アルベルト・フォン・ライヘンバッハ自叙伝   作:富川

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壮年期・『帝都防衛第一四号行動計画』(宇宙暦780年10月25日~宇宙暦780年11月12日)

 宇宙暦七八〇年一〇月二五日。この日、私は赤色胸甲騎兵艦隊司令官としての職務を早めに終え、惑星オーディンゲルマニア州メルクリウス市に位置するカルウィナー=ライヘンバッハ子爵邸を訪れた。軍部ライヘンバッハ派による会合に出席するためである。 

 

「……本日の議題に入る前に一つ諸卿に提案がある。先日、セバスティアン・フォン・リューデリッツ退役元帥閣下が亡くなられた。リューデリッツ退役元帥閣下がティアマト以降の帝国軍に多大な貢献をしたことは間違いない。聡明な退役元帥閣下のことだ、ヴァルハラでもその能力に相応しく遇されることは間違いないだろう。そう考えるとあるいは不要なことかもしれないが……我等も閣下の平安を祈り黙祷を捧げようではないか」

 

 私の言葉に反対は無かった。私も含めリューデリッツに対して良い感情を抱いている者はこの場に居なかったが、それはそれとして「死を悼む」というポーズは必要だ。……特に、リューデリッツ伯爵が暗殺されたのではないかと疑う社会秩序維持庁の捜査が開始されているこの状況では。

 

 ゴールデンバウム王朝期の資料が公開された今日でも、「混迷の宇宙暦七八〇年代」における政争の全貌は明らかになっていない。セバスティアン・フォン・リューデリッツ退役元帥の突然死も例外では無く、宇宙暦八一二年に旧社会秩序維持庁職員の私物からリューデリッツ退役元帥の死因を毒物とする確度の高い鑑定資料が発見されており、恐らく暗殺されたのであろうと推測されているが、それ以上の事は何も明らかになっていない。

 

 私がこの本を書いている今では、暗殺の黒幕としていくつかの個人・組織の名前が挙がっている。最有力候補とされているのは勿論ジークマイスター機関だ。しかし、「失脚して完全に過去の人となったリューデリッツを機関が宇宙暦七八〇年に暗殺する意味は無い」「リューデリッツが唱えていた陰謀説に逆に脚光が当たる結果となることが容易に想像がつくし、実際そうなった」等と反論する声も根強い。私としてもジークマイスター機関黒幕説には懐疑的だ。当時のジークマイスター機関はクルトを中心とする共和派とヴェスターラントら分権派のスタンスの違いが表面化しつつあり、リューデリッツ暗殺などを試みている余裕は無かったはずだ。

 

「惜しい方を亡くした」

 

 私は黙祷を終えてそう呟く。……この言葉はポーズでは無い。私にはセバスティアン・フォン・リューデリッツの死を惜しむ理由があった。

 

 セバスティアン・フォン・リューデリッツは在職時から失脚後までジークマイスター機関の調査を一貫して続けていた。私を初めとする重要人物はリューデリッツによって継続的な監視下に置かれていたし、第二次エルザス=ロートリンゲン戦役時にはバッセンハイム提督に対して機関の存在に気を付けるように忠告を与えていたと聞く。そんなリューデリッツだが、近年その言動に僅かな変化が見られた。私を含む数名の将校を売国奴として憎悪するのは変わらなかったが、加えて妙な陰謀論を唱えるようになった。

 

『フェザーンが宗教組織を用いた大規模なスパイ網を構築しております。軍は最早穴だらけだ!内務尚書閣下のお力を是非貸していただきたい。この国の存亡が掛かっているのです!』

『エルザス=ロートリンゲン戦役の序盤、帝国軍は常に後手に回った。何故か?……フェザーンの情報操作だ』

『先の戦役の真の目的は儂の首だ!フェザーンと亡霊共め……儂を失脚させる為だけに叛乱軍と帝国軍を手玉に取りおった!』

 

 彼は半年ほど前から近しい人間にそんな言葉を漏らしていたそうだ。「かつては究極の合理主義者と呼ばれた人が非合理的な陰謀論に取りつかれる姿は見たくありませんでした」と肩を竦めたのは赤色胸甲騎兵艦隊副司令官ゾンネンフェルス宇宙軍中将、「兄上は貴様への憎悪ですっかり冷静さを失ってしまった」と嘆いたのは後備兵副総監リューデリッツ宇宙軍大将である。しかし、我が親友クルト・フォン・シュタイエルマルクの感想は違った。

 

『リューデリッツは僕達と同じ物を追っているのかもしれない。もしフェザーン=地球教による反国家勢力が本当に存在するならば、それは相当昔から帝国軍内に根を張っている組織の筈だ。ジークマイスター機関と目指す物は当然違う、だが事情を深く知らずに利用されている末端の協力者が僕達のソレと重なっている可能性はゼロではない。僕達の協力者の一部が他の組織にも情報を流している気配は察していた。コミューンや戦線は帝国軍内にも少なくないシンパを抱えているから、てっきりその辺りの組織だと思ってたんだけどね』

『リューデリッツはジークマイスター機関を追う過程で別の組織に辿り着いてしまった、しかしそれに気付いていなかったということか?』

『……少し探ってみるよ。リューデリッツと父は政治的に同志の関係にあった。三・二四政変をきっかけに決裂したとはいえ、その縁は完全に切れた訳じゃない。』

 

 セバスティアン・フォン・リューデリッツが急性心不全で他界したのはその会話から五日後であり、クルト・フォン・シュタイエルマルクが『交通事故』で重傷を負うのはその日から一二日後……つまり昨日の事だった。

 

「シュタイエルマルク君の事故は巷ではザルツブルク公爵の差し金だと言われている。軍務省や憲兵総監部、警察総局には捜査を求める平民共が殺到しているそうだ。平民たちはシュタイエルマルク君の受難を我が事のように憤っているようだな」

「シュタイエルマルクはミュッケンベルガーと並ぶ帝国軍の顔、しかもミュッケンベルガーと違って愛想が良いからなぁ。しかも軍人の癖に政治的な発言を忌避せず、ブラッケやリヒターを支持すると言って憚らない。事あるごとに平民を持ち上げ、時には大貴族と事を構えることも辞さない。軍や政府の不祥事が発覚するたびに平民の記者達はこぞってシュタイエルマルク君のコメントを載せる」

「しかし、今回ばかりは私も平民共に同意しますな。状況証拠からザルツブルク公爵の仕業であることは明白だと言うのに、オッペンハイマーにゲルラッハめ……!帝国軍大将、宇宙艦隊副参謀長が襲われたというのに捜査すらやらないとは……!」

 

 会合の場では当然その話も出る。統帥本部総長ファルケルホルン元帥の疑問に兵站輜重副総監アイゼナッハ大将が答えると、宇宙艦隊司令長官たるバッセンハイム元帥が憲兵総監部と社会秩序維持庁への憤りを漏らす。ライヘンバッハ派の重鎮たちにとって、シュタイエルマルク派の旗頭ということになっているクルトの負傷はハッキリ言って他人事だ。しかし現場の人であるバッセンハイム元帥にとってクルトは戦友であり、優秀な部下であるという意識が強い。また、紫色胸甲騎兵艦隊司令官ゼークト大将はクルトを露骨にライバル視していることで知られるが、彼もまたバッセンハイム元帥と同じように憤懣やるかたない様子である。

