咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

124 / 221
今回から美和の能力がまともに発動します。正直、危ないです。ベクトルはパウチカムイと同じ方向です。
作中の某ネット掲示板の住民の書き込みを含め、今後R-15の範囲内に収まるか心配になってきました。


百二十四本場:遅いデビュー

 春季大会決勝戦、中堅前半戦。

 東一局三本場、咲の連荘。

 依然、咲の猛攻は止まらない。

「カン!」

 六巡目で暗槓すると、

「ツモ! メンホンドラドラ。6300オール。」

 咲は、そのまま親ハネツモを決めた。

 これで、咲以外は25000点持ちであれば箱割れする状態にまで点数が落ち込んだ。

 

 東一局四本場。

 ここでも、

「カン!」

 咲は、オタ風の{西}を暗槓すると、

「ツモ! 嶺上開花ドラ1。70符3翻で4000オールの四本場は4400オール!」

 その勢いに乗ったまま親満ツモを決めた。

 

 これで、現段階での中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:咲 199000

 2位:麻里香 67000(席順による)

 3位:春 67000(席順による)

 4位:美和 67000(席順による)

 既に咲は、他家にトリプルスコア以上の差を付けた。

 

 東一局五本場。

 ここに来て、咲が失速した。

 これまで、咲は早い巡目での和了を心掛けてきた。美和が動き出す前に和了らないと面倒になると判断していたためだ。

 咲の目から見ても、それだけの力が美和にはある。少なくとも美和は、麻里香や春よりも数段上と咲からも評価されていた。

 それで咲も一気に勝負をつけに出たわけだが、ザコ相手と言うわけではない。当然、それなりの疲労は出てくるし、少し充電が必要だ。

 

 ここでは、

「ポン。」

 咲の変化に逸早く気付いた春が自風の{西}を麻里香から鳴いた。

 この時、既に春の河にはドラや赤牌が大量に捨てられていた。高い手を作っていないことを他家に知らせているのだ。

 これを察知した麻里香が、

「(そう言うことね!)」

 春に差し込んだ。

「ロン。1000点の五本場は2500。」

 芝棒分は大きかったが、これで長かった超魔物の親を流すことに成功した。

 

 

 東二局、麻里香の親。ドラは{一}。

「ポン!」

 麻里香が、美和の第一打牌の{東}を鳴いた。

 場風の牌を捨てるタイミングに付いては、色々な考えがある。

 一般には、聴牌とか一向聴くらいになるまで………つまりギリギリまで待ち続けるか、親が{東}を捨てるのを待つのが多いかもしれない。

 しかし、親が配牌で、対子で{東}を持っていない限り、第一打牌での{東}切りは、ある意味有効である。但し、自分が{東}を使わないことが前提である。

 その考えの下、美和は第一打牌で{東}を切ったのだが、まあ、これは仕方が無いだろう。いつかは鳴かれる牌と開き直るしかない。

 

 この時、麻里香はドラの{一}をアタマにしていた。赤牌の{[5]}も持っている。この手は何としてでも和了りたいところだ。

 

 麻里香の上家は全ての牌が見えている咲。当然、チーが出来るとは到底思っていない。

 しかし、美和から鳴いたことでツモが好転した感じがする。

 その後は、麻里香はドンドン進み、

「ツモ! 4000オール!」

 ダブ東ドラ3の親満ツモ和了りまで、一気に持って行くことが出来た。

 

 この麻里香の和了と前局の春の和了りを見て、美和は、

「(白糸台の人はオーソドックスな打ち手ね。これまでの戦績からすれば強い方だろうけど、ワシズ(静香)やリュウ(鳴海)やカイ(美誇人)よりは劣るかな。あと、永水の人は小さい手で流すだけ。失点を最小限に留める麻雀しかしない。)」

 麻里香と春の打ち方が、過去のデータと然程変わっていないと判断した。

 これなら、咲以外は怖くない。

 当然、ここから美和は、咲の勢いが止まっている隙をついて稼ぎにでる。

 

 東二局一本場。ドラは{8}。

 美和の配牌は、

 {二三七②④[⑤]⑥388南白中}

 幸い、ドラが三枚ある。

「(白糸台の人も永水の人も綺麗だし、やっぱ、私も楽しませてもらいたいのよね。本当は、咲ちゃんにヤりたいんだけどムリだから、ここは、この二人にサービスしちゃおうっと。では、まずは…。)」

