咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百三本場:天和再び

「(決勝戦以外は、全部余裕って思ってたけど。まさか、ここで東風の神が大爆発を起こすなんて………。)」

 憧は、まさか優希が準決勝戦を最高状態で臨んでくるとは思っていなかった。完全に予想外だったのだ。

 最高状態の優希は、決勝戦で淡と対局する時のために残して置くだろうと勝手に予想していた故である。確かに、そう考えたくなるのも分からなくはない。

 

 しかし、いくら最高状態の優希でも淡に勝てる絶対的な保証は無い。

 ならば、ここで確実に一勝を確保し、次鋒でネリーが勝利し、決勝進出を早々に決めてしまおうと臨海女子高校サイドは考えたのだ。

 

『だったら、こっちも咲と穏乃で確実に二勝すれば良い!』

 憧は、前半戦の東場が終わったばかりだと言うのに、既に、そんな他力本願なことを考えるようになっていた。

 もう、心の底では優希への敗北を認めたのだ。

 

 ただ、憧は、既に決勝進出できることを前提で物事を考えていた。

『決勝以外は全部余裕…』

 と思っていたこと自体が、その証明でもある。

 

 これは、自分達が常勝チームであることからくる驕りであった。

 ゆいも同じであろう。

 だから、対局後のインタビューで、二人して、

「「もう余裕!」」

 などと答えてしまった。自分達が他力本願のくせに驕り高ぶっていると言う、最低な性格に変貌していることに、憧もゆいも全然気付いていなかったのだ。

 

 

 南入した。

 南一局、優希の親。

 ここでは、早速、

「ポン!」

 憧が鳴いて出てきた。下家の杏奈からの鳴きである。

 そして、

「ツモ! タンヤオ三色ドラ2。1000、2000。」

 得意の30符3翻で憧は序盤のうちに和了りを決めた。

 勿論、いくら優希への敗北を認めても、そんな安手でサクサク流して良いのかとの意見はあるだろう。

 しかし、高い手を狙って他家に和了られるよりも、4000点の手でもさっさと和了っておいたほうが良いとの考えもある。

 憧は、自分の得意なスタイルで、少しでも多く得点する道を選んだのだ。

 

 

 南二局、静香の親。

 ここでも、優希が捨てた{七}を、

「ポン!」

 憧は、速攻で鳴き、

「ツモ! 1000、2000!」

 やはり30符3翻で早々にツモ和了りを決めた。

 

 

 南三局、憧の親。ドラは{⑨}。

 今まで憧は、ただ安手で流すだけだった。

 しかし、ここでは親番。安手でも連荘すれば、優希との点差を多少とは言え縮めることが可能だ。

 当然、今までのスタイルで連荘を狙う。

 

 一方の優希は、

「(残念だけど、今の憧ちゃんは全然怖く無いじょ。南一局、二局ともに、私に有利になるように流してくれただけだじぇい。むしろ今は、こいつ…。)」

 そう心の中で呟きながら静香の方に視線を向けた。

「(一回戦も二回戦も、私はこいつにヤられたんだじょ。むしろ、マークするのは、こいつだじぇい。)」

 優希は、南場に入ると、すぐに和了り放棄した打ち方をしていた。全然、聴牌に向かっていなかったのだ。

 

 静香をマークし、とにかく静香の安牌を集める。それだけに徹していた。

 最高状態の東場なら、相手が咲や照のレベルでなければ前に出ても問題ない。しかし、南場は別だ。

 ところがラッキーなことに、静香が本領を発揮する前に憧が安手で流してくれる。今の状態は、優希にとっては、むしろウェルカムであった。

 

 この局では憧が親だが、優希は、憧ではなく、むしろ静香から不穏な空気を感じ取っていた。急に、嫌な雰囲気が強くなったのだ。

 この局で、多分、何かをやらかす(お漏らしじゃないじょ!)。

 

 

 その捨て牌から、静香は多分、筒子に染めている。

「チー!」

 安和了りの連荘を目指して、憧が静香の捨てた萬子を鳴いてきた。恐らく、鳴き一気通関狙いだろう。

 ここで、

「(通れ!)」

 憧が{②}を強打した。

 言うまでも無い。この筒子の強打で憧の聴牌が想像できる。

 すると、これを、

「ポン!」

 静香が鳴いた。とうとう静香が動き出したのだ。

 そして、打{③}。どうやら筒子が余ったらしい。

 普通に考えれば、これで静香も聴牌だ。

 

