アルベルト・フォン・ライヘンバッハ自叙伝   作:富川

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壮年期・沈黙従甥の帰還(宇宙暦778年6月27日~宇宙暦778年10月25日)

 宇宙暦七七八年二月一二日のドルトムント星域会戦は同盟軍と帝国軍のノルトライン方面における戦いの転換点になった。将来の正規艦隊司令官と確実視されていた第二艦隊第三分艦隊司令官カジェタノ・アラルコン宇宙軍少将とその司令部を失ったことは第二艦隊に少なくない衝撃を与え、その軍事行動を消極的にさせた。アラルコン少将敗死の背景には同盟軍全体に蔓延する弱体化した帝国軍に対する慢心があると考えたのだ。

 

 第二次ティアマト以来、同盟軍と帝国軍が分艦隊レベルで衝突した回数は一〇〇〇回を優に超す。しかしながらその中で帝国軍側が同盟軍を討ち破ったと明確に言えるのは二八二回に過ぎず、その大半はエドマンド・フォン・ゾンネンフェルス、エーヴァルト・フォン・ゾンネンフェルス、エドマンド・フォン・シュタインホフ、ハンス・アウレール・フォン・グデーリアン、グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ、ミヒャエル・ジギスムント・フォン・カイザーリング、クルト・フォン・シュタイエルマルクら「常連」によって占められている。

 

 ノルトライン方面を預かる指揮官の中に「常連」やそれに準ずる一線級の指揮官は居ない。アルベルト・フォン・ライヘンバッハは回廊戦役の一時期に脚光を浴びた提督だが政変絡みで長らく一線を退いていた。率いる兵も寄せ集めであり、練度も装備もバラバラだ。この程度の部隊にアラルコン宇宙軍少将が討ち取られるのは全くの想定外だっただろう。討ち取った側のノルトライン派遣艦隊司令部も想定していなかったのだから間違いない。

 

 カジェタノ・アラルコン宇宙軍少将の敗因はその戦歴と能力だろうか。彼は常に指揮官先頭を旨とする勇将であった。その原動力は勇気というより自身の能力と天運に対する強烈な自負だったと推察される。マーロヴィア星域で警備部隊が壊滅した際、彼の乗る艦だけは無傷で生還した。惑星エガリテの第八三戦隊司令部ビルが爆弾テロに遭った際、生体認証システムの不調でたまたま入り口に足止めされた彼は無傷だった。第一〇艦隊の駆逐艦リューカスⅩが事故で爆沈した際、彼は意識を失っていたがいくつかの偶然で低酸素状態を逃れ軽傷で生き延びた。指揮官になってからもこのような例は枚挙に暇がない。

 

 海賊や分離主義組織、帝国軍の砲撃は何故かアラルコン少将の旗艦を避けた。アラルコン少将が一光秒進めば敵は一光秒退いた。アラルコン少将は常に死地にあって生き延び、武功を挙げ続けていた。いくつもの戦いで生き残れて「しまった」彼は少しずつ危険に対する感覚が麻痺していた……のかもしれない。実際どうだったのかは分からないが、彼が今までに潜ってきた死線と比較して「ライヘンバッハ程度」あるいは「ノルトライン派遣艦隊程度」が相手と慢心していた可能性はあるし、ラザール・ロボスという新世代の名将の台頭に焦った可能性もある。アラルコン家(ザールラント伯爵家)とノルトライン公爵家の因縁が彼を焦らせた可能性もゼロでは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙暦七七八年六月二七日、ノルトライン派遣艦隊は数度の交戦の末、同盟軍第二艦隊をデルシュテット星系に押し込むことに成功する。攻撃の主軸となっていた第三分艦隊を欠き、残る分艦隊も第三分艦隊の損害を受け慎重になっていたことがその原因だ。

 

「ファイエル!」

『ファイア!』

 

 ガス惑星であるデルシュテット星系第六惑星の第三衛星軌道上に布陣した第二艦隊と第一一衛星に布陣したノルトライン派遣艦隊の戦いは極めて凡庸な遠距離砲戦に終始した。尤も、第六惑星デルシュテット六の周囲には多くの岩石や氷、小惑星が存在しており、双方がその地形を活かし別動隊を向かわせようと試みていた。しかしながらアラルコンを欠いた第二艦隊と勢いに乗るノルトライン派遣艦隊の力量はほぼ拮抗しており、互いが互いの別動隊に適切に対応したため、戦況はまさに千日手の様相を呈していた。

