咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百二十八本場:流れ

 春季大会決勝戦、副将前半戦。ドラは{⑤}。

 南三局一本場、美由紀の連荘。

 前局の美由紀の親ハネツモで、みかんも湧も、

「「(これ以上、阿知賀に和了らせない!)」」

 何とか、この親を流して被害を最小限に食い止めることを考えた。

 当然、美由紀へのマークが強まる。

 

 しかし、こうなるのを待っていた者がいた。美由紀に意識が強く高まる分、それ以外の面子へのマークが相対的に薄れてくる。

 しかも湧は美由紀の上家。美由紀にチーさせないように気を配り出した。

 ただ、能力に従って手を作るのが湧の本来の姿。当然、美由紀に鳴かせない麻雀と能力による手作りは必ずしも両立しない。

 つまり、能力によって引き当てた牌でも、それが美由紀に鳴かれない牌であれば、敢えてその牌を美由紀が欲しそうな牌に代わって捨てることになる。

 当然、湧自身の手も思うように進まなくなる。

 

 美由紀の手が進まなくなった。湧が牌を絞るようになったからだ。

 しかし、これは飽くまでも美由紀対策であって、他の二人にとっては別だ。

 中盤に入り、湧が切った美由紀の現物の{8}で、

「御無礼。ロンです。」

 美誇人に和了られた。

 

 しかも、開かれた手牌は、

 {③④⑤[⑤][⑤]33445567}  ロン{8}  ドラ{⑤}

 

「タンピン一盃口ドラ5。16300。」

 倍直だった。

 これで湧の点数は、64600点まで一気に落ち込んだ。

 

 美誇人は、

『(25000点持ちなら)これでアナタのトビで終了です!』

 と決め台詞を言いたかったが、実際には100000点持ちのため箱割れしていないので、心の中で言うのに留めた。

 下手なことを言えば挑発行為と取られ、審判から注意を受ける。審判からすれば、綺亜羅高校は暴力事件を起こした学校との認識だ。

 ただでさえ悪い印象が、さらに悪くなるだろう。

 それよりも、美由紀を逆転することに意識を向ける。

 

 現在の中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:美由紀 129300

 2位:美誇人 115200

 3位:みかん 90900

 4位:湧 64600

 美由紀と美誇人の点差は14100点。しかも、次局は美誇人の親番。親満ツモで逆転できる範囲だ。

 前後半戦トータルで決着をつける試合なので、前半戦のトップは必須では無いが、やはり、ここで逆転して優位に立ちたい。

 

 

 オーラス、美誇人の親。

 一旦、振り込み癖がつくと、中々止まらなくなることがある。まさに、湧は、その状態になっていた。

 振り込み癖は複数者相手に振り込むケースと、特定の相手にだけ振り込むケースの二つがあるが、ここでは、明らかに後者であった。

 湧から点棒が美誇人に流れる。そう言った場の空気が作り上げられている。いや、美誇人がそう言う流れを作ったのだ。

 こう言った流れが一度出来てしまうと、それに抗うことは中々難しい。

 ここでも、湧が大丈夫と思って切った牌で、

「御無礼。12000です。」

 美誇人に和了られた。

 これで美誇人は、美由紀との点差を2100点まで縮めた。

 

 美誇人からすれば、まだ湧から点数を搾り取れる感覚がある。

 当然、美誇人は、

「一本場。」

 オーラスでの連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。

 この時、みかんは、

「(仕方ないか………。)」

 既に副将戦での勝ち星を諦めていた。

 やはり美誇人は強い。淡と光が、揃って綺亜羅三銃士に高い評価をつけていたことを、身をもって感じる。

 

 ただ、想定外なのは美由紀のほうだ。

 阿知賀女子学院は、玄と灼が抜けるのと入れ替わりで、ゆいと美由紀がレギュラーに加わった。普通に考えて、この二人は玄と灼よりも弱いはずだ。

 もし、美由紀が玄や灼より強ければ、昨年のインターハイに団体戦で出場している。

 なので、玄はともかく、灼よりも格下であれば、みかんにだって美由紀に勝てる可能性は十分あると踏んでいた。

 ところが、予想以上に強い。少なくとも、綺亜羅高校の三銃士の一人、美誇人よりも現時点で点数が上回っている。

 

