「全員揃ってますねー。それじゃあSHR始めますよー」
教壇に立つ黒縁のメガネを掛けた、小柄な女性が微笑みながらそう言った。この人は山田真耶先生、僕達のクラス1年1組の副担任だ。
うーん、僕の知り合いの山田さんにどことなく似ているし、たしか娘さんが教師って言っていたし、でもまさか…ね。
まあ、今度先生か、山田さんのどっちかに聞いてみるとするかな。
「それでは、皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
「「「「「……………」」」」」
「よろしくお願いします、山田先生」
あまりにもクラスの皆が無反応だったので、僕は返事をした。だって、可哀想じゃん。
それにその原因は僕と僕の横にいる夏兄なわけだし。
ちなみにあの後、僕達の事は全世界に報道され、数日は家から出る事すら出来なかった。マスコミの人も人権って物を考えて欲しいものだとその時は思った。
その後、日本政府が何とかしてくれたので日常生活は送れる様にはなったけど、今度は世界中の国、企業がスカウトに来た。こっちの方が冬姉と春姉、それに束姉が何とかしてくれた。特に束姉は「二人にちょっかいかけたらISのコアを使えなくしちゃうよ」と全世界をハッキングして言ってくれたのだった。
まあ、そんな事もあって僕達兄弟は世界中に名前が知られている。流石に一般人なので顔とかは分かってないと思うけど。
「織斑君、ありがとうございます」
「いえいえ、原因の半分は僕ですから」
もちろん残り半分の原因は夏兄だ。いや、割合なら夏兄の方が上かな?
その原因の片割れである我が兄は凄く居心地が悪そうだ。まあ、僕もそうなんだけど、そこは気にしないようにしている。
いや、しかし「視線が突き刺さる」とは上手く言ったもので、結構痛い。
「じゃあ、出席番号順で自己紹介をお願いします」
山田先生のその言葉で、一人ずつ自己紹介を始める。皆逐一こっちの方見てくるのはアピールなのかな?多分夏兄は気付かないだろうけど。
夏兄は基本優しく、イケメンなのでモテる。しかし、驚異的なまでの鈍感なので彼女歴は無し。告白を告白と気付かないレベルの鈍感だ。それでモテないと言っているので、僕や友達の五反田弾、御手洗数馬は辟易しながら、たまにキレる。
僕?夏兄程では無いがモテるけど、その気がまだ無いので告白はすべて断っている。流石に告白を告白と察せるので、ちゃんと断っている。
どっちが良いかは分かんないけど、まだ、僕の方がマシなんじゃないかな。
そんな事を考えていると、いつの間にか自己紹介は僕の前、つまり夏兄の順番になっていた。
「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
そこで無言になる夏兄。いやいや、まだ他にもいう事があるでしょうよ。趣味とか特技とか中学校時代の部活とか。
…もしかして、「初対面でいきなり趣味とか言われても困るんじゃないか?」とか考えてるんじゃないか?
簡単でも言えばそれが話すきっかけになると僕は思うけど。
「以上です!」
強い口調で言い切る夏兄。とたんに新喜劇の様にずっこけるクラスメイト達。
…日本人はともかく、外国の人も新喜劇知ってるのかな?あのこけ方は完全に新喜劇だし。
すると、パアンッと良い音が横から聞こえてきた。
見ると、この前IS学園に来た時と同じくスーツを着た冬姉が出席簿で夏兄を叩いていた。会心の一撃だったらしく、夏兄はうずくまっている。
後ろには春姉と束姉がいる。
しかし、すぐに叩かれた方を見て、冬姉の姿を確認した後、
「げえっ、関羽!?」
「誰が三国志の英雄だ、馬鹿者」
その言葉と共にもう一撃、夏兄の頭に落とす。
実の姉を関羽って…。確かに冬姉は自分にストイックで武人みたいだけど、流石に髭の長いおっさん呼ばわりは失礼だろう。
ちなみに、僕は関羽が嫌いで髭の長いおっさんと若干馬鹿にした言い方をした訳ではないのであしからず。これの方がどんな人間か分かりやすくない?
「千冬先生、それに千春先生と篠ノ之博士も会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田君。クラスの挨拶を押し付けてしまって済まなかったな」
「私と束ちゃんはあいさつに来ただけだからすぐにお暇するわよ」
「よっす、まやまや。相変わらずけしからんおっぱいしてるねー」
「やめてください、束さん!セクハラですよ!」
「よいではないかーうへへへ」
手をわきわきしながらにじり寄る束姉、しかし冬姉が出席簿を一閃。…ていうか、出席簿であんな音でるもんなの?
