咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百二十三本場:超魔物との初対戦

 春季大会決勝戦、次鋒後半戦も、いよいよ南場に突入した。

 南一局、ゆいの親。

 この段階で、次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:光 165000

 2位:鳴海 150400

 3位:ゆい 53800

 4位:萌 30300

 これだけ見ると、鳴海がハネ満ツモで逆転できる位置にいる。

 

 しかし、これが前後半戦のトータルになると、

 1位:光 395000

 2位:鳴海 255800

 3位:ゆい 88700

 4位:萌 60500

 圧倒的点差で光がリードしている状態である。2位の鳴海に139200点もの点差を付けている。鳴海からすれば絶望的点差だ。

 

 前局では、鳴海が光の支配力に打ち勝ったが、その強大な気配から察するに、光は能力放出に限界が来ていたわけでは無さそうだ。

 それに、光の縛りである翻数上昇は、ある程度のところまで行くと、一回リセットした方がやりやすい。むしろ、それもあって前局では敢えて支配力を下げていたと考えるべきだろう。

 

 ここでは、

「ポン!」

 四巡目に鳴海が動き出した。

 そして、そのさらに三巡後、

「ポン!」

 鳴海が二つ目の刻子を副露した。

 しかし、この直後、

「ツモ!」

 光が和了った。

「タンツモドラ2。2000、3900。」

 しかも、満貫級の手である。これで、光はさらにリードを広げた。

 

 

 南二局、萌の親。

 第一弾の和了りを達成すると、光の手は早くなる。しかも、ここには咲や衣のように、光の支配力と拮抗できる相手がいない。

 厳密には、多少は鳴海が光の支配力に対峙しているのだが、鳴海には光が仕掛ける速攻勝負に対抗する技が無い。

 

 例えば、鳴海は槓ドラによる点数上昇を主力武器とし、自ら槓するが、咲とは違って必ずしも嶺上牌が有効牌になるとは限らないし、嶺上開花で自在に和了れるわけではない。

 連槓も滅多に無いし、咲や衣レベルの鬼ツモでもない。

 なので、ツモ運は決して悪いほうでは無いが、余程のことが無い限り六巡目以内に鳴海は和了りまで持って行けない。

 

 後半戦では、途中まで光は和了りに向かう気配を見せていなかった。それで、鳴海に大量リードを許す結果となった。

 何故、後半戦の東三局二本場まで和了ろうとしていなかったのか、理由は今のところ不明だが、和了りに向かい出したら光は鳴海を連続和了で見事に逆転している。

 やはり、北欧の小さな巨人の二つ名はダテじゃない。

 

 この局でも、光は四巡目で聴牌し、六巡目で、

「ツモ! 2000、4000。」

 タンヤオツモ一盃口ドラ2を和了った。

 

 

 南三局、鳴海の親。

 ここでも光の手は早い。

 三巡目で聴牌し、四巡目で、

「ツモジュンチャンドラ2。3000、6000。」

 比較的綺麗な手を和了った。このスピードに他家は付いて行けない状態だ。

 

 

 そして、オーラス、光の親。

 ここで光は、

「ポン!」

 三巡目に対面の萌から{白}を、

「ポン!」

 五巡目に下家のゆいから{①}を鳴いた。この早いポンは、一見鳴海に似ている。

 しかし、光は鳴海とは違って加槓はしない。

 

 七巡目。

 光は既に聴牌していた。

 手牌は、

 {④④[⑤]南南南}  ポン{①①横①}  ポン{白横白白}  ツモ{④}  打{⑦}

 

 ここで嵌{⑥}待ち聴牌から{③⑤⑥}の多面聴に切り替えた。

 すると、この{⑦}を、

「ポン!」

 鳴海が鳴いた。

 これにより、光の次ツモが早々に回ってきた。

 

 運が低下している時に鳴かれると、次に、せっかく欲しいところが来るはずだったのが他家に流れてしまう。

 しかし、ツキがある時は逆である。鳴きによってラッキーな方にことが進むようになることも多々ある。

 ここでの光も、まさにそれと同じである。

 鳴海が鳴いてツモがずれたことによって、

「ツモ!」

 光は高目の{[⑤]}を引いて和了った。

「南白混一対々ドラ2。8000オール。」

 光が想定していたのは南白混一色赤1の満貫だったのだろう。それが高目を引いて倍満に変わった。

 これが、ツキのある者の和了りだ。

 

