咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百五本場:ワシズ、トリプル役満狙い

 阿知賀女子学院の控室では、

「もし、ここで憧からこれを和了るようやったら、綺亜羅の先鋒は、その程度っちゅうことや!」

 この言葉を聞いて、全員が声の主………恭子の方を振り返った。

 恭子は、もし、この局面で役満を聴牌できても絶対に和了らない。自らの勝ち星を放棄するからだ。

 なので、もしここで静香が憧から役満を和了って自らの敗北を確定したならば、綺亜羅高校はチームとして大したこと無いと考えていた。

 

 

 これと時を同じくして、

「おぉーっと! 阿知賀女子学院、新子憧選手の役満振込みだぁー!」

 観戦室では、スピーカーから流れる元気の良いアナウンサー………福与恒子の声が響き渡っていた。

 勿論、控室にも同じ映像が流れている。当然、各校控室のテレビからも同じ声が聞こえてきた。

 

 しかし、静香は手を開かなかった。和了らなかったのだ。

「信じられません! 綺亜羅高校、鷲尾静香選手。まさかの役満見逃しだぁー!」

 再び、恒子の声がこだました。

 すると、解説者の小鍛治健夜が、恒子とは対照的に落ち着いた声で解説を始めた。

「{②}で和了った場合、後半戦だけで考えれば鷲尾選手のトップ確定になりますが、前後半戦トータルで考えますと、臨海女子の片岡選手のトップが確定します。」

「へっ?」

 どうやら、恒子には前半戦のスコアが頭に入っていなかったようだ。

 

 現在の後半戦の点数は、

 1位:静香 166400

 2位:優希 138700

 3位:憧 90900

 4位:杏奈 4000

 

 ここに前半戦の得点を加えたトータルは、

 1位:優希 376400

 2位:静香 224500

 3位:憧 150200

 4位:杏奈 48900

 

 つまり、静香は優希からトリプル役満を直取りするか、トリプル役満をツモ和了りするしか無いのだ。

 

 同巡で、静香は南をツモった。ここから打{③}。

 手牌は、

 {①白白白發發發中中中南南南}

 大三元四暗刻聴牌へと変わった。

 {①}待ちのダブル役満だ。

 

 次巡、憧は{北}が初牌だったがツモ切り。飽くまでも和了り狙い。

 そして、同巡で杏奈が{①}を引いてきたが、不要牌。

 これもツモ切りされた。

 

 これは、言うまでもなく静香の和了り牌だった。

 しかし、

「(ワタシの{①}………。)」

 静香は、こう心の中で呟いたものの、決して表には出さずに涼しい顔で64600点の和了りを見逃した。

 飽くまでも狙いは逆転トップなのだ。

 

 さらに同巡、優希は、

 {七七①1223344西西北}

 ここから{七}をツモった。

 七対子を狙うならツモ切りだが、静香から不穏な空気を感じ取っている優希は、杏奈に合わせ打ちして{①}を切った。

 当然、同巡フリテンなので、これでは静香は和了れない。もっとも、和了れても逆転できないため、見逃すだろうが………。

 

 

 極度に緊張したこの場面で、静香が引いてきたのは{北}だった。

 静香は、

「({①}、バイバイ…。)」

 そう心の中で呟きながら{北}単騎に切り替えた。ただ、妙に悲しそうである。{①}に何か思い入れがあるのだろうか?

 

 それは、さて置き、これでトリプル役満を聴牌。

 この手を静香がツモ和了り、或いは優希から直取りすれば大逆転だ。

 

 

 次巡、憧は{①}をツモ切り。

 そして、杏奈がツモってきたのは、問題の{北}だった。

 これは初牌だし、非常に嫌な予感のする牌だ。

 

 ただ、ここで何をやったところで杏奈の最下位は変わらない。

 開き直ってツモ切りした。

 これを静香は見逃し。

 

 続いて優希がツモってきたのは{西}だった。

「(朝酌の先鋒が捨てた{北}で和了ると思っていたが、{北}は安牌なのか? いや、多分違うじょ。なら、ここで{北}を切っておいた方が良いじょ!)」

 優希は、同巡で{北}を処理。好判断である。

 これで静香の和了り牌は無くなった。

 

 静香は、続くツモで{西}を引き、{北}と入れ替えた。

 ただ、{西}は優希がたった今、暗刻にした牌。

 余程の何かがあって、優希が暗刻落としに走らなければ絶対に出てこない牌だ。

 

 次巡、憧は{9}をツモ切り。

 杏奈も{九}をツモ切り。

 そして、優希がツモってきたのは………、待望の{4}だった。

 どうやら、運は優希にあったようだ。

 これが{1}なら一盃口がつくが、そんな贅沢は言っていられない。和了り優先だ。これでトップが確定する。

 