 この局では、美和は春に対して罠を張ることにした。

 

 一巡目、ツモ{4}。春が第一打牌で{中}を切ったのに合わせて{中}切り。

 

 二巡目、ツモ{⑤}、打{七}。

 

 三巡目、ラッキーなことにツモ{2}。三色同順が見えてきた。ここから打{⑥}。

 

 四巡目、{④}をツモ切り。

 

 五巡目、ツモ{四}。これもラッキーだ。そして、春が既に切っている{白}を捨てた。

 

 六巡目以降は、{北}、{一}、{八}、{①}とツモ切りが続いたが、十巡目で美和は待望の{8}を引いた。結構ツキがあることが読み取れる。

 ここから小手返しで打{南}。飽くまでも他家………特に春にはツモ切りに見せたい。ここまで敢えて{南}を持っていたことを悟られたくないからだ。

 

「ポン!」

 これを待ってましたとばかりに春が鳴いた。この時、春は美和が{南}をツモ切りしてきたと思っていた。普通に不要なヤオチュウ牌が来たので切ったと考えたのだ。

 そして、ノーケアーで春は{③}を捨てた。

 

 この直後、春は異様な雰囲気を美和から感じ取った。

 例えるなら、美和の背後から多数の触手が伸びてきて、春の身体に巻きついてくるような感覚だ。

 しかも、その触手からは消化液が出ている。

 言うまでも無い。これは、巨大なモウセンゴケだ。

「(なにこれ? ちょっとイヤ!)」

 春の脳内では、自分が身に着けている巫女服がドンドン溶けて行き、あちこちから肌が露出して行くような幻が見えていた。

 しばらくして、

「ロン!」

 春は下家から美和の和了り宣言の声を聞いた。幻の世界と実世界の体感時間は異なるようだ。幻の世界の方が随分時間が長く感じる。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四②④⑤[⑤]234888}  ロン{③}  ドラ{8}

 

「タンヤオ三色ドラ4。12300!」

 ハネ満だ。

 自風を鳴いて手を進めたところで出てくる牌を美和に狙われたのだ。春にとっては、まさかの振込みだったようだ。

 

 

 東三局、春の親。ドラは{七}。

 ここでも美和は、執拗に罠を張る。

 やはり狙いは春。

 理由は簡単。

 全ての牌が見えていると噂される咲からの出和了りは期待できない。

 麻里香は、オーソドックスゆえに美和からすれば捨て牌も読み易いが、麻里香よりも春の方が、捨て牌が甘い。

 それに、幻の続きを見せたい。

 

 前局での和了りでツキを呼び込めたのか、美和は六巡で聴牌した。

 手牌は、

 {五五六六七七[⑤]⑤34567}

 しかも、美和の捨て牌の半分が索子。部内で静香や鳴海、美誇人と打ち込んで来ただけあって聴牌気配も見せない。

 

 ここに春が打{8}。普通に手を進めるために切った牌だ。

 その直後、今回も春には美和の背後から触手が自分に向けて伸びて来る幻が見えた。美和の能力が見せる幻影だ。

「(ちょっと待って!)」

 何本もの触手が春の全身に絡みついて消化液を出す。これによって、完全に巫女服は溶かされて春は全裸の状態になった。

 触手から出てくる粘液が、春の身体のあちこちに纏わりついている。

 しかも、粘液まみれの触手が、春の胸や股間を刺激する。

 いくら幻の世界とは言え、気持ち良過ぎて平静を保っていられなくなる。

 

 しばらくして、

「ロン! 12000!」

 またしても春の下家から和了リ宣言の言葉が聞こえてきた。春は、今回も美和にハネ満を振り込んでいたのだ。

 これで春の点数は41200点まで落ち込んだ。

 

 

 東四局、美和の親。ドラは{9}。

 六女仙として修行しているだけあって、春は、前局での美和の精神攻撃から頭を切り替えていた。さすがである。

 普通なら、性的な部分も含めて対局に集中できなくなるかもしれない。

 しかし、春は、それを振り切れるだけの精神力を持っているのだ。

 

