咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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美和は、まだ能力を全開にしておりません。


百九本場:腐葉土

 準決勝第一試合中堅前半戦。

 果たして美和は、咲に対してどのような打ち方を見せるのか?

 

 東三局、咲の親。ドラは{西}。

 ここでは、

「ポン!」

 序盤から咲は、上家の華奈が捨てた{2}を鳴いた。

 

 数巡後、咲の手牌は、

 {一二三⑤⑤45789}  ポン{横222}  ツモ{2}

 嶺上牌は{3}であることが咲には分かっている。

 当然、普段なら、ここで加槓して嶺上開花を決めるところだ。

 

 しかし、下家の美和の手牌は、

 {34[5]67789西西白白白}

 {258}待ちの門前混一色白ドラ3の手。ここに槍槓が付いたら倍満になる。

 これでは、咲は加槓ができない。

 止むを得ず咲は、{三}を落とした。

 

 同巡、美和は{北}をツモ切り。

 そして、その同巡に華奈が捨てた{8}で、

「ロン!」

 美和が和了った。

「12000!」

 これで美和が三連続ハネ満を決めた。

 

 

 東四局、美和の親。ドラは{東}。

 よりによって場風がドラだ。

 

 この局、美和の捨て牌は、

 {一九南②三北7七[五]}

 既に萬子はランダムに{一三[五]七九}と捨てている。

 しかも、{三[五]七}はツモ切り。

 郝は、{二三四五五六七七八九南白白}  ツモ{南}

 {二}を切れば{南白}のシャボ待ちで、しかも混一色に一色三歩高が付く。

 恐らく、親の美和にとって萬子は不要牌のはず。

 それで郝は、躊躇無く{二}を切って聴牌に取った。

 

 すると、その時、

「ロン!」

 郝の上家から和了り宣言の声が聞こえてきた。美和に振り込んだのだ。

 

 開かれた手牌は、

 {二二八八③④⑤234東東東}  ロン{二}

 まさかのダブ東ドラ3。

「12000!」

 親満だ。しかも、これは単に、いずれ出てくる牌を待っていただけではない。罠を張って待っていた。

 まさにウツボカズラのような落とし穴に郝が嵌り込んだ感じだ。

 これで郝は、東場だけで24000点を失った。

 

 東四局一本場、美和の連荘。ドラは{9}。

 どうやら、この親に連荘させるのはヤバそうだ。

 それで華奈は、

「チー!」

 クイタンのみで良いので、この親を流そうと動き出した。

 しかし、華奈が捨てた{白}を、

「ポン!」

 美和が鳴いた。

 

 続いて、郝が捨てた{8}を、

「チー!」

 華奈鳴いて手を進めたが、ここで切った{7}を、

「ポン!」

 まるで追い駆けるように美和が鳴いた。

 

 さらに、華奈は、次巡に郝が捨てた{⑦}を、

「チー!」

 鳴いて聴牌した。

 そして、恐る恐る{⑨}を切った。また、これで美和に鳴かれるのではないかとの恐怖があったのだ。

 ただ、この{⑨}を美和は鳴かなかった。

 これで、華奈は一瞬ホッとしたが、次巡、郝が切った{三}を、

「ポン!」

 美和は鳴いた。

 どこまでも追い駆けてくる、まるで、逃げようにもモウセンゴケのような粘着質の触手が身体中に絡みついて逃げられない。華奈は、そんな感覚がしていた。

 

 そして、次巡、華奈が{①}をツモ切りすると、

「ロン。白ドラ2。5800の一本場は6100。」

 これで美和に振り込んだ。

 この振込みは決定的だった。今までよりも打点は低いが、華奈に美和の麻雀の恐怖を植え付けるには十分だった。

 

 東四局二本場も、

「ロン。12600。」

 東四局三本場も

「ロン。5800の三本場は6700。」

 共に美和は郝から直取りした。

 

 そして、東四局四本場も、

「ロン。13200!」

 美和は、恐怖の刷り込みが入った華奈から親満を直取りした。

 

 これで中堅前半戦の順位と点数は、

 1位:美和 186600

 2位:咲 100000

 3位:郝 56700(席順による)

 4位:華奈 56700(席順による)

 美和が圧倒的リードを作った。

 

