準決勝第一試合中堅後半戦。
東一局二本場、咲の連荘。ドラは{四}。
もう華奈には後が無い。いきなり後半戦立ち上がりの二局で84300点も削られるとは、想像もしていなかった。
それで現在、放心中である。
咲は、ここではヤオチュウ牌から処理をしていた。
さすがにこの局では、華奈も初牌には気をつけていた。
しかし、七巡目で二枚切りの{9}を捨てた直後だった。
「ロン。」
咲の和了り宣言が聞こえてきた。大明槓ではない。和了りだ。
開かれた手牌は、
{四四五[五]六六⑤[⑤]45678} ロン{9}
「平和一盃口ドラ4。18600です。」
これで華奈が箱割れして終了した。
これで中堅後半戦の順位と点数は、
1位:咲 202900
2位:美和 100000(席順による)
3位:郝 100000(席順による)
4位:華奈 -2900
この準決勝戦で、まさか、
『東二局は来ない!』
をやるとは、凄まじいパワーである。
中堅戦前後半戦合計は、
1位:咲 458200
2位:美和 149900
3位:郝 149300
4位:華奈 42600
そして、これまでの全体のトータルは、
1位:臨海女子高校 784600
2位:綺亜羅高校 721400
3位:阿知賀女子学院 714900
4位:朝酌女子高校 179100
阿知賀女子学院が一気に追い上げ、臨海女子高校、綺亜羅高校、阿知賀女子学院の三強状態となった。
また、勝ち星も臨海女子高校、綺亜羅高校、阿知賀女子学院が各々一つずつ取った状態となった。
放送映像が、急遽対局室から放送席に切り替わった。
案の定、対局室では、
「ジョジョジョ―――!!!」
極度の緊張から開放された安堵感から、華奈がヤッてしまった。
咲と郝と美和は、
「「「あ…ありがとうございました!」」」
対局後の一礼を済ませると、さっさと対局室を後にした。
対局室の扉付近には、既に補員の車井百子(車井百花妹)の姿があった。要するに咲のお迎えだ。
「お疲れ様です。」
「ありがとう、百子ちゃん。」
咲は、
「じゃあ美和ちゃん、また後で!」
美和にそう言うと、百子に連れられて控室に戻って行った。
「(本当に一人で帰れないんだ!)」
この様子を見て、美和は、咲の方向音痴の酷さを再確認するのだった。
この頃、某ネット掲示板では、
「特定はよ!」
「これは絶対キラーだじょ!」←キラーは綺亜羅高校の意味です
「たしかに、前半戦では股を強く押さえていたっス!」
「こちら現場! 朝酌の補員がジャージを持って対局室に急行した模様!」
「残念、キラーじゃなか!」
「でも、華奈って初デビュー?」
「華菜ちゃんはデビューしてないし!」
「お前じゃない! by高二最強!」
「咲さん、キラーの子と仲良くしてましたね! それで手を抜いたんですね! 手を抜かないって約束したはずですのに!」
「みかんと同様、咲と仲良くなると原点付近で済まされるんだと思」
「今回は原点付近ではなく原点丁度ですのだ!」
「キラーじゃないなんて、ないない! そんなの!」
「綺亜羅がキラーで定着した件」
「でも仲間がいて嬉しいよモー! でもキラーのほうが面白かったかモー!」
「先輩が複雑な心境デー」
華奈の放水で、それなりに喜んでいたようだが、やはり美和のデビューの方を望んでいたのが多数派だったようだ。
美和が控室に戻ると、
「良く耐えたね! ネットでは大多数が美和の放水を望んでいたみたいだけど、ネタにされなくて済んで良かったよ。」
開口一番、静香がそう言った。
勝敗も大事だが、やはり友人がネタにされて弄られるのを彼女は一番怖がっていたようだ。
ヤらかさないのは、スター選手ばかり。いや、スター選手でも、最初は洗礼を受けることがある。
加えて、放水リピーターもいる。
ネタにされずに何よりだ。
「本当に頑張ったし、お疲れ! でも、チャンピオンと仲良くしていたってホント?」
こう聞いてきたのは鳴海。
既に某ネット掲示板を読んでいたようだ。
「ええと、自販機の前で少し話をしてね。LINEも登録したけど…。」
「「「「ええっ!」」」」
宮永咲と言えば、今の女子高生雀士の憧れの的であり大スターである。その咲をちゃっかりLINE登録しているとは………。
「でも、リュウ(鳴海のこと)は、なんで私が咲ちゃんと仲良くしてもらえたって知ってるの?」
「「「「咲ちゃん!?」」」」
美和から出てきた言葉は、チャンピオンでも宮永さんでもない。咲ちゃんである。
ホントに、いつの間に?
