準決勝第一試合副将戦。
後半戦開始に向けて選手達が対局室に姿を現した。
場決めがされ、起家が美誇人、南家がダヴァン、西家が楓、北家が美由紀に決まった。
美誇人のターゲットであるダヴァンが美誇人の下家になるのは、ダヴァンにとって最悪な席順だろう。
東一局、美誇人の親。ドラは{西}。
美由紀は、恭子の指示に従い、
「ポン!」
美誇人の親を流すべく、序盤から飛ばす。先ずは、二巡目でダヴァンが捨てた自風の{北}を鳴いた。これで美由紀は、和了りに向けての必要最低限の条件を手に入れた。
一方の美誇人も、この親で稼ぎたいところだ。
既にダヴァンのツキが落ち、ダヴァンから美誇人に点棒が流れる仕組みが前半戦を通じて出来上がった感触がある。それを何とか維持したい。
ただ、その美誇人の思惑を覆そうと、
「チー!」
さらに美由紀は、楓が捨てた{7}を鳴いて{横7[5]6}を副露した。早い仕掛けだ。
早和了りは、恭子に指導されている。それに、憧ほどの加速力は無いが、元々鳴き麻雀は美由紀の領分だ。
「ツモ!」
中盤に入る前に、美由紀は何とか和了りまで漕ぎ着けた。
開かれた手牌は、
{一一一⑤⑥西西} チー{横7[5]6} ポン{北横北北} ツモ{⑦}
「北ドラ3。2000、4000!」
満貫ツモ和了りだ。美誇人の親を流すことだけを考えれば上出来だろう。
東二局、ダヴァンの親。
ここからは、美由紀は少し前に出るのを抑える。
背水の陣で戦うのは、自分が親の時と美誇人が親の時だけ。前に出過ぎて美誇人に狙われたら後が大変だ。
大事な局面以外は、和了りには向かうがディフェンス力も考慮に入れる。
「リーチ!」
六巡目。早速、美誇人がリーチをかけてきた。
美由紀は、一応、美誇人の安牌を確保してある。勿論、和了りに向かうことを前提に対子で持つか、或いは浮き牌として一、二枚持つ程度だ。
少なくとも順子を崩しての一発回避はしたくない。
ところが、今回は、その安牌確保も余り意味を成さなかった。
「御無礼。一発、ロンです」
ダヴァンが、まるで吸い込まれるかのように美誇人に振り込んだのだ。
「16000。」
しかも倍満だ。
これで、あっと言う間に後半戦のトップを美誇人に奪われた。
ただ、この時、美誇人の頭の中は、
「(トップだけじゃなくて美由紀ちゃんの大事なものも奪いたい!)」
とまあ、お花畑が満開状態だった。
邪念だらけで、よくこれだけの麻雀が打てるものだ。
東三局、楓の親。
ここでも、
「リーチ!」
五巡目と、割と早い巡目で美誇人がリーチをかけてきた。この仕上がりの速さは、池田華菜を髣髴させる。
華菜は、ヤラレ役のイメージが強いが、それは飽くまでも咲や衣を相手にしているためである。超魔物が相手でなければ、かなり強い選手だ。
そして、まるで前局と同じように、
「御無礼。一発、ロンです!」
またもやダヴァンが吸い込まれるように美誇人に振り込んだ。
「12000。」
今回はハネ満だ。
もし、これが25000点持ちなら、この美誇人への二度の振込みだけで箱割れして終了である。それを考えると、ダヴァンのツキの凹み具合は相当と言えよう。
東四局、美由紀の親。ドラは{⑥}。
当然、美由紀は、ここで稼ぐつもりで前に出る。
「ポン!」
一巡目にダヴァンが切った{東}を鳴く。
そして三巡目にも、
「チー!」
楓が切った{⑦}を鳴いて、{横⑦[⑤]⑥}と副露した。
これで、ダブ東ドラ2。最低でも11600が確定だ。
ところが、
「リーチ!」
この序盤、美誇人の方が先に聴牌したようだ。美由紀からすれば、まさかの先制リーチである。
さすがに、今回はダヴァンも一発は回避した。
楓も安牌切りで無難に振り込み回避。
一方の美由紀だが、
「(安牌が無いけど、ここは勝負!)」
ど真中の{5}を切った。{45[5]6}とあったところから、{5}を切って向聴数を減らしたのだ。分からない時は、仕方が無い。
一瞬、場の空気が止まった感覚があった。
しかし、これは通し。美誇人の和了り牌ではなかった。
次ツモで、美誇人はツモ切り。
そして、ダヴァンは、美由紀が通した{5}の筋、{8}を切った。
ところが、これで、
「御無礼。ロンです。」
ダヴァンは、美誇人に振り込んだ。結果的に、美由紀が美誇人の和了りをサポートした形になった。
しかも、開かれた手牌は、
{三四五[五]六七⑥⑥23479} ドラ{⑥} 裏ドラ{五}
リーチドラ5のハネ満だった。
「12000です。」
これで、ダヴァンの持ち点は60000点を割った。
美誇人は、ダヴァンから点棒を受け取りながら、
