僕のエクストリーム・エイド   作:どぐう

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ㅤかっちゃんよりもデクの方がクソコテ野郎なのではないか、と思えてきた……。一応、永夢のポジションを与えている時点で正義感マシマシクレイジー野郎のつもりではあるのだけれども。

※あらすじの保険云々のくだりを消しました。



BOOM!×2・シューティング(2)

ㅤ出久達は勝己を探すべく、病院の近くを歩き回っていた。ゲーム病に感染していることもあり、そう遠くへは行っていないだろうと彼らは考えていたのだ。しかし、その目算は早々に外れてしまった。病院周辺をいくら探しても、そこに勝己はおらず、ただただ疲労が蓄積されただけであった。

 

「アイツ、めちゃくちゃ早歩きだな……。よくあの状態で歩けてるもんだ」焦凍は嘆息した。

「まぁ、どう見ても丈夫そうだったしね」

「丈夫とかそういうレベルじゃないだろ……」

 

ㅤ焦凍とポッピーピポパポは散歩コースに点在しているベンチの1つに腰掛けていた。一応迅速に勝己を探すべき状況なのだが、出久はともかく2人は既にもうやる気が無かった。いくらゲーム病患者とはいえ自分で倒すと言っているし、それが不可能なほど彼が弱いなんてことはない。見つかれば重畳、という感覚であった。逆に出久の方がお節介なのである。

 

「ゲームエリアに移動しているって可能性は無いかな?」

「有り得るな。それなら……」

 

ㅤ焦凍は立ち上がり、腰にドライバーを巻く。ホルダーのボタンを押して、ゲームエリアを展開する。もしも、ゲームが始まっているのであれば、そのステージに転移されるはずだ。

 

『ステージセレクト!』

 

ㅤ一拍おいて、周りの風景は一変した。緑はさっきよりも割合が増え、石畳は小石ばかりの地面に変わる。目の前には川が流れている。渓谷フィールドなのだろう。

 

「でかした、ポッピーピポパポ。見つけたぞ」

「えっ、ホント!? どこどこ?」ポッピーピポパポは辺りを見渡す。

「そこだ」

 

ㅤ焦凍の指差す先では爆破によるものであろうか。土埃が大量に舞っており、戦闘が行われているであろうことは容易に分かった。

 

「……どうなってんの?」

「とにかく近くで様子を見よう」

 

ㅤ彼は川を個性で凍らせ、そのまま突っ切る。続こうとしたポッピーピポパポは滑って転びそうになり、そのまま尻餅をついた。

 

「ピヨる……」彼女はもぞもぞと起き上がる。

「おい、大丈夫か?」

「うん……。氷ってつるつるするんだね……。私、知らなかった」

「それは覚えておいた方がいいな。割と氷はつるつるしている」真面目な顔で焦凍はそう返した。

 

ㅤ暫く歩くと、戦闘が行われている場所がはっきり見えてくる。そこでは、リボルバグスターにスナイプ、そしてエグゼイドによる戦いが繰り広げられていた。

ㅤ仁王立ちした勝己が爆破を繰り返す中、出久がガシャコンウェポンでバグスターに攻撃を入れているのが見える。脇からそっと様子を伺っていた彼らだったが、ポッピーピポパポがあることに気づいた。

 

「バクゴーって人の個性って、爆破なんでしょ? でも、何でリボルも爆破してるんだろう……? そんなのバンバンシューティングのキャラ設定に無かったはずなのに……」

 

ㅤ彼女の言う通り、土埃が舞う理由は勝己からだけではなかった。リボルからも爆風が生み出されていたのだ。

 

「もしかしたら、バグスターには宿主の個性をも乗っ取る特性があるのかもしれない。今まで俺たちに分からなかっただけで。でも、そうなると厄介だな……」

 

ㅤ今までCRに来た患者は、発現前や無個性、それか戦闘向きではない個性であった。故に個性をコピーされていることが分からなかったのだろう、と焦凍は結論付けていた。

ㅤ実際のところ、彼の推論は正しかった。今までのどのバグスターも患者の意識や身体だけでなく、個性までもを奪っていたのだ。そこには、バグスターを撒き散らしている黒幕の"個性を奪う"という思惑を感じ取る事ができた。

 

「でもさでもさ、なんかリボル強すぎない? ライダー2人がかりで苦戦するって中々無いよ」

「……いや、よく見てみろ。緑谷の攻撃が全く通ってない」

 

ㅤ彼の指摘の通り、出久がリボルに当てている攻撃の判定は全て"MISS"となっていた。

 