 

 その中で活躍したのはやはりラザール・ロボスとルーブレヒト・ハウサーの二人だろう。双方が指揮する別動隊は上級司令部の指示を得た上でさらに独自の判断で変化自在に動きを変える。帝国軍は臨時に増強された二個戦隊半で構成されるハウサー分遣隊を、同盟軍はロボス子飼いのコーネフ准将が率いる分遣隊を切り札として投じたが、ハウサー分遣隊は練度の低さが指揮官の足を引っ張り、コーネフ分遣隊はロボスがその他の第二分艦隊の指揮にリソースを割かれている関係で僅かに精彩を欠いていた。結果としてハウサー分遣隊とコーネフ分遣隊の双方が千日手を打ち破るに足る戦果を挙げることは出来なかった。

 

 戦況が動いたのは月が変わって七月八日である。その情報を聞いた第二艦隊司令官エドワード・ルーサー・フェルナンデス宇宙軍中将は敗北を悟った。

 

「ヤヴァンハール基地が帝国軍の襲撃を受けて壊滅しただと!?馬鹿な!その情報は確かなのか!?」

 

 フライブルク星系第三惑星ヤヴァンハールにはノルトライン方面で活動する同盟軍の兵站基地がおかれている。勿論、補給路への攻撃は同盟軍も警戒する所であり、一個独立分艦隊を中核とする任務部隊がヤヴァンハール=デルシュテット間の補給線警備に従事していた。ボルゾルン星系を中心とする現在の前線から補給線が離れている事を考えれば十分な戦力である。

 

 私たちの付け入る隙がそこにあった。私からの支援要請を受けたバッセンハイム大将は大胆にも麾下の中核戦力であるウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ宇宙軍中将率いる第三独立艦隊を全てヤヴァンハール攻撃に投入した。当初、他の部隊と共にボルゾルン星系を目指して行軍していたメルカッツ艦隊は星系外縁部を掠めるようにして突如として進路を変更、同盟軍の警戒網を圧倒的な戦力差で突破し、短時間の内にフライブルク星系へと到達した。その行軍は疾風の如く……というよりは暴風の如き強引な代物であった。ヤヴァンハール防衛に向かった任務部隊は三倍以上の戦力を有するメルカッツ艦隊を前に完敗し、哀れヤヴァンハール基地は大量の補給物資と共にメルカッツ艦隊に焼き払われることになる。

 

 「戦力に余裕も無いのに、敵勢力圏の奥深くに一個艦隊を堂々と突入させる」という常識外れの用兵に同盟軍の対応も遅れた。過去四度の会戦と同じようにボルゾルン星系へと進軍していた同盟軍三個艦隊は予備部隊と共に慌ててフライブルク星系のメルカッツ艦隊を包囲しようとしたが、包囲網が完成した頃にはメルカッツ艦隊は既にフライブルク星系を離脱していた。

 

「……潮時だな」

 

 フェルナンデス宇宙軍中将率いる第二艦隊は即日デルシュテット星系の放棄を決定する。我々ノルトライン派遣艦隊の追撃を躱しながら撤退する第二艦隊の殿を務めたのはやはりラザール・ロボスであった。ロボスの変化自在の用兵を前にノルトライン派遣艦隊の攻勢は三度に渡って防がれる。ついにはネルフェニッヒ星系において白色槍騎兵艦隊第四分艦隊が第二艦隊第二分艦隊に大敗し、ノルトライン派遣艦隊は第二艦隊追撃を諦めることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 デルシュテット星系第五惑星マキシミリアム、第二艦隊の撤退に伴い、地上部隊もその殆どが撤退した。勿論、ノルトライン派遣艦隊は地上部隊収容作業を妨害しようとしたが、ロボス少将の活躍もあって結局果たせなかったのは先に書いた通りだ。

 

