咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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まだ美誇人(傀)は本当の意味では本領を発揮しません。


百十二本場:逃げ切り

 準決勝第一試合副将前半戦。

 南二局、ダヴァンの親。ドラは{5}。

 ダヴァンは気を取り直して、ここでもデュエルに向けて手を進めてゆく。

 デュエルが毎回自分の勝利で終わるわけではない。それは十分承知だ。

 ただ、デュエルに持ち込むことで、何故か自分の勝率が上がる。それだけは姉と同様のことが言えるようだ。

 多分、デュエルこそが自分達の勝利に向けた能力なのだろう。

 それで、ダヴァンは、ここでもデュエル勝負を仕掛けようとしていたのだ。

 

 ダヴァンが聴牌した。

 手牌は、

 {二三四③④[⑤]⑥⑦55678}

 {②⑤⑧}待ちで、しかもタンピンドラ3。

 

 既に美誇人は聴牌しているようだ。美誇人の制服がガンマンの服装に変わって見える。

 ならば、

「リーチ!」

 ダヴァンは、ここでも攻めに出た。メンタンピンドラ3のハネ満狙いだ。

 

 続いて美誇人は、牌をツモると、

「リーチ!」

 それをツモ切りでリーチした。デュエルを受けて立つと言わんばかりだ。

 

 ダヴァンの一発目のツモは{③}。これでは和了れない。

 当然、これをダヴァンはツモ切りした。

 その時だった。

「御無礼。ロンです。」

 またもやダヴァンの下家………美誇人から和了り宣言の言葉が聞こえてきた。

 

 美誇人が手牌を開いた。

 {四[五]六③④④④⑤⑥⑦345}  ロン{③}  ドラ{5}  裏ドラ{④}

 メンタン一発ドラ5。倍満だ。

 

「16000です。」

 ここに来て二連発での振り込み。

 これには、ダヴァンも愕然とした。デュエルで負けたことはあるが、他人相手に二連敗したことは。これまで一度も無かった。二連敗させられたのは、同じ能力を持つ姉だけだった。

「(信じられません。なら、もう一度だけ勝負します。それでダメなら、下手にデュエルを仕掛けない方が無難かもしれません。)」

 まだ負けではない。

 ダヴァンは、気を取り直して次の局に挑むことにした。

 

 

 南三局、美誇人の親。ドラは{①}。

 三度目の正直となるか、二度あることは三度あるとなるかは分からない。ただ、ダヴァンは前者であることを祈り、手を進めた。

 そして聴牌。

「(デュエル!)」

 ダヴァンが捨て牌を横にした。

「リーチデース!」

 しかし、

「御無礼。」

 このリーチ宣言牌で美誇人に和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一二二三三①①11233}  ロン{2}  ドラ{①}

 ジュンチャン二盃口ドラ2。大きな手だ。

 

「24000です。」

 まさかの親倍振込み。

 これでダヴァンは、ガックリと肩を落とした。デュエルを仕掛けての三連続振込みは生まれて初めてだ。

 こんな相手がいるとは………。

 しかも、これが日本最強の咲ならともかく、全然知らない高校の、しかもエースでない選手にやられるとは………。

 戦意喪失…。

 しばらく立ち直れなさそうだ。

 

 そんなダヴァンのことなど目もくれず、

「一本場です。」

 美誇人は連荘を宣言した。

 

 南三局一本場。

 ここでは六巡目で、

「リーチ!」

 美誇人が先制リーチをかけた。

 もう、デュエルを仕掛けてくるものはいない。悠々とリーチで攻められる。

 そして、

「御無礼。メンタンピン一発ツモドラ2。6100オール。」

 あっと言う間に親ハネをツモ和了りした。

 

 南三局二本場、美誇人の連荘。ドラは{南}。

 ここでも、

「リーチ!」

 美誇人が先制リーチをかけた。七巡目だ。

 一発ツモは無かったが、数巡後、

「御無礼。ツモです。」

 ここでも美誇人が和了り牌を自力でツモってきた。

 

 開かれた手牌は、

 {①②③④⑤⑥⑦⑧南南西西西}  ツモ{⑨}  ドラ{南}  裏ドラ{3}

 

「リーツモタテホン一通ドラ2。8200オール。」

 親倍ツモを決めた。

 この和了りで美誇人は160000点を越えた。

 

