咲-Saki- 阿知賀編入   作:いうえおかきく

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十五本場:超点数調整…点棒支配再び

 晴絵は、ふと、準決勝戦開始前の教え子達の会話を思い出していた。

『今日は、さすがにサキまで回るかもしれないね。』

『玄でも今回は、どこかをトバすのは難しいと思…。』

『それに、副将は宮永さんの従姉妹だし、私まで回るかも…。』

『でも、咲ちゃんなら、誰にも予想できない奇跡をまた見せてくれると思うのです。もしそうなったら、オモチに関係なく惚れてしまうかもしれないのです!』

 

 咲の存在は大きい。

 たしかに晴絵自身も、予想外の何かを咲に期待してしまう。果たして、今日はどんな奇跡を見せてくれるのかと…。

 

 

 東三局一本場。咲の連荘。

 

 現在の各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 143700

 暫定2位:白糸台高校 142800

 暫定3位:新道寺女子高校 66100

 暫定4位:風越女子高校 47400

 もはや、初牌だから切れないとか言っていられない点数だ。それに、咲は槓に頼らない平和手も作ってくる。大明槓対策など関係なくなっている。

 

 こうなったら、とにかく貪欲に和了りを目指す。当たって砕けろ。姫子は、その精神で突き進むことを決意した。

 しかし、三巡目、

「ポン!」

 光が捨てた{東}を咲が鳴いた。

 そして、七巡目、姫子が捨てた{1}で、

「ロン! ダブ東ドラ1。5800の一本場は6100。」

 咲が和了った。これで姫子は二連続振り込みだ。さすがに精神的にも落ち込んでくる。

 

 東三局二本場。

 咲の捨て牌に筒子が目立つ場だった。

 この点差だ。姫子もまこも、焦るなと言うほうが無理だろう。

 そして、

『筒子が安いか?』

 と思って姫子が切った{②}で、

「ロン! チャンタドラドラ。12600!」

 咲は親満を和了った。姫子の三連続振り込みだ。

 

 各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 162400

 暫定2位:白糸台高校 142800

 暫定3位:新道寺女子高校 47400

 暫定4位:風越女子高校 47400

 新道寺女子高校と風越女子高校が並んだ。暫定順位は席順によるものだ。点数的には阿知賀女子学院にトリプルスコアの差を付けられている。二位の白糸台高校とも100000点近い差だ。

 しかし、まだ負けたわけではない。姫子は再び気合いを入れ直した。

 

 東三局三本場。

 この局は、

「チー!」

 咲の打牌が甘いのか、光が、

「ポン!」

 二副露した。二回とも咲から鳴いたものだ。そして、

「ツモ。タンヤオドラ2。1300、2300。」

 ようやく、光が咲の親を流した。ただ、晴絵には、どう見てもワザと光に鳴かせて自分の親を流させたようにしか思えなかった。

「(いったい咲は、何を考えているんだ?)」

 この意図の一部を晴絵が理解するのは『副将戦』終了時、半分を理解するのは『大将前半戦』の東四局、全てを理解するのは『大将戦』が終了する時になるのだが…。

 

 東四局、光の親。

 咲の支配力が強いためだろうか? 光の手の進みが意外と遅かった。

 一方の咲は、

「カン!」

 七巡目で自風の北を暗槓し、

「ツモ! 嶺上開花北。60符3翻で2000、3900!」

 満貫クラスの和了りを決めた。

 

 南入した。

 南一局、姫子の親。

 姫子は、咲と光に大きく離されたが、少しでも点数を奪い返したいところだ。ただ守るだけでは敗退の道を自ら決めることになる。それは、エースとして許されない。

 しかし、その使命感が…、和了を優先した打ち方が…、場が進むに連れて甘い打牌を増やしてゆく。

 結局、姫子は咲に、

「ロン! 12000!」

 平和タンヤオ三色ドラ2のハネ満を振り込んだ。これで、四位転落。しかも、後半戦で咲に振り込むのは四度目だ。パターン化している感じだ。

 

 しかし、次は南二局。

 まこの親番だが、この局はセルフリザベーションがかかっている。

 姫子が12翻キーを天に向けて撃ち放った。そして、天から舞い降りた姫子の配牌は、

 {九③⑨1299東東北北中中}

 三向聴だ。

 

 第一ツモは{北}、打{③}。

 第二ツモは{中}、打{九}。

 そして、次のツモは{3}で聴牌。無駄ツモ無し。そして、

「リーチ!」

 打{横⑨}。捨て牌を横に曲げた。

 一発では和了れなかったが、その次巡、

「ツモ!」

 姫子は{東}を引いて和了った。裏ドラは{2}。

「リーヅモメンホン中北チャンタ三暗刻ドラ1。6000、12000!」

 これで新道寺女子高校が三位に順位を上げた。

 

 南三局、咲の親番。ドラは{⑧}。

 四巡目で、珍しく咲が、まこの捨てた{7}を、

「チー!」

 鳴いて順子を晒した。ポンでもカンでもない。チーだ。

 副露されたのは{横768}。

 ジュンチャンでもなければチャンタでもない。

 タンヤオ手?