 そして迎えた東四局五本場のことだった。

 配牌を順次取っている最中に、

「何かの本で読んだことあるけど、食虫植物って湿地帯とか栄養分が欠如したところに生えてるんだよね?」

 と咲がボソッと口にした。

 すると、これに美和が、

「そうなのよね。そこで生きられるように進化したのよ。」

 と答えたが、その後、対局がスタートし、ここまでで会話が途切れた。

 

「ポン!」

 華奈が捨てた{①}を咲が鳴いた。

 これを見て、美和は、{①④}待ちに備えるべく動き出した。

 まず、{③}をツモってきた。しかし、その後、咲を討ち取るために必要な{②}が、いつまでたってもツモれない。

 

 そして、

 {一二三③⑤44489發發發}  ツモ{9}

 ここで一旦、嵌{④}待ちに取って美和が捨てた{8}で、

 

「カン!」

 咲が大明槓した。

 副露牌が、咲の右側………つまり咲と美和の間に晒される。

 そして、この副露牌に乗って毎度の如く咲の強大なオーラが美和に向けて飛んでくる。

「(えっ? 何?)」

 大抵の場合、ターゲットとなる少女に向けて、巨大肉食獣が大きな口を広げて一直線に突進してくる幻が見える。それで失禁する。

 ところが、ここで美和が見た幻は、他の人達のモノとは違っていた。それは、食虫植物で一面覆われた広大な湿地帯に、大量の種子が上空から降ってくる様子だった。

 

 咲は、嶺上牌をツモると、手牌の中で既に四枚揃っていた{②}を、

「もいっこ、カン!」

 暗槓した。美和が欲しがっていた{②}は、既に咲が全部手にしていたのだ。美和に回ってくるはずが無い。

 

 美和の幻の中で大量の種子が発芽した。そして、それらは一気に根をしっかりと張り、地上部もグングン成長していった。

 

 さらに咲は、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 今度は、手牌の中にあった{①}を加槓した。

 美和が見ていた幻の中では、食虫植物の楽園が外部から新入してきた背の高い植物によって覆われ、背が低い食虫植物には完全に日光が届かない状態となった。

 次々と枯れてゆく食虫植物達。

 

 続いて咲は、三枚目の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓し、最後の嶺上牌………{[⑤]}をツモると、

「ツモ!」

 それでツモ和了りを宣言した。今まで咲が何度も見せている四槓子であり、また五筒開花である。

「五本場で33500!」

 この四連続槓からの嶺上開花は、最初に大明槓させた美和の責任払いになる。

 

 幻の中で、広大な湿地帯が、いつしか草原に変わっていた。

 もう食虫植物は生えていない。全て生存競争に負けて枯れ果ててしまったのだ。

 

 現在の順位と点数は、

 1位:美和 153100

 2位:咲 133500

 3位:郝 56700(席順による)

 4位:華奈 56700(席順による)

 まだ20000点近く美和がリードしているが、この咲の和了りで、美和の背中には冷たいものが走り抜けた。

 今まで感じたことの無い恐怖だ。

 

 

 南入した。

 南一局、郝の親。

 ここでは、

「ポン!」

 咲が早々に{中}を鳴き、その数巡後、

「カン!」

 華奈が捨てた{9}を咲が大明槓した。

 

 副露牌が美和に接近してくる。

 ここでも、美和には嫌な幻が見えた。食虫植物の楽園にガソリンがぶちまけられている様子が見えたのだ。

 

 一方、現実世界では、この段階では嶺上開花による和了りは発生せず、咲が有効牌を引き入れるに留まった。

 しかし、その次巡、

「カン!」

 咲は、{中}を加槓した。

 

 この時、美和が見る幻の中では、さっきガソリンをぶちまけられた湿地帯に、何者かの手によって火が放たれていた。

 激しく燃え盛るガソリン。

 そして、その炎の中で朽ちて行く食虫植物達。

 

 一方、現実世界では、

「ツモ! 中混一嶺上開花! 2000、4000!」

 そのまま咲が嶺上牌で和了っていた。しかも満貫だ。

 咲が、着実に美和との点差を縮めてきた。

 

 

 南二局、華奈の親。

「リーチ!」

 ここでは、咲がダブルリーチをかけてきた。

 淡と違って、咲には意図的にダブルリーチをかける能力は無い。ダブルリーチ自体は偶然である。

 

