咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百二十六本場:一日二回

 春季大会決勝戦、中堅後半戦。

 南一局一本場、咲の親

 ここでは、

「カン!」

 咲が{1}を暗槓し、有効牌を引いて聴牌すると、

「リーチ!」

 そのままリーチをかけてきた。

 一昨年のインターハイ二回戦で、姉帯豊音の能力をかわした時に状況が似ている。

 もっとも、対戦相手は違うが………。

 

 この時も既に、美和は罠を張っていた。しかも、その罠は咲がリーチすることによって完成する。待ち牌が咲の現物なのだ。

 

 春は、一先ず咲と美和の共通安牌切りでセーフ。春としても、可能な限り、この二人を同時にマークしたい。

 麻里香は、一旦咲の現物切りで対応した。

 しかし、

「ロン!」

 下家から和了り宣言が聞こえてきた。振り込んだのだ。

 これと同時に、麻里香は再び巨大食虫植物に襲われる幻を見た。

 既に、美和の背後から伸びている粘液まみれの触手が、麻里香の全身に絡み付いていた。

 これは、前回の幻からの続きだ!

 当然、全裸状態だ。それでいて、執拗に胸や股間を触手が刺激してくる。

 全身がネトネトしたものに覆われて、何か変な気分になってくる。

 これでもパウチカムイには敵わないのだろうけど………。

 

「12300!」

 現実世界では、美和の点数申告がなされていた。麻里香は、咲のリーチをかわそうとして美和にダマハネを振り込んだのだ。

 ふと、我に返ると、あんな幻を見ていたこと自体が恥ずかしい。

 麻里香は、急に赤面し出した。

 

 これで美和が再び後半戦のトップに返り咲いた。

 ここから、どれだけ点数を稼げるかは分からないが、ここまで来た以上、綺亜羅高校だって優勝を目指したい。

 自分達のせいでは無いのに出場停止にされて、大会に出場できずにモヤモヤした気持ちのまま一昨年の夏から昨年の秋までを過ごしてきた。

 ようやく掴んだチャンスだ。自分達だってモノにしたい。

 

 美和自身が咲に前後半戦トータルで勝てるとは思っていないが、チームとしては別だ。

 自分のやるべきことは、得失点差を視野に入れて可能な限り稼ぐこと。それだけだ。

 美和は、自然と小さくガッツポーズを取っていた。それだけ今回の和了りは嬉しかったようだ。

 

 

 南二局、春の親。

 ここでも美和は、麻里香に罠を張る。

 ただ、今まで程きつい罠では無い。例えば、{6677}と持っていたところから{67}と落とし、{58}待ちにする程度のことだ。

 

 ところが、準決勝の時とは違って、決勝戦での美和の罠は、落ちた者が非常に気持ち良くなる。

 それ故であろう。ターゲットとなった者………麻里香も、心のどこかで自ら美和に振り込むことを願ってしまう。

 この結果、普段なら止まるはずの牌を麻里香が切ってしまった。振ってはいけないと思いながらも、心のどこかであの幻を見ることを願ってしまったのだ。

 

 当然、その麻里香の暴牌を美和は逃さない。

「ロン!」

 この美和の発声と同時に、麻里香は幻の続きを見た。

 何本もの触手で全身が攻められている。しかも、全身は既にネトネトした粘液にまみれている。変な感覚だ。

 麻里香は、頭の中が一瞬真っ白になった。

 …

 …

 …

 

 

 麻里香が幻を見せられている時間は、現実世界では、ほんの数秒間なのだが、麻里香には、それが数十分もの長い時間に感じられた。

 

「タンピンドラ1。7700。」

 現実世界では、美和が麻里香から満貫級の手を直取りしていた。

 点数申告の声を聞いて、麻里香が、ふと我に返った。

 非常に恥ずかしい。

 正気に戻ると、今まで公衆の面前………全国生中継で、非常にイケナイことをしていたみたいで赤面してくる。

 当然、麻里香の表情がおかしいことに気付く人もいた。

 

 某掲示板では、

『白糸台の娘、どうしたじょ?』

『なんか、イってるっスね?』

『麻雀でイクなんて、そんなオカルトありません!』

『そんなオカルトあるとよ!』

『こんなお下品な目立ち方は許せませんわ!』

『それよりオモチ画像を映すべきなのです!』

『あれって気持ちよくなっているんだと思』

『振り込んで気持ち良いなんて、わけ分からないし!』

『でも、そう言う能力あるヨ! 一昨年のインターハイで対局後に経験した!』

 その変化に気付いた者達が反応していた。

 

 

 南三局、麻里香の親。ドラは{四}。

 さすがに、麻里香も両頬を叩いて気合いを入れ直した。あんな幻に惑わされてはいけない。今は、麻雀大会の真っ最中だ。

 さっきの恥ずかしい幻のことは忘れてなくては!