 続く憧は、{1}をツモ切り。

 杏奈は、ツモ牌を取り込むと、静香に合わせ打ちするように{③}を捨てた。

 

 続く優希がツモって来たのは{①}。

 ここで、優希の背中に冷たいものが走り抜けた。間違いなく、これが和了り牌であると言う予感だ。

「(多分、これだじょ。こいつは、こう言うことをするヤツだじょ!)」

 この{①}を取り込んで、優希は静香対策に取っておいた{北}………静香の現物を切った。

 

 これを横目で見ながら、

「(ワタシの{①}…。)」

 静香は、そう心の中で呟いていた。どうやら、優希が{①}をツモって取り込んだのを感じ取っているようだ。

 しかし、その次のツモ牌で、

「ツモ!」

 静香は自らの手で{①}を掴み取ってきた。

 

 開かれた手牌は、

 {①⑤[⑤][⑤]⑦⑧⑨南南南}  ポン{②②横②}  ツモ{①}

 

「南混一ドラ3。3000、6000。」

 静香がハネ満をツモ和了りした。

 普通なら前の巡で{①}捨てて{③}を残し、{③④}待ちにするだろう。この方が、待ち牌が多いしツモれる確率が上がる。

 それに、{①}捨てでも{③}捨てでも翻数は変わらない。

 ところが、このような局面で、静香は敢えて{③}を捨てて{②}の壁で{①}を誘う。彼女は、こう言った麻雀をするのだ。

 今回はツモ和了りしたが、このスタイルは本来ツモ和了りを狙う麻雀では無い。相手を刺す麻雀だ。

 

 ただ、優希にとってはラッキーだ。

 これで南三局も流れたし、自分の失点も3000点で済んだ。静香にハネ満を振り込まずに済んだのだ。

 

 

 そして、オーラス。杏奈の親。

 ここまで杏奈は、ヤキトリ状態だ。

 連荘がどうこう言う前に、とにかく、ただ和了りたい。それだけだった。

 

 この局、優希は静香が早々に捨てた{1}と{西}を手に取り込んだ。

 ただ、幸か不幸か、{西}は対子、そして暗刻へと変わって行った。

 そして、{1}も対子になった。

 当然、これらは、静香が動き出したら安牌として使うつもりだ。

 

 しかし、今ここで優希が目指している打ち方は、南一局から三局までの、ただ静香に振り込まないだけの麻雀ではない。

 静香への振り込みを回避しつつ、可能であれば、自らも安手で良いので和了を狙う麻雀だ。それで、この半荘に終止符を打つ。

 

 

 数巡後、優希は、

 {六七八②③11234西西西}

 

 役無しだが聴牌した。

 ただ、リーチはかけない。ムリに勝負する必要はないのだ。

 そして、その直後、

「チー!」

 静香が動き出した。

 ただ、運は、どうやら優希に向いているようだった。次のツモ牌で、

「ツモ!」

 優希は{①}を引いてきた。

「ツモのみ。300、500。」

 これで、優希は自らの手で先鋒前半戦を終了した。

 

 順位と得点は、

 1位:優希 237700

 2位:憧 59300

 3位:静香 58100

 4位:杏奈 44900

 誰の眼から見ても明らかだ。優希が圧倒的点差でトップである。まさに他家がメゲるレベルであろう。

 

 

 休憩に入った。

 優希は、急いで控室に向かった。

 タコスの補給だ。後半戦でも圧倒的勝利に向けて、さらにリードを広げたい。それゆえのタコスだ。

「ただいまだじぇい。」

 優希が控室に入ると、既にテーブルの上にはタコスが用意されていた。

 監督のアレクサンドラ・ヴェントハイムが、補員に買い物に行かせておいたのだ。用意がイイ。

 

 休憩時間は余り長くない。

 なので、優希はタコスを急いで口に入れた。

 

「それにしても、凄いスタートダッシュだな。これじゃ、私でも敵わないや。」

 そう言いながらネリーがタコスをじっと見詰めていた。なんかだ、食べたそうな雰囲気が全身から放出されている。

 それを優希は肌で感じていた。

「お前も喰うか?」

「べ…別にイイって。」

「そうか。でも、タコスパワーで後半戦も確実に勝つじょ。そうしたら、私とネリーで二勝して決勝進出権を取れるじぇい!」

「勿論!」

「多分、咲ちゃん達も、咲ちゃんと高鴨さんで二勝を狙ってくるはず。ここで、あの忌々しい綺亜羅のヤツらを落とすじょ!」

「当然!」

 なんだか、優希とネリーの息が妙に合っていた。

 まあ、一方は、

『カネカネカネ………。』

 もう一方は、

『タコスタコスタコス………。』

 と、うるさいところでは、よく似ているのかもしれないが………。

 