 

 ゼークト大将が「帯剣貴族と帝国軍のメンツにかけて領地貴族共に報復を」と叫び、ゼークト大将と同じく猪武者タイプのハルバーシュタット大将とブルクミュラー大将が同調する。他の面々も他派閥とは言え正規軍大将を白昼堂々『事故死』させようとするザルツブルク公爵には不快感を覚えており、シュタイエルマルク派と共闘してでもクルトの事故とトラーバッハ問題に関する真相究明を目指す方針で固まりそうだ。

 

(さて、果たして本当にザルツブルク公爵が黒幕なのだろうか……)

 

 リューデリッツの急死と合わせて考えると、私にはどうにも別の勢力が黒幕に思えて仕方ない。そもそもザルツブルク公爵がクルトを暗殺しても何のメリットも無いのだ。確かにクルトはザルツブルク公爵にとって一番面倒臭い対立者だが、クルト一人消しても帯剣貴族全体に漂う反ザルツブルク……反領地貴族の風潮は消えない。むしろ、今こうしてライヘンバッハ派がシュタイエルマルク派との一時的な共闘を決意したように、余計帯剣貴族たちを刺激するはずだ。

 

(やはり地球教か?しかしリューデリッツを消す動機があるのか?リューデリッツの陰謀論を信じる者など殆どいないというのに……)

 

「……御曹司?」

「……ん?どうしたグリーセンベック」

「いえ、心ここに在らず、といったご様子でしたので……」

 

 上座に座る私から見て右側の隣に座るアドルフ・フォン・グリーセンベック宇宙軍上級大将が小声で話しかけてきた。父カール・ハインリヒが参謀長として重用した人物であり、また私の母方の伯父に当たる人物である。ライヘンバッハ一門ではあるが平民から授爵して三〇〇年程の(相対的に)歴史の浅い男爵家の当主である。しかし、ライヘンバッハ派要人の中では私が全面的に信頼する数少ない人物である。

 

 軍部ライヘンバッハ派には大きく分けて三つの系統があるが、その内の一つ、通称『外様衆』――父カール・ハインリヒの代になってからライヘンバッハ派に加わった、あるいは重きを為すようになった者たち――の事実上の指導者を務めている。グリーセンベック男爵家と同家を通じて私と血縁のあるアイゼナッハ男爵家は他の重鎮とは違い「ライヘンバッハ伯爵家」よりも「アルベルト・フォン・ライヘンバッハ」を優先してくれる。その理由には個人的な親交、父に対する忠誠心もさることながら、下世話な話として私個人を通じてライヘンバッハ派と繋がっているが故に、私が居なくなると彼らの権力も低下する、という事情がある。

 

「アルベルト、人の上に立つ者は敵に畏怖を覚えさせるだけでは無く、味方に畏敬の念を覚えさせなければならん。たとえ気心の知れた人間しか居ない場であっても安易に隙を見せるな」

 

 皺だらけの痩せた老人がしゃがれた声で私を叱責する。老人……コルネリアス・フォン・カルウィナー=ライヘンバッハ地上軍退役上級大将は七二歳の時に大病を患って以来、毎年「コルネリアス老はもう長くない」と噂されながらも、結局その後も六年に渡ってライヘンバッハ一門の分家筆頭として重きを為している人物だ。宇宙暦七七八年まで断続的に地上軍副総監を一一年に渡って務め、その間常に地上軍総監の椅子に最も近いと言われていた。

 

 地上軍総監ルーゲンドルフ元帥が統帥本部総長に転じた際と、リューデリッツ派が凋落しライヘンバッハ派が軍中枢に復帰した際は通常ならば間違いなくコルネリアス老が地上軍総監の地位を得ていただろう。ところが、前者では我が父カール・ハインリヒが宇宙艦隊司令長官を務めていた為に「宇宙軍と地上軍の実働戦力を同じ貴族家が掌握するのは望ましくない」という理由からコルネリアス老は地上軍総監職を辞退せざるを得ず、後者では退役元帥ルーゲンドルフ公爵の「嫡子エルンストに総監職を」という強い意向に配慮して辞退、さらに退役を余儀なくされた。余談だが、コルネリアス老に代わって地上軍総監に就任したルントシュテット上級大将(当時)とルーゲンドルフ大将(当時)はどちらも当時四〇歳という若輩者――相対的に――であった。私も当時四〇歳であり、全てが終わった今から考えれば、何か運命めいたものを感じる。

 

 軍部ライヘンバッハ派では主流派にあたる『長老衆』――代々ライヘンバッハ伯爵家に仕えてきた一族や分家筋出身者で構成される――の頂点に立つ人物であり、私を呼び捨てにしたことからも分かるように一門の実力者として私を超える絶大な権力を持つ。ライヘンバッハ派と協調する地上軍の覇権派閥ルーゲンドルフ派の重鎮でもあり、息子カール・ベルトルトの嫁にはルーゲンドルフ老の孫娘を迎え入れている。我が父カール・ハインリヒは宇宙軍に地盤を持つ上に当初は跡継ぎで無かったことから一門の地上軍軍人と縁が薄く、しかも一門の大物宇宙軍軍人が悉くティアマトで散華した為に、コルネリアス老の支持無くしては軍内派閥はともかくライヘンバッハ伯爵一門を纏めることはできなかったとも言われる。私がディートハルト従兄上との家督争いに勝てたのもコルネリアス老ら一門の地上軍軍人の支持があってこそだった。

 

 ちなみにあと一つは私の幼年学校における同期生など個人的な繋がりからライヘンバッハ派に加わっている『若衆』だ。重鎮が多く権力を握っている『長老衆』は成り上がりの平民や堕落した領地貴族家の出身者までもが大きな顔をしている――そして『長老衆』の意向を無視し私に忠実な――『若衆』の事を快く思っておらず、あからさまに冷遇している。この会合にも『若衆』からはギリギリ『外様衆』とも見做されるクヴィスリング大将(名門帯剣貴族家分家筋)、メルカッツ大将(帯剣貴族家当主)、ゼークト大将(帯剣貴族家当主)の三名しか出席を許されていない。

 

「ああ、申し訳ない、コルネリアス老。……皆、続けてくれ」

 

 私の言葉に聞き、最初に口を開いたのは近衛軍第二艦隊司令官ファウスト・フォン・クロイツァー近衛軍中将だ。

 

「……でありますから先ほど言った通り、宮廷は日に日に終戦派の勢力が大きくなっておるわけです。フェザーンから中立派、保守派諸侯に大金が流れている、これが一番の原因である訳ですな。保守派……つまり課税も講和も反対だ、という頑迷な連中の事ですが、その代表格でありましたカレンベルク公爵も最近はスタンスを終戦派に近づけております」

「結局金か」

 