 今、みかんにできることは、これ以上、美由紀と美誇人に稼がせないこと。

 自分が勝ち星を取って白糸台高校の優勝を決めるのがベストシナリオだが、この二人が相手では、それは難しそうだ。

 ならば、大将戦で和が勝つことに期待するが、もし和が勝てなかったとしても得失点差勝負で阿知賀女子学院と綺亜羅高校に負けないようにする。

 

 幸い、今の総合得点は、

 1位:白糸台高校 870600

 2位:阿知賀女子学院 824300

 3位:綺亜羅高校 794600

 4位:永水女子高校 310500

 白糸台高校がトップにいる。しかも、2位の阿知賀女子学院に45000点以上の差をつけている。

 ならば、この点差を、これ以上縮めさせないことが最優先だ。たとえトップが取れなくても和了りを目指す。

 

 この対局は、全て和了りが12000点以上だ。なので、他家に追いつこうと、みかんは、これまで高い手を狙っていた。

 これを和了り優先に切り替えた。別に高い手でなくても良い。

 この配牌から狙えそうな手はタンヤオのみくらいか?

 ところが、安和了りでも良いと思った直後、不思議とドラが立て続けに三枚来た。

 高い手を目指すと高い手が出来ず、安くても良いと思ったら手が高くなる。まさにマーフィーの法則だ。

 

 

 中盤に入り、みかんが門前で聴牌した。

 役はタンヤオのみ。

 なので、ここはダマで待つ。

 

 ところが、ここでもマーフィーの法則は健在だった。

 聴牌した次巡、みかんは自分の和了り牌を引き当てた。

 もし、聴牌即でリーチをかけていれば一発ツモがついただろう。

「ツモ! タンヤオドラ3。2100、4100。」

 このみかんの和了りで副将前半戦が終了した。

 

 点数と順位は、

 1位:美由紀 127200

 2位:美誇人 123100

 3位:みかん 99200

 4位:湧 50500

 みかんが、ほぼ原点、湧が点数を原点の約半分に落とし、それを美由紀と美誇人で二分するような結果となった。

 美由紀がトップだが、美誇人との点差は4100点。30符3翻のツモ和了りで逆転できる範囲内だ。

 

 

 休憩に入った。

 選手達は、全員が一旦対局室を出た。

 自販機コーナーに行く者、トイレに行く者、控室に一旦戻る者、廊下のソファーに座って目を閉じ瞑想する者と、各自取った行動は様々であった。

 

 

 美誇人が控室に戻ると、

「惜しかったね。」

 と静香、

「でも、まだ逆転できる位置にいるよ!」

 と鳴海、

「美誇人なら後半戦で巻き返せるって!」

 と美和が言いながら出迎えてくれた。

 

 普段なら、ここで敬子の毒舌が入るところだが、今日は、

「大丈夫、まだまだイケるよ!」

 珍しく敬子が普通のことを言った。

 普段とは違う展開に、

「「「「(えっ?)」」」」

 全員、心の中で驚きの声を上げていた。

 これはこれで不気味だ。

 何か変なことが起きなければ良いが………。

 

 

 一方、美由紀はトイレ組だった。

 特に深い意味は無い。普通に区切りの時間にトイレに来ただけだ。超魔物不在の副将卓では放水する展開にはならないだろう。

 

 某ネット掲示板では、

『美由紀ちゃんのオモチがスバラなのです!』

『オモチベーション維持が大切なのです!』

『みかんちゃんのオモチも形が良くてなかなかなのです!』

 一人の住人が偏った書き込みをしているだけで、特に放水に関する記載で溢れかえっているわけではなかったようだ。

 

 