「(臨海の人は、一回戦二回戦とパターンが変わらないし、馬鹿みたいに勝負してくるから、今回は非常にやり易かったかな。それで、彼女から私に点棒が来る流れを作っちゃったから、もうこっちにしてみれば安泰ってとこだよね。)」
と心の中で呟いていた。
前半戦で、デュエルだけで勝負してくるダヴァンを、美誇人は、まんまと振り込みマシーンに変えてしまったわけだ。
続いて、美誇人は何気に美由紀のほうに視線を送ると、
「(でも、美由紀ちゃんは、背水の陣で来る時もあるけど、大抵ヤバイ時には上手に打ち回してくるし、ターゲットにはし難いね。別の意味でターゲットになってるけど。)」
そう呟きながら、そのうち自分が美由紀に吸い込まれてしまうような錯覚に陥った。ただ、吸い込まれるのは点棒ではなく、多分Hなほうだ。
南入した。
南一局、美誇人の親。
ここでは、
「ポン!」
美由紀はムリをしてでも前に出る。とにかく、圧倒的リードの美誇人に連荘だけはさせない。
通常は、美誇人のようなプレイヤーと同卓すれば、共闘して三人がかりで親を流しに行くだろう。しかし、ダヴァンも楓も、それが出来るほどの力が無かった。
ダヴァンは、己の力のみでデュエルで勝利する麻雀しかできないし、楓もそこまで器用では無い。完全に強大な敵に対して美由紀の孤軍奮闘状態なのだ。
「チー!」
ただ、救いは楓の捨て牌が甘いことだ。
別に美由紀をサポートしているわけではなく、牌が絞り切れておらず、結果的に美由紀に鳴かれている状態だったのだ。
それが、美由紀にとっては幸いだった。
「ツモ! 3000、6000!」
この美誇人の親を、美由紀はなんとか流すことに成功した。
しかもハネ満ツモ。
東一局以上の出来だ。
この頃、この対局の様子を見ていた美和が、ふと、
「そう言えばさ、この阿知賀の一年ってハートビーツ大宮の宇野沢栞の妹だよね。」
と言葉を漏らした。
これに鳴海が答えた。
「そうそう。本当に顔もスタイルもそっくりだよね。」
「たしか、カイ(美誇人のこと)って宇野沢栞のファンじゃなかったっけ?」
「本人は隠しているつもりみたいだけど、熱狂的なファンだよね。うちらの高校から近いからサイン貰いに行ったりしてたし。」
「へー。」
「ただ、どっちかって言うと、姉よりもあの妹の方が好きみたい。」
「えぇっ?」
「だから、何気に副将戦で当たるのが楽しみであり怖いようでありって複雑な心境だったっぽい。」
「嬉しいやら悲しいやら。多分、やり難いよね。」
「でも、ほら。至近距離で見れて、たまに嬉しい表情が見え隠れしてる。」
基本的に美誇人はポーカーフェイスなのだが、付き合いの長い美和達には、美誇人のほんの少しの表情変化でも判るようだ。
「じゃあ、全国大会が終わったら、咲ちゃんにお願いしてカイと妹さんのツーショット取らせてもらおうか?」
「それイイね! きっとカイも喜ぶ!」
なんだかんだで綺亜羅高校控室は、和気藹々としていた。あの鳴きのリュウこと鳴海の辛気臭さは何処へ行ったのだろうか?
南二局、ダヴァンの親。
既にダヴァンの点数は55000点にまで凹んでいた。ダンラスである。
救いは、この局では美誇人が先制リーチをかけてこないところだろうか?
「ポン!」
美由紀が、美誇人が捨てた{中}を鳴いた。ここから、美誇人マークで巧く打ち回しながら和了りに持って行く方針だろう。
ただ、この局、リーチがかからないことが、逆にダヴァンの油断に繋がった。美誇人は七巡目で聴牌していたのだが、ダマで待っていたのだ。
そして、ダヴァンが普通に手を進めようとして切った牌で、
「御無礼。12000です。」
美誇人がハネ満を直取りした。
そして、南三局でも、
「御無礼。12000です。」
ダヴァンは立て続けにハネ満を振り込んだ。
副将後半戦の、現状での順位と点数は、
1位:美誇人 154000
2位:美由紀 120000
3位:楓 95000
4位:ダヴァン 31000
完全にダヴァンの一人沈みであった。これが人鬼と書いてカイ(傀)と呼ばれる美誇人のターゲットとされた者の末路だ。
そして、副将戦は、いよいよ後半戦オーラスに突入した。
親は美由紀。ドラは{西}。
この段階での副将前後半戦合計の順位と点数は、
1位:美誇人 364700
2位:美由紀 257800
3位:楓 151400
4位:ダヴァン 26100
もはや、誰の目から見ても美誇人の勝利を疑うものはいなかった。ただ一人、美由紀を除いて。
美由紀は、
「ポン!」
いきなり対面のダヴァンが捨てた{一}を鳴いた。前半戦オーラスで美由紀が和了った親倍を髣髴させる。
当然、ここからは役牌と美由紀に鳴かれないようケアーする。
ところが、美由紀は、役牌ではなく、
「ポン!」
ダヴァンが捨てた{①}を鳴いてきた。
これは、チャンタかジュンチャンか、三色同刻か?