「(頭を切り替えろ! 集中!)」

 麻里香は、そう心の中で強く自分に言い聞かせた。

 

 しかし、美和はさらなる和了りを目指す。

 次は春でも麻里香でも良い。狙う牌を掴んだ方から和了る。

 

 春も麻里香も、筋引っ掛けの嵌張待ち程度では、もう振り込んでこないだろう。

 しかし、振り込ませる手はまだまだある。

 単騎待ちやシャボ待ちなら読み難い。特に単騎待ちを読み切るのは困難であろう。

 あとは、どうやって罠を張るかだ。

 

 東四局と南一局で咲が連続で和了ったことで、春も麻里香も咲への警戒を強めた。ならば、咲の現物で、且つ春か麻里香が序盤に切った字牌単騎で待つ。

 これは、春または麻里香と咲が一枚ずつ切った牌になるため、当然、地獄待ちである。

 しかし、薄い待ちだが、効果的でもある。

 

 この局では、春と咲が早々に{西}を切った。

 ならば、美和は敢えて{西}で待つ。

 役は、先ずは手なりで作る。

 咲が槓するようになったからか、場が順子場でなくなっている気がする。ならば、七対子もしくは一盃口を狙う。

 幸運なことに配牌時点で{四}が二枚に{[五]}が一枚ある。

 ここに{五}を重ねられた。続いて{六}が来るが、一盃口が出来るかどうかは分からない。あとは直感のみが頼りだ。

 

 八巡目、美和はようやく聴牌した。

 手牌は、

 {四四五[五]②②⑨⑨8899西}

 

 一盃口は作れなかったが七対子が出来た。しかも{西}地獄待ち。聴牌気配は抑えて春か麻里香から出るのを待つ。

 

「カン!」

 咲が{中}を暗槓した。やはり迫力がある。

 しかし、今回も嶺上開花は無し。有効牌の引き入れのみに留まったようだ。

 

 次のツモ番は春。

 ここで春は、{西}をツモった。

 咲と美和の両方をマークしてきたが、直前の咲の暗槓で意識が咲の方に大きく偏った。相対的に美和への警戒が薄れたのだ。

 その結果、春は{西}を躊躇無しにツモ切りした。

 

 春が{西}を河に置いた直後、再び彼女は悪寒に襲われた。後半戦の東場で経験したのと同じものだ。

「ロン!」

 その発生源は美和。春は、東三局で見せられた幻の続きを見せられた。

 全身がネトネトした粘液に覆われて全身が触手で刺激される。六女仙として修行してきた身でも、この快楽には抗えない。

「うっ! あぁ…。」

 思わず声が出た。

 

 某掲示板では、

『永水の娘、ヤバそうだじょ?』

『なんか、こっちもイってるっぽいっス?』

『ですから麻雀でイクなんて、そんなオカルトありません!』

『だから、そんなオカルトがあるとよ!』

『でも、こんなお下品な目立ち方は許せませんわ! やっぱり正々堂々、麻雀で目立つべきですわ!』

『制服でオモチを締め付けて良くないのです! オモチを開放すべきなのです!』

 麻里香の時と同様に、何人かがその変化に気付いて食い付いていた。

 

 

 現実世界では、

「七対ドラ3。8000!」

 美和が春から満貫を和了っていた。

 

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:美和 151100

 2位:咲 124900

 3位:麻里香 64000

 4位:春 60000

 美和がトップでオーラスへと突入した。

 ただ、これが前後半戦トータルでは、依然として咲がダントツである。やはり、前半戦の308800点は大きい。

 勿論、美和は、これを逆転できるとは思っていないが、出来るところまで点差を詰めるつもりだ。

 

 

 オーラス、美和の親。

 ここから美和は、どんな手でも良いから和了りを目指す。

 罠を張る麻雀に固執するわけではない。安手のツモ和了りでも良い。リーチのみでも良い。芝棒一本でも余分に稼ぎたいところだ。

 