 吐き捨てるようにハルバーシュタット大将が言った。ハルバーシュタットを含む数名は帝都の外からホログラム通信によってこの会合に参加している。率いる艦隊と共に辺境に赴任している為、映像はやや粗いが、それでもハルバーシュタット大将の表情からはハッキリとした嫌悪感を読み取れた。

 

「カレンベルク公爵の場合は金だけじゃない。奴の本来の領土はサジタリウス叛乱軍との戦争で著しく荒廃している。かつてはブラウンシュヴァイク公爵、今はアンドレアス公爵の庇護を受けて帝国内地の飛び地に避難している訳だが、勿論本領への復帰・復興を諦めている訳では無い。……フェザーンの連中はそこにつけ込んだ、終戦が成ればフェザーンが音頭を取って復興支援を執り行う。イゼルローン側の交易拠点としてサジタリウス腕からの投資を呼び込む、だから終戦に賛同してくれ、とな」

「相変わらず御当主様は物知りですなぁ……」

 

 私の説明に感心半分、呆れ半分といった様子なのは『長老衆』の一人、シュティール地上軍上級大将だ。

 

「……カレンベルク公爵が求めているのは本領安堵、つまり我々軍部がカレンベルク公爵の本土復帰と防衛に便宜を図れば、公爵を課税派……とまでは行かなくても再び保守派のスタンスに近づけることはできるはずだ」

 

 私のそんな提案に対する一同の反応は断固たる拒絶だった。

 

「御当主様、恐れながらそれはカレンベルク公爵家の為に軍を動かせ、という事ですかな?忠勇なる帝国軍将兵に、あのような俗物共に命を捧げろ、と命令するのは気が進みませんな」

「そもそもカレンベルク公爵が領土を失ったのは自業自得だ。我々の防衛指導に従わず、『自由』、『尊厳』あるいは『人道』といった概念で自縄自縛に陥っている叛徒共にみすみす核攻撃の大義名分を与え、八一〇〇万の領民と三五〇万の帝国軍兵士を磨り潰し、それでいて当主一族と譜代家臣からは一人の戦死者も出さず落ち延びてきたような奴らだぞ」

「いくら若の命でもこればっかりは……我がガルデン男爵家の六代当主ハンス・アクセルは惑星カレンベルクの地方都市にて被爆しながらも勇敢に戦い祖国に命を捧げました。カレンベルクの奴らも軍の犠牲があってこそ五体満足で内地に辿り着けた。しかしあの連中は内地に辿り着いてから核攻撃を許した正規軍がいかに無能だったかを力説した!その命を自己弁護と正規軍への誹謗中傷に費やした!あのような……あのような恥知らずの末裔を……」

 

 『長老衆』が一斉に反発の声を上げ、一部『外様衆』も同調する。ダゴン星域会戦後の報復戦期、所謂第一次エルザス=ロートリンゲン戦役において帝国正規軍は大敗に大敗を重ねた。いくつもの星が核の業火に焼かれた。数年前にサジタリウス腕外縁部で起きた破壊と虐殺がオリオン腕外縁部で『やや上品に』拡大再生産された(例えば降伏勧告『は』されたし、核攻撃開始までの時間的猶予『だけ』は与えられた)。

 

 その原因を帯剣貴族たちは領地貴族の腐敗と怠惰、非協力に求める。……実際の所、長年軍縮と平和ボケに晒されてきた帝国宇宙軍の劣化も激しく、装備・戦術・人材・体制のどれをとっても同盟軍に勝る要素が無かった。それ故一概に領地貴族だけに大敗の責任があるとも言えないが……しかし領地貴族の帝国正規軍に対する不協力が著しかったのも間違いはない。当時のエルザス警備管区司令シュミードリン宇宙軍中将は「我々は二つの敵を同時に相手取ることを強いられている。叛乱軍とエルザス愛国義勇軍である。尚、主敵は後者である」というとんでもない報告を軍務省に対しぶちまけ更迭されたが、これは大袈裟でも何でもない。貴族の義勇軍は正規軍を友軍として扱わず良くてデコイ、最悪敵軍として扱い一部星系への進入・惑星への降下を許さず、あろうことか同盟軍の仕業に見せかけて正規軍の補給を脅かしたり施設を破壊したりといった事までやってのけた。(ちなみに後任のシュリーター地上軍中将も「我、戦線崩壊ノ危機ニアリ、全力ヲ以ッテ内憂ニ当タラザルヲ得ズ、外患ヲ回廊ニ留メル余力無シ」と電文を打っている。こちらは「内憂」と表現をぼかしたことで更迭を免れた)

 

 余談ではあるが、領地貴族が下手をすると叛乱軍以上に正規軍を敵視した理由は戦後の研究によって同盟の国防委員会域外情報総局(S E R)(Service of the External Reconnaissance of Free Planets)と最高評議会直轄機関中央情報本部(C I H)(Central Intelligence Headquarters)の情報操作によるものだと判明している。サジタリウス叛乱軍への過小評価を背景に、『サジタリウス叛乱軍からの辺境防衛は中央政府が辺境貴族への統制を強化する口実である』という風聞が実しやかに囁かれ、領地貴族たちは正規軍を中央からの侵略者だと警戒したのだ。……ダゴンでの大敗を中央政府と正規軍が隠蔽していたのもまずかった。第一次エルザス=ロートリンゲン戦役後、ダゴンでの大敗は帝国でも広く知られ、多くの亡命者をサジタリウス腕に走らせることになるが、戦役以前は情報統制が上手くいっていたのだ。同盟の対外情報セクションはそれを逆手に取って離間工作に利用したといえる。

 

「御当主様。我々は帝国軍の、ひいてはこの国の誇りを体現しているのです。確かに御当主様の案はカレンベルク公爵を翻意させるかもしれません。しかし我々は諸侯や官僚とは違う。真の貴族は皇帝陛下と国にのみ忠誠を誓う。その為に与えられた力を、軍を、権力を政争の為に私物化することは許されない。我々がその超えてはならない一線を超えてしまえば、その瞬間から我々は領地貴族共や官僚貴族共を批判する資格を失います」

 

 軍務副尚書カール・ベルトルト・フォン・ライヘンバッハ地上軍上級大将はいつものようにそんな『長老衆』の反発を理路整然とした口調で論理化する。彼の怜悧な頭脳を以ってすれば、自分の論理に存在する矛盾に気付くことは容易だろう。『帝都防衛第一四号行動計画』を主導する彼が『超えてはならない一線』として軍の私物化を挙げるのは御笑い種だ。

 

「……開明派のバルトバッフェル子爵と終戦派のフォルゲン伯爵が両派の協調を模索しているのは知っているかね?特権階級への課税は開明派の悲願、だがその悲願は一度脇に置いて、サジタリウス叛乱軍との講和を実現、膨大な軍事予算にメスを入れることで経済と財政の再建に取り組む。勿論終戦派の領地貴族もこれに協力する。……ブラッケはともかくリヒターは条件次第で乗るぞ?最早手段を選んでいる場合ではないだろう」

「同感です。だからこそ『帝都防衛第一四号行動計画』の発動が必要です」

 

