春季大会決勝戦、大将後半戦は、オーラス二本場に突入した。
ドラは{7}。
今、選手達を覆っているのは、穏乃が支配する独特の世界。深い山の中で、しんと静まり返った寂しい雰囲気に包まれていた。
深い霧に覆われ、視界が悪い。まるで、閉ざされた空間にいるような感覚だ。
和の配牌は、
{一三六九②④⑤99西北白中}
ここから、七巡で、
{一二三六七八九②③④⑤99} ツモ{[五]}
平和手で高目一気通関を聴牌した。
これを和了れば、白糸台高校が念願の優勝を果たせる。当然、和が{②}を切った。
しかし、これで、
「ロン!」
穏乃に振り込んだ。穏乃は{②⑤}で待っていたのだ。
前半戦南二局で桃子に張った罠と同様のことを穏乃は和に仕掛けていた。それに、和はまんまと嵌ったのだ。
開かれた手牌は、
{六七八③④234[5]6788} ロン{②} ドラ{7}
タンピンドラ2の親満級の手だ。
「11600の二本場は12200。」
しかし、これでもまだ、阿知賀女子学院は白糸台高校を総合得点で上回ることは出来ない。それだけ大差がついていたのだ。
当然、穏乃は、
「三本場。」
さらなる連荘を宣言した。
オーラス三本場。
急に桃子の視界が晴れた。
現在の大将後半戦の点数と順位は、
1位:穏乃 128300
2位:和 100600
3位:敬子 96200
4位:桃子 74900
勝ち星争いには、ここに前半戦の点数も加算される。
ダンラスの桃子は、もう勝負には絡んでこないだろうとの判断だ。
事実、前後半戦の現段階での合計は、
1位:穏乃 239400
2位:和 205000
3位:敬子 204100
4位:桃子 151500
桃子が勝ち星を取るには、ダブル役満以上を穏乃から直取り、またはツモ和了りするしか方法が無い。
可能性はゼロでは無いが、限りなくゼロに近い。
それに、穏乃には山にある牌が見えている。この局では、どう足掻いても桃子がダブル役満を作れないことを、穏乃は分かっていたのだ。
桃子なら、ここで安手を和了って勝負に水をさすような馬鹿な真似はしないだろう。
それで、まだ勝ち星を狙う和と敬子への支配に集中するために、穏乃は敢えて桃子への支配を解除したのだ。
敬子の視界に穏乃の世界が広がる。いくら他人の能力支配を受けない体質でも、ここまで強力になると、さすがに跳ね除けられない。
まるで、濃霧に包まれた山奥に、一人、ポツンと置き去りにされたような感覚だ。
配牌も悪いし手も進まない。こんな状態がずっと続いている。
和も、前局では聴牌できたが、今回は手が進まない。
気が付くと、既に局は終盤を迎えていた。
穏乃の背後に、より一層激しい火焔が見えた。
そして、
「ツモ。4300オール。」
それと同時に穏乃が親満をツモ和了りした。
これで大将前後半戦の合計は、
1位:穏乃 252300
2位:和 200700
3位:敬子 199800
4位:桃子 147200
敬子が勝ち星を取るためには、穏乃から役満以上を直取りするか、ダブル役満以上をツモ和了りするしか方法が無くなった。シングル役満ツモでは、穏乃をまくれない。
これで敬子も勝負から離脱するしかないだろう。
また、総合得点は、
1位:白糸台高校 1191500
2位:阿知賀女子学院 1191400
3位:綺亜羅高校 1125600
4位:永水女子高校 491500
阿知賀女子学院が、白糸台高校に、たった100点差まで追い上げてきた。
和と穏乃で、次に和了った方が勝つ。まさに、手に汗握る展開になってきた。
当然、ここで和了り止めするなど有り得ない。
穏乃は、当然、
「四本場!」
最後の連荘を宣言した。
オーラス四本場。ドラは{③}。
ここでは、敬子も穏乃の支配から解除された。