これには周りも驚いた。
「あのね。ネット掲示板にさ、チャンピオンと美和が後半戦になったら急に仲良さそうになってるって書いてあってね。」
「まあ、休憩中にお友達になったけど、でも、そこまで分かるものなの?」
「分かるらしいよ。」
鳴海が自分のスマホを美和に見せた。某ネット掲示板のページが開かれている。
「ゲッ! ホントだ!」
「それとチャンピオンは仲の良い人からは派手に点数を削らないって話もあるからさ。」
「そうなの? でも、手を抜かれたんだったらイヤだな。まあ、チームとしては助かるけど………。」
美和は、早速LINEで咲に連絡を入れた。
『今、チームのみんなから咲ちゃんは友達からは点数をあまり削らないって聞いたけど本当? もしかして後半戦は私から点棒奪うの遠慮してた?』
すると、割と早く咲から返信が届いた。
『美和ちゃんに遠慮したわけじゃないよ! 美和ちゃんとかハオさんが和了りだすと面倒だから、一番弱いところを一気に叩き潰しただけだよ! コーチからも一気に勝負を着けろって言われてたし。』
やはり、『勝つ』ではなくて『叩き潰す』のようだ。
これを見た美和達は、
「「「「「(叩き潰すって?)」」」」」
目が点になった。まあ、美和が叩き潰される対象にならなかっただけ良しとしよう。
それと、後半戦が始まる前、咲がタコスを口にする直前に言っていた、
『これを食べて一気に勝負をつけろってコーチから』
の意味を、美和は、ここでようやく理解した。確実に勝ち星を決めろと言う意味だったのだろう。
ただ、それを本当にやってしまうところが恐ろしい。
まさか、準決勝戦レベルの試合で、100000点持ちの半荘が東一局だけで終わるとは思っていなかったからだ。
再び美和がLINE入力した。
『じゃあ、手加減していたわけじゃないんだね。ありがとう。』
すると咲から即答が来た。
『和ちゃんと絶対手加減しないって約束したから。』
が、ここで美和は、
「わちゃんって誰だろう?」
と声を出した。
これを聞いて静香がスマホを弄りながら美和に言った。
「多分、それ原村和じゃないの? 白糸台の。」
「たしかに白糸台とも仲が良いみたいだからね。」
「でも、それだけじゃなくて、チャンピオンと原村は一年の時は長野の清澄高校でチームメートだったから。」
「そっか、そう言えば…。咲ちゃんが初優勝した時の。でも、原村和レベルじゃ手加減されるんだ。結構強いよね?」
「結構どころじゃないよ。昨年インターハイ個人では10位。現在、女子高生ランキング6位だからね。それで手加減って、どれだけ化物よ、あのチャンピオン?」
今になって美和は血の気が引いてきた。
思い起こしてみれば、永水女子高校の石戸明星でさえ、昨年インターハイ団体戦では点数調整された挙句、放出メンバー入りをさせられた。
明星は、昨年インターハイ個人では11位。現在、女子高生ランキング7位。ランキング的には和と基本的に変わらない。
もし、恭子から咲に、後半戦で、
『一気に勝負をつけろ!』
ではなく、
『得失点差勝負に備えて稼げるだけ稼げ!』
との指示が出ていたら、また有名な66600点事件をやられていたのではなかろうか?
そんな超人と友達になっていたとは………。
嬉しいと同時に恐ろしくなってきた。
だからと言って、折角有名人と友達になれたのだから、こんなことで友達を辞めるつもりは毛頭無い………。
それどころか、春休みが終わって学校が始まったら、クラスで思い切り自慢してやろうとさえ思っている。
まあ、それが普通だろう。
「じゃあ、そろそろ行ってくるね!」
副将の鬼島美誇人がソファーから立ち上がった。
彼女は、美和が戻ってきてからずっと黙っていた。何か考え事でもあるかのようだ。
この時の美誇人は、静香や鳴海とは違ったオーラを纏っていた。
言ってみれば、静香は、時としてトップに君臨する支配者のような高圧的なオーラを出す。非常に威圧感が強い。
勿論、麻雀を打つ時限定で、普段は、そんな感じでは無いが………。
一方の鳴海は、麻雀を打つ時は辛気臭い雰囲気を出して、静香とは別の意味で相手に威圧感を与える。
彼女も、普段は、そんな感じでは無いが………。
そして、美誇人もまた、麻雀を打つ時には独特の不気味なオーラを出す。
また、彼女の場合、序盤で相手の、その日の状態を徹底的に観察し、その後、一気に勝負を着けるのが特徴だ。
彼女が全てを見切った時、和了り宣言に使う言葉は、ツモでもロンでもない。
『御無礼』
これが彼女の最大の特徴、いや、アイデンティティとも言えよう。
「じゃあ、カイ(美誇人のこと)。ガンバ!」
この美和の言葉に、
「うん。勝ってくる!」
