準決勝戦第一試合次鋒前半戦。
東一局、親は臨海女子高校のネリー・ヴィルサラーゼ。ドラは{3}。
ネリーは運を操作する能力を持つ。この親では、ネリーは和了らず、南二局以降に三倍満を連発して前半戦を逆転で終わらせる筋書きを立てていた。
どの局で誰が和了るかも大凡決まっている。
しかし、他家に余り高い手を和了らせたくはない。当然、手が高くなる前に、ツモ和了りさせるかネリーが差し込んで場を流す予定だ。
今回、他家に和了らせる仮想上限はハネ満ツモまで。ネリーの差し込みなら満貫以下に抑えたい。
ハネ満ツモなら普通は和了る。見逃す手は無い。
直撃でも満貫なら普通は誰でも喜んで和了るだろう。
ただ、倍満以上高い手を連続で和了らせるとネリーも最後で逆転するのが難しくなる。それ故の仮想上限だ。
「リーチ!」
上家の阿知賀女子学院小走ゆいが四巡目で先制リーチをかけてきた。どうやら、この局で運を持たされているのは、ゆいのようだ。
ネリーは、ゆいのリーチを事前に察知していたかの如く、手出しでゆいの現物となる{西}を切った。わざわざ残しておいたのだ。
鳴海と桃香も、一旦現物切りで一発回避。
一発ツモは無かったが、数巡後に、
「ツモ!」
ゆいがツモ和了りした。
開かれた手牌は、
{三四五六七③④[⑤]22678} ツモ{二} ドラ{3} 裏ドラ{8}
{二五八}の三面聴だった。
「メンタンピンツモドラ2。3000、6000!」
しかもハネ満。
ゆいのとっては幸先の良いスタートとなった。
東二局、竜崎鳴海の親。ドラは{七}。
まだ鳴海は動かない。
どうも鳴海は、ツモの流れとか、局全体の流れを観察している感じだ。まだ勝負に出ていない。
「ポン!」
この局、動いたのは桃香だった。下家のゆいが捨てた{3}を鳴いた。杏果と同じで桃香は縦に手が伸びる特徴を持つ。
副露されたのは、言うまでも無く{3}の刻子。
そして、数巡後には、
「ツモ!」
桃香が和了り牌を自らの手で引き当てた。しかも赤牌。
この局では、桃香に運が流れているようだ。
開かれた手牌は、
{四四四⑤⑤⑧⑧666} ポン{33横3} ツモ{[⑤]}
「タンヤオ対々三暗刻赤1で3000、6000!」
ツモられたのが赤牌でなければ満貫だった。
ネリーとしては、ここで親の鳴海を少しでも多く削りたかったようだ。一回戦、二回戦で、ネリーは鳴海に勝利していたが、ゆいや桃香よりも鳴海の方が数段強いと無意識に感じ取っていたためである。
東三局、稲村桃香の親。ドラは{①}。
どうやら、この局の運の保持者は、親の桃香ではなく、ゆいだった。ゆいの手がスイスイ進む。
恐らくネリーは、他家の連荘を避けたいのだろう。
割と早い巡目で、
「ツモ!」
ゆいが門前でツモ和了りした。
ただ、リーチはかけていなかった。逡巡しているうちに和了れてしまったようだ。
開かれた手牌は、
{五六七②②④[⑤]⑥44556} ツモ{6}
{七}と{四}が入れ替わるのを待っていたのだろう。あと赤牌との入れ替わりか。
「タンピンツモ一盃口ドラ1。2000、4000。」
ただ、入れ替わる前に{6}を引いて和了れてしまったと言った感じだ。とは言え高目ツモなのだから文句は無い。満貫だ。
これで前半戦の順位と点数は、
1位:ゆい 117000
2位:桃香 105000
3位:ネリー 89000(席順による)
4位:鳴海 89000(席順による)
ゆいは、まさか自分がネリーを相手に首位に立てるとは思っていなかった。多分、本人が一番驚いているだろう。
東四局。ゆいの親。ドラは{4}。
もしかしたら、これならトップで前半戦を折り返せるかもと、ゆいは一瞬期待した。
しかし、配牌を見て、やはり運を操作されていることに気付く。前局とは打って変わってバラバラだ。
とりあえず、ヤオチュウ牌から処理をしてゆく。
この局、
「ポン!」
真っ先に動いたのは、鳴海だった。まず、ゆいが捨てた{2}を鳴いた。
ただ、この局で勝負しようとしていたのは鳴海だけでは無い。
「ポン!」
