作 「八雲も一部で『次元世界最強』って呼ばれてるんだよ」
八 「まあ、それは、何年も前に返上したもので、今はどこにでもいる喫茶店のマスターですよ?」
作 「お前のような、喫茶店のマスターが居るか!」
八 「ここに居ますよ?」
秋 「あははは……」
第四十五話始まります。
八雲さんの作ったお菓子を食べた後、僕達は何故かIS学園の武道場にやって来ていた。と言っても僕達や部活で使っていた部員はちょっと離れた所からの見学だ。今回のメインは冬姉と八雲さん。
こんなことになった切っ掛けは食べ終わった後の冬姉が八雲さんに言った一言、
「食後の運動として戦ってくれないか? 相当の実力者と見受けるが」
からだった。身のこなしで武道をやっているのはなんとなくやってるのは分かったけど、実力までは分からない。でも、冬姉がそう言うのだ、かなりの物なんだろう。
「ねえ、春姉」
「何かしら?」
「八雲さん、強いの?」
「強いわよ。はっきりとは言い切れないけど、多分、生身なら私や千冬ちゃんよりも強いわ。ひょっとしたら柳韻先生よりもね」
「「ええっ⁉」」
その言葉に僕とシャルロットは驚きを隠せない。
それも当然だろう。姉さん達はISで世界最強であり、生身でも僕の想像の出来ない位のレベルにいるし、師である柳韻先生はそれ以上の実力を持っている。それはこの前の一件でシャルロットも知っている。
一方で今までの八雲さんのイメージは『近所の優しいお兄さん』って感じで、どうも強いというイメージが出来ない。
「お待たせしました」
更衣室で動きやすい服、身長的と同じくらいの僕のジャージに着替えた八雲さんがやって来た。
ちなみに、身長的には若干僕の方が高い。
手には一本の木刀を持っている。
「いや、私が頼んだ事だ。気にしなくてもいい」
「そうですか。……いやー、有名な『ブリュンヒルデ』と戦えるとは、光栄ですよ」
「…あんまりその名前は好きじゃないんだがな」
「まあ、その感じは分からなくないですよ。さあ、始めましょうか」
「そうだな。姉さん、審判を頼む」
「分かったわ。何でもありの一本勝負、どちらかが気を失うか、降参するまで続きます。……始め!」
春姉の開始の合図で構える、二人。中段で構える姉さんと右肩に木刀を置いたあくまで自然体の構えの八雲さん。剣道の五行の構えから言うと八双の構えが一番近いかな?
数瞬の様子見の後、先に動いたのは姉さん。一気に近寄り、横薙ぎ一閃。
しかし、八雲さんは半歩下がるだけの最低限の動きで避ける。これだけで、春姉の言葉の意味を理解する。八雲さんは強い。あんなに綺麗に冬姉の攻撃を避けるなんて並大抵の実力じゃ出来ない。
そして、そんな実力の持ち主だ。攻撃のチャンスを逃さない。踏み込み、攻撃に移る。構えからだと袈裟切り。姉さんもそれを読んでいるから、それを避ける。しかし次の瞬間、
「「「「「なっ⁉」」」」」
この模擬戦を見ていた全員が驚く行動を八雲さんは取った。それは自分から剣を離す。いや、投げる。振り切った反動を使って八雲さんの木刀は八雲さんの背中を飛んでいる。
それで作った隙に八雲さんは冬姉に拳を叩きこむ。
「くっ!」
急所こそ外したけど、ダメージはあるはずだ。八雲さんは、それを逃さない。
「まだまだですよ?」
放り投げていた木刀は狙った様に八雲さんの手に。いや、多分狙っているんだろう。ここまで来ると曲芸だ。
