咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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ここでも、美和は、まだ能力を全開にしておりません。


百十本場:驚愕の事実、二連発

 準決勝第一試合中堅前半戦。

 南三局一本場、咲の連荘。

 初牌を一枚も切らずに一局を終えることは難しい。特に序盤では、初牌を切らずに進めることは大抵の場合不可能である。

 しかし、中盤以降は気をつける必要がある。

 咲が相手なら尚更である。

 そのことを美和は、身を以って体験した。

 

 この局では、特に初牌に気をつけていたが、

「ロン!」

 一枚切れの{西}をツモ切りしたところで、美和は咲に振り込んだ。

「えっ?」

 やはり、槓のイメージが強いのであろう。美和は、一瞬、何が起きたのか分からない様子だった。

 大明槓をケアする余り、普通の手で咲に和了られると、その直後、一瞬だが訳が分からなくなる。これもよくある光景だ。

 

 開かれた手牌は、

 {二二三三四四[⑤]⑥⑦34[5]西}

 

「一盃口ドラドラ。7700の一本場は8000。」

 子の満貫に相当する点数。結構痛い。

 これで美和は最下位に転落した。

 

 南三局二本場。

 ここでは、

「チー!」

 珍しく序盤から郝が鳴いた。

 副露したのは{横312}。

 

 その後の捨て牌からも、郝が索子に染めているのは咲も美和も華奈も分かる。当然、索子には十分注意だ。

 しかし、郝は、その後は自力で手を進めて行った。そして、中盤に差し掛かった丁度その時、

「ツモ!」

 郝は、自らの手で和了りまで持っていった。

 

 開かれた手牌は、

 {123[5]778899}  チー{横312}  ツモ{5}

 

 清一色赤1のハネ満だ。

「3200、6200。」

 ただ、中国麻将では、この手は一色双竜会と呼ばれる役満級の手である。

 郝が臨海女子高校に留学してきて以来、何回か披露されたため、今では女子高生達の間でも名の知れた役になってきているようだ。

 とは言え、本大会では一色双竜会は役として認められていないが………。

 

 

 オーラス、美和の親。ドラは{2}。

 再び食虫植物の罠が張られる。

 しかし、咲は、それに全然動じない。それどころか、美和に危険と思われる牌を平然と通してくる。

 牌が全部見えているとの噂はホントなのだろうと、今更ながらに美和は思っていた。

 

 そうなると、美和のターゲットは自然と郝か華奈に絞られる。

 美和としても、たとえ咲には適わなくても、順位では郝や華奈には負けたくない。なので、先ずターゲットにするのは、さっきハネ満を和了った郝になる。

 

 今回、郝は456の牌で集めているようだ。恐らく、中国麻将で言う全中を狙っているのだろう。

 ならば、狙いどころか{二八②⑧28}と言ったところか?

 

 数巡後、郝は、

 {四四五五五[五]六六②④246}  ツモ{⑥}

 

 狙いは、

 {四四五五五[五]六六④⑤⑥456}

 全中 三色三同順 一般高 無字 四帰一

 

 ここから郝は、先に{②}を落とした。ドラではないほうだ。

 しかし、これで、

「ロン!」

 美和が和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {二二二②②⑥⑦⑧22[5]67}

 

「タンヤオドラ3。12000!」

 結果的に、{②}と{2}の、どちらを切っても振り込みだった。

 この和了りで美和が2位に浮上した。

 

 当然、ラス親で1位でないのなら、和了り止めはタブーだ。

「一本場!」

 美和は連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。ドラは{7}。

 ここでも美和は和了りを狙う。

 次のターゲットは華奈か?

 ところが、

「ポン!」

 咲が早々に{①}を鳴いた。役牌でもないし、一般には意味不明だ。

 そして、数巡後、

「カン!」

 咲は{②}を暗槓した。

 

 またもや、副露牌に乗って咲のオーラが美和を襲う。

 ただ、この時、美和に見えた幻は、今までとは違っていた。

 巨大肉食獣が大きな口を開けて美和に一直線に突進してくる図。

「(ちょ…ちょっと、なにこれ!?)」

 今まで見えていたのは、食虫植物の楽園が壊されて悲しむ光景。ところが、今回見えてくるのは食い殺される恐怖の映像だ。さすがに、こんな幻は初めてだ。

「チョロ………。」

 美和のダムに亀裂が入り始めた。

「(ちょっと、ダメ!)」

 とっさに美和は、股間を両手で強く押さえた。一先ずセーフ。

 

