咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百二十九本場:大将戦開始

 春季大会決勝戦、副将後半戦は、丁度南入したところだった。

 南一局、美由紀の親。

 とにかく、美誇人をまくるため、美由紀は何でも良いから和了りが欲しい。それこそ、親なので憧の得意な30符3翻をツモ和了りできれば美誇人を逆転できる。

 当然、攻めの姿勢は崩さない。

「ポン!」

 ここでは、湧から出てきたチュンチャン牌を早々に鳴いた。

 まるで、ネリーのような攻撃的な目をしている。

 

 湧も、開き直って全面的に攻めに出ている。守るつもりなど、さらさら無いようだ。

 そこを美誇人は、つけ狙う。

 そして、聴牌即で、

「リーチ!」

 美誇人はリーチをかけた。当然、狙いは湧。

 同巡、湧も聴牌した。

 手牌は、

 {2223334448中中發}  ツモ{8}

 ローカル役満、紅一点の聴牌だが、これをツモ和了りできれば四暗刻になる。

 当然、{發}を切って、

「リーチ!」

 湧も攻めに出た。

 しかし、

「御無礼。」

 これで湧は美誇人に一発で振り込んだ。

 

 開かれた手牌は、

 {五[五]②②⑤[⑤]11西西北北發}  ドラ{一}  裏ドラ{②}  ロン{發}

 

 {發}単騎のリーチ一発七対子ドラ4。倍満だ。

「16000です。」

 この和了りで、美誇人はリードをさらに広げた。

 

 

 南二局、美誇人の親。

 ここでも美由紀は攻めに出る。

「ポン!」

 まず、みかんが捨てた{北}を鳴くと、その次巡、

「ポン!」

 今度は、湧が捨てた{中}を鳴いた。

 これで役牌二つが副露された。

 さらに、その二巡後、

「ポン!」

 美由紀は美誇人が捨てた{1}を鳴いた。

 

 上家の美由紀が鳴けば、それだけ美誇人のツモ回数は増える。そのお陰で、次のツモ番で美誇人は聴牌した。

 ここでリーチをかければ、もしかしたら手牌の少ない美由紀から和了れるかもしれない。

 ただ、美誇人はリーチをかけるのを躊躇した。

 美由紀のファンだからと言うのもあるが、それとは別の理由の方が大きい。直感的に、リーチかけても意味が無いと感じたのだ。

 

 その次巡、まさに美誇人が感じたとおり、

「ツモ!」

 美由紀がツモ和了りした。もし、リーチをかけていれば、ただでリーチ棒を差し出していたことになる。

 

 開かれた手牌は、

 {99白白}  ポン{11横1}  ポン{中横中中}  ポン{北北横北}  ツモ{9}

 

「北中混一混老対々。4000、8000!」

 しかも倍満。

 

 これで副将後半戦の点数と順位は、

 1位:美誇人 129000

 2位:美由紀 126000

 3位:みかん 98000

 4位:湧 47000

 ここに前半戦で美由紀がリードした4600点を足すと、1600点差だが美由紀がトータルで逆転した。

 阿知賀女子学院と綺亜羅高校にとっては、まさに手に汗握る試合展開になった。

 

 

 南三局、湧の親。

 湧自身のモチベーションは落ちていない。まだ、攻める姿勢はある。

 しかし、美誇人によって落とされたツキはどうしようもない。手が出来ても、あと一歩のところで他家に先に和了られてしまう。

 勝負すれば振り込むし、イイところがない。

 そこで向かえた親だが、

「リーチ!」

 結局、ここではみかんに先行された。

 この時、みかんの手はリーチドラ2の手。巡目は浅いが、これ以上手が伸びないとの判断だ。

 美由紀、美誇人ともに一発回避で安牌落とし。

 

 湧は、今更守りに入らない。攻めに回る。

 一発目で捨てた牌は暴牌と言われても仕方が無いものであった。しかし、偶々であろうが、みかんの和了り牌ではなかった。

 一発ツモもなし。

 

 しかし、その次の巡で、

「ツモ。」

 みかんは和了り牌を自力で引いてきた。

「リーツモドラ3(表2裏1)。2000、4000。」

 これで、みかんは原点を越えた。

 

 