美誇人は、そう言い残して控室を後にした。
対局室に副将選手が姿を現した。
阿知賀女子学院からは宇野沢美由紀。
プロ雀士宇野沢栞の妹で、栞と同様に鳴き麻雀を主体とする。栞とそっくりな容姿で、かなりのオモチを持つ一年生。
臨海女子高校からはマリー・ダヴァン。
以前、本校に在籍していたメガン・ダヴァンの妹。昨年末から本校に留学しており、メガン・ダヴァンと同様にデュエルの能力を持つ。二年生。
朝酌女子高校からは野津楓。
白築慕の中学時代の先輩、野津雫の姪で非能力者。二年生。たまに意外性を発揮する。
そして、綺亜羅高校からは鬼島美誇人。
氏名の最初の字と最後の字、つまり鬼と人で友人達からはカイ(傀)と呼ばれている。最近では綺亜羅高校の人気が上昇し、先鋒の鷲尾静香(二年)、次鋒の竜崎鳴海(二年)と共に『キラー三銃士』とも呼ばれているらしい。
ちなみに綺亜羅高校の大将、稲輪敬子のことは『電波なキラー』とか『不思議ちゃん』、中堅の的井美和のことは『キラーの総大将』と呼ばれているようだ。
場決めがされ、起家は楓、南家はダヴァン(ここではマリーの方が記載としては正しいと思いますが、郝の時と同じでイメージしやすいよう敢えてダヴァンと記載します)、西家は美誇人、北家は美由紀に決まった。
各自、決まった席に座ると、美誇人が美由紀の顔をじっと見詰めていた。
美由紀が、
「ええと、どうかしましたか?」
と聞くと、
「いえ、別に。」
とだけ答えると美由紀から目を逸らし、美誇人は卓中央のスタートボタン(サイコロボタンではなく)を押した。
が、美誇人は内心、
「(この娘、宇野沢栞の妹! 写真で見た時から姉に似てカワイイって思ってたけど、現物は凄くカワイイ。反則だわ、これ。)」
と思っていた。どうやら、美由紀と同卓できて嬉しいやら、敵同士なので悲しいやらで、彼女なりに複雑な心境だったようだ。
東一局、楓の親。
ここでは、二巡目からいきなり、
「ポン!」
楓が捨てた{發}を美由紀が一鳴きした。
そして、その二巡後、
「ポン!」
今度はダヴァンから、美由紀は自風の{北}を鳴いた。これも一鳴きだ。
その後、数巡は、誰からも鳴きやリーチの発声が無く、牌のツモる音と切る音しかしない静寂な場として局は進んで行ったが、九巡目に、
「ツモ!」
美由紀が自力で和了り牌を引いてきた。
「北發混一対々! 3000、6000!」
しかもハネ満の和了り。
美由紀にとっては幸先の良いスタートとなった。
東二局、ダヴァンの親。ドラは{③}。
ここで、
「ポン!」
美由紀が早々にダヴァンから{西}を鳴いた。美由紀の自風だ。
ただ、その後はダヴァンのデュエルと得体の知れない美誇人を警戒しているのか、美由紀は鳴いて手を狭めることを躊躇しているようだった。
ダヴァンも、手が順調に進んでいる。
しかし、手が進めば進むほど、向聴数を減らせる牌の数は減る。当然、確率的には少しずつ手の進み具合は遅くなるだろう。
そして、ダヴァンは一向聴まで進んだのは良かったが、そこから一向に有効牌が引けなくなった。
中盤に入った。
まだ、美誇人は様子見をしているのか、これと言って動く気配が無い。今のところ、ダヴァンと美由紀で争っている感じだ。
そして、十巡目、
「ツモ!」
またもや美由紀が自力で和了り牌を掴んできた。
開かれた手牌は、
{一一一[⑤][⑤]5[5]北北北} ポン{西横西西} ツモ{5}
「西対々三暗刻ドラ3。4000、8000!」
倍満だ。
この二回の和了りで、美由紀は大きくリードした。
東三局、美誇人の親。
「(ちょっと試してみますか。)」
美誇人は、ここで動き始めた。先ずは検証だ。
今まで見てきた感じ、ダヴァンの打ち方は一回戦、二回戦と何ら変わりは無い。言ってみれば、デュエルしかない単調なものだ。
あとは、デュエルに向かった時のツキが、どの程度のものかだ。美誇人の手で崩せるレベルのものかどうか、それは気になる。
美由紀は、美誇人の雰囲気が変わったのを直感的に察知した。
基本的に美誇人は、先鋒の静香や次鋒の鳴海と同じで、余り変化を表に出さない。しかし、咲や穏乃と打って鍛えられた美由紀は、直感的な部分はあるが、僅かな変化を察知することができるようになっていた。
当然、美由紀はムリせずに美誇人の動きをマークする。
数巡後、美由紀は美誇人の聴牌気配を察知した。ただ、美誇人は、普通の人には分からない程度の変化しか見せていない。いや、麻雀を打ち込んでいる人でも察知するのは難しいレベルだ。
続いてダヴァンが聴牌した。
当然、聴牌と同時にダヴァンは美誇人の聴牌を察知した。
「(デュエル!)」