 この局も、美和の手は順調に進んだ。

 六巡目で聴牌。

 {一三[五]}の両嵌から敢えて{[五]}を切っての筋引っ掛け。しかも、ダブ東の役配バックでドラの{9}を二枚持つ。

 ただ、今回に限って和了り牌の{二}が中々出てこなかった。

 

 十巡目、二度のハネ満振込みから春は美和を警戒していた。

 美和の捨て牌には{③}が二枚。場には、咲と麻里香からの一枚ずつ出ている。

 既に{①}も三枚切れている。

「(まさかね?)」

 と思いながら春は{②}を切った。たしかに美和なら{③}を対子で捨てて{②}単騎とかやりそうだが、それって、普通は{②}を切って和了っているのではなかろうか?

 むしろ、今までのパターンから{[五]}切りで{二八}を誘っていそうな気がする。この罠の張り方は元清澄高校部長の竹井久に似ている気がする。

 春は、{八}は持っていたが{二}は持っていなかった。一応、{八}は切らずに様子見。

 壁を信じて{②}を切った。

 

 この時だった。

 春は、急に悪寒に襲われた。

 その強大なエネルギーの発生源は美和では無い。対面に座るチャンピオン咲だ。

「カン!」

 春が捨てた{②}を咲が大明槓した。

 この発声と同時に、春には、咲の背後から再びホオジロザメが大きな口を広げて自分に襲い掛かってくる幻が見えた。

 六女仙の一人で、しかも邪神を払う力を持つ春は、霊的な攻撃には強い。しかし、実世界での攻撃に対しては普通の女の子だ。

 今、春は精神世界での幻を見せられているが、霊的な恐怖よりも、野生世界での弱肉強食の世界を見せられている。こういった攻撃に対する免疫は無い。

 思わず身構えて震え出した。

 

 咲は嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 続いて手の中で既に四枚揃っていた{二}を暗槓した。美和の和了り牌は、全て咲が持っていたのだ。これでは美和は和了れない。

 罠を張ったつもりが、全て咲にしてやられた感じだ。

 

 今度は、巨大な肉食恐竜………昔、図鑑で見たティラノサウルスが、大きな口を広げて春に噛み付いてきた。

 思わず春の目から涙が溢れ出てくる。

 悪霊にも邪神にもひるまない彼女だが、やはり食い殺される恐怖には太刀打ちできないようだ。

 

 さらに咲は、次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓した。

 

 春には、もう一頭のティラノサウルスが現れて、先に出てきた一頭が自分の上半身を、もう一頭が下半身に噛み付いている感覚を受けた。

 

 そして、その次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 咲が嶺上開花を決めた丁度その時、春は、二頭のティラノサウルスによって自分の身体が上下に強く引っ張られ、胴体から二つに引き千切られたような感覚に襲われた。

 次の瞬間、

「プシャ───!」

 春は豪快に聖水を大放出した。

 さすがに、これはマズイとの判断だろう。放送サイドは天井に備え付けたカメラで咲の和了った手牌だけをアップで映した。

 

 開かれた手牌は、

 {222⑤}  暗槓{裏西西裏}  暗槓{裏二二裏}  明槓{②②横②②}  ツモ{[⑤]}

「対々三暗刻三槓子三色同刻嶺上開花赤1。16000です。」

 倍満だ。これは、春の責任払いになる。

 

 この点数申告の直後、テレビに映し出される映像は解説席のほうに切り替えられた。

 そして、

「ええと、ちょっと事故がおきまして、対局は少しの間、中断しまーす!」

 毎度の如く、アナウンサーの福与恒子が、女子高生雀士ファン達に分かりやすいように説明してくれた。

 

 当然、某ネット掲示板では、

『これは、永水中堅のデビューだじょ!』

『多分、間違いないですね。さすが咲さんです』

『スバラスバラスバラ!』

『やっぱり女子高生雀士は、放出してなんぼ、放出してなんぼですわ!』

『年下のクセに胸があるからですよー』

『見えた未来のとおりになったな!』

『それよりも滝見さんのオモチ画像が欲しいのです!』

『また一人仲間が増えて嬉しいよモー!』

『先輩が鳴いて喜んでるデー』

『それにしても高一の夏から大会に出ていて初デビューっスか? デビューが遅い気がするっスよ!』

『ダル…』

 いつものメンバーで、たいそう賑わっていたようだ。

 