当然、美誇人も楓もダヴァンも牌を絞る。
この局面で美由紀が狙っていたのは、チャンタ又は対々和だった。ただ、この二つ目のポンをした段階で手牌の中では既に完成、つまり聴牌していた。
そして、次のツモ番で、
「カン!」
美由紀が{西}を暗槓した。まさかのドラ槓だ。
新ドラは{①}。美由紀がポンした牌だ。
そして、引いてきた嶺上牌で、
「ツモ!」
まさかの嶺上開花が出た。これには、美由紀自身も驚いたし、点数申告の声にも自然と力が入る。
「嶺上開花チャンタドラ7。8000オール!」
親倍ツモだ。
これには、綺亜羅高校控室でモニター映像を見ていた鳴海も驚かされた。
まるで自分の麻雀と咲の麻雀の融合だ。
開かれた手牌は、
{1113} 暗槓{裏西西裏} ポン{①横①①} ポン{一横一一} ドラ{西①} ツモ{2}
ただ、高目の{3}ツモでなかっただけ、他家にとっては幸いだっただろう。もし、{3}で嶺上開花を決められていたら、嶺上開花対々和三色同刻ドラ7の三倍満だ。
いや、嶺上開花でなくても三倍満の和了りだ。
それに、{3}をヤオチュウ牌に変えられ、その上で和了られていたら数え役満になる。
ダヴァンも楓も、点数的に余裕のある美誇人でさえも、親倍で済んで、本気でホッとしていた。
「一本場!」
当然、美由紀は連荘を宣言した。
ここから、芝棒一本でも多く美誇人の点数に近づける。その並々ならぬ気迫が、顔全面に出ていた。
オーラス一本場。ドラは{發}。
ここでも美由紀は、
「ポン!」
背水の陣で望む。先ずはダヴァンから{白}を鳴いた。ドラ表字牌なので、一枚目が出たらすぐに鳴くしかない。
もしくはアタマにするか、安牌として取っておくくらいしか使い道は無いだろう。
ただ、ここでは、和了り続けるしかない。他家に和了られたりノーテンで流れたら、その時点で終わりだ。守りのことなど考えていられない。
なので、白を安牌に取っておくなどと言う選択肢は無い。とにかく攻める。
続いて、
「ポン!」
今度は楓から出てきた{⑤}を鳴いた。副露されたのは{横⑤[⑤][⑤]}。これで白ドラ2が確定だ。
ここに来て、前半戦オーラスの時のように、何故か美誇人は手の進みが悪くなった。もしかして、これが美由紀の能力と言うか支配なのだろうか?
そのさらに数巡後、
「カン!」
美由紀が{⑤}を加槓した。イヤでも前局の嶺上開花を思い出させる。
場に緊張が走る。
新ドラは{東}。
しかし、美由紀は嶺上牌をツモ切りした。有効牌でも無かったようだ。これには、他家三人はホッと溜め息をついた。
しかし、その次巡、
「ツモ!」
美由紀が和了った。
開かれた手牌は、
{四[五]六11東東} 明槓{横⑤⑤[⑤][⑤]} ポン{白横白白} ツモ{1}
「白ドラ5。6100オール!」
もし、これが{東}をツモっての和了りだったなら、役として東とドラが一枚追加で倍満になった。他家にとっては、不幸中の幸い二連続と言ったところだ。
オーラス二本場。ドラ{北}。
楓以外は使い難いドラだ。
「ポン!」
早速、二巡目で美由紀はダヴァンから{白}を鳴いた。
そして、その次巡、
「チー!」
美由紀は楓から{二}を鳴いて{横二一三}を副露した。
とにかく早和了りだ。
ここでは、美由紀の配牌は萬子に偏っていた。幸い、それがバレる前に{白}と{一}を鳴けた。
既に手牌は一向聴。ここからは自力で手を進める。
そして、三巡後に聴牌。