鳴海の捨て牌の{3}を桃香が鳴いた。勿論、対々和狙いだ。運は、桃香のほうに流れていたのだ。
数巡後、
「ポン!」
再び鳴海が、桃香の捨てた{八}を鳴いた。そして、打{七}。
すると、
「ポン!」
この{七}を桃香が鳴いてきた。完全に鳴海と桃香の鳴きスピード勝負だ。
ただ、鳴海の鳴きの真骨頂はここからである。この時のために、鳴海は、一回戦と二回戦で自分の打ち方を隠していたのだ。
その二巡後、
「カン!」
鳴海が{2}を加槓した。
普通なら、ただの槓。ところが、鳴海の場合は普通じゃない。
めくられたドラ表示牌は{1}。ドラがモロ乗りだ。
鳴けば鳴くほどドラ………竜が乗り、手が高くなる。故に彼女は鳴きのリュウと呼ばれているのだ。
そして、嶺上牌を引くと、
「もう一つ、カン!」
続いて鳴海は{八}を加槓した。
めくられたドラ表示牌は{七}。これもモロ乗りだ。
そして、嶺上牌を引き入れると、{北}を手出しした。
これで鳴海のドラ8、つまり倍満が確定した。
さすがに、この手に振り込みたくは無い。誰もが何らかの形で安手で良いから流したいと思うだろう。
当然、ネリーも同じ考えだった。
「(そろそろ朝酌も聴牌しているだろう。多分、待ちは{②⑦}のシャボ。タンヤオ対々に赤ドラありで満貫ってところか。)」
そして、ネリーが{⑦}を切ると、
「ロン!」
予想通り桃香が和了った。
開かれた手牌は、
{②②⑦⑦55[5]} ポン{横七七七} ポン{横333} ロン{⑦}
完全にネリーの読みどおりの手だった。
これで、この局が流れたとネリーは安心した。
ところが、これに一歩遅れて、
「ロン………。」
辛気臭い声がネリーの下家から聞こえてきた。
「えっ?」
声のするほうにネリーが視線を向けると、鳴海も手牌を開いていた。
鳴海も、この{⑦}で和了りなのだ。
しかも、開かれた手牌は、
{③③③④⑤⑥⑦} 明槓{八八八横八} 明槓{22横22} ロン{⑦}
{②④⑤⑦⑧}の五面聴だ。
今大会はアタマハネを採用している。
この場合、ネリーの下家である鳴海の和了りが認られる。
つまり、
「タンヤオドラ8。16000。」
ネリーの倍満振込みとなった。
これで前半戦の順位と点数は、
1位:ゆい 117000
2位:鳴海 105000(席順による)
3位:桃香 105000(席順による)
4位:ネリー 73000
しかも、この鳴海の和了りは、単に桃香への和了りを横取りしただけでは無い。もし、これが25000点持ちの麻雀なら、今の振り込みでネリーのトビで終了である。
ネリーにとっては、まさに屈辱的なの振り込みとなった。
南入した。
南一局、親は再びネリー。ドラは{一}。
ここでも、
「ポン!」
鳴海が早々に上家のネリーが捨てた{白}を鳴いた。
この局、ネリーが運を上昇させたのは、ゆい。基本的に、ゆいが最も強い運を持つはず。
ところが、
「ポン!」
鳴海が鳴くことで流れを変え、ゆいの聴牌を遅らせた。
ここで鳴海が鳴いたのは下家の桃香が捨てた{④}。ゆいとしては、{③[⑤]}から鳴いて手を進めたかったところだ。
その後、ゆいは{⑦}を引いて薄い嵌{④}待ちを嫌い、{③}を捨てた。
さらにその数巡後に、ゆいは聴牌。
この時のゆいの手牌は、
{二二三三四四[⑤]⑦34[5]66}
タンヤオ一盃口ドラ2の満貫手。
その次巡、
「カン!」
鳴海が{④}を加槓した。槓ドラは{白}。鳴海のポン牌がモロ乗りだ。
そして、嶺上牌の{6}を、そのままツモ切りした。
同巡、ゆいは和了れず。
そして、次巡、ネリーは{⑧}をツモ切りした。できれば、ゆいに差し込みたいのだが、肝心の{⑥}を持っていなかった。
この同巡、
「カン!」
またもや鳴海が加槓した。今度は{白}の槓だ。しかも槓ドラは{④}。これで、この局も鳴海はドラ{8}の手となった。
しかも役牌がある。他家にとって最悪の手だ。
この同巡、ゆいは和了り牌をツモれずにツモ切り。
そして、次巡。ネリーは待望の{⑥}をツモってきた。ゆいの和了り牌だ。
これを差し込んで、この局を終わらせる。当然、ツモ切り。
「ロン。」
