アルベルト・フォン・ライヘンバッハ自叙伝   作:富川

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 地獄のような光景をこの目で見たのは初めてだった。私は元来気が小さい人間で、しかも鈍臭い。とても戦場ジャーナリストなど務まる筈がない人間である。きっと、本物の戦場に放り出されたとすれば無様に腰を抜かして死を待つか、恐怖のあまり発狂すると思っていた。……しかし、そうはならなかった。不思議な事にその光景はどのような映像機器を通してみるよりも現実感が無く、従って私は奇妙な程白けた気分のまま、いつものような笑顔で大衆の知的好奇心に奉仕することができた。事が終わって一部の視聴者から「不謹慎だ」と非難を浴びるほど、私は冷静に職責を果たした。

――ロブ・フォーブス、CTN(セントラル・テレビジョン・ネットワーク)報道局国際部長、『映像のオリオン 第八集 国家の中の戦争 ~改革は混沌を導いた~』より



壮年期・帝都惨禍(宇宙暦780年12月28日~宇宙暦780年12月31日)

 宇宙暦七八一年二月二日。憲兵総監部から軍務省監察本部と名を改めた組織のビル。五階第六小会議室。そこでは一人の尉官が五人の佐官と向き合っていた。

 

 尉官の名前はエドワルド・パウマン地上軍中尉。五人の佐官は左から、オットー・フォン・ライフアイゼン宇宙軍少佐、アヒム・バルシュミーデ地上軍中佐、カール・オスター軍警隊大佐、エッカルト・フォン・コヴァレフスキー軍警隊少佐、ノーマン・クーゲル・シンデルマイザー宇宙軍少佐。オスターが『査問委員長』、バルシュミーデが『査問副委員長』、残る三人が『査問委員』の肩書を持っている。コヴァレフスキーを除いてライヘンバッハ伯爵家と縁が深い下級将校である。

 

「……なるほど。一二月二八日の事はよく分かった。……貴官はアルバート・フォン・オフレッサー地上軍少将の軍規を外れた行動を知りながら、それを報告しなかった。貴官はそれによって自身に惨禍の大晦日(カタストロフィー・ジルヴェスター)への責任があると考えるか?」

「オスター査問委員長殿。私にも帝都防衛を命じられた中央軍集団の一将校としての責任はありますが、それ以上に関しては小官の置かれた立場を御考慮ください。小官は一小隊の小隊長であり、オフレッサー少将閣下は戒厳司令部付き将校です。オフレッサー地上軍少将閣下が『軍務』と言い、さらに『密命』と言ったならば小官にそれを疑う術はありませんでした」

「上位指揮官に判断を仰げばよい話だ」

「勿論です、ライフアイゼン査問委員殿。しかし、オフレッサー少将閣下は口外を禁じました。反粛軍派……失礼、軍国派叛乱軍の息が掛かった人間を警戒しての事です。実際、アドラーブル空港やシュヴィヒテンベルクの守備隊が軍国派叛乱軍に通じており、帝都は軍国派叛乱軍に脅かされることになりました。小官が何ら無警戒に全てを報告していたら、軍国派叛乱軍はさらにその裏をかいたでしょう」

 

 パウマン地上軍中尉はそう言って抗弁する。実際の所、彼自身も自らの判断が正しかったと自信を持って言う事は出来ないが、一方で『あの悪夢』の中で自分が為した行動は必ず国家・臣民・軍の為になっている筈だとも思うのである。そうであるならば、このような『査問』で裁かれるのは御免である。まして、オフレッサーなどと言う野蛮な男のとばっちりを食うのは辛抱ならない話だ。

 

「まあ貴官の責任については後々考えるとして、だ。……宇宙暦七八〇年一二月三一日の事について、改めて貴官の口から聞かせて貰おうか。貴官の処遇に関する事は抜きにしても、我々は、あの失態から最大限の教訓を学び取らなければならない。先に言った通り、コヴァレフスキー少佐は『軍務省帝都事変調査委員会』から派遣されている。なるべく詳細に語るように」

「……承知しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……宇宙暦七八〇年一二月三一日。前線でどのような戦いが行われていたのかについては、パウマン中尉の証言も含む、『帝都事変調査報告書』に詳しい。しかし、その内容に触れる前に大晦日の惨禍(カタストロフィー・ジルヴェスター)至るまでの流れを説明したい。

 

 前日、一二月三〇日の事である。オーディン中央大陸――「ミズガルズ」と命名されている――西南部フランドル州キルヒェンジッテンバッハ市。古くは西方開拓の前線基地として発展し、今も交通の要衝であるこの都市が「消滅した」

 

 粛軍派と反粛軍派で和解条件の大筋が纏まりつつあり、楽観論が広まり始めていた――しかし私とクルトの暗闘が始まりつつあった――中での出来事だった。キルヒェンジッテンバッハにおいて、反粛軍派と和解交渉を行っていたアイゼナッハ大将、ゼーフェヒルト中将とは連絡が取れなくなった。周辺に展開していたオーディン防衛軍司令部隷下第四二装甲軍は高い放射線量を感知して即座に後退、しかし相当数の兵士が被爆し大きな被害を被った。

 

 少なくとも戦術級、第四二装甲軍の被害を考慮するとあるいは戦略級の核兵器が使用されたのは明らかだ。……しかし誰が何故、そしてどうやって使用したのか、当時は全く分からなかった。少なくとも反粛軍派の行動とは考えにくい、同地にはルーゲンドルフ公爵家の分家である子爵家当主クリストフ・フォン・ザイツ=ルーゲンドルフ地上軍中将が率いる地上軍征討総軍第四軍集団第五戦術支援軍を初め、大陸南西部の反粛軍派部隊が多く集結していたのだ。和解交渉開始に伴い一部はキルヒェンジッテンバッハを退去したが、なお多くの将兵が駐留していたはずだ。

 

 反粛軍派の過激派は独断で核を使いかねないが、流石にザイツ=ルーゲンドルフ中将以下大陸南西部の反粛軍派戦力の過半を巻き込んで使うのは有り得ない。一方粛軍派の過激派、白薔薇のような連中も独断で核を使いかねないが、こちらはこちらでキルヒェンジッテンバッハを市民ごと吹き飛ばすことは考えにくいし、いくら連中の力が強いとはいえ、流石に核の使用を試みれば戒厳司令部が気づく。少なくとも、事後に何ら痕跡を見つけられないという事は有り得ない。そもそも、キルヒェンジッテンバッハは粛軍派と反粛軍派の双方が厳しい監視下に置いていたのだ、核攻撃があれば誰かが気づく。キルヒェンジッテンバッハは大規模多重防御層形成システムが配備されている上に、駐留する部隊も含め都市防空能力も高い、強固で大規模な核シェルターも存在した筈で、気づいたならばここまで壊滅的な被害を受けることは無いだろう。

 

「一つ思い当たることがある……」

「……何です?アルトドルファー元帥閣下」

「地上軍は未だ戦術核を配備している。有人惑星での使用はコルネリアス二世長征帝陛下の頃にサジタリウス叛乱軍との取り決めで禁じられたが、無人惑星については禁じられていないからの。無論、第五戦術支援軍も核攻撃能力を有している筈。キルヒェンジッテンバッハの中に居る第五戦術支援軍が保有する核が誤って起爆した。……それ位しか儂はこの状況を説明する術を思いつかんなぁ」

「待ってください。自然交戦規範遵守宣言で原則として惑星・衛星大気圏内の核使用は禁止されたはずです。宇宙軍はともかく、地上軍の核兵器は全廃が決まり、いくつかの保管場所に集められている筈では?」

「卿は若いのぉ……。地上軍が本気で核武装を解除する訳が無い。殆どの部隊で今でも現役装備じゃ。……あ、いや、儂は勿論核廃棄を推進したがの、儂は実権の無い総監じゃったからなぁ。いやすまんすまん」

「……戦術核の被害では無いですが」

「……卿は長征帝陛下が命じたとはいえ、地上軍がサジタリウス叛乱軍との約束を守って戦略核を廃棄すると思うかの?儂は思わんぞよ。……ちなみにあくまで儂の個人的な考えであって、地上軍総監として客観的事実を述べている訳ではないぞ」

「……」

「……」

 

 アルトドルファー元帥の洞察は半分当たっていた。騒乱後の検証で粛軍派・反粛軍派双方の核兵器がキルヒェンジッテンバッハに対しては使用されていないことが分かり、論理的帰結として、第五戦術支援軍の保有する核が起爆したと結論付けられることになるからだ。

 

 とはいえ、今の時点ではアルトドルファー元帥の洞察は洞察でしか無いし、もしその洞察が当たっていたとしても『たまたま』事故で核が起爆したなどと言うふざけた考えで動ける筈もない。(なお、私は今でも事故だったとは一切考えていない)

 

 帝都の戒厳司令部や各地の粛軍派部隊は混乱しながらも情報の収集に努めた。私はすぐに反粛軍派との接触を試みたが、反粛軍派も著しい混乱状態にあって、生産的な話は何ら出来ず、状況の把握にはつながらなかった。しかし、反粛軍派を代表して交渉していたグライフェンベルク・ゲッフェルの両中将に加え、ザイツ=ルーゲンドルフ中将もキルヒェンジッテンバッハの消滅以来安否が確認できていないことは知る事ができた。状況から考えて、粛軍派のアイゼナッハ大将、ゼーフェヒルト中将も含め、これらの将官は核爆発によって死亡した、と考えざるを得なかった。

 

『大変なことになったな、ライヘンバッハ伯爵』

「リヒテンラーデ侯爵閣下……」

『政争で忙しい所だと思うが、帝星で核が使用されたとなるとすぐに出来る限りの手を打たねばならん。分かっているか?』

「そうですね、戦略核が使用されたとなれば周辺地域にも多大な影響が……」

『周辺地域?認識が甘いな。ミナバ運河を何とかしないとキルヒェンジッテンバッハ近郊で汚染された水が大陸南西部全域に広がっていく。そしてニョルズ海へと流れ込み、場合によっては大西洋沿岸まで影響が及ぶ』

「……浄化装置をすぐにミナバ運河に手配します」

『内務尚書が既に手配したが、内務省だけで周辺河川も含むミナバ運河全域に対応するのは流石に無理だ。軍の力を借りねばならん。戦力はいくら出せる?』

「キルヒェンジッテンバッハ近郊に展開する部隊は対核装備が行き渡った部隊から動かせます」

核攻撃下即応師団(ペントミック)は出せないのかね?』

「……自然交戦規範遵守宣言後、部隊規模が縮小された上に主にイゼルローン方面辺境に展開しています。しかも帝都の部隊は指揮官が反粛軍派についたので……」

『……不幸は続くな』

 

 リヒテンラーデ侯爵は顔を顰めて溜息をつく。私は情けない気持ちになったが必死にそれを隠し画面に向き続けた。

 

「増援を現在手配しています。医療支援、食糧支援、住宅支援など、様々な支援を複合的に行えるよう、鋭意努力している最中です」

『それは結構な事だが、軍が二つに割れている状況でキルヒェンジッテンバッハの核被害対応に充分な部隊を割けるのかね?』

「……」

『……政府は反粛軍派にも協力を求める。良いな?』

「それは……戒厳司令官として頷けない提案です。……しかし内務省や各地方行政府が被害低減の為に緊急避難的な対応を取る場合は、戒厳司令官としては最大限現場の判断を尊重します」

『書面は』

「一三時に通達の形で内務省尚書官房と司法省尚書官房宛てに。両省が受け取った後各地方行政府にも順次送ります」

『足りんな、戒厳命令として布告してくれ』

「それでは手続きに時間が……」

『何のための戒厳司令官かね。貴官が強権を発動すれば良い話だ。言っておくが、一三時までに戒厳命令として布告しないのであれば、内務省と司法省は皇帝陛下に戒厳司令官の解任を求めるぞ。責任の所在は引き受けたまえ』

「……承知しました」

『頼んだぞ。……ああ、忘れるところだった。国務尚書は案の定役に立ってない。地方行政の知識と経験が多少あったところで、国全体を動かせるものではないわ。使える国務官僚を何人か教える。協力は惜しまんから貴官が上手く使え』

