作 「知名度では一番だろうね。後は源為朝かな?」
秋 「すみません、誰ですか?」
作 「知らない? 多分、日本史上最強の男」
秋 「知らないです。じゃあ海外だとどうですか?」
作 「そうだね…。養由基、李広、呂布、夏侯淵、黄忠…中国人ばかりだね。でも、西洋の人は全く 思い浮かばないな」
秋 「僕もです。文化の違いなんですかね?」
第五話始まります。
授業が終わり放課後、僕は学園の映像管理室に来ていた。
ここは文字通り、ISに関する映像を管理、保管する部屋である。
IS学園の中で生徒たちが自ら確認の為に取った映像から、世界各国の最新ISの公開試験の映像まで色々な映像が保存されている。
「さて、オルコットさんの映像は…っと、これか。とりあえず、ダウンロードして夜に観ますか」
これは時間さえ作れば出来る事。夜寝る前でも、朝早く起きてでも、極論を言えば昼休みにでも。
「さて、夏兄と箒ちゃんに合流しますか」
僕はそう呟いて映像管理室を後にして、二人の居る剣道場に向かった。
…はずだったのだが、
「どうしてこうなった…」
僕は思わずそう言ってしまった。
そう言った理由については少し前に時間を戻す。
映像管理室から出て、夏兄と箒ちゃんの居る剣道場に向かって歩いている道中、
「見つけた!」
との大声が。
声の方を見ると、今朝会った生徒会長の更識さんと黒髪ショートの女子生徒が。
何を見つけたのかな、と思っていたら、凄いスピードでこっちに来た。
「織斑君、こんな所にいたのね。ちょっとこっち来て」
「あの、流石に事情を聞かずに付いて行くのはちょっと」
「そうだよ、たっちゃん。理由を話さないと」
「そうだった。織斑君は自己紹介の時に『弓道が特技』って言ったらしいわね」
「言いましたね」
「その話が広がってね。横に居るこの子も観たいって言うから探していてね」
「どうも始めまして、那須陽子です。たっちゃんのクラスメイトで弓道部の副部長をしています」
「はあ、織斑一秋です。よろしくお願いします、那須さん」
「という訳で行くわよ。君の弓の腕を見せてもらうために」
更識さんは強引な人なんだなー。那須さんが普通にしている所を見ると、多分これがデフォルトなんだろう。
そう言う人には逆らわないのが吉だ。今までの経験から言って。
「良いですけど、その前に夏兄達に一緒に特訓できない事を言ってきても良いですか?」
「良いわよ。いっそのこと連れてきちゃいなさい」
「後、用意して欲しい物があるんですけど…」
「ふむふむ、OK。こっちで用意しておくわ」
そんな事があって、僕は今、馬術部に来ています。
弓+馬=流鏑馬です。
普通に弓の腕を見せるのも良いですけど、それって正直地味じゃないですか? 弓道部の那須さんや武道の覚えのある楯無さんは分かるかもしれないですけど、普通の生徒からしたら凄さが分かりにくいと思うんですよ。
これなら普通にするよりも派手でなおかつ分かりやすいんじゃないかなと思います。
ちなみに流鏑馬は年に一回、篠ノ之神社の神事でやっています。昔は柳韻先生がしていたのですが、ある年にその直前で体調を崩し、代役として引き受けたのが初めてで、箒ちゃんが引っ越した後は毎年それを引き受けています。
ただ、篠ノ之神社の流鏑馬、普通のとは少し違うんです。これは中学に上がって少ししてから知ったんだけど、一般の流鏑馬は的が三つ、的までの距離は5メートルほどらしい。しかし、篠ノ之神社の神事の流鏑馬は的が五つ、距離は五倍の25メートルというすごく難度の高い物になっている。
伝わっている話によるとこの神事、篠ノ之流の開祖、篠ノ之柳蔵が始めたらしい。
この篠ノ之柳蔵という人は武家の次男坊という跡継ぎではないものの、自らの武芸の腕で戦国時代を駆け抜け、出世したが乱世の終わりと共に野に下り、一目惚れした神社の娘と結婚した時代に合わない一生を送った人である。
そんな人が自らの武芸の腕を鈍らせないために行っていたのがこの高難度の流鏑馬という訳なのだ。今思うと、そんな難易度の高い物がこれだけ長く(ざっと400年は続いている)続いたものだと感心する。
その歴史の中でこの流鏑馬の射手を務めたのは篠ノ之の家の人たちだけでなく、僕みたいに篠ノ之流を修める人、果てには別の流派の人だったこともあるらしい。当然老若男女問わずだ。
まあそれはさておき、僕は既に馬上の人になっている。
「にしても、本当にこれ出来るの?」
更識さんがそう聞いてきた。彼女は僕が準備をお願いした時にもそう聞いている。多分、普通の流鏑馬をどこかで見たんだろう。
「大丈夫ですよ。見ててください」
僕はそれだけ言った。更識さんはもう、何も言っても無駄だと思ったのか離れていった。
