咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百五十本場:壊れたコピー人形

 ABブロック中堅前半戦の東二局、マホの親。

 ここで、ゆいはマホが天和を出してくると思って身構えていた。

 しかし、

「ダブルリーチです!」

 天和ではなかった。やはり、天和だけはコピーするのが難しいのだろうか?

 しかし、油断は出来ない。

 最高状態の優希ならダブルリーチから一発ツモで数え役満を普通に和了る。しかも、それをマホは前回の対局で再現した実績がある。

 

 ダブルリーチの安牌はリーチ宣言牌以外に無い。読もうとしてもムダである。

 ならば、和了り牌と、そうでない牌の数を比較すれば、和了り牌の方が圧倒的に少ないはずとの考えに基づいて、郝も明星もゆいも不要牌を切った。

 余程運が悪くない限りは当たらないだろう。

 一先ず、一発目で誰かが振り込むことは無かった。

 

 しかし、二巡目、マホのツモ番で、

「ツモです。ダブルリーチ一発ツモタンピン。6000オールです!」

 一発ツモ和了りされた。

 ツモ和了り宣言された時、ゆいは数え役満まで行くかと覚悟したが、ドラ無しの親ハネで済んだので何だか肩透かしを食らった感じがしてならない。

 

 ただ、ゆいは、この和了りに見覚えがあった。

 そうだ。二年前のインターハイ決勝先鋒前半戦の東一局で優希が見せた和了りだ。天和の前に和了ったヤツ…。

 しかも、あの時はドラの支配者がいたためにドラが乗らなかった手だ。

 

 結果的に親ハネツモなので親役満ツモに比べれば、支払いは10000点ずつ減っている。それは、ゆいとしても助かった気がした。

 ただ、疑問が残る。

 同一の手はショートスパンでは何回も使えないのだろうか?

 それとも、東一局で思ったように、咲と優希とフレデリカの三人が心配で全力が尽くせないでいるのか?

 

 このゆいの考えは、両方正解であった。

 ゆいだって咲のことが心配だし、郝だって優希のことが心配でならない。しかし、二人とも対局を前に気持ちを切り替えて望んでいる。

 ただし、明星だけは、

『神様の要求にみんなが付き合ったんだから、神様が責任を持って何とかしてくれるはずよね!』

 くらいにしか思っていなかったようだが………。

 まあ、その考えも一理あるかもしれない。

 

 しかし、マホは、まだ心の切り替えが出来るほど器用でははかった。なので、動揺して妙にオドオドする自分を隠す意味もあって、東一局では、敢えて佳織のコピーを使っていたのだ。

 

 それから、単に打ち方をコピーするだけなら連日でも可能だが、特定の和了り、つまり先日マホが見せたダブルリーチからの数え役満や小四喜、清一対々三暗刻三槓子赤1嶺上開花や九連宝燈と言った和了りを再現するには、それ相当のインターバルが必要なようだ。なので、これらの和了りを今日披露することは出来ない。

 本人は、まだその誓約を理解していないようだが、これは、今後、マホ自身が自分の能力と向き合って理解して行くことであろう。

 

 東二局一本場、マホの連荘。ドラは{8}。

 この局の開始直後、マホは、一旦能力の使用を控えた。

 恭子の読みどおり、間違いなくマホは、能力に体力がついて行けていない。しかも、まだマホは、自分がどのくらいの頻度で能力を使えるかも良く分かっていなかった。

 これは、今まで指導者に恵まれなかったゆえである。

 

 では、何故、今回は能力を発動しなかったのか?

 特に理由は無い。

 たまたま、この時に誰のどういった能力が使えると嬉しいとか、どの能力をどの順番に使いたいと言うのが思いつかなかったためだ。

 ただ、こういった場合でも、局が進んで行くうちに使いたい能力を思い浮かべることは少なくないようだ。

 

 この局では、郝が自分の麻将をマホに見せ付けてくる。

 何となくだが、マホは郝の捨て牌から、郝がヤオチュウ牌を嫌っていることだけは漠然と分かっていた。

 ただ、細かいところまではマホには分かっていなかった。

「(宮永先輩のコーチ(恭子のこと)みたいに麻雀に詳しくて、観察力も優れている人だったら判るんだろうって思うのです。マホも、そうなってみたいです!)」

 そうマホが思った直後、郝の切り出しや視点移動など、様々な情報がマホの頭の中で整理されていった。どうやら、オカルティックな能力だけではなく、マホが憧れたもの全てがコピーの対象となるようだ。

