IS~僕の兄は織斑一夏~   作:ピーナ

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秋 「ある意味意外な戦いなんじゃないですか?」
作 「かもね。でも、結構最初の頃から考えていた事なんだよ」
秋 「そうなんですか?」
作 「そうなんです。まあ、あんまり見かけるネタじゃないし、良いんじゃない?」




第四十一話 始まりの場所で

さて、日本に帰ってきて3日、篠ノ之神社の夏祭りの当日になっていた。帰ってきてから毎日、篠ノ之神社で流鏑馬の練習をしていた。

気付いたんだけど、ISで動きながら射撃する感覚のお蔭か、余り感覚が鈍ってなかった。馬も去年と同じ『時雨』(葦毛、4歳)だ。ちなみに名前の由来は生まれた時に時雨が降っていたから。

感覚はバッチリ。後は本番に向けて集中力を高める。人事は尽した。後は天命を待つのみ。

集中するために道場を借りて一人たたずんでいる。すると、道場の扉が開かれた。

 

「久しぶりだね、一秋君」

 

僕の名前を呼んだのは和服に身を包んだ壮年の男性。

 

「お久しぶりです、柳韻先生」

 

僕達姉弟の武術の師であり、箒ちゃんと束姉のお父さんである篠ノ之柳韻先生だ。

会うのは4年ぶりだ。

 

「しばらく見ない内にずいぶん腕を上げたみたいだね。束や箒から教えてもらったよ」

「ありがとうございます。……でも、僕自身があまり実感が無いんですよね」

 

IS戦では実力を伸ばしたのは分かる。元がゼロで色々な経験を積み、一回だけだが国家代表の楯無さんに勝ったから。

でも生身での戦いは伸びたか分からない。

 

「それは、相手が千春君や千冬君ばかりだからだろう。…ふむ、ならば、神事の後手合せしようか」

 

柳韻先生のその後の言葉に、

 

「良いんですか⁉」

 

と思わず大声を上げてしまう。

 

「もちろんだ。一秋君の成長をこの目で見てみたい」

「是非、お願いします!」

 

 

 

神事を終え、休憩に30分使い、僕は道着を着て道場に来た。

装備は愛用の変形弓に腰に矢筒と短刀。無観客試合だが、そんなのは関係ない。

目の前に立つ僕の師は生身なら『ブリュンヒルデ』である姉さんよりも強い。僕の記憶にある限り、先生は姉さんたちに負けた事は無い。しかも年齢からすると、全盛期は終わっているはずなのにだ。しかし、強い。多分今の僕じゃ、瞬殺だろう。…いや、そんな気じゃ負ける。気持ちで負けたら、勝つチャンスなんてない。勝利は諦めない者に転がりこむ。その気持ちだけは持ち続けないといけない。これが前提条件だ。

 

「ふむ、気概は十分か。では、始めよう。合図は…」

「このタオルを投げますから、それが落ちたらでどうですか?」

「そうしよう。では、投げてくれ」

 

僕がタオルを投げる。丸まっていたタオルが広がり、ひらひら落ちてくる。そして、それが地面に着いた瞬間、

 

「しっ!」

 

僕は瞬時に構え放つ。リーチでは僕が有利だが、柳韻先生ほどの使い手じゃ、弓矢は牽制にしかならない。

 

「ふん!」

 

何事も無いように切り払い、柳韻先生は距離を詰める。

僕は弓を剣に変形させ、受け止める。

 

「ぐっ…」

 

その一撃が速く重い。速さなら姉さんたちと同じくらいだろう。だが、男女の筋力差、体重差で柳韻先生の一撃は比べものにならない位重い。

そしてこれは剣道じゃない。僕の勘がここは危険だと知らせる。

思い切り後ろに跳び、距離を開く。刹那、僕のいた空間に柳韻先生の前蹴りが襲い掛かった。

 

「ふむ、避けるか…」

「何とかです。ここ何か月かのいろんな人との戦いの経験が役に立ちました」

 

多分、数か月前の僕ならここで終わっていた。

 

「では、第二ラウンドといこう」

 

 

 

手合せが始まって15分位経っただろうか。僕は、

 

「はあ…はあ…」

 

既に息が上がり、滝のような汗をかいている。普段なら、そう簡単に息切れをしない様に鍛えているが、柳韻先生の重圧でいつもの何倍、何十倍の早さで体力が削られていく。

プレッシャーは今まで戦ってきた、福音や楯無さん、ミシェルさんや姉さん達よりも重い。

それで、攻撃に精彩を欠き、さっきから防御一辺倒になっている。避けるのも減ってきて武器で受けざる負えない攻撃が増えてきた。圧倒的な劣勢だ。

一方の柳韻先生はまだまだ余力を残している。

でも、諦めない。諦めてたまるか! 勝つための方法を常に考え続けろ!

僕は残っている矢を連射し、距離を取る。当たらないのも織り込み済みだ。

そして、いつかの箒ちゃんとの一戦でやったように短刀を投げる。

 

「甘い!」

 

流石柳韻先生、それもあっさり防ぐ。

けど、僕は足元にあった矢を、足の指で挟み、それを柳韻先生に向けて放つ。放つと同時に踏み込む。

結果は…

 

「うむ、見事」

「はは…ありがとうございます」

 

柳韻先生の喉元に変形した剣を突き付けている僕。

僕は勝つことが出来た。

一気に疲れが体を襲い、僕は座り込む。

 

「初段の、短刀の投げは読めたが、二段目の矢を足の指で挟んで飛ばすのは流石に読めなかったよ」

「最初のだけじゃ、無理だと思って、咄嗟に閃いた方法でやってみたんですよ。勝ちたくて考えた結果です」

 