 光は、これで和了り止めしても良いだろう。圧勝である。

 しかし、光は、

「一本場!」

 連荘を宣言した。

 

 現在の次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:光 216900

 2位:鳴海 132400

 3位:ゆい 36900

 4位:萌 13800

 ここから光は、得失点差勝負にもつれ込むことを想定して、稼げるだけ稼ぐつもりだ。

 

 オーラス一本場。

 鳴海としては、これ以上、光に和了らせてはならない。白糸台高校との点差を、これ以上広げたくないからだ。

 

 前局、一気に光の和了り役の翻数が六翻まで増えた。なので、光は、この局で和了るためには最低でも七翻の和了り役を必要とする。

 つまり、前局での高めツモが、逆に光の翻数上昇の足かせになり、光も手作りが苦しくなるはず。

 

 配牌を見る限り、鳴海は手が重く和了りまで時間がかかりそうだ。ここは、鳴海が、ゆいか萌に差し込んで光の連荘を止めるしかない。

 

 ただ、萌は、もはや点数的に厳しい状態。ここまで落ち込むと、ツキからも完全に見放されて聴牌すら危ういのではなかろうか?

 そうなると、ゆいが早い段階で聴牌できているかどうか?

 いや、聴牌させるしかない。

 

 鳴海は、ゆいの捨て牌から鳴けそうな牌を探した。

 ゆいの理牌のクセは、ある程度分かっている。

 大抵、きっちりと萬子、筒子、索子、東南西北白發中の順に置き、しかも数牌は本人から見て左から右に行くに従って数が大きくなる。

 そうしない局もあるが、全体の八割以上が、その配置だ。つまり、コンピューター麻雀と同じ置き方をすることが多い。

 

 それを前提に手出しした{東}と{西}の位置から考えると、多分、{南}が配牌で対子。

 ならば、これを鳴かせるつもりで、鳴海は四巡目に{南}を捨てた。

「ポン!」

 読みどおり、ゆいが{南}を鳴いた。

 しかも、ゆいにとって{南}は自風であり場風。ダブ南だ。

 ただ、鳴海はゆいの上家ではない。さすがにチーはさせられない。

 

 本来なら、そう安々と光が鳴かせるとは思えない。

 しかし、この局での光の和了り役の縛りは七翻。これを作り上げるために、光からも甘い牌が捨てられてきた。

 

 ゆいは、後付を余り好まないようだ。なので、大抵は役牌を和了り役とする場合は、役牌から鳴くケースが多い。変に真面目なのだろう。

 今回で言えば、{南}を鳴いてからでないと、他の牌を鳴きに行かない。つまり、{南}以外で鳴ける牌が先に出てきても、ポンはおろかチーすらしないだろう。

 恐らく鳴海が普段どおり捨て牌を絞った打ち方をしていたら、ゆいは{南}を鳴けず、結果的に光の捨て牌を鳴きに行かなかったに違いない。

 しかし、今回は既にダブ南を鳴いている。なので、光が捨てた牌を、

「チー!」

 ゆいは鳴いて手を進めた。

 

 光からすれば、鳴海がゆいに鳴かせたのは想定外だった。普段なら鳴海は、そんな甘い切り出しをしないからだ。

 しかし、今は光の親を流すために鳴海はゆいを使っている。

 

 綺亜羅高校の三銃士は、三人とも麻雀と言うゲームが四人で行われることを良く理解している。

 先鋒の静香だけではなく、鳴海も福路美穂子のような他家を手駒として使う麻雀ができている。

 

 光は、

「(こいつ、やっぱり只者ではない!)」

 こうなるのであれば、連荘しないほうが良かったとさえ思えてきた。

 しかし、時既に遅し。

 その次巡に鳴海が敢えて切った牌で、

「ロン。ダブ南ドラ1。3900の一本場は4200。」

 ゆいが和了った。

 正確には鳴海が差し込んだわけでが、これで次鋒後半戦が終了した。

 

 次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:光 216900

 2位:鳴海 128200

 3位:ゆい 41100

 4位:萌 13800

 

 そして、次鋒全後半戦トータルでは、

 1位:光 446900

 2位:鳴海 233600

 3位:ゆい 76000

 4位:萌 43500

 光が2位以下に圧倒的な差をつけて勝ち星を手にした。

 これで、白糸台高校が勝ち星二となり、あと一つ勝ち星を取れば優勝が確定する。まさに勝ち星リーチの状態だ。

 