 この頃、湧は自販機コーナーにいた。

「糖分補給でもしようかな?」

 思いの他、結構疲れたし、振り込みマシーンと化した現状から脱却するためには気分転換が必要だ。

 ただし、

『つぶつぶドリアンジュース』

 に手を出すつもりだけは無い。

 

 数台ある自販機を順に見て行くと、

『飲むフォンダンショコラ』

『飲むモンブラン』

『ココアミルクセーキ』

『プリンドリンク』

『超劇甘お汁粉』

 と言った、いわゆる、

『麻里香コーナー』

 と言いたくなるようなラインナップの自販機があった。こんなものがこの世の中にあるとは、湧も初めて知った。

「げっ! なにこれ?」

 一瞬、湧は後ずさりしたが、たまには頭の切り替えに良いかも知れない。

 と言うことで、今回、湧は飲むモンブランにチャレンジすることにした。

 

 

 また同じ頃、みかんは、対局室を出てすぐのところにあるソファーの上に座って、一人瞑想していた。

 美誇人と美由紀を相手に勝つことは諦めても、ベストを尽くしたい。やれることをやらずにチームが負けたら、それこそ悔いが残る。

 そのために心を落ち着かせ、後半戦を最善の状態で迎えたい。そのための瞑想だ。

 …

 …

 …

 

 

 そろそろ休憩時間も終わる。

 副将戦メンバーが対局室に戻ってきた。

 そして、改めて場決めがされ、後半戦は起家が美由紀、南家が美誇人、西家が湧、北家がみかんで行われることになった。

 

 

 東一局、美由紀の親。

 当然、美由紀は連荘して美誇人との前後半戦トータルの点差を広げたい。対する美誇人は、絶対に美由紀に連荘させてはならない。

 湧としても、前半戦の流れを断ち切りたいし、みかんにとっても美由紀と美誇人に稼がせてはならない。

 東初から全員が和了りを目指す。

 

 ここで最初に動き出したのは、

「ポン!」

 親の美由紀だった。美誇人が捨てた{東}を鳴いたのだ。

 これはダブ東になる。

 鳴いた直後に美由紀がサイドテーブルに置いてあったペットボトルを手にした。この感じは、俗に言う聴牌タバコに似ている。聴牌すると一息つきたくなるのが、多くの人間に当て嵌まることなのだ。

 このことから、湧は美由紀が聴牌したと判断した。

 そして、美由紀を警戒して打ち回したのだが、これで切った牌で、

「御無礼。12000です。」

 またしても湧は美誇人に振り込んだ。

 完全に湧は、美誇人に打ち筋を見抜かれていたようだ。

 

 

 東二局、美誇人の親。ドラ{西}。

 前局で前後半戦トータルが逆転された今、今度は美由紀が追う側になる。

「ポン!」

 ここでも美由紀は、序盤から鳴いて出た。門前で手作りしないわけではないが、姉の栞と同じで標準の範囲を超えて鳴く方が自分には合っている。

 それに、美誇人に連荘させるわけには行かない。

 

 ただ、美誇人の連荘阻止を考えているのは美由紀だけではない。総合得点の差を維持したいみかんも同じことを考える。

 

 この局、みかんの配牌は、

 {三五②③③④68東南北白中}

 

 これが、十巡後には、

 {二三四五[五]②②③③④678}

 

 平和手に成長していた。

 ただ、リーチはかけない。確実に和了る。

 そして、聴牌して二巡後、みかんは待望の高目、{④}をツモった。

「ツモ! タンピンツモ一盃口ドラ1。2000、4000。」

 これならリーチをかけておけば良かったかもしれない。しかし、リーチをかけていたら一発消しで鳴かれ、和了り牌を掴めなかった可能性もある。

 多分、今回は、これで正解だと、みかんは自分に言い聞かせた。

 

 