 オーラス、みかんの親。

 ここでも先行したのはみかんだった。最後の最後で、ようやくみかんにツキが回ってきた感じだ。

 役無しドラ1で聴牌。

「(親だし、イイか。)」

 ここで、みかんは、

「リーチ!」

 聴牌即でリーチをかけた。

 前局同様、美由紀と美誇人は、ともに一発回避で安牌落とし。湧は、守る気は無いが、捨てる予定の牌に、みかんの現物があったので、それを一先ず落とした。

 そして、みかんは一発目のツモ牌で、

「ツモ!」

 和了りを決めた。これには、本人も驚いたようだ。

「リーチ一発ツモドラ2(表1裏1)。4000オール!」

 しかも親満である。嬉しい和了りだ。

 

 この時点で副将後半戦の点数と順位は、

 1位:美誇人 123000

 2位:美由紀 120000

 3位:みかん 118000

 4位:湧 39000

 

 そして、全後半戦のトータルでは、

 1位:美由紀 247200

 2位:美誇人 246100

 3位:みかん 217200

 4位:湧 89500

 みかんとトップとの差は丁度30000点差。

 連荘しても親ハネツモしただけでは逆転できない。一回で逆転するのであれば親倍ツモが必要だ。

 ただ、親満を二連続でツモ和了りできれば逆転できるとも言える。

 

 南三局とオーラスで、みかんは、二回連続で満貫を和了れている。ツキが回ってきている感触は十分ある。

 もし、ここで逆転トップが取れれば、勝ち星三で白糸台高校の優勝が決まる。

 みかんは、ついさっきまで勝ちを諦めていたが、今置かれた状況なら話は別だ。勝てる可能性はゼロじゃない。

 それに、そもそも和了りやめをすると言う選択肢は無いだろう。

「一本場!」

 当然、みかんは、連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。ドラは{③}。

 美由紀は、和了れば、どんな手でも勝ち星をあげられる。

 美誇人はツモ和了りならゴミツモで良い。直取りなら美由紀から何でも良いから和了るか、あるいは2翻以上の手をみかんか湧から和了れば逆転勝ち星となる。

 みかんも、さらなる連荘を狙う。

 

 七巡目、湧が聴牌。

 手牌は、

 {1234567東東東南北北}  ツモ{8}

 {南}切りで{369}待ち聴牌。{9}ならローカル役満の東北新幹線。当然、打{南}。

 すると、これを、

「ポン!」

 美由紀が鳴いた。

 これで聴牌。

 手牌は、

 {二三四五五五六七八九}  ポン{南横南南}

 {一四六七九}待ち。

 

 美誇人は、

 {八八八②③③[⑤]⑥⑦3456}  ツモ{中}

 ここで{中}をツモ切り。

 

 湧も{白}をツモ切りした。

 

 次は、みかんのツモ番。

 ここでみかんは、

 {五六七④[⑤]⑥⑦⑧⑧⑧[5]6西}  ツモ{7}

 打{西}で聴牌。{③④⑥⑦⑨}待ち。

 

 続く美由紀のツモは{①}。当然、これをツモ切り。

 

 そして、美誇人のツモは{六}。

 美誇人の表情が変わった。

「(これは切れない。)」

 ここで美誇人は打{八}。美由紀の和了り牌を止めた。

 

 その後、美誇人はツモ{3}、打{八}。

 ツモ{③}打{②}で振り込みを回避し、その次のツモ番で、

「ツモ!」

 和了りを決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {六八③③③[⑤]⑥⑦33456}  ツモ{七}  ドラ{③}

 

「タンヤオツモドラ4。3100、6100。」

 この和了りで副将後半戦が終了した。

 

 これで副将後半戦の点数と順位は、

 1位:美誇人 135300

 2位:美由紀 116900

 3位:みかん 111900

 4位:湧 35900

 

 そして、全後半戦のトータルでは、

 1位:美誇人 258400

 2位:美由紀 244100

 3位:みかん 211100

 4位:湧 86400

 最後の最後で美誇人が逆転して綺亜羅高校が決勝戦初めての勝ち星をあげた。

 これで勝ち星は白糸台高校が二、阿知賀女子学院が一、綺亜羅高校が一となった。

 

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

 対局後の一礼が終わり、副将戦選手達は対局室を後にした。

 この頃、各控室では大将戦選手達のモチベーションが上がっていた。

 