 一方の咲は、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {①}を加槓した。

 美和には、これが、

『もうイイ? 股間?』

 に聞こえた。

 つまり、

『放水は大丈夫?』

 と聞かれているように感じていたのだ。

 まあ、別に咲は、そんなことを言っていないのだが………。

 

 再び咲の強大なエネルギー波が美和を襲った。

 美和は、

「(絶対ダメだから!)」

 そう心の中で叫びながら、よりいっそう強く股間を押さえた。

 どうやらセーフだ。やり過ごしたようだ。

 

 そして、咲のほうだが、嶺上牌をツモると、

「ツモ!」

 そのまま和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一6778}  暗槓{裏②②裏}  明槓{横①①①①}  ツモ{7}  ドラ{7}  槓ドラ{北}と{3}

 中膨れ単騎の上に和了り役は嶺上開花のみ。

 それで満貫。

 美和が、『間違いなく咲は牌が見えている!』と確信した瞬間だった。

 

 これで中堅前半戦の順位と点数は、

 1位:咲 255300

 2位:美和 49900

 3位:郝 49300

 4位:華奈 45500

 咲の試合にしては珍しく、誰もトバず、誰も(まともに)漏らさずで、前半戦を折り返した。

 

 

 美和は、前半戦の終了と同時に、

「(ヤバイよ、これ!)」

 対局室を出て、大急ぎでトイレに向かった。

 

 この頃、某掲示板では、

「一大事、一大事ですわ! 郝はともかく、他の二人も放水していませんわ!」

「エニグマティックだじぇい!」

「ないない! そんなの!」←初美は、こればっかりですね

「そんなオカルトありえません!」←和も、以下同文

「イヤだ、モー!」

「先輩が悲しむデー」

「でも、キラーの中堅はもう少しでスバラなことになりそうでした」

「キラーってどこですのだ?」

「綺亜羅のことだと思」

「キラーのメンバー入りに期待したいとこやけど、そんな未来は見えへん」

「そんな未来を見せて欲しいと!」

「宮永が手を抜いたんじゃないのか? by高二最強!」

「手は抜いてないと思うし! キラーが頑張って絶えたんだし!」

 新規放水メンバー入りがなかったため、残念がる人が多かった。ただ、美和のメンバー入りを期待する声は多かったようだ。

 

 

 さて、その期待された美和だが、

「(一先ず、スッキリしたぁ。)」

 トイレで出すべきモノを出し終えていた。

 さすがに彼女としてもメンバー入りはしたくない。そんなことで全国に名を轟かせたくないし、某掲示板のネタにされるのはイヤだ。

 

 そして、彼女は自販機の前に来た。

 喉は渇いたが、さて、何を購入すべきか?

「お漏らし対策も考えなきゃいけないから、冷たいモノは基本的に避けたほうが良いよね。それと、お茶は利尿作用があるって言うから絶対パスだよね!?」

 勿論、喉の渇きを取るものなので、お汁粉とか飲むモンブラン、飲むフォンダンショコラなども今回はパスだ。逆に喉が渇きそうだ。

 ミルクセーキも同じ。

 ココアも同じ。

 コーヒーも紅茶も利尿作用があるって話だし………。

 結局、美和は暖かいレモン水を購入した。

 

 

 一方、する側ではなく、させる側の咲は、恭子に連れられてトイレに来ていた。

 美和とは別のトイレのようだ。

 一応、何かの区切りの際にはトイレに行っておく。そのような指導を小学校から受けてきたため、未だに条件反射として咲の身体には染み付いているのだ。

 用足しを終えると、咲も恭子に連れられて自販機の前に来た。

 が、そこには美和もいた。

「あ…あの…。」

 何かを話した方が良いのだろうが、咲は、少々社交性に欠ける。何を話して良いのか分からない。

 すると、美和から話し掛けてきた。

「やっぱりチャンピオンは強いわぁ。一応、私が綺亜羅のエースってことになってるんだけどね。手も足も出ないわぁ。」

「いえ、的井さんも、結構強いと思います。」

「そんな、50000点以上も削られてるのに?」

 こう言われて咲は返答に困った。何を言っても嫌味になるように思えてきたのだ。

 