 東三局、湧の親。

 ここでも、

「ポン!」

 美由紀が先行して動いた。ただ、この局は、いつもと違って役牌ではなく{九}のポンから始まった。

 ふと、美誇人の脳裏に準決勝副将前半戦オーラスでの出来事がフラッシュバックした。

 あの時も、最初に美由紀は{九}を鳴いた。その後に役牌をポン、さらに{九}を加槓して槓ドラがモロ乗りしたのだ。

「(まさかね。)」

 さすがに、美誇人は、連日で同じことが二度起きるとは思わなかった。

 しかし、

「カン!」

 今回も美由紀が{九}を加槓した。

 めくられた新ドラ表示牌は{八}。まさに昨日の再現だ。

 そして、嶺上牌を引くと、美由紀の表情に笑顔が灯った。嶺上牌で、和了牌を引いてきたのだ。

「ツモ! 發嶺上開花ドラ4。3000、6000!」

 和了り手は、殆ど萬子に染まっていた。

 たった二枚だけ筒子………{①}と{③}が手牌の中にあり、そこに偶然にも嶺上牌で{②}を引いてきたのだ。

 この後、美由紀は{①}と{③}を落として混一色に持って行くつもりだったのだが、結果オーライである。

 

 

 東四局、みかんの親。

 後半戦になって、美誇人、みかん、美由紀の順に和了った。まだ湧の和了りはない。

 それどころか、前半戦の東四局で和了って以来、湧は和了れていない。そろそろ、湧も焦りが出てくる。

 

 湧の特性………ローカル役満は、綺麗な手が多い。それ故に、何をやっているのがバレると、殆ど全ての牌が透けてしまう。

 ここでの狙いは紅孔雀。ただ、言い換えれば{1579中}以外は全て不要な牌。

 それを悟った上で、

「リーチ!」

 美誇人は聴牌即でリーチをかけた。

 

 湧は現在、ダンラスの状態にある。ならば、ムダに守るよりも一発逆転を狙って攻めに出る。

 どうせ、和了れなければ負け。振り込んで、最悪箱割れしても負け。

 同じ負けなら、僅かな可能性に賭けることにした。

 しかし、湧は、その想いで切った牌で、

「御無礼。一発です。メンタンピン一発ドラ5(表1赤2裏2)。16000。」

 豪快に振り込んだ。

 

 これで副将後半戦の点数と順位は、

 1位:美誇人 121000

 2位:美由紀 110000

 3位:みかん 102000

 4位:湧 67000

 さっきの振込みで、湧が75000点を割った。つまり、25000点持ちなら、ここでトビ終了である。

 

 現在のトップは美誇人。

 前半戦では、4600点差で美由紀がトップ、2位が美誇人だったが、これで前後半戦トータルは、美誇人が2位の美由紀に6400点差をつけてトップとなる。

 とは言え、まだ美由紀にも十分逆転は可能な範囲だ。

 美由紀の目に珍しく炎が灯った。




綺亜羅の旋風-6


その日の夜のことだった。
「敬子の潜水、本気で綺麗だったぁ。やっぱ、人魚の化身だよね!」
節子は、ベッドの上で横になると目を閉じ、敬子の泳ぐ姿を頭の中で反芻していた。あんな美しい泳ぎは見たことが無い。この上ない目の保養だ。

急に、節子の両手が熱くなってきた。
思い切り熱い温タオルで、両手をきつく縛られているような感じだ。
「なにこれ?」
痛みは無い。
しかし、汗は出ている。固定された中で蒸れている。
「ちょっと、お母さん!」
節子は、母親に状況を説明した。


翌朝、節子は母親に連れられて病院に行った。
素人が普通に手を見ても状況はよく分からない。
いや、医者でも、ただ見せられただけでは良く分からないだろう。それで、念のためレントゲンを撮ることになった。

レントゲン撮影後、少しして節子が再び診察室に呼ばれた。
この時、医師は怪訝そうな表情をしていた。
節子は心配になり、
「悪化したとかでしょうか?」
と聞いた。
すると医師は、
「それがねぇ。治ってるんだよ。」
と答えた。
想像を超えた回復力に、医師は、
「(二ヶ月で治るなんて、こんなの普通考えられない!)」
と思って怪訝な表情を見せていただけだった。それにしても、少しは嬉しそうな表情は出来ないのか?