 当然、優希は、

「ツモ!」

 これで和了った。

「ツモのみで、400、700の二本付けで600、900だじぇい!」

 クズ手の和了りだが、自然と点数申告の声に力が入る。

 

 これで後半戦の点数は、

 1位:静香 165800

 2位:優希 140800

 3位:憧 90000

 4位:杏奈 3400

 

 ここに前半戦の得点を加えたトータルは、

 1位:優希 378500

 2位:静香 223900

 3位:憧 149300

 4位:杏奈 48300

 優希が待望の勝ち星を手中に収めた。

 

 

「「「「ありがとうございました(だじぇい!)」」」」

 対局後の挨拶を済ませると、各校の先鋒選手は対局室を後にした。

 

 

 少しして、綺亜羅高校控室に静香が戻ってきた。

「ワシズ(静香のこと)、お疲れぇー!」

 中堅の的井美和が、そう静香に言いながら缶のトマトジュースを渡した。決して生き血ではない。まぎれもなくトマトジュースだ。

 美和は、なかなか顔立ちが整っており、カワイイ系。だいたい10人に1人のレベルだ。

「それにしても、残念だったね。最後のトリプル役満。」

 こう言ったのは副将の鬼島美誇人(みこと)。メンバーからは、『人』と『鬼』でカイ(傀)と呼ばれている。

 静香がソファーに勢い良く座ると、

「まあ、あれが親だったら阿知賀の{②}を見逃さなかったけどね。」

 そう言いながら缶のプルトップを開けた。

 

 丁度ここで、

「でもさぁ、なんで南三局三本場で和了りに向かわなかったの?」

 こう聞いてきたのは、大将の稲輪敬子。1000人に1人レベルの美少女だが、極度に『空気の読めない娘』と言われている。

 普通なら、誰からも相手にされなくなるレベルの超ド級KY娘らしい。

 しかし、麻雀部のメンバーは既に馴れっ子のようだ。

「「「「(敬子らしい…。)」」」」

 そう思いながら苦笑いしている。

 

 静香は、

「あれは、和了りに向かわなかったんじゃなくて、和了れる気がしなかったのよ。それで、敢えて阿知賀に鳴かせてツモ順を変えたんだけどね。」

 と、あの時の状況を敬子に説明したが、

「そうだったの?」

 余り敬子には理解してもらえなかったようだ。

 他のメンバーは言うまでも無く理解してくれているのだが………。

「うん。そしたら、それで勢い付かれて和了られたってとこかな? まあ、鳴くと手が加速するって噂は本当だったみたいね。」

「ふーん。でも、まあ、阿知賀には勝ったからイイじゃん。臨海には負けたけど。」

「…。」

 静香の心に何かがグサッと突き刺さった。

 彼女としても、当然、これまでと同様、優希に勝つつもりでいた。東一局のダブルリーチを見るまでは………。

「でも、一回戦二回戦ではワシズが臨海に勝ってたのにね。なんかワシズが負けるって想定外。」

「………ここに天和の照準を合わせてきたからね。」

「でも、これってちょっときついよね。次鋒じゃ、リュウ(竜崎鳴海のこと)が今まで一度も臨海に勝ててないし。これは臨海の勝ち星二が決まったって感じかな?」

 一応、敬子なりにチームが敗退しないか心配しているのだが、こんな言い方をするので、周りから誤解されることが多い。

 

 もし臨海女子高校が先鋒と次鋒を取ったとする。

 中堅は間違いなく咲が大勝し、阿知賀女子学院が勝ち星を決めるだろう。自分達のエースである美和でも、到底敵わない相手だ。

 そして、大将戦も、スター選手である穏乃の底力に敬子自身も敵うとは思っていない。

「だとすると、決勝進出は阿知賀と臨海で決まりかも?」

 正直言って、他のチームメートも、みんな心の底ではそう思っていた。

 しかし、静香が最高状態の優希を相手にあそこまで戦ってきた直後にズケズケ言って欲しい台詞でもない。

 そんなことを言う前に、

『惜しかったね』

 の一言くらい欲しいものだ。

 まあ、KYな娘と呼ばれているくらいだから仕方が無いのだろうが………。

 