 

 清掃作業のため、一旦対局は中断され、選手達は控室に戻るよう命じられた。

 

 春は、控室に戻ると、制服に着替えた。

 そう言えば、制服姿の春は珍しい気がする。

「胸の辺りがキツイ………。」

 ふと、春が言葉を漏らした。

 だから普段から巫女服なのだろう。

 この言葉に、妙に明星が頷いていたが………、その場に巴や初美がいなかったのは不幸中の幸いである。

 

 一方、美和は、

「あれはしょうがないわ!」

 そう言いながら控室でソファーに腰を降ろすとホットココアを口にした。さすがにお茶類とか冷たいモノはパスしている。

「直前にトイレに行っておいて正解。もう、東一局から凄い怖かった。準決勝の比じゃないよ。個人戦で当たる時は、絶対にみんな、直前トイレは必須ね。」

「経験者は語るか。」

 こう呟いたのは敬子。

 やはりKYな娘である。一言多い。

 

 この頃、麻里香は、

「東一局一本場で、上家まで吐き気が回ってきたもんね。いきなりフルスロットルって感じだったわ。」

 こう言いながらケーキを食べていた。

 飲み物はココアミルクセーキ。

 見ている方が吐きそうだった。

 

 この頃、咲は京太郎とLINEで連絡を取っていた。まさに愛のホットラインであろう。

 京太郎からの書き込みが来た。

『やっぱり咲は凄いな! 一年の時の長野県大会決勝戦で天江さんから役満を和了っで大逆転した時から、もうドキドキしっぱなしだぜ!』

 まあ、京太郎としては普通に感動しているだけなのだが、これを読んだ咲は、

「今、それ言う?」

 怪訝な表情を見せた。

「私がリードしてるんだから大逆転なんてできないじゃん?」

 どうやら、大逆転を見せて欲しいと勘違いしたようだ。

 

 

 三十分くらいして、運営サイドから各校控室に連絡が入った。

 十分後に大会を再開するとのことだ。

 毎度のことだが、咲は、恭子に連れられて対局室へと向かった。

 

 

 咲が対局室に入室した時、既に他の三人は入室を済ませていた。

 選手達が元の席に座った。

 テレビや観戦室の巨大モニターに選手達の姿が映し出された。

 

 この直後、某ネット掲示板では、

『永水が巫女服から制服に着替えてるし!』

『やっぱりハルルでしたねー』

『デビューおめでとうと言ってあげたいじぇい!』

『デビューしてなんぼ! デビューしてなんぼですわ!』

『でも、制服姿ってはじめて見るっスよ!』

『あれではオモチが押さえつけられていて可哀想なのです! もっとオモチを大事にしなくてはいけないのです!』

『やっぱり仲間が増えていたよモー』

『デー』

『デビュー記念のサインもらいたいよぉ!』

 巨大湖形成に関わった選手を特定できて喜んでいた。




綺亜羅の旋風-2


翌日。
節子は、
「(また稲輪さんの美しい顔が拝める!)」
とワクワクしながら登校した。

教室には、まだ敬子の姿は無い。
学校から50メートル圏内に住んでいると聞いていたが………。
敬子と同中出身の静香は、もう学校に来ていた。
「おはよう。」
「ああ、古津さん、おはよう。」
「稲輪さんは?」
「ギリギリになったら来るんじゃないかな。この学校を選んだ理由も、近くだからギリギリまで寝てられるってことらしいし。」
一応、合格偏差値66とされる学校なのだが………。
そんな理由で受験したってことは、ムリしてギリギリで合格したのか、それとも余裕で合格できるところに敢えてレベルを下げて受験してきたのだろうか?
ちょっと興味がある。
敬子は、美人ちゃんなだけではなくで不思議ちゃんでもありそうだ。


その麗しきお姫様は、予鈴がなるギリギリのところで教室に入ってきた。
ただ、ちょっと髪がハネている。とかしていないのだろうか?
それに、何気に制服もよれていないか?
まあ、それでも元が良過ぎるので十分美女なのだが、昨日よりもワンランク下がった気がする。
節子としては、ちょっと残念な気がした。


今日は、いきなりテストがあった。
出題範囲は中学で習ったところ全て。
余裕と思っていたが、意外と難しい。結構、あちこちで玉砕した声があがっている。
節子も例外なく玉砕組みだった。
ただ、涼しい顔をしている輩もいる。静香と敬子だ。
二人とも、あの問題が解けたのだろか?