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 

 対局後の一礼を終えると、次鋒選手達は対局室を後にした。

 ただ、白糸台高校が次鋒戦までで勝ち星二となることは、想定済みである。他校の選手達にとっては、副将戦と大将戦が勝負となる。

 

 これから始まるのは中堅戦だが………さすがに中堅戦に出てくる超魔物が相手では勝ち目が無い。

 勿論、ただ蹂躙されるだけのつもりは無いし、抵抗はしてみるが………、まあ、勝ち星は阿知賀女子学院が下馬評どおり取って行くだろうと考える。

 それで勝負は副将戦と大将戦になるのだ。

 

 なお、先鋒戦と次鋒戦の合計は、

 1位:白糸台高校 696400

 2位:綺亜羅高校 475900

 3位:阿知賀女子学院 228300

 4位:永水女子高校 199400

 白糸台高校が断然トップとなった。対する優勝候補ナンバーワンの阿知賀女子学院は3位と、厳しい試合展開になった。

 

 

 毎度の如く、咲は恭子に連れられて対局室に送り届けられた。迷子の件に関してだけは全くもって信頼されていない。

 それから少し遅れて、白糸台高校の多治比麻里香(多治比真佑子妹)、永水女子高校の滝見春、綺亜羅高校のエース的井美和が入室してきた。

 すると、咲は、

「麻里香ちゃん、美和ちゃん、それから滝見さん。前半戦は、思い切り行くね!」

 三人に宣戦布告した。

 麻里香と美和には『ちゃん』付け。咲は、この二人とは既に友人関係にある。

 しかし、春に対しては『さん』付けだった。

 

 そう言えば、春は、昨年と一昨年のインターハイに出場しているが、咲との対局は今回が初めてだった。

 咲が春と直接話をするのも今日が初めてである。

 それで、咲は春に対しては、まだ苗字呼びプラス『さん』付けだった。

 

 

 この頃、光は控室でソファーに寝転んでいた。

 次鋒戦の対局結果だけ見れば光の圧勝だが、実のところ光は、鳴海を相手にして相当疲れていた。

「淡さぁ。」

「何?」

「団体戦が終わっていないのに個人戦の話をするのも何だけどさ…。個人戦で綺亜羅の人達と当たると、ちょっと面倒かもよ。」

「分かる気がする。私も綺亜羅の先鋒とは結果的に7200点差しか付けられなかったし。」

「私の方も、あそこまで追い上げてきたのには正直驚いたよ。ホント、綺亜羅のヤツらは強い。気を抜いたら持って行かれるね。私でも咲でも。」

「かもね。それに、綺亜羅の次鋒って、私には、一番やり難い相手かもしれない。下手にダブリーができない。」

「絶対安全圏だけで押すしかないね。中盤まで待っていたら槓ドラを沢山乗せてくる。準決勝の数え役満はマグレじゃない。必然だって分かったから。」

「私もそう思う。あとは、絶対安全圏内を越えた時にどうするかだね。」

「槍槓が狙えると、少しはおとなしくなるかも知れないけどね。」

「でも、超偶然役だからね。光は狙ってたんだろうけど。」

「まあね。」

 

 光は、後半戦東三局までは、パワー完全復活のために敢えて様子見していたが、同時に個人戦で淡が鳴海と当たった時のことを想定していた。

 この大会は、打倒阿知賀女子学院だけではない。打倒宮永咲でもある。当然、目指すのは白糸台高校の団体戦優勝と、個人戦で白糸台高校の選手が優勝すること。団体戦、個人戦ともに白糸台高校が征することだ。

 そのためにも、個人戦では光と淡の二人で決勝進出を果たして優勝する確率を少しでも上げたい。それで、少しでも長く鳴海の打ち方を淡に見せようとした部分はあった。

 ただ、あそこまで追い上げられたのは光としても想定外だったようだ。

 

 それにしても、淡からも光からも、ここまで綺亜羅高校三銃士の評価が高いとは………。

 この会話を聞きながら、三銃士最後の一人、美誇人と当たるみかんは、

「(私、大丈夫かな?)」

 内心、穏やかではなくなった。

 白糸台高校のエースと第二エースが認める相手だ。正直、勝てる気が失せてくる………。

 