 現在の総合得点は、

 1位:白糸台高校 990800

 2位:阿知賀女子学院 939100

 3位:綺亜羅高校 925800

 4位:永水女子高校 344300

 依然として白糸台高校、阿知賀女子学院、綺亜羅高校の三強状態である。

 

 現在勝ち星無しの永水女子高校は、もし大将戦で勝ち星を取れたとしても優勝は有り得ない。準優勝を狙うにも、阿知賀女子学院と綺亜羅高校の総合得点を追い抜くのは、一般的に考えて、もはや不可能である。

 つまり、既に4位確定と言える。

 

 普通なら、こんな状態で大将戦が回ってきたら、大将のモチベーションは上がるはずがない。下がりっぱなしだろう。

 しかし、東横桃子は違っていた。

 相手は原村和と高鴨穏乃。

 

 原村和は長野時代からの好敵手。自分のステルスを初めて破った相手。当然、和には負けたくない。

 

 高鴨穏乃は天江衣が深山幽谷の化身と比喩した超魔物の一人。一昨年前のインターハイ開催中に、ひょんなことから練習試合をしたが、その頃と今では随分違う。

 

 それから不気味な存在なのが綺亜羅高校の稲輪敬子。見ていて強い相手だと言うことは良く分かる。

 多分、その強さの秘密が、実際の対局を通じて分かるだろう。

 さすがに桃子も、敬子の強さがKYに由来するとは、想像もつかないようだが……。

 

 チームの負けが決まっているなら、自分の麻雀が、この三人にどこまで通じるか試してみたい。

 なので、桃子のモチベーションは下がるどころか、むしろ上がっていた。

 

 

 対局室に大将選手達が姿を現した。

 今日は、敬子は『つぶつぶドリアンジュース』を持っていなかった。さすがに美誇人と擦れ違った際に、

「他校の選手に迷惑だから持ち込むのはやめて!」

 と言われたのだ。

 それで、渋々無難にオレンジジュースを買ったようだ。

 

 場決めがされ、起家が敬子、南家が穏乃、西家が桃子、北家が和に決まった。

 

 

 東一局、敬子の親。

 まず東初で先行したのは、牌効率が最も良い和だった。

 僅か六巡目で、聴牌し、

「リーチ!」

 そのまま即リーチをかけた。割と早い巡目での先制攻撃だ。

 敬子も穏乃も桃子も、一先ず現物を落として様子を見る。

 一発目で、和はツモ和了りできず。

 そのまま数巡が過ぎていった。

 しかし、中盤から終盤に差し掛かる頃、

「ツモ!」

 ようやくと言ってよいだろう。和が何とか自力で和了り牌を掴み取ってきた。表ドラは1枚あるが裏ドラなしの手。

「リーチツモタンヤオドラ1。2000、3900。」

 とは言え、満貫級の手だ。なかなかの出足と言える。

 

 

 東二局、穏乃の親。

 ここから敬子の本領が発揮される。

 敬子の捨て牌は、順に、

 {東南西北白發中}

 綺麗に順番どおり並べられている。

 しかも、

「リーチ!」

 七枚目に捨てた{中}でリーチをかけてきた。

 こんな捨て牌では何が何だか分からない。

 しかも、リーチをかけてから理牌を始めた。これまで、理牌せずに打っており、しかもツモった牌は順に右側につけるだけ。

 当然、ツモ牌を手牌に入れる動作を見たところで、牌がどんな入り方をしているかの推察すらできない。

 

 一発目のツモは不発。

 しかし、その次のツモ巡で、

「ツモ!」

 敬子はツモ和了りを決めた。

「メンタンピンツモドラ3。3000、6000。」

 しかもハネ満ツモ。

 親の穏乃にとっては痛い親かぶりになった。

 

 

 東三局、桃子の親。

 ここでの敬子の捨て牌は、順に、

 {一九①⑨19}

 前局のリーチ前の捨て牌を足したら国士無双が出来ている。傍から見ていて、ふざけているようにしか思えないだろう。

 しかも、ここでも敬子は六巡目で捨てた{9}を横に曲げ、

「リーチ!」

 先制リーチをかけてきた。この捨て牌も、全然読めない。

 そして、

「一発ツモ!」

 敬子は、即ツモ和了りを決めた。

「リーチ一発ツモ七対ドラ2。3000、6000。」

 しかも、またもやハネ満だ。

 他家からしたら全然読めない麻雀。これが綺亜羅高校第二エース、KYな娘と呼ばれる稲輪敬子である。

 