ただ、これで今日から麻雀が打てる。
怪我をする前と同等に動かせるかどうか分からないけど、思い切り牌を手にすることができるのだ。
とても嬉しい。
嬉しくて涙が出そうだ。


節子が登校するのは昼休みもそろそろ終わる頃だった。
教室に入ると、
「来てくれたんだぁ。」
そう言いながら、敬子が目に涙をいっぱい溜めていた。
こんな敬子は珍しい。どんなに辛いことがあっても、大抵、何も感じていないみたいな平然とした表情をしているからだ。
それが泣くとは………。

多分、敬子は辛い時とか悲しい時、その感情を余り表に出さないだけで、心の中では結構傷ついているのだろう。
感情表現が下手なだけなのだ。

「急遽、病院に行ってたからね。」
「私との約束が嫌になって、学校に来ないんじゃないかって思って…。」
「約束?」
「マイセオリー麻雀って。」
「あれね。別に嫌になってなんかないってば。今日から私も打てるし。」
「えっ?」
「だから、一緒に探そう。敬子だけのマイセオリー麻雀。」
「治ったの?」
「なんか、昨日の夜に、急に両手が熱くなってさ。それで悪化してないか心配して病院に行ったら治ってた。」
「そうだったんだ。でも、良かった。治って。」

この会話を聞いて静香も、
「マジで?」
普通に驚いていた。
全治半年が二ヶ月で完治するなんて、良い意味で想定外だ。





放課後。
これから部活の時間。
美和も鳴海も美誇人も節子の超回復に驚きの色が隠せなかった。
「昨日、魔法使いにでも会った?」←美誇人
「別に、敬子の泳ぎを見ていただけだって。」
「じゃあ、何か変なことした?」←美和
「間違って(ホントはワザと)敬子の紙コップで水を飲んだくらいかな。」
「でも、敬子の紙コップを使ったくらいで治るなんて、いくら敬子が不思議ちゃんでも、そんな力は無いでしょ。」←鳴海
「だよねぇ。」
しかし、そう言いながらも、節子は、
『もしかしたら敬子の力では?』
と思っていた。

あの時、敬子からは恐るべきレベルのオーラを感じていた。しかも、あれは今思うと人魚の化身としてのオーラではなかろうか?
人魚の肉を食べれば永遠の命を得ることができる。これは、八百比丘尼の伝説として有名な話だ。
敬子を物理的とか性的に食べたわけでは無いが、恐らく人魚と化した敬子との間接キスによって、昨晩、節子の自然治癒能力が上限を遥かに超えたのだろう。

とは言え、こんな話を力説しても、今の雰囲気では誰も信じない。
それで節子は、敬子の紙コップのことを笑い話で済ませてしまった。
二年近くの時を超えて美和達が後悔することになるとも知らず………。


今日、節子は最初に敬子と打った。
実際に相手にして、どんな感じかを改めて確認したかったのだ。

敬子の牌の切り出しはオタ風から。
次に19牌。そして役牌。
改めてみると、役牌の対子がある場合、待っていれば大抵敬子から鳴ける。

逆に敬子にとってのオタ風となる、
『他のプレイヤーにとっての自風』
は、早々に敬子が切ってくれる。
逆に言えば、配牌で自風が対子になっていた場合は、すぐに敬子が鳴かせてくれるとも取れる。

理牌も、敬子から見て左から順に必ず、
一二三四五(五)六七八九①②③④⑤(⑤)⑥⑦⑧⑨12345(5)6789東南西北白發中
となっている。
これでは、切った牌を見れば、どの辺に何があるか分かるし、手に入れた牌も、慣れた人間であれば大体何か想像がつく。