 グリーセンベック上級大将はカール・ベルトルトの返答を聞いて軽く顔を顰め黙り込む。藪をつついて蛇を出したと思ったのだろう。『帝都防衛第一四号行動計画』は軍務省が策定する帝都防衛の戦略の一つだ。帝都防衛軍や近衛軍、帝都周辺の地上軍部隊が何らかの事情で無力化される事態を想定し、首都星オーディンに駐留する宇宙軍部隊の陸戦隊が帝都近郊に展開、無力化された諸部隊に代わり防衛にあたるという内容の戦略である。……表向きは。

 

 実際の所、この戦略は「帝都防衛」ではなく「帝都放棄」を目的としている。常勝の帝政国家で帝都放棄などと言う事態を想定することは許されない。その為、この戦略では徹頭徹尾「宇宙軍陸戦隊が帝都防衛にあたる」というお題目を掲げてあるが、要所要所に皇帝陛下をはじめとする要人、政府機関、国家・皇室資産、戦力を保護・保全するための行動計画が盛り込まれており、これは容易に帝都放棄作戦に転用可能だ。

 

「……『帝都防衛第一四行動計画』は軍を政争の為に私物化することには当たらないのか?」

「当然でしょう。帝国にあるべき秩序を回復するための作戦ですよ?帝国正規軍がその本分を果たすだけです」

 

 沈黙が場を支配する中で、バッセンハイム元帥が苦々し気な表情で問いかけた。少なくない出席者が頭に浮かべながら発言できない問いかけだ。……防衛計画の体裁を取った帝都放棄計画。しかしながらこの『帝都防衛第一四号行動計画』にはもう一つばかり別の顔がある。

 

「『三・二四政変』を忘れたか!同じことを!あろうことか我々がやると言うのか!」

 

 バッセンハイムは激昂してテーブルを叩きながら叫ぶ。……『帝都防衛第一四号行動計画』の別の顔、それはクーデター計画である。宇宙軍陸戦隊が迅速かつ的確に政府・軍の要衝に展開し、要人や資産を『保護』……言い換えれば『確保』する。必要に応じて宇宙軍の拠点にそれらを『移送』し、場合によってはそのまま帝都を『脱出』……言い換えれば『拉致』する計画、それが『帝都防衛第一四号行動計画』だ。

 

「……言葉を慎め。バッセンハイム」

「コルネリアス老……しかし!」

「既にこの計画は御当主様の裁可も得られている。軍要人の殆ども支持、あるいは黙認の構えだ。官僚はクロプシュトックの息が掛かった連中を使える。足りない分は平民でも何でも使えば良い。第一四号行動計画には最早何の障害も無い。……それでも計画に異を唱えるのか?」

 

 コルネリアス老がその痩せこけた身体にはあまりにも不釣り合いな鋭い眼光でバッセンハイムを睨みつける。

 

「納得は必要ない。理解も必要ない。必要なのは服従だ」

 

 コルネリアス老はバッセンハイムから視線を逸らさずに淡々と呟くように言った。

 

「議論は必要ない。妥協も必要ない。必要なのは行動だ」

 

 コルネリアス老は視線をグリーセンベックやアイゼナッハに向けながら続ける。そして私を見てさらに言葉を続ける。

 

「思考は必要ない。感情も必要ない。必要なのは覚悟だ」

「……」

 

 深淵を覗く目、と父はコルネリアス老の目を評した。この席……当主という席に座る前にはよく分からなかったが、今ではこれ以外にコルネリアス老の目を表現する術を思いつかない。睨み返す位の心持ちで無いと、この老人の視線を受け止めることはできない。非論理的だが、この老人の視線から逃げたその瞬間、私が生涯を捧げると覚悟している大望は志半ばにして途絶えるだろう、という考えが私には漠然とあった。

 

「計画は成功する。祖国は栄光を取り戻す。バッセンハイムよ。何を躊躇する?」

「それは……しかし……」

 

 バッセンハイムが口ごもる。バッセンハイムに限らず政争が激しかった時期に前線に立ち続けていたゼークトやハルバーシュタットらには事実上のクーデター計画である『帝都防衛第一四号行動計画』に対する感情的なしこりが存在する。しかしそれを理路整然と言語化する能力は彼らに無く、また感情論で押し切るにはコルネリアス・フォン・ライヘンバッハという老人は手強過ぎた。化け物じみた胆力の持ち主である彼らのさらに上を行くのがこの老人だった。

 

「全ては皇帝陛下と祖国の為に」

 

 コルネリアス老は目を瞑るとまるで祈るような口調で言った。

 

「その一事、その一事だけを覚えておけば、我らが道を誤ることは、決して、無い」

 

 コルネリアス老のその言葉はさして大きくなかったが荘厳な雰囲気と共に会議室に響き渡った。後には静寂が残る。その静寂を破るのはいつもこの男の役割だった。

 

「……では『帝都防衛第一四号行動計画』の進捗状況について御報告します。現在……」

 

 コルネリアス老の嫡男たるカール・ベルトルト・フォン・ライヘンバッハ地上軍上級大将は父の言葉の醸し出す重苦しい雰囲気など物ともせず口を開いた。

 

「……以上が『帝都防衛第一四号行動計画』第七版の概略となります」

「質問だ。三・二四政変以来、主要な貴族家はオーディンの別邸などにかなりの私兵部隊を置くようになった。これについてはどうする?」

「地上軍の主要な部隊がこちらについている以上、さしたる脅威にはなり得ないかと」

 

 カール・ベルトルトの説明が終わると同時に、シュティール大将が質問する。さらに数名が計画の細部に関して質問を行い、それにカール・ベルトルトが返答する。

 

「……警察総局による社会秩序維持庁への捜査妨害も順調に機能しています。憲兵総監部に関しては反オッペンハイマー派に対する支援によって『第一四号行動計画』から目を逸らすことに成功しています」

「地上軍総監部調査部は抑えられているのか?」

「……アルトドルファー元帥に圧力をかけているのですが、『自分にはクルムバッハを抑える力は無い』の一点張りです」

 

 地上軍副総監クルムバッハ上級大将はティアマト以降門閥派に接近した貴族の一人だ。名門帯剣貴族にも関わらず、ブラウンシュヴァイク公爵になりふり構わず擦り寄る姿勢は多くの帯剣貴族から嫌悪の対象となっていた。しかしながら、憲兵総監オッペンハイマー大将と同じく絶妙なバランス感覚で排斥されることなく軍の中枢に居座ってきた。ポイントは派閥と派閥が存在する限り必ず必要になる『裏の』調整役に収まることだ。そこで少なくない帯剣貴族にも「こいつは利用価値が有る」あるいは「何だかんだ言って最後は帯剣貴族の為に尽くす」というように思われることで、帯剣貴族集団の一員でありながら、軍部門閥派の一員でもある、という状態を維持しているのだ。

 

 ちなみにクルムバッハ上級大将とオッペンハイマー大将では役割の被る部分も多く、下手をすると「クルムバッハが居るからオッペンハイマーは要らない」「オッペンハイマーの方が使えるからクルムバッハを切ろう」と思われる可能性もある為、互いの仲は悪い。一応、クルムバッハ上級大将は今は旧ブラウンシュヴァイク派・アンドレアス=リンダーホーフ派に協力しており、オッペンハイマー大将はリッテンハイム派・エーレンベルク派に協力しているが、隙あらば互いの『顧客』を奪おうと切磋琢磨?している。