 

 東四局、和の親番。

 ここに来て、桃子は、卓上に靄がかかっているのを感じ取った。いよいよ、穏乃の能力が発動したのだ。

 これによって、他家の能力はキャンセルされる。

 ところが、和も敬子も驚きもせずに普通に打っている。

 

 和は強度のデジタル人間のためか、能力自体が殆ど効かない。実際には多少の影響は受けるのだろうが、殆ど影響を受けないように感じる。

 なので、穏乃の能力が発動したところで、せいぜい和には、

『ちょっとツモが悪くなりましたね』

 程度のことだろう。

 

 問題は敬子である。

 敬子も殆ど変わった雰囲気が無い。

「(彼女も能力が効かないタイプっスか?)」

 桃子は、敬子と言う正体不明の選手に、驚くと同時に興味が湧いてきた。




綺亜羅の旋風-7


翌日も節子は、敬子、美誇人、静香、鳴海の四人で打ってもらった。
一半荘目は、1位鳴海、2位敬子、2位美誇人、4位静香。
二半荘目は、1位美誇人、2位敬子、3位静香、4位鳴海だった。

この面子では、昨日の二半荘を含めて、敬子は四連続2位。
25000点持ち30000点返しではマイナスだが、獲得素点だけで考えればプラスである。
1位を取れなかったが、昨日と同様に敬子は満足顔だった。
少なくとも部内で実質3位から5位を相手に同等に戦えていると思えるからだ。


十月になり、秋季県大会が行われた。
今回も夏の県大会の時と同様に、木曜日から日曜日までの四日間に渡っての開催であった。
綺亜羅高校麻雀部員達は、大会にエントリーできない身だ。さすがに授業をサボって見に行くのはマズイ。
それで節子達は、土曜日と日曜日のみ会場に足を運ぶことにした。

土曜日に準々決勝戦と準決勝戦、日曜日に決勝戦が開催された。
夏の大会と同じで、準決勝戦までは先鋒戦から大将戦まで各半荘一回ずつ、決勝戦のみ各半荘二回ずつの対局であった。

節子の目から見て、明らかに夏の大会よりも全体的にレベルダウンしているように感じられた。
3年生レギュラーが抜けて、その抜けたメンバーよりも弱い2年生や1年生がレギュラーに昇格したと言うのもあるが、多分、それだけが理由では無い。
やはり、最後の夏に賭ける3年生の想いが、この大会には無いからだろう。

綺亜羅高校の暫定メンバーは、レギュラー陣が節子、美和、美誇人、静香、鳴海、そして二人の補員うち片方は敬子、もう片方は、恐らく奈緒か喜美子。

常にレギュラー陣だけで試合を済ませられるモノでは無い。
女の子の日もあるし、普通に風邪を引いたり頭痛がしたりと体調不良の日もある。
盲腸炎にかかって入院することだって考えられる。
それに、あの美誇人だって、夏の大会の選手選定の部内戦の時に、新型ウイルスにやられて寝込んでいた。
なので、補員だって不可欠なメンバーだ。

ある意味、綺亜羅高校は安泰であろう。
レギュラーの誰かに不測の事態が起きた時には、敬子が間違いなく穴を埋めてくれる。あの麗しき人魚姫は、非常に頼もしい存在だ。


決勝戦は、夏の大会と同じで越谷女子高校、所沢第二高校、不動高校、春日部中央高校の対決だった。
自分達と同じ、1年生だけで結成された新チーム、大酉高校なんて伏兵も出てきたが、僅かに力が及ばず準決勝戦で敗れていた。
多分、大酉高校が注目されるのは今の2年生が来年の夏を過ぎて引退してから………、つまり来年の秋季大会からだろう。

マークすべきは、やはり所沢第二高校の戸成皐月と戸成芽衣。自分達と同じ1年生プレイヤーだ。
所沢第二高校は、夏の大会と同じで、この二人を先鋒と次鋒に配置した。

今回も点数引継ぎ制のルール。
皐月と芽衣の活躍で所沢第二高校は圧倒的なリードを作った。そして、そのまま逃げ切り優勝は所沢第二高校のものとなった。
もっとも、決勝進出した四校が関東大会に出場するわけだが………。