 この局、美和は配牌五向聴だったが、結構順調に手が進んだ。そして、七巡目で聴牌し、

「リーチ!」

 この流れならツモれると判断したのだろう。リーチをかけた。

 

 手牌は、

 {三四[五]六七七七⑥⑦⑧444}

 {二三五六八}の五面待ち。

 殆どムダツモ無しで、ここまで手が伸びてきた。この流れに、この待ちなら殆どの人がツモれると思うだろう。

 

 そして、一発目のツモは………{②}。不発だった。美和は、リーチをかけているので仕方なくツモ切りした。

 その直後だった。美和は、咲の方から強大なオーラを感じ取った。

「カン!」

 咲が大明槓を仕掛けてきたのだ。

 そして、嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 続いて咲は{①}を暗槓した。続く嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 咲は{③}を暗槓し、さらに次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 {西}を暗槓した。これで、四つ目の槓子が出揃った。

 残る嶺上牌は一枚のみ。咲は、これをツモると、

「ツモ!」

 嶺上開花で和了った。{[⑤]}での和了りだった。

「32000です。」

 まさかの四槓子。

 これには美和も、

「チョロ………。」

 少し漏らした。

 ただ、出す量が元々少なかったためか、制服が全て吸い取ってくれる程度の量でしかなかったのは幸いだった。

 

 ただ、

「チョロチョロチョロ………。」

 最も咲のオーラを受けるのは咲の下家の春である。

 春も、試合再開前に用を足していたので前半戦ほどの量は無かったが、制服で吸い取れる量を超える聖水を放出してしまった。

 足元には泉が形成されている。

 

 放送サイドは、慌てて映像を解説の方に切り替えた。

「ええと、またもや事故がおきたようでして、しばらくお待ちください。」

 しかも、アナウンサーの福与恒子の誤魔化し方が下手である。

 

 当然、状況理解の早い者達………某掲示板の住人達は、

『犠牲者は誰デー?』

『特定よろだよモー』

『もしかしてキラーっスか? 最後にスーカンツ振り込んだっスし!』

『もしハルルなら一日二回ですよー』

『やっぱり時間を気にして前半戦と後半戦を続けてやったのが良かったんだと思』

『一日二回なら、いきなり殿堂入りで良いですわ!』

『でも、永水と白糸台は途中でイヤラシイ顔になってたし!』

『何をしていたのか興味がありますね! いずれにしてもスバラです!』

『こちら現場。永水がジャージを持って急行中!』

『祝! 一日二回殿堂入り!』

『祝! 一日二回殿堂入り!』

『祝! 一日二回殿堂入り!』

 …

 …

 …

 相当盛り上がっていた。

 

 

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:咲 157900

 2位:美和 118100

 3位:麻里香 64000

 4位:春 60000

 

 そして、前後半戦のトータルでは、

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:咲 466700

 2位:美和 191500

 3位:麻里香 83300

 4位:春 58500

 圧倒的な点差で咲が勝ち星を手にした。これで勝ち星は、白糸台高校が二つ、阿知賀女子学院が一つとなった。

 

 また、先鋒戦から中堅戦までの合計(総合得点)は、

 1位:白糸台高校 779700

 2位:阿知賀女子学院 695000

 3位:綺亜羅高校 667400

 4位:永水女子高校 257900

 阿知賀女子学院が一気に追い上げて2位となった。

 白糸台高校が依然トップだが、白糸台高校、阿知賀女子学院、綺亜羅高校の三つ巴状態と言っても良いだろう。

 

 

「「「あ…ありがとうございました!」」」

 咲と麻里香と美和は、急いで対局後の挨拶をすると、急いで卓を離れた。

 そして、咲と麻里香は、まるで逃げるようにいそいそと対局室から出て行った。

 美和は、ほんの少しとは言え漏れたのがバレないように、何気にハンカチで自分が座っていた椅子を拭いてから退出したのだが、解説の方に映像が切り替わっているので、このシーンが放送されなかったのは幸いであろう。

 

 

 咲は、対局室を出たところで恭子を見つけると、

「じゃあ、麻里香ちゃん、美和ちゃん、また後で。」

 恭子に連れられて控室に戻って行った。

 

 