同巡で美誇人も聴牌した。
ただ、美誇人はリーチをかけなかった。役があるし安手のダマでよい。誰かが振り込んだところで自分の勝ち星が決まる。
しかし、
「ツモ!」
先に美由紀に和了られた。
しかも、開かれた手牌は、
{一二三九九北北} チー{横二一三} ポン{白横白白} ツモ{九} ドラ{北}
白混一色チャンタドラ2のハネ満だ。
「6200オール!」
この和了りで、美由紀の後半戦の得点が180000点を越えた。
オーラス三本場。ドラは{五}。赤牌と被る嫌なドラだ。
美由紀のカワイイ顔が、まるで鬼のような表情に変わっていた。
が、これを見て美誇人は、
「(その表情もカワイイ!)」
と内心思っていた。
ここでも美由紀は、
「ポン!」
序盤から飛ばす。楓が捨てた{9}を鳴いた。
そして、次巡、
「ポン!」
美由紀は、今度はダヴァンが捨てた{2}を鳴いた。
索子が二つ副露された。当然、他家は染め手を想定する。
しかし、美由紀の捨て牌には、思いの他、索子と字牌が多い。これは、恐らく対々和であろう。
ただ、狙いが分かっても筋が関係ない対々和を読むのは難しい。
ここからは、極力鳴かせないために美由紀の現物や、二枚切れの牌で対応する。
とは言え、それが永遠に続くものでもない。
ならば、確率的に極力初牌を避けて一枚切れの牌を捨てよう。
そう思って楓が捨てた{②}で、
「ロン!」
美由紀が和了った。
開かれた手牌は、
{五五[五]②②[⑤][⑤]} ポン{2横22} ポン{横999} ロン{②}
「対々ドラ6。24900!」
親倍直撃だ!
これで副将後半戦の、現状での順位と点数は、
1位:美由紀 205800
2位:美誇人 133700
3位:楓 49800
4位:ダヴァン 10700
そして、この時点での副将前後半戦合計の順位と点数は、
1位:美誇人 344400
2位:美由紀 343600
3位:楓 106200
4位:ダヴァン 5800
美由紀が美誇人と800点差まで詰めてきた。怒涛の快進撃だ。本当に、オーラス開始時点からの100000点差を、ほぼ帳消しにしたのだ。
あと一回和了れば逆転できる。どんな手でも良い。
当然、美由紀から溢れ出るオーラが、より一層激しさを増してくる。
これには、さすがの美誇人も、
「(ちょっとマズイ。気を入れ直さないと。いくら美由紀ちゃんがカワイくても、チームのためには勝ち星は譲れないもんね!)」
焦りの表情が少しだけ表に見えてきた。
…
…
…
が、美誇人は、
「(多分、チームのためじゃなければ勝ち星を譲るんだろうな。)」
とも内心思っていた。とことん美由紀ラブである。
おまけ
前回からの続きです
十.『こんなにたくさん相手するの?』
三体のロボットが第五番惑星に着陸した。
私達は、一先ずここで休息をとることにした。
ヒナ、ナズナ、シロナの席が床下に収納された。
この三畳間くらいの面積に、私とユウキ、ヒナ、ナズナ、シロナの五人が雑魚寝状態になった。もっとも、ユウキは私にピッタリくっついて、ヒナ、ナズナ、シロナは三人でくっついていて………。私達と三つ子達の間には壁があるみたいな感じになっているけど………。
四人とも、もう寝たようだ。
私が座っていた操縦席ではアコとシズノとコロモが所狭しと眠っている。
その両脇についている小さな席をリクライニングして、それぞれにクルミとハツミが横たわっている。二人とも静かだ。もう眠っているのかな?