 

「面倒な……しかしあの狸もついにヤキが回ったな。このサボタージュは高くつくぞ」

「アルトドルファー元帥はわざと協力を拒んでいる訳では無いのでは?実際門閥派と繋がるクルムバッハ上級大将を抑えるのは難しいでしょう」

「抑えられないなら抑えられないなりに出来ることはいくらでもある。アレはただクルムバッハを口実にして言質を取られないように逃げているだけだ」

 

 地上軍総監アルトドルファー元帥は「昼寝のアルトドルファー」という異名で知られる(勿論蔑称も兼ねている)。「敵を作らず・作られず」がモットーの日和見主義者ではあるが、彼が一流の軍政家であり、保身の達人であることは疑いようがない。ルーゲンドルフが覇権派閥となっている地上軍では権力闘争も宇宙軍とは違って歪んでいる。つまり、出世したい者はライバルの失点をルーゲンドルフに報告する。そしてルーゲンドルフの力でライバルを失脚させる。故に、アルトドルファー元帥が「敵を作らない」、より正確に言えば「生きている敵を作らない」のは驚異的だ。自分が敵を作らないようにしても、必ず誰かが悪意を以ってルーゲンドルフに讒言を行う。そんな足の引っ張り合いの地上軍でトップに立っているにも関わらず、「敵」が居ない。つまり「足を引っ張る隙も無かった」のか「足を引っ張ろうとしたけど全く上手くいかなかった」のか「足を引っ張ろうとした敵が全て失脚した」のか……ただ一つハッキリ言えることは、アルトドルファー元帥が「気づいた時には」元帥・地上軍総監に栄達していたという事実だけだ。

 

「まあ、アレは決起の障害にはなり得ないだろう。当面はクルムバッハだけ注意しておけば良かろうて」

「御当主様。『予備計画』の方はどうでしょうか?」

 

 カール・ベルトルトが私に質問してきた。『予備計画』とは読んで字のごとく、『帝都防衛第一四号行動計画』の『予備計画』だ。『帝都防衛第一四号行動計画』が事前に漏れた時に発動する……という事になっている。計画の主体はライヘンバッハ派の上層部が身動きが取れなくなった時の為に『若衆』……という事になっている。

 

「ああ、第七版の内容を反映させる必要はあるが、概ね完成したといって良いだろう。次回会合で内容を提示したいと思う」

「了解しました。……それでは『帝都防衛第一四号行動計画』についてはこの辺りにするとして、次にガルミッシュ要塞における正規軍と要塞駐留艦隊の睨み合いについてですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メルカッツ大将」

 

 会合終了後、私はカルウィナー=ライヘンバッハ子爵邸を出ようとするメルカッツ大将に近づき、話しかけた。

 

「……ああ、ライヘンバッハ大将」

「お疲れのようですね……。退屈なさったでしょう?」

 

 私は周囲に残る将官らに気付かれないよう、小声で問いかける。

 

「まあ。私には難しい話ばかりでしたな」

「そうでしょうそうでしょう。……私も含めて、全部理解している人間なんて居ないでしょうから」

 

 私が冗談めかして言うと、メルカッツ大将は苦笑する。

 

「……申し訳ない、メルカッツ大将。小官は良かれと思って貴方をライヘンバッハ派に誘ったつもりでしたが……これならクルトの所に居た方が楽だったでしょうね。余計な世話を焼きました」

 

 私がそう言うとメルカッツ大将が小さく噴き出した。

 

「どうされました?」

「いや、君もシュミードリン中将やホフマイスター少将と同じことを言うのかとね」

「ああ……。彼らなら、というか貴方の下につけた者達は確かにそう言うことを言いそうです」

「君も面白い人材を渡してくれたね。……彼らにはこう返しておいた。『君たちと共に闘えるのだから、ライヘンバッハ派に入ったのも悪い事ばかりではない』とね」

 

 メルカッツ大将は茶目っ気のある笑みを浮かべながらそう言った。メルカッツ大将の下につけたのは私が目を付けた人材の中で「出自で冷遇されている」「御しにくい」「私を嫌っている」という三つの条件を満たした者たちである。前者二つの条件までならゾンネンフェルス中将、シュターデン少将のように私の艦隊に置いて活用できるのだが、流石に私を嫌っている者たちを私の下に置く訳にもいかない。

 

「上手くいっているようで何よりです。その……彼らの事を丸投げして申し訳ない。放っておけば辺境で野垂れ死にしかねないので……」

「構わないよ。皆優秀な人材だ。まあ一癖も二癖もある連中だが……今までに任されてきた部下を思うと大したことじゃない」

 

 メルカッツ大将は遠い目をしながらそう言った。帝国において自分の幕僚を自由に任命する方法は元帥府を開設するか、政治力を発揮して上層部、特に軍務省人事局に便宜を図らせるかしかない。当然、政治力の無いメルカッツ大将は自分の思い通りの幕僚を任命出来たことは無いのだろう。

 

「メルカッツ大将……。あと少しの辛抱です。『予備計画』が発動すれば多少は軍の風通しも良くなるはずです」

「だと良いね。……まあ、バッセンハイム元帥閣下も君も上司としてはすこぶるやりやすい部類さ。君が思っている程不満も無いよ」

「言わせていただくと……貴方の上司は今までが酷すぎたかと。それと比べられても……」

 

 ハハハ、とメルカッツ大将は笑うと私の肩を軽く叩く。

 

派閥(ここ)に入って分かった。……私は槍働きにしか能がない人間だが、君には色々出来ることがありそうだ。いつぞやの約束、期待しても良いんだろうね?」

 

 メルカッツ大将は穏やかな口調とは裏腹に、真剣な表情で問いかける。『帝都防衛第一四号行動計画』、紛れもないクーデター計画だ。そんなものの存在を聞いたメルカッツ大将がどういう反応をするか、それが心配で声をかけたのだが、やはり思う所はあるらしい。

 

「小官は嘘吐きですが、貴方を騙す言葉を持っていません。……お任せを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)完成前の一時期に大帝ルドルフが居所を構えたオーディン東大陸ゲルマニア州ブーリ市、通称・旧帝都。建国期には多くの貴族が邸宅を構えていたが、政治・軍事・経済の中心地が新帝都オーディンへと移るに従い、殆どの貴族が居所をオーディン近郊のメルクリウス市やクヴァシル市へと移している。しかしながら建国期の功臣達が暮らしていた邸宅には歴史的・文化的な価値が有り、今でも多くの貴族家は別邸としてブーリ市の旧邸宅を保存していることが多い。結果としてブーリ市西部には最低限の管理要員のみが住み、主を邸内に有さぬ有力貴族の邸宅が立ち並ぶ。他の区域が観光地としてそれなりに繁栄しているのに対して、要人の邸宅が立ち並ぶ西部の一角はさながらゴーストタウンのような様相を呈している。

 

