咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百十五本場:無効化

 準決勝第一試合大将前半戦。

 東二局、李奈の親。ドラは{1}。

 敬子の捨て牌は、五巡目まで字牌だけ。

 まだ、敬子からは聴牌気配を感じない。

 それで数絵は、暗牌確保と思って、敢えてツモってきた字牌を手に入れ、浮き牌の{七}を切った。

 すると、

「ロン!」

 これで敬子に和了られた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一一八九⑦⑧⑨11789}  ロン{七}  ドラ{1}

 

「12000!」

 ジュンチャン三色同順ドラ2のハネ満だった。

 聴牌気配まで消している。どうやら敬子は、他人の空気を読めないだけではなく、自分の空気も読まれないようだ。

 

 

 東三局、穏乃の親。

 この局は、六巡目で、

「リーチ!」

 敬子がリーチをかけてきた。

 ただ、敬子の捨て牌は字牌だけ。やはり、他家からすればKY極まりない捨て牌だ。これは、これで恐ろしいかも知れない。

 

 一応、数絵は、守りに向けて字牌を確保していた。特に振り込み回避は問題ない。

 しかし、李奈は素直に打っていた。この局面で安牌が無い。

 待ちも何も分からない。

 ここは仕方が無い。手を進めるために不要牌を切るしかないだろう。

 それで切った{2}で、

「ロン! メンタンピン一発ドラ3。12000!」

 ここでも敬子はハネ満を和了った。

 

 

 東四局、敬子の親。

 ようやく、ここで穏乃の能力が発動し、卓上にうっすらと靄がかかってきた。

 数絵も李奈も、なんだか視界が悪く感じる。

 しかし、敬子は何も感じていないようだ。相手の能力まで感じない。彼女のKYが、相手の能力を完全に無効化しているのだ。

 ただ、能力全てを無効化しているわけでは無い。飽くまでも、敬子に降りかかる分だけを無効化しているようだ。

 

 数絵も李奈も、穏乃の支配力に押されて手が進まない。しかし、一方の敬子は、お構い無しに手を進めてゆく。

 そして、穏乃が聴牌した直後、敬子は自身のツモ牌で、

「ツモ! 6000オール!」

 親ハネをツモ和了りした。

 他人の能力が一切効かない相手。これが綺亜羅高校第二エース、稲輪敬子。

 

 

 現在、大将戦の順位と点数は、

 1位:敬子 154000

 2位:穏乃 94000

 3位:李奈 82000

 4位:数絵 70000

 

 これが25000点持ちの試合なら、さっきの敬子の親ハネツモで数絵が箱割れして終了している。

 

 恐ろしい麻雀を打つ。

 たしかに、先鋒の鷲尾静香、次鋒の竜崎鳴海、副将の鬼島美誇人よりも強いと言われるのが納得できる。

 

「綺亜羅高校大将、稲輪敬子選手。四連続ハネ満だぁー!」

 アナウンサー福与恒子の元気な声が、巨大スクリーン両脇のスピーカーを通して、観戦室全体に大きくこだました。

「そう言えば、すこやん。」

 恒子が、解説の小鍛治健夜プロに話を振り始めた。

「な…何?」

「綺亜羅高校の大将って、巷では『電波なキラー』とか『不思議ちゃん』とか呼ばれているみたいですね?」

「何なの、その『電波なキラー』って?」

「すこやん、知らなかったんだ。」

「さすがに、それは知らないよ!」

「じゃあ、三銃士ってのは?」

「ちょっと私は、まだ29歳だよ! 34歳じゃないってば!」←11月生まれで、咲が一年生のインターハイの頃が27歳です

「えっ?」

「だから34じゃ…。」

「そうじゃなくて、綺亜羅高校が結構強くて人気で、先鋒の鷲尾静香、次鋒の竜崎鳴海、それから副将の鬼島美誇人の三人を併せて三銃士って呼ばれているのよ。」

 恒子は、そう言いながら、

『三銃士』

 と紙に書いて健夜に見せた。

「三銃士って、これ?」

「そう…。もう、すこやんが34歳のわけないじゃん!」

「そ、そうだよね。」

「だって、34歳じゃ四捨五入したら30歳じゃん。すこやんは、アラフォーなんだから34歳のわけ………。」

 そして、またいつものアラフォーネタに落ち着くのだった。

 …

 …

 …

 

