咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百四十三本場:王者妹vsコピーマシーン

 インターハイAブロック二回戦中堅前半戦。

 東二局、ゆいの親。

 ここでは、マホからは誰かのコピーになりきった雰囲気を全然感じ取れなかった。

 恐らく、全局を通じてコピーを演じるだけの持続力を、まだマホは持ち合わせていないのだろう。

 ここは、ゆいにとってチャンスである。

 

 春季大会で優勝を逃して以来、ゆいは、自分の打ち方を磨いた。

 特に能力者と言うわけではないので、一般論に従い、より完成度の高いデジタル打ちを目指し、マスターしていったのだ。

 今、ゆいは、和顔負けのデジタル打ちを披露している。

 そして、高い牌効率で逸早く聴牌し、

「ツモ! 4000オール!」

 親満を和了った。

 

 しかし、東二局一本場では、

「ツモ。800、1400。」

 ゆいの親は、安手で香枝に流された。

 ただ、

『何故ここで、こんな手で?』

 と思う。

 勝利は二の次で、失点を最小限に抑えることしか考えていないのだろうか?

 さすがに、ゆいとしても疑問が残る。

 

 

 続く東三局。

 ここで、ゆいはマホから異常な雰囲気を感じ取った。

 マホの捨て牌は、字牌と索子しかない。

 これは、萬子か筒子に染めているのだろうか?

 いや、違う!

 

 ゆいの手には索子が無い。なので、ゆいの捨て牌は字牌と萬子と筒子で、一見、索子に染めているように見える。

 香枝と莉子の捨て牌にも索子だけがない。

 これと同じような出来事を、ゆいは二年前にインターハイのテレビ中継で見ていた。あれは、咲と恭子が同卓していた対局だ。

 その時、とんでもない打ち方を披露したのは、非常に胸の大きな巫女。

「(まさかとは思うけど、これって、もしかして!?………。)」

 ゆいが、そう心の中で呟いた直後だった。

「ツモ!」

 マホが和了りを宣言して手牌を開いた。

 そこにあるのは索子だけ。

「ツモメンチン赤1で、4000、8000です!」

 これは、石戸霞が邪神を降ろした時の麻雀だ。

 霞と違ってマホは胸で牌を倒すことは無かった………と言うか、それだけの胸をマホは持ち合わせていないが………。

 

 もしかしてマホは、一昨年の脅威の麻雀(胸囲の麻雀ではない)を沢山インプットしているのだろうか?

 あの年の3年生には沢山の能力者がいた。

 その多くパターンを、もしマホがコピーのレパートリーとして持っていたら、とんでもない強敵である。

 ゆいの顔に、冷や汗が流れ出た。

 

 

 東四局、莉子の親。

 ここでは、

「ツモ。2600オール。」

 先ず莉子が和了った。

 そして、連荘。

 ただ、東四局一本場は、序盤から、

「ポン!」

 マホが莉子の捨てた{北}を一鳴きした。マホの自風である。

 そして、次巡、

「ポン!」

 今度は香枝が捨てた{東}をマホが鳴いた。

 急に、卓全体に不穏な空気が広がって行く。これと同時に、ゆいは再びマホから異常な雰囲気を感じ取った。

 そして、その五巡後、

「ツモ! 8100、16100ですよー!」

 マホが和了った。役満だ。

 しかもマホの口調がいつもと変わっている。

 

 開かれた手牌を見て、ゆいはマホが誰をコピーしたかを理解した。

 小四喜。

 そう言えば、今、マホは北家。

 これは、薄墨初美の麻雀だ!

 

 丁度、これで南入する。

 現時点での各選手の点数と順位は、

 1位:マホ 172800

 2位:ゆい 92200

 3位:香枝 70200

 4位:莉子 64800

 マホの圧倒的リードで南場へと折り返すことになった。

 

 

 南一局、マホの親。

 突然、激しい風が卓上に吹き荒れた。

 しかも、非常に暖かい。これは南風だ。

 言うまでも無い。ここでマホが演じるのは南場の鬼神、南浦数絵の麻雀だ。

 

 さすが数絵の支配力。ゆいも香枝も莉子も初っ端の三巡は不要な字牌ツモの連続で、全然手が進まなかった。これも良くある話だ。

 そのような中で、マホは、たった四巡で聴牌し、

「リーチ!」

 聴牌即でリーチをかけた。

 鳴いて一発を消したいが、鳴ける牌が出てきてくれない。

 そして、次巡、

「ツモ! 6000オールです!」

 まるで和了り牌が吸い寄せられるようにマホの手に渡った。リーチ一発ツモ表ドラ1裏ドラ2の、まさしく数絵が得意とする和了り。

 しかし、これでマホも相当体力を消耗したのか、急に彼女の身体から放出されるオーラが萎んで行った。

 