テストが終了し、これより部活の時間が始まる。
今日も、敬子に3年生のレギュラー五人の視線が突き刺さる。ただ、何となくだが、昨日よりは若干キツさが減った感じはある。
それでも、昨日がレベル10だとすると、今日はレベル9になった程度で天と地ほどの差があるわけではない。基本的に敬子への嫌悪感は非常に高い。
やはり、一般には超絶美少女は女の敵なのだろう。
ただ、敬子は何も気にしていない………と言うか、そもそも先輩達の視線に気付いていないようだ。


今日、節子は鳴海と美和と静香と卓を囲んだ。
東一局、節子は美和からの聴牌気配を感じた。ただ、低そうな感じだ。
対する節子は、一巡遅れだがハネ満を聴牌した。
こっちの手は高いし、ちょっと勝負してみるか?
そこで、敢えて振り込み覚悟で節子は不要牌を強打した。

まあ、覚悟していたことだが、
「ロン!」
これで美和に和了られた。
その直後のことだ。
美和の背後から巨大な触手が何本も節子に向かって伸びてきた。しかも、それらは粘液まみれである。
それらの触手が、一瞬にして節子の手足に絡みつき、節子の自由を奪った。
しかも、それらを覆う粘液は消化液だ。制服がドンドン溶かされて行く。
「(なにこれ?)」
多分、これらの触手は巨大なモウセンゴケか何かだ。
結構ヤバイ能力をお持ちのようだ。
しかし、制服が完全に溶かされ切る前に、
「2000点。」
美和の点数申告の声が聞こえてきた。すると、節子の身体に絡み付いていた触手が消えた。
いや、今まで幻の世界に意識が飛んでいたのが、元の世界に戻ってきた。むしろ、そんな感じだ。

「ねえ、もしかして的井さんって食虫植物とか好き?」
「どうしてそれを?」
「やっぱりね。多分、それが能力に出てきている。」
「能力?」
「そう。ただ、オカルティックな話を好まない人も結構いるので、もし興味があったら部活が終わったら説明するね。」
「よろしく。私、オカルトなこと、結構興味ある。」
「私も。」←静香
「Me too!」←鳴海
「そうなんだ。結構嬉しいかも。」←節子
「じゃなきゃ敬子の友達なんかやってられないって。」←静香
「言えた!」←美和
静香も美和も、敬子のことを変人と言う。
ただ、節子からすれば、
『あの美貌を考慮してミステリアスと言ってあげた方が良いんじゃないかな?』
と言う気がするのだが………、後に節子も、静香と美和が変人と比喩する理由に納得するようになる。

対局が再開された。
節子は、
「じゃあ、気合いを入れ直すからね!」
と言うと能力を開放した。
次の瞬間、美和、静香、鳴海の三人が目にしたのは、人間社会とは隔絶した世界。
急に周りが部室ではなく広大な荒地へと変わった。そして、足元では地が裂けて、そこからマグマが噴出してくる。意味不明の光景。
まるで、この世の終わりだ。
「「「えっ?」」」
三人とも、思わず声を上げて驚いた。

節子は、相手の能力支配に対抗する時や、リーチをかける時、自分が和了った時とかに、太古の地球で起きた天変地異の幻を見せる。
火山の大噴火や小惑星の激突などの超自然災害だ。

これらの起因する激しい天変地異によって、地球上では、これまでに何度も大量絶滅が起こっている。
大量絶滅の後には、空席になった生態的地位を埋めるべく、生き延びた生物から新たな進化が始まる。そのため、これらの大絶滅が、太古の地球における一つの『時代の節目』になってもいる。
その節目となる災害を見せる。それが節子なのだ。
しかも、その天変地異のパワーを纏うかの如く、高い手を連発する。まさに怪物だ。