 そんなブーリ市に今でも生活基盤を置く貴族は余程の酔狂者か、貴族社会の中心から距離を置きたい――あるいは置かれる――何らかの事情を持つ者だけだ。建国期以来の名門帯剣貴族家、カールスバート伯爵家は後者の例に当てはまる。

 

 初代当主はルドルフの下で白色槍騎兵艦隊司令官を務めたクルト・フォン・カールスバート、以来幕僚総監を務めた三代当主エーリッヒ、軍務尚書を務めた六代当主シュテファンを始め、多くの高級軍人を輩出してきた。転機が訪れたのは宇宙暦四五三年の事である。重商主義・能力主義を掲げたジギスムント二世痴愚帝に対し、『名門』と呼ばれる家々の貴族が軒並み抵抗の姿勢を見せる中、カールスバート伯爵家九代当主エルヴィンは幕僚総監の要職にありながら、早々にジギスムント二世帝を支持する。

 

 ジギスムント二世痴愚帝がマクシミリアン=ヨーゼフ二世晴眼帝の如き名君ならば問題は無かった。しかしジギスムント二世痴愚帝の『改革』は失敗し、ジギスムント二世帝はゴールデンバウム王朝屈指の暗君として歴史に名を刻む。当然その支持者であったエルヴィン……そしてカールスバート伯爵家の権威も地に落ち、他の帯剣貴族家から白眼視され孤立を深めることになった。

 

 ジギスムント二世痴愚帝の『改革』に一致団結して抵抗した名門帯剣貴族たちは裏切り者のカールスバート伯爵家を露骨に冷遇し、軍中枢から排斥した。カールスバート伯爵家と関係があった諸家は落ち目のカールスバート伯爵家から距離を置き、ツィーテン侯爵家やケルトリング侯爵家、ライヘンバッハ伯爵家、シュリーター伯爵家と同等の権勢を誇ったカールスバート伯爵家は見る見るうちに傾いた。いつしかカールスバート伯爵家は他の貴族から向けられる非難と不信の視線、時代が下った後の嘲笑と憐憫の視線に耐え切れず、ブーリ市の別邸へと移ることを余儀なくされた。

 

 九代当主エルヴィン以来、カールスバート伯爵家は名門として最低限の優遇は受けながらも、中将以上の階級を得た者はおらず、いわゆる「帝国軍三長官」のお膝元である三機関の要職に就く人間すら稀だ。同等の権威を持つはずのライヘンバッハ伯爵家やゾンネンフェルス伯爵家、シュタインホフ伯爵家出身者は悉く軍部中枢での栄達が約束されているのを考えるとやはりカールスバート伯爵家が冷遇されていることは否定できない。

 

 カールスバート伯爵家の現在の当主、アドルフ・フォン・カールスバート宇宙軍少将もその例に漏れず、名門伯爵家の当主にも関わらず現在は第二一警備艦隊司令として辺境のザールラントに赴任している。カールスバート少将は今年五八歳、辺境のポストが全て閑職とも言えないが、それにしても名門伯爵家の当主が五八歳で一警備艦隊司令の宇宙軍少将に過ぎないというのはお世辞にも良い待遇を受けているとは言えないだろう。

 

「お待ちしていましたよー、シュトローゼマン男爵」

「これは……わざわざ出迎えていただけるとは光栄です。カールスバート名誉男爵」

 

 ……故にカールスバート伯爵家が軍内反主流派たる開明派やシュタイエルマルク派に近づいたのは当然の帰結であった。平民さえ同志に加える両派がカールスバート伯爵家を迫害するはずもない、カールスバート伯爵家が「痴愚帝の奸臣」とされたのは三世紀も前の事であり、頑迷な主流派帯剣貴族ならともかく、合理性と公平性を重んじる――少なくとも本人たちはそう信じている――両派にとってはどうでも良い事だ。

 

 宇宙暦七八〇年一一月某日。私の密命を受けた兵站輜重総監部整備回収局第一課長マルセル・フォン・シュトローゼマン宇宙軍大佐はそんな建国期以来の名門貴族家にしてシュタイエルマルク派の重鎮たるカールスバート伯爵邸を訪問する。館の主であるアドルフはザールラント方面に赴任している。シュトローゼマンを出迎えたのは嫡子たる名誉男爵、教育総監部水雷戦監科第二課員クリストフ・フォン・カールスバート宇宙軍大佐だ。

 

 カールスバート大佐も名門出身の貴族将校としては冷遇されているといえる。宇宙暦七六八年に士官学校を首席で卒業後、前線で多くの武功を挙げ将来を嘱望されているこの青年将校は三二歳で宇宙軍大佐の地位にある。士官学校主席卒業者としては少し遅めの昇進速度であり、また名門伯爵家の嫡男としても辛うじて格好がつく程度の階級だ。参考までに言うと三二歳で私は宇宙軍少将、ミュッケンベルガー提督は宇宙軍中将の地位にあった。

 

 シュトローゼマンはカールスバート大佐に先導されて邸内を歩く。邸内は清潔に保たれていたが、それでも建国期に建てられただけあって、どこか古臭い雰囲気が否めない。上手く誤魔化されているが、注意深く観察すれば柱や壁に経年劣化による損耗が見て取れる。

 

「……一応この家も建国期の遺産でしてねぇ。ガタが来ているのは勿論分かってますが、色々改築規制があってあまり大きく手を入れることが出来ないのですよ」

 

 カールスバート大佐は苦笑しながらシュトローゼマンに語る。帝国の中心がオーディンに移ってからも暫くはブーリ市の旧邸宅を別邸として使う貴族が少なくなかった。しかしリヒャルト一世名文帝が遺産保護勅令で定めた諸基準を守りながら、実際に旧邸宅で暮らすのは難しく、やがて貴族たちは旧邸宅に最低限の管理要員を遺して放置するようになった(売却・解体するのは体裁が悪い)。

 

「愛着のある家ではありますが……そろそろメルクリウスに移りたいものですよ。いい加減こんな片田舎に引き籠るのはウンザリです」

 

 カールスバート大佐は優し気な笑みを浮かべながらも、しかし目に強い意志を携えてそう言った。

 

「ここです。どうぞ」

 

 やがてカールスバート大佐が一つの扉の前で立ち止まる。シュトローゼマンがその扉を開くと、中には既に書類の散乱したテーブルを中心に平民の服装に身を包んだ十数人の男が居た。その内の七割方はまさしく疲労困憊といった様子である。無理もない、軍務の合間にブーリ市のカールスバート伯爵邸に足を運び、『予備計画』立案に携わっていたのだから。

 

「……おう、来たかマルセル」

「アルバートか。……ふん、相変わらず意地汚く生き延びてるみたいだな」

 

 部屋の片隅からシュトローゼマンに野太い声がかかる。そこには恐らく壁際の本棚から調達したであろう数十冊の本で即席の椅子を作り安酒を煽っている巨漢が居た。アルバート・フォン・オフレッサー地上軍少将。シュトローゼマンの旧友であり、捕虜となっていた間も少なからず縁のあった男だ。

 

「おいおいおい……旧友との再会を祝う気は無いのか?」

「死人との再会を喜ぶ気にはなれんな。……ブレンターノ准将、全員揃ったかね?」

 