一回戦、二回戦共にダヴァンは美誇人に競り負けている。今度こそは美誇人に勝ちたいし、そのためには、先ず一発目のデュエルをモノにしたい。
特に、この美誇人の親番を自分の和了りで流してやりたい。
その気持ちが前面に出ていることもあり、
「リーチデース!」
ダヴァンは、攻撃こそ最大の防御との考えの下、リーチをかけた。
美誇人は、ムリせずに一発回避。聴牌を崩した。
そして、次巡、
「ツモ!」
ダヴァンが和了り牌を引き当てた。
「メンピン一発ツモドラ2! 3000、6000!」
このハネ満ツモに、ダヴァンは自分に流れが来るであろうことを予感していた。
東四局、美由紀の親。
ここでも前局と同様、美由紀はダヴァンvs美誇人の空気を強く感じ取っていた。下手に動けない。
美由紀は、
「ポン!」
楓が捨てた{東}を鳴いて役を作ったが、あとはダヴァンと美誇人の様子を見ながら、いつでも降りられるように共通安牌を数枚………と言うか対子として確保しながら手を進めてゆく。
中盤に入り、
「リーチデース!」
ダヴァンが先行リーチをかけてきた。美誇人の聴牌を察知して攻めて来たのだ。
ここでも美誇人は一発回避で降り。そして、二巡後、
「ツモ。3000、6000!」
ダヴァンがメンタンピンツモドラ2のハネ満をツモ和了りした。しかし、この和了りを見ながら美誇人はうっすらと笑みを浮かべていた。
南入した。
南一局、楓の親。
楓は、
「(もう、ツモられ貧乏だよぁ。何とかしないと!)」
ここで『意外性』のスイッチが入った。
ダヴァンと美誇人がデュエルに向かって刻子、順子を作って行く中、楓もまた、次々と牌を重ねていった。
そして、五巡目で、
「リ…リーチします!」
震えながら捨て牌を横に曲げた。
この局面では、ダヴァンも美誇人も聴牌しておらず、一先ず二人とも一発を回避した。
当然、美由紀も振り込み回避。
続くツモ番は楓。ここで、楓は、
「ツモです。リーチ一発ツモタンヤオ七対子ドラ2で8000オールです!」
倍満ツモを決めた。
これで楓は2位に浮上。まるで大仕事を成し遂げたかのように全身からホッとした雰囲気が溢れ出ていた。
南一局一本場、楓の連荘。ドラは{8}。
ここでもダヴァンvs美誇人の雰囲気が、美由紀にはアリアリと漂ってきていた。ここでも美由紀は安牌確保の上で手を進めてゆく。
先行して聴牌したのは美誇人のようだ。美由紀は、その気配を察知した。
この時の美誇人の手牌は、
{三四[五]③③③④[⑤]⑥234北}
役無しだ。
次巡、今度はダヴァンも聴牌した。
ダヴァンの手牌は、
{二二二八八⑤⑥4[5]6788} ツモ{8}
{④⑦}待ちの聴牌。しかもタンヤオドラ4。
ここでダヴァンは、
「リーチ!」
{4}切りリーチで攻めに出た。ハネ満狙いだ。
前局では楓に和了られたが、その前には二連続で自分がハネ満をツモ和了りしている。少なくとも美誇人よりは自分に流れがあるとの判断だ。
美誇人は、牌をツモると{北}を手出しした。
一見、降りたかのように見えるだろう。
しかし、ダヴァンは相手が聴牌しているかどうかが分かる。もっとも、単騎待ちの{北}を別の牌に変えただけだから、当然、聴牌を維持している。
次巡、ダヴァンが引いたのは{⑧}。和了り牌の隣。惜しいところだ。
和了り牌でなければ、リーチ者は、これをツモ切りしなくてはならない。当然、ダヴァンもこれをツモ切りした。
すると、
「御無礼、ロンです!」
ダヴァンの下家………美誇人から和了り宣言の声が消えてきた。
開かれた手牌は、
{三四[五]③③③④[⑤]⑥⑦234} ロン{⑧}
つまり、ダヴァンのリーチ後、一発で美誇人はダヴァンの和了り牌の{⑦}を掴んでいたのだが、これを取り込んで{②④⑤⑦⑧}待ちに切り替えたのだ。
「タンピンドラ2。7700の一本場は8000。」
これには、さすがのダヴァンも唖然とした表情だった。
おまけ
前回の続きです
八.『私は…最高の獲物』
ユウキは、キヨスミ星から3億キロ離れた空間を飛んでいた。
「塞か…。何故、あいつは私を殺さなかったんだじょ? 立場が逆なら、私は、あいつを殺していたはずだじょ。それに、あのバリヤー。超巨大戦艦のカゼコシ砲でも破壊できないとは、凄まじい強度だじぇい。次に会う時には、必ず突き破ってやるじょ。この私こそが、最も美しく強い存在なんだじぇい!」
彼女の身体が、うっすらと赤く光った。そして、数秒後には、まるでウインカーのように点滅し始めた。
「うう…。」
彼女がうめき声を上げた。かなり苦しい様子だ。
そして、そのまま彼女は気を失ってしまった。
ヒサの居室にマホが入ってきた。
「ヒサ様。ユウキの軍が敗れたとの報告が入りました。」