「はい。感謝いたします」

 

 局外中立を志向していた閣僚たちは、キルヒェンジッテンバッハの核被害を受けて中立堅持派と秩序維持派に分裂した。前者は宮内尚書ルーゲ公爵以下保守強硬派、後者は司法尚書クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵以下保守穏健派と枢密院副議長カール・フォン・ブラッケ侯爵以下開明派である。これに伴い、幅広く官界で行われていたサボタージュの一部が解除され、断片的であるが戒厳司令部の命令に従い始めた。ブラッケ侯爵ら開明派は国務省レーヴェンスハーゲン分室を出てフランドル州州都アントウェルペンに向かい、派閥を挙げて核対応に動く構えだ。

 

「諸卿らが何と言おうと、戒厳司令部はこの事態を手をこまねいて見ているつもりはない」

 

 粛軍派上層部は、「今は状況の把握に努め、防備を固めるべき」という意見と「混乱に乗じて反粛軍派を叩くべき」という意見が六対四の割合で対立していた。しかし私はその対立を一蹴し、核被害の対応に戒厳司令部のかなりの力を投入することで押し切った。

 

「反粛軍派にはとにかく停戦を。今は大陸南西部の人命最優先だ」

 

 こちらは全面的な反対にあった。「まずは反粛軍派の出方を見るべき」との意見と「反粛軍派を叩く絶好の機会だ」という意見の両派が直接的に反対したため、押し切る事が出来なかった。

 

「分かった。なら向こうが停戦を求めてきたら応じる、これは譲れない」

『……』 

 

 不服そうな高官たちの顔を睨みつけながら私は宣言した。そして、一二月三〇日の間に中央軍集団第一機動軍の先遣二個大隊が対核装備・除染設備と共にオーディンを出立する。

 

 私は冷静なつもりだった。しかし、帝星で核が使用されてしまうという未曽有の事態に、浮足立っていたことは、最早否定のしようがないだろう。帝都の部隊を順次大陸南西部に送るべく慌ただしく部隊の配置が変わる中で、多くの混乱が生まれていた。それは反粛軍派にとって見逃せない『隙』だった。

 

 だが……粛軍派と反粛軍派が対峙する前線は帝都から遥か遠い。私が覚悟していたのは精々が拘束を免れ帝都に潜伏する反粛軍派の幾人かが逃走、あるいはテロを起こす程度の事で、まさか……あのような惨事が起こるとは、一体誰が予想できただろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙暦七八〇年一二月三一日。午前一〇時三〇分。最初の異変が起こる。ゲルマニア州と帝都特別行政区の北の境界に近い小都市、ギーセン。そこに駐留している中央軍集団第一野戦軍第三歩兵師団所属第二連隊第五大隊第二中隊からの定時連絡が無かったのだ。しかし、大隊司令部が確認の連絡を行った所、一二分後に平文で通信機器の故障を訴える電文が届いたため、粛軍派はこの異変を見逃した。

 

 そして午前一〇時五一分、帝都北部リヒテンベルク街プレンツラウアー・ベルク。シュタッケルベルク鉄道ラップランド線と国営地下鉄道北部線(ノルトバーン)のオスト・ディアガルデン駅でそれは始まった。

 

「駄目だこんな数持ちこたえられない!」

「おい、アレク……こっちにこい!」

「班長!駄目だ、ラップランド線のホームとも連絡が付かなくなった!あっちが落ちたら後ろを取られるぞ」

「クソ……改札口を放棄する……」

「不味い……奴等こっちに突っ込んできます!」

「応射しろ!」

 

 五分も満たない内に、オスト・ディアガルデン駅は制圧された。移動を制限すべく配置されていた二〇名ほどの将兵は一人を除き戦死した。その一人、アレクサンデル・ライザー一等兵は証言する。

 

「自分は敵兵が現れた際に用を足しに行っていて……そのままトイレの入り口で応戦していました。班長に従って後退しようと思ったんですが、敵兵が突撃してきて、とても合流できそうになかった。……ええ、急いでトイレの奥に入り、天井裏に隠れました。でも何が悪いんですか?何の前触れもありませんでした。シュタッケルベルクと国営のホームにそれぞれ一班ずつ。そして改札口と入口を中心に二班一〇名。多いくらいの配置だと思ってました。まさか……中隊規模の敵が現れるなんて……え?もっと多かったんですか?そうですか、なら自分は生き残ったことを不名誉だとは思いません。あの場で出来る事なんて何もなかった!天井裏に隠れてこうして何が起こったか伝えることが出来た、それで充分じゃあないですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オスト・ディアガルデン駅から三分後には帝都西部郊外の国営地下鉄道西部線(ヴェストバーン)キルヒプラッツ駅で同じ光景が見られた。

 

 ほぼ同時刻には国営地下鉄道西部線(ヴェストバーン)オリエンタリッシュ・マルクト駅とオーディン・ミッテランド・ウント・シュリーフェン鉄道ローマン・センター駅が。

 

 一一時〇二分には国営地下鉄道中央環状線(ツェントルムリングバーン)・シュタッケルベルク鉄道ヴェストゲルマニア線等四路線が乗り入れるオーディン中央駅(ハウプトバーンホーフ)が。

 

 一一時〇四分頃には国営地下鉄道西部線(ヴェストバーン)及びオーディン・ユニバーサルライン空港線のフェザーン高等弁務官事務所前駅と国営地下鉄道中央環状線(ツェントルムリングバーン)等八路線のターミナル駅であるヴィルへイム街西駅が。

 

 一一時一〇分には国営地下鉄道東部戦(オストバーン)オーディン海難審判所前駅と国営地下鉄道のシャーマン街東車両基地が。……相次いで奇襲攻撃を受け、警備についていた部隊がいずれも壊滅する。ほぼ同時刻、戒厳司令部はようやく帝都に反粛軍派の地上部隊が多数浸透している事を把握する。

 

「敵軍はホテル・ハノーファーを制圧し臨時指揮所を置いた模様!マルサス=ブレンハウザー通りからリヒャルト一世名文帝恩賜公園までの警戒線は完全に崩壊!」

「ノイケルン街の第三検問所に敵部隊が殺到。第一機動軍第六機械化大隊は既に損耗率二割に到達!援軍を求めています」

「リヒテンベルク街方面、ファルケンベルクとフェンププールを失陥。オーディン防衛軍第六混成師団第二大隊はライニッケンドルフ街へ後退!」

「帝国大学シェーネフェルトキャンパスからの支援砲撃でモアビートの第一検問所と一個中隊が壊滅、敵軍がヘルムスドルフ・プラッツからオーバー・ファルストロングまで進出しています。偵察ドローンの情報によるとその規模はおよそ一個機械化大隊!」

 

 数分も経たない内に戒厳司令部は野戦指揮所さながらの怒号に包まれた。

 

『こちら第一機動軍司令部!ミッテ街の防衛指揮者は第一機動軍第三機械化大隊指揮官で相違ないか!?』

『特警隊第一司令部第二野戦憲兵大隊です!我々は中央軍集団ではなく戒厳司令部の統制に服せば良いのですよね?』

『帝都防衛軍第二混成旅団の上位司令部を聞きたい!我々は帝都防衛軍司令部の命令は待たなくて良いんだよな?というかそもそも目の前の部隊は帝都防衛軍じゃないよな?』

「帝都の防衛・秩序維持は原則として戒厳司令部の職責である。戒厳司令部から追って指示あるまで各部隊は現地点の防衛と維持に努めよ!」

 

 現在の帝都は粛軍派についた複数の部隊が混在して展開している。それぞれの部隊が担当とする地区と、任務こそ決まっていたが、そもそも反粛軍派の部隊と戦闘が起こる事は想定されていなかった。その上奇襲を受けて指揮系統が寸断され、所属も違う部隊が混在し、まさしく粛軍派の帝都部隊は烏合の衆だった。

 

「シュリーフェン地上軍中将を帝都防衛軍司令官から解任し、中央軍集団司令官メクリンゲン=ライヘンバッハ地上軍大将を帝都防衛軍指揮官に任命する。一四時を以って帝都防衛の全権を中央軍集団に委ねたい。宜しいか?」

『私は異存ありませんが、正直に申し上げれば現状帝都に展開する部隊の全てを小官は把握できていません。また、中央軍集団の半数以上は帝都特別行政区ではなく周辺のゲルマニア州に展開しています。戒厳司令部として状況を明瞭化しないまま指揮権だけを引き継がれても、混乱を収拾できるとは限りません』

「……分かった。まずはオーディン防衛軍司令官のケッテラー地上軍中将や特警隊第一司令部統括官のアシャール宇宙軍中将に部隊の統制を回復してもらおう。指揮権の一元化はその後だ」

『それが宜しいかと。中央軍集団の一部部隊を帝都に向かわせます。一八時頃には敵軍の浸透が激しい帝都西部から帝都北部にかけて、帝都の外から砲撃を開始します』

「一八時?」

『国道三号線が爆破されました。現在復旧工事を行っています。それが終わるまでは効果的な兵力を送る事は出来ません。……爆破は中央軍集団内部の仕業だとみています。そもそもゲルマニア州を反粛軍派が突破出来た事自体、粛軍派内部の協力が無ければ……』

「……スリーパー、か。恐れていたことが現実になったか。了解した。身辺に気を付けてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指揮権者すらハッキリしない程の著しい混乱状態にある中で、厳しい状況に置かれた前線の将兵はその勇気と能力を試されることとなった。この試練を乗り越えた部隊がいくつかある。一つは赤色胸甲騎兵艦隊陸戦軍である。

 

「マクファーレン中隊がアウタースペース連絡評議会事務所を奪還。区道三四号線を確保、ミツボシ東洋講堂に孤立していた特警隊は辛うじて健在!」

「よーし!大きい、これは大きいぞ……。第一野戦軍第二砲兵大隊にベッサウ街とクロムウェル街中の野砲を集めてミツボシ東洋講堂に運び込ませろ!反攻の橋頭保にするぞ」

 

 赤色胸甲騎兵艦隊特務主任参謀バルヒェット宇宙軍准将(戦時昇進)はその知らせに歓喜の声を挙げた。敵軍が野戦重砲を持ち込もうとしていたミツボシ東洋講堂の陥落を防ぐことが出来たことは、未だ辛うじて戦線を維持している帝都東部の諸部隊にとって大きな勝利である。

 

 赤色胸甲騎兵艦隊陸戦軍は宇宙軍の部隊であり帝都占領が完了した後は地上軍の諸部隊に帝都の秩序維持を移管し、中央大陸東部へと転戦した。しかし宇宙港などいくつかの重要拠点の警備に引き続き部隊を残していた。

 

 メルクリウス市の軍機関や宇宙関連施設を警備していた赤色胸甲騎兵艦隊陸戦軍が反粛軍派の初撃をほぼ受けることなく、纏まった戦力を保持して統制を保ったまま戦闘に入る事ができたことは、大晦日の惨禍(カタストロフィー・ジルヴェスター)では粛軍派にとって数少ない幸運材料だったと言って良い。

 

 陸戦軍の兵力は三〇万、これは地上軍の管区総軍軍集団が完全に定数を充足した本来の数(・・・・・・・・・・・・・・)に匹敵する。(管区総軍軍集団は野戦軍・装甲軍・航空軍で構成。これに戦術支援軍と機動軍が加わる征討総軍軍集団は定数五〇万前後)

 

 勿論陸戦軍の過半は帝都を離れていた為、一二月三一日時点で帝都での戦闘に参加できたのはオーディン第一宇宙港と周辺警備にあたっていた第二赤色陸戦軍団六万人の半数第七赤色陸戦師団と第八赤色陸戦師団合計三万人であるが、これは帝都東部から南部の防衛において大きな戦力となった。

 

 しかし……。それでもなお、帝都東部地域は……そしてバルヒェットは厳しい状況に置かれていた。

 

「区道三四号線を移動中の汎用自走砲二両が破壊されました!第二砲兵大隊第一中隊は移動を中止!」

「馬鹿な!一体何故だ!?」

「だ、第二ラインラント金属オーディン支社ビルから激しい攻撃を受け、自走砲は愚か戦車ですら突破は難しいとのこと」

「第二ラインラント金属って……二〇分前までこちらの狙撃兵が展開してたビルだろ、こちらの勢力圏じゃないのか!?」

 

