作 「あー、確かに。でも、的確でしょ?」
秋 「まあ、そうですけど」
作 「分かりやすさ重視なのさ」
第三十七話始まります。
「うわ、想像以上に広…」
「一秋、そのセリフフランスに来て何回目?」
「数えてない。でも、この感想は間違ってないでしょ?」
「まあ、たしかに」
フランス滞在三日目、僕達はデュノアさん夫妻に連れられて、デュノア社の開発部の研究室に来ていた。
敷地には山しかなかったんだけど、その山の下には研究エリアが広がっていた。なんていうか…秘密基地?
理由は防諜の為らしい。まあ、今時、領空侵犯せずとも軍事衛星で偵察できるし、防ぐには良い手なのかな?
「それで、ジュールさん。どうして僕達をここに?」
「自慢が半分だよ。もう半分は…「社長!」準備は出来たかい? アルフレッド君」
「もちろんです。お嬢様もお久しぶりです」
「主任もお元気そうで。一秋紹介するよ。アルフレッド・ブランさん。エレーヌ先輩のお父さんだよ」
「そうなんだ。初めまして、織斑一秋です。エレーヌ先輩のお父さんという事は、僕が貰ったバンカーの生みの親でもあるんですよね?」
「おお、あの試作品ね。そうだよ。どうだい、使い勝手は?」
「近接武器の不足していた僕としてはありがたいです。取り回しはちょっと難しいですけど」
「私や社長はあれで良いと思ったのだが、副社長がNGを出したんだよ。お蔵入りの物を使ってもらえて開発者として嬉しいよ」
開発者が自分の作った物を使ってもらう感じってどんなのだろう? ちょっと、想像つかない。僕が料理を作って誰かに食べてもらうのと同じ感じかな?
「そういや、準備というのは…」
「もう半分は、シャルロットへのプレゼントさ」
「「プレゼント?」」
「そうだよ。さあ、行こうか」
ジュールさんの主導でどんどん進んでいく。
着いたのはデュノア社の研究所の最深部。
そこには一機のISが置かれていた。しかし、見た事のない型だ。
「お父さん、あのISは?」
「デュノア社製、第四世代技術検証機『ミラージュ』だ」
『ミラージュ』ねえ。…って、
「「第四世代機!?」」
流しそうになった事実にツッコむ僕達。フランスって第三世代機作ってないよね?
「お父さん、ウチって第三世代作ってないよね。なのに何で第四世代?」
「ぶっちゃけ言うと、私とヴィクトリアの総意なんだが、第三世代の特殊兵装は使える人間が限られ過ぎるんだよ。ISの高い適性を持ちつつ、特殊兵装の適性も高い。そんな人間は世代に一人いるかどうか怪しい。そんな物を量産した所で宝の持ち腐れだ。フランス政府にそう報告して、ウチは基礎研究のみで第三世代の製作を中止にした。イメージインターフェイスとかのノウハウだけで十分だったな。そのせいでフランスはイグニッションプランから脱退したが、まあ第四世代機が形になっているから問題無いだろう」
イグニッションプランとはEU内の統合防衛計画で現在は次期主力ISの選定中。イギリスのティアーズを筆頭に、ドイツのレーゲン、イタリアのテンペスタの三機がコンペに出されている。
その中でフランスは独自の路線を進んでいるのだ。
「第四世代って事は展開装甲も使われているんですか?」
「いや、使ってないよ。あれも扱いはかなり難しいからね。費用もばかにならないし。束ちゃんからデータを見せてもらった時にはワンオフでしか使えないと思ったよ」
「じゃあ、どうやって…」
第四世代の目標としてどんな状況でもパッケージ換装無しでの即時対応が出来るというのがある。展開装甲はそれを達成するための根幹技術のはずだ。
「即時万能対応機にしたかって? まあ、そもそもウチのラファールの売りは汎用性の高さだった訳だよ。それを新システムによってより伸ばした形だね」
「「新システム?」」
「『cartridge armor system』略して『CAS』。あらかじめ追加装備であるパッケージを専用のカードリッジに量子変換しておく事で、武器の呼び出しと同じ要領でパッケージの変換が出来るシステム。今のミラージュは最大5つまでパッケージを装備できる。もちろんラファール同様の大量の拡張領域も確保されている。まあ、若干第四世代の目標とは違っているのだが、それでも、今までの機体より対応力は抜群に上がってきているよ」
…つまり、本来ならかなりの時間の掛かるパッケージ装備の換装を武器の呼び出しと同じ感じでやってしまってどんな状況でも対応してしまおうという事らしい。
「…いや、凄いですね」
「ははは、まあ伊達にEU1のIS技術者と言われてないよ。それで、シャルロットにはこの機体のテストパイロットになってもらいたい」
「…僕でいいの?」
「ああ。この機体は二号機で、一号機は既にミシェルが受領している」
「…なら、預からさせていただきます」