 南三局三本場。

 ここでも、美誇人が、

「御無礼。リーツモタンヤオ三色ドラ2。6300オール。」

 余裕で親ハネツモ和了りを決めた。もう手がつけられない状態だ。

 

 そして、南三局四本場でも、

「リーチ!」

 美誇人が七巡目でリーチをかけた。どうも手牌が索子に偏っている雰囲気がある。

 美由紀も楓もダヴァンも、一先ず索子と字牌を避けて通し。

 一発ツモにはならなかったが、三巡後、

「御無礼。」

 美誇人が、ここでもツモ和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {2224455[5]66678}  ツモ{8}  ドラ{二}  裏ドラ{④}

 こんな手でリーチをかけるかと疑いたくなる手だ。

 

「リーツモメンチンタンヤオ一盃口ドラ1。12400オール。」

 これで美誇人の点数が200000点を超えた。

 

 流れが完全に美誇人に行っている。

 何とか断ち切らなければ、このまま毟られるだけで終わってしまう。まるで、咲の全員トバしの被害者側になったような感覚である。

 美由紀は、

「(コーチにはターゲットにされないようにって言われているけど、ただ守っているだけじゃどうにもならない。もう、ヤルしかない!)」

 ここで背水の陣で勝負を仕掛ける決心をした。

 

 南三局五本場。ドラは{6}。

 ここでは、

「ポン!」

 形振り構わず、美由紀が一巡目からダヴァンが捨てた{南}を鳴いた。美由紀にとっては場風であると同時に自風だ。

 そして、三巡目にも、

「ポン!」

 今度は、楓が捨てた{⑤}を鳴いた。

 副露されるのは{[⑤][⑤]⑤}。赤牌二枚入りだ。

 

 そろそろ美誇人も聴牌しそうな気配だが、ここで打ち回しても意味が無い。美由紀は、そのまま無防備で突き進む。

 そして、その二巡後、まさに美誇人が聴牌した直後のツモで、

「ツモ!」

 美由紀が和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {①①①⑧⑧北北}  ポン{[⑤][⑤]横⑤}  ポン{南横南南}  ツモ{北}

 

「ダブ南混一対々ドラ2。4500、8500!」

 しかも倍満。ここに来て、美由紀が逆襲の狼煙を上げた。

 

 

 オーラス、美由紀の親。ドラは{①}。

「(あーぁ。気の入った顔もカワイイ!)」

 美誇人は、美由紀の顔を見ながら、そんなことを考えていた。

 

「ポン!」

 ここでは、三巡目に美由紀が楓の捨てた{九}を鳴いた。役牌ではない。ただ、直感的に鳴いたほうが良いと思って動いた感じだ。

 

 この時、美由紀の手牌は、

 {四四[五]六②⑧79中中}  ポン{九九横九}

 まだ全然、手は出来上がっていない。

 

 その次巡、美由紀は、今度はダヴァンが捨てた{中}を、

「ポン!」

 一鳴きした。打{⑧}。

 これで、美由紀は役が付いた。あとは、和了りに向けて最短距離を進むだけだ。

 

 その次巡、美由紀は{九}を引いた。

 ならば、これを、

「カン!」

 咲とは違って有効牌を掴むことはできなかったが、めくられた新ドラ表示牌は{八}。つまり、これで美由紀の中ドラ5が確定した。

 嶺上牌はツモ切り。

 ただ、こうなると、楓もダヴァンも美由紀を警戒して振り込み回避に出る。

 勝負できるのは、点数に余裕のある美誇人だけだろう。

 

 次ツモで、美由紀は{發}をツモった。

 普通ならツモ切りするところだが、何故か取っておいた方が良い気がした。

 そして打{②}。

 

 次巡、美由紀がツモってきたのは{發}。打{7}。

 そして、そのさらに次のツモでも、美由紀は{發}をツモって来た。まさか三連続で来るとは………。

 稀にこう言うことはあるが、大抵は不要牌と思って切ってしまう。そして、三巡後に、

『畜生!』

 と思うのが常である。

 しかし、ここは美由紀の直感が巧く働いたと言えよう。

 これで美由紀は{四七}待ちで聴牌。

 

 ここまで来ると、美由紀が萬子染めであることは他家にはモロバレである。当然、萬子を切ってくることは無い。

 

 次巡、美由紀は{⑤}をツモ切り。

 そして、そのさらに次のツモで、美由紀は{發}をツモってきた。

 ここで美由紀は{發}を、

「カン!」

 暗槓した。新ドラは{北}。

 