 

 準決勝大将前半戦東四局一本場、敬子の親。

 ここでは、前局に比べて靄が深くなっていた。

 数絵も李奈も視界が悪くて打ち難い感じを受けている。

 ところが、敬子にとっては靄など関係ない………と言うか靄が見えていない。相手の能力に対してもKYなのだ。

 ただ、この局では、純粋に敬子の手の進みが悪かった。

 

 中盤に入った。

 靄は、さらに濃くなっていた。

 十一巡目、李奈は二向聴から、ようやく一向聴に手が進んだ。

 そして、切った牌で、

「ロン。」

「えっ?」

「7700の一本場は8000です。」

 穏乃に和了られた。

 李奈は、一瞬、何が起きたのか分かっていなさそうな表情だった。

 どうやら、視界が悪くて穏乃が切った牌をキチンと捉えられていなかったようだ。

 それで、穏乃に対して勝負して切ったのではなく、穏乃の危険牌であることを見落として振り込んでいた。

 この和了られ方は、李奈にはショックが大きい。

 

 

 南入した。

 突然、暖かい強風が卓に吹きつけた。数絵の能力発動スイッチが入ったのだ。

 今まで卓を覆っていた靄が、この風で一瞬にして吹き飛ばされた。

 ついでに、ドリアン臭も消し飛ばしてくれた。ここからが本当の勝負だ!

 視界が晴れている。変な臭いも無い。

 

 南一局は数絵の親。

 数絵は、順調に手を伸ばし、

「リーチ!」

 五巡目に聴牌即でリーチをかけた。

 現在の手牌はリーチのみ。

 しかし、これが大きな手に変わる。

 毎度の如く、

「ツモ! 一発!」

 数絵は一発で和了り牌を自らの手で掴んだ。

「リーチ一発ツモ、裏3。」

 しかも、暗刻で持っていた{3}が裏ドラになった。役もドラもない手が、一瞬にしてハネ満になった。しかも親ハネツモだ。

「6000オール!」

 これが、南場の鬼神、南浦数絵の力だ。

 

 南一局一本場、数絵の連荘。

 まだ、靄は無く視界は晴れ渡っている。

 ここでも数絵が、

「リーチ!」

 五巡目で先制リーチをかけた。

「チー!」

 南場で数絵が豹変するのは有名だ。それで、李奈は一発消しで数絵のリーチ宣言牌を鳴いた。出来面子からムリヤリ鳴いた状態だ。

 しかし、数絵は、

「ツモ!」

 次のツモ番で、自分の和了り牌を引いてきた。

 しかも、

「リーツモ白赤1に頭が裏で乗って、6100オール!」

 またもや親ハネを悠々とツモ和了りした。どうやら、今の数絵には下手な小細工は通用しないようだ。

 

 南一局二本場、数絵の連荘。

 まだ靄がかかる気配は無い。

 ならば、当然、ここでも数絵は押して行く。この親番で稼ぐ。

 

 六巡目、

「リーチ!」

 この局も数絵が先制リーチをかけた。

 

 阿知賀女子学院控室では、全員が穏乃の善戦を祈りながら、モニターを通して大将戦の様子を黙って見ていた。

 臨海女子高と阿知賀女子学院で、大将戦の勝ち星を取った方が決勝に進出する。

 ただ、決勝進出条件は、臨海女子高に比べれば阿知賀女子学院のほうが一応有利だ。この2校以外が勝ち星を取る可能性もあるからだ。

 

 綺亜羅高校の大将、敬子は、かなり強い。一回戦、二回戦共に数絵に打ち勝ってきているのが、その証拠である。

 それに、この半荘でも現在首位に立っている。

 

 もし敬子が勝ち星を取った場合、2位は臨海女子高と阿知賀女子学院の得失点差勝負で決めることになる。

 その時、副将戦終了時点で300000点近くリードしている阿知賀女子学院のほうが一般論としては有利になる。

 