 すると、恭子が、

「いや、あんたは強いで。本気の咲が相手なら、普通に全国大会に出てくる程度の高校生じゃ全員トバされとる。」

 と助け舟を出した。さすが、咲のことを良く分かっていらっしゃる。

 ただ、恭子は、気が回らないほうではないが、お世辞も言わない。本当に、恭子は美和のことを強いと認めて、そう言ったのだ。

「たしかに、某掲示板とかを見ると、宮永さんにトバされて失禁する人多数とかありますけど…。」

「あれなぁ………。まあ、でも、あれは嘘やないからな。それに、咲の下家に座っとったのに、よう耐えた思うで。」

「でも、ちょっとヤバかったです。」

「そっか。あれは、全国上位の選手でも耐えられへん時あるからな。」

 たしかに、佐々野みかん(佐々野いちご妹)や多治比麻里香(多治比真佑子妹)、石戸明星など、有名どころも被害に遭っている。

「たしかにそうですね。」

「初めて、うちが咲と卓囲んだ時は、あそこまで激しくなかったんやけど、一昨年の全国大会個人戦からかな、あれだけ強烈になったんわ。」

「そうだったんですか?」

「たしか、咲。あれは、松庵の多治比真佑子、鹿老渡の佐々野いちご、劔谷の椿野美幸との対局からやったっけ?」

 こう恭子に聞かれて咲が、

「だって、あの時は三人とも凄く綺麗で、私だけ見劣りしていて処刑台に立たされているみたいに感じたから、つい………。」

 と小声で答えた。

 これを聞いて、美和は唖然とした。

 全女子高生雀士を震え上がらせる恐怖のオーラの覚醒は、全て咲の顔面偏差値の劣等感から来るものだったとは………。

 

 まあ、美和が見る限り、咲の顔面偏差値は標準を十分超えているとは思うが………。本人は、それだけ自分のことを過小評価していると言うことだろう。

 ただ、これを聞いて、世界大会準決勝でロシアのナタリア、ジョージアのリリア、ルーマニアのダニエラが派手にやらかした理由が分かった気がした。

 

 恭子が、

「まあ、後半戦もお手柔らかに。それで、咲。何か買うんやなかったっけ?」

 と言うと、

「あっ! そうです。オレンジジュースを。」

 と、慌てて咲が自販機でオレンジジュースを購入した。

 ただ、その隣には、いつもの………つぶつぶドリアンジュースが置かれていたのは言うまでもない。

 

 ふと、美和が、

「でも、宮永さんって、あれだけ強いのに、コーチの方と休憩時間中にも作戦会議とかするんですね。」

 と咲達に聞いた。

 すると、咲が、

「別にそうじゃなくて。私、方向音痴が酷くてコーチに付き添ってもらってるんです。それで………。」

 と恥ずかしそうに答えた。

 そう言えば、前半戦が始まる前にも恭子が咲に付き添っていた。

 インターハイでも、憧がいつも一緒にいた。

 あれは、仲が良いとか作戦会議とかアドバイスとかではなく、単に一人でトイレにも対局室にも行けないってこと?

 美和は、これが今年になって………いや、高校に入学して以来、一番驚いたことだった。

 …

 …

 …

 

 

 それからしばらくして、咲と美和が対局室に戻ってきた。あの後も、なんだかんだで談笑していたようだ。

 既にLINEの登録もした。すっかり仲良しになったようだ。

 

 しかし、勝負の世界は厳しい。ここからは本気モードだ。

 咲は、別れ際に恭子から受け取った袋を開けた。

 これを見て、美和が、

「咲ちゃん、なんなのそれ?」←既に、ちゃん付けしている

 と聞いた。すると、咲が、

「タコスだよ、美和ちゃん! これを食べて一気に勝負をつけろってコーチから」←こっちも、ちゃん付けになっている

 と答えた。ただ、第三者からすれば、何故タコス?

 たしか、某掲示板にもタコスネタは書いてあったけど、あれって、単なるギャグじゃなかったのだろうか?

「ええと、タコスが好きなの?」

「実はね。長野の伝説でタコスを食べると起家になれるってのがあるの。」

 そう言うと、咲はタコスを急いで食べた。

『たしかに掲示板にも、そう書いてあったけど、それって本当なのかい!』

 と美和は本気で思った。

 

 ただ、この時、美和は、起家になれると言う部分のインパクトが強くて、

『一気に勝負をつけろってコーチから』

 の部分について咲に質問するのをすっかり忘れた。

 これは、対局後に確認することになるのだが………。

 

 

 全員が卓に付き、場決めの牌を引くと、たしかに咲が東を引き当てた。

「(あれって本当だったんだ。)」

 高校に入学して以来、美和が二番目に驚いた件であった。

 