 場が凍りついた。

 美由紀の副露牌は、{發}の暗槓、{中}のポン、槓ドラである{九}の明槓だ。

 ここで、他家の頭の中には、ある二つの単語が浮かんでくる。

「(小三元 or 大三元!)」

 河を見ると、{白}は二枚切れている。ならば大三元は無い。

 しかし、小三元の可能性はある。

 最悪の場合、小三元混一色対々和ドラ5の数え役満まである。

 こうなると、点数に余裕のある美誇人も降りるしかない。いくら200000点越えでも親の役満を振り込んだら一気に点差が縮んでしまう。

 

 美由紀以外の者達にできることは、下手に逆らわず、流局と言う形で嵐が過ぎるのを待つだけだ。

 

 しかし、次巡、

「ツモ!」

 他家の願いを撥ね退け、美由紀が和了り牌である{七}をツモってきた。

 

 開かれた手牌は、

 {四四[五]六}  暗槓{裏發發裏}  明槓{中中横中中}  明槓{九九九横九}  ドラ{①九北}  ツモ{七}

 

「發中混一ドラ5。8000オール!」

 親倍ツモだ。

 まあ、他家にとっては、最悪の和了りは免れたが、ここで、この一発は大きいだろう。

 

 当然、美由紀は、

「一本場!」

 気の入った声で連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。ドラは{五}。

 ここでも美由紀は、

「ポン!」

 背水の陣で挑む。二巡目で楓が切った{東}を一鳴きした。

 次巡、美誇人が切った{三}を、

「チー!」

 美由紀は鳴いて{横三四[五]}を副露した。これで東ドラ2が確定した。

 

 この親を流せば、美誇人のトップ折り返しが決まる。当然、美誇人としては安手でも良いから流したいところなのだが、ここに来て、手の進みが悪い。

 完全に流れを美由紀に持って行かれた感じだ。

 

 美由紀は、

「ポン!」

 さらに楓が捨てた{南}を鳴いた。

 そして、その数巡後、

「ツモ!」

 美由紀がツモ和了りを決めた。

「東南混一ドラ2。6100オール!」

 親ハネツモだ。

 

 これで副将前半戦の、現状での順位と点数は、

 1位:美誇人 202400

 2位:美由紀 137800

 3位:楓 56400

 4位:ダヴァン 3400

 そろそろダヴァンがヤバイ状態だ。

 

 美由紀は、もう親満クラス以上をツモ和了りできない。ツモ和了り可能なのは、9600の二本場まで。3400オールまでが限界だ。

 こうなると、楓か美誇人から直取りするしかない。

 或いは、一発逆転で役満ツモか?

 

 ただ、美誇人としても、この美由紀の追い上げは想定外だった。

 このまま放っておいたら奇跡の大逆転まで起こり得る。それだけのパワーを今の美由紀からは感じられるのだ。

「(こっちこそ背水の陣だね。)」

 美誇人は、そう心の中で呟くと、静かに気合を入れ直した。

 

 オーラス二本場。ドラは{2}。

 ここでも、

「ポン!」

 美由紀が序盤から{中}を鳴いてきた。

 しかし、この時、美由紀が捨てた{北}を、

「ポン!」

 美誇人が鳴いてきた。美誇人の鳴きは珍しい。

 

 その次巡、

「ポン!」

 再び美由紀が{5}を鳴いた。これで索子は使い難い牌となった。

 

 そのさらに次巡、今度はダヴァンが切った{七}を、

「チー」

 美誇人が鳴いて{横七[五]六}を副露した。そこから打{⑤}。

 

 そして、その次巡、

「(これは使い難いデース。)」

 ダヴァンがツモ切りした{7}を、

「ポン!」

 美由紀が鳴いた………はずだった。

 しかし、これと同時に、

「御無礼。ロンです。」

 美誇人が和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {23456⑤[⑤]}  チー{横七[五]六}  ポン{北北横北}  ロン{7}

 

「北ドラ3。7700の二本場は8300。アナタのトビで終了です。」

 これで副将前半戦を終了した。

 

 副将前半戦の順位と点数は、

 1位:美誇人 210700

 2位:美由紀 137800

 3位:楓 56400

 4位:ダヴァン -4900

 美誇人の圧倒的大勝利で前半戦を折り返した。

 