 三色同順?

 それとも役牌バック?

 咲が何を狙っているのかが絞り込めない。

 そして、

 「とおらばリーチ!」

 数巡後に、姫子が勝負したリーチ宣言牌の{横中}で、

「ロン!」

 咲が和了った。

 開かれた手牌は、

 {111白白白發發發中}  チー{7横68}  ロン{中}

「混一小三元三暗刻。24000。」

 これで姫子は、折角前局のセルフリザベーションで掴んだ24000点をチャラにされた。

 

 各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 198000

 暫定2位:白糸台高校 137800

 暫定3位:新道寺女子高校 32100

 暫定4位:風越女子高校 32100

 またもや、新道寺女子高校と風越女子高校の点数が並んだ。順位は席順によるものだ。

 

 南三局一本場。咲の連荘。

「カン!」

 序盤で、いきなり姫子が捨てた{①}を大明槓。仕掛けたのは咲。そして、咲は打{8}。

 続いて、

「ポン!」

 さらに、まこの捨てた{東}を咲が鳴いた。打{二}。

 咲の捨て牌から索子の混一が怪しい。

 次巡、姫子が捨てた{9}を、咲が再び、

「カン!」

 大明槓した。そして、嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {東}を加槓した。

 咲が狙っていたのは混一色ではなかった。そして、咲は嶺上牌を引くと、

「ツモ! 東混老対々三槓子嶺上開花。8100オール。」

 そのまま親倍をツモ和了りした。

 これで、咲の点数が200000点を越えた。

 

 南三局二本場。

 この局は、光が早々に平和を聴牌した。タンヤオ等の複合役は無く、ドラも{[⑤]}が一枚のみ。安い手だ。アタマは{西}。

 しかし、

「カン!」

 光が捨てた{⑨}を、咲が大明槓した。新ドラ表示牌は{南}。これで、光の手牌にドラが二枚乗ったことになる。

 そして、同巡、光のツモ牌は、彼女の和了り牌だった。

「ツモ! 平和ドラ3。2200、4200。」

 この和了りに、普通なら喜ぶところだろう。

 しかし、光は腑に落ちなかった。咲が鳴いてツモ順をずらし、しかもドラを乗せてくれた。咲がくれた満貫だ。何かある。

 

 オーラス。光の親。

 この局は、

「ツモタンヤオ一盃口。2000オール。」

 光が和了った。そして、

「一本場!」

 和了り止めをせずに連荘を宣言した。咲との点差は78900点。この差を少しでも詰めておきたい。

 

 オーラス一本場。

 この局も、

「ツモタンヤオ三色。3900オールの一本場は4000オール!」

 光が門前で和了った。そして、

「二本場!」

 さらなる連荘を宣言した。

 

 オーラス二本場。

 この局は、

「ポン!」

 咲が捨てた{東}を光が鳴き、その数巡後に、

「ツモ。東發混一赤1。4200オール!」

 光が親満をツモ和了りした。

 

 オーラス三本場。

 この段階で、阿知賀女子学院の点数は207900点、白糸台高校の点数は168900点と、光が咲を相手に40000点弱まで追い上げてきた。

 しかし、この局は、

「ツモ。1300、2600の三本場は、1600、2900です。」

 さくっと咲が平和手で和了った。

 

 これで各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 214000

 暫定2位:白糸台高校 166000

 暫定3位:新道寺女子高校 10000

 暫定4位:風越女子高校 10000

 新道寺女子高校と風越女子高校が、丁度10000点となった。咲が狙っていた点数調整の一つが、これだったのだ。

 これには、当事者のまこも、

「(こんなことをされるとはのう…。しかも、こっちは、前後半両方ともにヤキトリじゃぁ!)」

 苦笑いしか出なかった。

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼をすると、まこが咲に、

「相変わらずじゃな、咲は。いっそのこと、わしか新道寺のトビで、ここで終了したほうがスッキリせんか? これじゃ、うちの大将の池田が…。」

 と言った。ただ、池田という言葉を口に出した瞬間、まこには10000点丁度の意味を理解できたような気がした。

「(もしかして、池田に敢えて対局させたかったんじゃ…。ただ、10000点丁度じゃイジメみたいにしか見えんがのう…ってイジメか…。じゃが、それなら何故、わしらだけじゃなく新道寺も10000点なんじゃ?)」