「ホントだ! 何で!?」

「緑谷がストレス源だからだ」答えは簡潔だった。「アイツが攻撃すればするほど、爆豪は弱ってバグスターが強化される。多分、立ってるだけでやっとなんだろう。そうじゃなきゃ、爆豪の奴がもっと暴れない訳が無い」

「それって、イズクは全然役に立ってないじゃん……。本人、気づいてないのかな」ポッピーピポパポは首を傾げた。

「気づいてないんだろうな」

 

ㅤそんな話をしている間に、出久がキメワザを発動してしまう。攻撃が効いていない以上、それは不発に終わる。

ㅤ傷一つ無いリボルとは反対に、勝己の容態は悪化していた。彼は呻き声を上げ、身体をくの字に折り曲げた。そして、透明人間の個性のように身体が向こう側の風景を写し始める。消滅が近づいているのだ。

 

「マズい!」

 

ㅤそれを見て、焦凍は勝己のもとへ走った。勝己のドライバーのガシャットを抜き、ゲームエリアから離脱させる。

 

「轟くん! ?」

「緑谷! お前も離脱しろ!」

 

ㅤ急に現れた焦凍の勢いに呑まれ、出久は言われるままにガシャットを抜いた。『ガッシューン』という音声と共に、出久の姿が消える。それを確認すると、焦凍は持っていた2つのガシャットを起動した。

 

『タドルクエスト!』

『ジェットコンバット!』

 

ㅤブレイブのスーツにアーマーが装着され、腰にはガトリング砲が装備される。

ㅤ焦凍が早々にレベルアップした理由は幾つかあったが、その1つにこのガシャットを使用した形態に飛行機能がついていることだった。彼はリボルの爆破可能範囲外から爆撃すべく、飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

ㅤ一方で、勝己と出久は現実世界へと引き戻されていた。ゲームエリアと現実世界との間に差異は殆ど無い。視覚的情報のみが変化を知らせていた。

 

「かっちゃん! 大丈夫!?」出久は、側で転がっている勝己を揺り起こす。

 

ㅤ勝己の身体にはノイズが走っていて、ゲーム病の症状が進行していることは容易に見て取れる。それでも、彼の目はしっかりと見開かれており、出久を睨んでいた。

 

「……ヒーローごっこにかこつけて、俺を殺せて満足か? デク」

 

ㅤ想定を超えた言葉に思わずたじろぐ。出久にしてみれば、ただ幼馴染を救いたいだけだ。それなのに、何故そのようなことを言われているのか。彼には皆目見当がつかなかった。

ㅤそんな出久に勝己は更に言葉を重ねた。

 

「……やっぱりテメェは人の気持ちなんか、1つも分かってねぇんだな。そうじゃなきゃ、平気な顔で俺の前に居られねぇよ」

「……なに? なに、言ってるの……?」

「助けなんか必要ねぇって言ってんだよ!」叫びに呼応するように、勝己の手から爆破が起きる。「俺の人生に……デク、お前は要らねぇ!」

 

ㅤ勝己は拳を振りかざす。しかし、それは弱々しいものであった。

 

「……それなら、なんで。……なんで――」出久は彼の手をはたき落とした。

「――君は、助けを求めてる顔をするんだよ!?」

 

ㅤそして、自分がされたのと同じように出久は、勝己を殴りつけた。喧嘩慣れしていない人間の殴り方ではあったが、勝己は避けることが出来ずにもろに食らう。

 

「……クソデクが知った様にほざくな! 死ねぇ!」

 

ㅤ負けじと勝己も出久を殴り返し、馬乗りになる。マウントを取った彼は、何発も出久にへと打ち込む。

 

「かっちゃんだって、僕の気持ちが分かってない癖に! バカヤロウ!」

 

ㅤ普段なら怯えてしまうような状況だが、頭に血が上った出久は痛みや恐怖も薄れていた。故に、彼は勝己に怒鳴り返したどころか、的確に膝で股間を狙う。立場は一転、のたうち回る勝己を出久は容赦なく殴り倒す。

ㅤ勝己もやられたままで終わる訳はなく、爆破を起こして距離を取った。だが、出久は諦めずに立ち向かってくる。

ㅤ昔ならあり得なかった、泥仕合がそこにはあった。

 

ㅤ思いがけなく始まってしまった口汚い罵り合いと乱闘は、様子を見にポッピーピポパポがゲームエリアから戻ってくるまで続いていた。

 

 

 

 

 

 

ㅤリボルバグスターを倒し終えた焦凍は変身を解き、ゲームエリアを離脱した。出久やポッピーピポパポを探そうと歩き始めた時、彼はある人物に声を掛けられる。

 

「やぁ、焦凍くん」

「檀黎斗……!」

 