 

 一旦、美由紀は控室に戻った。

「ゴメンなさい。最後はコーチの言うことを破って………。」

「いや、あれは、あれでエエ。むしろ、うちのアドバイスの仕方が悪かったかも知れへん。スマンな。」

「いえ、でも、コーチのアドバイスがあったから振り込まなかったわけですし。」

「せやけど、和了れなかったら意味あらへん。なので、後半戦は綺亜羅の親を安くても良いから流して、あとは振り込みを回避しつつ攻めて行けばエエ。最後の三連続和了りみたいにな!」

「は…はい!」

「ここで阿知賀が二つ目の勝ち星を取るか、綺亜羅が二つ目の勝ち星を取るか、勝負やで! 全ては美由紀にかかっとる!」

「はい!」

 美由紀に大きな重圧がかかった。

 しかし、南三局五本場からの和了りと同じことができれば、美誇人を逆転できるかもしれないのだ。当然、闘志も湧いてくる。

 自分のところで決勝進出を決める。

 美由紀の中で、今まで以上に気合が入った。

 

 

 一方の美誇人は、

「(美由紀ちゃんカワイイ。お持ち帰りしたい! もう絶対に対局が終わったら、美和みたいにLINE登録させてもらう!)」

 そんなことを考えていた。




おまけ
前回の続きです


九.『特典は私…』

今度は、数十発の小型ミサイルが撃ち放たれてきた。
それらミサイルの中からバスケットボールくらいの白い玉が出てきて、加速しながらこっちに突き進んでくる。
とにかく避けるしかない。
私はスコヤンを大きく旋回させながら戦艦下方に超高速で移動させた。
さすがに戦艦の下側にはヤエ弾を撃つ装備は無さそうだ。
これなら攻撃できると思ったその時だった。
「駄目。逃げて!」
クルミの声が頭の中にこだました。
ヤエ弾の軍団が、生きているみたいに、こっちに押し寄せてきていたのだ。
今度のやつは、ユウキのミサイルと一緒で追尾式だ。本当に性格が悪い。
私はスコヤンを戦艦から遠ざけるしか無かった。
敵戦艦は全く砲撃してこない。多分、ヤエ弾に当たるのをケアしているのだろう。
当然、戦闘機も出てこない。ヤエ弾がうようよしているところに好んで戦闘機で飛び発つ軍人は、さすがにいないだろう。。
ヤエ弾軍団は、なおも私達を追いかけてくる。
凄くしつこい。このままでは逃げるだけで疲れてしまう。
いっそのこと、ワープで逃げようか?
そう思った時だった。
ヤエ弾軍団の一発が、私達を追いかけてくる途中で変に蛇行した軌道を一瞬とったのにシズノが気付いた。
「もしかして、さっき小惑星が爆発してできた岩屑(がんせつ:小さな石の欠片)に当たるのを避けているんじゃない? と言うことは、何か、ちょっとした質量のものがくっついただけでも反重力装置が機能停止して爆発するんじゃないの?」
すると、再びクルミの声が頭の中に響いてきた。
「リューカとの合体を解いて。鱗を使って。」
彼女の持つイメージが私に伝わってきた。
なるほど…。
私はスコヤンの合体を解き、トヨネとトキだけを再合体させた。今、トヨネは背中に羽の生えた人魚の形になった。
私の頭の中に言葉が浮かんできた。クルミの記憶の中から見つけた言葉だ。
「トヨネ・カッター!」
トヨネが自らの尾をヤエ弾軍団に向けて大きく振った。すると、そいつらに向けて、たくさんの鱗が剥がれて飛んでいった。
「小ワープで逃げて!」
シズノの叫び声だ。
私はリューカとの再合体させずに、そのまま急いで数億キロほどワープさせた。

ワープ終了後、激しい大爆発のシーンがレーダー映像で捉えられた。
それと同時にレーダーからユリ・エナジーの反応が消えた。敵戦艦は、あの爆発に巻き込まれたのだろう。マホもヤエも、多分、助からなかったに違いない。