 この時だった。

 新道寺女子高校の制服を着た小柄な女性が対局室に入ってきた。新道寺女子高校大将の中田慧だ。背格好も顔も雰囲気も池田華菜に似ている。

 これを見て、

「(池田のコピー?)」

 まこは新道寺女子高校の10000点の意味も理解できた気がした。

 

 対局室に淡が姿を現した。

「光、お疲れ。それから、サキ!」

「は…はい?」

「今回は、サキとは個人戦だね。団体戦は、最終的には白糸台が優勝するからね。夏の雪辱だよ!」

「わ…私達だって負けないからね!」

「その意気その意気! でも、勝つのは私達だよ! 準備満タンなんだから!」

「万端じゃない?」

 続いて、穏乃が対局室に入ってきた。まるで目が燃えているようだ。

 淡と咲の会話を聞きつけると、

「大星さん。優勝は阿知賀がいただきます。そして、インターハイも!」

 穏乃が春季大会優勝どころか春夏連覇まで言い出した。たいした自信だ。ある意味、穏乃らしい発言だ。

 すると、最後に入室してきた華菜が、いきなり、

「優勝は華菜ちゃんだし!」

 と言い出した。風越女子ではなく、自分の名前を言うところが華菜らしい。

 そうしたら今度は、

「慧ちゃんだし!」

 新道寺女子高校大将の中田慧が負けじと華菜に言い返した。

「華菜ちゃんだし!」

「慧ちゃんだし!」

「華菜ちゃんだし!」

 …

 …

 …

 この様子をテレビで見ていた風越女子高校前キャプテンの福露美穂子は、

「(華菜ったら恥ずかしい!)」

 思い切り頭を抱えた。

 一方の白水哩も、この様子をテレビで見ながら、

「(やっぱり、慧をばレギュラーにしたんは間違いじゃなかと?)」

 思い切り溜め息をついていた。

 

 

「では、対局者以外は退室してください。」

 審判からこう言われて、咲達副将選手は対局室を後にした。

 大将戦種の場決めがなされた。

 起家は華菜、南家は慧、西家が穏乃、北家が淡になった。

 

 東一局、華菜の親。

「(絶対安全圏発動!)」

 淡の髪が逆立った。彼女の能力が発動し、彼女のみ二向聴、他は軒並み五~六向聴だった。相変わらずチートな能力だ。

 そして、淡は、

「ポン!」

 二巡目に華菜が捨てた{發}を鳴くと、四巡目で、

「ツモ。發ドラ2。1000、2000。」

 ツモ和了りした。絶対安全圏内での和了りだ。さすがに、このスピードには他家は付いてゆけない。

 

 東二局、慧の親番。

 ここでも、

「(絶対安全圏発動!)」

 淡の能力で、彼女のみ二向聴、他は軒並み五~六向聴だった。

 前局と同様に、

「ポン!」

 淡は三巡目に慧が捨てた{東}を鳴くと、五巡目で、

「ツモ。東チャンタドラ1。1000、2000。」

 またもや絶対安全圏内での和了りを見せた。

 

 東三局、穏乃の親。

 この局も、

「チー!」

 淡は、二巡目に穏乃が捨てた{7}を鳴いて{横7[5]6}と晒すと、次巡で、

「ツモ。タンヤオドラ2。1000、2000。」

 ここでも絶対安全圏内に和了った。

 

 これで各校点数は、

 暫定1位:阿知賀女子学院 210000

 暫定2位:白糸台高校 178000

 暫定3位:新道寺女子高校 6000

 暫定4位:風越女子高校 6000

 

 そして、迎えた東四局、淡の親番で、

「リーチ!」

 とうとう淡がダブルリーチをかけた。しかも、サイの目は7で、最後の角の後がもっとも長いパターンだ。

 穏乃の能力が発動し始め、卓には、うっすらと靄がかかっているが、まだ淡の能力を打ち消しきれていない。

 角の直前で、

「カン!」

 淡は暗槓した。そして、次巡、

「ツモ! ダブルリーチツモ槓裏4。6000オール。」

 この和了りで華菜と慧が共に0点になった。

 

 この様子を控室のテレビモニターで見ていた晴絵は、

「(ここで、二人を0点にするための点数調整だったのか?)」

 咲が新道寺女子高校と風越女子高校の点数を10000点残した意味を理解できた気がした。

 これは、大将戦の展開を予想して、点数を調整…いや、大将戦の点数展開まで支配できる能力を見せ付けたと言うことになる。そして、これが、みんなが勝手に咲に期待した奇跡に対する答えとも言えるだろう。

 ここから、華菜と慧に課せられた…みんなが想像していた以上の地獄が始まる。これこそが、咲の点数調整能力の真の恐ろしさである。

 みんなが咲に期待した奇跡………これが生み出す恐怖とは如何なるものなのか?