この{⑥}で、喜び勇んで、ゆいが和了った。
開かれた手牌は、
{二二三三四四[⑤]⑦34[5]66} ロン{⑥}
「タンヤオ一盃口ドラ2で8000点です!」
ゆいは、さらに点数を伸ばして自然と顔から笑みが零れる。
しかし、
「ロン。」
またもや一歩遅れて、ネリーの下家から辛気臭い声の和了り宣言が聞こえてきた。
「「えっ?」」
ゆいもネリーも驚いて、声がした方に視線を向けると、鳴海が手牌を開いていた。
その手牌は、
{七八九⑥123} 明槓{④④④横④} 明槓{横白白白白} ロン{⑥}
まさかの{⑥}単騎だった。
「白ドラ8。16000。」
またもやアタマハネの倍満振込みだ。
この席順では、ネリーが桃香とゆいのどちらかに差し込んだとしても、鳴海が同時に和了った場合、全て鳴海のアタマハネになる。それで鳴海は、この席順に決まった時に、密かに喜んでいたのだ。
しかも、この和了りで鳴海がトップに立った。
完全にネリーの筋書きから離れた展開だ。ネリーにとっては踏んだり蹴ったりである。
悔しがるネリーに、鳴海が小さな声で語り始めた。
「王牌を支配する人間を、私は四人知っている。一人目は誰もが知っているチャンピオン宮永咲。嶺上牌を支配する。二人目は松実玄。全てのドラを支配する。三人目は槓裏を支配する大星淡。そして四人目は私………。」
「お前がだと?」
「そう。ただ、チャンピオンとは違って、私のカンは和了るカンではない。ドラを乗せて相手を刺すカン………。」
「でも、まだお前に負けたわけじゃない。ここから、お前をまくってみせる!」
こう言うと、ネリーの目に炎が灯った。
現在の順位と点数は、
1位:鳴海 121000
2位:ゆい 117000
3位:桃香 105000
4位:ネリー 57000
しかし、ここから南二局、南三局、オーラスと、三連続でネリーが三倍満をツモれば、点数は、
1位:ネリー 129000
2位:鳴海 97000
3位:ゆい 93000
4位:桃香 81000
ネリーが逆転してトップで前半戦を折り返すことが出来る。
ここからは、自分に運が巡ってくるように操作していた。なので、ネリーは勝つことに絶対的な自信を持っていた。
当然、有言実行。鳴海をまくるつもりだ。
鳴海が卓中央のボタンの押し、卓上に新たに壁牌が立ち並んだ。南二局の開始である。
親は鳴海。ドラは{西}。
ネリーの手牌には赤ドラが四枚に{西}が二枚ある。これだけでドラ6の手。
当然、流れはネリーに来ている。
ところが、
「ポン!」
ここでも鳴海が鳴いてきた。ゆいが捨てた{東}を鳴いたのだ。
そして、その次巡、
「カン!」
鳴海が{9}を暗槓した。槓ドラは{9}。やはり、モロ乗りだ。
鳴きによって崩される運の流れを、ネリーは何とか立て直す。そして、彼女の手が一向聴になった直後のことだった。
「カン!」
またもや鳴海が槓をした。{東}の加槓だ。嶺上牌はツモ切り。
そして、当然の如く槓ドラは{東}。
同巡でネリーは聴牌。
当然、
「リーチ!」
ネリーは絶対に自分が和了れる自信を持ってリーチをかけた。
この時のネリーの手牌は、
{四[五]④④[⑤][⑤]⑥⑥[5]67西西}
メンピン一盃口ドラ6で倍満が確定。ここにツモと裏ドラが乗って三倍満の予定だ。
しかし、その次巡、
「ツモ!」
和了ったのは鳴海だった。鳴海も既に聴牌していたのだ。
開かれた手牌は、
{一一一二789} 暗槓{裏99裏} 明槓{東東横東東} ツモ{三}
東チャンタドラ8の親倍ツモだった。
「8000オール!」
これで、鳴海が一気に他家を突き放した。
鳴くことで運を乱し、皮一枚の差でネリーから和了りを横取りした感じだ。
先鋒戦の鷲尾静香も最後の最後で有り得ないレベルの逆転手を聴牌していたし、鳴海もネリーを相手に運を自分のものにしている。
どうやら綺亜羅高校は、とんでもない勝負運の持ち主が揃っているようだ。
鳴海は、静かに芝棒を卓の上に置くと、卓中央のボタンを押した。
卓上に再び壁牌が立ち並び、南二局一本場がスタートする。
ドラは{南}。
よく、