クルミの記憶の一部が私の頭の中に流れ込んできた。
反物質は、だいたい30グラムあれば、対消滅で原爆七十五個分くらいの爆発力になるらしい。とんでもない破壊力だ。
ヤエ弾一個当たりに、どれくらいの反物質が入っていたのかは分からない。でも、一個爆発すれば他のヤエ弾も、その爆発に巻き込まれて連鎖的に爆発する。
もしかすると追尾式のヤエ弾は、鱗をトヨネの一部と判断して、あえて避けなかった…むしろ、接触する方向に動いたのかもしれない。
逆に、鱗をスコヤンの一部と判断しなかったとしても、一発だけでも鱗を避けそこなったヤエ弾があれば、このようになる。
今になってゾッとした。
万が一、スコヤンにあれが当たっていたら…。
間違いなく無事では済まなかっただろう
それどころか、多分、消滅している。
敵戦艦は、自分自身の科学力で勝手に自滅した感じだ。それとも最初から自滅覚悟だったのだろうか?
どっちにしても、ここにいるのはヤバそうだ。ヤエ弾が一つでも生き残っていると恐い。


私は三機を合体させると、スコヤンを第五番惑星付近まで急いでワープさせた。
『ここまで来れば大丈夫。』
そう思った。
でも、それは甘かった。
目に前に趣味の悪い要塞がワープして姿を現した。直系数キロの巨大な玉だ。そして、四方八方に巨大なカゼコシ砲を装備している。まるで、ゴルフボールを直系数キロまで巨大化させて、その窪み一つ一つが全てカゼコシ砲になった感じだ。
しかも、これに装備されたカゼコシ砲は、超巨大戦艦のものよりもさらに大きい。とんでもない威力があるに違いない。

一方的な音声通信が入ってきた。
ユウキの声だ。
「塞。この要塞で勝負だ。見ての通り、どの方向から攻めてこようと同じだ。ここで、私から一つ提案する。私の全精力をかけたカゼコシ砲と、そっちのミヤモリ・エナジーからなる超バリヤーとのプライドを賭けた勝負をしたい。」
これを聞いて、私の頭の中でクルミとハツミが、なにやらコソコソ相談している。他人の内緒話が頭の中を駆け巡るなんて、何だか奇妙な感覚だ。
二人の意見が一致したようだ。
クルミの声が聞こえてきた。
私には、それがアコ、シズノ、コロモに向けて送っているテレパシーであることがイメージ的に分かった。
「アコとシズノとコロモは、それぞれヒナ、ナズナ、シロナにフェードインして。全員の力を合わせれば何とかなるはずよ。」
「でも、万が一、失敗したらどうなるのよ!?」
アコは慎重だ。
絶対に負けちゃいけない戦いだ。司令官として当然だろう。
でも、私には分かった。これはクルミとハツミの女の意地だ。
これにアコも気付いたようだ。

正直、意地だけで勝てるものではない。でも、もしこれで負けるようなら、いずれカクラ星は、このユウキの要塞でやられる。
どこかで叩き潰さなければならない敵。
結局、アコの方から折れた。
「分かったわよ。みんなの命とカクラ星の未来。全て託すわ!」
そう言うと、アコはヒナにフェードインした。
ヒナの姿が少し変化した。首筋が細く、肌が綺麗になった感じがする。
ただ、全体的には大きな変化は無い。彼女の場合、今のところ遺伝情報をほぼフルに引き出せていると言うことだ。羨ましい。
続いてシズノがナズナに、コロモがシロナにフェードインした。
ナズナもシロナも、顔も背もウエストも全然変わらなかった。
ただ、胸が、ほんの少しだけ成長していたように感じた。まあ、余り変わっていないようにも見えるけど…。
彼女達も遺伝情報をほぼフルに引き出せていると言うことだろう。羨ましいと通り越して、ちょっと憎たらしい。
まあ、まだ三人とも子供なので、今後、どうなるか分からないけど!


クルミのイメージが伝わってきた。私からユウキに返答して欲しいらしい。
私はイメージに従って言葉を口に出した。
「分かった、ユウキ。ただし、こっちは全員の力を結集してスコヤンの力を最大限引き出す。カゼコシ砲とスコヤンとの勝負だ。」
「イイじょ! では、行くじぇい!」
ユウキが例の如くペットボトル状のものの蓋を開けて中身を一気に飲み干した。たくさんの女性から抜き取ったフクジ・エナジーだ。
そして、彼女は天井にコードで繋がっているヘルメットを装着した。
さらに彼女は、両手首、両足首、ウエスト周りにもコードの付いた太いマジックテープのようなものを巻きつけた。それらのコードは全て床に繋がっていた。
カゼコシ砲の一つが、うっすらと輝き出した。そこから巨列なエナジー波が飛び出してくるのだろう。
そのカゼコシ砲のすぐ上のところが、ガラス張りになっていた。そこが操縦室のようだ。そして、ガラスの向こうには人影が見える。多分、ユウキだ。