 南一局一本場は、

「ロン! 16300!」

 幸運にも、ゆいはドラと赤牌に恵まれたタンヤオ七対子ドラ5(赤3表2)をマホから直取りできた。

 

 南二局は、ゆいが親ハネをツモ和了り、南二局一本場は香枝が2000、3900の一本場を和了った。

 南三局は、再びゆいがハネ満をツモ和了りし、続くオーラスでは親の莉子七対子赤1をツモ和了りした。

 

 この段階で、各選手の点数と順位は、

 1位:マホ 160200

 2位:ゆい 125300

 3位:莉子 57300

 4位:香枝 57200

 ラス親の莉子は、これで和了り止めをできる立場にはない。和了り止めイコール、マホとの100000点以上の差を固定することを意味する

 当然、

「一本場。」

 莉子は連荘を宣言した。

 

 オーラス一本場。

 ここで、ゆいは再び違和感を覚えた。

 ただ、それが何なのか、よく分からない。場の進むリズムと言うか雰囲気と言うか、何かがいつもと違っておかしい気がする。

 

 突然、

「ロン。5200です。」

 誰もいないところから声が聞こえてきた。

 いや、いないわけはない。声が発生源はゆいの上家だ。

 

 直撃を受けたのは香枝。

 気がついたらマホのリーチドラ1に一発で振り込んだのだ。

 この時、香枝はリーチがかかっていたのに気付いていなかった。

 いや、香枝だけではない。ゆいも莉子も、マホの存在を忘れていた。完全に視界から消えていたし、マホの捨て牌も見えていなかった。

 これがマイナスの気配………。

 

 まさに不意打ち。

 これは、東横桃子のステルスだ。

 前半戦最後で、こんなコピーを見せてくるとは………。

 

 これで各選手の点数と順位は、

 1位:マホ 165400

 2位:ゆい 125300

 3位:莉子 57300

 4位:香枝 52000

 マホの圧勝であった。

 

 

 一旦、休憩に入った。

 ゆいは、呆然としながら控室に向かった。

 最後のマホの和了りは、本当に訳が分からなかった。

 噂には聞いていたが、本当に、咲も和も、あの技………桃子のステルスを破ったのだろうか?

 信じられない。

 

 しかし、信じるも信じないも、和は二年前の長野県大会団体決勝戦で桃子と当たり、後半戦で桃子から直取りしている。

 咲も個人戦で桃子から最終局で鳴いている。

 たしかに二人とも、本家のステルスを打ち破ったことを記録が証明している。

 それを考えると、ゆいは自分の足りなさを痛感するしかなかった。

 

 

 控室に入ると、

「ゴメンなさい………。」

 ゆいは、小さな声で呟くように言った。

 ショックで大きな声が出せなかったのだ。

「マホちゃんが、まさか、あそこまで成長しているとは思わなかったよ。あれじゃ、私だって面食らったかも…。」

 こう言ってくれたのは咲。

 たしかに、あのコピー能力は凄まじい。

 咲ですら相当てこずることが予想される。

 今のゆいには、それが十分納得できる。

 

 ただ、咲は、

『面食らった』

 と言ったが

『負ける』

 とは言っていない。多分、阿知賀最強………いや、この日本の守護神と呼ばれる超化物にはマホに勝つ方法があるのだろう。

 

 しかし、それは咲の能力あっての話である。ゆいとは全然基盤が違う。

 では、どうやったらゆいがマホに勝てるか?

 道筋が見えない。

 誰のコピーが飛び出すか分からない以上、対応の仕方が分からないし、飛び出すコピーが事前に分かっていても、コピー元の能力に対してゆいが対応し切れる保証も無い。

 例えば咲や照のコピーを披露されたら、その局は間違いなくゆいにはお手上げである。

 晴絵からも恭子からも特に大したアドバイスも得られないまま、ゆいは再び対局室に向かうことになった。

 

 

 ゆいが対局室に入ると、既にマホも香枝も莉子も卓に付いて待っていた。ゆいが最後の入室だ。

 場決めがされ、起家は香枝、南家はマホ、西家はゆい、北家は莉子に決まった。

 

 

 東一局、香枝の親。ドラは{南}。

 この時、香枝の配牌は、

 {二五八八⑦⑧⑧22579北東}

 

 マホの配牌は、

 {一四①②②②③⑤39南發中}

 

 ゆいの配牌は、

 {一九⑨⑨⑨14679西西南}

 

 莉子の配牌は、

 {二四六七九④⑥⑨146白發}

 

 これをモニターで見た咲は、

「(えっ!? これって、もしかして!?)」

 思いの他、驚いていた。

 ムリも無い。これは、二年前の長野県大会団体決勝戦オーラスの配牌だ。

 