 第七・第八赤色陸戦師団司令部は旗下部隊の指揮に集中している。他部隊との連携など、広い視野での判断は陸戦軍司令部で行う必要がある。緊急性・重大性が高いと判断された情報は矢継ぎ早に報告され、それに対しバルヒェットは必死に対応する。

 

「キフォイザー戦勝広場の物資集積所に襲撃!ベッサウ街第四検問所との交信途絶!」

「なんだと?誤報じゃないのか?状況を確認して必要なら第八の予備兵力から一個中隊を割け!」

「第七陸戦師団第二機甲化大隊に甚大な被害、グロースジードルング・ブリッツから対戦車ヘリが展開しているとの報告!」

「対戦車ヘリだと!?そんなものまで持ち込んでいるのか!?……いや、元々帝都周辺に居た部隊から流れたのか!航空部隊は使えない、中型無人対地制圧機(ドローン)が何機か遊んでたな?第二機甲に渡してやれ」

 

 大貴族の子弟は、有事の際には私兵軍の指揮官となる。大抵有能な補佐役が付き、お飾りの指揮官として据えられるが、当主や嫡男となるとまるっきりお飾りで居る訳にもいかない。バルヒェットも軍級部隊の指揮の基礎を征討総軍で作戦参謀を務めた退役地上軍少将から高いレベルで学んでいる。……宇宙軍の同階級における他の軍人よりは、という注釈はつくが。とにもかくにも、それによって辛うじて赤色胸甲騎兵艦隊陸戦軍の事実上の司令官代理という過分な地位を務められていた。

 

「オーディン高等公検部庁舎方面で新たに装甲車二台を含む中隊規模の敵を発見。第七陸戦師団は既に部隊をクラップ・マルクトまで進めており対応できないとの事!」

「中央軍集団の部隊がその辺りまで後退していた筈だ、時間を稼がせろ!」

「レール川のエドガー・ブリュッケが爆破されました!マクシミリアン街との連絡が途絶!」

「橋を落としただと!?連中退路はどうするつもりだ!死兵とでも言うつもりか!」

 

 だが、何事にも限界はある。敵を押し戻したはずなのに、戦線の後方に相次いで新たな敵が現れる状況に、バルヒェットは疲弊していた。戦闘開始から凡そ一時間と三〇分。バルヒェットの器量の限界が見えたその瞬間、その男が現れた。

 

「……地下鉄だ。大佐」

「は?」

「私は最初、奴等が建国以来の秘密地下道など、私達が知らない経路を使っているのではないかと疑った。しかしそれではいくら何でも数がおかしい。兵士もそうだが重砲や戦車、装甲車等が多すぎる。それに秘密通路を利用しているのであれば叛徒共が出現する位置は我々の喉元、新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)や官庁街、あるいは貴族の邸宅に限られるはずだ。ところが、連中の出現する位置はあまりにも広範囲であり、尚且つ目立つ。そんな場所に秘密通路があるものか。また、秘密通路ならば距離は短く、あまり遠方から姿を隠すことは出来ない筈だ。ゲルマニア州の警戒部隊が気づかないのは……一部が裏切っていたと仮定しても不自然だ」

 

 眉間に皺を寄せた険しい表情でその痩せ型の男……シュターデン地上軍少将は淡々と語る。敵軍の奇襲が始まった当初は「有り得ない!」と見ていられない程に取り乱していたが、その様子は最早微塵も見受けられない。

 

「今の今まで集まった情報を分析し、敵の狙いを考え続けていた。……地下鉄の駅だ。連中は地下鉄の駅から奇襲を繰り返している。そしてその目的は陽動に違いない」

「待てシュターデン……少将閣下。陽動だと?何の陽動だ?」

「恐らくは、要人の暗殺か、皇帝陛下の拉致、あるいはその両方。……ここまで大規模な陽動を行うのであれば、あるいはライヒハートの解放も視野に入れているかもしれない」

「……それは……」

 

 バルヒェットは数秒考え込み、シュターデンの分析に説得力があることを認めた。

 

「少なくとも地下鉄で移動しているというのは有り得る話だ。……おい、司令部直属の精鋭部隊(プファイル)からすぐに偵察班を編成しろ」

「それと、連中の部隊の有人化率は極端に低いようだ。反粛軍派の拠点からオーディンが遠い事を考えると、これは理に適っている。粛軍派が警戒している人の移動よりは物の移動の方が隠蔽性が高い。市街戦での奇襲故に我々は浮足立っているが、相手の大半が無人兵器とアンドロイドならば、統制を回復すれば容易く押し返せる。……おい、マクファーレン、エルナルド、ザイフリートに敵軍の無人化率を調べるよう伝えてくれ。赤色の誇る殊勲兵(エース)である彼等ならやってくれる筈だ。……バルヒェット」

「何だ?」

「偵察班が確証を掴むまでは、これは仮説に過ぎん。今は眼前の問題に対応する事に集中してくれ。そして……確証を掴んだ後の事は私に任せて貰おう」

「……了解した」

 

 赤色胸甲騎兵艦隊陸戦軍は大晦日の惨禍(カタストロフィー・ジルヴェスター)において粘り強く戦った。そして、反撃の瞬間を待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、一二時〇五分頃、シュパンタウ街ジーメンス・パルク――ライヒハート記念収容所の裏手、番地を二つ挟んだ広大な公園――では血で血を洗う激闘が続いていた。帝都に浸透した反粛軍派部隊は、同公園を要塞化した上で砲兵陣地としようと試みていた。これは二つの点で不味い。帝都東北部が砲兵の傘によって守られる形になり、粛軍派部隊がより苦しい戦いを強いられるという点、そして直近のライヒハート記念収容所が砲撃を受け、恐らく甚大な被害を出して収容所を放棄せざるを得なくなるという点だ。

 

 故にコーゼル大佐はその動きに気付いた瞬間に、収容所の内部から三個中隊を割き、公園の北方から二個中隊、東方から一個中隊を突入させようと試みた。

 

「ハイヤー大尉、ダメです。第二小隊は完全に足を止められた!突撃は失敗です!」

「クソッ。……第二小隊を後退させる、支援攻撃を……」

 

 その瞬間、轟音が鳴り響く。ジーメンス・パルクの東門から二つのルドルフ像の間を通って装甲車を盾に少しずつ内部へ進み、駐車場とテニスコートの境界まで辿り着けていた第二小隊の半数が一瞬で『削られた』。テニスコートの向こう側から鉄網を踏み倒しながら、鉄の恐怖が現れた。

 

「フィールドグレー……連中そんなものまで!帝都を灰燼に帰す気か!?」

 

 フィールドグレーとは帝国軍の強化外骨格装備兵、同盟で言う装甲機動歩兵(パワードスーツ)を指す言葉だ。第三世代型五〇ミリメートル対陣地機関砲装備中型陸戦強化外骨格――ヨートゥン――、第四世代型対地支援型大型飛行強化外骨格――通称フレースヴェルグ――、第四世代型一二〇ミリメートル汎用高射砲装備大型陸戦強化外骨格――通称ムスペル――とそれぞれ北欧神話にちなんだ別名が地上軍総監部によって名付けられているが、同盟のそれが塗装の色にちなんで橙色の丘(オレンジ・ヒル)と呼ばれるのと同じく、帝国のそれも塗装の色にちなみフィールドグレーと呼ばれることが多い。

 

「退避!退避!」

「ダメだ、間に合わ……」

 

 装甲車が吹き飛び、第二小隊の兵士たちが木端微塵となる。一人としてルドルフ像より門側には辿り着けず、肉片へと変わる。さらに背部の小型汎用ミサイル四基が東門の側、ルドルフ像近くに展開していた中隊に降りそそいた。こちらは距離もあり、素早く後退することで大きな被害は回避できた。しかし、ゆっくりと歩みを進めるヨートゥンを止める術はなく、やがて退避することもかなわずその絶大な火力で磨り潰されるだろう。

 

「散開しろ!固まれば纏めて吹き飛ばされるぞ!……おい止めろ、フィールドグレーに対戦車無反動砲(シュツルムファウスト)は無駄だ!対戦車誘導弾(シュペアー)の用意が終わるまで」

 

 言い終わる前に鉄の嵐がシュツルムファウスト……歩兵携行対戦車無反動砲を持ち出した兵士をズタズタにした。勇敢な兵士の打ち出した砲弾は明後日の方向へ飛んでいく。秒速一二〇メートルの弾丸も、誘導性が無い以上フィールドグレーの機動性を前にしては無力だ。しかも大抵は発射までの時間で掃討されるだろう。

 

 戦術教本において対戦車無反動砲(シュツルムファウスト)による対パワードスーツ戦闘では散兵戦術を取りながら最低一二人の射手による飽和攻撃を仕掛けることとされている。照準合わせから発射までに三人、着弾までに一人が無力化され、また回避行動で三発が逸れ、人為的要因で二発が逸れ、それでも三発が着弾してパワードスーツを無力化するという計算である。しかし神出鬼没のパワードスーツに対して教本通りの攻撃を仕掛けられることは稀だ。

 

『第三小隊第一二班。東門より約六八〇メートル東方、カーシービル屋上より攻撃を開始します』

「射手を援護する!全員ありったけの弾丸をフィールドグレーに!装甲は抜けなくても反動は伝わる!」

 

 散会した兵士たちが一斉に銃撃を開始する。歩兵中隊が装備している対戦車誘導弾(シュペアー)など、早々高性能な代物ではない。戦車(パンツァー)ならともかく、フィールドグレー相手に無策で撃ったところで回避される。というより、そもそも誘導自体不可能だ。

 

「第五班、レーザー照射します!」

『……駄目だ、レーザーが認識できない。照射を継続してくれ』

「回避運動をやらせるな!」

「機関銃手も散開するんだ、狙われるぞ!」

「撃て!撃て!」

 

 ヨートゥンは銃撃が集中して照準が安定しない機関砲を諦め、肩部の自動小銃で応戦する。さらに、ヨートゥンに随伴して前進してきた敵の歩兵がハイヤー中隊に容赦なく銃撃を浴びせる。

 

「第五班はもうダメだ!照準器を持ってる奴は誰かいないか!」

「大人しく沈めデカブツが!」

「第七班が引き継ぐ、援護を!」

『三秒で良い、目標のこちらから見える位置に照射を続けてくれ』

 

 著しい損害を出しながらも中隊は何とかヨートゥンへの集中攻撃を維持する。戦車や装甲車ならば無視できる歩兵の銃撃も、中に人が入っているヨートゥンは無視できない。反動に弱いというのはパワードスーツの数少ない弱点である。

 

「まだか!」

『よし良いぞ……発射(ファイエル)

「着弾まで四秒!四、三、二、一」

 

 ドン!対戦車誘導弾(シュペアー四一五)がヨートゥンに突き刺さり爆発する。ハイヤー中隊は歓声を挙げた。

 

「当たった……当たったぞ!」

「やれたか……!」

 

 しかし、ドンドンドンドンという一定のリズム重低音と共にヨートゥンを囲む兵士が吹き飛ぶ。ヨートゥンは左腕部から首元にかけての装甲が酷く歪み、一部は内部機構が露出しており、肩部の自動小銃も見当たらない。しかし、それでも健在であった。

 

「駄目だ!直撃してない!」

「銃撃を続けろ!奴は生きてるぞ!」

「落ち着け!攻撃は効いている!ミサイルの再誘導を急げ!」

「第七班が今の攻撃で吹き飛んだぞ!」

 

 ハイヤーは唇を噛みしめ、そして怒鳴った。

 

「早く駆逐戦車(ヤークトパンツァー)を回させろ!これじゃあ敵軍の陣地構築を阻止する所の話じゃないぞ……こちらが壊滅する!」

「駄目です、路地の老朽化が激しく大きく迂回しているそうです!」

「ならせめて援軍を!一個中隊で突破するのは無理だ!」

「ライヒハート記念収容所の正門側も猛攻を受けていて防戦で手一杯だと……」

「そりゃ収容所の部隊はそうだろうさ!この帝都に一体どれだけの兵士がいると思ってる!?いくらでも暇人が居るだろう!」

 