 静香は、

「それより敬子も、少しは空気読んで私のことを労ってよね!」

 と敬子に言った。

 別に怒った感じではなく、まあ、敬子に対する教育的指導だ。

『人間として今後困るよ!』

 と敬子に間接的に言いたいだけだ。

 ところが、

「はいはい、お疲れ様。」

 と軽く敬子に言われてしまった。全然、敬子には理解してもらえない。まあ、そう言った精神構造なのだから仕方が無いかもしれない。

「心がこもってなーい!」

 と再び口にする静香。

 それに対して、

『えっ? なんで?』

 と言った顔の敬子。

 まあ、綺亜羅高校麻雀部では、毎度の風景のようだが………。

「「「「(絶対に友達無くすタイプだよね、敬子は………。)」」」」

 と、まあ、全員が毎度の如く、そう思うのが彼女達のパターンのようだ。

 

 

 鳴海がソファーから立ち上がった。

 じゃあ、そろそろ行ってくる。

 これに美和が、

「リュウ。ガンバ!」

 士気を高めようと鳴海に声をかけた。結構、美和は、粕渕高校の坂根理沙のように気を配る性格らしい。

 が、一方の敬子は、

「期待しないで待ってるからね!」

 美和とは真逆だ。

 思ったことをそのまま口にしているだけなのだが、これから対局に向かう人間に対して言って欲しい台詞ではない。

 たしかに今までの戦績を考えれば敬子の言うことも分かるが………。

 もう少し空気を読んでもらいたいものだ。

 

 

 この頃、臨海女子高校控室では、

「優希、さすがだね! 東風の神の大爆発じゃん!」

 こう言いながらネリーが優希に抱き付いていた。

「次はネリーだじょ。これで二勝して決勝進出だじぇい!」

「勿論!」

 先鋒前半戦を見ていた頃から、既にネリーの士気は最高状態を維持し続けている。

 

 自分が留学してきてから一度も優勝経験が無い。

 いや、その前から臨海女子高校は優勝できていない。

 ネリーが留学してくる直前は前チャンピオン宮永照の時代。言わずと知れた白糸台高校絶頂の時代。

 そして、今は照の妹、現チャンピオン咲の時代。

 この宮永世代に突入してからは、まさに宮永姉妹の独壇場。

 二年半前(照が高校2年の夏)から個人戦は宮永姉妹以外に優勝者は無く、団体戦も宮永姉妹率いる高校以外の優勝は無い。ある意味、宮永姉妹vsその他の状態。

 

『それを打ち破り、今度こそ自分達が絶対に優勝する!』

 このネリーの意気込みを周りの誰もが感じ取っていたし、当然、それが臨海女子高校全員の悲願でもある。

 ネリーは、いつもの民族衣装を身に纏い、気の入った顔で控室を後にした。

 

 当然のことだが、次鋒戦のメンバー相手にネリー自身、負けるとは思っていなかった。

 綺亜羅高校の次鋒、竜崎鳴海は、ネリーに二連続で敗退している。

 阿知賀女子学院の次鋒、小走ゆいは、新子憧には劣る。到底、ネリーの敵では無い。

 朝酌女子高校の次鋒、稲村桃香は、従姉妹の稲村杏果と同じで、ここぞと言うところで力を発揮する選手だがレベル的には憧以下。当然、ネリーの敵では無い。

 

 しかし、ネリーは相手を見くびることなく全力を尽くすと心に決めていた。

 一昨年のインターハイで咲に負けて以来、ネリーは絶対に相手を舐めてかからない。あの敗北で、ネリーは誰が相手でも全力を尽くすべきことを学んだからだ。

 

 

 同じ頃、朝酌女子高校控室では、

「みんな、ゴメンね。」

 杏奈が大泣きしながらメンバー全員に謝っていた。

 この大会で杏奈が泣くのは三度目だ。

 一回戦も二回戦も憧に負けた。いくら相手が名の通った阿知賀女子学院の選手とは言え、全然手も足も出ないのは悔しいことだ。

 そこに、今回の大敗。

 先鋒としての役目を全然果たせていない。

 

 監督の閑無も、姪の杏奈にかけるべき言葉が見つからない。

 ただ、ここで杏奈に、

「大丈夫。あとは、私達で出来るだけのことはするから。」

 と声をかけたのは桃香だった。この関係は、まるで学生時代の閑無と杏果のようだ。

 

 桃香は、

「阿知賀の一年生は強いし、それ以上に臨海の次鋒は強いけど、足掻けるだけ足掻いてみる!」

 そう言うと、彼女もネリーと同様、気の入った表情で控室を出て行った。

 相手が格上でも、最初から負けるつもりで卓に付くつもりはないのだ。

 

 

 そして、阿知賀女子学院の控室では、

「ゴメン。さすがに天和モードの片岡さんには勝てなかった。」

 と控室に戻った憧が、開口一番、そう言った。

 