ただ、節子は試合を見て、今の美誇人、静香、鳴海、敬子なら、この二人が相手でも圧勝すると感じていた。
もし、この大会に自分達が出場していれば、余程全員の調子が悪くない限り、間違いなく優勝は自分達のものだ。

やはり、照準となるのは全国だ。
そこには、とんでもなく強いチームが存在する。

チャンピオン宮永咲が率いる清澄高校。
しかも、同じ長野には天江衣のチーム、龍門渕高校もある。
どちらが全国に出てきてもおかしくない。共に超強豪チームだ。

他にも深山幽谷の化身と呼ばれる高鴨穏乃のいる阿知賀女子学院。
前チャンピオン宮永照の残したチーム………、今は超厄介なマルチタスクを有する魔物、大星淡をエースとする白糸台高校。
荒川憩を擁する三箇牧高校。
やっぱり大会出場辞退の期間が明けるのが待ち遠しくて堪らない。





翌日、節子は朝刊を見て目が点になった。
他の都道府県の試合結果を見たのだが、長野県の決勝進出校の中に清澄高校の文字が無かったのだ。
首をかしげながら次のページを開くと、
そこに書かれていたのは、
『阿知賀女子学院のエース!』
の文字と共に咲の姿が載っていた。
どう言うことだ?

それと、もう一つ大きく取り上げられていたのが、
『奇蹟の4並び』
の文字。
先鋒として出場し、起家を引くと東一局で怒涛の連荘を続けて全員箱割れさせて終了。
なおかつ自身の点数を444400点にした。
まるで、全員に死を与えるが如くのパフォーマンス。
100点棒まで完璧に点数調整している。
こんなことができるのか!?

細かく読んで行くと、咲は、親の転勤で阿知賀女子学院に転校したと書かれていた。
咲が抜けた長野県では、龍門渕高校が優勝。
超魔物の天江衣がいるし、他のメンバーも結構強いのだから当然か。

さらに記事を読んで行くと、西東京優勝校の白糸台高校のメンバーの中に原村和の名前があった。
東東京優勝校の臨海女子高校のメンバーの中にも片岡優希の名前があった。
と言うことは、清澄高校は完全に解体したと言うことだ。

それともう一つ、臨海女子高校のメンバーの中に、コクマで長野県の選手として出場していた南浦数絵の名前もある。
結構強い選手だ。

インターハイ優勝チームである清澄高校は解体したが、言い換えれば、阿知賀女子学院、白糸台高校、臨海女子高校がパワーアップしたとも言える。
節子は、ますます大会出場が待ち遠しくなった。
これらのチームと戦いたいのだ。





そして、世界大会が始まった。
さすがにボストンまで応援しに行くのはムリだ。
節子は、テレビで試合を見た。


日本チームは決勝戦まで勝ち進んだ。

これより大将後半戦オーラスに突入する。
この時、節子は顔面蒼白していた。
W宮永に天江衣、荒川憩と言った超魔物を揃えたはずの日本チームが、まさかの低迷状態にあったからだ。

各チームの点は、
東家:ドイツチーム  141900(暫定1位)
南家:中国チーム 108700(暫定3位)
西家:アメリカチーム 110100(暫定2位)
北家:日本チーム 39300(暫定4位)


ドイツチームは安手で流せば優勝。
流局でも問題ない。

アメリカチームは三倍満ツモか、ドイツチームから倍満を直取り、もしくは中国チームか日本チームから役満直取りが優勝条件。

中国チームはドイツチームから倍満を直取りでも優勝できず、三倍満以上の和了りが必要だった。

本大会ではダブル役満以上の和了りも認められていたが、単一役満でのダブル役満は認められていなかった。
そのため、例えば慣習的にダブル役満として認められることの多い大四喜や国士無双十三面待ち、純正九連宝燈、四暗刻単騎待ち、大七星なども、ここではシングル役満として扱われることになる。
つまり、清老頭四暗刻や大三元字一色四暗刻といった複合役満でなければダブル役満やトリプル役満は成立しないことになる。

日本チームは、ダブル役満をツモ和了りしても、他家から直取りしても優勝できない。トリプル役満以上を必要とする状況だった。
もはや、日本チームの優勝は絶望的と言えよう。

咲の武器とも言える大明槓からの嶺上開花に対する責任払いは、本大会では適用されていなかった。
もっとも、それがあったところで、もはや逆転優勝できる状況にはないのだが…。