 第一軍集団の旗下部隊、第二機動軍第四機械化師団で一つの中隊を率いるロバート・ハイヤー地上軍大尉は白薔薇党の理念に賛同してライヒハート記念収容所に中隊を率いて参上した。同じような経緯でライヒハート記念収容所に勝手に集まった部隊はそう少なくない。故に、ライヒハート記念収容所には同規模の重要拠点に比して比較的多くの戦力が存在していた。

 

 しかし、その代償としてライヒハート記念収容所は周辺部隊から孤立していた。白薔薇党のシンパ自体は帝都に幅広く存在するが、ライヒハート記念収容所の周りはテコでも動かぬ頑迷な人間たち――白薔薇党の視点で――で固められ、事実上包囲状態になっていた。

 

 実際、ライヒハート記念収容所が猛攻を受ける中、周辺部隊は早々に潰走ないし後退している。……あるいは、「敢えて」反粛軍派部隊にライヒハート記念収容所を明け渡そう、と考えた将校すらいるかも知れない。将校の中には収容されている人間の元部下や遠い親戚すら居たのだ。

 

「第九班、レーザー照準器を喪失しました!ミサイル誘導不能、誘導不能!」

「野郎、片っ端から誘導手を潰してやがる……もっと第一小隊、弾幕を!動きを封じろ!」

「無理だ!中隊長、敵部隊が突撃体制を取ろうとしている、野放しに出来ない!」

「……最早これまでか!全員着剣しろ!コーゼル大佐は命に代えてもここを抜けと仰った。かくなる上は命を懸けて奇跡をつかみ取るしかない!」

「……!」

 

 悲壮な表情でハイヤー大尉は叫び、兵士たちも多くが覚悟を決めた表情で小銃に剣を装着する。兵士たちも望んでここに来た。士気は高いのだ。

 

「何人かは対戦車無反動砲(シュトルムファウスト)を担いでけ!後方は気にするな!我等の屍を超えて、同胞たちが真の正義を実現することを願おう!いざ……」

「……そうそう早まるもんじゃない。勿体ないじゃあないか。命は切り札だ。効果的に使わねばな」

 

 ハイヤー大尉が「突撃」と叫ぼうとしたその瞬間。その肩を叩くものが居た。金髪長身で肌を浅黒く焼いた筋肉質の男性がそこには立っている。それは地上軍が誇る殊勲兵(エース)の一人。装甲擲弾兵一個小隊に勝る戦闘力と評される怪物。中央軍集団第一独立混成旅団第一猟兵大隊、通称『英雄大隊』を率いる不死身の大隊長。帝国・同盟地上軍の中で最も人間の限界に迫っている兵士の一人。

 

「何だと……?誰だ……まさか貴方は!?」

「アドルフ・カウフマン。中央軍集団第一独立混成旅団第一猟兵大隊長。貴官らの救援要請に応えて参上した」

 

 アドルフ・カウフマン地上軍中佐。二等兵として一般部隊に徴兵された後、ワルターシュタットの戦いで目の良さを買われ狙撃小隊の補充人員となる。その後、僅か二年間で三二一名を射殺。二年四カ月で四〇〇名の大台に乗せる。しかしその後ほどなく目を負傷し一線を退く。最終記録は四三〇名で、帝国軍狙撃兵歴代狙撃記録二〇位。

 

 この時点で軍曹として狙撃分隊を率いていた為、正式な下士官教育を受け軍に残ることを選択。小隊長たる曹長として消耗品同然の扱いで第二次エルザス=ロートリンゲン戦役で前線に回されたが、そこで際立った功績を挙げ続ける。また、個人としても戦役中に戦車二両、自走砲一両、車両八両、ヘリ二機、無人化兵器(ドローン)四機、アテナ級輸送機一機、機械兵三七機、重装騎兵(パワードスーツ)四名を含む将校・兵士八三名という驚異的な撃破記録を打ち立てる。その後も指揮官としての功績と兵士としての記録を積み上げ続け、現在に至る。

 

「……なるほど。ヨートゥンまで持ち出してきたか。そりゃ絶望もしたくなる」

「そ、そうです。高名なカウフマン中佐に救援していただけるとは有難い!英雄大隊のフィールドグレーであのヨートゥンを叩きのめしてください!」

 

 ハイヤー大尉が目を輝かせてそう言うと、カウフマンはヘラりと笑って事も無げに「俺達のフィールドグレーはここに居ない」と言う。

 

「な、何故ですか?」

「帝都西部のオーディン文理科大学リヒャルト一世名文帝陛下記念キャンパスに送った。あそこが落ちたら新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)に精密砲撃が可能になる。そうなりゃ連中は皇帝陛下に弓引くリスクを負わず皇宮警察本部(粛軍派の本拠地)だけを狙い撃てる」

「そ、そんな……フィールドグレーが居なければいくら『英雄大隊』でも……」

 

 ガックシ、という擬音がピッタリな肩の落とし方を見せるハイヤー大尉の背中をパンと叩いてカウフマンは笑った。

 

「木偶の坊の殺し方なんていくらでもあるさ。命の使い方、手本を見せてやる。……中隊配置についたか!よし、では始めるぞ!」

 

 パン、パン、パンと大きな音が立て続けに鳴る。音の度にヨートゥンと一緒に突出していた反粛軍派の兵士たちの頭が吹き飛ぶ。こと狙撃に限って言えば地上軍の猟兵たちは装甲擲弾兵に勝る実力を持つと言われる。その最精鋭である第一猟兵大隊の狙撃支援班が繰り出す弾丸一発一発が正確に反粛軍派の兵士を撃ち抜き部隊の損害を拡大させていく。突撃態勢を取りつつあった反粛軍派が明らかに怯んだ。

 

「ん?ありゃ機械兵(ブリキ)じゃあないか?……はーなるほどね。烏合の衆には機械人形で十分ってか。どうする大尉?舐められてるぞ」

「……」

 

 ハイヤー大尉はその言葉を聞き赤面する。先ほどまで苦戦していた敵兵が機械兵だったとは。道理で射撃が正確な訳だ。相手が機械ならばいくらでもやりようはあった。機械兵の裏をかく動き、例えば門に拘らず適当な柵を乗り越えて侵入するだけでも正面で殴り合うよりマシだったろうし、EMP兵器を使えば一瞬で方が付いたかもしれない。

 

「しかし、機械兵ならビビらねぇから狙撃手に派手に銃声を鳴らさせた意味もないな。ま、いいか。……お前ら行くぞ!」

 

 バババババ、茂みから激しい銃撃がヨートゥンに浴びせられる。ヨートゥンが機関砲と肩部機銃を向け応射するが、その時には茂みに兵士の姿が無い。すると別の方向からも銃撃。やはり応射するが、兵士たちは逃げている。そんなことを数度繰り返す。

 

「ハイヤー大尉、もう一度前進するぞ、門は避けて両脇の柵を超えろ。……機械兵共には撃ち勝てよ?」

「はい!……しかしフィールドグレーの気を引いたところで、撃破できなければ……」

「まあ見てろ」

 

 やがて、明らかにヨートゥンの銃撃が正確になった。次々に両脇の茂みに潜んでいた兵士たちが血祭に挙げられる。

 

「ああ、不味い。きっと赤外線センサーを使い始めたんだ」

「今だ!」

 

 その合図と共に公園の門から少し内部側、駐車場端の案内掲示板の裏から四人の兵士がヨートゥンに向けて発砲する。しかし普通の銃弾ではない。ヨートゥンに着弾した銃弾は激しく発光する。

 

「だ、ダメです!あの程度の光じゃ安全機構でカットされる!」

「いいや、これで良いさ」

 

 ハイヤー大尉が言った通り、一瞬だけ硬直したヨートゥンはすぐに動き出し、案内掲示板に向け突貫する。

 

「パイロットは誘導された。あの地点に」

「え……?」

「閃光弾を打ってきた小賢しい兵士をまず殺す。近いから機関砲で撃つよりもこのまま轢き殺した方が早い。肩の自動小銃は一つが吹き飛び、もう一つも茂みの兵士に乱射した。パイロットの心理として、叩き潰して事が済むならそこに『甘える』。弾薬は無限じゃないからな」

 

 カウフマンの言った通り、ヨートゥンはスラスターを吹かせ案内掲示板ごと兵士たちを押しつぶそうとする。

 

「だが、俺の部下はそう簡単に死なない。辛くも逃げ延びる兵士をパイロットは目線で追う。二人は大胆にもヨートゥンの脇を抜けた。一人は茂みに全力で飛び込んだ。が、あと一人は無様に門へと逃げ出している。まずはそいつから……パイロットは考える」

 

 ヨートゥンの目線が門へ逃げる一人へ止まる。

 

「パイロットはそこで気づく。斜線上にルドルフ大帝陛下の像があることに。僅か一人の為に大帝陛下の像を吹き飛ばして良いものか?逡巡する」

 

 ヨートゥンは機関砲を向けるが、発砲しない。

 

「そして丁度良い獲物に気付く。そう。俺達だ」

「え?」

「よく見るといつの間にか小賢しい兵士たちが門ではなく柵を超えて公園に侵入している。これは痛い目を見せてやらねばならない。大帝陛下の像と一緒に兵士を撃つべきか否か、そんな面倒臭いことも考えないで良い。この馬鹿共を血祭に挙げたらならば、兵士一人くらい逃がしてもおつりが出る。これ幸いとさあ構えた。狙いを定めた。そして……引き金に指を掛けた」

「ま、不味い!後退、後退しろ!」

 

 ハイヤー大尉が慌てて後退を命じるが、カウフマンは全く動じない。

 

「三、二、一、……ドカーン」

 

 カウフマンがそう言った瞬間、激しい爆発が襲った。ただしハイヤー中隊ではなく……ヨートゥンを。

 

「え……?」

「や、やった……『英雄大隊』がフィールドグレーをやったぞ!」

「よっし!進め、進め!」

 

 ハイヤー中隊は勢い付く。ハイヤーは何が起きたのか分からないという様子だ。カウフマンはハイヤーに微笑む。

 

「……今のは、対戦車誘導弾(シュペアー)?」

「いいや、対戦車無反動砲(シュトルムファウスト)だ。見ろ」

 

 茂みの中から兵士が一人、対戦車無反動砲(シュトルムファウスト)を携えて現れる。

 

「あの兵士……そうか、最初からあそこに!」

「そうだ、至近距離で対戦車無反動砲(シュトルムファウスト)をぶち込む。全てはその為の誘導だ。予め茂みに対戦車無反動砲(シュトルムファウスト)を隠していた。戦意にみなぎる歩兵が対戦車兵器を持って近くにいれば、パイロットも馬鹿じゃあないから肉薄攻撃を警戒する。が、閃光弾を撃ち込むなんて小賢しい真似をした挙句、無様に逃げ惑う兵士が一人近くに居た所で、何の警戒もしないのさ」

「……」

「大尉。呆けている暇はないぞ、部下達が指示を待っている」

「ああ……よし!あとはブリキ人形共を片付けるぞ!公園を……」

 

 ハイヤー大尉が指示を下そうとしたその時、彼等が潜む駐車場横の樹木群にミサイルが降り注ぐ。

 

「中隊長!フィールドグレーがもう一機!」

「奴等どれほどの戦力をここに割いているんだ……!」

「……装甲がボロボロだな。公園の北側で余程激しい戦闘があったと見える。カリウスの中隊が居ればヨートゥンは何とか潰しただろう。……北への援軍は間に合わなかったか。二個小隊をさらに北門へ回せ。……大尉」

「はい!」

「貴官の中隊はそのまま奥へ、俺が連れてきた二個小隊は援護に回す。あのフィールドグレーは私と狙撃班に任せてくれ」

「な……お一人で戦うつもりですか!?」

「随伴歩兵は僅かだし、フィールドグレーの損耗は激しい。あれなら対戦車無反動砲(シュトルムファウスト)を何処にぶち込んでも機能停止に追い込める。俺一人で十分だ」

 

 第一猟兵大隊の兵士がカウフマン中佐に対戦車無反動砲(シュトルムファウスト)を手渡す。

 