 マキシミリアム中央大陸西部の第九警備艦隊司令部ビルは地上戦が行われた星の軍事拠点とは思えない程綺麗なままであった。地上戦の初期……つまり諸侯連合軍と警備艦隊が第二艦隊に敗北した直後の降下戦時に、地上の帝国軍側が殆ど抵抗らしい抵抗をしなかったからだろう。マキシミリアムにおける地上戦が熾烈化したのはドルトムント星域会戦で帝国軍が勝利した後の話であり、それまでは一部の部隊が散発的に抵抗を続けるだけであった。当然、軍事的要衝である第九警備艦隊司令部ビルが陥落してから長い時間が経った後の話である。故に第九警備艦隊司令部ビルは目立つ汚れも傷も無いままなのだろう。

 

 私は副官のヴィンクラー大尉、司令部付き将校のオークレール地上軍大佐らを引き連れて、奪還したマキシミリアムの第九警備艦隊司令部ビルに入る。

 

「ぐ……このような醜態をお見せして申し訳ありません。閣下……」

「何を言うんだフォーゲル准将。君は充分に戦っただろう。名誉の戦傷を醜態とは言えないね」

 

 第九警備艦隊司令官であり、マキシミリアムで抵抗戦力を指揮していたフォーゲル准将は中央司令室に運び込んだベットの上で全身傷だらけの状態で私たちを出迎えた。特に胸の火傷跡が痛々しい。デルシュテット星系の戦いで重傷を負っていた彼だが、地上に置き去りにされた帝国駐留軍、諸侯連合軍の混乱を治めるべく部隊の掌握に乗り出した。宇宙軍所属の彼に指揮権は無かったが、それでも数にして四個師団程度の部隊が彼の命令に従った。

 

 理由は簡単だ。ノルトライン公爵らが艦隊戦で敗北し逃亡した後、駐留軍はともかくとして、諸侯連合軍の地上部隊を指揮していた貴族将校らの殆どが逃亡した。良心か勇気か不運によって逃亡できなかった数名も実戦経験が殆ど無く、自身が部隊を指揮することに不安を覚えていた。そんな状況においてフォーゲル准将が宇宙軍の所属であることなどは大した問題ではない。置き去りにされた兵士たちと、不安に耐え切れなかった貴族将校たちはフォーゲル准将の指揮を殆ど抵抗なく受け入れた。

 

「……君は」

 

 フォーゲル准将は紫色胸甲騎兵艦隊で陸戦隊の指揮を執っていた経験がある。とはいえ地上戦に関しては素人に近い。だからだろう、フォーゲル准将を補佐していた幕僚の中には地上軍や第九警備艦隊以外に所属する将校もちらほら見られる。その中で私は見知った顔を見つけて歩み寄った。

 

 

「エルンスト!?エルンストじゃないか!無事で良かった……御父上も喜ばれるだろう」

「……」

 

 第二辺境艦隊第一分艦隊所属戦艦カーメルXIX内務長エルンスト・フォン・アイゼナッハ宇宙軍大尉は私の顔を見て僅かに笑みを浮かべながら敬礼した。

 

「一体どうして君がここに居るんだ……?アムリッツァ会戦で行方不明になったと聞いていたが……」

「……」

「アムリッツァ会戦最終盤の撤退戦中に艦橋に被弾したカーメルXIXは艦長以下主要クルーを失った上に敵中に孤立しました。しかしダメージコントロールで艦橋を離れていたアイゼナッハ内務長を臨時の艦長代理とし、友軍との合流を目指しました。距離的に近いのはフォルゲン星系でしたが、敗残兵狩りが行われているのは容易に想像がつきました。そこでアイゼナッハ内務長は後退を焦らず一度惑星クラインゲルトで補給と簡易的な修理を済ませた上で、あえて恒星の活動が不安定な宙域を踏破し、惑星ヤヴァンハールまで辿り着いたのです。その後はヤヴァンハール防衛部隊と共に後退、このデルシュテットに辿り着きました」

 

 黙り込んでいるエルンストに変わって茶髪の青年……と言うよりは大人びた雰囲気の少年がはきはきとした口調で説明する。

 