 まあ、タコスvsアコスも、通常状態の優希が相手なら憧が勝つかも知れない。

 東場は、優希の高い手を憧が安手で流し、南場は失速した優希を狙って和了れると予想されるからだ。

 しかし、最高状態の優希は、咲と小蒔を同時に相手にしながら東一局で親の数え役満、天和、親倍の三連続和了りを決めた超化物だ。

 咲でも勝つには苦労する相手。

 それどころか、25000点持ちなら咲でも勝てない相手だ。

 今の憧にとっては、それが彼女の大敗に対して誰も反論できない言い訳になっていた。

 

 晴絵も恭子も、今の憧には問題を感じていた。

 春夏コクマの三連覇で有頂天になっている。

 高校生で、しかも連続で全国優勝を果たしていたら、そうなって行っても決しておかしくはない。

 いや、高校生でなくてもそうなるだろう。普通、誰でもそうなる。

 

 それでいて、強い相手には最初から、

『勝てなくても仕方がないよね!』

 と、はなから勝つことを諦めている。

 まあ、これは部内戦で咲や最高状態の穏乃を相手にしているうちに、こうなって行った部分はあるのだが………。

 しかも、それがゆいに伝染している。これは、これで大きな問題だ。

 技術的ではない、精神面での問題だ。

 

 救いなのは咲と穏乃が普段と変わらないところだ。

 咲は、絶対的王者でありながらも決してタカビーにならない。それどころか、未だに小動物のような雰囲気に包まれ、決して強気な発言をしない。

 むしろ、もう少し堂々として欲しいくらいである。

 穏乃も、自分達が団体戦ディフェンディングチャンピオンの立ち位置にありながらも、チャレンジャー精神を失わない。

 憧もゆいも、咲と穏乃を見習って欲しいところだ。

 

 ただ、今、それを説教して雰囲気が悪く………と言うか精神的負荷をかけても仕方が無い。マイナス効果になるケースもある。

 特に、これから対局に出陣するゆいに精神的圧力をかけるのはタブーだ。

 それで、晴絵も恭子も、憧とゆいには大会が終わってから話をしようと思っていた。

 

 ゆいは、

「私でも臨海のネリーさんが相手では自信がありませんが、やれるだけのことはやるつもりです。」

 と、模範的な台詞を口にしていたが、その表情からは、気合いが余り感じられなかった。

 

 

 対局室に次鋒選手達が入ってきた。

 場決めがされ、起家はネリー、南家は鳴海、西家は桃香、北家はゆいに決まった。

 この席順を見て、

「(やった! これで今までの仇を思い切り取らせてもらうよ!)」

 と鳴海は心の中で声を大にしていた。

 もっとも、口には出していないので、ネリーには聞こえることは無かったが………。

 

 鳴海は、一回戦と二回戦ではリーチ麻雀を主体に打ってきた。県大会、関東大会で見せてきた鳴き麻雀を封印したのだ。

 しかし、今日は違う。

 急に、鳴海から辛気臭い空気が漂い出した。

 

 この様子を綺亜羅高校控室のモニターで見ていた美和は、

「とうとう『鳴きのリュウ』のスイッチが入ったみたいね!」

 世界的選手であるネリーを相手に、鳴海が、ようやく一太刀浴びせてくれる予感がしていた。




おまけ
前回の続きです


二.『報酬は美女のカラダ』

『カラカラ』
とトイレットペーパーの回る音がした。続いてトイレを流す音。多分、無事にクルミは用を足したのだろう。でも、なかなか部屋に戻ってこない。
私は彼女が流されてはいないだろうかと心配になった。
「大丈夫?」
トイレのドアを開けた。でも、そこに彼女はいなかった。
今度はシャワーの音がする。
バスの扉を開けると、中でクルミがシャワーを浴びていた。
「ちょっと、身体を清めようと思って。汁だらけだし…」
彼女もズボラと言うわけではなかったようだ。やはり、あのギトギトには耐えられなかったのだろう。
私はリビングに戻ってコタツに潜り込んだ。
しばらくして、すっきりした顔で彼女がリビングに戻ってきた。
「清めて来たわ。一応、汚いままフェードインさせてもらうのは気が引けるし。」
「フェードイン?」
「そう。今から、あなたの中に入らせてもらうの。」
「入るって、口から?」
「あのね。それじゃ、私が消化されちゃうじゃない。フェードインはね、こうするの!」
クルミの身体が眩いばかりに白く輝いた。まるで、光の玉のようだった。そして、彼女は、猛スピードで私の方に飛んでくると、胸に強くぶつかった。
そのまま、彼女の身体は、私の中に取り込まれた。