「大隊長、こちらを」

「ああ、すぐに追いつく。大尉、そろそろ敵軍の陣地構築も進んでいる筈だ、今叩かなければ不味いぞ」

「……了解しました!御武運を。中隊進め!」

 

 ハイヤーの中隊が第一猟兵大隊の二個小隊と共に樹木群を突っ切ってテニスコートの裏手へと向かう。北側から来たヨートゥンがそちらへと機関砲を向けたその時、ヨートゥンの左側二メートル程の地面が爆発する。

 

「デカブツ!俺の首は欲しくないか!?恐らく国防殊勲章、二階級昇進、終身年金モノの首だぞ!」

 

 爆発の原因はカウフマン中佐が投げた手榴弾だ。両手を広げ獰猛な笑みを浮かべながらカウフマン中佐はフィールドグレーの左方八〇メートル程の場所でその身を晒す。公園の奥側に進むハイヤー中隊とは反対の位置だ。ヨートゥンは一瞬硬直し、カウフマン中佐へと肩部小銃を乱射する。

 

「撃たれるって分かっていれば、避けるのはそう難しい事じゃ無いんだ。特に生身の人間が撃つ訳じゃ無いならな」

 

 カウフマン中佐は対戦車無反動砲(シュトルムファウスト)を抱えながら器用に前転しそのままヨートゥンの周りを全力で走る。ヨートゥンの小銃は空しく地面を穿つ。恐らくパイロットは激しく動揺していただろう。対戦車無反動砲(シュトルムファウスト)の有効射程距離はバリエーションによって違うが大抵五〇メートルから一五〇メートル。とはいってもヨートゥンの装甲を抜く必要があることと弾速が遅いことを考慮すると確実に仕留めるには肉薄する必要がある。カウフマン中佐との距離は既に五〇メートル程。もう撃っても良いが近づけるところまでは近づきたい。

 

(オフレッサー……目論見通りここと文理科大は抑えてやる。この俺がお前さんの出世の為に骨を折る形になったんだ。せめて手早く済ませて貰わんとな)

 

 二〇分後、多大な犠牲を払いながらジーメンス・パルクの中央広場から北半分を制圧したハイヤー中隊の下に、アドルフ・カウフマン中佐は合流する。撃破記録に重装騎兵(パワードスーツ)一、機械兵六を加えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、大陸南部シェルミ州オストガロア宇宙軍基地。第二猟兵分艦隊陸戦軍航空総隊司令部ブリーフィングルーム。

 

「ユトランド州、リトアニア州、シェラン州の北部三州は元々別の大陸であったが、大陸移動によって中央大陸(ミズガルズ)の一部となった。その際の衝突で形成された中央大陸(ミズガルズ)中央部を東西に貫く

オーディン最大の山岳地帯、それがスリヴァルディ山脈である。スリヴァルディ山脈はほぼ完全に北部三州と大陸の他の地域を遮断しており、その為大小一〇〇を超える連絡路が作られた。反粛軍派は北部三州に兵力を結集、再編を行いながら、これら連絡路の確保に乗り出している」

 

 ブリーフィングルームには六〇名を超す大勢のパイロットが終結している。陸戦軍航空隊に所属する者だけではなく、母艦空戦隊……すなわち第二猟兵分艦隊各艦に配置されたパイロットも最大限招集されているからだ。その前で作戦士官が説明を行う。戦場は帝都だけでは無かった。

 

 メインスクリーンの地形図が山岳の丁度中央付近にズームする。Yを逆にしたような形の道路と周囲を囲む山々。そこには帝国地上軍第八軍集団を初めとする諸部隊を表すアイコンが所狭しと並んでいた。

 

「本日午前一〇時、北部三州と帝都を繋ぐ最大規模にして最短経路となる大陸縦貫高速道路に対し、反粛軍派が第五軍集団を中心として大規模な攻勢に乗り出した。既にワレンシュタインからノルトシュミットに至る北方一五一キロメートルが敵軍制圧下に置かれたが、第八軍集団がシュミットベルク・バイパス付近に構築していた大規模な防御陣地によって、その勢いは押しとどめられた」

 

 第二猟兵分艦隊第一二〇三航宙旅団第一六母艦空戦隊第六中隊『ガイエス』中隊長代理ホルスト・シューラー宇宙軍少尉。後のトップエースたる彼も今は士官学校を卒業して僅か四年の若輩者。非常招集を受け緊張の面持ちでブリーフィングに出席し、メインスクリーンを見つめていた。そのメインスクリーンでは作戦士官の説明に合わせ、地形図の北方に第五軍集団を表すアイコンが現れる。その少し南には後退中と見られる第八軍集団隷下部隊のアイコンもだ。第五軍集団の部隊は両脇の山々と南方の山々から猛攻を受けているようだ。 

 

「しかし、反粛軍派は大規模な航空部隊を送り、第八軍集団の陣地を航空支援で強引に突破することを目論んでいる。現地では隷下の第九航空軍に加え、ミズガルズ防空軍から即応可能な四個航空大隊が展開し抗戦しているが、如何せん航空軍集団が敵に回っては量と質の双方で分が悪い。制空権は喪失寸前の状態にある。そこで第二猟兵分艦隊陸戦軍航空隊の諸君にも出撃命令が下った。第一陣として巡航揚陸艦三隻からなる制空隊を派遣する。また、現在所属に囚われず稼働可能な予備機をかき集めている。母艦空戦隊で大気圏内飛行経験のある者は順次予備機に乗り込み、第二陣の巡航揚陸艦と共に臨時航空支援隊として戦場へ向かってくれ。……何としてもシュミットベルク・バイパスを抜かせるな。健闘を祈る。以上解散」

 

 陸戦軍航空隊のパイロットたちが一斉にブリーフィングルームを出る一方で、母艦空戦隊の動きは鈍い。

 

「おいおい……重力下での空戦なんて士官学校以来だぞ……勘弁してくれ」

「予備機ってまさか白い棺桶(ワルキューレ・Yウイング)じゃないだろうな?あれで航空軍とやり合えってそんなの鴨撃ちだぜ」

 

 シューラーの横を険しい表情の空戦隊パイロットが通り過ぎる。シューラー自身も不安を隠せない。宇宙空間と大気圏内ではまるで勝手が違うのだ。そして白い棺桶ことRSS-4F『ワルキューレ・Yウイング』……。科学技術総監部帝国艦載艇研究所(Reichs Schnellboot Segelflug)が開発した単座式戦闘艇の傑作RSS-4『ワルキューレ』に大気圏内飛行能力を持たせたあらゆる任務に投入できる大型汎用戦闘機(マルチロール)、と言えば聞こえは良いが……宇宙空間で扱う機体をどれほど改修した所で航空機としての性能は低い。図体ばかり大きい、姿勢制御が難しい、ミサイル搭載数は僅か六基、装甲は厚いが翼部に被弾すれば簡単に推力を失うと良い所無しだ。大気圏内外を問わず活動できるという点と、こんな機体でも陸戦軍には無いよりマシという点で制式採用されているが、パイロットたちからの評判は頗る悪い。

 

「シューラー!情けない顔じゃないか、ヴィリスを墜とした男がそんな顔をするな」

「ベックマン大尉……」

 

 ……二日前、第二猟兵分艦隊の一部将校が反粛軍派に繋がり武装蜂起を図っている事が明らかになった。粛清の鉈が振るわれ、空戦隊もその四分の一が反粛軍派のシンパとして拘束されるか、逃亡を余儀なくされた。『ガイエス』中隊を率いたエースもミズガルズ防空軍所属の機体を奪取して逃亡を図り、心ならずもシューラーがこの手で撃墜することとなった。皮肉にもそれで彼は撃墜記録を五機とし、エースと中隊長代理と呼ばれる立場になった。

 

「俺はもう九年間、碌に空を飛んで無い。だが上に言わせると『九年前に空戦を経験している』ということになるらしい。お前さん、士官学校出て何年だ?」

「四年です」

「結構、正直お前さんの方が空での戦いは上手いかもしれんな。ま、お互い死なない程度に頑張ろうじゃないか。いいか?随伴無人機を最大限頼れ。お前さんが生きてれば何とでもなる」

 

 第一六母艦空戦隊第一中隊『ワルター』中隊長カール・ベックマン宇宙軍大尉。撃墜数駆逐艦一、空戦艇九。軍務について一七年のベテランパイロットであり、ゲッペルスⅥ(所属空母)においては現在一番の実績を誇っている。それだけあってシューラーに気を配る余裕もあるのだろう。

 

「ベックマン大尉!シューラー少尉!」

「……貴様等。こんな所で何をしている」

「状況は聞きました。我々も出撃させてください!」

「馬鹿を言うな!」

「司令官閣下の許可はあります!」

 

 ブリーフィングルームを出た二人の前に六名の士官学校空戦科の候補生が駆け寄ってきた。空戦科は訓練の都合からメルクリウスではなくオストガロアにあり、現役の航空隊や空戦隊と行動を共にすることも少なくない。

 

「何だと……!?」

「……間違いありません。ベックマン大尉、司令官閣下の許可です」

「志願しました!私欲で動く軍国派にこれ以上好きにさせることはできません。挙国一致で敵を撃つべき状況であります!」

「駄目だ、許可しない。俺達は連れてかないぞ……貴様等が実戦に出ても死ぬだけだ」

「国の為に死ねるなら本望です!第一、ここで指をくわえて見ていて、軍国派が国を滅ぼせば、我々は緩やかに死ぬ他ありません!それは軍人として耐え難い苦痛であります!」

「……我々候補生とて随伴無人機位はやれますよ。第一、この前の内通騒ぎでパイロットが足りていない筈です。大尉たちこそ、このまま欠員が居るまま鉄火場に向かうなんて、死にに行くようなモノではありませんか?」

「ケンプ、言葉を慎め!」

「貴様等が来たところで足手まといだ……このシューラーでさえ、俺に言わせればようやっと使い物になってきたというレベルだ。……悪い事は言わん、大人しくここに居ろ」

 

 士官候補生とベックマン、シューラーは激しく言い争うが、ブリーフィングルームから出てきた第一六母艦空戦隊隊長、エルネスト・オグス宇宙軍少佐がその論争を終わらせた。

 

「『ワルター』隊、『ガイエス』隊。司令部の決定だ。ひよっこ達を連れていけ!今は猫の手も必要な状況だ」

「オグス……本気か?」

「お守りをしろ、なんてことは言わん。……自己責任、こいつらにはそう言い渡してある」

 

 ベックマンは天を仰ぐ。オグスも溜息をついて「一五分以内に準備を済ませろ」と言ってその場を去る。

 

「ベックマン大尉……」

「分かってる。シューラー、アイオンとケンプはお前に任せる。残りは俺の隊で」

「しかし……」

「お前は指揮経験が浅い。二人でも荷が重いくらいだ」

「……は」

「ひよっこ共、二つ命令だ、俺とシューラーの言う事は絶対に聞け。そして敵を倒すより逃げることを優先しろ。お前らが墜ちる方が迷惑だ。……俺は貴様等の親に貴様等の死に様を伝えるなんて辛気臭い役回りは御免だぞ」

 

 そう言ってベックマンは身をひるがえした。「は!」と一斉に応じた士官候補生たちが嬉しそうにその後に続く。

 

「シューラー隊長。宜しくお願いします」

「……アイオン候補生にケンプ候補生。貴官らはもう少し思慮に富んでいると考えていたのだが」

「御手は煩わせないよう努める所存です」

 

 シューラーは小さく舌打ちし、「とりあえず生きて帰って見せろ」と二人の候補生の肩を叩き空戦隊の格納庫へと足を向けた

 

「ケンプは五番機、アイオンは七番機を使え」

 

 そう指示を出す一方でシューラーは(これから折角軍の風通しが良くなるだろうに、わざわざ今命を散らすことは無いだろうに……)と心の中で嘆いた。航空軍集団の精鋭を相手にして二人を生きて帰らせる能力は今の自分に無い。ベックマンや第二猟兵分艦隊のトップエースであるガーランド宇宙軍中佐ですら慣れぬ空戦では自らの身を護るので精いっぱいだろう。よって候補生たちは彼等自身の腕に頼る他ない。