それにしても、マホとヤエとの戦いは精神的に疲れた。あんな危険なものを開発しているとは思わなかった。
でも、体力的にはユウキとの戦いの方がきつかった。
そのユウキが、今ここにいる。
クルミのせいで起きていた時、ユウキが四六時中、私にキスをせがんできた。
それで、私は例のブレスレットをつけてスイッチを入れた。こうすればユウキそっくりの私じゃなくなるし、少しはユウキも興味を無くしてくれることを期待していた。
でも、逆効果だった。
私の姿を見てユウキは驚いたけど、逆に親近感が湧いてしまったようだ。今も、私に抱きついて眠っている。
最初、宇宙に飛び立つ時には全然想定していなかった展開だ。
ただ、ユウキを助けて以来、三つ子達は、私を睨むだけで全然口をきいてくれなくなった。三人ともムスッとしているだけでクルミ達とも余り話をしない。
それだけユウキに恨みがあるのだろう。
逆にユウキは、そんなの全然お構い無しで平然としている。彼女は、ある意味、精神的に強いのかもしれない。
それにしても、ヤエ弾にかけた開発費用と時間は相当なものだっただろう。
寝る前にユウキが説明してくれたけど、反物質を保管するためには保管する容器の中は真空でなければならないみたいだ。空気に触れても駄目らしい。
それだけじゃない。反物質と容器が一瞬でも触れては駄目なのだ。つまり、ヤエ弾の中は空洞で真空になっていて、中にある反物質に向けて、常に一定の反重力がバランス良く出ている必要があるらしい。真空のど真中に反物質が浮いているようにするためだ。
勿論、ミサイルが発射された時も、その加速の影響で反物質がヤエ弾の後の方に動いて『物質部分』に触れたらアウトだ。
もっとも、この辺の細かい仕掛けがどうなっているのかまでは、さすがにユウキも知らなかったみたいだけど…。でも、恐ろしい技術だ。
今から思えば、マホとヤエの戦艦が大気圏に突入してこなかったのは、その衝撃でヤエ弾が爆発したら困るからだろう。
キラメ・スバラ・バリヤーをどんなに強固にしても、あの爆発力には太刀打ちできない。使いこなされたらカゼコシ砲よりも遥かに恐ろしい兵器だ。
それと、ユウキが乗ってきた趣味の悪い要塞にも相当な経費と時間がかかっている。
よくよく考えれば、カゼコシ砲を一つ装備するのも大変な作業だろう。それを、あれだけ装備した要塞だ。
私には想像できないほどの巨額な投資がされているのだろう。
でも、キヨスミ星の女性にとっては、若さと美貌を手に入れるためには、それだけの投資をする価値があると言うことなのか?
それとも、別の目的で侵略行為を進めるために開発したのか?
その辺は私にも分からない。
ユウキも、ただ軍人としてヒサの命令で戦ってきただけだ。
タコス錠だって、キヨスミ星で生まれ育って周りが使っているから自分も飲んだ。もしかしたらユウキにとっては、その程度のことに過ぎなかったかもしれない。
『みんなが持っているから私も欲しい。みんなが使っているから私も使いたい。』
そんな私達地球人の感覚と大同小異なのかもしれない。
色々考えていたら眠くなった。
いつの間にか、そのまま私は眠っていた。
気が付くと、私の携帯では翌日の朝になっていた。
窓の外を見ても星空しかない。
地球には固有の一日のサイクルがある。でも、今いる所は、それとは全く無縁の世界だ。
もう宇宙に出てから七日目だ。
いや、まだ七日目が正しいのかもしれない。地球から何万光年も離れた場所だ。ここまで来るのに、たった七日しか経っていないのだ。
みんな、既に起きていた。私が一番寝ボスケだ。
ユウキは妖艶な姿ではなく初期状態のままでいた。私が眠っている間に勝手にキスをしなかったみたいだ。
クルミに渡された錠剤型宇宙食を五つに割って、私とユウキ、ヒナ、ナズナ、シロナの五人で食べた。これくらいで丁度良い。
でも、カクラ五人組は全員一錠ずつ食べていた。いや、クルミに限っては二錠か…。
全員、凄い食欲だ。
起きてすぐに、よくまあ、あんなに食べられるものだ。
それでいて、よく太らないと感心する。
ヒナ、ナズナ、シロナの席が、せり上がってきた。そして、さらに、三人の席の後に、新しく席が一つせり上がってきた。ユウキの席だ。
クルミとハツミが私の中にダブルフェードインした。そして、三体のロボットが合体してスコヤンになった。
さらにアコはヒナに、シズノはナズナに、コロモはシロナにフェードインした。