「ふむ……卿はひょっとして士官候補生かね?」

「は。帝都士官学校二年、ウルリッヒ・ケスラー准尉であります。クラインゲルト子爵領の出身であり、休学の上志願してクラインゲルトの防衛部隊に配属されました。クラインゲルト子爵閣下の命でカーメルXIX航海科に転属し、アイゼナッハ大尉殿と共にデルシュテットまで退いて参りました」

「何だって……」

 

 私は驚きに目を見張る。全く予想もしていなかった出会いであった。

 

「……伯父上。ケスラーは優秀な少年です」

 

 不意にエルンストが口を開く。ケスラーを初めとする周囲の人間たちが一様に驚愕の表情を浮かべる。誰かが「あいつ喋れたのか」と呟いた声も聞こえた。

 

「……そうか。エルンストにそこまで言わせるとはな……。ケスラー准尉。卿の名前は覚えておく。これからも励むことだ」

「は!」

 

 エルンスト・フォン・アイゼナッハは名門アイゼナッハ男爵家当主ハイナー・フォン・アイゼナッハと我が従妹アンドレア・フォン・グリーセンベックの息子である。つまり、エルンストから見て私は従伯父(いとこおじ)にあたる。我が父カール・ハインリヒが自身を慕うハイナーを可愛がっていたこともあって、私もまたアイゼナッハ一門、そしてエルンストとは面識がある。

 

 だからこんなことも知っていたりする。……エルンストが人前で滅多に話さなくなったのはフィリップ・マーロウの影響である。小さい頃はただ無口なだけでは無くたまに気取ったセリフを吐いていた。成長するにつれて恥ずかしくなってきたが、今更無口キャラを止めることも出来ないでいる。葉巻を格好良く吸いたいがどうしても咽る。実は甘党で本当はコーヒーも好きじゃない。幼馴染が恋人であるが、これらの事実を知られている為に頭が上がらない。一方でその幼馴染がエルンストに惚れたきっかけはそんな「マーロウ節」だったりする。勿論エルンスト本人は知らない。

 

「フォーゲル准将、アイゼナッハ大尉を借りるぞ。御父上に連絡をしなくてはな……フォーゲル准将?」

「は、は!承知しました。……その、御父上というのはまさかハイナー・フォン・アイゼナッハ予備役中将閣下でしょうか?」

「ん?そうだが?」

 

 私の答えを聞いてフォーゲル准将の顔色が少し悪くなった。後に聞いた話によると、フォーゲル准将はエルンストを優秀な後方幕僚とは認識しており、またある程度は頼りにはしていたそうだ。しかし、殆ど口を開かず、ケスラーとかいう士官候補生に身振り手振りで指示を出し、そのくせ何故か並の幕僚より遥かに優れた仕事振りを示すエルンストに困惑し、持て余していたらしい。さらに極稀に口を開く際には大抵フォーゲル准将の不手際を指摘する内容であったり、油断を指摘する内容であったり、警戒を促す内容であったりする上に、それらの指摘が正しいことがフォーゲル准将をそれなりに不愉快にさせたという。「アイゼナッハ」という家名を持つことは知っていたものの、かつては伯爵家であったアイゼナッハ家には、分家も多数存在する。まさか本家嫡男がこんな所でこんな事をしているとは思わなかったらしく、割と粗略な扱いをしていたそうだ。

 

 余談だが、アムリッツァ会戦からおよそ二年間に渡ってエルンストの消息がハッキリとしなかったのは本人が積極的に自身の事を話さなかったことが大きい。アイゼナッハ家は男爵家となったとはいえ、建国以来の名門であり、その嫡男が生きていることが分かれば普通はすぐに連絡が行く。エルンストがもう少し自身の存在をアピールしたら、それこそフォーゲル准将なんかは即日アイゼナッハ家に連絡を入れるだろう。後日、実家に戻ったエルンストは呆れ果てた両親と烈火の如く怒った恋人に迎えられたと聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙暦七七八年九月、ノルトライン派遣艦隊は主戦場をロートリンゲン辺境軍管区に移す。同盟軍第二艦隊は当初フライブルク星系第三惑星ヤヴァンハールに踏み止まってこれを迎え撃とうとするが、メルカッツ艦隊による徹底的な基地攻撃で拠点機能が低下していたこともあり、同月下旬ごろにはヤヴァンハール放棄を余儀なくされる。