 対局室には、春が一人残された。

 ここに着替え(ジャージ)を持って明星が入ってきた。

「お疲れ様です。これに関しては、私の方が先輩ですもんね。」

 こう言いながら明星がジャージを差し出した。

 ただ、春は、

「でも、一日二回で記録としては私の方が上!」

 意外と落ち込んでいなかった。

 むしろ、これくらいで動じるようでは、まだまだ六女仙として修行が足りないと思っていたようだ。

 

 

 美和が控室に戻ってきた。

「またやっちゃったよ。数滴だけどね! 出るもの無かったし!」

「ホント、お疲れさん。私が中堅でなくて良かったってつくづく思うもん。嫌な役回りさせてゴメンね。」

 こう言ってくれたのは静香。

「むしろ、後半戦が始まる前に休憩を入れなかったのが原因ってネットにも書かれてるからね。別に美和のせいじゃないよ。」

 こう擁護してくれたのは美誇人。

 そして、

「でも、マジで気付かなかったよ。まあ、世間的にはしてないって思われてるだろうし、気にしないでイイんじゃない?」

 何事も無かったことにしようとしてくれたのは鳴海だった。

 しかし、

「昨日もだよね。二日連続だね。オムツして出た方が良かったんじゃない?」

 と穿り返してくるのが敬子。

 こう言われて、

「「「「(またか…。)」」」」

 と敬子以外は全員思っていたようだ。

 

 一方、咲は、

『京ちゃんが逆転勝ちを見たかったみたいだから逆転勝ちを狙ってみたよ!』

 とLINEで京太郎に報告したのだが………、

『逆転勝ちじゃなくてもさ、咲が凄い勝ち方をしてくれれば、それで最高だよ。前半戦の圧勝も凄かったよ!』

 と京太郎から返ってきた。

「(なにそれ! だったら後半戦も最初から蹂躙したのに!)」

 まるで快晴からゲリラ豪雨に変わるかのように、急に咲の顔から笑顔が消えて、久々に彼女の全身から暗黒物質が放出され始めた。

 この咲の怒りは、明日から開催される個人戦のほうにぶつけられるのだった。個人戦で咲と当たる人達が最終的な犠牲者である。




綺亜羅の旋風-4


節子が私刑を受けた翌日、朝から緊急職員会議が開かれた。

初っ端に決まったことは麻雀部の夏の大会出場辞退であった。
これは、日本の文化では一般論として止むを得ないだろう。他の部員には何ら責任は無いと言うのに………。

次に決まったことは、礼子の退学であった。
但し、書類上は自主退学とさせる。
高校側が素行不良で礼子を退学処分にした場合、永遠にその記録が礼子の人生の足を引っ張ることになる。
自主退学の方が、記録上はマシなのだ。

その次に決まったことは、日和、紀子、江里、美登里の麻雀部退部と自宅謹慎処分。
四人とも無罪を主張しているが、節子の指を十本折る間、礼子を止めなられなかったのは全くもっておかしい。
それに美登里と日和は節子を押さえ付けていた。
どう見ても共犯者だ。

ただ、教員側としては事件を大きくしたくなかった。
それで、敢えて、
『この四人は礼子に脅されていて事件を止められなかった』
くらいの認識に留めたようだ。
ある意味、
『臭いモノには蓋をする』
の精神だ。
実際には、蓋をするどころか、そのまま見なかったことにしようと言う日本人独特の風潮なのだが…。

麻雀部を解散すべきとの意見もあったが、予め静香の伯父から校長に釘が刺されていたこともあって廃部だけは免れた。
しかし、顧問は辞職することになった。
監督不行き届きだ。
これは仕方が無いだろう。

他にも、活動停止期間を設けるべきとの意見や、対外試合禁止期間を設けるべきとの意見もあったが、麻雀部をどうするかに付いては、廃部にしないこと以外は、この日のうちには決まらなかった。


一週間が過ぎた。
既に、今週頭に県大会出場手続きは最終していた。
エントリー期間は一週間程度。もっとも、大会辞退の綺亜羅高校麻雀部にとっては、もうどうでも良いことだ。

未だに麻雀部への処分は、正式に決まっていなかった。うやむやなまま時間だけが過ぎていった感じがある。

既に節子は、退院して学校に来ていた。
指は全て固定されて動かすことができない。当然、授業に出てもノートも取ることが出来ない。
ノートは、静香のノートを全てコピーさせてもらうことにした。今回ばかりは、それを教員側も受け入れざるを得ないだろう。