 そして、マホの頭の中で導かれた答えは、

「(中国麻将ルールで打つことを考慮しますと、多分待ちは嵌{5}ですね。それから今出来ている手は…。)」

 この時、マホは、郝の手を、

 {四[五]六④④⑤⑤[⑤][⑤]⑥⑥46}

 と読んでいた。

 そして、郝は数巡ツモ切りした後、

「和―。ツモ4100、8100。」

 嵌{5}をツモ和了りした。しかも、ツモったのは{[5]}で、マホが読んだとおりの手となっていた。それでタンヤオツモ三色ドラ4の倍満になった。

 

 これを見てマホは、

「(マホにもできましたです。もっと頑張って、もっともっと相手の手を読めるようになりたいです!)」

 非常に喜んでいた。

 基本的にマジメで自己向上心のある娘なのだ。

 明らかに自分より格上が同学年に複数人いるのに、

『自称同学年最強!』

 を連呼する先輩とは人種が違う。

 その直向きな性格も、マホが雅恵に『魔物候補生』とまで呼ばれせようになった理由の一つであろう。いくら才能があっても、それを開花させるのに見合った努力が無ければ才能は簡単に埋もれてしまうからだ。

 

 

 東三局、郝の親。

 とうとうここで、明星がヤオチュウ牌支配の能力を発動した。ただ、傍目には、それが分かり難いように捨て牌には上手にヤオチュウ牌を混ぜていた。

 狙いは一つ。マホからの直取り。ここでマホには潰れてもらう。

 昨年、明星自身は咲から洗礼を受けていた。それを、今回は自分から有望な新人………マホに受けてもらう。

 

 この時、マホの配牌は、

 {二四①①③④④39南西白中}

 

 これを見てマホは、

「(一日一回チョンボするのがマホの宿命なら、一回試してみたいスバラなチョンボが有ります!)」

 コピースイッチが入った。

 マホがやりたいチョンボ………それは世界大会で光が見せた戦略的なチョンボ。あれで光は、ネリーの三倍満以上の手を潰したのだ。

 

 この局がスタートした直後、マホは明星の雰囲気から大きい手を狙っていることを感じ取っていたし、郝も親ハネクラスの手を狙っているのを予想していた。

 どうせなら、チョンボで二人の手を無効にしてみたい。それくらい有意義なチョンボをしてみたいのだ。

 ただ、マホは、そればかりに気を取られていた。

 

 マホの手は順調に伸び、六巡目で、

 {二四①①①②③④④④349}  ツモ{三}

 望みの手を聴牌した。

 

「リーチします!」

 マホが打{9}でリーチをかけた。

 その次巡、

「カン!」

 早速、マホは{①}をツモって来て暗槓した。

 嶺上牌は{2}。これでリーチツモ嶺上開花三色同順の和了りだ!

 完全に思い描いたとおりの手。これで、チョンボすると同時に明星の手も郝の手も流せたはず。

 

 ところが、そう思って和了りを宣言しようとした、まさにその時、

「ロン。」

 対面から和了り宣言の発声が聞こえてきた。

「えっ?」

 これは加槓ではなく暗槓だ。それで和了れる手は一つしかない。

 

 マホの目に、明星が開いた手牌が映った。

 たしかに、それは、

 {一九⑨19東南西北白發中中}

 

 紛れもなく{①}待ちの国士無双であった。

 この場合、和了り優先となり、マホのチョンボは成立しなくなる。つまり、マホは思惑を一つも達成できなかったことになる。

 

「32000!」

 憧れのチョンボを再現する方ばかりに気を取られすぎた。視野が、完全に狭まっていたのだ。

 それと、連続で能力を使っていたため、マホの能力自体が疲弊して低下していた。それで光の能力………相手の手牌を読み切る力がキチンと発動してしなかったのだ。

 

 これで明星に逆転されたが、まだ4000点差。再逆転は十分狙える範囲にある。

 マホは、両頬を叩いて、彼女なりに気持ちを切り替えた。

 ただ、どこか集中し切れていなかった。咲と優希とフレデリカが心配だし、そもそも役満を直取りされて動揺しない方がおかしいだろう。

 

 

 東四局、明星の親。ドラは{西}。

 マホは、明星からヤオチュウ牌支配の波動を強く感じていた。

 明星の捨て牌は、

 {⑤}、{③}、{4}、{4}、{7}。

 明らかにヤオチュウ牌のみの手を狙っていそうだ。

 そして、六巡目に、

「リーチ!」

 明星は、{六}切りでリーチをかけた。

 