急に身体が暖かくなった。とても心地良い感覚だった。
ふと、鏡を見ると、妙にスタイルの良い女性が映っていた。
私も一応女性である。身だしなみのために姿見くらいは置いてある。ただ、その姿見に映っていたのは、いつもの私の姿ではなかった。
胸に手を当てた。鏡の中の女性も同じ動きをする。信じられないけど、これは、私の姿だったのだ。
背丈は、今までと変わらない。元の身長が154センチだけど、多分、同じくらい。
ウエストも、それほど変わらない。
ただ、胸がとてつもなく巨大化している。
多分、GカップからHカップ。今までの私にとって憧れのサイズだ。
例えるなら………そう、痩身巨乳パ〇パン美女の、君島みお(AV女優です)みたいなスーパースタイル。


小蒔「変身後の姿役で登場しています。ちょっと恥ずかしいです。」

初美「姫様をAV女優に例えるなんて罰当たりですよー!」

巴「(でも、あのスタイルじゃ、仕方が無いような気もするけど………。)」


別に、今まで無い胸だったわけではないけど、これなら間違いなく男性達からの需要がありそうだ。
目も大きくてカワイイ系の美人顔。
それに、自分で言うのも何だけど、なんだか神々しいオーラを感じる。このワガママボディには不釣合いな感じもするけど………。
でも、この身体なら自分に自信が持てる。
グラビアモデルにだって負けない。
それどころか、余裕で勝てそうな気がする!
余りの喜びに顔がにやけてきた。
私は、何気に鏡の前で、いろんなポーズを取って見せた。そして、気が付くと普段見慣れない胸を無意識に両手で触っていた。

頭の中にクルミの声が響いてきた。
「何やってんのよ!」
「つい嬉しくなって…。でも、これっていったい、どう言うことなの?」
「これがフェードイン。私があなたの中に入った時、身体中の細胞が活性化して、この姿になるの。この姿で私のミヤモリ・エナジーを増幅して、一緒に敵と戦って欲しいの。もし、増幅器になってくれたら、この身体を報酬にあげるわ。」
「この身体を?」
かわいい顔に憧れの胸だ!
正直、私は心が動いた。
「嘘はつかないわ。正しくは、この姿か、私とハツミがダブルフェードインした時の姿のどちらかを選んでもらおうと思っているけど…」
「ハツミって、キヨスミ星で連れ去られた?」
「そう。私の親友。先ずは彼女を助けて、それから敵の本拠地を叩くの。それと…。」
私の身体なのに、何故か勝手に動いた。
気が付くと、カラーボックスの端の方に隠すようにして置かれた超難問の問題集を手に取っていた。クルミの増幅器といわれるだけあって、フェードイン中は、私の意思よりもクルミの意思に優先されて身体が動くようだ。
でも、何でクルミは、この問題集のことを知っているのか不思議に思った。
すると、私の頭の中にクルミの声が聞こえてきた。
「今、あなたと私は意識を共有しているの。だから、心を統一すれば、互いのことが言わなくても分かるの。」
たしかに、そう言われるとクルミの記憶が手に取るように分かる。
凄い経歴だ。
小学校の頃から周りに推薦されて学級委員とか部活の部長、生徒会長を務めている。
最近は、内申書のために無理に委員とかに立候補する子が多い。実は、私もその一人だ。
でも、少なくとも彼女の場合は、そうじゃない。本当に周りに望まれて上に立っていたのだ。

飛び級して最高学府に入学、そして首席で卒業。さらに博士号…。
他の惑星に単身で送り込まれるのだから、よくよく考えれば当然エリートだ。私とは全然出来が違う。
私の意思に逆らって、私の身体が問題集を開いた。
この問題集は、有名超進学校に通う人達が使うレベルの物で、ちょっとカッコつけて買ってはみたけど、すぐにお蔵入りになったものだ。当然、書いてあることは、私の頭では理解不能で意味不明。出来れば中身を見たくない。私には、表紙を見るのが精一杯の代物だ。
でも、今日の私は違っていた。今まで理解できなかった内容がよく分かる。問題がスラスラ解けるのだ。
「塞、分かる? 今のあなたの姿は、あなたの遺伝情報の範囲内で頭脳と身体をバランス良く且つ最大限に発達させた姿なの。」
つまり、違う環境で育っていれば、この姿になれた可能性もあると言うことなのだろうか?
言い換えれば、今までの私の努力が足りなかったと言うことにならないか?
これは、これで傷つく。
そう思った時、クルミの取り繕うような声が聞こえてきた。
「ちょ…ちょっと、そ…そうじゃないわ。私の説明が悪かったみたい。遺伝情報は、必ずしも発動するとは限らないの。『隔世遺伝』って言葉を聴いたことがあるでしょ。あれは、遺伝情報が発動しないケースが途中にあるから見られる現象なの。」
「じゃあ、もともと私が持っている遺伝情報だけど、どんなに努力しても、こうなれない可能性もあるってこと?」
「そうなるわ。今は、私がフェードインして戦うために一番都合の良い遺伝情報を引き出しているの。それが、この姿なの。例えばだけど、いくら努力したって、整形でもしない限り顔のパーツを変えることなんてできないでしょ。」
たしかにそうだ。
でも、多分、いくつかは、間違いなく私の努力不足だ。
そして、もう一つ間違いなく言えることは、今から頑張っても、このスタイル………胸を手に入れることは出来ない。
一応、胸の成長は少しだけ期待してたけど、今後、ここまでは成長しないだろう。
頭の方は、何年もかければ、まだリカバーできるかもしれない。でも、その確率は限りなくゼロに近い気がする。
それ以前に、努力しないで出来るようになりたい。都合の良い話だけど…。