 「ひでぇな、傷ついたぜ」と呟くオフレッサーを軽くあしらうとシュトローゼマンは黒髪の憲兵准将に声をかける。「はい」と答えたカール・バーシュタット・フォン・ブレンターノ宇宙軍憲兵准将の顔立ちは端正であるが、それでいて年に見合わぬ色濃い疲労を感じさせる。

 

「よし、じゃあ始めよう。これがライヘンバッハ大将閣下から頂いた『帝都防衛第一四号行動計画』の最新版、そしてこっちが『予備計画第七版』に対する『上』の評価だ。検討して『予備計画』に反映してくれ。ああそれと、次回の会合までに予備計画の仮装案を作っとけ、とのことだ。老人たちが煩いらしい」

「老人用の別案を一から作れ、と。簡単に言ってくれますねぇ……。何徹すれば出来ますかねぇ?ねぇ中尉?」

 

 カールスバート大佐が溜息をつきながらいきなり隣に立つ中尉に話を振った。中尉は「え」と驚いてから困ったような笑みを浮かべながら「さあ」と答える。

 

 シュトローゼマンはそんな二人を放置してバックから紙の資料を取り出す。幕僚総監部情報部第二課長エッカルト・ビュンシェ宇宙軍准将が進み出て受け取る。彼とカールスバート大佐、そしてこの場には居ないがオークレール地上軍准将の三人が『予備計画』立案の中心者である。

 

「……確認しますが、マルティン・ツァイラー地上軍中将の第四機動軍はあてにして良いのですよね?」

「問題ない、第四機動軍は予備計画へ参加する」

「帝都防衛軍と中央軍集団はどうなりましたか?」

 

 シュトローゼマンに対して矢継ぎ早に質問が行われる。

 

「シュリーフェン中将は相変わらずだ。中立堅持、『一四号行動計画』にも『予備計画』にも加担しないらしい。だが麾下の部隊に協力を禁じる気はないそうだ。中央軍集団の方はメクリンゲン=ライヘンバッハ大将が決意してくれた。こちらを支持するそうだ。……認めたくは無いが、アルバート、お前の証言も役に立ったよ」

 

 「そいつは何よりだ」とオフレッサーが笑う。一方『予備計画』策定チームはどよめく。中央軍集団を引き込めたのであれば、帝都制圧の実働戦力としては申し分ない。一応各々がシュタイエルマルク派やライヘンバッハ派新参の若手将校を『予備計画』に引き込む手筈となっているが、彼らが部隊ごと協力したとしても良くて連隊規模だ。

 

「十分だな。中央軍集団がこちらに付くのなら、戦力的な不安はほぼ解消されたといって良い。帝都防衛軍も敵にならないならそれで良い」

「シュリーフェン中将とメクリンゲン=ライヘンバッハ大将は優先警戒対象から外しますか?」

「シュリーフェン中将はまだダメだねぇ。予備計画の詳細を漏らすようなら消さないと。ブレンターノ准将閣下、監視はつけているのですよね?」

 

 赤色胸甲騎兵艦隊司令部後方主任参謀カール・オルゼンスキー宇宙軍大佐の提案をカールスバート大佐が否定し、ブレンターノに尋ねた。

 

「……ええ、いつでも消せますよ」

 

 ブレンターノ准将が少し陰のある表情でそう答えた。その様子をカールスバート大佐やシュトローゼマンは怪訝に思ったそうだが、その時は深く聞かなかったらしい。

 

「他に『予備計画』の脅威となるのは……」

 

 失脚したグリュックスブルク宇宙軍大将と並び軍部リッテンハイム派きっての実戦派として一目置かれるモーデル上級大将、憲兵総監部に強い影響力を持ち軍内に独自の情報網を保有するクルムバッハ上級大将、そして幾度もの政変を生き延び未だ憲兵総監の地位を保有し続ける保身の化け物オッペンハイマー大将などの名前が挙がるが、それを遮ってシュトローゼマンが発言する。

 

「門閥派は無視しても構わんと言ったはずだ。『行動計画』が奴らの注意を引く」

「……いや、奴ら『予備計画』の存在にも勘付いています。幕僚総監部情報部第三課の動きが最近怪しいんです」

「第三課……アーベントロートか」

 

 情報畑に属している者ならば、一見小物に見える幕僚総監部情報部第三課長テオドール・フォン・アーベントロート宇宙軍准将が軍部リッテンハイム派きっての切れ者であり、侮れない男であることを知っている。

 

「第三課はオークレール准将と私を内偵対象に加えたようです。……『行動計画』を追うのであれば必要のない動きだ。幕僚副総監閣下の力で止めてもらおうとしたのですが……今後一切の協力を拒否されました。調べたところ、地上軍総監閣下が副総監閣下を邸宅に招いてから副総監閣下の様子がおかしくなったそうです」

 

 ビュンシェ准将は眉間に皺を寄せながらそう言った。私が個人的に進める『予備計画』の重要人物である彼も軍部主流派が肝入りで進める『一四号行動計画』の中では末端も良い所だ。

 

「ラルフ、か」

「でしょうね」

 

 シュトローゼマンの呟きにビュンシェが同意する。他の面々は数名を除いて置いてけぼりだ。

 

「地上軍総監アルトドルファー元帥は白色槍騎兵艦隊司令官クラーゼン大将の養父だ。アルトドルファー元帥は明らかに何かを知っている動きをしている。どこからアルトドルファー元帥に情報が流れたか?十中八九クラーゼンだな。……どこまで知っていると思う?」

「行動計画は確実に。ラルフならライヘンバッハ派の一部に情報網を食い込ませていてもおかしくない。そこまでだ……と思いたいんですがね……」

予備計画(こっち)はバレていない、というのは甘い想定か。まあそうだな。あいつもアレで化け物じみた所がある。そうでなくてもクラーゼン子爵家を含む情報閥は侮れない。ここにも何人か人が居てもおかしくないな」

 

 シュトローゼマンの発言に場が騒めく。

 

「まさか!もしそうだとしたら予備計画は……」

 

 オルゼンスキー大佐が動揺を露わに発言するがシュトローゼマンは頭を振る。

 

「情報閥は正真正銘のバケモンだ。そんな次元で動かんよ。あいつらのルーツは連邦保安庁、そのルーツはテオリア惑星同盟情報保全局、そのまたルーツは……と追っていくとキリがない。流石に眉唾だが……ルーツを追っていけば北方連合国家(ノーザン・コンドミニアム)中央情報局(C I A)にまで繋がるという話もある」

「……」

 

 シュトローゼマンの言葉に一同は一様に黙り込んだ。情報閥を構成する貴族たちは銀河連邦を見捨てルドルフ支持に回った各情報セクションの幹部たちが授爵された一族だ。彼らは国家という枠組みも政体という枠組みも思想も主義主張も気にしない。ただただ情報を扱い、大衆の望むものに奉仕する。北方連合国家(ノーザン・コンドミニアム)中央情報局(C I A)から続く伝統、情報機関の政治的中立性を徹底した結果の副作用と言っても良いかもしれない。とはいえ、全員が全員ルドルフ支持に回った訳では無く、共和主義思想を捨てられなかった一部は反銀河帝国運動に合流し、後ろ暗いことがありルドルフの粛清を恐れた一部は辺境に逃れている。前者は今でも銀河解放戦線や革命的民主主義者武装同盟で重きを為し、後者は名高い東洋の同胞(アライアンス・オブ・イースタン)首長連盟公安局やティターノ四大マフィアの一つ「ミランドラ」の設立などに携わった。 