 ただ、肝心の穏乃の能力が、今、掻き消されている。余程のことが無い限り、総合得点で逆転されることは無いだろうが、勝ち星を数絵に取られる可能性は否定できない。

「(先輩!)」

 美由紀は、両手を合わせて穏乃の勝利を強く祈っていた。

 

 丁度この時、美由紀のスマホのバイブ音が控室に鳴り響いた。

 美由紀が急いでスマホ画面を見ると、美誇人からのLINEが届いていた。

 もう一度、美由紀でとサシで勝負したいことが書かれていた。また、前後半戦共に、美由紀のラス親での追い上げは凄かったと改めて褒めてくれていた。

 美誇人も阿知賀女子学院が決勝進出できることを願っているのだ。

 

 しかし、彼女達の願いを裏切るかのように、

「リーチ!」

 またもや、数絵が先制リーチをかけてきた。

 そして、

「一発ツモ、ドラ3。6200オール!」

 ここでも数絵は、親ハネツモを決めた。

 

 これで、大将前半戦の現在の順位と点数は、

 1位:敬子 135700

 2位:数絵 124900

 3位:穏乃 83700

 4位:李奈 55700

 次で数絵が、親満を和了れば、敬子を逆転できるところまで来ていた。

 しかも、穏乃の能力によって生み出されるはずの靄が、数絵が吹かせた南風で掻き消されてからは、未だに復活する気配が無い。

 阿知賀女子学院控室に、重い空気が圧し掛かってきた。

 

 南一局三本場、数絵の連荘。

 ここでは、李奈が四巡目で聴牌した。赤牌2枚を含む七対子だ。

 意外なことと感じられるかも知れないし、たしかに今の大将戦メンバーの中では李奈が一番格下かも知れない。

 しかし、彼女だって全国大会出場校のレギュラーである。

 しかも準決勝進出校だ。

 当然、普通に考えたら強い部類に入る。全国10000人の女子高生雀士の真ん中よりは遥かに上の順位になる。

 

 ただ、李奈は、この局面で迷った挙句、リーチをかけなかった。確実に和了ることを選択したのだ。

 次巡、数絵が聴牌した。しかし、数絵も何か虫の知らせがあったのか、直感的にリーチをかけなかった。いや、かけないほうが良いと感じたのだ。

 そして、その直後、

「ツモ! 七対ドラ2。2300、4300!」

 李奈が満貫をツモ和了りした。

 恐らく数絵は、李奈のツモ和了りを予感していたのだろう。それで、リーチをかけなかったようだ。

 何はともあれヤキトリも回避でき、李奈は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 南二局、李奈の親。ドラは{9}。

 ここで卓上に靄が復活した。数絵の親が終わるのと同時に再発動したかのように思える。

 こうなると、数絵も李奈もやり難くなる。

 妙に視界が悪いし、得体の知れない巨大な何かに見られているような感覚。

 ただ、それでも何とか数絵は聴牌までもって行った。

 

 数絵の手牌は、

 {一二三七七③④[⑤]246西西}  ツモ{[5]}

 

 まだ靄は薄い。無効化の能力発動は完全では無いように感じていたのだ。

 そして、当然、数絵は、{2}切りで、

「リーチ!」

 逆転狙いのリーチをかけた。リーチドラ2に、南場の数絵なら一発ツモや裏ドラが期待できる。

 

 しかし、そのリーチ宣言牌で、

「ロン。」

 数絵は穏乃に振り込んだ。

 

 開かれた手牌は、

 {七八九①②③1399南南南}  ロン{2}  ドラ{9}

 ダブ南チャンタドラ2。ハネ満だ。

 

 モニター画面に、和了る直前の穏乃の姿が一瞬映った。

 その時、能力者である美和の目には、穏乃の背後に火焔と激しい忿怒相をした神仏の像が見えていた。

 一瞬、美和は、ダムに亀裂が入りそうになった。

 彼女は慌てて股間を両手で押さえた。

「(セーフ………。でも、あれは一体?)」

 美和は神仏のことに詳しくない。当然、穏乃の背後に見えたものの正体が分からない。

 それで、

「ねえ、今、一瞬さぁ。阿知賀の大将の背後に火を背負った怖い仏像みたいなのが見えたんだけど…。あれって?」

 と美和が、静香に聞いた。静香は、多少は仏像の知識があるようだ。

 しかし、静香は穏乃の背後にある者の姿が捉えられておらず、

「えっ?」

 と言いながら不思議そうな顔をしていた。

 