 咲は、一発目のツモで、

「カン!」

 暗槓した。

 配牌に暗刻があったのも、ここで暗槓するのも、勿論偶然である。

 

 今回も美和のほうに向かって副露牌が迫ってきた。

 これに乗って、咲のエネルギーもまた、美和に向かって飛んでくる。

 そして、ここでも美和は幻を見させられる。今度は食虫植物の楽園に大量の重機が入り込み、その地が派手に掘り返されてゆく。

 

 一方、現実世界では、引いてきた嶺上牌で、

「ツモ! ダブルリーチツモ嶺上開花。2000、4000。」

 咲が満貫を和了っていた。

 

 これで現在の順位と点数は、

 1位:咲 149500

 2位:美和 149100

 3位:郝 50700(席順による)

 4位:華奈 50700(席順による)

 とうとう咲が逆転した。まさにヤリタイ放題である。

 

 

 そして迎えた南三局、咲の親。ドラは{②}。

 美和は、一段と嫌な予感がした。咲から放たれるオーラが、さらに膨れ上がったような気がしたのだ。

 

 東場の段階で、既に美和は、咲に振り込ませるのは難しいことを察していた。

 咲が差し込みではなく、本当の意味で振り込んだ相手は、原村和に末原恭子、そして咲を槍槓で撃ち取った加治木ゆみくらいだろう。

 しかし、靴下を脱いだ咲がまともに振り込んだ相手はいない。

 

 ラッキーなことに、この局、美和の配牌は、

 {四五[五]②②⑤[⑤][5]899西發}

 七対子二向聴で、しかもドラが五枚もある。

 

 第一ツモは{5}。これで一向聴。ここから打{四}。

 ところが、ここからチュンチャン牌しか来ない。それも、{五六④[⑤]⑥5}と言った中牌ばかりだ。

 この中で取り込んだ牌は{[⑤]}のみ。手牌の中の{⑤}と入れ替えただけだ。

 他はツモ切り。

 

 そして八巡目。

 美和は{西}を引いて聴牌した。

 {8}か{發}のどちらかを捨てれば良いが、一般論としては{發}待ちだろう。

 ところが、ここに来て{8}も{發}も初牌だ。

 ただ、咲の捨て牌を見ると、索子が早々に{79651}の順で切られている。

 ならば、ここは{8}を切って聴牌に取る!

 勝負とばかりに、美和は{8}を強打した。

 すると、

「カン!」

 これを咲が大明槓した。

 

 副露牌に乗って咲のオーラが飛んできた。そして、ここでも美和は、恐ろしい幻を見ることになる。

 食虫植物の楽園の上空に、強烈に輝く星が出現した。それは、次第に大きくなり、その真の姿が捉えられるようになった。

 それは、巨大な小惑星。それが、今、地上を目掛けて突き進んでいる。

 

 咲は、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 その嶺上牌………{2}と、手牌の{2}の暗刻を合わせて暗槓した。

 

 美和の幻の中では、巨大小惑星が大気圏を突入した。

 

 咲は、次の嶺上牌………{3}を引くと、手牌の{3}の暗刻を合わせて、

「もいっこ、カン!」

 再び暗槓した。

 

 美和が見た小惑星が、食虫植物が生息する湿地帯の約1キロ先に落下した。

 そして、落下地点から粉塵が舞い上がるのが見えたかと思うと、その直後、激しい爆音が聞こえてきた。

 

 咲が、嶺上牌を引き………{4}を引き、手牌の{4}の暗刻を合わせて、

「もいっこ、カン!」

 四つ目の槓子を副露した。

 またもや、強大なエネルギーが美和を襲う。

 

 この時、美和が見たのは、激しく揺れる地面と、全てを焼き尽くすレベルにまで高温となった熱風が、激しく吹き荒れる光景だった。

 巨大小惑星激突直後の世界。

 それは、まるで地獄絵である。

「(これって、嘘!?)」

 特に激突現場付近では、全ての生物は焼き尽くされ、何もかもが消し飛んでしまう。

 まさに今、美和が見たのは、その様子であった。

 こんなものを見せられたのは久し振りである。

 約二年振り………高校1年生の時以来だ………と言うか、この手のモノを見せられる人間が他にいたことが逆に凄い。

 