少なくとも、山の雰囲気から敬子が………いや、この局では誰も役満を作れないと穏乃は確信していた。それで、敬子をマークする必要がなくなったのだ。
和に絶対に和了らせないために、穏乃は和一人に能力支配を集中した。
和は、やはり最低の配牌に最悪のツモ。ここで穏乃に和了られたら逆転負けとなる。
普段冷静な和が、珍しく焦りの表情を見せていた。
一方、桃子と敬子は、普通に手が出来上がって行く。
しかし、ここでは桃子も敬子も和了って許される手は限られる。二人とも、単に勝ち星を得るだけではダメだ。桃子なら総合得点で阿知賀女子学院と綺亜羅高校を逆転して永水女子高校を準優勝に導けることが条件、敬子なら総合得点で白糸台高校を逆転して優勝できることが条件になる。
一応、桃子も敬子も聴牌できたが、条件を満たせるものではなかった。
中盤に入り、穏乃の能力がマックス状態になった。
さすがの和も、濃霧が見えていた。そして、彼女が山から牌をツモった時、彼女の目にも、とうとう穏乃の背後で燃え盛る火焔が見えた。
オカルトを信じない和には、単なる錯覚程度にしか思えなかったが、明らかに穏乃の能力は和を押さえ込んでいた。
和は、嫌な予感がした。それで、一旦、彼女は穏乃の現物を切った。ここで振り込んだら負けだからだ。
次のツモ番は桃子。
ツモったのは不要牌の{3}。手は、一応聴牌している。和了るつもりはないが、一応、聴牌は維持したい。
それで、特に深く考えずにツモ切りしてしまった。
しかし、これで、
「ロン。」
対面から和了りの宣言が聞こえてきた。穏乃に振り込んだのだ。
穏乃の手は平和のみ。1500点に芝棒がついて2700点の手だ。
しかし、この直後、
「ロ…ロン。」
桃子の下家からも和了り宣言が聞こえてきた。敬子が和了ったのだ。
「「「えっ?」」」
思わず、和も桃子も穏乃も敬子のほうに視線を向けた。
開かれた手は、
{四[五]六③③③⑤[⑤]45678} ロン{3} ドラ{③}
タンヤオドラ5のハネ満だった。
その直後、敬子は、
「あっ!」
自分がやったことに気が付いた。これは、和と穏乃だけのサシの勝負。他家は和了ってはいけないヤツだ。
空気が読めない敬子でも、これが分からないわけでは無い。
別に悪気があってやったことでは無い。敬子は、穏乃が和了ったのにつられて和了ってしまったのだ。
敬子にも、敬子なりの背景がある。
例えば埼玉県大会も関東大会も二家和(ダブロン)ありのルールだった。なので、これで和了っても特段問題は無かった。
それに、南一局に和了って以降、敬子はずっと和了れずにいたことで、ようやく和了れると思ってしまった部分もある。
こういった場面で切り替えが出来ないこと………これは、明らかに公式試合の経験不足から来ることだ。
敬子は、
「ご…ごめんなさーい!」
そう大声で叫ぶと、途端に大粒の涙を流し始めた。
今以上に自分のKY行為を呪ったことは無い。KYゆえに、それに気が付いた時には反動が大きく、人一倍大きく傷つくのだ。
これで、大将後半戦の点数と順位は、
1位:穏乃 141200
2位:敬子 105100
3位:和 96300
4位:桃子 57400
そして、大将前後半戦のトータルは、
1位:穏乃 252300
2位:敬子 213000
3位:和 200700
4位:桃子 134000
よって大将戦の勝ち星は穏乃が取り、各校の勝ち星は白糸台高校が二、阿知賀女子学院が二、綺亜羅高校が一、永水女子高校が勝ち星なしとなった。
これにより、優勝校は白糸台高校と阿知賀女子学院の得失点差によって決められることになったが、総合得点は、
1位:白糸台高校 1191500
2位:阿知賀女子学院 1191400
3位:綺亜羅高校 1138800
4位:永水女子高校 478300