『みんなのドラ』
と呼ばれる場風のドラだ。
ここでも、ドラの行き場はネリーだった。
しかも全体的に索子に偏っている。
狙うはリーチ門前混一色南一気通関ドラ4と言ったところか。
ところが、ここでも、
「ポン!」
鳴いて運の流れを乱すヤツがいる。
しかも、その者は、
「カン!」
鳴けば鳴くほど手が高くなり、
「カン!」
運も上昇するようだ。
そして、ネリーが聴牌する一歩前で、
「ツモ。対々中ドラ8。12100オール!」
前半戦最高の和了りを見せた。
これで順位と点数は、
1位:鳴海 182300
2位:ゆい 96900
3位:桃香 84900
4位:ネリー 35900
まさかのネリーのダンラス。
しかし、ネリーは、まだ諦めていなかった。
ここから三連続で三倍満をツモ和了りすれば、順位と点数は、
1位:鳴海 158100
2位:ネリー 108500
3位:ゆい 72700
4位:桃香 60700
鳴海を逆転こそ出来ないが、後半戦で再び三倍満を連発することで逆転し得る範囲に届くはずだ。
ネリーの瞳には、より一層激しい炎が灯っていた。
おまけ
前回の続きです
三.『私の初体験………ナニを増幅?』
一ヶ月ほど前のことだった。
「すぐ戻ってくるから。」
そう言って、エイスリンは部屋を出て行った。
これが、クルミに言った最後の言葉だった。
エイスリンは、隣の部屋で十数人の女性達に囲まれた。彼女らは研究者だった。
そして、エイスリンを電気椅子に似た硬い椅子に座らせると、長いコードの付いたヘルメットみたいなものを頭に被せ、手足にも電極コードのようなものを繋いだ。
キヨスミ星では、ヒサが総統の座について以来、彼女の命令で銀河系のあちこちから何人もの女性達をここにムリヤリ連れてきていた。
ただ、無差別に連れてきていたわけではなかった。彼女達が『ミホコ波』と呼んでいる特殊な波動を体外放出している女性だけを選んでいた。
各惑星に派遣されたキヨスミ星人が、放射線検知器のような形をした携帯型の測定器を使って簡易的にミホコ波をキャッチしていた。一次スクリーニングである。そして、ミホコ波の放出が確認された女性だけを選別して連れ去っていたのだ。
連れ去られた女性は、この部屋で改めて詳細データを測定される。
女性達が驚きの歓声を上げた。
エイスリンの数値が今までの最高値を示したのだ。
「これは凄い。実に十五年ぶりじゃぁ!」
女性の声が聞こえてきた。
メガネをかけた女性………マコが、エイスリンの方に近づいてきた。キヨスミ星の女性司令官の一人だった。
彼女が来たのを知り、他の女性達は、あたかもその女性を避けるかのように道をあけた。彼女は、かなり立場が上の存在のようだ。
久「まこ。ここでは標準語で話してね!」
まこ「了解じゃけぇ!」
キヨスミ星の女性は、全員が一種の超能力を持っていた。キヨスミ星では、それを『ユリ・エナジー』と呼んでいた。
それこそ衝撃波や電撃を発することもできた。攻撃的な能力だ。
ただ、キヨスミ星の男性は、その能力を持っていなかった。
地球と同じで筋力では女性よりも男性の方が優れていた。
しかし、実際の戦いでは、男性は女性に勝つことが出来なかった。ユリ・エナジーの前では、どんな筋肉男子でも赤子同然だったのだ。
当然、キヨスミ星では、女性上位の社会が築き上げられていた。
「これよりお前をヒサ様のところへ連れてゆく。」
マコがエイスリンを椅子から引っ張り上げて銃を突きつけた。
エイスリンは、マコの言われるままに、強制的にエレベーターに乗せられた。
エレベーターが最上階に着いた。
そこは、ヒサの居室だった。
ヒサは塞より10センチくらい長身が高く、狡猾な目をした女性だった。この星の全てを支配する存在だ。
全身から男を喰い殺しそうな妖しい美のオーラを放っている。
優れた頭脳と指導力に加え、キヨスミ星最強のユリ・エナジーを持つ彼女は、二十歳そこそこで総統に選ばれた。まさにスター的存在だ。
しかも、その時から一切老けていない。ずっと若くて美しい姿を保っていた。これがユリ・エナジーの力だろうか?