 ただ、順番が違う。

 あの時の親は加治木ゆみだったが、それがゆいの配牌になっているし、池田華菜の配牌が香枝に、天江衣の配牌が莉子に行っている。

 しかも、衣の配牌だけ一巡進んだ形になっている。

 

 咲の配牌はマホ。

 つまり、この局ではマホは咲をコピーしていた。

 

 そして、七巡目、香枝の手牌は、

 {八八八⑦⑧⑧⑧222579}

 華菜と同一の打ち方はしておらず、四暗刻聴牌には至っていなかった。

 

 マホの手牌は、

 {①①①②②②②③③③③④⑤}

 あの時の咲と全く同じ形になっていた。

 ただ、捨て牌の順番は違っていた。

 

 咲の切り出しは、

 {一93四發中南}

 字牌を最後に捨て、しかもドラの{南}が最後に切られていた。

 

 しかし、マホは、

 {南一9發中3四}

 ドラから切り出し、しかも、ヤオチュウ牌の処理が終わってからチュンチャン牌を捨てていた。

 これだと、咲の時に比べて、多少は染め手の雰囲気を他家が感じ難くなるだろう。

 

 ゆいの手牌は、

 {六七⑨⑨⑨467西西白白白}

 あの時のゆみとは状況が違う。さすがに、国士無双を狙っていなかった。

 

 そして、莉子の手牌は、

 {二二三四[五]六七④[⑤]⑥4[5]6}  ツモ{①}

 まさに{①}を掴まされた状態だった。

 

 ただ、莉子が置かれた状況は、あの時の衣とは全く違う。マホに圧倒的点差を前半戦で付けられて追う立場だ。

 これは、ツモればハネ満の手。

 当然、何も考えずにノーケアーで{①}を切った。

 

 すると、

「カン!」

 これをマホが大明槓した。

 嶺上牌は{④}。あの時の咲の再現だ。

 当然、

「もう一つ、カンです!」

 {②}を暗槓した。嶺上牌は、やはり{④}。

 勿論、ここでも、

「もう一つ、カンです!」

 {③}を暗槓した。嶺上牌は{[⑤]}。完全に咲の逆転劇の再現だ。

 もっとも、今回は東初だし、前半戦はマホの圧勝なので、逆転もヘッタクレもないわけだが………。

「ツモ。清一対々三暗刻三槓子赤1嶺上開花。32000です!」

 これは、莉子の責任払いになる。

 つまり数え役満への振込みと同義語…。

 一瞬にして莉子の目の前が真っ暗になった。

 

 

 東二局、マホの親。ドラは{③}。

 ここでは、

「ポン!」

 マホが二巡目で、いきなり上家の香枝から{中}を鳴いてきた。

 この時、マホから発散されるオーラを控室にいる咲は感じ取っていた。

 今回のコピーは、この雰囲気からして恐らく光。つまり、前局より最低でも1翻和了り役が高い手を和了ろうとしていると言える。

 

 前局のマホの和了りは数え役満だが、偶然役の嶺上開花と赤牌を除けば11翻。つまり、ここでの狙いは12翻以上となる。

 マホの手が、狙い通りにムダ無く進んでゆく。

 相当な支配力だ。

 たしかに、この面子なら光も、これだけの支配力を余裕で発揮するだろう。

 そして、七巡目、

「ツモ!」

 マホが和了った。

 

 開かれた手は、

 {一一九九東東東白白白}  ポン{横中中中}  ツモ{九}

 ダブ東白中混一色混老対々和三刻のドラ無しで12翻。

 実は、これと全く同じ手を、光は今年の西東京地区大会の団体決勝次鋒戦で和了っていた(ことにしてください)。つまり、マホは、その和了りをコピーしたのだ。

「12000オール!」

 それにしても、とんでもないスタートダッシュである。

 たった二回の和了りで、マホは68000点を叩き出した。

 

 東二局一本場、マホの連荘。

 今度も、マホから放たれるオーラは超化物級だった。

 咲、光と来て、相当マホ自身も体力を消耗しているはずである。

 しかし、それでもマホは和了りを目指して突き進む。

「ギギギ…。」

 ドアを開く音が聞こえてきた。

 そして、マホが牌をツモる時、彼女の腕から竜巻が発生したような幻を、ゆいも香枝も莉子も目の当たりにした。

 次の瞬間、

「ツモ。16100オール!」

 マホは、九連宝燈を和了った。これは照のコピーだ。

 

 ただ、これを和了った直後、マホの顔からは完全に血の気が引いていた。

 一気にマホのオーラが萎んで行く。今まで見せてきた、あの強大なパワーが嘘のようであった。

 やはり、咲、光、照のコピーは相当身体に応えたのだろう。しばらく、マホは能力を使えなさそうだ。

 ゆいは、ようやくチャンスが巡ってきたと確信した。

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