 また、南家は美和、西家は華奈、北家は郝に決まった。

 よりによって咲の下家とは………。

 ちゃんとトイレに行っておいて良かったと美和は思った。

 

 

 東一局、咲の親。

 当然、某掲示板では、

「咲ちゃんが起家だじぇい! しかも綺亜羅が下家だじょ!」

「これはスバラな展開になりそうですね!」

「当然ですわ! これでデビューしないなんて有り得ませんわ!」

「でも、なんだか綺亜羅の中堅と咲様、仲良さそうにしてますよー」

「そんなオカルトありえません!」

「じゃあ綺亜羅の子、みかんポジションになったってことやろか? その未来は見えへんかったなあ」

「でも、みかんほどオモチは無いのです!」

 それなりに賑わっていた。

 

 

 東一局、咲の親。

 咲が全員トバしを狙って、一気にツモ和了りを連発すると誰もが期待した。特に某ネット掲示板住民達は、そう強く願っていた。

 しかし、咲は、

「(前半戦は、郝さんは美和ちゃんに引っ掻き回されて自分の力が発揮し切れていなかったけど、多分ここでは巻き返しを狙ってくる。美和ちゃんもなんだかんだで強いし、全員トバしはムリだよね。じゃあ………。)」

 ネット住民の期待に沿わない試合運びをすることに決めていた。

 そもそも前半戦では、咲自身も初顔合わせの美和の打ち方を観察していたら、いつの間にか特大リードされていた。たしかに底力のある選手だ。

 だったら、一番弱いところからドンドン点数を奪ってしまえば良い。

 

 咲の第一打牌は{②}。そして、第二打牌は{五}。

 これは嫌なモノを狙っていそうだ。

 しかし、そう簡単に聴牌できるものでもないだろう。それで、嫌な牌は今のうちに処理しようと華奈が{⑨}を捨てた。

 ところが、

「ロン! 国士無双。48000!」

 これで咲が、まさに『嫌なモノ』を和了った。

 まさかの二巡目であった。

 

 東一局一本場、咲の連荘。ドラは{3}。

 七巡目、華奈の手牌は、

 {一三四五六七③④[⑤]333[5]}  ツモ{八}

 高目でタンヤオ三色同順ドラ5の倍満。

 ここで当然、{一}切り。

 

 そして、八巡目、華奈は{②}を引いてきた。

 当然、ツモ切りだ。

 しかし、これを、

「カン!」

 咲が大明槓してきた。

 前半戦と同様に美和に向かって咲のオーラを乗せた副露牌が迫ってくる。ワニが巨大な口を広げて自分に突進してくるような感覚だ。

 嶺上牌を引くと、咲は、

「もいっこ、カン!」

 {二}を暗槓した。

 またもや美和に向かって副露牌が迫ってくる。今度は、まるでホオジロザメが口を大きく広げ、美和を目掛けて頭から突っ込んで幻影が見える。

 さらに咲は、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 今度は{⑧}を暗槓した。

 美和には、まるでティラノサウルスが美和を狙って頭ごと突っ込んで幻が見える。

 再び美和は、

「チョロッ………。」

 ダムに亀裂が入った。しかし、既に出すものは事前に出しておいたので、幸運にも数滴分の放水だけで全てが終わった。

 多分、見た目にはセーフだ!

 咲は三枚目の嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 これで和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {⑤222}  暗槓{裏⑧⑧裏}  暗槓{裏二二裏}  明槓{横②②②②}  ツモ{[⑤]}

 タンヤオ対々和三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花赤1。三倍満だ。

 

「36300です!」

 これで、華奈の点数は15700点まで減らされていた。あっと言う間の出来事だった。




おまけ
前回の続きです


七.『愛の美の女神?』

ドアの向こうでガサガサ音がしていた。
黒かったり茶色かったりする嫌な昆虫の音ではない。クルミがドアの向こうで何かを探しているみたいだ。
数分後、彼女が元気な顔で操縦室に入ってきた。
「ハツミ。塞。これを飲んで。」
彼女から錠剤を受け取った。色はピンクで綺麗だけど、何だか変なニオイがする。はっきり言って臭い!
でも、ハツミは全然ニオイを気にしていないのか、その錠剤を口に入れて飲み込んだ。すると、その直後、急に彼女は元気になった。
疲労回復剤だ。少なくとも彼女達の顔を見れば、その効力の凄さが分かる。
だけど私は、なかなか口に入れられずにいた。臭くて抵抗があった。納豆が嫌いな人に納豆を差し出したら、きっと同じ反応をするだろう。
でも、いつあのエロ女がワープしてくるかもしれない。
腹をくくれ。私!