「マホ。それって本当?」
「はい。既にユウキは、脱出機で本惑星系内を走行中のところ、我が軍の救助船によって救出されました。」
「ユウキの様子は?」
「気を失っています。元の姿に戻っていたとのことです。」
「そう。ユウキの意識が戻ったらタコス錠を飲ませてやって。」
「はい。」
「それにしても、あのユウキまでもが、やられるとはね。何て奴らかしら。それで、あっちの方は、どうなっているの?」
「担当者のヤエより、一両日中に完成予定との報告を受けております。」
「そう。でも、あれは危険と背中合わせの代物だからね。くれぐれも慎重にやるようにと伝えて頂戴。」
どうやら、キヨスミ星ではカゼコシ砲を超える、とんでもなく恐ろしい兵器の開発が進んでいるようだ。
「んん…。」
私は目を覚ました。
携帯を見ると、あれから丸一日が経っている。
お腹がすいた。
なんだか、箱買いしたカップラーメンが急に懐かしくなってきた。まだ地球を発って四日目なのに、カップラーメンを、もう何年も食べていないように感じる。
「起きた?」
クルミが私の方に飛んできた。そして、例の錠剤型宇宙食を渡された。
私は、その宇宙食を歯で割って、三分の一くらいの大きさになった欠片を食べながら、クルミに聞いた。
「検査の結果は?」
「擬陽性ね。派手に使わなければ常習性は出ないと思うけど、ここぞと言う時以外は使わない方が良いわ。残念だけど疲労回復に毎日服用って訳には行かないわね。それと、こっちに来てくれる?」
部屋の中央にはプロジェクターが置かれていた。
電気が消され、白い壁にプロジェクターから発される映像が映し出された。どうやら、重要な何かを私達に説明したいようだ。
どうやら、プレゼンたーはアコのようだ。
アコの手にはレーザーポインターが握られていた。
「塞、ヒナ、ナズナ、シロナの四人には、まず私達がキヨスミ星と戦う背景を知ってもらわなければ、ならないと思うのよね。」
アコは先ず、クルミが私を探すために宇宙に飛び立つ以前から、カクラ星で把握できていた内容について説明してくれた。
クルミからも聞いたけど、アコが言うところでは、キヨスミ星はカクラ星の位置する惑星系に豊富に存在する特殊な超原子を狙って攻め込んできたらしい。
超原子を欲しがる理由は、キヨスミ星で開発したワープシステムをパワーアップして長距離走行を可能にするためだった。それを使えば銀河系全体への往来が楽になり侵略活動も加速する。それで、カクラ星を攻めてきたのだ。
今回、ユウキの軍を破ったけど、まだキヨスミ星が超原子を諦めたわけでは無いし、他の惑星系への侵攻も続けるだろう。戦いは終わったわけではない。
プロジェクターの映像が切り替わった。
続いて、ミホコ波に関連することについて話してくれた。
ウィシュアート星人やヒメマツ星人の場合、女性限定で何万人かに一人の割合でフクジ・エナジーを作り出す極々小さな塊が細胞内で確認されるとのことだった。
その塊を、カクラ星では『アチガ微小体』と名づけた。このことは、まだキヨスミ星人達は気付いていないらしい。当然、地球でも知られていないことだろう。
また、地球人が、どの程度の割合でアチガ微小体を持っているのかはカクラ星でも分かっていない。私以外に検査サンプルが無いためだ。
フクジ・エナジーを持つ女性からは、特殊な波動が放出される。それがミホコ波だ。
一方、キヨスミ星人女性は胸の下辺りに特殊な内臓器官があり、これをキヨスミ星では『バンセイ垂体』と呼んでいる。ここでユリ・エナジーが作られる。キヨスミ星の男性は、この器官を持っていないためにユリ・エナジーを作ることができないそうだ。
再びプロジェクターの映像が切り替わった。
ここから先のことは、クルミの出発直後に調査隊のメンバーによって分かったことだ。
クルミも大体予想していたみたいけど、正式に聞かされるのは初めてだったようだ。
昨年、キヨスミ星ではユリ・エナジーと大量のフクジ・エナジーを併せることで、とんでもない破壊力を生み出すことができることを見出した。それを兵器化したのがカゼコシ砲だ。
つまり、カゼコシ砲を撃つ前にユウキ達が飲んでいたペットボトルみたいな物の中身は、フクジ・エナジーを濃縮したものだったのだ。
ヒメマツ星でカゼコシ砲の直撃を受けた時に見えた女性達の姿は、そのペットボトルみたいな物の中に詰め込まれたフクジ・エナジーの本来の持ち主と言うことになる。
でも、キヨスミ星人がフクジ・エナジーを求めてミホコ波を発する女性達を拉致するようになったのは、ヒサが総統になってすぐのことで、ここ数年で始まった話ではない。
では、何故、キヨスミ星人女性はフクジ・エナジーを求めるのか?