たった100点差だが、白糸台高校が総合得点のリードを守り切って優勝を果たした。阿知賀女子学院の春夏春の三連覇、宮永咲の団体戦四連覇を阻止しての優勝だった。
しかし、優勝しても白糸台高校の選手は納得できなかった。最後は、穏乃が桃子から和了って阿知賀女子学院が優勝を決めていたはずだったのだ。
勝負では負けていた。なので、光や淡達にとっては勝利の喜びが全然感じられない優勝となってしまった。
この時、阿知賀女子学院控室では、憧が呆然とモニター画面を見詰めていた。
敬子の和了りはルール上問題ない。憎たらしい行為ではあるが、阿知賀女子学院の春季二連覇阻止、春夏春三連覇阻止の偉業とも取れる。
そんなことよりも、もし穏乃が和了った三回の3900オールのうち、一回でも4000オールだったならオーラス三本場が終わった時点で優勝だった。
他にも、憧が先鋒後半戦オーラスで和了った3900オール、ゆいが次鋒後半戦で和了った二度の3900オールのいずれかが4000オールなら、オーラス三本場終了時点で、自分達の優勝で決着がついていたはずなのだ。
いや、それ以前に、憧が先鋒後半戦の南三局で和了った手が2000、3900ではなく2000、4000だったら良かったのだ。
本大会は、決勝戦に限り同着が認められていた。つまり、憧の和了りが100点多ければ大将後半戦はオーラス四本場に突入せずに白糸台高校と阿知賀女子学院の両校優勝で幕を閉じていたはずだったのだ。
色々悔いが残る。
…
…
…
決勝戦出場選手が対局室に集められた。これから表彰に入る。
綺亜羅高校の選手達には銅メダル、阿知賀女子学院の選手達には銀メダル、そして白糸台高校の選手達には金メダルがかけられていった。
表彰式では、終始、敬子は涙を流したまま俯いていた。
敬子を非難する声はゼロではなかったが、思ったほど多くは無かった。
むしろ、各大会でルールが統一されていなかったことや、綺亜羅高校の経験値を奪った一昨年の措置の方が問題視された。それが、結果的に敬子の最後の和了を誘発する原因となったからだ。
敬子にとっては、それが、せめてもの救いだった。
優秀選手は4名。白糸台高校の宮永光、綺亜羅高校の的井美和、阿知賀女子学院の高鴨穏乃、永水女子高校の石戸明星が選ばれた。
そして、最優秀選手には阿知賀女子学院の宮永咲が選ばれた。これは、準決勝戦と決勝戦で、ともに100000点持ちからトビ終了を決めたのが大きいだろう。
…
…
…
翌日より個人戦が執り行われた。
出場権は春季大会出場の32校の選手のみに与えられ、各校8名まで参加できる。ただし留学生は出場不可であった。
また、参加人数が8名に満たない高校がある場合、卓割れの可能性が生じるが、その場合は1名欠けなら優勝校から、2名欠けなら優勝校と準優勝校から、3名欠けなら優勝校、準優勝校、3位の高校の枠を1名増やして対応することになっていた。
昨年は、よりによって優勝校の阿知賀女子学院(5名)と、準優勝校の龍門渕高校(5名)が共に8名に満たなかったため、足りない2名を3位の白糸台高校と、特例で4位の臨海女子高校から日本人選手を1名ずつ増やして対応した。
ただ、今大会では、昨年度とは違って参加枠の8名に参加者が満たない高校がなかったので面倒が無く済んだらしい。
初日は、スイスドロー式の予選、全十回戦が行われ、そこから決勝トーナメントに進出する上位16名を選出する。ただし、強者同士が潰し合わないよう、これまでの戦績をAIが解析して対戦表を作っていた。
また、人数は四回戦が終わった段階で上位128名に、六回戦が終わった段階で上位64名に絞ることになっていた。
ルールは、ダブル役満以上の和了りが認められないところを除いて、あとは団体戦の時と同じだった。
綺亜羅高校では、稲輪敬子が出場を辞退し、他の選手が代理で参加した。やはり、昨日のことに責任を感じ、人前に顔を出せない様子だ。