 今回、マホの能力は発動していなかった。ガス欠である。

 マホは、たまたま現物を持っていなかった。それで、明星の第一打牌である{⑤}の筋であり、第二打牌の{③}の近くで、且つヤオチュウ牌でなければ問題ないだろうと考え、一発目で{②}を切った。

 ところが、

「ロン!」

 これが明星の和了り牌だった。

「えっ?」

 さすがにマホも驚きの声を上げた。

 

 開かれた手牌は、

 {①①②[⑤][⑤]⑨⑨東東西西發發}

 リーチ一発門前混一色七対子ドラ4。三倍満の手だ。

 

 明星は、配牌が、

 {六①②③⑤[⑤][⑤]⑨447東西發}

 のところ、{⑤}を{③}を先に切り出して敢えて{②}を残し、最終的に{②}待ちの七対子に仕上げたのだ。

『明星の手はヤオチュウ牌』

 と思われているところを逆手に取って、{②}で討ち取ってみせると配牌を見た段階で決めていたのだ。

 

「36000!」

 これで、マホは一気に73900点まで点数を落とした。

 

 能力発動で麻雀自体が自分の思うように行っている時は良い。

 しかし、自分の能力が原因で大きく振り込むことがあったら………、普通は相当傷つくだろう。それが東三局の国士無双である。

 そこを頑張って頭を切り替えようとしたが、次の七対子は自分の読みを逆手に取られての放銃だ。

 今、マホの中で張り詰めていた精神の糸が切れた。しばらく、何も考えられないし、運も相当低下するだろう。

 まさに咲が予言したとおりの展開となった。

 

 東四局一本場。

 ここでは、

「リーチ!」

 今まで動きの無かったゆいが先制攻撃を仕掛けてきた。マホの運の低下に伴ってゆいの運が上昇した感じだ。

 たしかに、一人が運を手放すと、他の者がツキに恵まれることはよくある話だ。

 

 ゆいの下家はマホ。

 ツキを失った以上、マホの行動は全てが裏目に出る。

 ここでのマホのツモは、二枚切れの北。しかもヤオチュウ牌支配の明星が一枚切っていた。それで、これなら安全とツモ切りしたが、

「ロン。」

 一発でゆいに振り込んだ。

「リーチ一発七対ドラ2! 12300!」

 まさかの北地獄単騎。しかもハネ満である。

 加えてマホにとっては三連続の振り込み。完全に振りこみマシーンと化している。

 もはや、今のマホは二回戦でコピー能力を駆使して周囲を震え上がらせた魔物候補生ではなく、単なる壊れたコピー人形であった。

 

 

 南入した。

 南一局、ゆいの親。

 ここでも、

「ロン。タンピン三色ドラ2。18000。」

 ゆいは容赦なくマホから和了る。これでマホは、四連続振り込み。

 

 南一局一本場。

 ここでは郝が、

「和―! ツモ、3100、6100。」

 ハネ満をツモ和了りした。

 

 南二局、マホの親。

 もはやマホは、落ち着いて牌を握ることすら出来なくなっていた。ここではマホが、

「和―! ロン、12000。」

 郝にハネ満を振り込み、続く南三局では、

「ツモ! 8000、16000!」

 再び明星の国士無双が爆発した。ただ、今回はツモ和了りであり、マホの振り込みではなかったのがマホにとっては救いだった。

 

 そして、オーラス、明星の親。

 ここでは、

「ツモ。4000、8000!」

 ゆいがメンタンピンツモ三色ドラ2の倍満を和了って、この半荘を終了した。

 

 これで中堅前半戦の点数と順位は、

 1位:明星 170800

 2位:ゆい 109100

 3位:郝 106600

 4位:マホ 13500

 明星がダントツで後半戦へと折り返すことになった。二回戦でのマホの活躍から、下馬評では明星とマホの二強状態が予想されていたが、結果的に新人のマホが先輩方にキツイ洗礼を受けた感じになった。

 

 

 休憩時間に入った。

 マホは、大泣きしながら控室に戻った。

 控室の扉を開けると、マホの目に、すっかり元気な表情を取り戻したフレデリカの姿が飛び込んできた。

「フ…フレデリカさん!」

「マホちゃん、お帰り。」

「お身体は大丈夫ですか?」

「もうすっかり。あと、宮永さんと片岡さんも大丈夫よ。二人も元気だから。」

 これを聞いてマホは泣き止んだ。むしろ、安心した表情が顔にアリアリと浮かび上がっていた。

「そうですか。良かったです!」

「でも、マホちゃんの方は、マジで良くなかったわね。」

「は…はい…。」

 ただ、そうは言っても、フレデリカとしてもマホにどうアドバイスして良いか分からなかった。マホのような『毎局入れ替わりのコピー能力』を見るのはフレデリカとしても初めてだったのだ。