ちなみにこの着想は子どもの頃にやった靴飛ばしだったりする。我ながら変な所から技を思いつくものだ。

 

「やはり、頭を使って戦う事に関しては一秋君が一番か」

「どういう事ですか?」

「君たち兄弟の中で、一秋君が一番身体能力的に劣るが、君にはそれを補うだけの頭の回転と閃きがある。その部分を私は教えられないが、見事に開花させているようで、嬉しいよ」

 

技術の差を補うために考える。それは昔、武術を習い始めたころからしてきた事だ。そうしないと中々勝てなかったから。

剣弓術を選んだ事で、戦いの選択肢が増えて一瞬の判断力が剣術よりも必要になった。

書物だけの剣弓術を学ぶ内に、色々な所から技を編み出すようになった。

それらは姉さんたちにない僕の『力』だった。実感はなかったけど。

 

「…今度は奇策ではなく、普通に勝ちます」

「その向上心の高さこそ、君の本当の強さかもしれないな。これは、私も負けていられない」

 

と柳韻先生と話していると拍手が聞こえた何かと見てみると、シャルロットや姉さんたち、IS学園の皆が居た。何時の間に? 集中していて気付かんだ。

 

「秋君、お疲れ様。まさか、柳韻先生に勝つなんてね。はい、お水」

「ありがと、春姉。いつから見てたの?」

 

僕は差し出された水を受け取って、それを一口飲んでから春姉にそう聞いた。

 

「私達は結構序盤からよ。ね?」

「そうだな。シャルロットや姉さんとお前を探していたら、道場から音が聞こえてな。…一秋が先に柳韻先生に勝つとはな。私達もまだまだ精進が足らんな」

「そうね。今日のを見ると楯無ちゃんの試合での呼び込みの『変幻自在のトリックスター』はぴったりね。誰もあれは予測しなかったわよ」

「隙を作れば勝てる。隙を作るには集中を途切らせる。そのためには意表を突く。が僕の考えだからね」

「私も姉さんもその辺は感覚でやっているからな」

「僕の場合、あの手この手を使ってやっと勝てるって感じだからね。自然とそれが出来るようになったんだよ」

 

真っ向から自分の実力のみで相手を打ち破れるほど僕は強くない。でも負けたくない。だからこそ考える。

今思うと僕の原点は『負けたくない』この一言に尽きる。

 

「お疲れ様、一秋。その…かっこよかったよ」

 

入口から、こっちに近付いてきてそういうシャルロット。

 

「ありがとう、シャルロット。…あー疲れた。柳韻先生、ちょっと道場で寝てても良いですか?」

「構わないよ。ここは冷房無しでもそこそこ涼しいからね。…彼女が一秋君の彼女かい?」

「そうです。見られているのが分かってたら、もっと頑張ったと思うんですけどねー」

「私も月子に見られていたら、120%の力で相手が出来るのだがな」

 

男って簡単なんです。好きな人に見られてるだけで、カッコを付けたいんです。僕も先生も根っこは単純な男なんです。

 

「先生、月子さんが呼んでいましたよ。雪子さんと母屋の方に居るんじゃないですか」

「そうか、すまないね。では、私は先に失礼するよ」

 

そう言って柳韻先生は道場を後にした。

 

「相変わらずラブラブだね~、先生達。私達も席を外すわ。二人でゆっくりしてね」

「不純異性交遊だけはやめておけよ」

 

姉さん達も道場を出ていく。…ていうか、冬姉最後に何を言ってるのさ!

 

「「………」」

 

ほら、何ともいえない空気になったじゃん!

 

「ねえ、一秋」

 

僕のそばに座って、話しかけるシャルロット。

 

「ん、何?」

「一秋はいつからここに来てるの?」

「何時からだろ? 物心付いた時から姉さん達がここで修行してたから、小学校に入る前から毎日のようにここで遊んでたからなあ。ある意味もう一つの家みたいな物だよ」

 

言ってしまえば、僕達の原点。姉さん達のブリュンヒルデ、世界最強の始まりの場所。僕にとっては夢を決めた場所。

 

「ここが今の一秋を作った場所なんだね」

「そうなるね。夏になると風通しも良いし、よくここで昼寝したよ」

「それじゃ、今から同じことする?」

「そうだね。夜の祭りまでは休みたいし」

 

そう言って僕は大の字で寝ころんだ。畳の感触とい草の香りが懐かしい。

 

「それじゃ、僕も」

 

僕の腕の中で横になるシャルロット。

 

「つーか、汗臭くない? 結構汗かいてたけど」

「僕は気にならないよ。むしろ好きかな? なんていうか、落ち着く」

「…シャルロットって匂いフェチ?」

「違うと思うよ。多分だけど、一緒に寝てる時に嗅いでるからじゃないかな?」

 

なるほど、寝てる時、つまりは一番リラックスしてる時に嗅いでる匂いだからなのだと思う。

 

「まあ、シャルロットが気にならないならいいか。…眠くなってきた」

「ここ、過ごしやすいから僕も少し眠いよ。…寝ちゃおっか」

「そうだね」

 

結局僕達はこの後姉さん達が来るまでの数時間二人で昼寝をしていた。

その時、最近一緒に寝ている事がばれるという墓穴を掘ったけど、まあ、シャルロットの恥ずかしがっている顔も見れたし、別にいいかな。




まさかの生身の戦闘。そして、ある意味少年誌的展開である師匠とのバトルでした。

色々ISの二次創作を読んだ時、一夏や、篠ノ之流を学んだ人が、師匠である柳韻と手合せしているのってあんまり見た事無いなと思い書きました。
師匠越えって良いじゃないですか。


次回は夏祭り回を予定しています。デート回なので甘いお話にするつもりです。
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