「では、シャルロット、ラファールを貸して。この子のコアを移植するから」
シャルロットはジュールさんに十字のネックレストップ―ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡの待機状態―を渡す。
「じゃあ、作業を始めるから30分ほど待っていてくれ。その間は「社長、私が相手をしますわ」…ミシェルか。頼む」
後ろから入って来たのは赤毛の女性。つーか、エレーヌ先輩にそっくり。
「ミシェルさん、お久しぶりです!」
「久しぶりね、シャルロット。横に居るのがシャルロットの彼氏?」
「はい!」
「シャルロット、この人は? エレーヌ先輩に似てるけど?」
「自己紹介がまだだったわね。私はミシェル・ブラン。エレーヌは私の妹よ」
「織斑一秋です。よろしくお願いします」
へえー、エレーヌ先輩のお姉さんか。道理で似てるわけだ。
「ミシェルさんは、デュノア社のテストパイロット兼フランスの国家代表だよ」
「へえー。…って国家代表!?」
「そんなに驚く事? 一秋君のお姉さんもそうだったじゃない」
「いやまあそうですけど…」
それとこれとじゃ違う気がするんだよね。身内に会うのとそうじゃない人に会うのは。
「それで、どうやって時間を潰しましょうか?」
「私と模擬戦をしましょう。一秋君?」
「……えっ!?」
「エレーヌから聞いたわよ。楯無を倒したって。ヨーロッパの国家代表の中であの子は結構評価高いのよ? それを倒した一秋君にも興味があるのよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
自分の力を試す意味でも、経験という意味でも、国家代表と戦う事は凄く僕のプラスになるはずだ。しかし、僕の一存では決めれない。なので、僕は電話を掛ける。
『もすもす、終日~、どったの、かずくん? フランスは楽しい?』
「フランスは楽しいですよ。…って今はそうじゃなくて、実はですね、フランスの国家代表の方と戦う事になりまして…」
『ミーちゃんだね。別に戦っても良いよ。そこデュノア社の開発部の山の中でしょ? デュノアの人達は信頼してるし、そこなら変なちょっかいも無いだろうし。それに私もデュノアのおじさんがどんな機体を作ったか気になるし』
「それじゃ、お言葉に甘えるよ。後、デュノア社の新型はシャルロットの専用機にもなるみたいだから、ジュールさんの許可さえ取ればいつでも見れると思うよ」
『それは、良い事を聞いた! 後で確認しとこ~。それじゃあね、かずくん。お土産楽しみにしてるよ~』
束姉との連絡を終える。
「一応、許可もいただいたので、模擬戦のお話受けさせていただきます」
「それじゃ、行きましょ。社長、良いですよね?」
「ぜひ私も見たいのだが…。まあ、映像で我慢しよう。許可は私が出しておこう」
「ありがとうございます、社長。じゃあ、行きましょうか」
僕達はミシェルさんの後に付いて行く。
「…いや、ここ本当に地下なんですか?」
思わず僕は呟いた。地下のはずなのだが、200メートルくらいの高さが確保されているアリーナだった。
「凄いわよねー。私も初めて見た時驚いたもの。さて、早速始めましょうか」
僕と相対しているミシェルさん、『ミラージュ』の一号機はデザイン的にラファールと似通った所がある。色も量産型のラファール・リヴァイブと同じ色だし。そういや、前シャルロットが「ラファール・リヴァイブのあの色は国家代表のパーソナルカラーをそのまま使っているんだよ」って言ってたな。
『ミシェルさんも一秋も準備はいい? それじゃ、始め!』
シャルロットの合図で模擬戦が始まるけど、僕もミシェルさんも相手の出方を窺う静かな立ち上がり。ていうか、無策には突っ込めないよ。
「あら、様子見? なら、こちらから行かせてもらおうかしらね」
そう言いながら、ミシェルさんはライフルを呼び出し、放つ。あれは、シャルロットがジュールさんに貰ったオクスタンライフルだな。あれ、結構面倒なんだよな。実体シールドはともかくエネルギーシールドの場合だとレーザーの時と実弾の時の対応が少し変わってくる。今はシャルロットとの何度もの模擬戦を経て、レイに全任せしてるけど、最初、マニュアルでやってた頃はめんどくさかった。
まあ、一番手っ取り早いのは全部避ける事なんだけど。避けれる所は出来るだけ避けて、避けれない所は丁寧にガードする。いつも通りの戦い方だ。
「戦い方が丁寧ね~」
「それっ、褒め言葉っすか?」
正直、防御が結構ぎりぎりで返事をするのも少し辛い。
「褒め言葉よ。まだIS乗り始めて三か月でしょ? それで、その技量だから驚きよ」
「ありがとうっ、ございます」
しんどい。戦況も良くない。どうにかしないと。射撃型みたいだし、がちゃがちゃの格闘戦に持ち込んで、打開しよう。多分、それがベターかな?