余りにもパターン化し過ぎている。
もっと工夫しないとマズイだろう。

ただ、敬子はパターンを崩されるのが苦手なようだ。
なので、マニュアルがあると、本当はイヤなくせに、それに頼ろうとする。しかも、ギチギチにマニュアルを守ろうとする。
静香も美和も強くなっているのに、クソマジメにマニュアルどおりに正しく打っているはずの自分が全然強くなれない。
それで、今の敬子は、麻雀に嫌気がさしている。

だったら、最初から勝手なセオリーと言うか、勝手なマイパターンで打って負けた方が数段マシだ。


対局を終えて、節子は、敬子に色々聞いた。
「先ず配牌の時だけど、理牌のパターンが決まってるよね。」
「本にその順番で書かれていたから。」
「切る順番も決まってるよね。」
「そう言われてるから。」
どうも全てが他人任せとも取れる。
この感じ。
しかも、感情表現が下手でKY。
やっぱり発達障害系かな?

心理学のことは良く分からないけど、少なくとも今の敬子の打ち方自体は、徹底的にブチ壊そう。
間違いなく、良かれと思ってマニュアルどおりに打つことが、逆に敬子にとってストレスになっている気がする。
「何で理牌するの?」
「そうした方が分かりやすいからしなさいって言われるから。」
「でも、理牌しないで打ってもイイんだよ。」
「そうなの?」
「勿論。理牌を中途半端にしてもイイし、並べ方は自由よ。」
「そうなんだ。」
「私なんか、たまに理牌がメンド臭くて、理牌しない時もあるしね。」
「ふーん。じゃあ、私もしないでもイイのかな?」
「しないでやってみたら? それで、頭がゴチャゴチャしそうだったら、途中から理牌してイイから。」
「分かった。」
「それと、字牌の切り出しも、なんも考えずに適当に切ってもイイよ。」
「じゃあ、自分が見て分かりやすいようにしてみる。」
「まずは、それでやってみてくれる?」
「うん。」





節子は、色々細かいことを敬子に確認しながら、敬子の頭の中にインプットされたマニュアル打ちを全てリセットさせた。
まずはストレスフリーにすること。まだ色々と手探り状態だが、今考えられることは、そのくらいか。

では、誰と打ってもらうか?
もう3年生は引退して来ない。まあ、礼子が事件を起こした以上、来ること自体が辛いだろう。
2年生も、半数が来ていない。
1年生は全部で25名ほど。
その中で、後に三銃士と呼ばれる静香、鳴海、美誇人といきなり打つのは酷だ。
かと言って、弱い相手と打っても問題抽出しにくい。

一先ず節子は、県大会前の部内戦で5位だった堂島喜美子(1年)、6位だった及川奈緒(1年)、7位だった鈴木真帆(1年)を呼んで敬子と打ってもらった。
この三人なら、割と強いがバケモノ級ではない。なんとなくだが、敬子の改良作業の相手として丁度良いレベルと感じていた。

対局中、節子は、敬子の後ろに立っていた。
マニュアルリセット状態にした敬子の手の流れを実際に見て、次の改良点を探ろうと思っていたのだ。


場決めがされ、起家が敬子、南家が奈緒、西家が真帆、北家が喜美子に決まった。
東一局。ドラは七。
敬子の配牌は、
二三八③299東南西北白發中

八種九牌の最悪の手。
ただ、これを理牌せず、しかも親なのに第一打牌は東だった。
次の捨て牌は南、その次は西、その次は北だった。
さらに捨て牌は白發と続く。ある意味、捨てるほうには見て分かりやすいだろう。

ただ、そんなふざけた切り出しをしているくせに、何故か鳴かれない。それに、良く分からないが非常にツモが良い。
今までの敬子とは全然違う。
そして、七巡目で、
一二三八九①②③12399中
ドラ待ちだが、ジュンチャン三色同順ドラ1の親ハネの手を聴牌した。
敬子は、これを聴牌即で、
「リーチ!」←中切り
なんと、ドラ待ちなのにリーチした。
普通なら、
『そんなんでリーチかけても出てこないぞ!』
と罵倒されるだろう。
しかし、今の敬子には、そんなことは関係ない。
何も考えずに自由に打つ。