私達も全員が渾身の力を振り絞ってスコヤンにキラメ・スバラ・バリヤーを張った。
これまでのバリヤーよりも一段と強力だ。ヒナ、ナズナ、シロナの力では、アコとシズノとコロモのミヤモリ・エナジーを十分に増幅できないかもしれない。でも、それが加算された分、間違いなく私とクルミ、ハツミだけで出す力よりも全体の力は上がっている。
カゼコシ砲が発射された。この前以上に強烈だ。

スコヤンは避けることなく超エナジー波に向かって行った。このままカゼコシ砲に突っ込んでユウキの要塞を貫こうとしたのだ。
でも、全然前に進めなかった。カゼコシ砲の強力なパワーがスコヤンを後に押し戻すのだ。

十秒程度で、一旦カゼコシ砲からのエナジー放出が止まった。
その時、スコヤンは数キロ後退していた。
別に逃げたわけじゃない。それだけカゼコシ砲のパワーが強力過ぎて、後に押し流されたのだ。
でも、このバリヤーも強力だ。あちこちにヒビが入っているけど、その形を一応、何とか保っている。あれだけの威力を持ったエナジー波を受けても、スコヤンの機体を何とか守り通してくれたのだ。
でも、連続して、もう一発受けたら、どうなるかは分からない。
それ以前に、もう少しカゼコシ砲の放出時間が長かったら…。
多分、そうなったら破壊されていた。この一発目は辛うじて防げた感じだ。意地を貫き通せたけど、ギリギリの戦いだ。

でも、何で十秒程度で止めてしまったのだろう?
もう何秒かカゼコシ砲の放出が長かったら私達は負けていた。
助かったけど、手を抜かれて引き分けにさせてもらえたみたいにも思える。
何かスッキリしない。
よく分からないけど、とにかく仕切り直しだ。

私は、スコヤンを前進させ、二発目のカゼコシ砲との勝負に備えて、キラメ・スバラ・バリヤーを張り直した。
でも、何故かユウキはカゼコシ砲を撃ってこようとしなかった。
「ユウキ、これで終わりか?」
私の声には気合が入っていた。
でも、音声通信から聞こえてくるユウキの声には、以前のような元気と言うか、横柄さが無かった。むしろ弱々しささえ感じられた。
「私の負けのようだじぇい。全精力を注ぎ込んだ一発だったんだじょ。あれを耐えられては打つ手が無いじぇい。それより、早くここから逃げた方が良いじょ。この要塞の爆発に巻き込まれるじょ。」
「ちょっと待って。それって、どう言うこと?」
「大量供給したエナジーをカゼコシ砲一つに絞った結果、特定の箇所に負荷がかかり過ぎたみたいだじぇい。既に操縦室のあちこちの回路から火を吹き上げているじょ。」
「脱出しないのか?」
「この要塞に、そんなものは無いじょ。まだ試作段階だからな。」
通信が切れた。
要塞のあちこちから炎の柱が吹き上がった。もう、一分もしないうちに大爆発を起こしそうな雰囲気だ。
『早く逃げなきゃ。』
そう思いながらも、いつの間にか私は逆に要塞に向けてスコヤンを超高速で突っ込ませていた。そして、要塞の操縦室がスコヤンの100メートル圏内に入った時、私は何故か、
『ユウキを助けて!』
とスコヤンに願っていた。
その直後、スコヤンの操縦室の後方がうっすらと光った。ユウキが、この場所に瞬間移動してきたのだ。
彼女は横たわったまま起き上がろうとはしなかった。
その一方で、三つ子達が私の方をじっと見詰める。
むしろ睨んでいる。
三人は、
『なんで助けるのよ!』
と言いたげだった。
それは、そうだ。三人はユウキの軍に散々苦しめられてきたのだ。
でも、今、三人に言い訳している時間は無い。私はスコヤンを急いで要塞から遠ざけた。

