秋 「多分、そうでしょうねー」
作 「おっ、案外嫌じゃないの?」
秋 「僕はシャルロットと一緒に居れれば良いので」
作 「言うねえ…」
第三十話始まります。
「はあ…本当にどうしよう…」
僕はため息を吐いてそう呟いた。その声が反響して響く。
今、僕はIS学園の誇る大浴場に来ている。入学当初は男子が僕と夏兄の二人しかいなかったから、ここは使えなかったのだが、先生方の苦労の末、学年別トーナメントが終わった日から週に何回か使える日が出来たのだ。
僕も夏兄もお風呂は好きなのでこの話を聞いた時は凄く喜んだ。ちなみに、夏兄はお風呂とご飯でお風呂の方に軍配が上がるらしいけど、僕はそこまで好きという訳じゃない。
でも、やっぱり備え付けの浴槽よりも大浴場の方が良いのは当たり前だと思う。
で、今日は僕達男子が使える日なのだが、夏兄はもういない。というより、僕が風呂に入りに来るのが遅かったので先に上がってしまったのだ。
そのおかげで風呂場でゆっくり考える事が出来る。出来るのだが…何も思い浮かばない。
勉強にも日常生活にも人間関係にも割とちゃんと答えを出せる僕の頭も、恋愛事にだけはまったくもって役に立たない。
謝るのは確定として、どう謝るかが全く分からない。何か渡すべきなのか? でも、物で釣っているように見えないかな? 悩みは尽きない。
僕があーだこーだ考えていると大浴場のドアが開く音が聞こえた。夏兄、二度風呂でもしに来たのかな? ここは温泉じゃないっつーの。悩んでいる僕は、鈍感で能天気な夏兄に向けての言葉が汚くなってる。
「夏兄、ホントお風呂好きだ…ね…」
振り向きながら僕はそう言ったんだけど、最後までは言えなかった。
入って来たのは僕と同じくらいの背丈の夏兄よりも小柄で体格も華奢、なおかつ髪の毛も僕と同じ黒髪では無く金髪。そして何よりバスタオルに包まれた体は筋肉質な男性のそれではなく、丸みを帯びた女性の肉体だった。
「って、シャルロット! どうしてここに!?」
我に返った僕は思わず大声を上げてしまう。僕の声だけだけど浴場だから結構響く。
いや、そんな事はどうでもいい。まずは状況を整理しよう。
僕はお風呂に入っている。今日は男子の大浴場解禁日だから大浴場を使っている。うん変な所無いよな。
続きにいこう。そんで、考え事をしていた僕は入るのが遅くなって夏兄と入れ違いになったから、一人で入っていた。まだ、問題無いな。
それで、大浴場のドアが開いたから夏兄かなと思って振り向いたら、バスタオル姿のシャルロットがいた。うん、おかしいとこは…あるね。
「えっとね、一秋とゆっくり話がしたいなあって思って。それで、一夏に聞いたらまだお風呂入ってるって言うから…」
「言うから?」
「来ちゃった♪」
…前々から思ってたけど、さっき確信した。僕の彼女は世界一可愛い。反論はあるかもだけど、それを僕は認めない。僕の中ではそうだから。
いやいやいや、落ち着け。これは夢か? シャルロットと喧嘩した僕がみる都合のいい夢。
「夢じゃ無いよ」
「…ひょっとして声に出てた?」
「うん。…それと、一秋はいつまでこっちを見てるつもりなのかな?」
「あっ、ご、ゴメン!」
慌てて僕は元の体勢に戻る。顔が熱い。湯船に浸かっているっていうのも理由だろうけど、それよりシャルロットのほぼ裸を見たのが理由だ。
正直、それは男子高校生の眼には毒だよ。
そして、そのシャルロットは僕の横に来て座る。もちろん湯船の中だから何もない生まれたままの状態で。
いや、嬉しいんだけど…なんていう拷問? それとも試練? 僕の理性を試すための。
結構ハードな生活だから体は凄い疲れているんだけど、横にシャルロットが居るから下半身は特に僕の分身は反比例するかのように元気だ。…人生十五年の中で最大のピンチですね、分かります。
「そ、そういえば、ゆっくり話すと言ってもさ、僕達同じ部屋だし、戻ってからで良かったんじゃない?」