 

 それはさて置き、一回戦、二回戦の戦績を見る限り、綺亜羅高校メンバーに勝ってるのはネリーしかいない。あとは全員負けっぱなしだ。

 しかし、ここで綺亜羅高校を落として決勝進出したならば、恐らく臨海女子高校、白糸台高校、阿知賀女子学院、永水女子高校の戦いになるだろう。

 

 そうなった場合、十中八九、先鋒戦は白糸台高校の淡が、中堅戦は咲が取ると予想される。

 

 恐らく、副将戦は、湧とダヴァンの一騎打ちになるだろう。しかし、レベル的にダヴァンなら湧に勝てる見込みは十分ある。

 

 そして、ダヴァンが勝つことが前提になるが、雪辱に燃える二人、次鋒のネリーか大将の数絵のどちらかが一勝をあげてくれれば良い。

 

 今度こそ臨海女子高校が優勝する。

 それが優希達の目標であった。

 

 

 一方、この頃、憧は控室に戻れないでいた。

 さすがに、この点差だ。みんなに顔向けできない。

 それを気遣ってか、阿知賀女子学院からは憧に会うために対局室へ行く者は一人もいなかった。

 

 いくら憧が全国ランキング11位でも、最高状態の優希が相手では厳しい。阿知賀女子学院でも、咲以外に敵うものはいないだろう。

 それが分かった上での配慮である。

 

 静香は、一旦控室に戻ったようだ。

 綺亜羅高校は、パッと見た目、全員が一匹狼みたいな雰囲気をまとっているが、メンバー同士は互いに仲が良い。

 まあ、共感するものがあるのだろう。

 

 もう一人の先鋒、安奈は憧と同様、対局室で卓に付いたままジッとしていた。

 いくら最高状態の優希が相手でもヤキトリ終了は仲間に申し訳が無い。憧以上に控室に戻り難い状態だろう。その気持ちは良く分かる。

 

 一応、憧は杏奈とは面識がある。

 昨年の秋に、阿知賀女子学院、粕渕高校、朝酌女子高校、旧朝酌女子高校の練習試合を行った際にアドレス交換もしていた。

 憧は、

「ダブリー一発ツモの親の三倍満を二回に天和一回って、反則だよね!」

 と杏奈に言った。

 ずっと互いに黙っているのが憧は余り得意ではないようだ。

 これに杏奈も、

「そ…そうですよね。」

 と答えた。

 ただ、そう答えたきり、何も言ってこない。

 少し塞ぎ込んだ感じがある。たった半荘一回で、これだけの点差を付けられたのだから仕方が無いだろう。

 

 再び憧は、

「親の三倍満二回と役満一回で120000点も稼いでるんだよ? しかも、それって運だけジャン?」

 そう言って杏奈を励まそうとした。

 ただ、それは同時に、自分自身の敗北に対する言い訳………、いや、自己正当化でもあった。

「…。」

 しかし、杏奈は全然、口を開こうとはしなかった。

 それだけ、この圧倒的点差はショックだったのだろう。

 

 

 しばらくして優希と静香が対局室に戻ってきた。

 場決めがされ、起家は当然の如く優希が引き当てた。やはりタコス効果は顕在である。

 そして、南家は杏奈、西家は静香、北家は憧に決まった。

 

 

 東一局、優希の親。

 配牌直後、

「やっぱり、今日は運が良いじぇい。捨てる牌が無い。」

 優希は、そう言うと手牌を開いた。

 そして、

「ツモ。天和。16000点オール!」

 本日二度目………と言うか、今大会二度目の天和を和了った。

 公式試合で優希が天和を見せるのは、これで何度目だろうか?