「もし、この身体で良ければ、この頭脳もセットであなたのものよ。もともと、あなた自身の持つ潜在的な力だし。」
「本当!」
「ただ、さっきも言ったけど、私がフェードインした姿と、私とハツミがダブルフェードインした姿のどちらかを選んでもらうわ。ダブルフェードインした時は、二人分のミヤモリ・エナジーを増幅するために体力面にバランスが傾くけど…。」
美貌も学力も、劣等感がゼロとは言いきれない。そんな私には、この上なく美味しい話に聞こえた。これが無条件だったら、全然断る理由は無い。
でも、条件は、カクラ星とキヨスミ星との戦い。つまり、宇宙大戦争の真っ只中に身を投じることだ。
良いのか、私?
本当に良いのか?
どんな使われ方をするのかも良く分からないんだぞ!

でも、報酬は目が大きくてカワイイ顔、そして理想の胸。さらに、いきなり名門超進学校レベルの才女だ!
反則技に近い報酬だ。
私は、この魅力と言うか、報酬の魔力には敵わなかった。
これがクルミの交渉術なのか?
こっちの欲求を完全に熟知した上で話を作っている。
「どう? 塞。」
「わ………分かったわ。この身体、貸してあげる。」
「商談成立ね。」
「でも、本当に私で大丈夫なの? 宇宙に行くんでしょ? 訓練とか受けなくても大丈夫なのかな?」
「それは問題無いわ。フェードインした姿なら十分加速とかも耐えられるし、既に宇宙飛行士としての資質が十分ある状態になっているはずよ。」
「そうなんだ。随分、都合が良いけど…」
「だから、さっきも言ったけど、戦うために『都合良く』遺伝情報を引き出しているんだってば。」
言葉だけ聞いていると、何かちょっと嘘臭く感じる。都合が良過ぎる。
でも、今の私と彼女は意識を共有している。もし嘘をついていれば、その場ですぐに分かるはずだ。
勿論、そんな感じはしてこない。多分、本当のことなのだろう。
「じゃあ、フェードアウトするわね。」
私の胸から白い光の玉が抜け出した。
クルミが私の身体から出てきたのだ。私の中に入るのをフェードイン、私の中から出てくることをフェードアウトと言うらしい。

鏡を見ると、元の私の姿に戻っていた。
たしかに、こっちの姿の方が見慣れているし、何となく落ち着く。
でも、何か悲しい。あの顔と胸はドコへ行った?

再び、さっきの問題集を開いて見た。
案の定、書いてあることが意味不明な状態に戻っていた。
さらに悲しさが増した。やっぱり私の頭じゃ難問集は無理だ。
そんな私に目もくれず、クルミは、円盤の中で何やら黙々と作業をしていた。いろんなコードを繋ぎ変えたり基盤を交換したり、何か改造しているみたいだ。
「ええと、これで空間接続の方はOKね。じゃあ、早速行くわよ。」
「空間? 早速って、えっ?」
「これからトヨネに乗るのよ。」
「トヨネって?」
「まあ、イイからイイから。」
クルミが私の手を円盤の一部に触らせた。そして、彼女が円盤の中のスイッチを押すと、急に円盤が強烈に輝き、リビングが眩い赤い光に覆われた。
眩し過ぎて何も見えない。私は、強く目を瞑った。