共にミヤモリ・エナジーをスコヤンに供給するためだ。少しでも、クルミとハツミと私の体力消費を抑えるための配慮だ。
スコヤンは第五番惑星の大気圏を離脱すると、キヨスミ星の衛星軌道付近まで一気にワープした。
その頃、キヨスミ星では、まだヒサ総統の怒りがおさまらずにいた。
彼女が居室の通信スイッチを入れた。
モニターには衛星基地にいるマコが映し出された。
「ヒサ様。ご機嫌麗しゅう…。」
「麗しくなんかないわ。ヤエ弾も、ユウキが潰した超巨大戦艦も要塞も、いったい、いくらかかっていると思っているの?」
「まことに申し訳ございません…。」
「あれでは、投資そのものが無駄じゃない!? リターンがあってこそのリスクよ! そもそも私達の目的は何?」
「それは、この銀河の制覇…。」
「そうね。そして、その根底にあるのは何?」
「この銀河にあるフクジ・エナジーを全て手中におさめるため…。」
「そうよ。そのためには軍事力の増強、ワープ機能の向上が必要になる。カクラ星系への侵攻もワープ機能向上には欠かせない特殊な超原子確保のためでしょ!」
丁度この時、衛星基地のレーダーが反応した。スコヤンの姿を捉えたのだ。
ヒサが大きな音を立てて玉座に座った。
「マコ。何としてでも奴らを食い止めて!」
彼女は通信を切ると、彼女はエイスリンを呼んだ。
エイスリンは一糸まとわぬ姿だった。
クルミを助けてくれたあの時のように、彼女は健気さと儚い雰囲気を併せ持つ独特なオーラを身にまとっていた。
ヒサは服を脱ぎ捨てるとエイスリンをベッドに押し倒して激しいキスをした。直接肌が触れ合う方が、フクジ・エナジーを効率良く吸収できるようだ。
少なくともヒサにとっては単なるフクジ・エナジーの補給でしかなかった。しかし、エイスリンにとってはイヤラシイ関係でしかない。
エイスリンの目に涙が溢れてきた。
キヨスミ星の衛星基地周辺を、おびただしい数の宇宙戦艦が取り囲んだ。
『こんなにたくさん相手するの?』
私は、そう思った。今までに無い数だ。
そして、その大量の敵宇宙戦艦が、こっちに接近しながら、次々にカゼコシ砲を撃ち放ってきた。
その一発一発は、ユウキの超巨大戦艦や要塞から撃ち放たれたものと比べれば、破壊力自体は低い。ヒメマツ星でタカコの巨大戦艦が撃ってきたのと同程度か、それ以下だ。
でも、その数が半端じゃない。
効率的な戦い方をしないと、私達の体力が持たない。
「上に回ると良いじょ。真上に向けて撃てるカゼコシ砲は殆どないはずだじぇい!」
背後からユウキの声が聞こえてきた。彼女のアドバイスだ。
まじめな戦闘モードに入っている。
彼女によると、カゼコシ砲は一撃必殺のパワー故に、撃った時の反動も大きい。そのため、反動に耐えられるように、がっちりと固定しなければならないらしい。それを怠れば、撃ったと同時にカゼコシ砲自体が壊れるそうだ。
巨大戦艦や要塞のクラスなら、経口100メートル以上の大砲を、がっちり固定するだけの大きさがある。その大砲をカゼコシ砲にすれば良いだけだ。勿論、大砲の向きを色々と変える設計にすることも可能だ。
でも、通常の戦艦では、そうは行かない。強力なカゼコシ砲に仕立てるのであれば、戦艦全体を一つのカゼコシ砲にするくらいの必要があるらしいのだ。そうなると、いろんな方向に向けて撃てるだけの装備を設計するのは不可能に近い。構造上、戦艦の向いた方向にしか撃てない。つまり、機動性に優れた設計ができないのだ。
かと言って、反動を小さくするためにカゼコシ砲自体を小型にしては、余りメリットが無い。あの大きさにするからこそ、とんでもない破壊兵器になるのだ。小型にしては、普通に主砲を撃つのと余り大差無い。
それで、ユウキは、通常の戦艦にカゼコシ砲を装備することには賛成しなかったらしい。構造上無理があると言うのが彼女の主張だ。
つまり、今、スコヤンと対峙しようとしている戦艦全てが、動きの早い相手に向けて強力なカゼコシ砲を当てることはできないと言うことになる。
このユウキの話を聞いて、クルミから、みんなに向けてテレパシーが送られた。
「スコヤン・キカガクモヨウで一気に勝負よ。」
晴絵「十年前のインターハイで、私は、これにやられて牌が握れなくなったんだ。」
健夜「(今のところ、アラフォーネタは無いようね。)」
言葉だけ聞いても私には意味が分からない。でも、いつものように彼女のイメージが私の頭の中に流れ込んでくる。
承知した!