 それに、まだ晴絵は気付いていなかった。




おまけ
咲「とうとう登場しました、中田慧。
『いけだかな』を逆から読むと『なかだけい』。
さて、池田華菜&中田慧の運命や如何に?
(まあ、そんなのどうでもイイや!)
ええと、大喜利コーナーです。
今度は、麻雀用語以外で自分を表すモノを考えてください。ただし、ひらがな換算で三文字でお願いします。

煌「スバラ!」

智美「ワハハ!」

優希「タコスだじぇい!」

爽「カムイ!」

憩「ナース!」

玄「オモチ!」

ネリー「お金!」

初美「鬼門ですよー!」

悠彗「オタク!」

マホ「コピーです!」

竜華「ゾーンかな…。」

華菜「正直、『ウザイ!』だし!
これ、絶対みんなが華菜ちゃんに対して思っていることだし!」

やえ「王者!」

咲「(『おうじゃ』ね…。『じゃ』を一文字として扱えばそうだけど…。池田さんと小走さんには座布団あげたくないな…。)」

豊音「色紙とかサインとか…。」

尭深「湯飲み。」

仁美「政治。」

照「お菓子!」

咲「(無難に『真の王者』にあげますか…)
お姉ちゃんに座布団一枚お願いします。
では、次の御題です。
今度は、自分のことをひらがな換算三文字以外で表現してください。今回も麻雀用語意外です。
私でしたら方向音痴かな。くやしいけど。」

哩「リザベーションたい!」

姫子「ビビクン!」

煌「捨て駒ですね。」

衣「エビフライとタルタル!」

一「マジシャン!」

全員「(むしろネタになるのは服装のほうだろ!)」

純「俺は無いなぁ。」

全員「(俺っ娘だろ!)」

純「ただ、透華は治水かな? あっ、これだとひらがな三文字か。」

透華「なんですの? それ?」

智紀「パソコンオタク…。」

桃子「私がメンバー全員言うっす。
私はステルス、加治木先輩は達人、蒲原先輩は嗅覚、津山先輩は「ウム!」、妹尾先輩は初心者ってとこですかね。」

菫「アーチェリーかな?」

尭深「お茶! あと誠子ちゃんは釣り(戦犯はやめてあげてね)。」

栞「パンケーキ!」←条件反射でヨダレを垂らす照

白望「マヨヒガ…だる…。」

胡桃「『うるさい、そこ!』 あくまで、このセリフが私って意味で。」

塞「モノクル!」

エイスリン「ホワイトボード。」

豊音「『うれしいよう』…かな? (八尺様は勘弁して!)。」

美穂子「機械オンチかしら?」

華菜「図々しいだし!」

泉「高一最強!」

穏乃「山! って言いたいところだけど、深山幽谷の化身とか蔵王権現かな? もっと前はサルだったみたいだけど。」

憧「私も悔しいけどイメージ先行で………援交…。」

怜「病弱やし…。」

竜華「やっぱり、膝枕かな…。」

怜「竜華はフトモモや!」

洋榎「から揚げかタコ焼きや!」

絹恵「サッカー!」

灼「ボーリング!」

慕「つぶつぶドリアンジュース!」

杏果「温泉宿!」

和「エトペン…。」

全員「(それもアリだけど、どっちかと言うとSOAだろ!)」

宥「あったかーい!」

玉子「ノーであるー!」

美幸「モー!」

友香「デー」

仁美「なんもかんも政治が悪い!」

智葉「日本刀とか…組とか…。」

全員「(最初、日本刀は新免那岐をイメージしていたけど、今は完全にこいつだな。)」

成香「ええと、『すてきです!』かな?」

ダヴァン「カップラーメン。」

ネリー「運命奏者!」

明華「プチプチ。」

靖子「カツ丼!」

健夜「………アラフォー……。」←『-』があるため四文字換算としてください

咲「(涙目)
これは文句なしでしょう!
小鍛治プロに座布団一枚です!」

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