ㅤスーツ姿の黎斗が、街路樹に凭れてヒラヒラと手を振っていた。その姿を見て、焦凍は端正な顔を歪める。彼に詰め寄り、言葉をまくし立てた。

 

「何故、爆豪に適合手術のことを教えなかった? お前のことだ、緑谷とのことも分かっていたんだろう。まさか、消滅させるつもりでいたのか?」

 

ㅤ黎斗はただただ、それを聞いてニヤニヤと笑っていた。

 

「何がおかしい?」焦凍の声は棘を含んでいた。

「そりゃあ、おかしいさ」黎斗はくつくつと笑う。「私の計画を見て見ぬ振りしている君が、今更ヒーロー気取りとはね」

「……言いたいことはそれだけか?」

 

ㅤ焦凍と黎斗の周りを包む空気が急激に冷え始める。しかし、黎斗は平然な顔をしていた。

 

「別にここで私を殺すのは君の勝手だ。だが、私が死ねば、消滅した君の母親はずっと戻らないままだ」

 

ㅤそう告げられた途端、周囲の温度は元へ戻る。けれども、焦凍の顔は真っ青になっていた。

ㅤ実は、焦凍の母親はゲーム病を患って8年前に消滅していた。母の死以来、焦凍はヒーローへの気力を失ってしまう。父親にも今まで以上にに反発し、無我夢中でゲーム病の原因を探っていたときに檀黎斗は接触してきたのであった。

 

ㅤ黎斗は、焦凍に自分こそが消滅者を生み出している張本人だと告げた。その上で、母親を蘇らせる手段としてライダーになることを勧めた。これは黎斗の親切心ではなく、CR設立の為にヒーロー事務所の資本を入れたかったからなのである。

ㅤNo.1ヒーローを擁する事務所が金を出せば、他の事務所もその後に続いてくると彼は踏んでおり、その予想は見事に当たった。

 

「……」ぎりり、と歯の噛み合う音がする程強く、焦凍は唇を噛む。

「そうなることは私にとっても不本意なことだ。子が母を思う心には、私にも共感すべき部分があるからね」

「見え透いた嘘を吐くんだな。情なんてない癖に」

 

ㅤ焦凍は黎斗を睨み、そう吐き捨てる。黎斗に共感されることがあるだなんて、考えるだけでも腹が立った。

 

「少なくとも。焦凍くん、君よりはあるつもりだ。君がヒーローの卵だったころ、人々を苦しめていた……そう、敵連合だったね。その中心格の男を消滅させたのは何を隠そう、私だ」

「やはり、バグスターに個性を奪う個性を利用していたのか……」

 

ㅤ敵連合。それは過去に存在した、現代社会の在り方に異を唱える者たちの集団だった。かつてのNo.1ヒーロー・オールマイトを始めとして、数々の人間が彼らを警戒していたが、ある日敵連合は忽然と姿を消してしまった。正確には、彼らの軸である「オール・フォー・ワン」を失った為に、組織は瓦解してしまったのである。

ㅤ最初こそ、何か大きな陰謀の序章なのではないか、と噂された。しかし、懸念をよそに人々を脅かすような出来事は1つも起こらなかった。どこか不完全燃焼のまま、巨悪のヴィランの存在は無くなったことになってしまったのである。

 

ㅤ黎斗はそれに答えないまま、自らに酔いしれるかの如く両手を広げた。そして、諳んじるように語り始める。

「人間は進化した結果、"個性"を手に入れた。喜ばしきことだ。だが、人々は己の個性に胡座をかいて、ただ生きているだけ。それではいけない。私は、ただそのことを気づかせたいだけなのさ」

「その為なら、人を殺しても構わないと?」

「多少の犠牲は仕方ない。そんな些細な問題の為に、私の神の才能が十全に使われないなんてことはあってはならない」

 

ㅤ何を言っても、黎斗に人の道が通じることは無い。焦凍は煮え繰り返りそうな己の感情に、何とか蓋をする。結局、黎斗に与している焦凍自身も、同じ穴の貉ではあるのだから……。

 

 

 

 




ㅤかっちゃん回のつもりが、焦凍に割いてしまった。まぁ、今回ゲーム病患者だったので、次回以降カッコいい爆豪勝己を書きたいと思います。今回でデクと電撃和解してしまうと、今までの確執は何だったんやってなっちゃうので、暫くギスギスライダーズだと思う。
ㅤ今はエグゼイド本編で言う「永夢の秘密編」に入りかけ……くらいのところなので、これから話が進んでいくのではと。ヒーローは曇らせてナンボなので、靖子にゃんばりに曇らせたいと思います(決意表明)。

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