予選では、やはり昨日の京太郎とのLINEでの遣り取りの件があって、咲が終始スイッチが入りっぱなしだった。それで最強状態が続き、予選全十回戦で合計プラス1401点の新記録をマークした。
予選の結果、決勝トーナメント出場者は、以下の16名に決まった。
1位:宮永咲(阿知賀女子学院)
2位:宮永光(白糸台高校)
3位:大星淡(白糸台高校)
4位:石見神楽(粕渕高校)
5位:石戸明星(永水女子高校)
6位:的井美和(綺亜羅高校)
7位:原村和(白糸台高校)
8位:高鴨穏乃(阿知賀女子学院)
9位:竜崎鳴海(綺亜羅高校)
10位:鷲尾静香(綺亜羅高校)
11位:鬼島美誇人(綺亜羅高校)
12位:東横桃子(永水女子高校)
13位:南浦数絵(臨海女子高校)
14位:十曽湧(永水女子高校)
15位:真屋由暉子(有珠山高校)
16位:片岡優希(臨海女子高校)
また、惜しくも本戦出場できなかった選手は以下の通りとなった。
17位:宇野沢美由紀(阿知賀女子学院)
18位:佐々野みかん(白糸台高校)
19位:多治比麻里香(白糸台高校)
20位:二条泉(千里山女子高校)
21位:茂木紅音(綺亜羅高校)
22位:寺崎弥生(射水総合高校)
23位:坂根理沙(粕渕高校)
24位:麻川雀(千里山女子高校)
25位:美入人美(姫松高校)
26位:浦野瑠子(千里山女子高校)
27位:美入麗佳(姫松高校)
28位:牧真紀(千里山女子高校)
29位:友清朱里(新道寺女子高校)
30位:車井百子(阿知賀女子学院)
31位:岡橋初瀬(晩成高校)
32位:友清藍里(新道寺女子高校)
33位:文堂星夏(風越女子高校)
34位:高山千里(姫松高校)
35位:車井百花(晩成高校)
36位:児波美奈子(風越女子高校)
37位:新子憧(阿知賀女子学院)
38位:小走ゆい(阿知賀女子学院)
憧とゆいは、美由紀だけではなく、補員の百子にも劣る結果となった。これは、秋季大会から今までの半年間での努力を欠いたためであろう。特に憧は、元の女子高生ランキングは11位から大きく順位が後退していた。
憧は、昨日以上に落ち込んだ。これから夏の大会に向けて、ゆいと共に一層努力する覚悟を決めたのだった。
綺亜羅高校の茂木紅音(もてきあかね:1年)は、群馬県から引っ越してきた。もともと赤木山の近くに住んでいたと言うこともあり、部内では『アカギ』と呼ばれている。
この順位を見ると、千里山女子高校の選手が上位に4名入っているのが分かる。
千里山女子高校は、団体戦では一回戦敗退だったが、それは綺亜羅高校と臨海女子高校と当たったためである。
これは、くじ運が悪かったとしか言いようがない。
個人戦結果から考えると、恐らく準決勝進出を果たした朝酌女子高校よりも千里山女子高校のほうが、ずっと強いだろう。
また、姫松高校も上位に3名入っている。
姫松高校は、二回戦敗退だが、これは白糸台高校に勝ち星四、有珠山高校の由暉子に勝ち星一を取られたからであった、
総合力では有珠山高校を上回っていると言って良いだろう。たまたま、白糸台高校と当たったのが不運だったと言える。
決勝トーナメントは、まず1位から4位が、くじを引いてA卓、B卓、C卓、D卓に振り分けられる。
同様に5位から8位がくじでAからD卓に振り分けられ、9位から12位、13位から16位を、それぞれ同じ方法でAからD卓に振り分ける。
各卓から上位二名が準決勝戦に進み、A卓とB卓の各上位二名と(AB卓)、C卓とD卓の各上位二名(CD卓)が対戦する。
そして、それぞれの卓から上位二名ずつが決勝戦に進出する。
一回戦と準決勝戦は半荘一回、決勝戦は半荘二回の戦いとなる。
また、準決勝戦で敗退した四名が5位決定戦を行う(半荘一回)。