トップを走るドイツチームの大将、親のミナモ・ニーマンは数巡で聴牌。
安上がりで良いこの局面で、いまだアメリカチーム大将も中国チーム大将も聴牌していない状態。
節子は、完全に優勝はドイツチームに持って行かれたと思っていた。

ところが、中国チーム大将が初牌の東を切ると、
「ポン。」
咲が動いた。
この日本最強の女子高生雀士は、まだ勝利を諦めていないのだ。

次巡、ミナモは①ツモ切り。これは咲の和了り牌では無い。
しかし、
「カン!」
ここで咲は大明槓を仕掛けた。
嶺上牌は東。
「もいっこ、カン!」
当然のように咲が東を加槓。そして、嶺上牌は南。
「もいっこ、カン!」
続いて咲が南を暗槓。次の嶺上牌は西。
「もいっこ、カン!」
さらに咲が西を暗槓。
これでまさかの四連続槓。
そして、嶺上牌は、ラス牌の北。
北の文字が見えるようにして、咲は、それを手元に置いた。
「ツモ。嶺上開花。小四喜四槓子。」

この大会では、包と呼ばれる役満責任払い、すなわち三枚目の三元牌を鳴かせて大三元を確定させるとか、四枚目の風牌を鳴かせて大四喜を確定させるプレイに対する罰則(責任払い)が適用されていた。
そして、これは四槓子にも適用されていた。
また、連槓の場合、連槓の最初が大明槓であれば、その大明槓をさせたプレイヤーの包となった。

今回の場合、四槓子の32000点がミナモの責任払い、小四喜はツモ和了りとみなされ、親のミナモに16000点、他の二人に8000点ずつの支払いが課せられた。

その結果
1位:日本チーム 103300(+64000)
2位:アメリカチーム 102100(-8000)
3位:中国チーム 100700(-8000)
4位:ドイツチーム 93900(-48000)
まさかの大逆転劇だった。

咲が、また超奇蹟を起こしてくれた。こんな闘牌は、他の人間には不可能だ。世界広しと言えど、咲にしかできない芸当であろう。
これをテレビで見て、節子は大興奮した。

多分、自分でも咲には勝てないだろう。
しかし、その巨大な敵と打ちたい。
自分が何処まで通用するか試してみたいのだ。





世界大会の後、関東大会が開催された。
節子は、関東大会の決勝戦を見たが、彼女の胸中では今一つ盛り上がりに欠けた。
世界大会での咲の活躍を見てしまった以上、はっきり言って、この程度のレベルでは全然物足りないのだ。


その翌日、節子は新聞で近畿大会の成績を知った。
咲vs憩の対局。
先鋒戦で魔物二人が同時に暴れて、千里山女子高校の二条泉がトビで終了。
正直、咲とこれだけの戦いを繰り広げた憩を、節子は羨ましく思えた。

練習試合が出来れば、すぐさま阿知賀女子学院に申し込むのに………。
それができない自分達の立場が、節子としては、もどかしくてならなかった。





年末年始を迎えた。
綺亜羅高校のメンバーで初詣に出かけた。
発案者は節子。
理由は、敬子の着物姿が見れればラッキーと思ったから。

どうやら、その辺を静香が汲み取ってくれたようだ。
初詣には敬子が着物を着てきた。
勿論、髪も綺麗に結ってあるし、うっすら化粧もしている。とんでもなく美しい。これなら白糸台高校の佐々野みかんにも負けないぞ!
こんなのが見れて、節子は、もう死んでも良いとすら思えた。





そして2月。
もうすぐバレンタインデー。
節子は、敬子にチョコをあげようかと思って日曜日に一人街に出た。

片道二車線の広い交差点で信号待ちしていると、まだ赤なのに、突然、後ろの人が節子を押してきた。
どうやら、その人も、そのさらに後ろから押されたみたいだ。
ただ、節子は一番前にいたため、不幸にも道路に押し出されてしまった。
そこに、猛スピードで突っ込んで来るダンプカー。
避ける余裕など無い。
節子は、そのダンプカーに跳ねられた。

跳ね飛ばされる節子の身体。
その時、一瞬だけ節子の目に映ったのは、列の後方にいる礼子の姿。
礼子は、
『ザマミロ』
とでも言いたそうな表情をしているように節子には感じられたが、礼子が押したのかどうかは分からない。
その直後、節子の視界は真っ暗になった。
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