そして、次巡、
「ツモ! 12000オール!」
敬子は、リーチ一発ツモジュンチャン三色同順表ドラ1の裏ドラ2(アタマが裏ドラ)で親の三倍満を和了った。

東一局一本場。
今度の敬子の捨て牌は、
一九①⑨19
前局から併せると国士無双になっている。
まるで遊んでいるみたいだ。

そして、六巡目に奈緒が聴牌して捨てた南で、
「ロン! 混一七対赤1で18300!」
見事、敬子は親ハネを直取りし、奈緒のトビで終了した。

敬子の目に涙が溢れてきた。
「私が勝てた………。」
しかも、ブッチギリだ。こんな勝ち方は生まれて初めてだ。

喜美子も奈緒も真帆も、まさかの敗退に唖然としていた。
ただ、これがマグレでないか確認しなければならない。
もう一度、敬子には、この三人を相手に打ってもらう。


敬子が涙を拭きながら、二半荘目を開始した。
今回は、親が奈緒、南家が敬子、西家が真帆、北家が喜美子になった。

東一局。
相変わらず、敬子の捨て牌は、
東南西北
デジタル打ちの主張を無視して、自分が分かり易く東から順に切り出している。
そして、この四巡目に、真帆が切った白で、
「ロン! 門混小三元三暗刻ドラ2。24000!」
いきなり三倍満を和了った。
もはや、完全にツキまで自分のモノにしていた。

続く東二局では、
白發中一九
と切り、六巡目で、
「ツモダブ東ドラ3。6000オール!」
親ハネをツモ和了りした。
これで真帆がトビで終了した。
マイセオリー&ストレスフリーにしただけだったが、大成功だ。
これで敬子の心を掴んだかも………と節子は思った。まあ、思うだけなら自由だ。


半荘二回だったが、ともに東場でのトビ終了である。まだ三十分も経っていない。
節子は、少し敬子に休憩させて、美和、美誇人、静香、鳴海の勝負が終わるのを待った。

こっちの卓では、やはり美和が一番稼ぐ。
やはり、あのHな感覚を教えられると、身体が勝手に振り込んでしまうのだ。
美誇人も静香も鳴海も、この頃は、まだ例外ではなかった。気が付くと美和に振り込んでいたのだ。
そのうち、今ほどは振り込まなくなって行くのだが………。


美和達の対局が終わると、節子は、敬子、美誇人、静香、鳴海の四人で打ってもらった。
部活が終わるまで、あと半荘二回は打てそうだ。
勿論、事件を起こした部だ。18時になったら強制終了しないと周りの目がうるさい。なので、四人には高速で打ってもらうことにした。


場決めがされ、起家が敬子、南家が静香、西家が鳴海、北家が美誇人。

東一局、敬子の親。
相変わらず、敬子の捨て牌は、
東南西北白發中

しかし、ここには豪運の静香がいる。
敬子が聴牌して、
「リーチ!」
即、先制リーチをかけてきたが、その巡目で、
「ツモ。3000、6000!」
静香にツモ和了りされた。

その後も、鳴海や美誇人も和了った。
敬子も和了れたが、この四人が相手では、改良された敬子でもトップを取るのは難しい。
結局、最終的に美誇人が1位、敬子が2位、静香が3位、鳴海が4位で一回目の半荘を終了した。

次の半荘では、トップは静香で敬子は2位。3位が鳴海で4位が美誇人になった。
一見、まあまあの戦績に見える。
しかし、25000点持ちの30000点返してウマ無しのルールだと、トップ以外がプラスになることは少ない。
結局、敬子は大敗こそしなかったがプラスにはならなかった。

とは言え、今までの自分に比べれば十分過ぎる内容だ。
敬子は、トップを取れずとも満足していたようだ。
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