 一方、咲は、最後の嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。引いてきたのは{發}。

 つまり咲は、

 {222333444888發}

 ここから大明槓を仕掛けたのだ。

 

「緑一色四槓子。96000点です。」

 ダブル役満が炸裂した。これは、美和の責任払いになる。

 もし、{發}を切っていたら緑一色四暗刻への振込み。どちらを切っても96000点の振込みだったのだ。

 咲が、

「食虫植物って、たしか一般には成長が遅いって聞いたことがあるけど…。」

 と美和に言ってきた。

 美和は溜め息をつくと、

「たしかにそうだね。」

 と答えた。

 

 食虫植物は、湿地帯等、土壌の栄養分が少ないところに生息する。

 多くは多年草である。

 植物自体は枯れていなくても、古い葉は枯れて腐葉土を形成する。

 ただ、食虫植物は、敢えて腐葉土を形成するスピードよりも、その土地の浄化作用の方が高い状態を維持する。これによって、土壌が栄養分に富むのを防いでいるのだ。

 栄養分がなければ、新入できる植物も小さなサイズのモノに限定されるだろう。

 しかし、土壌が栄養分で富めば、背の高い植物が新入して生い茂る。当然、自分よりも背の高い植物で満ちてしまえば、自分達が光合成できずに枯れてしまう。

 なので、食虫植物は、敢えて成長を遅くして自分達の楽園を守っているのだ。

 

 ふと美和は気が付いた。

 自分の食虫植物趣味が、自身の能力に影響したのなら、今回の試合展開は、どうだったのだろうか?

 最初に、一気に点棒を取り過ぎたのではないだろうか?

 植物で喩えれば成長し過ぎである。

 

 つまり、自分で腐葉土を大量に形成してしまった。

 そこに無数の花を咲かせる植物………咲が侵入し、栄養分、つまり点棒を奪っていってしまったのだ。

 もしかすると、自分が点を重ねれば重ねるほど、それを後になって咲が奪って行く図式が成り立っていたと言うことだろうか?

 どうやら、美和にとって咲は相性が最悪のようだ。

 

 しかし、まだ試合は終わっていない。

 美和は、

「まだまだ!」

 両頬を両手で叩き、今一度気合を入れた。




おまけ
前回の続きです


六.『何、このエロ女!』

その女性達の姿に、ハツミは見覚えがあった。
「三人にお尋ねしますよー。もしかしましたら、カナちゃんの妹様達ではありませんかー?」
三人の内の一人………ヒナが答えた。
「そうです。でも、何故それを?」
「写真を拝見させていただきましたー。この一ヶ月間くらい、ご一緒させていただきましたものですからー。」
「それで、姉は?」
三つ子達の表情からは、僅かな期待が感じられた。
一瞬、間があいた。
ハツミは答え難そうだった。
彼女としても、さすがに三つ子達の目を見て話すのは辛そうだった。
「残念ながらヒメマツ星でお亡くなりになられましたですー。しかし、その命と引き換えにヒメマツ星を支配していたキヨスミ星の軍隊を全滅に追い込みましたよー。名誉ある死を遂げられたのですー。」
これを聞いて、カナの娘達は抱き合いながら涙を流した。
せめて亡くなる前に一目会いたかった。名誉なんかよりも姉に生きていて欲しかった。三人は、そう思わずには、いられなかった。

クルミが私の身体からフェードアウトした。そして、彼女は、その三つ子達を監察するようにシゲシゲと見ていた。
一方、その三つ子は、私がデビル・塞の姿に戻ったのを見て急に怯え出した。
「クルミも気付きましたかー?」
「うん。ねえ、ハツミ。やっぱり、この娘さん達の同調率。」
「50%くらいありそうですねー。」
ハツミが、二人の前に降り立った。
「済みませんが、あなた達のお名前を教えていただけませんかー? 私はハツミですー。そして、私と同じくらいの大きさの人がクルミですよー。それから、あのユ…ではなくて、オミ…ではなくて、エッ…ではなくて、ええと、そうですねー。」
ハツミは、何かを誤魔化すかのように口に手を当てながら微笑んでいた。
一応、クルミが彼女をフォローするかのように、
「あの胸の大きい女が塞よ。キヨスミ星人じゃないわ。太陽系ってところの地球って惑星の人。私達と一緒にキヨスミ星と戦う仲間よ。」
と私のことを三人に紹介してくれた。
三人は、これを聞いて少し安心したようだった。でも、何で怯えていたのか、この時の私には分からなかった。
それにしても、ハツミは私のことを、いったい何と言おうとしたのだろう?
ちょっと気になった。
少なくとも、言い直しているってことは、余り良い表現ではないような気がする。
多分、『オミズ』とか『エッチ』といったところだろう。ただ、最初の『ユ…』だけは良く分からないけど…。