 

 シューラーは眼前を歩くパイロットたちを見ながらこの中で何人が生きて帰れるかと考え、暗然とした気持ちになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝都西部、ブレーメン街ブラウアー・ツァイデン。オーディン文理科大学リヒャルト一世名文帝陛下恩賜キャンパス(帝都西キャンパス)では血で血を洗う戦闘が続いていた。

 

 午前一一時二二分、戒厳令下で封鎖されていたキャンパスにオーディン地下鉄道西武線(ウェストバーン)から侵攻した反粛軍派の二個中隊が到達。ブレーメン街を管轄とする第一野戦軍第一〇歩兵師団第六大隊は奇襲の混乱の中で敗走し、ブレーメン街の七割が一時反粛軍派の占領下に置かれる。

 

 午後一三時〇二分、戒厳司令部は帝都西部から中心部へと後退してきた部隊をビスマルク街の中央防災公園で再編し臨時戦闘団を設立する。第一〇歩兵師団第二歩兵連隊長フォルクセン大佐を指揮官とするフォルクセン臨時戦闘団はモルダウ川東岸部の敵を押し戻すべく、ポツダム街南部からブレーメン街東北部、ゲーリング街南端へと進出。反粛軍派が橋頭保とするオーディン文理科大学帝都西キャンパスの奪還に向け進撃を開始した。

 

 午後一四時頃、第一独立混成旅団第一猟兵大隊副大隊長フランシス少佐を指揮官とするフランシス臨時大隊が東門に到達。経済学部一号館へと攻撃を開始する。東北方面からも帝都防衛軍第二混成旅団第八大隊長トレスコウ大尉を指揮官とするトレスコウ臨時大隊が侵入、手薄な機械工学実験棟を奪取した。

 

 文理科大の各棟で行われた戦闘はまさしく死闘と呼ぶに相応しい。フランシス臨時大隊は強化外骨格装備兵(フィールドグレー)を集中投入し職員駐車場を数分で制圧、大学東通路沿いにキャンパス中心部に進軍しようと試みるが、大学には頑丈な建物が多く、要塞化された第一食堂を中核に組まれた『要塞線』がフランシス臨時大隊の進撃を止めた。

 

「先に建物を潰す。フィールドグレーは制圧射撃を。一つ一つの部屋を虱潰しに潰すんだ」

 

 ゼッフル粒子が散布された史学部第二教育棟二階では窓から飛び込んできた一条の光線で大爆発が起きた。陸戦隊や装甲擲弾兵の如く戦斧(トマホーク)を携えていた敵味方の兵士三〇名あまりと共に建物の三分の一が吹き飛んだが、なおも戦闘は続いた。ゼッフル粒子濃度が下がってのを見て取った兵士が軽率に小銃を持ち出し、それが再び爆発を起こす。

 

「何やってやがる……!突入部隊を後退させて、外壁が吹き飛んで露出している各部屋に攻撃を加えてやれ!」

「中隊長!危ない!……クソッ、狙撃兵が居るぞ」

「文学部側から射線が通ってる。中隊長の仇だ……あの狙撃手はズタズタに引き裂いてやる……」

 

 理数学部研究棟と教育棟を繋ぐ回廊では反粛軍派に味方した特殊作戦総隊第一作戦隊と粛軍派についた中央軍集団第一独立混成旅団第一猟兵大隊がぶつかった。帝国地上軍屈指の精鋭同士が妙技を尽くして相手を屠る。回廊を兵士の血と炭素クリスタルの斧による破壊の跡が彩るが、互いの戦力と実力が拮抗するが故に転がる躯の数は少ない。野戦迷彩の装甲兵と漆黒の装甲兵がぶつかり合う。

 

「これ以上醜態を晒さぬな!改心しろ『英雄大隊』!帝国地上軍の正道に……」

「うるせぇくたばれゴキブリ野郎!」

「哀れな……奸臣ライヘンバッハの口車に乗ったか!」

「黙れクソったれの軍国主義者が!」

「この国はお前らの遊び場じゃねぇしブラスターはお前らの玩具じゃねぇんだ『軍国派』!」

 

 オーディン文理科大学帝都西キャンパス奪還に割かれた部隊はフォルクセン戦闘団の三分の一に上る。しかし部隊の多くが進撃路の途中で建物に潜んだ狙撃兵や対戦車兵の攻撃を受け移動を阻害されており、作戦開始時刻には多くがキャンパスに辿り着けていなかった。

 

『信じられん!連中民家に立て籠もっている!帝国軍人の誇りは無いのか……』

『本部!本部!こちらバード機甲中隊!どの道も高所を取られている!このままじゃ一方的にやられるだけだ!どうすればいい!』

「……やむを得ん。建物の保全は気にするな!敵兵の有無に関わらず我に攻撃可能な全ての建物に重火器の使用を許可する」

「団長、それでは民間人が……」

「これ以上愛国者に血を流させるな!叛徒を討つために臣民は粉骨砕身して努力すべし!これは神聖なる義務だ!……クソッ」

『続け!屋根伝いに敵兵を掃討するぞ!……ああ!必要なら壁もぶっ壊せ!』

『俺達の、ゴホン……陛下の街でこれ以上好きにやらせるものかよ!』

『修理費は貴族共から取り立ててやれ……!』

 

 午後一四時二〇分からは道一本挟んだキャンパス南の運動場でも、フォード小隊(帝都防衛軍第一三一歩兵師団所属)とカッファー小隊(中央軍集団第一機動軍第一機械化師団所属)が戦闘を開始した。この二個小隊は予定されていた攻撃部隊の半数であり、当然に苦戦を余儀なくされた。南運動場に仕掛けた攻撃は失敗し、逆に前線拠点として確保していた学生体育会館に追い込まれていたのだ。南運動場に運び込まれた三両の自走砲を守る兵士の数は、フォード・カッファー両小隊と大して変わらなかった。

 

 しかし運動場に掘られたいくつもの簡易塹壕、最も入り口側のそれに飛び込んだフォード小隊第二分隊は想定外の光景を目にする。黒い装甲服に身を包んだ兵士、特殊作戦総隊の精鋭が炭素クリスタルの斧を構えて立っていたのだ。塹壕に飛び込んだ兵士たちはあっという間に殺戮され、同時に奇襲から立ち直った各塹壕や土嚢陣地から激しい銃撃が浴びせられる。突撃したフォード小隊は一〇分も経たず壊滅し、カッファー小隊も銃撃を物ともせず接近戦を仕掛けてくる特殊作戦総隊の黒い装甲兵に大きな被害を出しながら何とか学生体育会館へと逃げ延びるので精一杯だった。

 

「全員分かってるな……後に続く奴等の為にも、あの死神共は俺達が殺す。中央兵の誇りに掛けて、この脅威は排除する……!」

「小隊長!来ます!」

「行くぞ……侵略者共を地獄に叩き落とす!」

 

 一四時五二分。二名の装甲兵を道連れにしてカッファー小隊は全滅。しかしその五分後には新たな部隊が南運動場へと到着し攻撃を開始。勿論、南運動場だけではなく文理科大学帝都西キャンパス全域で終日激戦は続くこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてオーディン文理科大学帝都西キャンパスでの激戦と時を同じくして帝都地下鉄道西部線(ヴェストバーン)シャーマン街東車両基地でも死闘が繰り広げられていた。オーディン文理科大学帝都西キャンパスからモルダウ川を挟んで一キロメートル程西にあるこの基地は、帝都地下鉄道の車両が地上に姿を現す数少ない地点の一つだ。

 

 オーディンにおいては帝都都市計画法において建築物に厳格な高さ制限が課せられており、高架路線の整備が事実上不可能となっている。また騒音規制も中心部に近づけば近づくほど厳しい。「皇帝陛下の美しい帝都」を実現する為に設けられたこれらの規制のしわ寄せとして、帝都オーディンの鉄道路線はその殆どが地下に整備されている。……故に、オフレッサーはこの基地が反粛軍派の襲撃を受けると予想した。そう、忌々しい事に予想してのけたのだ。あの大男は……。反粛軍派の馬鹿共が畏れ多くも帝都を戦場とすることを。そして、その手段として地下鉄道を利用することを。

 

「パウマン中尉、友軍の一部がモルダウ川東岸部に到達したらしい。これは援軍の到着も近いな」

「ザンクト・ボニファティウス橋が落とされて、ゲッシェ・マイブルグ橋は敵軍が掌握しています。ヨハネス・グーテンベルク橋からモルダウ川を渡るとすると、今日中にはとても辿り着けないでしょう」

「中尉。そうとは限らん、この場所の重要性は上も分かっている筈だ、可及的速やかに援軍は送られる。……兵士にはそう伝えるべきだ」

「!……その通りです。申し訳ありません」

 

 この車両基地が攻撃を受けた時、「たまたま」パウマン少尉率いる一個小隊が近くに居て援軍に駆け付けた。反粛軍派の先鋒部隊を迅速に駆逐した後、パウマン小隊は手際よく爆薬を仕掛け地下へと続くトンネルを塞ぎ、塹壕を掘り、土嚢を積み上げ、機関銃を配置し、狙撃手を展開し、事務所に通信ケーブルを引いて指揮所を設け、戒厳司令部に報告を上げると共にシャーマン街の防衛部隊に援軍を求めた。

 

 午前一一時三二分、反粛軍派の攻撃が再開された。元々電車が行き来するトンネルであり、短時間で完全な封鎖は出来なかった。瓦礫を崩し、または踏み越えて反粛軍派の兵士たちが車両基地の制圧に掛かる。パウマン小隊は苦しみながらも何とかこれを撃退し続けた。

 

 一二時を回るころには帝都西部の各街区における防衛線は完全に崩壊していた。シャーマン街防衛部隊の第一野戦軍第一〇歩兵師団第五大隊についても、丁度東端に位置する車両基地から浸透する部隊をパウマン小隊が抑え込んでいたこともあり、比較的善戦していたが周辺街区が突破されたために後退を余儀なくされた。

 

「誰も覚悟していなかった。誰も」

「……」

「今日の朝。敵軍の真っただ中で孤立しながら夜を迎えると予想していた将兵は、誰も居なかった。少なくとも私の大隊では」

 

 第一〇歩兵師団第五大隊長シュペーア少佐はパウマン少尉が守る車両基地に部隊を率いて合流した。シュペーアの部隊を含め、各地から七〇〇名程の将兵がこの場所に敗走してきている。そしてその周囲を反粛軍派は二個大隊で包囲し、同時に地下鉄側からも攻勢を仕掛けていた。

 

「それが普通です。地下鉄を使って敵軍が浸透してくるなどと予想できる人間は異常者です」

「だがその異常者の御蔭で、帝都は未だ踏み止まっている。シャーマン街東車両基地。オフレッサー少将閣下はピンポイントで敵軍の作戦行動を破綻させた。地下鉄から地上に重火器を持ち出せる地点は限られている。その限られた地点の中でもこの車両基地は最良の条件だ。砲兵陣地となり得る大学のすぐ近くであり、地上への開口部が広く、そして開口部の近くに広いスペースがあり、大通りに面している」

 

 アルバート・フォン・オフレッサーは帝都に奇襲を仕掛ける戦力を約三万人と見積もった。というよりも、もし反粛軍派が動員できる戦力がそれよりも少ないのであれば、帝都に対する奇襲攻撃は大規模浸透作戦ではなく、少数部隊による破壊工作と暗殺によって行われるだろうと予測していた。

 

『まさか、有り得ない!……そんな大軍をどうやって帝都に』

『聞いたことはないか?地上軍の妖怪共は大量の私兵を抱えているって話をよ。地上軍の兵士が二〇万人居たとしよう。俺の見立てじゃその内五万人は連中の息が掛かってると見て良いだろな。帝都の周囲に一体何万の地上軍兵士が居る?三万程度、動かせない方が不思議だぜ』

 

 オフレッサーの見立ては正しかった。特殊作戦総隊が組織的に離反し一日にして帝都の半分が制圧下に置かれた。綿密な計画の下行われた攻撃であることは明らかであった。

 