一回戦で敗れた者達も、9位から16位を決める試合を行うことになる。
A卓とB卓の下位二名ずつの計四名で半荘一回を戦い、その上位二名が9位決定戦(半荘一回)に、下位二名が13位決定戦(半荘一回)に進む。
C卓とD卓でも同様のことが行われる。
抽選の結果、決勝トーナメントの割り振りは、以下の通り決まった。
A卓:宮永咲、原村和、竜崎鳴海、十曽湧
B卓:宮永光、的井美和、東横桃子、南浦数絵
C卓:石見神楽、石戸明星、鬼島美誇人、片岡優希
D卓:大星淡、高鴨穏乃、鷲尾静香、真屋由暉子
いよいよ、決勝トーナメントが開催される。
おまけ
春季大会団体決勝大将後半戦オーラス四本場。
桃子「(3索、要らないっス。)」
桃子が不要牌の3索を切った。一応、手は聴牌している。
もう4位確定である。当然、他家の勝負に水をさすつもりは無いし和了るつもりもない。
ただ、なんとなくだが、一応、聴牌は維持したい。
しかし、それを切った直後、対面から和了りの声が聞こえてきた。
穏乃「ロン。」
桃子「(私が振ったっスか!?)」
敬子「ロン!」
穏乃・桃子・和「「「えっ?」」」
敬子「あっ!」
恒子「これは綺亜羅高校稲輪選手のアタマハネ! これで大将戦は終了だぁー!」
恒子「しかし、稲輪選手。これを和了っても順位は3位から変わりません。それにしても何故和了ったか!?」
健夜「余り良いことではありませんが。」
恒子「しかし、ある意味、阿知賀女子学院の春夏春三連覇、宮永咲選手の団体戦優勝四連覇を阻止すると言う偉業を成し遂げたわけですが。」
健夜「多分、狙ったわけでは無いと思います。高鴨選手の和了りにつられて和了ってしまったのでしょう。」
恒子「それって分かる気がします。」
健夜「それに、稲輪選手が戦ってきた埼玉県大会も関東大会もダブロンありのルールでしたので、こう言った場面で和了っても問題は無かったわけですし…。」
恒子「その辺の切り替えが出来ていなかったと言うことでしょうか?」
健夜「だと思います。これがプロでしたら切り替えが出来なければ失格だと思いますが、やはり女子高生に、それを完璧に求めるのは厳しいかもしれません。」
恒子「でも、宮永咲選手とかはルールが変わっても柔軟に対応してますよ。それこそ、特殊なルールを器用に使いこなしてるって感じがします。」
健夜「まあ、彼女は試合馴れしていますので。」
恒子「化物ですしね。」
健夜「それ、言い方悪いよ!」
恒子「ゴメンしてね!」
健夜「まあ、むしろ、綺亜羅高校に今まで公式試合どころか一切の対外試合を禁じてきたほうが問題だったのかもしれませんね。」
…
…
…
敬子「ご…ごめんなさーい!」
敬子は、そう大声で叫ぶと、途端に大粒の涙を流し始めた。
これ以上、自分のKY行為を呪ったことは無い。KYゆえに、それに気が付いた時には人一倍大きく傷つく。
この呆気ない幕切れをモニターで見た憧は、その場に立ちすくんでいた。
憧「(こんなのヒドイ………。でも、私が後半戦南三局で和了った手が2000、3900じゃなくて2000、4000だったら、オーラス三本場で白糸台都同時優勝だったんだよね。)」
憧「(それに、相手が大星さんってことで、私、最初から勝ちを諦めていた。もし、もう少し気の入った麻雀を打ててたら………。)」
ゆい「(私が和了った二回の3900オールのどっちかが4000オールだったら、穏乃先輩が三本場を和了ったところで優勝だった。)」
ゆい「(それに、咲先輩の従姉妹が相手ってことで勝ちを諦めていたし、私がもうちょっと、キチンと打っていれば………。)」
咲「(もしかして、これって後半戦で京ちゃんに逆転勝ちを見せようと思って私が稼がなかったのがいけなかった?)」
咲「(後半戦も大虐殺してたら、得失点差なんて埋まってたよね、きっと………。)」