 すると、これに美誇人が答えた。彼女は、美由紀ファン故に阿知賀女子学院のことを、それなりに調べていたようだ。

「あれは蔵王権現らしいね。」

「蔵王権現?」

「そう。神仏の一つ。東四局以降に、その能力が現れて、相手の能力を全部無効化するんだって。ネット情報だけど。」

「そうなんだ。」

「阿知賀の大将と戦った能力者の何人かは、対局中に見えたらしいよ。」

「ふーん。でも、無効化かぁ。ある意味、敬子に似てるってことかな?」

「ちょっと美和。単なるKYと神仏を同列にしちゃダメだってば!」

「そ…そうだよね。バチが当たるよね。」

 そう言いながら美和は懺悔するように両手を合わせて目を瞑った。

 

 

 南三局、穏乃の親。ドラは{一}。

 前局に比べて靄が濃くなっている。

 穏乃に山が支配されているからであろう。数絵も李奈も、全然手牌をツモ牌が噛み合あわないでいた。

 

 一方、相手の能力のうち、自分に降りかかる分を無効化する敬子には、穏乃の山支配は全然効いていなかった。彼女は、普通に手を伸ばしてゆく。

 そして聴牌。

 

 この時の敬子の手牌は、

 {一二三四五六七八九②④⑥⑧}  ツモ{⑧}

 

 ここから打{②}。

 しかし、

「ロン。」

 これで穏乃に和了られた。

 

 穏乃が開いた手牌は、

 {一一一二三三四[五]③④678}  ロン{②}  ドラ{一}。

 

「平和ドラ4。12000。」

 まあ、何のことは無い。

 この敬子の振込みは、穏乃の能力とは関係の無く、普通に良くある『巡り合わせの悪さ』に起因するものである。

 ここで{③}か{⑥}が来ていれば絶対に{②}を振り込まないだろうし、今回も{⑥}切り聴牌だって選択肢としてはあったはず。

 

 まあ、今回の敬子の場合、

『{[⑤]}がツモれたらイイな!』

 とか都合の良いことだけを考えて{②}を切ったに過ぎない。

 勿論、

『{⑤}待ちだと赤牌が2枚あるから、逆に出難いし、{③}待ちのほうが良いよね!?』

 との考えもあるし、慎重な人なら、{⑤}待ちにはしないだろう。

 

 しかし、見ている方としては、敬子の能力が穏乃に無効化されたのではないかと思えてしまう。

 必ずしも純粋に振り込んだとは解釈しない。

 それもあって、美和が、

「もしかして、敬子が無効化された!?」

 と声を上げた。

 しかし、これに鳴海が、

「KYが無効化されたんならイイじゃない?」

 と一言。

 これを聞いて、

「「「(たしかに!)」」」

 静香も美誇人も美和も、妙に納得していた。

 今後の敬子の人生のことを考えたら、その方が良いかもしれないと思えたのだ。




おまけ
前回からの続きです。
今回で、このシリーズは終了します。


エピローグ.『増幅器卒業!』

操縦室後方ではユウキとエイスリンが気を失っていた。二人とも、エナジーを激しく吸い取られて疲れたのだろう。
母は涙を流しながら私の顔を見詰めていた。
「塞ぐちゃん…本当に塞ぐちゃんなのね…。」
「お母さん…。」
助けることができてよかった。
三つ子達も、やっと笑顔を見せてくれた。出会ってから、初めて見せてくれた気がする。
ふと、後方の鏡になったドアに、今まで見た事の無い美しい女性の姿が映っていた。
これが今の私の姿なのか?
それは、ゴッド・塞でもデビル・塞でもなかった。例えようの無い美しさだ。もはや次元を超えていた。
これまでの人生の中で見てきた女性の中で最高に美しい。
まるで、人類全てに夢と愛と勇気を与える麻雀プロ兼最高のアイドルのよう………(えっ?)。