「まだ破綻させた、とまでは言えないでしょう。精々が破局を遅らせているといった程度です」

「……そうだな。我の戦力も随分と消耗している。せめて今日一日は……持たせてみせたいが」

 

 瓦礫と共にトンネルの入り口近くで鉄くずと化しているのは帝国軍の戦車だ。四度目の攻勢で強引に展開しようとしたこの戦車は肉薄攻撃を受け沈黙するまでに一〇名余りの勇士をヴァルハラ送りにした。戦車と共に押し出した敵兵による被害はそれに倍する。戦車の破壊が後五分も遅れていれば、戦線崩壊は免れなかった。

 

 唯一の好材料は撃破した戦車が入り口の半分を塞いでいることだ。トンネル外からトンネル内への攻撃を困難にする為、止むを得ずパウマンたちは前線をトンネル開口部まで上げることになった。しかし仮にパウマンたちが全滅したとしても、この戦車を撤去するまでの間重火器の地上への展開は遅れるはずだ。

 

「大尉殿。車両基地の各地に爆薬を仕掛けようと思います。力を貸してください」

「力を貸したくはない頼みだな……」

「我々が斃れた後も戦いを終わらせない為に、義務を果たす必要があります」

「…………やるしかないのか。………………去年中央軍集団の辞令を受けた時、私は大喜びした。漸く戦場から離れられる。家族に帝都で良い暮らしをさせられる、とな。その帝都がこの有様とは、運命とはかくも理不尽なモノだったか」

「……いいえそれは違います」

「何?」

「理不尽なのは……人口密集地を地獄に変えながら正義を語る人でなし共が、貴族などと呼ばれて偉そうにふんぞり返っている現実です。……白薔薇のやったことは正しい、そう言ってしまうのはやはり軽率なのでしょうか?」

「…………私はね。流石にやり過ぎだと『思ってた』よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀河帝国首都、オーディン。ルドルフ大帝が、メルセデス伯爵が、リヒャルト一世帝が心血を注いで作り上げた都が炎に沈んでいる。自由惑星同盟のティーンエイジャーたちが一度は妄想しただろう光景。同盟の主戦派が祝杯を揚げた光景。帝国主義者と王党派諸勢力のトラウマ。……私の人生における汚点の一つ。

 

 ヴレーデン街八番地を火元として巻き起こった炎は瞬く間に帝都の南方で燃え広がった。帝都南部エルケレンツ街二番地。前線の後方にあって安全が確保されていると思われたこの地区は反粛軍派以外に迫る大火という脅威を抱えることになった。

 

 火災に対処すべき帝都特別行政府・帝都警察局・内務省警察総局・帝都消防本部・国務省防災政策局消防司令本部といった機関はいずれも機能していなかった。無理もない。銃撃戦の中で避難誘導や消火活動を行う想定などしている訳が無いのだ。

 

「ご覧ください!帝都特別行政府の庁舎が今まさに、崩れ落ちようとしています!炎の勢いは全く衰えを見せません。……はい?うん……」

 

 CTN――セントラル・テレビジョン・ネットワーク――のオーディン担当記者であるロブ・フォーブスはフェザーン本国に対してこの混乱を決死の覚悟で生中継していた。同行して放送を検閲していた将校は振り切った。CTN社が所有する恒星間電波送受信設備と中継衛星は勿論戒厳司令部の監視下に置かれていたが、そこは商魂逞しいフェザーン企業である。戒厳司令部の混乱に付け入り殆ど強行する形で報道を行っていた

 

「はい、えー皆様!ただいま入った情報によりますと帝都防衛軍司令部が放棄された模様です。繰り返します!帝都防衛軍司令部、このオーディンを守る最重要拠点が放棄されました!他、詳細は判明していません!オーディン陥落も間近ということか、市民の不安が心配……」

 

 そこでロブは黙り込む。より正確に言えば黙り込まされた。頭上を三機の対戦車ヘリが通り過ぎ、爆音が彼の声を遮った。

 

「えーCTN各支局によりますと、既に帝星オーディンの全域で戦闘が開始されています。スリヴァルディ山脈には既に数十万の陸上戦力と数千機の航空戦力が展開しており、一部では戦端が開かれている模様です。またカールスルーエ近郊で……ん、違う?あ、レオバラード?ここレオバラード?……ぇとレオバラード近郊で再度粛軍派と軍国派部隊が衝突したという情報もあります。………………先ほど中継で、えーご覧いただきました、軌道エレベーター『ビブロスト』内部でも銃声と爆発音が、えーCTNのエリオット特派員のすぐそばで銃撃戦が行われており、ます。えーまたさらにこのオーディンも軍国派に寝返った部隊によって取り囲まれている状況にあるとの噂が臣民の中で流れ……」

 

 ロブの背後で対戦車ヘリが火を噴く。恐ろしい金属音を響かせながら墜落し、夜空を一瞬炎が彩る。

 

「ああ!ヘリが、ヘリが落ちました……!戒厳司令部が天上不可侵の原則を曲げてまで投入したアパッチが、撃墜されました!ご覧ください、他のヘリが建物を攻撃しています。ここまで軍国派の兵士が浸透しているようです。新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)から直線距離で僅か二〇㎞程度のこのエルケレンツ街までもが、戦場となっております。拡大中の火災と合わせてまさに危機的状況です!」

「そこで何をしている!?報道許可証は……いやそれよりも早く退避しろ!」

「えーっと……曹長殿!軍国派部隊は現在どの辺りまで到達しているのでしょうか?」

「知るか!前触れもなく突然現れて、気づけば町中が敵兵だらけだ!いいから逃げろ!」

「わ、分かりました!でも何処に……?」

 

 ボン!と爆発音と共に装甲車が破壊される。「敵襲!一〇時方向!」「射撃を許可する、繰り返す、射撃を許可する」「被害状況を確認!」「死者一負傷者四以上!」通りを兵士たちが駆け巡り、発砲音が徐々にロブの方に近づいてきた。

 

「とにかく東側か南側に逃げろ!ここにいるよりは安全だ!早く!」

「は、はいぃ」

「退避退避!」

 

 ロブたちは脱兎のごとく逃げ出した。ただしカメラだけは『戦場』に向けたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そしてフェザーン自治領(ラント)領都フェザーンではCTNが伝えるオーディンの惨状を多くの市民がスクリーン越しに眺めていた。いや、市民だけではない。自治領主館の隠された一室、そこでこのフェザーンの名目上の支配者と実質的な支配者もその光景を眺めていた。……ただし片方はホログラムであったが。

 

「顔色が悪いぞ、自治領主(ランデスヘル)

「……総大主教猊下につきましては、御機嫌麗しゅうございます」

「この前は災難だったな。跳ねっ返りの若造共が貴様の命を狙ったと聞く」

「……」

 

 帝国司法省公安調査庁から極秘に齎された地球教過激派による『ワレンコフ暗殺計画』の情報。フェザーン自治領主(ランデスヘル)を狙う暗殺計画などは星の数ほどあるし、その内の半数はフェザーンを憎悪する外国勢力が関わっている。そしてその中には拝金主義者を嫌う頭のおかしいカルトも少なくない。その点で地球教過激派のテロリスト数名が拘束されたというニュースを(捕物時の大騒ぎは別として)深刻にとらえた者は殆ど居なかった。

 

 ……しかし、フェザーンの治安当局、情報当局は今回の暗殺計画についてその一切の兆候を掴めていなかった。これは異常だ。こと情報戦においてフェザーンの当局は同盟や帝国に殆ど後れを取ったことは無い。名高い東洋の同胞(アライアンス・オブ・イースタン)首長連盟公安局ですら、フェザーンでの工作活動では幾度となく辛酸を嘗めさせられている。そんなフェザーンの治安当局・情報当局が帝国司法省公安調査庁『如き』に尻尾を掴まれる間抜けジャンキー共の動きに一切気付かない、そんなことがあるだろうか。

 

(無いに決まってる。内部で情報が握りつぶされたに違いない)

 

「……今なお、事件の全容は掴めておりません。フェザーンの不安定化を避ける為にも、さらなる調査が必要かと」

「必要ない。我々で不届き物は処罰した」

「……承知しました」

 

 ホログラムの総大主教は有無を言わさぬ声でワレンコフの言葉を遮る。ワレンコフは不承不承ながら引き下がった。総大主教はそんなワレンコフの様子など気にも留めず話し出す。

 

「帝国国内の対同盟強硬派を弱体化させ、対諸侯強硬派に主導権を握らせる。我々はその目的によって自治領主府がライヘンバッハ伯爵を支援することを許可してきた。しかし事態は明らかにライヘンバッハ伯爵の手に負えない領域へと来ている。我等地球教にとってはこの上無い僥倖だな。この混乱と疲弊は宗教にとって最良の土壌となる。我等の信仰に大いなる地球(テラ)が応えてくださった、あるいは地球を捨てた者共に天罰が下ったと言えよう」

 

 よく言う、とワレンコフは思った。この混乱に地球教が関わっていないなどという考えはワレンコフに無かった。帝都の状況は不明だが、この混乱を総大主教が『僥倖』と評するならば、そこに地球教の工作が無い『筈が無い』のだ。

 

「そして同盟では再び主戦派が盛り返した。反戦派の中でも『一撃講和論』なる戦争ありきの野蛮な主張が力を持っている。……当然だな。今同盟軍が出兵したとして、帝国軍は最早一個艦隊の動員すら危うい状態だ」

 

 辺境、そして回廊の安全を確保する為に自由惑星同盟が費やした金銭と人命は莫大なモノだ。例えそれに数倍する損害を銀河帝国に与えていたとしても、とてもではないが戦果に酔い、さらなる勝利を求めてオリオン腕を突き進みたいとは思えない程に。イゼルローン要塞の確保と授業の再開作戦による帝国側軍事拠点への打撃によって、同盟は最低でも向こう一〇〇年間の安全を確保したと言う事ができる。それ故に帝国で和平派が力を持ち、マンフレート二世亡命帝の腹案に近い対等講和と呼べる草案が意図的にリークされるに至って同盟内部では反戦派の力が増大した。

 

 ……もっとも帝国がこの惨状となれば反戦派も含めて掌を返すだろう。平和主義者や人道主義者だけが反戦派を構成している訳では無いし、平和主義者や人道主義者も、「帝国が無力となっている今もなお、オリオン腕の民衆を見捨てるのか。それが真の平和か、それは人道的か」と詰められれば中々反論できない。

 

「ワレンコフ。地球(テラ)の決定を伝える。フェザーン領主府は自由惑星同盟の対帝国作戦を全力を挙げて支援せよ。無論、その際に多くの権益を抑えることは忘れず……」

「お待ちください!」

 

 「なんだ?」と総大主教は不快感を隠さず問う。ワレンコフは畏まった様子ながらもハッキリと総大主教に抗弁した。

 

「……地球(テラ)の力が浸透しているのはオリオン腕です。サジタリウス腕側の軍や政界で影響力を獲得するにはまだまだ時間がかかるでしょう。今、同盟が帝国を屈服させてしまえば、オリオン腕に獲得した影響力を放棄することになる。それは得策とは思えません」

「ふむ。サジタリウスに関してはお前の言う通りだ。しかし、それは時間が解決する問題だろう。そして、同盟がオリオン腕に進出した所でオリオン腕の信徒が離れることは有るまい。オリオン腕の信徒を維持しつつ、サジタリウス腕に食い込んでいけば良いのではないか?」

「勿論そういう考え方もあります。しかし、同盟がオリオン腕への『人道支援』を始めれば、困窮している民衆は彼等に感謝し歓迎するでしょう。彼等は本来、我々の信徒となるべき存在であった、とお考え下さい。このまま混乱が続けば彼等は地球教を縋る。むざむざ将来の信徒を同盟に譲る必要はありません」

「帝国は死に体だ。お前は『帝国には国力を回復する時間が必要だ』と言った。それ故我等はお前の緊張緩和(デタント)を容認してきた。だが最早どれほど時間を置こうが望みは無いのは明らかだ」

「しかし……」

「ワレンコフ」

 