既にエイスリンのデータは、研究者達からヒサの端末に送信されていた。
エイスリンを見るなり、ヒサの顔が急に笑顔に変わった。
「マコ。この娘は、例のウィシュアート星人ね。」
「はい。十五年前に別の星から連れてきた、あの女性に似たタイプです。パワー強度だけではなく。他の者達と違って枯れることがありません。」
「気に入ったわ。すぐに身体を清めさせてあげて。それと、各戦線の進捗は、どうなっているかしら?」
「この娘の星、ウィシュアート星は、ほぼ完全に制圧しました。また、そこには強力なミホコ波を放つ女性が、まだ多数いるようです。」
「そう。じゃあ、まず都市部を中心に、その女性達を捕らえなさい。そこから地方へと順に手を広げてゆけばイイわ。それから、ヒメマツ星の方は、どうなっているかしら?」
「完全に制圧を完了しました。あそこは、資源に恵まれています。既に、第三部隊を送り込み、開発拠点を建設中です。」
「カクラ星は?」
「申し訳ございません。いまだ一進一退を繰り返しております。我がキヨスミ星と対等の科学力を持つ星です。こちらの犠牲も随分出ております。」
「うーん。忌々しい小人達ね。あの惑星系は長距離ワープの実現に必要な超原子の宝庫なのよ。何としてでも手に入れなさい。あと、ウィシュアート星からユウキを呼び戻して。カクラ星の奴らを完全に叩き潰すためよ!」
「はい。それと…。」
マコは、ふとハツミのことを思い出した。
「何かしら?」
「カクラ星と言えば、兵士の一人がカクラ星人を一匹捕虜にしましたが…。」
「そんな物は要らないわ。奴らも戦いに勝つためなら、捕虜くらい切り捨てるだろうしね。置いておくだけ無駄ってとこじゃない? 始末してしちゃってイイわ!」
「分かりました。」
「それと、ミホコ波を持つ者がもっと必要ね。捕獲領域を拡大して。そう言えば、しばらくこの辺りでの捕獲を停止していたわね。十五年前にあの女を捕えたのも、たしかこのエリアだったはずではなかったかしら?」
ヒサが銀河系地図の一点を指差した。
そこは、丁度地球が含まれるエリアだった。
「至急、この領域の再調査を実施しなさい!」
「しかし、ヒサ様。その領域は、殆どミホコ波を出す女性が見つからなかったところです。しかもキヨスミ星から銀河系の中でも最も遠い位置にあるため、そこでの捕獲は非効率的と判断されたはずでしたが…。」
「それは、十年以上昔の話でしょ? 今では、ミホコ波測定装置の精度が上がって、当時では測定できなかった微弱なミホコ波でも捕えられるはずよ。ミホコ波を放つ女性は、必ず私達の欲しいエナジーを持っている。でも、奇妙なことにミホコ波の強度と、そのエナジーの強度が必ずしも正相関しないことは、マコも知ってるでしょ?」
「それは、そうですが…。」
「だったら早く調査隊を出動させて!」
「分かりました。」
「それから、ミホコ波とエナジー強度が何故相関しないか、解明を急ぐように。」
「はい。」
マコはヒサに敬礼すると、足早に居室を後にした。
時は現在に戻る。
ヒサの命令で、ノドカは太陽系周辺の惑星系再調査のため、宇宙船団を従えて冥王星付近を走行していた。丁度、太陽系へのワープを終了したところだった。
ノドカは、ヒサの側近マコの妹(と言う設定)で、この一週間、エリダヌス座イプシロン星を中心に半径20光年に位置する惑星系を順に調査していた。
姉に似て(?)彼女も痩身美女だ。しかも、Kカップの巨乳。この部分だけは姉より妹の方が圧倒的に優れていた。
和「まさか、染谷先輩の妹役になるとは、思ってもみませんでした。」
和「そう言えば、咲さんはどうしたのでしょう?」
今回の目的は、あくまでも戦いではなく調査だ。
しかし、万が一、カクラ星のように科学力の優れた星が調査範囲内まで手を伸ばしていた場合、戦いに発展するケースが考えられる。それで、大掛かりではあるが、宇宙戦艦五隻、宇宙巡洋艦七隻、宇宙空母二隻で調査団を組んでいた。