三つ子の一人が、私から目をそらすようにして口を開いた。
「私の名前はヒナ。こっちは、ナズナ、そしてもう一人はシロナです。私達姉妹は、ミホコ波を出す者としてキヨスミ星軍に捕らえられました。私達は、キヨスミ星に連れて行かれるところ、隙を見て脱出機で逃げ出したのです。」
ウィシュアート星では、今までにも何人もの女性がキヨスミ星に捕らえられていた。捕らえられた女性達は、数週間でウィシュアート星に戻されたけど、全員、若くして『老衰』で亡くなっていたことを三人は知らされていた。
若い女性が老衰だなんて不自然だ。キヨスミ星人に何か変なことをされて殺されたと考えて間違いないだろう。
このままでは、いずれ自分達も殺されると思った。それで、三人は監視員の隙を見て抜け出し、脱出機で宇宙に飛び立ったようだ。
また、カナ達の国では、キヨスミ星との戦いを想定して、学校の授業で戦闘機とかの操縦シミュレーションもゲームみたいな感じでやっていた。
勿論、それが十分な訓練とは言えないけど、その授業が功を奏したみたいだ。何とか脱出機で飛び立つことができたらしい。

私は、このまま三人をウィシュアート星に送り返してあげれば良いと思っていた。
でも、ハツミは違うことを考えていた。
「ヒナさん。よろしければ、三人の力を私達に貸してもらえないでしょうかー?」
「私達が…ですか?」
「そうですー。」
三人の同調率は私に比べれば半分くらいだけど、一般には、それでも相当高い数値らしい。クルミやハツミにとって、貴重な存在であることは間違い無いようだ。
三つ子達は、最初は随分戸惑っていた。
でも、カナの敵討ちをするチャンスがそこにある。
「わ…分かりました。」
三人は、一応参戦してくれることになった。
多分、ハツミがカクラ星ではなく、ウィシュアート星に進路を取らせた予感とは、比較的同調率の高いこの三人を救出することだったのだろう。クルミの言った通り、まさに予知能力である。

クルミとハツミが、私の身体にダブルフェードインした。
既にデビル・塞になっている私の身体は、見た目には何の変化も無い。全身が少し熱くなったように感じただけだった。
操縦席の後に、似たような席が三つせり上がってきた。三つ子達のための席だ。
一応、戦闘中に救出者がいた場合を想定しているみたいだけど、それが、あらかじめ用意されているのが凄い。多分、私が設計者だったら、そこまで頭が回らない。

トヨネがトキと合体して長距離ワープに入った。
そして、次の瞬間、私達はカクラ星の位置する惑星系に入っていた。
私は、ここに初めて来たので状況が良く掴めていない。でも、クルミとハツミの心情が伝わってくる。状況が良くないことだけは、たしかなようだ。

カクラ星に送り出されたキヨスミ星軍は第五部隊。キヨスミ星の中で最強最悪と言われる部隊らしい。
特に、女性司令官のユウキは、キヨスミ軍の中で最も残酷残虐と恐れられていた。彼女が通った後は、ペンペン草一本生えない荒野と化すとまで言われるくらいらしい。とんでもない破壊者だ。
レーダーが、合計十発のミサイルを捉えた。全て核弾頭付きだ。
どこからかワープしてきたのか?
突然現れたみたいだ。
触らぬ神に祟り無し。
トヨネは、上方に大きく軌道を変えた。これで、ミサイルは全て素通りして行くものと思っていた。
でも、そうじゃなかった。この核ミサイルは追尾式だ。しくこくトヨネを追いかけてくる。やることが、えげつない。
仕方が無い。
トヨネは、トキと合体している間は準光速で動くことができる。
ほぼ連続で二回の長距離ワープをした後だったので、とても疲れて身体が辛いけど、まだ何とか頑張れる。