 

 この和了りで優希と他家の点数は、前後半戦合計で200000点を超えた。

 憧にとっては、先鋒戦での勝ち星を諦めたところに、さらなる追い討ちをかけられた感じであった。

 もはや絶望的、いや、論外とも言うべきか。

 親番で複合役満を優希から直取りでもしない限り、もう逆転は完全に不可能であろう。

 

 東一局一本場。ドラは{白}。

 ここでは、

「ポン!」

 優希が早々に静香が捨てた{東}を鳴いた。ダブ東だ。

 そして、打{中}。これで、{中}は捨て牌とドラ表示牌で二枚出たことになる。

 

 同巡、

「チー!」

 今度は、静香が杏奈の捨てた{1}を鳴いた。

 まるで優希のペースにピッタリくっついているように思える。

 そして、ここからドラの{白}を強打した。

 一瞬、場の空気が凍りついた。

 しかし、これを誰も鳴かなかった。どうやら、{白}を対子で持っている者は、今のところいないようだ。

 

 数巡後、

「チー」

 優希が憧の捨てた{一}を鳴き、{横一二三}を副露した。

 どうやら、捨て牌から察するに優希は萬子の混一色に走っているようだ。

 

 同巡、静香は{[⑤]}を強打。

 ここまで静香の捨て牌には{二}、{四}、{②}、{[⑤]}とあり、逆に索子が無い。

 それに、{横123}を副露。

 鳴き牌と捨て牌から、見た感じ索子染めと思える。

 

 次巡、杏奈は、

 {二三四②③④⑥⑧23467}  ツモ{⑥}

 

 絶好の聴牌だ。

 当然、ここから打{⑧}。

 しかし、

「ロン。」

 和了りの宣言が下家から聞こえてきた。

 そう、静香の和了りだ。

 

 開かれた手牌は、

 {⑦⑨白白白發發發中中}  チー{横123}  ロン{⑦}  ドラ{白}

 

 小三元チャンタドラ3の倍満直撃。

「16300!」

 どうやら、{白}を四枚持っていたところから{白}を強打、また、{⑧}を出させるために{[⑤]}を強打していたのだ。

 それにしても、ここまで大きな手を張られていたとは………。

 それ以前に、ドラを含む三元牌を、ここまで大量にガメていたとは、ある意味、なんと言う強運だろうか?

 一方の杏奈にとっては、まさかの振り込みだった。




おまけ


導入司会は憧シリーズ(ダッチ〇イフ)が担当します。


ヤエ「九十七本場おまけの一件で、塞が剣幕に怒っているのでな。今回から塞を主役にしたSFをお送りする。」

憧「まあ、咲-Saki-登場人物による学芸会みたいなものよね(こんなの書いてるから本編が進まないんじゃないの?)。」

絹恵「中味は、敵と戦う合体ロボットモノやて!」

淡「でも、タイトルが『塞のカラダは増幅器!?』だって。いったいナニを増幅するんだろう?(妙味深々)」

姫子「各章のサブタイトルもすごか!
プロローグ.『夢…あの娘も奴らの生贄…』
一.『私が増幅器…? ナニを増幅するの?』
二.『報酬は美女のカラダ』
三.『私の初体験………ナニを増幅?』
四.『二人同時に私の中に…』
五.『邪神がデザインしたカラダ』
六.『何、このエロ女!』
七.『愛の美の女神?』
八.『私は…最高の獲物』
九.『特典は私…』
十.『こんなにたくさん相手するの?』
十一.『勝利の女神?』
エピローグ.『増幅器卒業!』
なんか、七章と十一章以外は、正直、エロ小説かなんかにしか見えんとよ!」

ヤエ「でも、まあ、ほんとうに危なそうなら、まこがなんとかしてくれるはずだ。」

憧「それでは、『塞のカラダは増幅器!?』。スタート!」




塞のカラダは増幅器!?


プロローグ.『夢…あの娘も奴らの生贄…』

その日、私は夢の中にいた。
一瞬、まるで幽体離脱したかのように、私は自分の姿を見ていた。
夢の中の私は、まるで妖精のような姿だった。背中には何故か羽が生えていた。少なくとも普通の人間ではないようだ。
ただ、性別は今の自分と同じで女性らしい。

そこは何か乗り物の操縦室のようだった。どうやら、その乗り物で敵と戦っているらしい。
隣の席には、やはり背中に羽の生えた女性が座っていた。
彼女の名はハツミ。胸の辺りがはだけている服を着ていた。いや、あれは服として機能しているのだろうか?
それと、ハツミは、私よりも、ちょっとだけ(?)背が大きい感じだった。
どうやら、私と彼女は親友らしい。

私とハツミの後ろには、同じ背格好で背中に羽の生えた別の女性が二人いた。
胸の無い方がトモエ、胸の大きい方がハル。
夢の中だけの存在なのに、何故か名前まではっきりしていた。