 

「ちょっと脅かしすぎたな。まあ情報閥と一括りに言ってもその内実はバラバラだ。クラーゼン大将がその一員であるからと言って、今回の件にクラーゼン子爵家、そして情報閥が関わってくるとは限らない。ビュンシェ、奴の目的は何だと思う?」

「……専門家としての知見を述べれば分からないという返答ですね。奴の友人として知見を述べるなら……保身では?」

 

 ビュンシェの言葉に困惑するような空気が流れる。しかしシュトローゼマンは「俺もそう思う」と同意を示した。

 

「『騒乱が起きればすぐに隠れ潜む、全てが終わった後、勝者に全力で媚びる』それがクラーゼン子爵家の処世術だと常々言っていましたからね。……実際、歴代のクラーゼン子爵家当主で失脚した者は一人も居ません。ラルフ自身その方法で『三・二四政変』を生き延び、見事に軍に残りましたからね。あいつ、今までに一度も予備役編入されてないんですよ」

「知ってるよ。羨ましい限りだ。……まあ、だからといってクラーゼンを放置しておく訳にもいかん。ブレンターノ准将、監視を頼む」

「……了解です」

 

 ブレンターノが頷いたのを確認し、シュトローゼマンは話を続ける。結局『予備計画』策定チームの会議は夜更けまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わざわざご足労頂き、大変恐縮しております」

「かしこまる必要は無いよ。今は私人として来ているからね。ハウサー」

 

 宇宙暦七八〇年一一月一二日、帝都近郊のオストガロア宇宙軍基地で私は第四辺境艦隊司令官としてバーデン警備管区パルムグレン星系第三惑星カール・パルムグレンに赴任するルーブレヒト・ハウサー宇宙軍中将に会っていた。隣には参謀長として赴任するカミル・エルラッハ宇宙軍少将が機嫌の悪さを隠そうとせず佇む。

 

「……二人ともすまない。私の力が足りないばかりに、バーデンなんてド辺境に行かせることになってしまった」

「フェザーンが近い分ド辺境とは言えないのでは?」

「……バーデンは本当にただの通り道だよ。ラインラント警備管区やバイエルン行政区と違って開発の進んだ良い有人惑星が無いからね。フェザーンの船も寂れたバーデンは連続ワープでさっさと通過する。それでも国境地帯には違いないからね。後ろ暗い連中があの地域には山ほど居る。……それに加えて第四辺境艦隊の活動範囲にはあの(・・)永年紛争地帯ザールラントが含まれている。最近はラインラントも流星旗軍が暴れているし、本当に大変な艦隊を任せることになってしまった。ズィーリオスと並ぶ帝国有数の危険地帯だ」

 

 私の言葉にハウサーは苦笑し、エルラッハはますます眉間の皺を深めた。

 

「そんなところに我々を送るとは。老人方は余程平民がお嫌いな様子だ。閣下が引き立てた他の平民軍人も閣下とメルカッツ大将の所に居る連中以外は辺境送りらしいですな?……ああ、そうだ。閣下は第四辺境艦隊隷下に付けられる増援部隊の陣容を見ましたかな?」

「第三二、第三三、第三四、第四一、第四二の各警備艦隊で構成される総勢計一〇〇〇〇隻だったね?」

「閣下、小官は先んじて各部隊を見回って参りました。どうみても併せて六〇〇〇隻程度、半数以上が二世代以上前の老朽艦です。残りは一世代前の老朽艦か、現役の戦傷艦ですな。最早大規模な不法投棄としか言いようがない。我々の仕事はザールラント叛乱軍に粗大ゴミを破壊していただくことなのかもしれませんな!」

「……すまない。援軍部隊の実態までしっかり確認しておくべきだった」

 

 老人達に援軍部隊の派遣を指示した所、想定したより簡単に受け容れられた。流石の老人達もその程度の良心は残っていたか、と考えた私は底抜けのバカだった。……いや、各辺境艦隊が近年の辺境情勢悪化で消耗していることは軍部でも話題になっており、老人達もその辺りを加味して援軍部隊の派遣を決意したのだと思ったのだ。

 

「……その、こんな事を頼める義理は無いのだが……一応使命の方は真面目に果たしてほしい」

「故、トラウゴット・フォン・フォイエルバッハ宇宙軍大将の影響で軍部開明派の巣窟となっている第四辺境艦隊を掌握、ライヘンバッハ派に取り込め、でしたっけ?やってはみますけど……その、粗大ゴミと一緒に来た若輩の指揮官の言うことを聞いてくれますかね?あそこは難物揃いでしょう?」

「……まあエルラッハが居れば何とかなるんじゃないか?」

「ああ……」

「ああ、では無いだろう。何納得してるんだ」

 

 第四辺境艦隊と関わることの多い、ラインラント警備管区司令だったメクリンゲン=ライヘンバッハ地上軍大将は「第四辺境艦隊は愚連隊のようだった」「だが彼らを嫌悪する余裕は私に無かった。いつしか帝国軍らしからぬ執念と泥臭さで悪党を粉砕する彼らは、私の天使になっていた」と振り返る。メクリンゲン=ライヘンバッハ大将は人生最大の後悔として「ラインラント警備管区司令時代に流星旗軍を葬れなかったこと」を挙げ、人生最大の喜びとして「地獄のようなラインラントから中央に栄転できたこと」を挙げる。……一昔前、ラインラント警備管区司令という役職は決して閑職で無かったが、メクリンゲン=ライヘンバッハ大将が転属した後は紛れもない閑職として扱われている。彼の在職中にそれほど情勢が悪化したのだ。

 

「遠からず君たちの事は呼び戻すつもりだし、第四辺境艦隊が預かる魔の三角地帯については本腰を入れて対応するつもりだ」

「有難うございます。閣下の辣腕に期待して、職務に励みたいと思います」

「……まあ、私も期待はしておきますよ。とにもかくにも、帝国軍人としての本分を果たしましょうかね」

 

 宇宙暦七八〇年一一月一二日、課税か終戦かで帝国中央が揺れる中、ルーブレヒト・ハウサーとカミル・エルラッハの二人は辺境へと旅立った。同時期、カール・ロベルト・シュタインメッツ宇宙軍准将やアルフレッド・ケッフェル宇宙軍准将ら少なくない『若衆』が辺境への赴任を余儀なくされた。軍部ライヘンバッハ派の重鎮が主導して行われたこの粛清は被害者の殆どが平民であり、またシュタイエルマルク派の庇護下にある者達ではなくライヘンバッハ派の内部での話であり、形の上では全て栄転としていたこともあり、殆ど注目されることは無かった。しかし、私が『予備計画』の実行を決断した要因の一つがこの粛清であったことは間違いない。

 


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