それは、フクジ・エナジーを摂取することで若く美しくなれるためだ。これは、キヨスミ星の女性の持つ細胞特有の現象らしい。
肌が綺麗になる、手足がスラッとして長くなる、痩せる、顔が小顔で美しくなるなど、まるでノーマル・塞がゴッド・塞やデビル・塞に変身するような現象を引き起こすとのことだった。しかも老いることが無い。
それで、ミホコ波を発する女性を大量に拉致し、その女性達の身体から一切のフクジ・エナジーを抜き取っていたのだ。
単にフクジ・エナジーを抜き取るだけなら、女性達を死に至らしめることはない。ただ、その抜き取り方が問題だった。
乱暴にフクジ・エナジーを抜き取っていたため、細胞レベルで激しい劣化が生じ、老化を著しく早めてしまうらしい。それで早く死んでしまう。つまり、他の惑星の女性達の命のことなどお構い無しに、自分達のことしか考えずにいると言うことだ。
キヨスミ星では、フクジ・エナジーを成分とした錠剤『タコス錠』を製造し、それを女性達は一ヶ月に一回程度、サプリメントとして服用する。それで若さと美しさを保って…いや、作っているのだ。
話を総合すると、若さと美貌を手に入れるために銀河全体への侵略活動を起こし、その効率化のためにワープ機能の向上が必要である。それで、機能向上に必須な超原子を求め、それが豊富なカクラ星系に侵攻してきたわけだ。
映像が切り替わり、今度はアコの婚約者、シズノが説明を始めた。
穏乃「アコ! 私達、婚約者だってさ!」
憧「そうみたいね。(だから小人役でOKしたのよ!)」
「フクジ・エナジーに関する、この一ヶ月間での研究成果について報告します。これは、クルミが塞を探すためにカクラ星を発った後に分かった内容です。」
彼女が、画像をレーザーポインターで指し示した。
「ミホコ波を発する女性は間違いなくフクジ・エナジーを産生しています。しかし、ミホコ波とフクジ・エナジーの強度には必ずしも正の相関はありません。この現象が何故起きるのかが解明されました。すなわち………。」
カクラ星では、最近、フクジ・エナジーには、Ⅰ型とⅡ型の二種類が存在することが分かったらしい。そして、ミホコ波はⅠ型だけから放射される。つまり、Ⅱ型からはミホコ波が出てこないことが分かってきた。
Ⅰ型もⅡ型も、キヨスミ星の女性を美しくするし、カゼコシ砲にも適用可能だ。そのため、キヨスミ星では基本的にⅠ型とⅡ型を区別する必要は無い。それと、現段階では、Ⅰ型とⅡ型に分かれることまではキヨスミ星でも分かっていないらしい。
ただ、興味深いことはⅡ型のみに見られる特性だ。実は、このⅡ型の産生量とカクラ星人との同調率には正の相関があるのだ。つまり、Ⅱ型の産生量が高ければ、それだけ同調率が上がり、ミヤモリ・エナジーの増幅器として大きく寄与できるようになる。
そして、もう一つ。Ⅰ型の場合、産生量に限界があるけど、Ⅱ型は産生量に限界が無いらしい。しかも、Ⅰ型とⅡ型の産生比率が一対九以上のⅡ型優位の人の場合、細胞レベルでの劣化を修復し、老化を抑制するだけのパワーがあるらしいのだ。
つまり、キヨスミ星にとってはⅡ型を優位に産生する女性を拉致する方が好ましいと言うことになる。その女性が病気や事故で死なない限り、数十年に渡ってフクジ・エナジーを採取し続けられることになるからだ。
ただ、ヒメマツ星でもウィシュアート星でも、Ⅰ型を選択的に産生するか、Ⅰ型のみを特異的に産生するケースが殆どらしい。それで粗雑な遣り方でフクジ・エナジーを抜き取られると細胞劣化の修復ができずに死んでしまうのだ。
検査の結果、私はⅡ型のフクジ・エナジーのみを特異的に産生していることが確認されたそうだ。つまり、私はⅠ型を産生しないためミホコ波を放出しないだけで、キヨスミ星女性にとっては最高の獲物なのだ。
カナの妹達はⅠ型とⅡ型の両方を半々くらいで持っていた。それでミホコ波を発していたし、50%程度とは言えカクラ星人との同調率があるのだ。
それと、キヨスミ星に送り込んだ調査員からの報告では、キヨスミ星人がウィシュアート星で捕らえた女性は、どうやらⅡ型を90%以上の選択性で産生しているのではないかとのことだった。
その女性は片腕片足を失ったクルミを助けてくれた女性らしい。
彼女はフクジ・エナジーの産生量に限界が無く、総統ヒサにすっかり気に入られてしまったそうだ。
今、その女性はヒサの居室に捕えられているけど、貴重な存在のため、一応丁重に扱われているとのことだった。
このタイプの女性をキヨスミ星が捕えたのは二人目だそうだ。一人目は、どこの星の人かは分からないけど、約十五年前に捕えたらしい。