牽制の射撃を加えながら距離を徐々に詰めていく。
攻撃の隙を突いて……今だ! 一気に距離を詰め、格闘戦に持ち込む。
しかし、
「格闘戦も、この機体は出来るわよ!」
あっさり攻撃を止められる。しかもよく見ると、ところどころデザインが変わっている。
「CAS…」
「正解。特化のパッケージを切り替えればこんな風に対応も出来るのよ!」
「くっ…」
流れが悪いまま、結局僕は負けてしまった。
実力からいったら当たり前なんだけど、もう少し出来ると思った。いや、楯無さんに勝って少し思い上がってたのかもしれない。気を引き締める意味でも負けて良かったと思う。
「はあ…はあ…ミシェルさん、ありがとうございました」
「お礼を言うのは私も同じよ。この子との経験を積みたかったし。ありがとうね」
そうか、『ミラージュ』が出来てまだそんなに時間が経ってないからデータや経験がそんなに無かったのね。それなら、少しはこの前いただいたスーツのお返しになるかな?
「で、CASはどうだった?」
「ぶっちゃけ、凄いビックリしました。どの距離でも十二分に戦えるオールラウンダーが戦いにくいのが頭の中では分かってたつもりですけど、実際やってみると想像するよりも、面倒でした」
「ISは量産機はともかく、専用機は一能特化で、どこかに短所持っているのが多いからね。高レベルで纏まった万能機って意外と少ないのよ」
たしかに。
雪片しかなくて格闘戦オンリーの白式、射撃能力は高いけど接近戦に難のあるブルーティアーズなどなど、今IS学園にある専用機は特化型が多い。第三世代機の特徴がワンオフアビリティーに頼らない特殊兵装だから、その特殊兵装に合った装備や機体や戦い方になっているしれないけど。
第三世代で万能機と呼べるのは…ミステリアス・レイディ位かな?
「実は万能機ほど、乗り手を選ぶ機体も無いからね」
「そうなんですか?」
「汎用性の高い万能機はある一点を突き詰めた特化機相手だと、そこに負けるのよ。トーナメントのモンド・グロッソなんかだとトップレベルの実力者ばかりだから、その人に最も合った戦い方だけが出来る機体、つまりは一能特化型ばかりなのよ。そういう意味では、白梅と千春は異質ね。まあ、一秋君も若干そんな感じだけど」
異質って言い方は少し違うと思うけど、確かにIS学園の専用機持ちの皆も「どっちも出来るけど、どちらかというと格闘(あるいは射撃)の方が得意」という人が多い。一部例外も居るけど。具体的には夏兄と箒ちゃんとセシリアさん。後、冬姉もかな。この三人は「どちらかしか出来ない」タイプ。
僕と春姉はどっちも出来てどちらかというとが無い。違うのは僕は「どっちも苦手では無いから相手が苦手な戦い方で戦う」というので、春姉は「どっちでも相手を圧倒出来るほどの腕が有る」という差だ。
「僕なんてまだまだですよ。…にしてもCASは厄介ですね。言うならば、何機もの相手とその相手の得意な土俵で連続して一対一をしないといけない状態ですから」
「そうね。私は普通位だけど、シャルロットや千春みたいな『高速切替』の使い手が乗ったら、一段と手強いでしょうね」
「…それは、厄介そうですね」
「パッケージが充実すれば、装備の選択肢も増えるし、これからまだまだ伸びる機体ね」
そういう、ミシェルさんは凄く楽しそうだった。まるで我が子の成長を見守る母親みたい。
「そろそろ、30分ね。社長の所に戻りましょうか」
「そうですね」
僕とミシェルさんはお互いのピットに戻っていく。
その後、最深部に戻ってシャルロットの新しい専用機『ミラージュ』の『初期化』と『最適化』を行った。
素の『ミラージュ』は『ラファール』のデザインに似通っている所がある。正確に言うと四つの実体盾が無いからシャルロットの『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』に似ている。ジュールさん曰く「専用機だから、前のラファールに合わせたんだよ。それと共に試作機でもあるから、量産機になる時には付けるかもしれないし、このままで行くかもしれない」との事だ。
とりあえず、シャルロットの『ミラージュ』には基本形態となる、シャルロットの今までのデータから作られたメインパッケージ、近接格闘に特化させたパッケージ、高機動射撃に特化させたパッケージの三つが装備された。
IS学園に戻っての初お披露目で皆がどんな反応を見せるか、今から楽しみだな~。
オリジナルIS『ミラージュ』の登場回でした。詳しい設定は、その内設定の所に書くと思います。
次回もまだフランス編です。