作 「思った以上にね」
秋 「シリアスですね」
作 「僕もそう思う」
秋 「イチャイチャは何処に行ったんですか?」
作 「旅行に行ったんじゃない? 次までに帰ってくるよ。多分」
第二十八話始まります。
なんとか福音を撃退して帰ってきた僕らに待っていたのは、大広間での正座でお説教だった。
普段なら別に平気だけど、体力が消耗していて、体もボロボロなのでかなり辛かった。
最後の五か所同時の瞬時加速で全身が軋むけど、一番辛いのはバンカーを装備していた右腕だった。感覚が無いし、力が入らない。…夕飯食べれないじゃん。左手で食べればいいか。
「さて、説教はこのあたりにするか。後は、特別訓練を帰ってから行う。良いな?」
「「「「「「「「はい…」」」」」」」」
「でも、皆よくやったと思うわよ。お疲れ様」
これがIS学園名物、「極寒の冬の後の春の暖かさ」またの名を「織斑流アメとムチ」である。
生徒にも自分にも厳しい冬姉が取り方によっては厳しい言葉を投げかけ、それを春姉が優しくフォローする。
しかも、春姉のアメの使い方が上手い。決して冬姉が悪い印象をもたれないようにしているのだ。
そもそもこの技術の発祥は僕達がまだ小学生の頃だった。
その当時、道場で柳韻先生に次ぐ腕の持ち主だった春姉と冬姉は柳韻先生のいないときには僕や夏兄、箒ちゃんの指導もしていた。
冬姉は本当に不器用で、教える時の言葉が本当厳しかった。普通の小学生なら心が折れて辞めてしまうくらいには。まあ、僕達3人はその頃から負けず嫌いの気があったらしく、意地でも付いていったのだが。
それを見ていた春姉が冬姉に注意した。「流石に言い方が厳しすぎ」と。その後、二人で考えた結果、この教え方が生まれたのだった。
「では、簡単な診断をしますよ。そこから、夕食までは休憩です。一人一人行うので、他の人は隣の部屋で待機してください。あ、水分補給も忘れずにですよ」
山田先生の言葉に頷く僕達。
これにて本当に一件落着だね。
さて、福音事件の日の夜、僕と夏兄は温泉に入っている。
福音戦の事後処理の時に姉さん達二人から、僕達二人に話があると言われた。
それで、話が長くなるかもしれないから、温泉でも行って来いと言われたので、僕達は今二人で温泉に入ってる。
「しかし、一体、何だろうな?」
「見当もつかないね。しかも、結構大事な事っぽかったよね」
「だよね。直接皆に『来るな』って言ってたからね。しかも、春姉が」
「千冬姉ならともかく、千春姉がそう言ったんだからよっぽど大事な事なんだろうな」
「そうだね。…ああ、分かんない事は考えても分かんない。今は温泉を楽しもうよ」
「だな」
会話を終えて僕達はそれぞれで温泉を楽しんだ。ただ、心のどこかで話が気になって、心の底からは楽しめなかった。
温泉から上がった僕達は部屋に戻った。
そこには真剣な表情の姉さん達が居た。その様子でかなり大事な話だという事が察しが付く。
「来たか…。さて、二人とも今から話す話をしっかり聞いていて欲しい」
冬姉の言葉に頷く僕達。
ここから二人の姉による僕達4人の話が始まった。
今から、十年近く前の事、当時中学生だった、千春と千冬は剣道の大会に出るためにとある町に来ていた。
規模こそ大きくないが、その町は篠ノ之家の縁の地だったので、彼女たちの師篠ノ之柳韻が参加を決めたのだった。二人も過去何度か来ている。
「姉さん、今回は勝たせてもらう」
「ふふ、それは私のセリフよ、千冬ちゃん」
同年代の中でずば抜けた実力の持ち主であるこの姉妹はお互いが、ライバルだった。
「しかし、父さん達遅いな」
「そうねえ。バスはもう着いていないといけない時間のはずだけど…」
応援に来るはずの彼女の両親と双子の弟達が来ていなかった。
どうしたのかと話していた時、
「千春君! 千冬君!」
彼女たちの師、篠ノ之柳韻が駆け込んできた。普段から、落ち着いている彼が今はとても取り乱している。
「落ち着いて聞いてくれ。実は…」
師から出た言葉に言葉を失う二人。柳韻はそんな状態の二人を見て大会を棄権させ、二人をとある場所に連れて行った。
彼女たちが連れて行かれたのは病院だった。
彼女たちの家族を乗せたバスは走行中、カーブを曲がりきれず崖から転落。二人の弟は無事だったものの、それをかばったらしい両親は、父、織斑友一は死亡。母、織斑珠季も意識不明の重傷で、命の危機である。
二人は今、母親のベットの傍にいる。普段は気丈な二人だが、その目には涙が浮かんでいる。
「…千春、…千冬」
自分たちを呼ぶ声を聞いて顔を上げる二人。
「「お母さん!」」
「ふふ、久しぶりね…。二人が私の事を『お母さん』って呼ぶなんて」
「お母さん、そんな事よりも無理しないで!」