美由紀「(私が後半戦のオーラスの連荘で、最後に1000点でイイから和了っていれば勝ち星取れてた………。)」
美由紀「(そうしたら穏乃先輩だってオーラスでムリな連荘しないで勝ち星を決めて優勝できてたのに………。)」
穏乃「(もし私が、最後の最後で綺亜羅の人への支配を解除しなければ、この和了りは無かったはず。)」
穏乃「(和にばっかり気を取られて、麻雀が四人のゲームだってことをすっかり忘れてた………。)」
咲・穏乃・憧・ゆい・美由紀「「「「「(戦犯って私だよね?………)」」」」」
まあ、変に他人を責めずに、自らに責任を求めるところは、阿知賀女子学院が本当にイイ子ちゃんだらけであることを証明していると言って良いだろう。
これなら多分、復活できる。
次のインターハイに向けて、さらなる研鑽がなされることを期待する(特に憧とゆい)。
一方、白糸台高校は、
淡「これって、実質シズノに負けてるジャン。本当の優勝じゃない! 試合には勝ったけど勝負には負けてる!」@控室
光「まだ、打倒阿知賀、打倒咲は達成されていないってことだね。個人戦で咲に勝たなければ、団体戦優勝を証明できないってことか。」@控室
麻里香「一応さ、優勝できたこと自体は嬉しいんだけど………、なんかモヤッと感があるよね。」@控室
みかん「心の底から喜べないね。」@控室
和「何だか納得できません。そんな、お馬鹿かな和了り、ありえません!」@対局室
メンバー揃って心の底から喜んでいる様子は無かった。
そして、綺亜羅高校控室では、
美和「やっちゃったよぉー。」
静香「ある意味、敬子らしい。」
鳴海「一応、一昨年の夏から誰も達成できなかった宮永咲チームの優勝阻止だから、これはこれで大偉業だけど………。」
美誇人「絶対に悪名を残したね、私達。」
美和「やっぱり敬子を大将にしたのはマズかったかな?」
鳴海「一昨年の夏って点数引継ぎ制だったジャン。あの時、清澄は点数調整できる宮永さんを大将に置いたってくらいだからね。」
美誇人「まあ、今回は点数引継ぎ制じゃないけど、得失点差勝負になったら必要だよね、点数の管理。」
静香「小鍛治プロの言うとおり、私達の経験不足だね、これは。特に敬子みたいなタイプは、色んなケースがあることを覚えこませなきゃいけなかったんだと思う。」
鳴海「でも、私が敬子の立場だったら和了っちゃたかも。ずっと和了れてないところに当たり牌がでてきたわけじゃん。それに隣が和了るし、つられちゃうよ、きっと。」
美誇人「でも、個人戦、どうする? 辞退する?」
美和「人道的にはそうかもね。でも、ルール違反したわけじゃないし、それに、大会に最後までキチンと出ることが節子の悲願だったから。」
静香「そうだね。別に悪キャラにされたってイイよ。出来るだけみんなで上位に入って、あのクソ(な先輩)に分からせないと!」
鳴海「そ…そうだよね。アイツのせいで、こんなんなっちゃったし。どれだけ馬鹿みたいなことをやらかしてくれたか、分からせないと。」
美和達四人は、大会出場辞退に追い込んだ二つ上のOBのことを心底恨んでいた。
それで、自分達が全員、個人戦で上位に食い込むことで、全国上位の選手達(自分達)を今まで潰してきた(日の目に当たらないところに追い込んだ)罪を自覚してもらいたいと考えていた。
なので、個人戦辞退はしない。
敬子は分からないが…。
立ち直れないかもしれないので…。
その頃、敬子はと言うと………。
敬子「ゴメンなさい、生まれてきてゴメンなさい、生きていてゴメンなさい、存在してゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい………。」
相当重症だった。
多分、これは暫く立ち直れないだろう。
しかし、必ず敬子は復活する。
あの池田華菜のように。