私は、ミサイルから少し距離をとった。そして、トヨネの両掌からミサイルに向けて電撃を放つと、準光速移動で距離を取った。さすがに、核爆発のすぐ近くに居るわけには行かないだろう。
また電撃を放って核ミサイルを一つ撃破する。そして準光速で距離を取る。
それを繰り返し、一つ一つ地道に核ミサイルを撃破していった。

何とかミサイルを一掃した。
私は、トキのレーダーを駆使してミサイルを撃ち込んできた相手を探した。キヨスミ星の女性が乗っていれば、ユリ・エナジーを放出しているはずだ。

ここから三億キロ以上離れたところにユリ・エナジーがキャッチされた。レーダーからの映像では、戦艦ではなく要塞と思われる。ミサイルは、そこから撃ち放たれて小ワープして来たに違いない。
当然、その要塞を叩くしかない。
私は、トヨネをその要塞の近くまで小ワープさせた。


ワープ終了。
敵の要塞の目の前にトヨネは姿を現した。
間近で見る要塞は、不気味な雰囲気に包まれていた。
全長は、五十キロ近くにも及ぶ。向こう端は小さくてよく見えない。レーダー映像で見たのとは全然迫力が違う。こんなに大きいとは思わなかった。
もはや、これは人工惑星だ。
とんでもない建造物だ!
ただ、タカコの巨大戦艦が装備していたような巨大な大砲は見当たらなかった。

要塞からトヨネに向けてミサイルが放たれた。
数は五発。これも全部核弾頭付きで追尾式だ。本当に性格が悪い敵だ。
こうなったら、やることは一つ。トヨネは、追いかけてくるミサイルを引き連れて大きく旋回すると、要塞目掛けて突き進んでいった。
そして、両手からレーザーソードを伸ばして、それを前に突き出した状態でキリモミ状に回転しながら、高速で要塞に突っ込んだ。核ミサイルを背にしている以上、敵もトヨネに向けて至近距離で主砲を撃ち放つことは躊躇するだろう。
まるでドリルのように要塞に穴を開けてゆく。ヒメマツ星でも使った技だ。
ただ、あの時は巨大戦艦。今回は人工惑星みたいな要塞だ。これを貫通するのには、相当な労力がかかる。
でも、やるしかない。
トヨネは、要塞の中を突き進んでいった。
これを追いかけて、核ミサイルが要塞に突っ込んだ。要塞は、核ミサイルの直撃を受けたところから爆発を起こした。

続く核ミサイル群も、この爆発する中にドンドン突っ込んで行き、連鎖的に次々と爆発していった。そして、トヨネが要塞の中を突き抜けた直後、要塞は、あちこちから火を吹き上げて大爆発を起こした。
定番の方法かもしれないけど、これで核ミサイルは一掃されたし敵要塞も破壊した。私は敵をやっつけたと思ってホッとしていた。
もうクタクタだ。しばらく休みたい。

でも、トキに搭載されたレーダーは、ここから二億キロくらい離れたところに再びユリ・エナジーを捉えた。
モニターをレーダー映像に切り替えると、そこには超巨大宇宙戦艦が映し出された。
とんでもないド迫力だ。ヒメマツ星で見た巨大戦艦よりもさらに大きい。全長は十キロにも及ぶだろう。
できれば来ないで。少し休ませて!
でも、私のそんな気持ちは無視された。
その超巨大戦艦が、レーダー映像から消えて私達のすぐ目の前に姿を現した。小ワープしてきたのだ。
通信が入った。その超巨大戦艦からのものだ。

私は、通信チャンネルをオープンにした。すると、モニターに映し出された女性は、失礼なことに後ろを向いていた。
「貴様らのロボットが旋回した時に、念のため小ワープで非難しておいて正解だったな。まあ、あの要塞は旧型で、たいした攻撃力も無いし、そろそろスクラップにしようと思っていたところだじょ。処分する手間が省けたじぇい! 一応、礼を言っておくじょ!」
彼女が、こっちを振り向いた。
その姿を見て私は凍りついた。その女性はデビル・塞…つまり今の私と生き写しだ。