私は目を瞑って錠剤を口に入れた。でも、のどが渇いて、くっついているような感じがしていて、なかなか錠剤を飲み込めない。
すると、ナズナがリュックの中から水筒を取り出して、カップに中身を注いで私に差し出してくれた。
「こ…これで、飲んでください。」
初めて彼女の声を聞いた。顔から想像していたとおりの可愛らしい声だ。
「あ…有難う。」
対する私の声は掠れていた。
いい匂いがする飲み物だ。
私は、その飲み物を口に含み、一気に錠剤を喉の奥に流し込んだ。
その直後、急に身体の奥底から力が湧いてきた。凄い威力だ。この錠剤を創った奴は偉い。これなら、あの女に太刀打ちできそうだ。
ニオイは何だけど…。

レーダーが敵の超巨大宇宙戦艦を捉えた。向こうも、こっちの大体の位置を把握しているのだろう。ワープしてきたようだ。
しかも、あのミサイル群まで連れてきている。超巨大戦艦の周りを、まるでミサイルが取り囲んでいるようだ。
突然、ミサイルがこっちに突っ込んできた。位置がバレたようだ。
クルミとハツミは急いで私にダブルフェードインした。そして、私は急いでトヨネとトキを合体させた。

トヨネは衛星の地面に沿って低空飛行した。
それを目掛けて、まるで豪雨のようにミサイル群が降り注いできた。
トヨネは低空飛行のままミサイルを避け続けた。
ミサイルが次々に地面にぶつかり、激しい音を立てて爆発して行く。そして、数分後には残り二十~三十発まで、その数は減っていた。
派手なミサイルの使い方だ。非常にもったいない気がする。
でも、私達さえ倒せるのなら、どんな手段でも構わないのだろう。
それに、向こうにはミサイル以上の武器がある。

超巨大戦艦から七本のエナジー波が撃ち放たれた。ミサイル以上の武器、カゼコシ砲を発射したのだ。
多分、私達を一気に吹き飛ばそうと考えているのだろう。
トヨネは超高速でカゼコシ砲を避けた。そして、軌道を変えて、そのまま一気に超巨大戦艦の上に回った。
すると、四本のエナジー波がトヨネを目掛けて襲ってきた。なんと、超巨大戦艦の上部にも口径百メートルにも及ぶカゼコシ砲が装備されていたのだ。
大きさからして、パワーはヒメマツ星で相手にした巨大戦艦のカゼコシ砲と同じくらいだろうか?
多分、一発くらい受けてもトヨネが壊れることは無い。でも、一発受けたら、そこで一瞬動きが止まる。
そこに何発もお見舞いされたら話は別だ。いくら頑丈なトヨネでも機体がもたないだろう。
しかも、それらのカゼコシ砲は、戦艦上方のいずれの方向にも向けることができる優れものだ。こっちが避けるように動いても簡単に照準を合わせてくる。

トヨネを高速で超巨大戦艦の下方や後方にも回らせてみたけど、やっぱり同じような装備が施されている。抜け目が無い。
超巨大戦艦から容赦無しにトヨネを目掛けて超エナジー波が連射されてきた。全然、近づくことすらできない。
この時だった。私の頭の中に、今まで聞いたことの無い女性の声が語りかけてきた。
正しくは、私の中にフェードインしたクルミに向けて発してきたテレパシーだった。
「クルミ、遅くなってゴメン。」
「アコなの?」
「うん。今、やっと完成したわ。これから、そっちに送るから。」
「分かったわ。急いで!」
トヨネの両掌から電撃を放ってカゼコシ砲の破壊を試みた。でも、その電撃でさえもカゼコシ砲から発射される強力なエナジー波で吹き飛ばされてしまう。
もう駄目かもしれない。
そう思った丁度その時だった。
突然、私達の目の前に何かがワープして現れた。そして、それは超巨大戦艦を目掛けて自ら突っ込んで行った。
金色に輝く両翼を持った鳥の姿をしたロボットだった。七色に輝く長い尾をなびかせるその美しい姿は、まるで不死鳥のように見えた。
そのロボットが超巨大戦艦の下方に回った。
当然、『待っていました』と言わんばかりに、超巨大戦艦下方に装備された四つのカゼコシ砲が、そのロボットに向けて一斉に牙をむいた。
でも、その凄まじいエナジー波の直撃をものともせずに、そのロボットは超巨大戦艦に向けて、さらに突き進んでいった。
信じられない光景だ。
私は、すっかり言葉を失った。
すると、私の頭の中にクルミが語りかけてきた。
「あれが、三体目のロボット『リューカ』よ。塞の身体で増幅された私達のミヤモリ・エナジーをトキと同じように受けることで機体表面に特殊なバリヤー『キラメ・スバラ・バリヤー』が張り巡らされるの。それが、あの超装甲装備の正体よ。私達から供給されるエナジー量次第では、原爆数個分の爆発力まで何とか耐えるはずよ。」
それが本当なら、とんでもないやつだ。