はやり「最後にちょっとだけ登場させてもらったぞ!」

閑無「格が神からアイドルに落ちてるじゃねーか! そもそも、神よりアイドルが上っておかしくねえか?」

はやり「じゃあ、アイドルから女神に戻してもらうわよ。あと、一応台本にあるとおり、灰色のカラコンを入れるわね。じゃあ、塞ちゃん、もう一回お願いね!」

塞「わかりました。(このワガママアラサーが!)」


それは、ゴッド・塞でもデビル・塞でもなかった。例えようの無い美しさだ。もはや次元を超えていた。
これまでの人生の中で見てきた女性の中で最高に美しい。
灰色の瞳が印象的だ。
神々しくて、まるで女神そのものだ。見ているだけで涙が出てきそうだ。

シノはカクラ語で、『勝利の女神』の意味。
そう言えば、何かの本で読んだことがある。
地球で、それに当たりそうな女神は、多分、ニケ。
軍神、パラスアテナに付き従う女神。

地球で言うニケに当たるシノを動かす存在は私…。
もしかしたら、この今の私の姿こそパラスアテナ(はやり?)なんだ…。


はやり「?は不要だぞ!(朝倉南調)」

閑無「いや、普通『?』は付くだろう? それに、はやりの方が慕より立場的に格上って、おかしくねえか? (シノハユの主人公は慕だし)」

はやり以外全員「(たしかに!)」


明確な根拠は無いけど、何だか、そんな気がした。
今までの容姿にゴッド・塞とかデビル・塞とか言っていたことさえも、バカらしくなってくる。次元を超えた存在。
パラスアテナは、美しき知恵と戦いの女神。
このシノの操縦者として最も相応しい姿なんだろう。


杏果「すごい持ち上げ方だね。はやりが『美しき知恵と戦いの女神』だなんて。」

はやり「それくらい、当然だぞ!(またもや朝倉南調)」


でも、多分、二度とこの姿を与えられることは無い。
これは本当の私じゃないから…。
クルミ達によって創られた美しさだから…。
今のうちに、この姿を目に焼き付けておきたい。
一生の記念だ。
でも、そこから先の記憶は無かった。どうやら、限界を超えて戦った私は、そこで気を失ってしまったようだ。


ヒサとの戦いから、一週間が過ぎた。
私が気を失っている間に、クルミ達が母に今までの軌跡を説明してくれたらしい。キヨスミ星に連れ去られていただけあって状況理解は早かったそうだ。普通に地球で生きていたら、とても信じられない話だろう。
ただ、パラスアテナ(はやり?)の姿が私の本当の姿ではないと知って、母は残念がっていたらしい。
でも、まあユウキ(霞)に似た姿なら良いかと妥協してくれたみたいだったけど、後で私がブレスレットのスイッチを入れて元の姿を見せたら、
「私とあの人との間に生まれた子だもんね。こんなものよね。」
と言いながら大きな溜め息をついていた。
美女だらけのキヨスミ星(?)にいて、女性の美に対して目が肥えたみたいだ。


あの後、ユウキは、ヘマをしたことを反省して、私の前で土下座した。でも、許した途端に抱きついてきて、
「タコス・エナジーくれだじょ!」
とキスをせがんできた。
ユウキは、フクジ・エナジーをタコス錠として摂取していたため、フクジ・エナジーのことをタコス・エナジーと呼ぶ。

多分、ユウキは同性愛者なんだと思う。キヨスミ星では女性の方が圧倒的に強いので、男性への興味が薄れているのかもしれない。


優希「そんなことないじょ! 私は、咲ちゃんや和ちゃんと違って百合じゃないじょ! それに京太郎には興味があるじょ! おい犬!」

京太郎「うるせーな、このタコス!」


ユウキのようにキヨスミ星でトップレベルにいた女性なら尚更かもしれない。
でも、私は同性愛者じゃない!(←嘘)