この日、理事長と校長に、麻雀部の部室に来てもらった。節子発案、静香経由で理事長に依頼したのだ。

節子は、二人に能力麻雀に付いて説明した。
その例として、照や洋榎、衣、憩、菫と言った女子高生有名選手、さらには慕や戒能良子等のプロ雀士についても触れた。
そして、そう言った能力を持つ者が、綺亜羅高校にもいることも…。

百聞は一見にしかずである。
節子は、理事長と校長、美和、美誇人の四人で実際に打ってもらうことにした。
それから静香にお願いして、敬子には入学式の日と同じレベルで綺麗にしてもらっていた。
一応、敬子には、
『来客があるからキチンとしよう!』
と言うことにしていたが、実は、この敬子こそが鍵であった。

場決めがされ、起家が美和、南家が校長、西家が理事長、北家が美誇人に決まった。
そして、節子は何気に、敬子には卓から二メートルほど離れたところで、位置としては丁度、美和と美誇人の間に立たせた。つまり、校長と理事長から良く見える場所だ。

あの事件以降も、美和は麻雀の能力を鍛えていてくれたようだ。纏う雰囲気から、それを節子はヒシヒシと感じていた。
それで、節子にはダメ元で美和に幻の操作をお願いした。
一応、美和としても、
「面白そう!」
と言って、喜んでチャレンジしてくれるとのことだった。
あとは巧く行くことを願う。


この局の美和の捨て牌は、
西①9中白二
普通の切り出しだ。

ここで校長が引いたのは二枚切れの北。
不要牌だし、ノーケアーでこれを切った。
ところが、
「ロン!」
これで美和が和了った。

校長の意識が幻の世界へと飛ばされた。
そこで、校長は、背後から巨大な四本の触手に捕まり、手足を拘束されて身動きが取れなくなった。
ただ、椅子に座っていない。良く分からないが、何故か立っていて十字架に張り付けられているような感覚だった。
触手からは、粘性を持った消化液が出ている。それで衣類がドンドン溶けて行く。
そして、気が付くと下半身が裸になっていた。ナニが丸出しだ。

ふと、女性の声が聞こえてきた。
校長が、声のする方に顔を向けると、そこには敬子の姿があった。
麻雀部きっての………いや、学内きっての美少女だ。
その美少女が服を脱いで校長に迫って来る。
節子が美和に依頼した幻とは、これだったのだ。


まこ「これ以上はR-18じゃ! ワープじゃ!」


「一盃口ドラ2。7700!」
美和の点数申告の声を聞いて、校長は我に返った。
幻の世界から解放されたのだ。
服は着ている。溶かされていない。
敬子も服を着ている。
ただ、さっきまで校長は敬子とイケナイことをしていた記憶がある。勿論、幻の世界の中での出来事だったのだが、どこまでが現実で何処までが夢なのか分からない。
イイ年したオジサンでも敬子の顔を見るのが恥ずかしくなる。
何気に校長は敬子から目を逸らした。

東一局一本場。美和の連荘。
今度は理事長が美和の罠に嵌った。
「ロン!」
そして、理事長の意識は幻の世界に飛ばされた。
勿論、見せられる幻は校長の時と同じ。超絶美少女、敬子のオモテナシ(?)である。


まこ「これもワープじゃ!」


「ロン。9600の一本場は9900!」
美和の点数申告の声を聞いて、理事長は現実世界に戻ってきた。ただ、校長と同じで、どこまでが現実でどこまでが夢なのか分からない。





対局は、その後、美誇人が場の流れを見切ってツモ和了りを連発し、最終的に美誇人が1位、美和が2位、校長が3位、理事長が4位で終了した。
しかも、校長と理事長は仲良くトビであった。


一応、節子の狙い通りになったようだ。
校長と理事長は、少なくとも、
『この娘(敬子)を悲しませてはいけない!』
との共通認識だけは持ったみたいだ。
やはり、敬子が身なりを綺麗にして黙っていれば、彼女に惹かれない男など稀有であろう。

ただ、最低限、一年間の対外試合禁止だけは免れなかった。
せめて、これくらいはしないと外部が納得しないからだ。

しかも、その一年の開始日は、それを外部にアナウンスした日とする。その期間内は、大会にエントリーすることも許されないし、外部との練習試合も出来ない。

そうなると、来年の夏の大会は、どうなるのだろうか?
エントリー期間が今年と同じ日程だった場合、参加できないことになる。

節子達1年生は、まだ再来年がある。
しかし、今の2年生達は?