 総大主教は厳かにワレンコフの名前を読んだ。抗弁しようとしていたワレンコフの身が固まる。ワレンコフは息が詰まるような思いをしていた。ワレンコフは常々、地球教の聖職者というものを「卑怯だ」と感じていた。悪意と自意識なんてモノを肥大化させただけで、真っ当に生きる多くの人間を威圧できる不気味な雰囲気を獲得しているのである。これを卑怯と呼ばずして何を卑怯と言うのだろうか、ワレンコフはそう思っていた。

 

「……ワレンコフ、お前には良くない噂がある。我等への恩と母なる地球への敬意を忘れ、ひたすらわが身の利を追求しようとしている、と」

「そんなことは有りません!私はただひたすら地球教の為に骨を折って参りました、そのように仰せられるのは……」

「骨を折っただと?ワレンコフ、お前は今まで何を為してきた?」

 

 総大主教の言葉に明らかな苛立ちが乗る。それは抑揚のない、やや人間離れした老人のしわがれ声に初めて見られた感情であった。それにワレンコフがいささか呑まれる様子を見て、総大主教は首を振る。

 

「……まあ良い、今までの三人も無能だった。お前もそうだった、というだけの話だろう。ワレンコフ、この混乱の最中にフェザーンの国家元首を変えることは『まだ』デメリットの方が大きい、本部はその一事で未だフェザーンをお前に任せている。……身の振りようはよく考えるが良い。地球の為に為すべきことのみを淡々と為し、分を弁えるならば無能に対しても我等は寛容だ」

「……お言葉、肝に銘じさせていただきます」

 

 総大主教の姿が消える。ワレンコフは隠された部屋から出て、自分の執務机に向かった。平静を装った顔、振る舞いのまま、手元の紙片に書き殴る。ちなみにこれは『食べれる紙』である。書かれた内容を隠滅するのに、食べてしまうというのはとても有効な手段だった。故にワレンコフは怨念を込めて書きこんだ。

 

『くたばれ総大主教(グランドビジョップ) この死にぞこないのロクデナシが!』

 

 ワレンコフは諦めない。実際の所、彼は自身の経営する会社の繁栄を第一に望みつつも、第二に生理的嫌悪を禁じ得ない傲慢で醜悪な地球教聖職者共を残らず地獄に叩きこむことを望んでいたし、私を含む志を共にする者に語っていた全銀河の平和と統合という崇高な理念は第三の望みに過ぎなかったのだ。

 

「死んでくれるなよ……ライヘンバッハ」

 

(もし死ぬなら帝国側の地球教徒を皆殺しにしてから頼む)という本音は盗聴を警戒して口にしない。自分の執務室なら安全だ、そんな幻想は当に捨てている。フェザーン自治領主(ランデスヘル)。またの名を地球教の雇われオーナー。そうである限り安寧の地などないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦火は拡大し、激化する。

 

『ワルターⅢ-Ⅰ、誘導弾発射(フォックスツー)!』

『どちらを向いても帝国軍機!常日頃なら嬉しい光景だが、な!』

『レスターⅡ-Ⅰ、後方注意(チェック・シックス)!……クソッ』

『ラインⅡ-Ⅱ、ラインⅣ-Ⅰ、レーダーロスト!』

『クソッ……本当に俺達に正義があるのか!?』

『やられた、ベイルアウトする!』

『こちら巡航揚陸艦リスナーXXXII。方位〇九、距離二八〇。新たに爆撃機(シュヴァーン)四、護衛機八。トーチカ群を狙っている「ガイエス」隊、「シュペーア」隊、迎撃せよ』

『シューペアⅠ-Ⅰ、了解』

「『ガイエスⅠ-Ⅰ、了解』……ワルター隊各機も俺に続け!」

 

 多くの勇士が命を散らす。

 

「カールスルーエとエアランゲンの核融合発電所群が巡航ミサイルで壊滅的な被害を受けました!各ワイゲルト砲に必要な電力量を現在確保できません!」

「何としても代替電源を確保しろ。必要なら周辺都市の民間用発電施設をここに繋ぐんだ」

「そんな……今は一二月ですよ!?とんでもない数の臣民が凍えて死にます!」

「ストーンヘンジを動かせなきゃどの道皆死ぬしかないだろ!スリヴァルディの空を何としても砕くんだ!」

 

 歴史ある街並みが、昨日まで存在した日常が灰燼と消える。 

 

「砲兵陣地はあと二つ、公園南駐車場とフライングボール練習場脇です!」

「ああ!砲撃が始まったぞ!不味い……」

「慌てるな、公園と砲兵陣地の過半は制圧している。この程度の支援砲撃ならライヒハート記念収容所も耐えるだろう。……大隊旗を掲げろ!フライングボール練習場から潰していくぞ!カリウス、二個小隊でついてこい。装甲車は中央広場に置いておけ!ケネス小隊は西門、ハーヴェイ分隊は植物園、カイト分隊は北門駐車場、シュナイダー小隊は公園東側の区道一七号線を固めろ。残りは中央広場を守れ。ハイヤー大尉、貴官がここの指揮を執れ」

「第三・第四狙撃班は中央広場に移動。フライングボール練習場を制圧後、その屋上に展開しろ」

 

 その様は最早言い逃れの仕様もない。

 

「見ろ!!!ペリカーンだ!友軍のヘリだ!」

「友軍だよな?援軍だよな?」

『車両基地の地上部隊!兵員と物資を降ろす!援護を頼む!』

「敵を押し戻す!手始めにあの車両のラインまで前線を押し上げるぞ!」

「正面の塹壕を奪還する!アルニム!パーソンズ!班員を率いて俺に続け!」

「バーター班射撃準備!エゴンは機関銃を使え!」

 

 宇宙暦七八〇年一二月三一日……。

 

「……戒厳司令部は大陸北部アドルフスハーフェンを本拠点とする帝国軍の正規の指揮系統を離脱した諸部隊が皇帝陛下と国家への叛逆の意思を持つことを確認した。ここに宣言する。我々は今、叛乱軍との闘いの中にある。ここに宣言する。我々は今、国家の存亡を賭けた闘いの中にある。ここに宣言する。我々は今、皇帝陛下と正義と生存の為の闘いの中にある」

「叛乱軍の名称は『軍国派』。すなわち、国家の中に軍というもう一つの国家を作り出さんとし、不遜なるその望みを絶たれた軍国主義者達こそが、皇帝陛下の、全帝国軍人の、そして我等臣民全ての敵である。諸君らの暮らしは、幸福は、誇りは、『軍国派』によって踏みにじられた。………………怒れよ臣民!臣民よ武器を取れ!今日この瞬間が歴史の分岐点である。善良なる諸君が奴隷に落ちるか、悪辣なる彼等が報いを受けるか、その分岐点である!私、アルベルト・フォン・ライヘンバッハは諸君と共に闘う!これは聖戦である!我々は命尽きる瞬間まで全土で戦い続ける!陛下の為!未来の為!そして諸君の自由と幸福の為に!帝国万歳!銀河に正義を!万民に幸福を!」

 

 銀河帝国は、内戦状態に陥った。

 

 銀河の歴史がまた一ページ……。

 




帝国首都星オーディン・地図

【挿絵表示】


メモ
一二月三一日時点の帝国宇宙軍正規艦隊の所在星系・所在地・状況
赤色胸甲騎兵艦隊……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン周辺宙域・粛軍派として宙域を制圧
紫色胸甲騎兵艦隊……ザクセン=アンハルト行政区ラウシャ=フレーゲル星系・外縁宙域・軍国派としてビブリス星系等の要衝に進軍中
橙色胸甲騎兵艦隊……ザクセン行政区フレイヤ星系・レンテンベルク要塞・軍国派寄りの中立
白色槍騎兵艦隊……ヴァルハラ星系・第八惑星ヴィーグリーズ・粛軍派に従属
黒色槍騎兵艦隊……ニーダザクセン行政区シャーヘン星系・第三惑星シャーヘン・粛軍派支持
青色槍騎兵艦隊……ユグドラシル中央区モラヴィア星系・第五惑星アウステルリッツ・軍国派と粛軍派に分裂
黄色弓騎兵艦隊……ユグドラシル中央区アルメントフーベル星系・第二惑星メーメル・軍国派寄りの中立
褐色弓騎兵艦隊……ユグドラシル中央区フォアアールベルク星系・第三惑星フランツ・ヨーゼフ・軍国派寄りの中立
緑色軽騎兵艦隊……バイエルン行政区ニーダトラーケー星系第二惑星アレクサンドル=ポリ・粛軍派寄りの中立
灰色軽騎兵艦隊……ヴァルハラ星系・第五惑星ヘーニル・粛軍派支持
第一辺境艦隊……ロートリンゲン警備管区フォルゲン星系・第四惑星フォルゲン・同盟軍に備える為中立を維持
第二辺境艦隊……ザクセン=アンハルト行政区オルテンブルク星系・第五惑星ヴェスターラント・事実上の独立
第三辺境艦隊……ニーダザクセン行政区バルヒェット星系・外縁部・粛軍派と軍国派による内紛を抑える為中立を表明
第四辺境艦隊……バーデン警備管区プロヴァンス星系・第三惑星エルヴィン・ロンメル・中立
第五辺境艦隊……ズィーリオス辺境特別区ドレスデン星系・ゲルデルン要塞・中立
第六辺境艦隊……メクレンブルク=フォアポンメルン行政区ヘルツェゴビナ星系・第三惑星ヨーゼフ・ゲッペルス・粛軍派支持
近衛第一艦隊……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン、オーディン宇宙港基地・中立
近衛第二艦隊……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン、第二衛星ムニン・粛軍派に従属




一二月三一日時点の地上軍征討総軍の所在星系・所在地・状況
中央軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン中央大陸(ミズガルズ)中央部・粛軍派として展開中
第一軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン中央大陸(ミズガルズ)中央部、ヴァルター・ヴァルリモント市・粛軍派の手で東部方面総隊として再編中
第二軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン東大陸(ヨトゥンへイム)・軍国派寄りの中立
第三軍集団……ザールラント警備管区及びフェザーン方面航路・フェザーン航路の安定を維持する為に中立を堅持
第四軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン中央大陸(ミズガルズ)北部・軍国派として再編中(一部は粛軍派に)
第五軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン中央大陸(ミズガルズ)スリヴァルディ山脈・軍国派として戦闘中
第六軍集団……ニーダザクセン行政区アルンスベルク星系・第四惑星リップシュタット等・軍国派支持(しかし多くの将兵が粛軍派を支持)
第七軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン南大陸(ムスペルヘイム)・中立
第八軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン中央大陸(ミズガルズ)スリヴァルディ山脈・粛軍派として戦闘中
第九軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン中央大陸(ミズガルズ)東部・軍国派として展開中
第一〇軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン中央大陸(ミズガルズ)西部・粛軍派として西部方面総隊として再編中
第一一軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン西大陸(ニダヴェリール)・軍国派寄りの中立
第一二軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン中央大陸(ミズガルズ)中央部ヴァルター・ヴァルリモント市・粛軍派の手で東部方面総隊として再編中
第一三軍集団……ヴァルハラ星系・第八惑星ヴィーグリーズ、マルティネス・クレーター基地・現在は情勢を静観
第一四軍集団……ニーダザクセン行政区ランズベルク星系・第六惑星レーシング・軍国派と粛軍派に分裂
第一五軍集団……ブランデンブルク警備管区トラーバッハ星系・第三惑星アンゲリィ・軍国派と粛軍派に分裂
第一六軍集団……ユグドラシル中央区アルメントフーベル星系・第二惑星メーメル・軍国派寄りの中立
第一七軍集団……ユグドラシル中央区ルクセンブルク星系・第三惑星ルクセンブルク(テオリア)・クーデター未遂から程なく機能停止中
第一八軍集団……ユグドラシル中央区モラヴィア星系・第五惑星アウステルリッツ・軍国派寄りの中立
第一九軍集団……エルザス=ロートリンゲン辺境軍管区及びシュレースヴィヒ=ホルシュタイン辺境軍管区の各地・同盟軍に備える為に中立を堅持
軌道軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン周回軌道上・東大陸(ヨトゥンへイム)に突入予定
航空軍集団……ヴァルハラ星系・第三惑星オーディン各地・軍国派として戦闘中

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