足元の感覚がおかしい。まるで、床に足が着いていないみたいだ。
宙に浮いているのだろうか?
その感覚が数十秒ほど続いた気がする。
床に足が着いている感覚が戻った。
「目を開けても大丈夫よ。」
クルミに言われて私は、うっすらと目を開いた。
既に円盤の光は、おさまっていた。
辺りを見回すと、そこは、マンションとは違う空間だった。でも、どこかで見たような感じがする。
そうだ。あの夢の中で見た操縦室に似ているんだ。
そこには、私達地球人が座るくらいの大きさの操縦席があった。どう考えても、クルミにはサイズが大き過ぎる。
操縦席の両脇には、クルミに丁度良いサイズの席が一つずつ配置されていた。
そして、その後には、三畳間くらいの空間があった。たいして広くは無い。
操縦室後方の壁の中央には扉が一つ付いていた。その扉は鏡張りになっていて、今、普段の地味な私の姿が映っている。
天井までは、2メートルちょっと。
操縦席の向こうには、ガラス越しに宇宙空間が広がっていて、たくさんの星々が美しく光り輝いていた。
そして、普段見ている満月よりも数段大きな星が右の方に見えた。青く輝く星だ。私は、この星をどこかで見たことがある。
私は、窓の近くに駆け寄った。
そうだ。地球だ。
教育番組か何かの宇宙シリーズで出てきた映像と同じだ。
「これって…?」
「そうよ、塞。地球よ。」
「じゃあ、ここって?」
「月面よ。あなたの部屋から、ここまで瞬間移動してきたの。円盤に内蔵された瞬間移動システムを使ったのよ。」
「じゃあ、もしかして私を円盤に触らせたのは?」
「瞬間移動させるため。この円盤は、触れている人を連れて別のところに移動する装置なのよ。限界距離は50万キロくらいかしら。それと、トヨネは…。」
「そう、トヨネって何?」
「今、私達が乗っている巨大ロボットよ。」


豊音「私って巨大ロボットの役なの?」

白望「それは仕方が無いと思う。」


「ロボット?」
「そう。私の脳波で制御されているから私が許可した人以外は操縦室には入れないことになっているけどね。」
「そうなんだ。」
「100メートルくらいの距離だったらトヨネに内臓された瞬間移動システムで行けるんだけどね。今回は円盤の瞬間移動システムじゃないとムリな距離だったからね。」
「ふーん。でさ、ちょっと一つ聞いて良い?」
「うん。」
「月面だったら重力が少ないはずじゃない? でも、ここは地球と同じくらいの重力に思えるんだけど…。」
ここでは、何故か地上と同じように普通に動くことができた。さっき、窓の方に駆け寄った時の感覚から月面にいるとは思えない。
「それはね、ここが自動的に地上と同じ重力を持つように、床の重力装置が働いているからなの。地球に行けば重力装置は働かなくなるし、無重力の世界に行けば、丁度地上の重力と同じだけの力が働くわよ。それと、逆に重力が強いところに行けば反重力が働くわ。」
信じ難いけど、凄い技術だ。
地球でも、宇宙開発に向けて欲しい技術であることは間違いないだろう。

クルミがモニターのスイッチを入れると、私の部屋が映し出された。
本来ならば誰もいないはずだ。でも、何故か普段の私にそっくりな人がいる。
「あれって、誰?」
「あなたのコピーロボットよ。あなたがいない間の留守番として置いてきたの。一応、戸締りもちゃんとしてくれるし、掃除もしてくれるわ。普通の人間の生活サイクルに似せて動くようにプログラムされているから…。」
「でも、これだけの物を造れるんだったら、ミヤモリ・エナジーの増幅装置を人工的に作れないの?」
「難しいわ。カクラ星でも研究しているんだけど、まだたいした増幅力を出せないの。でも、あなたなら相当な増幅が見込めるわ。そうそう。話は変わるけど、コピーロボットは、さっきのカップ麺の残りもちゃんと綺麗に片付けるわよ。だから、黒かったり茶色かったりする嫌な昆虫類の対策は大丈夫よ。あれって嫌いでしょ?」
既にクルミは、私の細かいところまで掴んでいるようだ。さっきフェードインした時に、私の本質全てを見抜いてしまったのだろう。
もっとも、あの昆虫類を好きと言う人は希有だと思うけど…。
「それとね、塞。あの扉の向こうに簡易的なトイレとバスがあるわ。使い方は、後で教えてあげる。それから、これを着てくれるかしら?」
クルミが操縦席の下から何やら衣類を引っ張り出して私に差し出してきた。
「下着も脱いで、これを直接肌の上から着てくれる?」
「これって?」
「戦闘用の服よ。」
そう言われても、本当に、これって戦闘用なのだろうか?
肘まである手袋に膝上まであるブーツ、そして、まるでハイレグ水着のような服。
こんなの、恥ずかしくて絶対に人前でなんか着られない。
でも、ここには私とクルミしかいない。まあ、人目があるわけでもないし、だったら試しにと思って身につけてみた。
けど、やっぱり恥ずかしい。
私は真っ赤な顔で、その場に座り込んだ。