竜華「凄いディフェンス力やけど、それならうちより洋榎のほうが合ってたんやない?」

怜「でも、うちと一緒に戦う前提なら竜華でエエんちゃう?」


リューカは、そのまま超巨大戦艦まで突き進み、目からレーザー砲を放って、戦艦下方のカゼコシ砲を全て破壊した。この鳥、とんでもない秘密兵器だ。
チャンスだ。
私は、トヨネを戦艦下方から突っ込ませようとした。すると、クルミの声が再び私の頭の中に響いてきた。
「ちょっと待って。」
「でも、下方から一気にトヨネで攻撃すれば…。」
「実践で試したいことがあるの。リューカと合体して。トヨネとトキを合体させる時みたいに念じてくれれば良いから。」
「…うん…。」
私は、クルミに言われるとおりにした。
すると、私の頭の中に、ある言葉が浮かんできた。クルミの記憶の中から見つけた言葉だ。
私は、その言葉を無意識に口にした。
「モードチェンジ・スコヤン!」
すると、トヨネとトキの合体が一旦解除された。そして、トキがトヨネの頭の上に再合体して、頭に大きな翼を持つ人魚の形になった。
まるで、トキの胴体部分が帽子になって、それをトヨネが深めに頭に被ったみたいな感じだ。
トキの二つの頭が鉤爪のような形に変わった。まるで一対の触角みたいに見える。
続いてリューカが首を胴体内に縮めて、トヨネの腰の少し上辺りに合体した。
三体のロボットは、二対の翼と不死鳥の尾をなびかせる人魚の姿になった。でも、この姿は合体劇の通過点でしかなかった。
トヨネの魚型の尾が正面真ん中からスリットが入ってゆくように縦に切り開かれていった。そして、その中から白い足が出てきた。
切り開かれた尾は変形して縮んで行き、ミニスカートのようになった。


竜華「姉帯さんと一緒だけど、やっぱり怜と私が合体するんやね!」

怜「せやな。」

竜華「やっぱり、不死鳥型ロボットは洋榎やなくて、うちで正解や!」


「ねえ、クルミ。これって?」
「これが、トヨネ達が一体化した姿。これを製造担当者達はジャージ姿が似合う戦士『スコヤン』と呼んでいるわ。正しくは、『スコヤン』はムチャクチャ強い雀士のことなんだけどね。」
「ムチャクチャ強い雀士?(なんで雀士が関係するの?)」


健夜「ちゃんと台本に従ってよ! そこは、愛と美の女神でしょ! それにジャージは関係ないでしょ!」

塞「じゃあ、やり直しね。」


「これが、トヨネ達が一体化した姿。この姿を、私達は麗しの戦士『スコヤン』と呼んでいるわ。『スコヤン』は、カクラ星の言葉で『愛と美の女神』を意味するの。」
「まるで、地球で言うヴィーナスみたいね。」
「そうなんだ。じゃあ、これで戦艦の正面からガチンコ勝負して!」
「えっ? 正面?」
私はクルミの言葉を疑った。
超巨大戦艦の正面から突っ込んだら、七つの巨大なカゼコシ砲の餌食だ。あの破壊力は、さっきリューカが受けたものとは威力が違う。
でも、それを分かった上でクルミは正面からの勝負を望んでいた。
「一応、計算上は大丈夫なはずよ。それに万が一、ヤバそうだったら小ワープで逃げれば良いから。」
クルミと心を共有する今、彼女の自信がヒシヒシと伝わってくる。
私って単純だ。
彼女は根拠を持って言っているのだろうけど、私には、その根拠が見えない。
でも、彼女の自信に影響されて、
『絶対に大丈夫、勝てる!』
と思い込んでいる。
そして、疑うことなくスコヤンを超巨大戦艦の正面に高速移動させた。