ユウキは、今回の戦いで殆どのキヨスミ星人が亡くなったことを理解していた。このまま残れば彼女が総統の座におさまったかもしれない。
でも、彼女は故郷の星を捨てる決心をした。どうしても私と母に付いて来たいらしい。
本心は、地味に故郷の再建作業をするよりも、明るく楽しい人生を取り戻したい。戦いに明け暮れた人生をリセットして新たに青春を謳歌したい。そのために私達からフクジ・エナジーをもらって地球で女の子として暮らしたい。
そんなことを考えていたようだ。

ただ、その前にやるべきことが、いくつかあった。
一つ目は機密文書の処分だ。
キヨスミ星が二度と他の惑星の女性を拉致するような行動に出られないようにしなければならない。そのためには、ミホコ波測定装置に関する資料とフクジ・エナジーに関する資料、タコス錠の製造法に関する資料、ワープ機能向上に向けた超原子の利用に関する資料は、少なくとも廃棄しなければならなかった。

二つ目はタコス錠の生産工場の破壊だ。二度と同じものを製造させてはならない。この破壊作業は三体のロボットの力で簡単に済ますことができた。

三つ目はキヨスミ星に既に制圧された星の開放だ。
これは、ユウキが各星々に送り込まれた司令官を説得することで全て事足りたようだ。
さすが、キヨスミ星最強最悪と言われただけはある。誰も彼女に楯突こうとはしなかった。

私は、ふと三国志の無血入城を思い出した。それを成し遂げてしまった彼女は、本当に凄い実力者なんだと改めて感じた。
余り逆らわないようにしよう。


優希「東風の神だしな。これが私の実力だじぇい!」

数絵「南場には弱いけどね。」


それともう一つ。ヤエ弾の研究開発に関する資料と報告書も全て廃棄しなくてはならない。
これは兵器として危険過ぎる。
電子媒体資料も全て削除。紙資料は全てシュレッダー行きだ。

三つ子達は、エイスリンを無事救出できて嬉しそうだった。この四人は、スコヤンでウィシュアート星に送り届けた。
続いて、アコとハツミとシズノをスコヤンでカクラ星に送ってから、私と母とユウキの三人はクルミと一緒にトキ&トヨネで地球に向かった。

クルミは、私と母とユウキを地球に降ろすと、カップラーメンをたらふく食べた後、コピーロボットを回収してカクラ星へと帰っていった。
まさか、一気に大盛を八個も完食するとは思わなかったけど…。
なんだかんだで、これでさらに一週間が過ぎていた。

私がクルミに連れられてからヒサを倒すまで一週間。そして、その後の作業などで一週間。地球を離れていたのは合計二週間程度。
でも、これが何ヶ月も何年もかかったように感じた…。
とても長い二週間だった。
これでめでたく、私は増幅器卒業!
ついでに今日で冬休みも終了。明日から学校だ。
冬休みなのに、全然休んだ気がしない。
でも、この二週間は、私にとって良い経験と言うか、人生の勉強になった気がする。

自分の若さと美貌を不当に手に入れるために他人の命を平気で奪うやつ。その筆頭ヒサ。こんな人間には、なりたくない。
でも、他人から何らかのモノを搾取する人間は地球にも沢山いるように思う。でも、私は、そうならないようにしたい。

そして、破壊者ユウキ…。
『人の振り見て我が振り直せ』
とは、よく言ったものだ。
私も一歩間違えば有頂天になって、あんな風になっていたかもしれない。それがクルミ達にもらった私の新しい姿と瓜二つの女性なのだから余計にそう思う。


今、ユウキは私の家にいる。母と私と彼女の三人暮らしだ。
彼女は以前のような破壊神ではなくなった。
むしろ、可愛らしい表情を見せるようになった。
もしかしたら、私と出会った当初は、わざと嫌われ者を演じていたのかもしれない。最強最悪の司令官である立場を貫くために…。
それ以前に、まだ敵同士だったし…。