 ちなみに、フレデリカの影響でマホの能力が本格的に開花するのは、まだ先のことである。飽くまでも現時点でのマホは魔物ではなく、魔物候補生なのだ。

「あの巫女さん………最初からマホちゃんを潰すつもりだったんじゃないかな?」

「どうしてですか?」

「それは、マホちゃんを潰さなかったら勝ち星が取れないからでしょ。でも監督。本当に宮永さんは、あの巫女を手玉に取ったんですか?」

「去年のインターハイでな………。それよりマホの方が先だな。後半戦も行けるか?」

「はい! フレデリカさんも宮永先輩も優希先輩も無事なのが分かりましたので、もう大丈夫です!」

「そうか。」

「でも、急に力が巧く使えなくなってしまいました。」

「うーん。まだマホの能力の本質まで掴めてへんからな。何か、能力発動の鍵になるようなものがあればエエけど。」

「それなら一つ、試してみたいものが有ります。」

「そうか。では、それをやってみい。それでダメやったら、足掻けるだけ足掻く。巫女の張った罠にだけは落ちんようにせんとな。」

「はい!」

 その後、千里山女子高校監督の愛宕雅恵は、マホに幾つかの確認をして再びマホを戦場へと送り出した。

 …

 …

 …

 

 

「それにしても監督。繰り返しになりますけど、本当に宮永さんは、あの巫女を手玉に取ったんですか?」

 フレデリカから見ても明星は強いと感じる。

 勿論、フレデリカ自身は明星と直接対決しても負けないとは思っているが、一撃必殺の国士無双には注目する。

 それに、あのクラスの魔物を手玉に取るのは至難の業である。

「去年のインターハイでな、あの巫女は前半戦東三局で宮永に持ち点を0点にされた後、大四喜字一色四槓子………親のトリプル役満を責任払いさせられとった。」

「ゲッ? マジですか?」

「本当の話や。後半戦はもっと酷かったで。いきなり東一局………宮永の起家でスタートして、あの巫女は一気に宮永の連荘で800点まで削られて………。」

「(えっ? 東一局だけで?)」

「その後、宮永はわざと巫女以外のプレイヤーに差し込んで場を流すと、東二局から東四局まで800点にしたまま巫女を晒し者にしたんや。」

「(どうしてそこまで?)」

「そして、南一局で宮永は巫女を0点にして、続く一本場で緑一色四槓子………親のダブル役満を責任払いさせた。しかも、その後、あの巫女は派手に失禁してな。」

「でも、あの巫女だって相当強いでしょ?」

「今年の春季では個人8位。去年のインターハイ個人では11位。」

「それを晒し者にしてトバすなんて、どれだけ凶悪な強さなのよ、宮永さん。」

「でも、その宮永相手にフレデリカは、負けても実質400点差まで詰め寄ったんやからな。凄いことやで。」

「でも、あの強運には勝てません。前半戦最後は、いきなり第一ツモからの暗槓、嶺上開花ですし、後半戦では最後の最後で人和ですからね。」

「たしかにそうやったけど、フレデリカも世界大会では神代相手に最後はダブルリーチからの大逆転勝ちしとるし、同じようなもんやんか?」

「私も、あれは自分でも驚きました。運が強いって。でも、宮永さんは、私よりも、もっともっと運が強い。」

「せやな…。そう言えば、宮永の最高の支配力をフレデリカは、まだ直接見てへんかったな。」

「あの上があるんですか?」

「あるで。ただ、あれは支配と言うよりも強制力やけどな。」

 雅恵は、昨年の世界大会前に朝酌女子高校で行われた練習試合に個人的に顔を出していた。そこで雅恵は、咲と打ってプラスマイナスゼロ破りにチャレンジしていた。

 しかし、どう頑張ってもプラスマイナスゼロを破ることは出来なかった。それこそワールドレコードホルダーの白築慕でさえも………。

 しかも、咲は自分の点数を25000点、他家の点数を30000点に仮想した上でプラスマイナスゼロを行い、相手との点差や順位までコントロールして実際の対局では勝利を得る方法も身に着けている。それを使って昨年インターハイの個人決勝戦で天江衣、荒川憩、宮永光を相手に見事の優勝を果たしている。

 フレデリカは、点数調整を身に着けていない。そもそも点数調整を身につける必要もなく育ってきたのだから当たり前であろう。

 ただ、それゆえに、その驚異的な『強制力』などと言うモノのイメージが全然湧いていないようだった。

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