ユウキが渾身の力を振り絞って七つの巨大カゼコシ砲にエナジーを送り込み、一斉にスコヤンに向けて強烈なエナジー波を撃ち込んできた。
私は無意識にスコヤンの機体を皮一枚で覆うように薄いバリヤーを張った。こんな機能が付いているのを私は知らなかったけど、クルミの記憶が私に働きかけたのだ。
どうやら、このバリヤーはリューカから発されていた。強固なキラメ・スバラ・バリヤーと同じものだ。それで、スコヤン全体をガードと言うかコートしていたのだ。

強烈なエナジー波がスコヤンに直撃した。
でも、あの巨大カゼコシ砲のパワーでもキラメ・スバラ・バリヤーを撃ち壊すことができなかった。私が思っている以上に、このバリヤーは強力だ!


煌「スバラです!」


巨大カゼコシ砲の威力を、クルミは完全に読みきっていたのだ。
クルミもスコヤンも、とても心強い。

そして、このバリヤーに全身を包んだまま、スコヤンは超巨大戦艦に正面から一直線に突き進んでいった。
スコヤンは巨大カゼコシ砲の一つに飛び込むと、そのまま弾丸が身体を貫通するように超巨大戦艦の機体を前から後まで貫いた。

超巨大戦艦が轟音を上げて爆発した。
その爆発の中から脱出機が飛び出した。あのエロ女だ。
私はスコヤンを、その脱出機の前に高速移動させた。そして、レーザーソードでその脱出機を切り裂こうとした。
「死ね。このクソエロ女!」
でも、レーザーソードを最後まで振り下ろせなかった。途中で腕が止まった。
今までは敵の戦艦や戦闘機とかを無機物を破壊するように攻撃できた。
だけど、それらにはキヨスミ星人が乗っている。敵だけど、地球人じゃないけど、私と同じ人間だ。
つまり、戦いに勝つことは人を殺すのと一緒だ。
急に、そんな想いが私の頭の中を駆け巡った。

太陽系でノドカの軍を破った時は、私ではなくクルミの意思で戦っていた。私は、ある意味傍観者だった。
ヒメマツ星でタカコと戦った時は、私が敵を倒したけど、タカコの姿を見ながらトドメを刺したわけではない。勢いで脱出機を後から攻撃した。
さっきの超巨大戦艦もそうだ。ユウキの姿を見ながら攻撃したわけではない。

でも、今は脱出機に乗るユウキの姿を正面から見てしまった。
ここでレーザーソードを振り下ろしたら、ユウキの身体を切り裂いてしまう。
ユウキは気に入らないけど、私には彼女を殺すことができなかった。
脱出機の操縦席では、ユウキが身を小さく縮込ませていた。もう完全にやられると思っていたみたいだ。
私は、何故か泣いていた。
「さっさと何処かに行ってしまえ。このエロ女!」
そう言うと私は、スコヤンに脱出機から背を向けさせた。
ユウキはキョトンとした顔だった。
「何故泣くじょ? 何故殺さないんだじょ?」←やっぱり、霞みたいな女性が、この口調で話しているのは中々想像し難いですね
そのユウキの問いに私は答えられなかった。
「私を助けたこと、必ず後悔するじょ!」
悔しそうな声でそう言うと、ユウキは脱出機をワープさせた。


ハツミがフェードアウトした。
私の身体はゴッド・塞の姿に変わった。
頭の中にクルミの声が響いてきた。
「塞、気を切り替えて。カクラ星に急ぎましょう。一先ず、試したいことは成功したわ。あなたのお陰よ。」
「…うん…。」
私は非情になりきれない。
でも、報酬をもらってしまった以上は戦い続けなければならない。
宇宙戦争に行くことは人殺しになること。これを見抜けなかった私はバカだ。

でも、敵を倒さなければ、地球にもキヨスミ星の手が伸びるかもしれない。それを考えれば結局は戦わなくてはならないのだと思う。
多分、ベクトルとしては間違ったことはしていないのだろう。でも、私は現状を割り切れずにいた。


スコヤンが、カクラ星に向けて小ワープに入った。
気が付くと、地球に似た星の姿が目に飛び込んできた。
これがカクラ星だ。
なんだか、心が洗い流されるみたいだ。その美しい星の姿を見て、私の心は次第に落ち着きを取り戻していった。