 

 これに伴い、同盟軍の全方面で戦線の縮小が実施され、地上で泥沼の消耗戦が行われていたランズベルク星系からの撤退も実施された。この際、帝国軍第二作戦総軍は地上部隊を収容する同盟軍第一二艦隊に猛攻を加え、少なくない損害を与えるが、攻め切ることは出来なかった。元々この方面は地上では帝国軍が優位に立っていたものの、宇宙では第一二艦隊が優位に立っていた為、仕方がないともいえる。

 

 一方でさらなる激戦区となったのがヴァンステイド星系である。同星系を突破された場合、アムリッツァ星系などが脅かされ、フォルゲン星系に司令部を置く同盟侵攻軍は窮地に追い込まれる。防衛戦力が増強され、ミュッケンベルガー中将率いる第一打撃艦隊は一度戦線を引き直し、再編に務めている。

 

 戦線の縮小に伴い、同盟軍がボルゾルン星系を確保する戦略的利益は小さくなり、宇宙暦七七八年一〇月二日、同盟軍はボルゾルン星系からの全面撤退を実施する。戦線を縮小した同盟軍はその戦力の過半をフォルゲン星系とヴァンステイド星系に集中させ、ここで帝国軍を迎え撃つ構えを見せていた。

 

 宇宙暦七七八年一〇月二五日、迎撃軍総司令官兼第二作戦総軍司令官ルートヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム宇宙軍上級大将はフォルゲン星系奪還作戦の発動を決定する。イゼルローン方面辺境最大の人口を有し、居住環境と埋蔵資源の双方に恵まれているフォルゲン星系の奪還は帝国軍がロートリンゲン辺境軍管区を再度版図に組みこむために必要不可欠な条件だ。

 

 フォルゲン星系には自由惑星同盟宇宙軍第八艦隊・第一二艦隊が駐留しており、また後方のアムリッツァには第二艦隊・第三艦隊が駐留する。ヴァンステイド星系の第一〇艦隊は恐らく戦力外と見做してよいだろうが、それでも最大四個艦隊を相手取る必要がある。また、同盟本国で新たに第九艦隊の動員が始まったという情報も有り、時間をかければ防衛戦力はさらに強化されるだろう。

 

 帝国迎撃軍は第一作戦総軍から第一打撃艦隊を除いた一万九〇〇〇隻に加え、第二作戦総軍からヴァンステイド・ノルトライン・ランズベルク方面の警戒部隊を抜いた一万六〇〇〇隻、そして黒色槍騎兵艦隊一万二〇〇〇隻の合計四万七〇〇〇隻をフォルゲン星系奪還に投入することを決定する。同盟軍の予想動員艦艇数四万五〇〇〇隻を超すが、第一作戦総軍が疲弊しており、第二作戦総軍が寄せ集めであることや防衛側の有利を踏まえると、数的有利は当てにならないだろう。

 

 ルートヴィヒ皇太子は中央政府と交渉して黒色槍騎兵艦隊の参戦を認めさせたが、それ以上の動員に中央政府は及び腰であった。フォルゲン星系奪還に投入する四万七〇〇〇隻以外で活動している各地の警備部隊や別動隊を合わせれば現在動員している艦艇数は七万隻を超す。帝国中央政府が貴族課税を含まないあらゆる手段を講じた上で財政的に許容可能な動員兵力はおよそ九万隻と試算されているが、これはあくまで限界の話であり、実際は七万隻でもかなり無理をしている。ルートヴィヒ皇太子は中央政府の不協力を批判したが、これらを踏まえると一概に中央政府を「無能である」「怠惰である」と責めることも難しいだろう。

 

 フォルゲン奪還作戦に先立ち、ノルトライン派遣艦隊司令部は解体され、所属していた者たちは元の役職に戻った。私も再び迎撃軍総司令部特務主任参謀兼第二作戦総軍司令部特務主任参謀、つまり政治将校のポジションに戻ることになる。イゼルローン方面辺境を巡る決戦の時は刻一刻と近づいていた。

 

 銀河の歴史がまた一ページ……。

 


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