そのまま追撃に入る。胴体を軸に袈裟切りからその反動で体を回転させてその勢いで浴びせ蹴りに近い蹴り。この連携をを連続で行う。
……僕自身相手の意表を突くのはよくやってるけど、アレは流石に出来ない。バランス感覚なんかは完全に天性の物だろう。
「……すごい」
見ていた誰かがそう呟いた。いつの間にか、観客が凄く増えている。代表候補生の皆、夏兄たちの姿も見える。
冬姉も八雲さんも身体能力が無茶苦茶なので、マンガの中のような戦いになってきている。
だって、冬姉が壁に追い込まれたと思ったら、その冬姉が壁を使って三角跳びをして、脱出したり、冬姉の横薙ぎを避けたと跳んで避けて、その木刀の上に乗る八雲さんとか。
……正直、自分の目を疑いたくなるレベルの戦いが繰り広げられている。
そんな戦いも終わりが近付いている。ほぼ、ずっと激しい攻防をしていた二人が同時に距離を取った。
肩で息をしている冬姉と、息が若干上がっている程度の八雲さん。どちらが優勢かは一目瞭然。
冬姉が春姉や柳韻先生以外に苦戦するとは思ってはいなかった。
「……やはり、世界は広いな。自分の実力に自信はあったが、それを超えていく人間に会えるとは」
「あはは、お褒めに預かり光栄ですよ。僕自身、ここまで来るのに10年以上は努力しましたから」
「才能と言われるより今までの自分の努力を否定されるみたいで何倍も辛いな。だが、お蔭でまだまだ自分を伸ばせる事が分かった。感謝する」
「大した事じゃありませんよ。それに気付けたのは織斑さん自身ですし。……確かに才能は神様や親がくれた贈り物で大事な物ですけど、それを生かすも殺すも自分次第だと思います。努力をした人間が絶対強くなる、成功するとは言いませんが、強い人間、成功した人間はすべからく自分から凄い努力をしています。そうでしょ? 織斑さん」
「そうだな。少なくとも私は第一回のモンド・グロッソでブリュンヒルデになったが、その前もその後も変わらず努力を続けた。楽観できるようなタイプではないし、そばにライバルが居たのでな」
「なるほど、お姉さんですね。そう考えると、ここは良い環境ですね。そばに同じ目標のために
同じ道を歩み、切磋琢磨していくライバルがたくさんいて、目標にすべき人間もいる。そう簡単に作れるものじゃないですよ」
八雲さんの言葉に僕はなるほどと思った。目から鱗とはこういう事か。
努力するというのはそこまで難しくないと思うけど、努力をし続けるというのは結構難しい。基本的に人間って、楽な事を望むものだと思うから。
その努力を続けるためにはどうすればいいか。いくつか方法はあると思う。
1つはライバルを見つけて競い合う事。
競い合う事で負けた方は「次は勝つぞ」と、勝った方は「次も勝つぞ」と努力をする。勝敗という『結果』が目に見えるから、努力のやる気が出ると思う。
1つは目標を定める事。
目標無しで努力をするのは、真っ暗な所を灯りなしで歩くようなものだと思う。
この目標を夢と置き換えて『国家代表になる』少し小さくして『専用機持ちになる』こんな感じの大きなものを決めるのも良しだし、一里塚みたいに、『この機動をこなせるようにする』『ライバルに勝つ』みたいな小さなもの目標を定めを少しずつ超えていくのも良しだと思う。
……そう考えると、この島の全寮制の学校は凄く恵まれた環境に思う。でも、どうして八雲さんはそんな事をわざわざ言ったんだろう?