キヨスミ星では、この一人目の女性を捕えた時、無限にフクジ・エナジーを産生する彼女の体質が何に起因しているのか、その原因究明を図ろうとしたけど、どうも研究が上手く行かなかったみたいだ。それで研究を中断した。
でも、今回二人目が現れた。
当然、何故フクジ・エナジーの産生量に限界が無いのか、その解明に向けてキヨスミ星でも研究を再開するだろう。
そうなると、近いうちにⅠ型とⅡ型の二種類が存在することも、Ⅰ型とⅡ型のそれぞれの特徴も、キヨスミ星人達に知られてしまうかもしれない。
放っておけば私もキヨスミ星に拉致されるかもしれないのだ。
ここで私は、ふと思った。
「その女性って、もしかしてエイスリンじゃない?」
つい声に出てしまった。
「間違いないと思う。」
クルミが真剣な眼差しを私の方に向けて言った。
彼女にとっては、エイスリンが生きていることは嬉しい。でも、このままでは、エイスリンはキヨスミ星人達に利用され続けることになる。それは、それで悲しい事実だった。
この時、三つ子達の目から、激しく涙が零れ落ちていた。
「エイスリン、生きていたんだ。良かった。」
ヒナが袖で涙を拭った。
自然と三つ子達に視線が集まった。
「私達、エイスリンの家の隣に住んでいたんです。エイスリンは一ヶ月以上前にキヨスミ星に捕えられましたけど、ウィシュアート星には戻ってこないので、ずっと心配していました。生きていると分かって、私達…。」
ヒナは、そう言いながらハンカチで涙を拭っていた。
アコとシズノのプレゼンは一旦ここで打ち切られた。
一先ず、予定していた内容の重要な部分は話し終えたし、これ以上、プレゼンできる雰囲気でもないと判断したみたいだ。
プロジェクターの電源が切られ、部屋の電気が灯った。
しばらく沈黙が続いた後、突然、ナズナが今までにない大きな声を上げた。
「皆さん。私、エイスリンを助けたいんです。早く出発できないでしょうか?」
モチベーションが上がったのだろう。ユウキに似た私の顔を見て怯えていた時の彼女とは全然顔付きが違っていた。
こんなナズナを見たのは初めてだ。エイスリンを助け出したいとの思いが、それだけ強いのだろう。
一瞬、間があいた。
アコも、どう答えて良いか迷っているようだ。
「気持ちは分かるけど、トヨネ、トキ、リューカは、現在メンテナンスの真最中だしね。急いでいるけど、どう考えても明後日までかかると思う。まだ、すぐには出発できないわね。」
彼女は、済まなそうな声をしていた。これは、これで仕方が無い。残念だけど、勢いだけでことを進めることはできない。
ナズナは悔しそうに俯きながら椅子に腰を下ろした。
この二日間、三つ子達は待ち遠しかったようだ。
夜も眠れなかったみたいだ。
そして、私が地球を立ってから六日目になった。
昨晩、三体のロボットのメンテナンスが終了し、私達は、いよいよキヨスミ星に向けて出発することになった。
私達はトヨネの操縦室内に瞬間移動した。
操縦席には私、その両隣にはクルミとハツミが座っていた。
後の席には三つ子達が、そして、その隣には小さな席が一つずつ設けられていてアコとシズノと、もう一人、コロモと言うカクラ星人が座っていた。
どうやら、コロモはアコとシズノの先輩らしい。ただ、たまに難解な言葉と使う。
衣「衣は子供じゃない! 小人役なんて本当はイヤなんだぞ!」
純「(思い切り子供だろ!)」
智紀「(似合ってる…。)」
私はブレスレットを外し、ユウキに似た姿になった。
『ダブルフェードイン!』
私の身体にクルミとハツミの二人が光の玉となって入り込んだ。身体の奥底から力が湧いてくる感じがたまらない。
天井が開き、三体のロボットが地下基地を飛び出した。
そして、合体してスコヤンの姿に変形した。
大気圏を離脱すると、スコヤンは、すぐに長距離ワープに入った。
キヨスミ星の位置は、丁度カクラ星とヒメマツ星の中間に位置している。今回の長距離ワープは、ヒメマツ星からウィシュアート星、さらにはカクラ星にワープしたあの日に比べれば、たいして疲れはしない。
でも、疲労が全然無いわけではない。
ワープ終了後、一旦、私はスコヤンの合体を解除した。そして、念のため近くの惑星に着陸してダブルフェードインを解いた。
そこは、この惑星系の第九番惑星だった。火星のように地表が岩石で覆われた惑星だ。
一応、大気がある。成分は地球のものとは違うみたいだけど…。
キヨスミ星は、この惑星系の第二番惑星。まだ、距離はあるけど、小ワープすれば一瞬で着ける距離だ。
多分、私達がこの惑星系に入ったことに、キヨスミ星人達は既に感づいているだろう。ダブルフェードインしていた時に放たれる強力なミヤモリ・エナジーを、レーダーで捉えていて不思議は無い。
でも、すぐにダブルフェードインを解いたので、この惑星に着陸したところまでは分かっても、具体的に惑星のどの辺にいるかまで把握するには時間がかかるだろう。