大気圏に突入した。
しばらくすると大陸が見えた。
地球と同じ感覚で言えば、川とか湾の辺りに都市部が形成される。でも、全然建物が見当たらない。カクラ星人達の生活が上空からは見えてこないのだ。
クルミの意思に従ってスコヤンが着陸した。そこは、荒野とも言うべき、まさに荒れ果てた土地だった。
周りには瓦礫の山が散見される。建物はあったのだ。でも、キヨスミ星の攻撃で全部破壊されてしまったのだろう。
クルミがフェードアウトした。
これに呼応するかのように、スコヤンは元の三体のロボットの姿に戻った。私もユウキにそっくりな姿に変わった。

急に地面が下がっていった。まるで巨大なエレベーターだ。
三体のロボットが地面の下に全て納まると、天井が金属板で塞がれた。地下にクルミ達の基地があるのだ。
クルミやハツミと同じ背格好の女性がトヨネの前まで飛んできた。
「クルミ。一旦、私をトヨネの中に入れて!」
「どうして?」
「塞に渡さなければならないものがあるのよ。」
クルミが念じると、その女性の身体が白く光った。そして、次の瞬間、その女性はトヨネの操縦室内に瞬間移動してきた。
彼女は、私を見るなり驚きの表情を見せた。
「たしかに良く似ているわ。これでは、このまま降ろすわけには行かないわね。」
彼女が私の目の前まで飛んできた。
「私の名はアコ。この基地の司令官よ。済まないけど、塞には、これを付けてもらう必要があるわ。」


憧「まさか、私が小人役になるとはね。でも、まあ、いっか。シズと一緒だしっ…て、ゴメン。ネタバレしちゃった!」


それはスイッチの付いたブレスレットだった。
私はアコに言われたとおり、ブレスレットを左手首につけてスイッチを入れた。すると、急に身体が冷えたような感覚がした。
身体が、うっすらと白く光っている。そして、その光がおさまった時、私は何だか違和感を覚えた。
三つ子達の視線が変わった。
何故か、私の顔を見て怯えなくなった感じがする。
腕も、少し短くなった感じがする。でも、見たことがある。
操縦室後方の姿見兼用のドアに見覚えのある女性の姿が映っている。
そうだ、以前の私だ。元の姿に戻されたのだ。
「どうして?」
私の心の声が、ついつい言葉になって出てしまった。
「塞。済まないけど、この星に居る間は、その姿でいて欲しいのよ。ユウキが来たと勘違いされては困るから。」
たしかに、そう言われればそうだ。アコの言うとおりだ。
あのエロ女はカクラ星に侵攻してきた敵の司令官。それと瓜二つの私が、この基地内をウロウロしていたら間違いなくパニックに発展する。

ただ、不思議なことに、この姿に戻って私は何故かホッとしていた。
憧れのナイスバディではなくなったのに、こっちの方が落ち着いていられるような感覚があった。
この姿が本当の自分と思っているからかもしれないし、もしかしたらエロ女への嫌悪感がそうさせているのかもしれない。


操縦室からトヨネの足元に私達は瞬間移動で降ろされた。そして、私達は基地内部のある部屋に通された。
本来、この地下基地はカクラ星人に合わせたサイズで建設されている。だから、私やカナの妹達には入れないところがたくさんある。

通された部屋は、私達のような人間が入れるように特別造られたところだった。二十畳くらいの割と広い空間で、隅の方には何故か医療用のベッドが置かれていた。
私は、その医療用ベッドに寝かされた。
頭の上の方からクルミの声が聞こえてきた。
「言い忘れたんだけど、疲労回復の錠剤を飲んだじゃない。」
「うん。」
「あれってカクラ星人には問題無いんだけど、他の星の人の場合、たまに常習性が見られるケースがあるのよ。」
「嘘?」
「本当よ。勿論、一回使用したくらいで常習性が出ることは無いけどね。それで、検査させて欲しいの。もし常習性がありそうな体質なら、これから先は、あの錠剤を塞は使えなくなるわ。一瞬で疲労回復できるかできないかで戦い方も変わるから…。」
まず、私の右腕から血液が採取された。
続いてエコー検査。
それが終わると、紙コップを渡された。尿検査だ。私は部屋に備え付けのトイレに連れて行かれた。
トイレから戻ってくると、今度は私の頭、腕、足、お腹、悔しいけど元に戻った胸にコードが繋がれた。まあ、無い胸では無いけど………。人間ドックを連想させる。
いったい、何を測定しているのか私には分からない。ただ、結構時間がかかる。次から次へと、色々な装置で私の身体データが取られてゆく。
検査中、いつの間にか私は眠ってしまった。なんだかんだで疲れていたみたいだ。
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