「無理なんて…してないわよ。一夏と…一秋は?」
「無事だよ。かすり傷だけ。お父さんとお母さんが護ってくれたから」
「良かった…」
ほっ、とため息を吐く珠季。
「二人とも…私の話を聞いてね」
その言葉に頷く二人。言葉にすると何かが決壊してしまいそうだったから。
「私と…友一さんは…天涯孤独だった。親の顔も…知らないわ。でも、私は…幸せだった。友一さんと出会えて…あなたたち四人を授かって…」
「だったなんて、過去形にしないで! 私は…私は」
泣きながらそう言う千冬。
「ふふ…千冬は…泣き虫ね。普段、あんなに凛々しくて…かっこいいのに」
「…お母さん」
「千春…あなたには…重い物を…持たせて…しまうわね」
「私も、千冬ちゃんと同じ気持ちです。私も…」
「…ごめんなさいね。…それと最後に一つだけ…私の、ううん、私達のお願い聞いてくれる?」
涙を拭いながら頷く二人。
「もし…一夏と一秋が…私達の事を…覚えていないなら…そのままにしてあげて。それで…あの子たちが…この事を…知っても大丈夫と…二人が判断したら…教えてあげて。いい?」
再度頷く二人。
「ありがとう…。これで…心残りは無いわ…。千春」
「はい」
「千冬」
「はい…」
「それに…一夏に…一秋。私達の所へ…生まれてきてくれて…ありが…とう」
目を閉じる珠季。
「「お母さん!」」
二人が呼びかけるが、もう返事は聞こえてこない。その瞼は二度と開かれる事は無い。
病室には二人の少女の泣き声だけがいつまでも響いていた。
…話は僕が思っていたよりも重くて、そして、僕達家族にとってとても大事な物だった。
僕は、僕と夏兄がここに居るのは僕のお父さんとお母さんが護ってくれたから。その事を知れて、本当に良かったと思う。
小学生の頃、学校で親が居ない事を言われたことがあった。その時に僕はいらない子だったのかと言ってしまった。その時、姉さん達はとんでもなく怒っていた。今まで振り返って一番だったと思う。
でも、今日の話で納得がいった。その時の怒りが。もし同じ立場だったら僕だってそうなる。
いらない子? そんな事は無かった。僕達は本当に愛されて生まれたんだった。
「千春姉、千冬姉、話してくれてありがとう」
夏兄はそう言った。
「責めないのか? 隠していたことを」
「どうして責めるのさ。離さなかったのはお母さんの約束と僕達の為でしょ。理由が無いよ。それよりも教えてくれたことにありがとうだよ。ね、夏兄」
「ああ、その通りさ。俺たちの両親が自慢できる凄い人だったって分かったんだ。それだけで十分だよ。それにさ、話してくれたって事は俺達をちゃんと認めてくれたって事だろ?」
「まあ、ね」
「だから、少しは俺達にも姉さん達が背負っていた物を手伝わせてくれよ」
夏兄はそう言った。僕もそう思う。
もう僕は姉さん達がそれを背負い出したころよりも年上になっている。もうただ、背負われるだけの物じゃない。家族として一緒に支えていきたい。
「…本当、いつのまにかちゃんと成長して。私は嬉しいわ」
「…そうだな。なら、今年は4人で母さん達の墓参りに行くか」
冬姉の提案に僕達は頷く。行って言おう。今までの『ごめんなさい』と『ありがとう』を。
「…ちょっと、涼みに行ってくるよ」
「分かった。消灯時間には戻って来いよ」
「はーい」
そうして、僕は部屋を後にした。
僕は今、海岸にあった岩場の上でぼーっと釣り糸を垂らしている。ちなみに針は付いているが、縫い針みたいなものである。通称「太公望状態」である。
そうしながら、僕は心の中を整理している。もちろんさっき聞いた僕の両親の事についてだ。
僕は一人で考えたいときは釣りに…と言うより海に来る。なんとなくだけど。
「一秋!」
後ろから僕を呼ぶ声がして、その声の方を向くと、シャルロットがいた。
「どしたの、シャルロット」
「お姉ちゃん達に、一秋の様子を見に行って欲しいって頼まれたからだよ」
やっぱり、僕が悩んでいるのは気付かれてたんだね。流石は我が姉達と言った所かな。今シャルロットが僕の傍にいる事を含めて。
ウチの家族は基本的に弱音を他の人に見せない。僕だけかと思ってたけど、今日の事で姉さん達もそうだと思った。この分だと夏兄もそうなんだろう。まったくもって難儀な性分だよ。…お母さんの最期を聞く限りだと、遺伝っぽいんだよね。
「『あの子、弱音とか溜め込んじゃうタイプだから。まあ、私達もだけどね。でも、シャルロットちゃんがそばに居れば少しは楽になると思うわ』だって」
「何から何までお見通しだね…。でも、来てくれてありがとう、シャルロット」
「ううん。僕も一秋の傍に居たかっただけだから」
本当嬉しい事言ってくれるよ。…シャルロットにならもたれかかっても良いかな?