また、キヨスミ星では、数万光年を一気に飛び越える長距離ワープの技術が、まだ確立されていなかった。その確立に向けてカクラ星系の超原子を狙っていた。
現状では、千光年程度のワープが限界だった。
それで、ワープを何十回も重ねて一週間ほど前にエリダヌス座イプシロン星付近に辿り着いた。そこを起点に付近の再調査を開始したのだ。
このエリアは、キヨスミ星の暦年で数えて、既に十年以上もキヨスミ星人が足を踏み入れていない空間である。当然、いつも以上に慎重になる。
記録を遡ると、一応太陽系でも、かつて数人の女性を捕獲していた。しかし、太陽系に関する最新データは、キヨスミ星には無い。
当然、現在の地球の宇宙進出の状況や、敵対勢力の太陽系への進出状況等は不明だった。
ノドカが、順にレーダーで惑星を確認して行く。
そして、地球の姿がモニターに映し出された時、ノドカは息を飲み込んだ。
「水の惑星………まるで、サキさんのように美しいですね。この星ですね。」
宇宙船団が地球に向けて動き始めた。
トヨネが土星の衛星付近に姿を現した。月からここまで、一気に瞬間移動してきたのだ。
私(塞)は、生まれて初めて土星の輪を間近で見た。
とてつもなく巨大な岩が、たくさん連なって宙に浮いている感じだ。多分、遠くから輪を見る方が絵的に美しいと思う。
私の身体は、いまだクルミの意思に支配されたままだった。自分の身体が自分の思うとおりに動かせない。勝手に動く。霊に取り付かれた時って、こんな感じなのだろう。
クルミが心の中で何か呟いたのを、私は感じ取った。
突然、土星の衛星から強烈に輝く何かが、こっちに向かって飛んできた。信じられないほどの、もの凄いスピードだ。
それは、全身が銀一色に覆われていて、双頭の鷲を象った姿をしていた。
頭から尾まで長さは、トヨネの頭部全体の長さの倍くらい。両翼を広げた幅はトヨネの体長に匹敵する。
私には敵か味方か分からない。初めて見る物体だ。当然、不安の色を隠せない。
すると、クルミの声が、私の頭の中に響いてきた。
「安心して。これがトキ。トヨネとの合体機能を持つロボットよ。」
意識を共有しているだけあって、ここから先は、彼女の言いたいことが、わざわざ言葉にしなくても次々とイメージできた。
怜「うちは、鳥型ロボットの役らしいな。せめて人型のほうが嬉しかったけどな。でも、出させてもらえへんよりはマシやろな?」
セーラ「怜だけに、朱鷺と同じ鳥類になったってことやないか?」
トキは、トヨネが第三の目から電波のように放ったクルミのミヤモリ・エナジーを頭部で受けて動くらしい。
また、トキは特殊なエンジン、通称『ヒザマクラ・エンジン』を搭載していて、私の身体でクルミのミヤモリ・エナジーを最大限に増幅すれば、何万光年もの長距離を一気にワープできるし、通常走行では準光速での移動も可能らしい。
でも、連続での長距離ワープは無理らしい。クルミも私も一回の長距離ワープで結構疲れるためらしいのだ。理論的にどうこうまでは分からないけど、どうも使うエナジー量はワープ距離に依存するらしい。
また、クルミ単独では、ミヤモリ・エナジーの供給量が少ないため、数千光年のワープが限界みたいだ。それで、何回もワープを重ねて地球まで来たようだ。
準光速走行も同様で長時間は無理だ。
こっちは、時間依存なので疲れるのは分かるけど、実際にどれくらいが限界なのかは、やってみないことには分からない。
それと、トキはトヨネとは比べ物にならないくらい優れた広域レーダーを搭載しているようだ。感度も優れている。
カクラ星でも最高のモノらしい。一巡先………じゃなかった、準光速走行に対応するためとのことだ。
ただ、私には一つ疑問があった。
別に無理に合体機能を持たせなくても、最初から合体した姿を一体のロボットとして造れば良いのでは?