彼女は宇宙侵略に出るほどの科学力を持った星の人間だ。地球で証拠を残さずにハッキングすることも簡単にできてしまう。
基本的には、そんなことは、させたくない。
でも、戸籍とか経歴とかは、地球仕様で作っておかないと彼女も生活する上で不便だ。
それで、彼女は適当に戸籍を操作して、私の一つ年上の姉(?)として地球人になりすましている。
近所の人達の記憶までも操作して…。

もともと母のことを慕っていた部分はあるみたいだし、一緒にいられて嬉しそうだ。
経歴は適当に作った。小学校と中学校は私と同じ学校を卒業、高校は隣町の進学校に行ったことにして、必要なデータを全て改ざんした。

さらに近くの旧官立大学に現役合格したけど、諸事情で一年休学…と言うか留学していたことにしてしまった。
受験してもいないのに、こっちのデータも勝手に操作してしまったのだ。
今度の春から大学一年として潜り込むらしい。
これらのことには目を瞑ろう。彼女の生活基盤を作るためだ。
それに、彼女自身、この春からの大学生活を楽しみにしているみたいだ。

それと、結構、彼女は私よりも働き者だ。むしろ、私の方がグウタラしている。
今のところ、彼女は夜の仕事には興味が無いらしい。普通に喫茶店のウェイトレスと家庭教師で結構稼いでいるようだ。
その稼ぎの一部を私はお小遣いとして貰っている。
彼女曰く、エナジー代らしいけど…。

たしかに、お小遣いと引き換えに、その妖艶な容姿を保持するため、一週間に一回は私に十分間以上のディープキスを要求してくる。
でも、その容姿で人生をやり直したいのだから、それに、私が助けちゃったのだから仕方が無い。
もっとも、私がフクジ・エナジーを与えなくても、母があげてしまうかもしれないけど…。

それに、三国志の無血入城を彷彿させたくらいだ。下手に怒らせたくないし…、逆らわない方が身のためと思う…。

彼女は、私がトドメをさせなかった時、
『私を助けたこと、必ず後悔するぞ!』
と言っていた。
確かに後悔しているけど、あの時とは随分意味合いは違っていると思う。
彼女は、これからも、その妖艶な容姿を武器にして行くつもりみたいだ。

でも、芸能界とかには全然興味が無いないらしい。キヨスミ星時代は超有名人だったけど、今は『普通の美女』に戻りたい?…らしい。
普通の人間としてひっそりと…とまでは言わないのが彼女らしいのかもしれない。

父には母が帰ってきたことをまだ連絡していない。
どうせ月一回帰ってくる。来月、帰ってきた時のサプライズにするつもりだ。その時に、ユウキのことも紹介する予定にしている。
エロ系美人な娘が増えて喜ぶかな?
手を出したりはしないと思うけど…。


霞「私、エロ系じゃないんですけど。」

初美・巴・春「「「…。」」」


私はと言うと、アコから受け取った特殊なブレスレットをそのまま付けている。母は、ブレスレットを外させたがっているみたいだけど…。
色々考えたけど、無理に爆乳美女でなくても良いかと思って、普段はブレスレットの力で昔の姿に戻っている。
やっぱり、こっちの姿の方が見慣れているし落ち着く。

それに、ユウキと生き写しなので双子に間違われてしまう。それは何となく避けたい気がしている。
でも、一つだけ本来の自分以上の力が欲しかったと思っている。
これだけは努力しないで手に入れたかった。
それを貰うのを忘れてしまった感じがする。
と言うか私の選択ミスだ。

たしかにクルミは、この身体は遺伝情報の引き出し方が『二人分のミヤモリ・エナジーを増幅するために体力面にバランスが傾く』とは言っていたけど…。
嘘は言われていないけど、ゴッド・塞のように頭が良いわけじゃない。
ちょっとは頭が良くなったとは思う…と言うか、信じているけど、やっぱり天然だ!
私は、こう叫びたい。
「頭を良くしてもらうのを忘れてた!」
やっぱり選択を間違えたかも…。
違う方を選んでおけば良かったと後悔している。

いまだに冬休みの宿題が終わっていない。
いや、もっと大事なことがある。
休みが明けたら受験だ!

ゴッド・塞のほうが良かった気がする。
後の祭りって、こう言うことなんだろう。

カン
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