すると、クルミが強烈な光を放ちながら私の身体に飛び込んできた。
『フェードイン!』
私の身体は、再び抜群のスタイルに変身した。しかも顔良し、頭脳も明晰の、あの姿だ。
鏡に映る美しい肢体。急に妙な自信が湧いてきた。
たしかに、この姿なら、この戦闘服ハイレグを身に着けていても絵になる。
私は鏡に向かってポーズを取ろうとした。
すると突然、私の身体を白い光が覆った。
その直後、何故か私は重力を殆ど感じなくなった。
周りには無機的な月面の世界が広がっている。操縦室から外に放り出されたようだ。
何故か、私は宇宙服を身にまとっていた。
「塞、驚いた? さっきの戦闘服が変化したの。状況に合わせて、自動的に宇宙服になるように作られているの。」
普通なら、この宇宙服に驚くだろう。でも、この時の私は、宇宙服のことを余り気に留めていなかった。
それよりも、目の前にある真っ白で巨大な人魚の形をした、彫刻みたいなものに目を奪われていた。
凄く神秘的で綺麗に見えた。
高さ50メートル以上はあるだろう。それが、月面の20~30メートル上空に浮いていた。
「これって?」
「これがトヨネ。私のミヤモリ・エナジーで動くロボットよ。さっきまで、この頭部の中にいたの。目の辺りが操縦窓になっているわ。ハーフミラーみたいになっているの。」
これが動くのか…。信じられない。


豊音「身長50メートル以上って、私も信じられないよぉ。」

白望「ダル………。」


私の身体がトヨネの顔の高さまで浮き上がった。この宇宙服の背中には超小型のジェットエンジンみたいなものが付いている。
トヨネの顔には、両目はあるけど口が無かった。
鼻も、それっぽく出っ張っているだけで、正面からは筋があるくらいにしか見えなかった。
まるで、デッサンとかに描かれたような簡略化した顔だ。でも、別に口から火を吐くとか言葉を話すとかが無ければ、無理に口をつける必要は無い。鼻もそうだ。
額には第三の目と思われるものが付いていた。両目とは形が違っているけど、何と言うか、巨大な宝石みたいだ。
これが、もしルビーとかサファイヤだったら、どれくらいの値段がつくのだろう?
その輝きに、私は目を奪われた。

再び、私の身体を白い光が覆った。その直後、私はトヨネの中に戻っていた。
今、私の身体はクルミの意思で動いていた。私の意思には全然反応しない。まるで乗っ取られた感じだ。
「私が円盤に乗ってあなたにテレパシーを送っていた時、宇宙空間ではトヨネが私の護衛をしていたの。さすがにトヨネで大気圏内まで入ると地球の人達に見つかるから、ここで待機させていたんだけどね。」
私の身体が勝手に動き、円盤を操縦室後方の棚の中にしまい込んだ。そして、操縦席に座ると、手前にある液晶版みたいなものを手に取って顔に近づけた。
手が熱い。
私の手から、その液晶版もどきにミヤモリ・エナジーが送り込まれているらしい。

クルミの声が聞こえてきた。心の中の声だ。
「これで、塞の脳波もトヨネに登録されたわ。」
「登録って?」
「私だけでなく、塞の脳波でもトヨネに指令できるようにする必要があるから。」
きっと、私が乗るのに脳波を登録しておいた方が無難なのだろう。この時、私は勝手にそう解釈していた。
後になって、真意を知ることになるのだが………。


私の全身から大量のミヤモリ・エナジーが放出された。
同時にクルミの記憶の一部が私の頭の中に流れ込んでくる。
それによると、トヨネは、操縦室の壁やシートからミヤモリ・エナジーを吸収する仕組みになっているようだ。
特に操縦桿とかは無い。ただ、頭の中でイメージしたとおりに動くらしい。そう言う意味では、操縦自体は非常に簡単だ。
正直、私でも操縦出来そうだ。
ちなみにクルミが外にいる時は、額の第三の目からミヤモリ・エナジーを吸収して動かすことが可能らしい。私達を操縦室に瞬間移動させる時にも、そこで吸収したミヤモリ・エナジーが使われるようだ。

トヨネがクルミの指示に従って上昇し始めた。
そして、ある程度の高さまで上昇すると、今度は一気に加速した。
以前の私はジェットコースターが嫌いだった。あの加速を好きになれなかった。
でも、今の………変身した私は、ジェットコースターなんか比べ物にならないくらい凄い加速にワクワクドキドキしていた。
もしかしたら元の私の方が偽の私で、この刺激を求める姿こそ、心の奥深くに封印された本当の私なのかもしれない。
そのまま、トヨネはワープに入った。
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