

 

「あい分かった」

 

「へ……良いの?」

 

 まさかの二つ返事に私は間抜けな声を出してしまった。

 

「このままこの村にいても、お前には古株から奇異の目が向けられるだろう。

 ならばここは村を出て、自分のやりたい事をやると良い。

 路銀は……ほれ、ここにある」

 

 そう言うと村長さんは、懐から袋を取り出して机の上に置いた。

 置いた時にジャラジャラと金属の音が部屋に響く。

 

「こ、これって……」

 

「お前さんが今まで作った分の首飾りの収入が入っておる」

 

「そ、それって!」

 

 つまり、領主のお役人さんにうその報告をしたと言う事。

 

「幸いあの役人は儂の知り合いでの、少し事情を話したら協力してくれた。

 ああ勿論、この事は他言無用じゃぞ?」

 

 いたずらを成功させた子供のような笑みを浮かべ、村長は自らの唇の前に人差し指を立てた。

 その仕草に私の目から涙が零れる。

 

「ありがとっ、ございます!」

 

 

 

 こうして村娘は見習い魔道具師となるが、下宿先が見つからずに困っていた。

 そこへゴブリンスレイヤーが、街の近くを流れる川辺に一軒の小屋があり、そこへ移り住んではどうかと言う事になり、下宿先問題も解決した。

 

「それにしても、よくあの小屋を知っておりましたな」

 

 蜥蜴僧侶が言う。

 

「……昔、一党を組んでいた魔術師の物だ」

 

「へぇ、あんたにも知り合いが居たのね」

 

「ああ、居た」

 

 ゴブリンスレイヤーは何かを思い出すかのように、ギルドの天井を見上げた。

 当時は興味がなかったが、灰色の剣狼と出会ってからの変化が……彼にしてみれば劇的だった。

 彼女は答えを見つけただろうか?

 

「ただ、元気にはしているだろう」

 

「そっか」

 

 その魔術師が死んでいないと確信が持てる言葉を聞き、妖精弓手はそう返した。

 

「あ、居たわよ!」

 

「えっと……あ、師父!」

 

「ゴブリンスレイヤーさん!」

 

 新人三人が彼等の元に駆け寄る。

 そして胸元から黒い認識票を取り出し、三者三様に嬉しさを表情に出す。

 

「ほほう、無事に昇級したようじゃな」

 

「はい!オーガ戦の事が評価されまして」

 

「ふふ、良かったじゃない」

 

 そこで三人はゴブリンスレイヤーと灰色の剣狼の前に並ぶ。

 

「それもこれも貴方方のお陰です」

 

「俺は何もしていない」

 

「いえ、そんな事は……」

 

「最初に会った時に助けてくれたじゃないですか」

 

「……俺は、剣士を助けられなかった」

 

――キュウン――

 

 ゴブリンスレイヤーはそう言い、剣狼もすまなそうに声を上げる。

 三人もその返答に顔を曇らせる。

 だが最初に立ち直ったのは女武闘家だった。

 

「それはそうなのですが、やはり礼はするべきだと」

 

「そうよ……だから」

 

「師父」

 

「ゴブリンスレイヤーさん」

 

「「「助けていただいて、ありがとうございました」」」

 

 三人は彼等に礼を言いながら頭を下げた。

 その光景をある者は奇怪な物を見るように、ある者はニヤニヤしながら、ある者は微笑まし気に、他の冒険者やギルドの職員が見ていた。

 

「……ああ」

 

 

 

「まったく、ここまで苦労して宝箱が一つだけとはねぇ」

 

「文句、言わないの」

 

 ここはとある遺跡、何時もの様に槍使いと魔女が探索に来ていた。

 そして目の前には宝箱。

 冒険には必要不可欠なものが目の前にあった。

 

「……よし、変な罠は仕掛けられていないな」

 

「じゃあ……開けるわ、ね?≪解錠≫」

 

 宝箱に仕掛けられていた鍵が瞬く間に解けて行く。

 

「さーて中身は……なんだこれ?」

 

 槍使いが見つけたのは指輪と首飾りであった。

 それを魔女にも見せるが……。

 

「ここでは、分からないわ……ね」

 

 どうやら楽しみは後になりそうだった。




ネタバレしないように書くって難しい……。
評価が下がったらそれはそれでと言う覚悟で書きました。

それにしても日常回難しい。
でもグダグダになって終わるのも、悪い気はしないです。
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