優希「驚いたようだな。まあ、名前だけ貸してやったみたいなもんだじぇい! 声は私が担当するがな!」

霞「今回、私は一人二役のようです。頑張りますけど、エロ女役って、ちょっと遠慮させてもらいたいわねぇ。」

優希「私が成長したら新子憧みたいになるとは限らないじょ! 石戸のお姉さんみたいになるかもしれないってことだじぇい!」

優希「あと、そのうち私も登場するじょ!」


私を見て三つ子達が怯えていたのは、これだったのだ。私を、このキヨスミ星の女性と勘違いしていたのだ。
その女性も、一瞬驚いたみたいだった。
でも、すぐにイヤらしい笑みを浮かべた。本当に表情がエロい。まさに、『イヤラシイ』の言葉がピッタリな女だ。
これは、これで少し落ち込む。
多分、周りから見れば自分も同じなのだろう。ナイスバディを手に入れて有頂天になっていたところもあるし、少し自重しよう。
「これは、凄い美女が乗っていると思ったら、私のそっくりさんだじょ。それと、その後ろにいる女二人はウィシュアート星付近で脱走した奴らだな。私は、ユウキ。キヨスミ星司令官の中で最も美しい女だじぇい! 私そっくりのお前。名前は何と言う?」
ハツミが言っていた『ユ…』はこれだったんだ。
たしかに、この女に似た女性といえば分かりやすい。
私は、ムスッとした声で答えた
「…塞。」
「珍しい名前だじょ。でも、私と一緒で男には不自由しないはずだじぇい。何と言ってもキヨスミ星一番の美女と同じ顔をしているのだからな。今まで、男は何百人くらいつきあう…と言うか、突き合ったか?」
言葉だけ聞いても言っている意味がよく分からない。
多分、文字にすれば分かりやすいのだと思うけど…。

恐らく、私が想像しているエロい内容…『突き合う』なのだろう。
ただ、この女。エロしか頭に無いみたいで気に入らない。
「これだけ美しいと侵略した星の男が喜びまくるじょ。中には戦う前から惑星を差し出すなんてのもあったじぇい。身も心も惑星までも、この私に支配して欲しいらしいじょ。女には恨まれることは多いが、これも美女の宿命って奴だじぇい!」
やっぱりこいつ、エロ女だ。
自分を過大評価し過ぎだ。何かムカつく。
でも、一歩間違ったら自分もこうなるかもしれない。
『人の振り見て我が振り直せ』
とは、よく言ったものだ。私は絶対こうならないように気をつけよう。
「塞とやら。さっきから黙っているが、どうかしたのか? もしかして、男より女が好きか? それでも私は構わないじょ。そっちもいけるからな。瓜二つの超美女同士だ。もの凄く絵になりそうだじぇい!」
もうウンザリだ。さっきから低俗な台詞ばかりだ。
この姿に変わったことを急に私は後悔した。


霞「随分、低俗な役ですわねぇ。」

優希「でも、たまには面白いじょ!」


何で、こんな女と生き写しなのだろう?
私が、この身体を貰ったのは昨日だ。でも、身体を固定する時の衝撃で気を失ってしまって、この身体になったのを知ったのは今日だ。
この身体になったのを知ってすぐにヒメマツ星からウィシュアート星までワープして、三つ子を助けて、それでここにワープしてきて…。まだ、この身体になったのを頭で分かってから半日も経っていないんだぞ!
あんまりだ。涙が出そうだ。
悔しくて無茶苦茶腹が立ってきた。
私は、モニター越しにユウキを睨んだ。
「ほう、ヤる気か。じゃあ、ヤってやるじょ。ただ、恐くなったら降参しても良いんだじぇい。その時は、私のペットになってもらうがな。勿論、エロい意味でだじょ!」
ユウキが、ペットボトルのようなものを取り出して、中身を一気に飲み干した。
その直後、まるでタイミングを見計らっているかのように、太いコードで繋がれたヘルメットのようなものが天井から降りてきた。ユウキは、それを装着すると、『ドカッ』と大きな音を立てて椅子に座った。
ヒメマツ星でタカコが強烈な主砲を撃ち放った前と行動が似ている。
それ以上に態度が大きいけど…。