それから十秒もしないうちに要塞が大爆発を起こした。
間一髪セーフ。
一先ず、私達は爆発に巻き込まれずに済んだ。


操縦室後方から赤い光を感じた。
私が振り返ると、夜中に高層ビルの屋上から放たれる光のように、ユウキの身体が赤く点滅していた。
そして、その点滅が消えた時、ユウキの身体に異変が起きた。その妖艶だった身体がグッと縮んだのだ。身長は145センチくらいか。
全体的に幼児体型だ。
正直、小学校低学年の体型のまま、身長だけを145センチくらいまで引き伸ばした感じだ。
全然色気が無い。

顔も幼い感じだ。
胸も、かなり萎んでいた。元の私よりずっと小さい。絶壁と言えよう。
これが本来のユウキの姿だった。今までは、フクジ・エナジーを定期的に摂取することで、あの美貌を作っていただけに過ぎなかったのだ。


優希「そこまで言うなんて、有り得ないじょ!」


彼女も私と同じで、元は派手な女性ではなかった。でも、一つだけ違っていた。それは、彼女が他人の命を犠牲にして美貌を手に入れていたことだ。
そうは言っても、誰だって美しくなりたい。
もし、私がキヨスミ星に生まれていたら、どうなっていただろう?
きっと、その星の常識に感化される。そうしたら、私だってユウキと同じになってしまったかもしれない。
私は、彼女の身体を揺すった。
「ユウキ、大丈夫?」
「ん…んん…。」
彼女が、ゆっくりと目を開けた。
「おまえは、塞。ここは、どこだじぇい?」
「スコヤン…私達のロボットの操縦室の中よ。」
「助けてくれたのか?」
「自分でも分からないけど…助けちゃったみたい。」
ユウキが上体を起こした。
「そうか。でも、礼は言わないじょ。もう私はキヨスミ星には戻れない。どうせ帰っても死刑だしな。前回大破した超巨大戦艦と、さっきの要塞を失った責任は大きいじょ。その製造経費と開発経費だけでも天文学的数字だじぇい。それに、さっきの要塞は許可無く勝手に乗ってきたんだじょ。重罪だじぇい。加えて敗北の責任を取らされるじょ。」
彼女が自分の手足を見詰めた。現在の自分の姿がどうなっているのか、大体想像が付いているだろう。

操縦室後方の巨大な鏡、つまり姿見兼用のドアに映し出された姿が駄目押しになった。
「これが私の本当の姿だじょ。笑いたければ笑えばイイじぇい。」
彼女が体育座りして身を縮めた。今の姿が恥ずかしいみたいだ。

私は何故か彼女を責め切れないでいた。戦いはしたけど、別に直接地球が侵略行為に遭ったわけではない。第三者に近い存在だ。
でも、三つ子達の視線は冷たかった。姿が変わろうと何だろうと、今まで自分達を苦しめてきたユウキを、そう簡単には許すことができないのだろう。

私の身体からクルミとハツミがフェードアウトした。
一応、クルミ達が私の身体にフェードインしていれば、ミヤモリ・エナジーは数千倍に増幅される。まだ、やったことは無いけど、多分、私の手から強力な電撃とか衝撃波を撃つことが出来るはずだ。それでユウキを攻撃することも出来る。
でも、もうユウキには戦う意思がないことを二人は悟っていた。だから、攻撃モードを解除したのだ。
これに呼応するかのように、スコヤンが合体を解いた。
最低限、クルミが私の身体でミヤモリ・エナジーを増幅しなければ、スコヤンの姿を維持するのに必要なエナジーを供給できないのだ。

クルミがユウキの前に降り立った。
「別に笑うつもりは無いわ。それと、キヨスミ星に帰れなければ、裏切っちゃえば良いじゃない。こっちに寝返らない?」
大胆発言だ。
「いや、今更寝返っても、例えば、そこのウィシュアート星の三つ子達は私を許せるのか?」
「すぐには無理だと思うわ。でもね、キヨスミ星の侵略行為とフクジ・エナジーの収集をやめさせることができれば、彼女達の心も変わると思うわ。それに、あなたならエイスリンの居場所を知っているんじゃない?」
「あのウィシュアート星の女か?」
「そうよ。エイスリンは、このアイリスの友達なの。彼女の救出も条件になるわ。それとね。こっちに寝返ると特典が付いてくるわ。」
クルミが私にフェードインした。
私の姿はゴッド・塞になった。ついでに身体の支配権もクルミに代わった。
彼女が私の身体を勝手に動かす。
私の顔がユウキの顔に接近する。クルミは何をしようとしているのか?
もしかして…。
やめて。私は、まだ誰ともしたことが…。
私は強制的にユウキとキスさせられた。
軽く唇が触れた程度だったけど、生まれて初めてのキスだ。