身体が激しく揺れた。私達の乗り物に敵の攻撃が命中したのだ。
脱出機は二機。
それぞれ二人乗りだった。
私はハツミと一緒に脱出機に乗り込んだ。
脱出機が飛び出した直後、それまで私達が乗っていた何かが大爆発を起こした。その乗り物は、どうやら巨大な戦闘機だったようだ。
トモエとハルの乗る脱出機が後方から敵の攻撃を受けた。そして、私達の目の前で無残にも爆発した。
『トモエ! ハル!』
私は夢の中で叫んでいた。共に何年も一緒に時を過ごしてきた仲間の最期を見届けたように感じていたのだ。
次の瞬間、私達の脱出機が激しく揺れた。敵戦闘機のレーザー砲が命中したのだ。
操縦不能となった脱出機は、どんどん高度を下げていった。
そして、高度数百メートルまで落ちたところで、私はハツミを無理やり脱出機の外に放り出した。彼女だけでも爆発から逃れて欲しかったのだ。
ハツミのパラシュートが開くのを見届けた。
その数秒後、脱出機が地上に激突した。
私は激突直前に脱出したはずだった。でも、僅かに脱出が遅かったのだろう。爆風に煽られて地面に強く身体を打ちつけた。
右の二の腕と右腿が、激痛を超えて痺れていた。脱出機の爆発で右腕と右脚が吹き飛ばされていたのだ。
私は一応、夢の中では超能力らしき不思議な力が使えるらしい。顔を歪め、うずくまりながらも、その不思議な力で腕と脚を止血していた。

虫唾の走るような声が聞こえてきた。野蛮………と言うよりも図々しい感じのする声だ。
「カナちゃん、捕虜を一匹捕まえたし!」
「もう一匹、あそこに落ちてます。高一最強の私が捕まえに…。」
「あれは放っておいたらエエねん。出血が酷いし、すぐに死ぬと思うわ。デクにもならん。それより腹減ったな。串カツかたこ焼きかなんか無いか?」
死ぬって、私のことか…。
声のする方を見上げると、巨人達の一人がハツミを片手で掴み、軽々と持ち上げていた。その者達の背丈は、どう見ても私やハツミの五倍くらいになる。
まるで、巨大な人食い鬼のように見える。
私は薄れ行く意識の中でハツミの名を叫ぼうとした。
でも、声が出なかった。致命傷を受けた私は、もはや気力も体力も限界に達していた。


どれくらい時が経ったのだろう。
しばらくして、誰かが私に呼びかける声が聞こえてきた。可愛らしい女性の声だった。
うっすら目を開けると、高校生くらいの女性が私の顔を覗き込んでいた。ただ、身体のサイズは、あのウザく図々しい女達と同じくらいだ。
私が縮んだのか?
彼女は、健気な雰囲気の中に儚い感じが見え隠れする独特なオーラを身にまとっていた。どうやら、彼女が私を助けてくれたらしい。
「私はエイスリン。あなたは?」←オールカタカナでは読み難いため普通に記載します
でも、私は口を開くだけの体力が無かった。
そこは鉄格子で覆われた牢屋の中に見えた。トラックの荷台を牢屋に改造した、昔どこかのアニメで見たような古典的な護送車の中だった。

『汚物は消毒だし!』
と言いながら火炎放射器とかを使う輩が出てきてもおかしくないシチュエーションのように思える。

そこには、若い女性がたくさん乗せられていた。彼女達は、どこかへ連れて行かれるところだったようだ。
エイスリンも、その中の一人だった。
周りの人の声を聞いた感じでは、数十メートル先でうずくまる私を見つけたエイスリンが、運転手に無理を言って助けてくれたようだ。
そこで再び意識が消えた。


次に気が付くと、薄暗い部屋の中で私は寝ていた。
その部屋には、さっきの護送車の中にいた女性達が押し込められていた。顔ぶれが一緒だ。
しかも、私の右腕と右足を吹き飛ばされた設定は、まだ生きていた。随分と整合性の取れた夢だ。
誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。またもや図々しい雰囲気のする女性の声だ。
すると、エイスリンが私に、
「すぐ戻ってくるから。」
と言って部屋から出て行った。
しばらくすると、女性達の歓喜の声が聞こえてきた。
『あの娘も奴らの生贄…』
何故か私はエイスリンに対して、そう思っていた。
そこで再び私の意識が途切れた。
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