すると次は、春姉、冬姉、夏兄、箒ちゃんが近付いてきた。
「去年の神事以来だが、大丈夫か?」
「問題無いよ。去年も受験勉強の関係でぶっつけ本番でやったし」
「そうなのか? そういえば、私は一秋の流鏑馬をしている姿は父さんの代役の時しか知らないから、楽しみだな」
「そういやそうだったな。去年は姉さん達が忙しくて俺しか観に行かなかったからなー。でも全射命中だからすげーよ」
「まあ、伊達に小学校の頃から射手を任されていないよ」
「そうねー、あの頃はこんなに小さくて可愛かったのにね」
そう言っておもむろに一枚の紙を取り出す。それは、僕が初めて射手を務めた時に記念で取った写真だった。
「…って、何持ち歩いてんの!?」
今見ると、何か七五三っぽいので恥ずかしい。
「ストレス社会に生きる私達現代人には癒しが必要なのよ。という訳で私は普段から小さい頃の夏君と秋君の写真を持ち歩いています」
「って、俺のも!?」
「私もだ」
「「千冬姉(冬姉)まで!?」」
「束ちゃんはもちろん箒ちゃんの写真を持ち歩いています」
「私もですか!?」
…なんていうか、もう姉には勝てん。武力的な意味でも、立場的な意味でも。
「まあ、いいや。姉さん達、他の人には見せてないよね」
「「ええ(ああ)」」
「なら、別に良いよ。それよりそろそろ始めるから離れて」
僕の言葉で四人が離れる。
「今回だけだけど、よろしくな」
僕は馬の首を撫でながらそう言った。そういや馬の名前聞いてなかったな。でも、気性も穏やかで言う事もよく聞くいい馬だと思う。
集中力を高めていく。走り出したら、終わるまではそのまま集中し続ければならない。
そして、
「はっ!」
掛け声と共に手綱を入れる。僕はその後すぐに弓を構える。
一つ目の的は比較的余裕を持って狙えるがその後がしんどい。
的の間はおおよそ3メートル、馬だと数秒で次の的まで行ってしまう。しかも、馬上なので狙いにくい。しかも、手綱を握っていないのでバランスが取れない。
まあ、色々言ったけど、同じ条件で何百回とこなしてきた事だ。感覚を体が覚えている。後は馬と呼吸を合わせるだけ。人馬一体で臨むだけ。
僕は馬と共に駆け、五本の矢を自分の感覚が知らせるタイミングで放つ。
結果は…成功だった。
止まっていた時間が戻ったかのように、見ていた人たちが拍手をする。
僕は張りつめていた気持ちを一旦落ち着ける。今まで気づかなかったけど、手にじっとり汗をかいていた。どうやら緊張していたらしい。
「ありがとな」
僕は降りてから、少しだけの間の相棒にそう声を掛けて、近くにいた馬術部の人に渡した。
「凄いわね。流鏑馬は何度か見たことがあるけど、あの距離を全射的中させるのはもう神業の域よ」
近くで興奮気味にそう言うのは那須さん。
「いやいや、あれは何百回と繰り返した反復練習の成果ですよ。むしろ、初めて乗る子だったから、馬との呼吸を合わせる方が難しかったですよ」
「そう言う答えが出るだけ、あなたは天才よ」
手放しで僕を褒める那須さん。
正直な所、僕は自分自身を天才だと思った事は今まで一度もない。姉二人は言わずもがな、同じ時期に柳韻先生の元で武道を習っても夏兄の方が強かった。僕は負け越していた。
僕は必死に追いかけた。自分で言うのもなんだけど、僕は負けず嫌いで諦めが悪い。兄や姉たちに追いつき、いつか追い抜くため、そのためにひたすら努力をした。夏兄は中学時代何もしなかったから追い抜いたと思う。でも、夏兄は天才だ。柳韻先生曰く「素養だけなら千冬君に匹敵する」らしい。気を抜く気はさらさらないし、最終目標は僕の二人の姉達だ。
そのためには努力を惜しむ気も無いし、どんな手段でも使う気だ。あっ、どんな手段と言ってもドーピングとかそう言う事じゃなくて、戦い方においてだ。
「ありがとうございます。素直に受け取っておきます。後、時間がある時弓道場を使用しても良いですか?」
「良いけど、弓道部に入らないの?」
「最初は入ろうと思っていたんですけど、僕や夏兄の行く所行く所に女の子達がいるんで弓道部に迷惑かけるかなと思ったんで」
「今日のを見ると、そう思うのは仕方ないね。うん、良いよ」
「ありがとうございます。じゃあ、時間が出来たらお邪魔します」
そう言って、僕は夏兄達の所に行った。
この後一通り箒ちゃんと夏兄を扱いて、その日は終わった。
この日以降、特に大きな出来事は起こらずクラス代表決定戦の日を迎えた。
第五話終わりです。
ちなみに僕が生で流鏑馬を見たのは地元の神社で一度だけです。しかも、かなり子供の頃の事です。
オリキャラの那須陽子は完全に思いつきです。度々出てくるかもしれませんが。
次は代表決定戦。オリジナルISの公開です。