 

 控室のモニターには、中堅戦がいよいよスタートする場面が映し出されていた。

 場決めがされ、起家は咲が引いた。今回もタコス効果が効いているようだ。

 南家は麻里香、西家は春、北家は美和に決まった。

 

 

 東一局、咲の親。ドラは{③}。

 初っ端から、いっきに咲のオーラが増大して行くのが分かる。

 しかも、

「リーチ!」

 咲がいきなりダブルリーチをかけてきた。

 そして、次巡のツモで、

「カン!」

 {中}を暗槓し、

「ツモ!」

 毎度の如く{[⑤]}ツモでの嶺上開花………五筒開花を決めた。他家三人にとっては、抗う術が無いような和了られ方だ。

 {③③④⑥}と持っているところへの{[⑤]}ツモ。ローカルルールの穴五でもある。

「ダブリーツモ嶺上開花、中ドラ3(表2赤1)。8000オール。」

 しかも馬鹿デカい手。

 他家には不条理さしか感じられない和了りだ。

 

 麻里香は、既に蒼褪めていた。

 もの凄く咲は気合いが入っている。咲の下家………麻里香に向かって飛んでくる咲のエネルギーが半端では無い。

「(直前にトイレに行っておいて良かったぁ。)」

 と、麻里香は心底思っていた。

 

 東一局一本場。

 ここでは、六巡目に、

「カン!」

 咲が{東}を暗槓した。ダブ東だ。

 そして、

「ツモ! ダブ東ツモ嶺上開花ドラドラ。6100オール。」

 あっと言う間に親ハネツモ和了りを決めた。

 

 咲が和了りを決めた直後、美和が股に両手を当てていた。

 美和のところにも、咲のオーラの余波が飛んできたのだ。咲の下家ほどではないにせよ、相当なパワーを感じる。

 当然、美和も、

「(直前にトイレに行っておいて良かった!)」

 と思ったのは言うまでも無い。

 

 東一局二本場。

 序盤から、

「ポン!」

 対面の春が捨てた{中}を、咲が鳴いた。

 この時、一瞬だけ春は咲と目が合ったが、同時に咲の背後に不穏な黒い影が見えた。これは一体何なのだろうか?

 

 その後、数巡は静かな場だったが、

「カン!」

 咲が{中}を加槓すると、場の空気が一変した。

 嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 咲は{2}を暗槓し、次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 今度は{3}を暗槓した。

 続く三枚目の嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 咲は、そのまま当然のように嶺上開花で和了った。

 

 この時だった。

 さっき、咲の背後に見えていた黒い影から、突如ホオジロザメが飛び出してきて春に襲い掛かってくるのが見えた。

 物理的には、そんなことは有り得ないが、そう言った幻を見せるだけの力が咲の槓にはあるのだ。

 春は、とっさに身構えた。

 

 この様子が映像として流れると、某ネット掲示板では、

『あの反応、分かるよモー。』

『この永水の娘って、咲様対局は初めてだっけ? by高二最強』

『初めてっス! きっとホオジロザメでも見えたっスかね?』

『ティラノサウルスじゃなかか?』

『モササウルスじゃなかと?』

『だとすると、放水は近いと見たじょ!』

『もいっこカンも出たし、放水する未来が見えるで!』

『じゃあ、初モノってこと? チョー嬉しいよぅ!』

『初モノ、スバラです!』

『対局後ではなく、対局中の放水を希望しますわ!』

『その可能性はあると思』

『春ちゃんのオモチは大きさも形も素晴らしいのです!』

 既にいつものメンバーが反応していた。

 

 開かれた手牌は、

 {6688}  暗槓{裏33裏}  暗槓{裏22裏}  明槓{中中横中中}  ツモ{8}

 

 混一色中対々和三暗刻三槓子嶺上開花。

 しかも、この形は緑一色から發が中に置き換わった形。何気にローカル役満の紅一点だ。

「8200オール。」

 ドラ無しの10翻。

 咲が余裕の親倍ツモを決めた。




怜「今回から綺亜羅高校の話やで!」

爽「タイトルは綺亜羅の旋風。」

怜「ハリスの旋風みたいやな。」

爽「適当に流して書いているだけなんで、文章の乱れとか分かり難いところがあるかも知れませんが、ご勘弁ください。」

怜・爽「「それではスタート(やで)!」」



綺亜羅の旋風-1


時は二年前に遡る。
桜の花びらが舞うこの季節。

この日、長野県の清澄高校では入学式が執り行われていた。
後に高校麻雀界を震撼させる少女『宮永咲』や、女子高生雀士アイドル『原村和』、東風の神『片岡優希』、そして、和の胸を見て鼻の下を伸ばす『須賀京太郎』と言った面々が清澄高校に入学した日である。