「痛った~酷いよ、ちーちゃん!」
「いい加減にしろ、束。生徒たちが困っている。…済まなかったな、では改めて、諸君、私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。君達をこの一年でIS乗りとして使い物にするのが私の仕事だ。よろしく」
「私は織斑千春。一年の学年主任でさっき自己紹介した千冬の姉です。いろんな授業を受け持つからここに来ることも多いからよろしくね」
「そして私がISの開発者である、束さんだよ~。人の顔を覚えるのは苦手だから皆の事覚えられるか分かんないけど、とりあえずよろしくね~」
三人自己紹介したものの、誰も反応出来ていない。春姉はともかく『ブリュンヒルデ』である冬姉と『ISの開発者』である束姉が居るのだ、まあ、仕方ないだろう。
僕は知っていたから別に平気だけど。
「で、お前は自己紹介も満足に出来んのか」
「でも千冬姉」
最後まで言わせてもらえず、再び冬姉の出席簿が火を噴く。
「織斑先生だ。もしくは千冬先生だ」
「…はい、千冬先生」
しかし、このやり取りで、夏兄と冬姉が姉弟という事がばれてしまった。
「えっ、織斑君と千冬様が姉弟?」
「もしかして、IS動かせるのも何か関係が?」
「いいなあ、変わって欲しいなー」
おい、最後の子。親が悲しむからそんな事を言うのはやめなさい。
「もう時間が無いがとりあえず織斑弟、お前だけでも自己紹介を済ませろ。全員お前の事は気になっているだろうしな」
「了解です。千冬先生。えっと、皆さん初めまして、織斑一秋です。さっきの織斑一夏は僕の双子の兄で前に居る織斑両先生は僕の姉です。趣味は釣りと料理、後は家庭菜園で、特技は中学時代にやっていた弓道です。一年間よろしくお願いします」
まあ、これくらい言っておけばいいだろう。見た感じ全員満足しているみたいだし。
一発目の授業も終わり、僕は横に居た夏兄と話している。
クラスメイトおよび、他のクラスや上級生も見に来ているが、全員、互いが互いを牽制し合っているので、話しかけてくる人はいない。
「しかし、初日の一時間目から授業とかしんどいな」
「そうだね。…しかし夏兄、あの自己紹介は無いよ」
「そうか?いきなり、趣味とか特技言われても困らないか?」
「うわ、僕の予想通りだったよ。…あのね、その人の何か、たとえば趣味とかが分かっていたら、そこきっかけで話しかけやすいでしょ」
「そう言われてみればそうか」
「ま、でも僕の場合趣味を言っても分かってくれる人いなさそうだけどね…」
「まあ、ほぼ女子高だしな」
釣りや家庭菜園の趣味の女子高生なんて皆無だろう。まだ、料理なら話は広がるかもしれないけど。
ちなみに、僕と夏兄の料理の腕は昔から春姉と冬姉が働いていたのと、二人とも料理が苦手だった事もあり、かなりのものだと自負している。
「趣味で思い出したんだけど、これだけ周りが海に囲まれていたら釣りは出来るんじゃないのか?」
「出来るとは思うけど、その辺は冬姉か春姉に許可とか必要か聞かないと。一応、ここ国の持ち物だし」
「めんどくさそうだな」
「そうだね」
僕達がとりとめのない事を話していると、
「久しぶりだな一夏、一秋」
一人の女子が話しかけてきた。
「…箒?」
「あっ、箒ちゃん久しぶり。ってか、夏兄何でそんな探り探りなのさ」
「だって4年振りだぜ、探り探りにもなるって。ってか何で一秋がそうじゃないんだよ」
「束姉に最近の写真を見せられたから。いやー相変わらず仲良いね、箒ちゃん。後弓道部の友達の妹さんが剣道の全国大会出るっていうから着いて行ったときにその大会で見たし。っていうか、会って話したし」
「ああ、箒が優勝した奴な。俺も新聞の記事見たぞ。おめでとう、箒」
「な、なんで新聞なんて見ているんだ!」
いやー相変わらずだね、箒ちゃんは。新聞位見るでしょうよ。
「あ、そうそう4年振りでも俺はすぐに分かったぜ。髪型も変わってなかったし」
こういう事をさらっと言うから夏兄はモテんだよなー。
「よ、よく覚えている物だな」
「いや、忘れないだろ、幼馴染のことぐらい」
…こういう事言うから夏兄は鈍感って言われるんだよな。
「ゴメンね箒ちゃん。夏兄は何年経っても夏兄のままなんだ」
「一秋が謝る事でもないと思うんだが、その通りだな」
「? どうしたんだ、二人とも」
小さい声で話していたので夏兄には聞こえなかったみたいだ。
さて、お察しの通り、箒ちゃんは夏兄に惚れている。何でも小学生の頃、からかわれていた箒ちゃんをかばった時に惚れたのだとか。
でも、束姉がISを開発をした事で引っ越す事になって、僕達と会えなくなり、夏兄や僕と連絡すらできなくなった。
僕は箒ちゃんがその原因を作った束姉を恨んでいるんじゃないか、と思っていたのでその全国大会の時に思い切って聞いてみた。もちろん言いにくかったら言わなくても良いと前置いて。
そうしたら、箒ちゃんは
「恨んでいないさ。引っ越す事が決まった時、姉さんが私や父さん、母さんの前で大泣きしながら謝ったんだ。そんな姉さんを責めれないよ。それに、本当なら家族バラバラになる所を防いでくれたんだ。『私の力が及ばなくてそこまでしかできなかったよ。ゴメンね、おとーさん、おかーさん、箒ちゃん』ってさ。父さんは流石に叱ったけど、それっきりだし家族は皆気にしていないよ。今も世界中を飛び回ってたまにしか会えないけど、毎回、いろんな話や土産を持ってきてくれる、私の最高の姉だ」
と笑顔で話してくれた。
前々から、気になっていた事が解決してすっきりした事を良く覚えている。
「まあ、箒ちゃん頑張って。僕の他の知り合いも夏兄を好きな人が居るから誰かに肩入れは出来ないけど相談に乗るくらいはするからさ」
「ありがとう、一秋」
「だから、二人で何話してんだ」
そういうやり取りが一段落すると、チャイムが鳴り、次の授業が始まろうとする。
幼馴染との再会で始まった僕のIS学園の生活、これからどうなっていくのだろうか。
束さんの人格改変が凄い第一話です。
もう一個の僕のIS作品なのですが、少し行き詰っています。
何とか今週中に完成させたいと思っているのですが…。