優希「分かってると思うけど、振りだからな! 本当はしていないんだじぇい!」

塞「当然でしょ!(まだシロともしていないんだから!)」

白望「ダル………。」←無関心


ユウキの身体が一瞬白く輝き、妖艶な姿に戻った。私の体内で産生されるⅡ型のフクジ・エナジーが彼女の体内に入ったのだ。
彼女は自分の手足を見て、その変化に気付いた。そして、操縦室後方の鏡になったドアを振り返り、その妖艶な身体を確認した。
「これは、どう言うことだじょ?」
でも、三十秒もしないうちに、また身体が赤く点滅して初期状態の身体に戻ってしまった。唇が触れたくらいでは十分なフクジ・エナジーの補給にはならないようだ。
クルミが私の身体からフェードアウトした。
「どう? これが特典よ。塞と十分間くらいディープキスすれば、一週間くらいは持つんじゃない?」
ちょっと待ってよ、クルミ。
特典は私だなんて…。
私の許可も無しに勝手に話を展開しないでよ。
そう言いたかったけど、それを口に出す前にユウキが声高々に笑い出した。
私は言葉に出すタイミングを逃してしまった。
「驚いたじょ。まるで、あのオバサンかエイスリンのようだじぇい。」
「オバサン?」
クルミが聞いた。さすがに彼女もオバサンと言われて、それが誰なのか一瞬ピンとこなかったようだ。
「たしか、名前はトシって言ってたじょ。」
それって、私の母と同じ名前だ。
私は一瞬期待した。もしかしたら、私の母が捕えられているのかもしれない。生きているかもしれない。
思わず私はユウキに聞いた。
「ねえ、そのトシって人は、いつごろキヨスミ星に?」
「十五年前だじょ。どの星で捕らえたかは私も分からないじぇい。」
期待は、すぐに裏切られた。
私の母が蒸発したのは十年前だ。時間軸が合わない。
蒸発が十五年前で捕えられたのが十年前なら、まだ話は通じるけど…。
やっぱり世の中は、そんなに甘くない。
「以前、私の軍が敗北してヒサ総統に責められた時、彼女に庇ってもらったことがあるんだじぇい。面倒見の良いオバサンだじょ。」
その表情から察するに、ユウキは、そのトシって人を結構慕っているようだ。
「強力なフクジ・エナジーを、枯れることなく産生し続ける一人目の女性のこと?」
クルミが再びユウキに聞いた。
「そうだじょ。オバサンもエイスリンも毎日のようにヒサ総統とキスさせられているけど、あれは、彼女達の体内から無限に湧き出るフクジ・エナジーを吸収するためだじょ。と言うことは、もしかして…。」
ユウキが私の方を振り向いた。
「塞。お前もあの二人と同じなのか? でも、ミホコ波は出ていないみたいだじょ…。」
「いえ…あの…私には、細かいことは良く分からないんだけど。ねえ、クルミ。お願い。説明代わって。」
一応、カクラ星でフクジ・エナジーについての説明を受けていたけど、他人に説明できるほどの知識は私には無い。悪いけどクルミに振った。
するとクルミが、
「まあ、話が長くなるから細かいことは後で話すわ。でも、少なくとも塞を独り占めできれば、あなたには他の惑星からミホコ波を出す女性を拉致する必要も殺す必要も一切無くなるはず。これが条件よ。」
と、さらに話を勝手に展開した。
私はレズじゃない。(←嘘)
でも、とっさに言葉が出てこなかった。
ハメられた…。
クルミにフォローを求めた私がバカだった。
ユウキが笑顔を見せた。妖艶さはないけど、可愛らしい雰囲気が漂っていた。
「良いじょ。もっとも、これでは塞が私の奴隷になるのではなく、私が塞の奴隷になるようなものだじぇい。」
どうやら、クルミの持ちかけた交渉は成立したみたいだ。
彼女は相手の欲求を読んで話を持ちかける。私の時と同じだ。
ただ、私の気持ちは完全に無視された。
やっぱり、私はクルミにとって道具でしかないのかもしれない。
私は彼女の増幅器。
加えて便利なⅡ型フクジ・エナジー産生機器だ。
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