それまで、私達は長距離ワープの疲れを癒すことにした。
数十分後、キヨスミ星の衛星基地から宇宙戦艦一隻が飛び立った。
その戦艦がワープに入った。そして、この惑星の衛星軌道付近に姿を現した。
やはり、キヨスミ星では私達の進入をレーダーでキャッチしていたようだ。
今回は超巨大戦艦でも要塞でもなく、船団を率いてもいない。普通の大きさの戦艦一隻だけの出撃だ。今までに無いケースだ。
これは、これで不気味だ。
でも、何故か大気圏に突入してこない。そこから動こうとしないのだ。
私達は、しばらく様子を見ることにした。
数時間が過ぎた。
もう、私達の疲れはとれていた。
むしろ、何で敵戦艦が動こうとしないのかが気になる。
『ダブルフェードイン!』
『モードチェンジ・スコヤン!』
私は三体のロボットを合体させた。そして、超高速で一気に戦艦の前に出た。
通信が入った。チャンネルをオープンにすると、モニターに二人のキヨスミ星人女性の姿が映し出された。
片方は細身の女性。胸は全然ないけど、黒いボンデージファッションを身に着けていた。
小動物のような雰囲気をまとっている。
「私は、この戦艦の司令官マホ。たしかにユウキに似ていると思います。」
本人の持つ雰囲気とファッションが、正直アンバランスに感じる。それでだと思う。着ているものの割に余りエロさを感じない。
でも、まあ、ある意味、雰囲気とファッションのギャップが可愛らしいかもしれない。
もう片方の女性は白いボンデージファッション。
非対称な髪型が印象的だ。
ある意味、その髪形は凄く似合っている。
「そして、私は科学長官のヤエ。私が開発した最新兵器をお前達に御見舞するために、ここに来た。」
本当にキヨスミ星軍は見た目が若い。実年齢はともかく、若さを維持する薬を常時飲んでいるからであろう。
でも、二人とも他人の命を犠牲にして手に入れた若さだ。そのやり方が気に入らない。
私は彼女達を睨み付けた。
「ユウキ司令に似ているだけあって気の強そうな女だな。ならば私の発明品を受けてみろ。ヤエ弾、発射用意!」
通信が切れた。
ただ、こっちの顔を見て、一方的に話して終わりだ。
何のための通信だ?
単に彼女達はユウキに似ている私を見てみたかっただけなのか?
今頃二人で、
『ウケる~』
とか言っているのか?
良く分からないし、面白くない。
敵戦艦から一発の小型ミサイルが撃ち放たれた。以前、ユウキには、とんでもない数のミサイルをプレゼントされた。それに比べると、ちょっと拍子抜けだ。
この時だった。
私の頭の中にハツミの声が激しくこだました。
「逃げてくださいですよー。」
「えっ?」
「スコヤンのバリヤーも…リューカですら、あの爆弾には耐えられないですよー。」
「でも、原爆数発の爆発にも耐えられるんじゃ…。」
「無理ですねー。あれに比べれば、原爆なんて可愛いものですー。」
「へっ?…嘘でしょ?」
「嘘ではありませんよー。逃げてくださいですー!」
そんなにとんでもない兵器なのか?
リューカですら耐えられないってマジ?
キラメ・スバラ・バリヤーはカゼコシ砲すら耐える代物だ。それが利かないなんて、とても信じられない。
普通に考えて、このスコヤンを吹き飛ばすほどの威力は到底無さそうに思える。
でも、ハツミの予知能力は凄いはず。きっと、何かがあると考えるべきだ。
ミサイルが左右二つに分離して、中からバスケットボールくらいの白い玉が一つ飛び出てきた。それは、少しずつ加速しながらスコヤンの方に近づいてきた。
バスケットボール程の大きさでも、スコヤンのサイズで考えれば相当小さい爆弾だ。比率的に、人間のサイズで考えれば、せいぜいパチンコ玉程度の大きさだろう。可愛い大きさだ。
スコヤンは超高速で、その小型爆弾を避けるように上方に大きく移動した。
そのバスケットボールもどきが近くを浮遊する小惑星に当たった。すると、その小惑星がとんでもない大爆発を起こして消し飛んだ。
何なんだ、この威力は?
全然可愛くないぞ。
すると、再びハツミの声が聞こえてきた。
「あれは反物質爆弾だと思いますー。」
「反物質?」
「あの中に反物質が入っているようです。受けますと、あの爆弾の中の反重力装置が機能を停止して爆弾表面を作る物質に反物質が接触するようになっているのだと思いますねー。その対消滅の際の爆発は凄い威力になりますー。絶対に受けないで下さいねー。」
良く分からないけど、ハツミの想いは伝わってくる。
でも、今回の兵器はカゼコシ砲に比べると派手さが無い。頭では分かろうとしていても、どうしても見た目に騙されてしまいそうだ。
私は頬を両手で叩いて気合を入れた。