私はスコヤンを船団の上方に瞬間移動させた。
そして、スコヤンの二対の翼を大きく広げた。
「スコヤン・キカガクモヨウ!」
クルミとハツミのミヤモリ・エナジーが、私の身体で増幅されてスコヤンに送り込まれている。さらに、アコ、シズノ、コロモは三つ子達の身体を通じてミヤモリ・エナジーを送り込んでくれている。
その強大なエナジーを変換して、四枚の翼の先端部から四方に向けて、断続的に強力な光線が放たれた。しかも、その光線は、趣味の悪い幾何学模様を描いている。
晴絵「あの模様を見せるのはやめてくれ! またトラウマが…。」
たしかに、ユウキの言うとおり、通常の戦艦は真上に向けてカゼコシ砲を撃つことができないみたいだ。
せいぜい斜め上、斜め横くらいまでしか撃てない。
むしろ、前方にしか撃てない戦艦が殆どと言って良い。
当然のことだけど、戦艦全体が一つのカゼコシ砲になっていたら、戦艦そのものを撃つ方向に向けるしかない。
でも、それだとスコヤンの真下にいる戦艦は、機体そのものを完全にスコヤンの方に向けなければならない。できないわけじゃないだろうけど、前向きから真上向きに方向転換するのはサクサクできる作業でもないみたいだ。
あちこちの戦艦から炎が上がった。スコヤン・キカガクモヨウを受けたところから炎を吹き上げているのだ。そして、そこから火が回って戦艦は次々と爆発していった。
でも、まだ遠方の戦艦なら話は別だ。照準をこっちに合わせてカゼコシ砲を順々に撃ち放ってきた。
もし、私がキヨスミ星側の人間なら、多分、同じようにカゼコシ砲を撃つことには抵抗がある。味方にカゼコシ砲が当たる危険性が高い。
案の定、いくつかの戦艦は遠方から撃ち放たれたカゼコシ砲を避け切れず、その砲撃を受けて爆発した。
私はカゼコシ砲を避けて、スコヤンをさらに上方に移動させた。敵戦艦が、もっとカゼコシ砲を撃ち難い位置に移動したのだ。そして、激しくスコヤン・キカガクモヨウをお見舞いして行った。
もうどれくらい時間が経っただろうか。私達は、ずっと敵のカゼコシ砲を避けながらスコヤン・キカガクモヨウを撃ち続けた。
敵の戦艦の殆どは大破した。残りは十数隻だ。
でも、かなり疲れた。
三つ子達の表情も、かなり辛そうだ。
声も出ない。
もともと私とは口をきいてくれないけど…。
でも、そう言う問題じゃなくて、もう彼女達も口をきく体力すら無い状態みたいだ。
突然、敵の衛星基地から迫り来る強烈なエナジー波をキャッチした。
「避けたほうが良いじょ! 衛星基地には全部で五個のカゼコシ砲があるんだじぇい!」
後方座席からユウキの力強い声だ。
衛星基地のカゼコシ砲が撃ち放たれたのだ。それは、ユウキの超巨大戦艦のものに匹敵するパワーだ。
スコヤンは、その攻撃を高速で避けた。でも、敵の戦艦は必ずしもスコヤンと同じように、すぐさま避けられる訳ではなかったらしい。
数隻は、そのカゼコシ砲を受けて爆発した。
さらに衛星基地からカゼコシ砲が連発される。もはや私達さえ撃墜できれば、いくら味方を巻き添えにしようと構わない。そんな感じだった。
スコヤンが衛星基地から放たれるカゼコシ砲を避けながら、高速飛行で衛星基地に向かって突き進んで行った。
そして、そのままカゼコシ砲の真横………衛星基地に降り立った。
さすがに衛星基地に立つスコヤンの方にカゼコシ砲を向けることはできないようだ。これは駆動角度の問題だ。飽くまでも遠方にある敵を撃つことを前提に造られているモノであって、至近距離の相手を叩くモノでは無い。
レーザーソードでスコヤンがカゼコシ砲を一つ、二つと順に切り裂いた。
二つのカゼコシ砲が大爆発を起こした。
残りは三つ。
さらにスコヤンは衛星基地の他のカゼコシ砲に斬りにかかった。
でも、この時、背後から戦艦がカゼコシ砲を撃ち放ってきた。
戦艦側も私達さえ撃墜できれば基地を破壊しても構わない。そんな姿勢で出てきたのだ。
スコヤンは、とっさにその攻撃を避けた。でも、近くにあった衛星基地のカゼコシ砲に、その攻撃が直撃した。
衛星基地の三つ目のカゼコシ砲が爆発炎上した。
あと二つ!
スコヤンが、四つ目のカゼコシ砲に向かって一直線に突き進み、レーザーソードを振り上げて思いきり切り裂いた。
そして、五つ目に斬りかかった時、目の前に一隻の宇宙戦艦が割り込んできた。自滅覚悟の小ワープだ。
スコヤンは、即座にキラメ・スバラ・バリヤーを強力にして、そのまま突き進んだ。そして、戦艦とカゼコシ砲を順に体当たりで突き破った。
衛星基地のカゼコシ砲は、これで一掃したはずだ。
でも、まだ宇宙戦艦数隻と衛星基地のミサイル、レーザー砲などの砲撃設備が残っている。
私はスコヤンの合体を解除した。リューカに衛星基地の後始末を任せることにしたのだ。
既に、リューカの超装甲を打ち破るだけの兵器は、この衛星基地には無いはずだ。
リューカが、衛星基地に向けて目からレーザーを撃ち込んでゆく。衛星基地は、為す術も無く次々と撃破されていった。