奈良県の阿知賀女子学院でも、同じ日に入学式が行われ、後に深山幽谷の化身として恐れられる『高鴨穏乃』や、援助交際疑惑が持ち上がる『新子憧』が阿知賀女子学院高等部へと入学した。

埼玉県でも、この日に綺亜羅高校の入学式が行われた。
綺亜羅高校は県内でも麻雀強豪校として有名で、かつては全国大会にも出場していた。
ここ数年はベスト4止まりだが、それでも県内では、かなりの麻雀強豪校と言えるであろう。

古津節子(こつせつこ)は、新しく始まる高校生活への期待に胸を膨らませ、綺亜羅高校に入学した。
綺亜羅高校は共学で、各学年10クラス。男女比は、ほぼ1対1だ。

入学式が終わり、節子達は教室へと移動した。
クラスは1年1組。

教室に入って、真っ先に節子の目を惹いたのは、一人のとんでもない美少女だった。
もはや、
『クラスに一人くらいはいるよね』
なんてレベルではない。
それこそ2位に大差をつけて余裕で学内一になれるくらいの美しさだ。

細身でスラッとしていて脚も長い。
オモチも小さくは無い。巨大ではないが、バランスの良い大きさだ。
節子は、その少女に一目惚れしたようだ。何らかの形でお近づきになりたい。

クラスの男子達の視線が、その娘に集中しているのがよく分かる。
反面、大多数の女子達は余り良い顔をしていない。これだけの美少女が生活圏内にいたら絶対に男が回ってこないのは目に見えている。
基本的に、その娘に熱い視線を送る女子は、節子以外いなかった。

男子達の羨望の眼差しと、女子達の嫌悪感極まりない負のエネルギーに満ちた冷たい視線が交差する。


担任が来た。
先ずは順番に自己紹介をさせられた。
「古津節子(こつせつこ)です。上から読んでも下から読んでも同じ名前です! 決して骨折子ではありません!」
節子は、毎回、こんな感じで自己紹介する。正直、自虐的だが、これで大抵の場合は名前を覚えてもらえる。

一方、その美少女の名前は稲輪敬子。
どうやら敬子は麻雀部に入るつもりらしい。節子と同じだ。
………と言うことは、あの美しい少女を節子は教室でも部活でも毎日拝めると言うことになる。
これは、ある意味、節子としても毎日が楽しみと言えよう。

今日は、基本的に連絡事項が中心だ。いきなり授業をやるわけではない。
HRが終わると、大方の予想通り男子達が敬子を取り囲んだ。
「ねえ、彼氏いるの?」
「好きなタイプは?」
「どの辺に住んでるの?」
どの男子も敬子を落としたいのだろう。
その気持ちは節子にも良く分かる。自分が男だったら、間違いなく、あんな女性を隣においておきたい。

と言うか、性別は関係ない。今でも敬子に近づきたい。
絶対に優越感に浸れる。デートの日には、街行く他の男どもから来る羨望の眼差しが容易に想像できる。

ただ、敬子自身は、人に取り囲まれるのが好きではないみたいだ。なんか、嫌な顔をしている。

すると、敬子の背後から、
「敬子。ほら、行くよ!」
一人の女性が声をかけてきた。どうやら知り合いらしい。
そう言えば、自己紹介の時に言っていた出身中学の名称が、敬子と同じだったことを節子は思い出した。
あと、この女性は新入生代表の挨拶をしていた気がする。
ってことは、首席入学と言うことだろう。
頭イイんだ!