節子は、
「じゃあ、始めるよ!」
と言いながらニコッと笑っていた。こんな中で、笑顔でいられる神経が信じられない。それが三人の共通する感想だった。


部活の後、節子は美誇人に同席してもらい、美和、静香、鳴海と一緒に駅近くのファストフード店に入った。
一応、目の保養のため敬子も誘ったのだが、
「私は学校の向かいのスイミングクラブで泳ぐからパス!」
と言われてしまった。
節子としては、
『敬子の水着姿見たい!』
とは思ったが、まあ、どうせ競泳用水着だろうし、それに美和達に能力麻雀の話をすることが最優先だ。
それで節子は、スイミングクラブを見学したい気持ちを頑張って抑えていた。

静香や美和に言わせると、敬子は中学3年生の時点で50メートルをクロールで、なんと26秒台で泳いでいたらしい。
『それってクラスで、ブッチギリで一番早いレベルじゃ?』
と節子は思ったが、それを口にする前に、
「たしか、女子日本記録が24秒台だったよね。」
と美誇人が言ってきた。
これに美和も静香も、
「「そうそう!」」
と同意する。

『マジですか?』
と節子は思った。
もしかして、敬子は麻雀部ではなく水泳部に行ったほうが良かったのでは無いだろうか?
しかし、綺亜羅高校には水泳部は無い。
敬子は非常に残念な選択をしていないだろうかと、節子には思えてきた。


ファストフード店で、節子は能力麻雀のことを美和、静香、鳴海に話した。
天江衣の海底撈月。
一説では、『穿いておらぬゆえ』とも言われているが、まあ、それは別の話だ。(元ネタは検索をお願いします。人様のネタで済みません。)
それからチャンピオン宮永照の連続和了。
愛宕洋榎のスーパーディフェンス。
これらが、特異な能力によることを節子は順次三人に説明していった。

今日の対局で節子が三人に天変地異の光景を見せたのも能力の一つである。
また、美誇人が後半に場の流れの全てを読み切り、圧倒的な追い上げを見せるのも能力の一つだそうだ。

そして、それらが節子と美誇人だけではなく、美和、静香、鳴海も持っているとのこと。

そんなことを言われても、普通はその場で信じられるわけでは無いが、高校1年生………まだ、中学2年生から二年しか経っていないし、
『普通とは違い能力を持っている!』
と言われて悪い気はしない。

基本的に、殆どの人間が中二病的ファクターを持っていると言って過言ではないだろう。当然、美和も静香も鳴海も例外ではなかった。
三人とも、やけに嬉しそうだ。

ただ、どうやったら能力を開花できるのか?
それは、自分達で意識しながら、それぞれの能力に合わせた打ち方をマスターして行かなければならないだろう。


美和の場合は、食虫植物が鍵である。
先ず罠を張ること。そのためには、白糸台高校の部長、弘瀬菫の打ち方を参考にしてみるのも良い。
基本的にはツモる麻雀ではなく、直取りを目指す麻雀になる。
まあ、
『弘瀬菫に憧れているんです!』
とでも言っておけば、周りもそれなりに納得してくれるだろう。


鳴海の場合は、おぼろげながら節子に見えたのは槓ドラ。
明日から鳴くのを躊躇せず、場合によっては大明槓を仕掛けても良いだろう。
普通とは対極的な打ち方なので批判する人も出てくるだろうが、鳴き麻雀と言う意味では、元白糸台高校の宇野沢栞の打ち方を参考にしても良い。
それこそ、今年、大宮ハートビーツに入団したプロ雀士だ。
埼玉県民なら批判してはいけない。
なので、宇野沢プロのファンとでも言えば鳴き麻雀主体でも、一応周りも納得するだろう。
もっとも、宇野沢プロのファンなのは鳴海ではなく美残人なのだが………。


静香は、一般常識範囲内では測れない豪運である。なので、平和手ではなく、もっと高い手を強引に狙っても良い。
リーチがかかっても、降りずに積極的に攻めて行って良い。豪運なので基本的に振り込まないのだから………。
それを、今までは普通の枠組みの中で打っていた。誰かが先制すれば降りていたし、手が縮こまった打ち方しかできていなかった。
つまり、その豪運を使いこなせずにいたと言える。