「まあ、話はこの辺にして決着を着けましょうか」
「そうだな」
冬姉の言葉を最後にして、二人は口を閉じる。と同時に、空気が張り詰める。音は道場の外で泣いているセミの鳴き声のみ。
二人の集中力が見ているこっちまで伝わって来るかのようだ。
その時は一瞬にして崩れる。お互いのトップスピードでの激突の末、膝を着いたのは……冬姉だった。正直、一瞬で決着が着いたので、その過程が分からなかった。離れてみていたのにだ。周りを見ると皆同じ感じの様だ。
「……凄いわね」
そう呟いたのは春姉。春姉には見えていたみたいだ。
「流石はパパです。あんな方法で決めるなんて」
見えていたのはもう一人いた。それは八雲さんの娘さんの一人、咲耶ちゃん。
「……咲耶ちゃん、見えていたの?」
「はい、シャルロットさん。ギリギリ、何とかですけど」
「凄いね」
「いえいえ、パパは私の師匠ですから、動きを見慣れているだけですよ~」
そう言えば、八雲さんは咲耶ちゃんやその友達に格闘技を教えているって言ってったな。
「じゃあ、私と答え合わせしましょうか?」
「はい! よろしくお願いします、千春さん!」
「こちらこそ。八雲さんがやったのは、ズバリ、緩急ね」
「はい、私にもそう見えました。それで、タイミングをずらして、パパは千冬さんに攻撃を当てたのだと思います」
緩急。タイミングを外す方法として一番シンプルで、それでいて結構厄介な方法。
「でもさ、それなら、見てて僕らが気付きそうだし、鋭い冬姉も気付きそうだよ?」
仮に緩→急だった場合、鋭い冬姉は絶対気付く。逆に急→緩の場合、見ている僕達が気付くはずだ。
「その通りだと思います」
「私も同感ね。でも、八雲さんはそれの上を行ったわけよ。トップスピードから、無理やりさらに加速して。そうでしょ?」
「はい。パパはお互いの間合いに入る刹那に一歩だけ120%の速さを出して、千冬さんのタイミングをほんのわずかだけずらさせたんです」
「いや、言葉にすると簡単だけど、そんなの出来ないよ!」
思わず僕はツッコんだ。相手よりわずかに早く踏み込んで攻撃した。これだけなのだが、激突までの1秒未満の時間をさらに削るという選択をする事は多分僕には出来ない。多分、八雲さん以外は選択しないと思う。
「どうしたんだい、一秋君?」
模擬選を終えたばかりの八雲さんが近付いてきた。さっきまでの真剣な感じではなく、いつもの柔らかい雰囲気なので手に持っている木刀とミスマッチだ。
「……どうして、最後の一撃であんな事を?」
「あーそれね。それまでの攻防で大体、君のお姉さんのマックスは把握できたからね。多分、向こうも同じだと思って、それを超える方法として選んだだけさ」
戦って相手の力量が分かる。その感覚は分かる。姉さん達は勘で読み切っちゃうし、僕が最初にIS戦で回避に専念するのもそれが理由だ。
相手の限界が分かるから、どのタイミングで動けば避けれるか、もしくは当てれるかというのがある程度把握できる。
姉さん達の戦いでクリーンヒットが極端に少ないのは、お互いがお互いの力量を完全に理解しあっているからだと僕は思っている。
八雲さんは力量を読みきり、そこから出来る最適な方法を考え、実行した。観察力、思考の速さ、決断力、一つとっても真似できないと思う。
「……凄いですね」
「そうかい? 成功失敗はともかく、これは誰でも出来るさ。自分を信じれれば」
「信じるですか?」
「そう。やって来た努力、磨いた能力、自分の身に着けた色々な力を信じる。過信は駄目だけど、迷いも駄目だからね」
信じる事……か。僕にとっては簡単そうで、難しいと思う。でも、これを自分で消化できれば少し進める気がする。
「良い物を見れて得る物があったと思います。ありがとうございました」
「そうかい? まあ、僕も子供たちに教える先生の真似事をしてるからね。何か得れたのならそれは良かったよ」
「途中の言葉は周りの皆に言ってたみたいですしね」
「やっぱり気付くよね。それもやっぱり先生の真似事をしてるからかな。子供たちに道を示すのが大人の仕事の一つだと思ってるからね。それに先生は『先に生まれた』って書くでしょ? 僕が先に生まれた事で得た考えが誰かの実りになればそれで良いのさ。僕自身が色々な人の教えでこうなったんだから、それを他の人に伝えていく。それがやるべき事だと思うからね。まあ、この辺も娘が出来てからなんだけどね」
……やっぱり、八雲さんは大人だと思う。
僕も周りの事は考えるけど、やっぱりどうしても自分の事を優先してしまう。
だけど、今はそれで良いのかもしれない。どうあがいても今の僕は子供なのだから。何年か後にもう一回考えて、その時に、今の八雲さんみたいな心を持てればいいのだと思う。
そう言えば、大人の男の人でこういう『憧れ』の感情を持ったのは初めてだと思う。
そう言う意味では、僕にとって八雲さんは『憧れ、目標』であり、『父親のような人』になるかな? 歳の差六個しかないけどね。
あ、そうそう、おいしおいしと特製シュークリームは正式にメニューに入りました。ありがとうございます、八雲さん。
もう一、二話挟んで二学期に行こうと思います。