その女性の名前は、たしか鷲尾静香。彼女も麻雀部に入部希望って言っていたっけ。
これはチャンスだ。
『将を射んとすればまず馬を射よ』とは良く言ったものだ。
節子は、いきなり敬子に声をかけるのではなく、まず、敬子の友人であろう静香に声をかけた。
「鷲尾さん?」
「そうだけど。」
「麻雀部希望って言ってたけど?」
「そうだけど、貴女はたしか古津さんだっけ?」
「そう。古津節子。私も麻雀部入部希望なんだ。」
「そうなんだ。」
「そっちの人も麻雀部希望だったよね?」
「敬子?」
「そう。」
「まあ、彼女も麻雀、嫌いじゃないしね。」
「それにしても男子に凄い人気だね。稲輪さん。」
「まあ、一週間もすれば落ち着くでしょ。いつものことだし。」
節子には、静香の言いたい意味が理解できていなかったが、一週間程度で敬子への熱がみんな冷めると言うことだろうか?
むしろ、他のクラスにも超絶美女の噂が流れて、もっと人が押しかけてくるようになる気もするのだが………。

「せっかくだし、鷲尾さんも稲輪さんも一緒に行かない?」
「別に構わないけど…。」
「じゃあ、早速。」
「そうね。別に、今日は他にやることないし。敬子もイイよね。」
「うん。」
と言うことで、入学初日から三人は麻雀部に顔を出すことになった。


三人が部室に入室すると、既に新1年生らしき人間がチラホラいた。
節子と同じ中学出身の娘達もいる。同じ麻雀部に所属していた鬼島美誇人と堂島喜美子だ。
「コトちゃんとミコちゃんも来てたんだ。」
コトちゃんとは美誇人のこと。ミコちゃんは喜美子のことである。
節子が初めて二人に出会ったのは中学1年の時。
最初、節子は、喜美子のことを『キミちゃん』、美誇人のことを『ミコちゃん』と呼んでいた。まあ、それが順当だろう。
しかし、喜美子が『キミちゃん』と呼ばれるのを『卵の黄身みたいでイヤ!』と言ったため、喜美子のことを『ミコちゃん』と呼ぶようになり、それに連動して美誇人のことを『コトちゃん』と呼ぶようになった。
「まあ、折角強豪校に入学したんだしね。で、節子は何組?」
こう聞いたのは美誇人。
「私は1組。コトちゃんとミコちゃんは?」
「私は9組で喜美子は6組。」
「それと、こちらが同じクラスの人で、鷲尾静香さんと稲輪敬子さん。」
静香と敬子の顔を見て、美誇人と喜美子の顔が一瞬フリーズした。

片方は、たしか新入生代表の挨拶をしてた人だ。
もう一人は、とんでもない美少女。

固まる二人に、静香のほうから挨拶した。
「1組の鷲尾静香。もう一人が、同中出身の稲輪敬子。」
「よ…よろしく。私は鬼島美誇人。節子と同じ中学出身。」
「私は堂島喜美子。そう言えば、鷲尾さんって新入生代表の挨拶してた人よね。」
「そうだけど。」
「じゃあ、頭イイんだ!」
「別に、テストの点数が偶々良かっただけ。」




この新入生の遣り取りを、少し離れたところから3年生達………秋季大会のレギュラー陣達が見ていた。
部長の児波日和をはじめ、安木礼子、浦木紀子、風間美登里、増金江里の5人だ。

秋季大会では、県大会3位。
しかし、残念ながら関東大会では準決勝戦で敗れて春季全国大会には出場できなかった。とは言え、結構な実力者達であろう。

五人の視線は、何気に敬子を捉えていた。
やはり、この美しさは目立ち過ぎる。
「何、あの子。」
「気に入らないね。」
入学初日で、いきなり敬子は先輩方に敵視されることになった。声を交わしたわけでもないのに、一方的だ。


「静香と敬子も来たんだ!」
二人の背後から一人の少女が声をかけてきた。
彼女の名前は的井美和。静香と敬子と同じ中学出身だ。

この娘もカワイイ顔をしている。
敬子ほどの美女では無いが、それでも共学クラスならクラスで2番目に人気があるくらいのレベルだ。
十人に一人………つまり十人並みと呼ばれるレベルだろう。


「じゃあ、新入生は自己紹介して。その後、新入生同士で打ってもらうよ。」
部長の日和の声だ。
ただ、正直、あまり威厳も無いし、ムリに威張っている感じがする。正直、頼りない雰囲気しか伝わってこない。

節子は、中学の頃に、既に能力麻雀に目覚めていた。
それ故だろう。何となくだが、見ただけで大体だが相手の雀力が直感的に分かる。

日和からは、特に強大な何かは感じない。特に能力者と言うわけではなさそうだ。
その周りにいる礼子、紀子、美登里、江里も同様だ。
恐らく、全員が非能力者でデジタル打ち主体なのだろう。