「…シャルロット、僕の話を聞いてほしいんだ」
「それって…」
「うん、さっき姉さん達に聞いた話」
「僕に話していいの?」
「違う。僕はシャルロットだから聞いてほしいと思う。昨日さ、言ったでしょ。もう変にカッコを取り繕わないって。重い話だけど、今、僕の抱えている物を知ってもらいたいなって思ってさ」
「…分かった。聞くよ」
そこから僕は話し出した、僕の過去を。
一通り話して僕達の間には静寂が訪れる。
「そっか…。でも、それだけじゃないでしょ? 一秋が溜め込んでいる物って」
「…僕ってそんなに分かりやすい?」
「そうでも無いと思うよ。でも、僕はここに来てから一秋ばっかり見てたからね」
本当、僕には過ぎた彼女だよ。
…ここまで来たのならすべて吐き出してしまおう。
「今日、姉さん達に話を聞くまでは、僕達の両親は僕達を棄てたと思ってた。でも、本当は僕と夏兄を守って死んだ。その時、知らなかったとはいえ、酷い事を思っていた自分が嫌になったんだ。でも、その事を聞いた時、本当に僕達のお父さんとお母さんはもう居ないんだって思った。たとえ棄てられたとしても、いつかきっと迎えに来てくれる、一緒に暮らせる。って、心のどこかで思ってたんだ。たとえ、どんなに酷くてもお父さんとお母さんには生きてて欲しかった。…会いたかったなあ…」
そう、ただ会いたい。会って話がしたい。今日の話を聞くまで小さいけれど長い間思い続けていた事。
でも、それはもう叶う事はない。それを認めたくない僕が心のどこかにいる。
いつの間にか僕の視界は歪み、頬には涙が流れていた。
そんな僕の頭をシャルロットはぎゅっと抱きしめた。
「…シャルロット?」
「僕には一秋の気持ちを全部分かってあげられないけど、これくらいは出来るよ。それに、辛いなら、悲しいなら、泣いちゃえばいいよ。我慢する必要なんてない。今、ここには僕しかいないんだしさ。無理してカッコを取り繕う必要ないよ」
シャルロットの言葉で僕の感情は爆発した。
僕は彼女に縋り付き、声を上げて泣いた。
…こんなに泣いたのはいつ以来だろう? いつからか姉さん達に迷惑かけないようにそういう事を我慢してたから、凄い久しぶりなんだとは思う。
「…ありがとう、シャルロット。おかげでスッキリした」
「それは良かった。そろそろ、戻ろう。もうすぐ消灯時間だよ」
「そうだね」
僕達は旅館に向かって歩き出した。
お父さん、お母さん、僕は覚えていないけど、あの日あなた達が護ってくれた僕は今、たまに事件に巻き込まれるけど、充実した毎日を過ごしています。
あなた達が居ないのは寂しいけれど、大切な家族が、友人が、そしてなにより世界で一番大切な人、シャルロットがそばにいてくれるから、僕は笑顔でいます。元気です。
原作でも語られていない、織斑家の両親の話。
何故居ないのか。最もシンプルな物をこの作品では採用しました。
両親の名前は僕の考えた設定としてある旧姓と合わせて、4兄弟の名前になるようになっています。
ここでそれを紹介します。
まず、『織斑』の苗字は両親が居た孤児院の院長先生の苗字である事。(院長先生から許可は貰っています)
二人の旧姓はそれぞれ千堂友一、四会珠季となります。
4人の子供の名前は父親の頭の文字『千』か最後の文字『一』+母親の頭の文字と最後の文字を合わせた『四季』を合わせてきています。(千春、千冬、一夏、一秋)
正直、話の重さが前の話の福音戦を上回っていると思います。書いてて精神的疲労が酷い。
次回はまた日常のお話に戻ると思います。…戻ると良いなあ。