今後は豪運に頼った強引な攻め方になるだろう。
当然、周りからは、
『何故そんな無謀な打ち方をする』
と言われる可能性はある。
しかし、こんな強気な麻雀にも前例はある。一見、元白糸台高校の沖土居蘭の麻雀に似ているとも取れるのだ。
なので、
『沖土居選手に憧れてます!』
とでも言っておけば良いだろう。それで周りが納得するかどうかは分からないが………。


夏の大会に向けたレギュラー選考の為、近々部内戦が行われる。
それまでに、完全には間に合わないだろうが、多少の能力開花は期待できるし、実際の能力発動を見れば、三人の完成形をもっと想像できる。

目指すは秋季大会。
2年生の先輩方には申し訳ないが、この五人でレギュラーを取る。そのつもりで、明日からは練習に励んで行く。


その翌日。
節子は、唖然としていた。
昨日のテストの成績上位者が廊下に張り出された。
上位50名の名前が順に書かれている。

1位は、全科目満点の静香。やはり、新入生代表を務めただけのことはある。
そして2位は敬子。
全科目90点台をマークしての堂々の2位。
どうやら彼女は、朝、ギリギリまで寝ているために、余裕で合格できるところに敢えてレベルを落としてきた輩だったようだ。
水泳も、恐らく全国大会レベル。
しかも超絶美少女。
本当に不思議な人である。

ただ、その不思議ちゃんは昨日にも増して髪がボサボサで、制服も着崩れている。見るに耐えない姿に変貌している。
それでも美しさの欠片くらいはあるが、正直勿体無い。

節子は、
「髪くらいとかしたら。折角綺麗なのに。」
と敬子に言ったが、
「私が綺麗なはずないじゃん。」
と笑顔で言い返された。
この笑顔は、とっても可愛らしいのだが………。
ただ、この娘、自分のことが分かっていないのだろうか?
考えようによっては、非常に嫌味に聞こえる。
「毎日、なんでこんなつまらない顔って思ってるしさ。」
「…。」
「美和みたいに明るくて可愛ければ、おしゃれのしがいもあるんだろうなって思うんだけどね…。」
やっぱり、この娘、自分のレベルが分かっていないようだ。

すると静香が、
「まあ、こんなもんなのよね。だから、一週間もすれば鎮火するのよ。」
と節子に言ってきた。
入学初日に言われた件だ。
あの時、静香は節子に、
『まあ、一週間もすれば落ち着くでしょ。いつものことだし。』
と言っていたが、それは、このことだったのだ。

つまり、敬子は超絶美少女だが、非常に残念な美少女なので日に日に美しさを欠いて行き、結果的にドンドン騒がれなくなる。
気が付くと、単なるズボラな女性としてしか認識されなくなるのだ。


その日の部活では、3年生のレギュラー陣も目が点になっていた。
言うまでも無い、敬子のことだ。
さすがに礼子も、
「おい、稲輪。髪くらい………。」
節子と同じことを言おうとしたが、
「ちょっと宜しいでしょうか?」
それを静香が止めた。
「まあ、先輩。勘弁してあげてください。根がズボラで、本人も自分が美女だと言うことに全然気が付いていないんですよ、あの子。」
「はぁ?」
「あの子とまともに話すと、正直、嫌味を言われているようにしか感じないこともありますので、彼女と同中出身の私の方から先にフォローさせていただきます。」
「…。」
「彼女、本気で自分の顔が整っているって思っていないんです。自分の顔をつまらないとか見飽きたとか言うくらいですから。」
「何それ?」
「だから、本気で美女だって気付いていないんです。それで、おしゃれのしがいも無いって思ってますし………。」
「…。」
「だったら、朝もワザワザおしゃれなんかしないでギリギリまで寝てたいとか言って、それで家から50メートル圏内のこの学校を受験したくらいですから。」
「(訳分からん…。)」
礼子が敬子に向ける視線が急に変わった。礼子の中で、敬子への感情が敵意から哀れみに変わったためだ。

この日、先輩方の心の中から敬子への敵意が殆ど消えたのだが………、むしろ、あの美貌を放棄していることへの怒りの方が増してきたと言う。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。