すると、再びクルミの声が聞こえてきた。
「一応、それなりの理由があるのよ。」
そして、彼女の言いたいことが再び次々と私の意識の中にイメージとして流れ込んできた。
トヨネ、トキの他に、もう一体、『リューカ』と呼ばれるロボットが設計されていた。ただ、残念なことに、クルミを送り出すまでにリューカの機能装備が完成しなかったみたいだ。
現在、カクラ星の地下施設で製造を続けているらしい。
つまり、一体のロボットとして製造していたら、いまだ完成していないことになる。それを予測していたので、合体型ロボットにしたのが一つ目の理由である。
竜華「うちも怜と一緒に戦うんか? でも、まだ出来てないんやね?」
怜「早く竜華にも来てほしいわ。」
二つ目の理由は、分離・合体することで状況に応じた戦いができる。
例えば、たくさんの戦闘機が相手だったら、分離した方が、対処が早くなるケースもある。
逆に敵が、もの凄く強い場合だったら、合体して全てのロボットの能力を一度に使える方が便利だ。たしかに、それも一理ある。
そして、三つ目の理由は、ミヤモリ・エナジーの供給量の問題だったらしい。
これらのロボットは、クルミの身体から放出されるミヤモリ・エナジーを吸収して動く。
ただ、彼女単独の力では、全てのロボットが合体した場合、それを動かすのに必要な量のミヤモリ・エナジーを十分供給できないみたいだ。
だからこそ、増幅器である私の身体が必要なんだけど………、一体のロボットとして造っていたらクルミ一人では、そのロボットを動かすことができない。つまり、私を探しに来られないことになる。これが、合体型ロボットにした理由の中で一番大きいみたいだ。
それから、太陽系に着いてからは、私の詳細な位置を特定するために、ミヤモリ・エナジーの殆どをテレパシー送信に使いたかったらしい。それで、トキをここに置いて、トヨネだけを護衛にして円盤で地球に向かったようだ。
トキの二つの頭と足が胴体に収納されると、トヨネの背中に合体した。そして、トヨネは、背中に巨大な翼を持つ人魚の姿へと変わった。
合体時には、トヨネの機体から直接トキに向けてミヤモリ・エナジーが流れ込むらしい。それで、トキの頭を胴体内に収納してもレーダーとヒザマクラ・エンジンの作動には支障がないみたいだ。
クルミが長距離ワープに入ろうとした丁度その時、トキのレーダーが太陽系内にユリ・エナジーをキャッチした。
どうやら、発信源は冥王星付近のようだ。
「ねえ、クルミ。これって?」
「多分、キヨスミ星の宇宙探査船団よ。推測だけど、ミホコ波を持つ女性を探しに来たのかもしれないわね。」
「ミホコ波?」
「そう。キヨスミ星では、ミホコ波って呼ばれる特定の波動を体外放出する女性を探しているの。既に、銀河系のあちこちの星で、たくさんの女性達が拉致されているわ。」
「それじゃ、地球からも人がさらわれるってこと?」
「その可能性は高いと思う。」
「でも、何のために?」
「それは、私達も調査中で、推測の域を出ない部分が多いの。カクラ星から何人もの調査員をキヨスミ星に送り込んでいるんだけど、なかなか詳細が掴めないのよ。」
ちなみに、クルミがエイスリンに連れて行かれた部屋で瀕死状態だったのを見つけ出し、クルミをカクラ星に連れて帰ったのも、キヨスミ星に送り込んだ調査員の一人だった。
「ただ、さらわれた女性は、数週間で元の星に戻されるらしいんだけど、みんな酷く衰弱していて、戻ってから数日で亡くなっているわ。中には、生きて元の星に帰れない人もいるみたいだし…。」
「じゃあ、このまま放っておいたら…」
「地球からも同じような形で死ぬ女性が出るかもしれないわね。もしかしたら、塞の知り合いの中にもターゲットがいるかもしれない。」
「ねえ、クルミ…。」
「分かっているわ。ユリ・エナジーの発信源が何なのか、確認ね。」