すると、
「私達は、どうせレギュラーになれないし、諦めてるからイイよ。」
2年生の一人が言った。
他の2年生も、基本的には同意見のようだ。

それもそのはず。先日の部内戦の成績では、3年生を除いた今の部内順位は、
1位:古津節子(1年)
2位:的井美和(1年)
3位:鷲尾静香(1年)
4位:竜崎鳴海(1年)
5位:堂島喜美子(1年)
6位:及川奈緒(1年)
7位:鈴木真帆(1年:『スマホ好き』な少女)
しかも、本来なら間違いなく5位以内に美誇人の名前が入る。
団体戦レギュラーと補員、個人戦出場者の計8名の枠が、既に1年生だけで埋められているのだ。もう2年生の出る幕ではないとの判断だ。

なので、2年生の部員達は、麻雀部には所属するが、他の部も兼部する。恐らく、兼部先の方に割く時間の方が多くなるだろう。

大会出場辞退となれば3年生は事実上引退。
そう言った状況なので、部長は1年生2年生全員の意思で節子に決まった。
今の綺亜羅高校麻雀部では、彼女がブッチギリでトップの実力なのだ。当然、彼女に任せるべきとの判断になる。

副部長は、
「ワシズ、お願い!」
「私が!?」
「ワシズなら頼もしいし!」
節子の依頼で静香が任されることになった。しっかり者の静香なら節子も安心できると考えたのだ。



翌日の職員会議で、麻雀部の一年間の対外試合禁止が正式に決定された。
勿論、廃部にはならない。敬子を悲しませないため、校長と理事長が麻雀部廃部を唱える者達に圧力をかけてくれたのだ。
しかも、活動停止にもならなかった。校内での部活動自体はOKだ。
勿論、これも敬子のためだ。

そして、顧問は校長が引き受けることになった。
多分、敬子目当てだろうが………。





翌週の木曜日から日曜日にかけて埼玉県大会が開催された。
参加校が多いので、長野県大会や奈良県大会のように二日では終わらない。
木曜日に一回戦、金曜日に二回戦と三回戦、土曜日に準々決勝戦と準決勝戦、日曜日に決勝戦が行われる。
100000点持ちの点数引継ぎ制で、決勝戦以外は先鋒から大将まで各半荘1回ずつ、決勝戦のみ各半荘2回ずつとなる。

場所は、何故か熊谷。
電車が混むと、両手を固定した状態の節子には正直辛い。つり革にも何にも掴まることが出来ないからだ。
しかし、熊谷は下り方面なので、それほど電車は混まない。多分、座れる。
それで節子達は、土日には会場に行って大会を見学した。

有名どころと言えば、越谷女子高校、所沢第二高校、不動高校、春日部中央高校。そんなところか?
これら四校が順当に決勝まで勝ち進んだ。

特に所沢第二高校の先鋒と次鋒、1年生の双子の姉妹、戸成皐月(となりさつき)と戸成芽衣(となりめい)は要注意と巷では言われていた。
その評判どおり、この二人の活躍で、決勝戦は、次鋒戦が終わった段階では所沢第二高校が2位に大差をつけてトップだった。

しかし、その後、越谷女子高校が追い上げて見事逆転。
最終的に越谷女子高校がインターハイ出場を決めた。

ただ、節子は、
「(これなら、私と美和、コトちゃん、ワシズ、リュウの5人で十分勝てる気がする。)」
自分達の方が強いと感じていた。これは、身内贔屓では無い。純粋に、そう思えたし、それだけの自信があったのだ。

それと、この頃から、麻雀部内では静香のことをワシズ、鳴海のことをリュウ、美誇人のことをカイと呼ぶようになっていた。
節子と美和と敬子は普通に名前で呼ばれていたのに、何故ワシズとリュウとカイだけ?
良く分からないが、そうなった。
ただ、節子だけは美誇人のことを今までと同様にコトちゃんと呼んでいた。その方が節子にとっても言いやすいのだろう。





大会が終わると、期末テストの期間に突入した。
両手が使えない節子は字が書けない。なので、特別措置として中間試験の成績と出席日数だけで節子の成績はつけられた。

期末テストの成績も、静香が1位で敬子が2位。
さすがだ。

特に麻雀部からは追試を受けるような娘はいなかった。
幸運なことに、清澄高校の片岡優希のようにテストの点数で周りに心配をかける娘は綺亜羅高校麻雀部には居なかった。
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