新入生が、端から順に自己紹介してゆく。
「1年3組の的井美和です!」




節子は、各新入生の能力を順に測っていった。
この美和と言う娘、中々の能力を持っているようだ。
ただ、まだ能力は然程目覚めていないし、恐らく本人も気付いていないだろう。でも、覚醒したら絶対に全国でも上位に入る。節子は、そんな気がしていた。


「1年6組、堂島喜美子………」
喜美子のことは同中出身なので分かっている。まあまあ強い方だが、今のレギュラー陣よりも実力としては劣っている。


「1年4組、及川奈緒………」
彼女は、喜美子と同レベルの空気を感じる。今後に期待。


「1年9組、鬼島美誇人です。」
美誇人も同中出身なので分かっている。
中学の時の戦績では、一応、節子の方が美誇人に勝ち越しているが、絶対に敵に回したくない相手だ。
同じチームで良かったとさえ思う。

中学では節子がエース、美誇人が第二エースで戦ったが、先鋒から大将までの五人による星取り戦で節子と美誇人以外の三人が勝ち星を取れず、結局、団体戦では全国大会の切符を手にすることができなかった。

個人戦では節子と美誇人が県代表となり、二人とも決勝トーナメントまで出場できた。
しかし、決勝トーナメントの一回戦で原村和と節子と美誇人が同卓となった。二人勝ち抜けだったため、そこで美誇人は敗退となった。
美誇人にとって不運としか言いようがない。

決勝卓で節子は和と大阪の二条泉と対局し、優勝が和、準優勝が節子、3位が泉となった。節子は優勝できると思っていたが、まさか和に能力が効かないとは………。
そんな人間もいることを初めて知った。
それと、節子は正直なところ泉よりも美誇人の方が数段強いと判断していた。身内贔屓ではなく、純粋にそう感じ取っていたのだ。


「1年1組、鷲尾静香です………。」
静香は、どうやら豪運の持ち主で、ここぞと言うところで勝ってくれそうだ。多分、頼りになる存在だろう。そんな雰囲気が感じ取れる。
まだ、雀力として、その豪運が目覚めていないが、その力を目覚めさせれば美誇人とタメを張りそうだ。

それに、新入生代表の挨拶をしてくらいだ。勉強はとんでもなくできるだろう。
麻雀だけではなく、テスト前にも心強い存在になること間違いなしだ。


「1年7組、竜崎鳴海です。」
この鳴海と言う女性。
彼女も能力者だ。ただ、まだ完全には目覚めていない感じがする。
この娘も凄そうだ。覚醒したら美誇人と同レベルになり得るだろう。そんなエネルギーを感じる。


多分、美和と静香と鳴海が覚醒すれば、そこに節子と美誇人を含めた五人で全国でも良いところまで行けそうな気がする。
今は、宮永照の時代と言われているが、総合力なら絶対に負けないチームに成長できる。全国制覇を十分目指せるチームになる。
節子は、そう実感していた。


「1年1組、稲輪敬子です。」
ただ、敬子については良く分からない。敬子だけは、節子のスカウターが効かないのだ。
ある意味、原村和みたいだ。


その後、1年生同志で対局した。
一応、敬子はマニュアルどおりのデジタル麻雀を打っているが、戦績は今一つ。
静香の話では、中学でもレギュラーどころか補員にもなれなかったようだ。正直、激弱である。
デジタルで考えれば、決して間違った選択はしていない。しかし、ツモが裏目裏目に来るのだ。これでは勝てない。
基本的に運が悪いとしか言いようが無い。
しかし、それでも麻雀自体は嫌っていないようだ。
好きかどうかは微妙だが………。


「おい、お前。」
3年生の一人………礼子が敬子に声をかけた。
「はい?」
礼子の方を振り返る超絶美少女。
どうやら、礼子は、
『調子こいてんじゃねえ!』
みたいなことを言いたかったようだが、別に敬子が何かをやらかしたわけでもないし、ここで何か言っても、それは高顔面偏差値の人間に対する単なるヒガミ………と言うか、イイガカリでしかない。
それに気付いたのだろう。
「いや、何でもない。」
それだけ言うと、礼子は部室を出て行った。
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