トヨネは、再びワープに入った。ただ、これがキヨスミ星のものなら、間違いなく戦いに発展する。そうなれば、増幅器の初仕事だ。
丁度この時、ノドカの乗る宇宙戦艦では、半径数百メートル範囲内に、強力なミヤモリ・エナジーを発する何かをレーダーでキャッチしていた。しかし、肉眼では何も捉えられない。
その直後、目の前に銀翼を持った人魚型の巨大ロボットが出現した。
ミヤモリ・エナジーは、トヨネから放出されていた。
レーダーは、そのワープ到達地点から放出されたミヤモリ・エナジーを捉えていたようだ。ミヤモリ・エナジーの一部が先に空間を越えていたのだろう。
ノドカは、これがカクラ星のものであることが直感的に分かった。
私達の乗るトヨネに向けて、ノドカの宇宙戦艦から無数のレーザー砲が撃ち放たれた。
でも、トキと一体化したトヨネに、レーザー砲は全然当たらなかった。常識を超えたスピードで簡単に避けてしまうのだ。
二隻の宇宙空母から、無数の宇宙戦闘機が飛び出してきた。
でも、戦闘機よりもトヨネの動きの方が遥かに早い。トヨネは掌から電撃を放ち、次々と戦闘機を撃墜していった。
今度は、戦艦から主砲が撃ち放たれた。砲弾がトヨネ目掛けて突き進んでくる。
トヨネは、それを難なく避けると、両手からレーザーソードを伸ばした。よくSF映画やアニメとかで出てくるレーザー光線みたいなもので出来た剣だ。
レーザーソードを目の前で交差し、トヨネが猛スピードで一隻の戦艦に突っ込んでいった。そして、レーザーソードを大きく振りかざし、
豊音「私もぉ、通らばぁ、リーチ! なんちゃって!」←深い意味はありません
戦艦の機体を斬りつけた。
豊音「ロン! 一発だよぉ!」←同上
切断面から炎を吹き上げ、次の瞬間、戦艦が大爆発を起こした。
残りの戦艦にも、さらには巡洋艦や空母にもトヨネは同じようにレーザーソードで斬りかかり、次々と破壊していった。
力の差は歴然としていた。
ノドカの宇宙船団は、ものの数分で全滅した。
この時、私は、この戦い自体がゲームの実体化版程度にしか感じていなかった。
それ以前に、私の身体はクルミの意思で動いていたので、実質、私は戦っていない。私は単にゲームを見ていた人くらいの状態だった。
少なくともノドカ達が死んだと言う感覚は無かった。
それよりも、地球人がキヨスミ星に連れ去られずに済んで良かったと思う気持ちの方が遥かに強かった。
キヨスミ星が、新たに調査団を送り込んでくる可能性までは頭が回っていなかったし、これをきっかけにキヨスミ星が地球に宣戦布告してくるケースも想定していなかった。
結果的には、そうならなかったけど…。
「じゃあ、塞。ハツミのところに行くわよ。」
「うん。でも、どこにいるか分かるの?」
「調査員の報告によれば、多分、ヒメマツ星よ。ハツミを連れ去った人物がヒメマツ星に行っているの。噂では、その人物がハツミを食い殺したってことになっているけど、でも、それは絶対に有り得ない。ハツミは、私達の星で最も予知能力が高いから、もしそうなるなら、あの時の戦いに自ら志願しないはず。死ぬのが分かっていて志願するはずないもの…。」
そう言いながらも、クルミの不安が私の意識に強く流れ込んでくる。ハツミの無事は、あくまでもクルミの希望でしかないみたいだ。
もし本当に食い殺されていたら…。
クルミは、相当なショックを受けるだろう。
でも、今はハツミが生きていることを信じるしかない。
それに、これは親友に生きていて欲しいという願いだけではない。敵に打ち勝つための必要条件でもあるようだ。
今の私には詳細がピンと来ないけど…。
「それじゃ、一気にワープに入るわ。」
トヨネの機体が白く輝くと、次の瞬間、その空間から姿を消した。
私の身体で増幅されたクルミのミヤモリ・エナジーを一身に受け、一瞬にして長距離ワープに入ったのだ。