敵の超巨大戦艦には、口径が200メートルにも及ぶ巨大な筒状のものが七つ装備されていた。色々なSFアニメで出てくる一撃必殺の特殊兵器を彷彿させる。
ユウキが、再びイヤラシイ笑みを浮かべた。
「カゼコシ砲、発射!」
彼女がそう言った直後、通信が切れた。
そして、それと同時に七つの筒状のものから、とんでもない光の束…と言うか、巨大なエナジーの塊が一斉にトヨネに向かって飛び出した。
正しくはユリ・エナジーとフクジ・エナジーの融合した超エナジー波。ヒメマツ星でタカコが撃ち放ってきたやつの超巨大バージョンだ。
さすがに、これの直撃はマズイ。いくらトヨネが頑丈でも壊れてしまう。
しかも、今回のカゼコシ砲はタカコの時と違って少しずつ広がりながら突き進んで来た。まるで、超巨大戦艦を頂点とした細長い円錐形を描いているようだ。
距離を取れば取るほど、より大きく上下左右に広がって行くので逃げ道が無くなる。余り円錐形が広がらないうちに超エナジー波に対して垂直方向に逃げるか、小ワープで逃げるかしかないだろう。

一先ず、トヨネは超高速で上方に避けた。
超エナジー波は、そのままトヨネの下を通り抜けていった。
でも、ユウキには、それくらいのことは、お見通しだったようだ。
間髪入れずに数十個も装備された主砲をお構い無しに連射してきた。そして、さらに百発近いミサイルまで撃ち込んできた。でも、自分に近い場所での爆発を想定しているのだろう。核反応は無かった。
トヨネは、ヒザマクラ・エンジンを搭載したトキと合体している。準光速まで速度を上げられる。当然、敵の攻撃を避けることは可能だ。
でも、私もクルミもハツミも体力の限界に来ていた。二度の長距離ワープが仇になった。
ミヤモリ・エナジーの供給量が下がっている。
それに伴って、トヨネとトキの機体を薄皮のように覆うエナジーのバリヤーも当然弱くなっている。
この状態で、もし攻撃を受けたらトヨネもトキも破壊されかねない。

敵のミサイルは誰かが操縦しているように複雑な動きをしていた。
イヤらしく、しつこく追いかけてくるものや、動きを読んで先回りしてくるものもある。こっちが疲れ切っていようとお構いなしだ。
ユウキが、さらに百発近いミサイルを撃ち込んできた。
凄くしつこくて、イヤラシイ性格だ。
嫌いだ、こいつ!

このままでは、やられてしまう。準光速走行がきつくなってきた。
仕方なく私はトヨネを一旦、小ワープで避難させた。
到着地点は、第十番惑星の衛星だった。
トヨネとトキは、合体を解いて大きなクレーターの影に身を隠すように着陸した。
ここなら、当分ミサイルは追いかけて来ないだろう。
私達は、既にダブルフェードインを解いていた。
とにかく休みたい。

「大丈夫ですか?」
後からヒナの声が聞こえてきた。
振り向くと、今までとは違って、彼女は心配そうな顔をしていた。私がユウキとは別人であることを少しは受け入れられたのだろう。
でも、ナズナとシロナは、まだ私と目を合わせられないでいた。操縦室に着てから一言もしゃべらない。黙ったままだ。
いったい彼女達は、どんな目に遭ってきたのだろう?
「塞さん。私達の態度を許してください。ユウキは、一ヶ月前までウィシュアート星侵略に来た軍の司令官でした。私達は、毎日のようにニュースとかで、あの女の顔を何度も見ていましたので…。」
たしかに、それならこの顔に拒否反応を起こしても仕方が無い。
ただ、この時、私はゼエゼエ息をするのだけで精一杯だった。しかも、喉が渇きすぎていて声を出すことさえ辛かった。
まるで喉の奥がぴったりくっついて開かない。そんな感じだった。
それでヒナに、
『気にしないで。』
の一言すら言えないでいた。

クルミが左右にフラフラ揺れながら、操縦室後方のドアから出て行った。例の一面鏡張りになったドアだ。
トイレだろうか?
彼女も既に飛ぶ元気さえなくなっていたようだ。
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