一方、トヨネとトキは再合体して、背中に羽の生えた人魚の姿になった。
そして、トヨネは猛スピードで敵戦艦に突き進んで行き、一隻の宇宙戦艦の上に降り立つとレーザーソードで操縦室を突き刺した。
竜華「なんで、うちと怜が離れ離れになるん? それで怜が豊音と合体してるなんて。怜のあほう! 浮気モノ!」
怜「別に性的に合体してるわけやないで!」
豊音「戦闘中だよぉ。」
竜華「銭湯の中やて?」
塞「そろそろボケやめてくれない?」
さらに、その戦艦の後方に回ってエンジン辺りを切り裂いた。
巨大戦艦とか要塞相手には、パワーに任せて敵の機体を突き破ったりしていたけど、そこまでやる必要は全然無い。それに、もっと頭を使って効率的にやらないと体力が持たない。
その戦艦がエンジン部分から火を噴き、大爆発を起こした。
そして、次の戦艦は横にぴったりくっついてエンジン付近に電撃を放った。この至近距離からの電撃なら戦艦といえども、ひとたまりも無いようだ。
その次の戦艦も、エンジン部をレーザーソードで突き刺した。
こうやって、順に敵戦艦を撃墜し、とうとう残すは最後の一隻となった。
その戦艦には最後の司令官、マコが乗っていた。
マコの戦艦が私達にカゼコシ砲を撃ち込んできた。
スコヤンは、それを間一髪避けると、戦艦の横に回ってカゼコシ砲を真横からレーザーソードで突き刺した。
カゼコシ砲から火柱が噴き上がった。そして、一気に全体に火が回り、その戦艦は大爆発を起こした。
その爆発の中から脱出機が飛び出した。マコが乗っているのだ。
スコヤンは、その脱出機目掛けて後方から電撃を放った。その直撃を受けて脱出機は爆発し、宇宙の塵と化した。
まこ「ワシ、死んだってことか?」
和「私と同じですね。」
衛星基地の方は、リューカのレーザー攻撃で全て跡形も無く破壊されていた。
こいつは、こいつで凄い兵器だ。まさに、全てを焼き尽くして生まれ変わる不死鳥そのものを連想させる。
竜華「不死鳥やて。うちカッコ良くない?」
怜「せやな。」
これでキヨスミ星の殆どの戦力は無くなったはずだ。
私はトキとトヨネの合体を解いた。
三体のロボットが衛星基地跡に降り立った。そして、私達は全員フェードインを解いた。
フェードインした側もされた側も全員ヘトヘトになっていた。
「どうやってキヨスミ星に攻め込むか?」
ユウキの覇気のある声だ。彼女だけは元気が残っている。
一方、クルミは姿見兼用のドアを開けて出て行った。まるで、疲れ過ぎてユウキの声が届いていないようにも見えた。
でも、三十秒もしないうちに元気な顔で操縦室に戻ってきた。そして、みんなに疲労回復の錠剤を手渡した。
「ユウキ。みんながこれを飲んだら、すぐに出発するわ。」
「さすがに、まだ疲れているだろう。」
「大丈夫よ。この錠剤を飲めば、疲労は瞬時に消えるわ。塞も、これ。」
「私、飲んでも大丈夫なの?」
「時間を置いているし、大丈夫よ。」
私は錠剤を飲み込んだ。前と同じで急に元気が湧いてきた。臭くて飲み難いけど、一瞬で疲れが取れた。まるで、龍が出てきたり玉を七つ集めたりする漫画の秘密アイテムの一つを思い起こさせる。
「じゃあ、急いで出発するじょ。実は、ヒサの居城付近に着いたら、一時間だけで良いから私を前の姿に戻して欲しいんだじぇい。エイスリンを助けるには恐らく私が動くしかないと思うのからな!」
たしかにエイスリンの救出も、この戦いの大事なミッションだ。
でも、クルミは、このユウキの言葉に対して慎重だった。
ここでユウキを前の姿に戻す意義は何か?
もし、ここまで来て、こっちを裏切られたら大変だ。
彼女がハツミの顔色を伺った。
「大丈夫ですよー。ユウキは、もう二度とヒサの配下に戻るつもりは無いようですー。それに、もし戻るつもりなら、眠っている塞からフクジ・エナジーをたくさん吸い取っているはずですよー。」
たしかにそうだ。
彼女は、私よりも先に起きていたけど、私を襲っていない。
「でも、ユウキには詳細を説明していただく必要があると思いますよー。私達にもエイスリンがどうなっているのかを知る権利があると思いますからー。」
ハツミの表情は普段と変わらない。特段、ユウキの裏切りを予知していないようだ。
まあ、いずれにせよハツミの言葉を聴いて、クルミは一先ず安心したようだ。
ユウキは、しばらく黙り込んでいた。何か言い難いことがあるようだった。これにクルミが気付いた。
「ユウキ、どうかした?」
「一つクルミに確認したいじょ。この操縦室に瞬間移動させる最大距離は、どれくらいになるのか?」
「だいたい100メートルよ。」
「まあ、大体そんなものだろうな。となると、やっぱり私が行く必要があるじょ。」
キヨスミ星に攻め込めば、どのみちみんなに全て知られてしまうことだ。いつまでも隠しておけるものではない。
「実は………。」
ユウキは重々しく口を開いた。何かを事前に説明しておきたいようだった。