そう、実は僕達は同じ部屋でまだ暮らしている。というより確定事項らしい。姉さん達に束姉、さらに山田先生までもが、「二人なら、節度ある付き合いをするだろう」という謎の信頼を得たので、僕達は同じ部屋のままになっている。
ちなみに夏兄は一人部屋。ラウラさんは丁度、転校してくる直前に生徒が一人家庭の事情で転校したのでそこの部屋に入った。
「たしかにそうなんだろうけど、思い立ったら吉日って言葉もあるじゃん。だから、行動したんだ」
シャルロットって意外とアグレッシブなんだよね。前、本人に聞いたら「前はそうでも無かったかな。でも、恋をした女の子は凄く積極的に行動できるんだよ。好きな男の子の為にね」って言ってた。今回もそうなのかな? そうだと良いなあ。
「それで、話なんだけど…ゴメン! 一秋!」
「ど、どうして、シャルロットが謝るのさ!」
僕はシャルロットの方を向いて(できるだけ、彼女の顔に集中するようにして)聞いた。だって、シャルロットが謝る理由ないし。
「だって、こうなっちゃったのも僕が無視したのが理由だし…」
「いやいやいや、僕がシャルロットが居ながらファイルスさんにデレデレしたのが原因でしょ。シャルロットが謝る事無い。むしろ、僕の方こそゴメン!」
土下座する勢いで頭を下げる僕。まあ、湯船だからホントに土下座すると溺れるけどね。
「…僕達、すれ違いしてたみたいだね」
「そうだね。普通に話し合えばこんなに簡単に解決できるのに、何で出来なかったんだろ」
「でも、一回やったから、これからはもう大丈夫だよね」
「だね」
僕もシャルロットも個性の違う人間だ。すれ違いもするし、喧嘩も時々するだろう。でも、今回みたいにお互い向き合って(いや、今回は恥ずかしくて向き合えていないけれど)話せば大丈夫。解決できる。
いつの間にか僕達はお互いの手を握っていた。ぶっちゃけ、この数日こういう触れ合いも無かったから今はそれが出来て凄い嬉しい。
「あっ、そういえば…」
何かを思い出したシャルロット。
「どしたの、シャルロット?」
「一秋さ、福音戦の時、僕との約束破ったよね」
「うっ…」
そういや、その事もまだちゃんと謝ってなかった。僕ってばホントダメダメだね。
「その節は本当に心配を掛けてすみませんでした。お詫びになんでもさせていただきます」
「ホントになんでも?」
「…僕が出来る範囲ならば」
「じゃあ、夏休みに一緒に行って欲しい所があるんだ」
「それくらいなら…」
むしろ、普通にデートのお誘いの様な…。
この僕の認識は次のシャルロットの言葉で甘かったと気付かされる。
「じゃあ、お父さんとお義母さんに連絡しておかないとね」
…えっ!? なぜにフランスに居るはずのシャルロットの両親が出てくるのでしょうか?
「あのー、シャルロットさん。一つお伺いしたいのですが、僕は何処に行くのでしょうか?」
「フランスにある、僕の家。お父さんとお義母さんが会いたいって言ってたからね」
…拝啓、天国の父さん、母さん。今あなた達の息子はその彼女が発動させた搦め手によって人生最大のピンチを迎えようとしています。どうすれば良いのでしょうか? というより、付き合って数か月で彼女の両親に会うために海外に行く人間はこの世界にどれくらいいるんでしょうか?
「旅費とかはお父さん達が用意するって。一秋パスポートある?」
「偶然だけど、持ってる。モンド・グロッソ見に行くために作ったから」
まあ、使った事は無いけどね。
「そうなんだ。それじゃ、今度のテスト終わったら、旅行の買い物行こう!」
「そうだね。海外旅行なんて初めてだから楽しみだな」
「僕も一秋に知ってもらいたいよ。僕の生まれた国の良い所をね」
なんだかんだで結構楽しみになって来た。
まずはテストを乗り切る事からだね。頑張るぞ!
気が付いたら三十話に突入していました。
原作を読み返していた時に、お風呂シーンを入れるのを忘れていたのに気付き、今回で入れました。
次回は学園編で、その次から多分夏休み編に突入します。