咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百五十一本場:追い詰められた泉

 ABブロック中堅後半戦がいよいよ開始される。

 四人が対局室に戻ってきた。

 場決めがされ、起家がゆい、南家がマホ、西家が明星、北家が郝に決まった。前半戦の席順から明星と郝が入れ替わった形だ。

 この時、マホは靴下を脱いでいた。咲のマネをしようと言うのだ。

 

 

 東一局、ゆいの親。

 ここでは、

「ポン!」

 序盤からマホが鳴いて出た。まず明星が捨てた{中}を鳴き、続いて、

「カン!」

 そのさらに数巡後、マホはゆいが捨てた{一}を大明槓した。嶺上牌が有効牌となり、これで聴牌。

 そして、次巡、

「カン!」

 マホは{中}を加槓し、掴んできた嶺上牌で、

「ツモ! 中混一嶺上開花。2000、4000です。」

 満貫をツモ和了りした。

 

 

 東二局、マホの親。ドラは{七}。

 ここでは、ゆいの配牌が非常に良かった。

 {①②③⑦⑧56東東西西白白}

 

 ゆいは配牌を見て、第一ツモが筒子か字牌だったら混一色狙い、萬子か索子だったら{西}を切って行こうと思っていた。

 幸運なことに、ゆいの第一ツモは{東}。ならば染め手狙いで打{6}。

 

 二巡目、ゆいのツモは{⑨}。この局は妙にツいている。

 当然、ここは、

「リーチ!」

 {横5}切りでリーチをかけた。ゆいの待ちは{南}と{白}のシャボ。

 さすがに二巡目のリーチでは読みようが無い。それに、こんな早いリーチで綺麗な手が出来ているなど、普通は思わないだろう。

 マホは、

「(ツモったのは{白}ですか………。特に使い道はありませんし………。)」

 一発でツモってきた{白}を切った。単に不用牌を切っただけだ。

 これは、本当に運の巡り合わせが悪いとしか言いようがない。当然、その{白}をゆいは見逃すはずは無く、

「ロン! 一発!」

 マホから和了った。

 裏ドラは{西}。つまり、リーチ一発東白門前混一色チャンタドラ2の三倍満となった。

「24000!」

 マホは、東一局で稼いだ分よりも遥かに大きな失点を喰らってしまった。

 この振り込みは、完全にマホからツキが無くなっていることを証明するものでもあった。

 

 この様子を控室のモニターで見ながら咲は、

「やっぱりマホちゃんは、靴下を脱ぐことの本質を知らないでいますね。」

 と呟いた。

 マホが試したかったこととは、咲のマネをして靴下を脱ぐことだったのだが、飽くまでも咲にとって靴下を脱ぐのはリラックスして能力を全開にするための方法であって、マホには無意味なことなのだ。

 

 やはり、マホのやろうとしていることはポイントがズレている。これは、千里山女子高校のほうでもマホの能力の本質をキチンと把握できていないためであろう。

 今後、フレデリカがマホの能力を正しく開花させて行くことになるが、もしマホの進学先が白糸台高校か阿知賀女子学院だったら、現段階で既に能力の使い方をマスターできていたであろう。白糸台高校なら光と淡がいるし、阿知賀女子学院だったら咲がいる。

 しかも、阿知賀女子学院であれば能力麻雀への理解が深い晴絵と恭子もいる。

 それを思うと、咲は、自分の能力の本質が分からずにいるマホが不憫でならなかった。

 

 

 この頃、染谷まこは、自宅が経営する雀荘の手伝いをしながらマホ達の対局をテレビで見ていた。

 彼女は都内の大学に進学して経営学を学び、行く行くは経営学修士を取得しようと思っていた。

 ただ、今は夏休み。帰省して店を手伝っていたのだ。

「マホちゃんも、まだ自分のことが良く分かっとらんみたいじゃのぉ。」

 まこも、咲が靴下を脱ぐ理由を知っていたし、それがマホには当て嵌まらないことを理解していた。

 ただ、この一言で、再びまこの能力が発動して時間軸が一気に大きく動き出した。

 

 その後、東三局では郝がハネ満をツモ和了り、東四局と南一局では明星がヤオチュウ牌支配による倍満ツモ和了りとハネ満ツモ和了りをそれぞれ決めた。

 南二局と南三局は、郝が満貫とハネ満を順にツモ和了り、オーラスは明星が再び倍満ツモ和了りを決め、中堅戦は終了した。

 この卓、唯一の3年生である郝と、個人上位の明星が、それぞれの意地とプライドを示した感じであった。

 

 これで中堅後半戦の点数と順位は、

 1位:明星 128000

 2位:郝 111000

 3位:ゆい 98000

 4位:マホ 63000

 

 そして、中堅戦の前後半戦合計は、

 1位:明星 298800

 2位:郝 217600

 3位:ゆい 207100

 4位:マホ 76500

 永水女子高校が二つ目の勝ち星を取って決勝戦進出を決めた。

 

 

 この頃、千里山女子高校の控室では、泉が表情を強張らせていた。真尋、フレデリカ、マホの三人が出陣し、一人も勝ち星が得られていないのだ。

 少なくとも、この三人は、二年前のインターハイでトリプルエースと呼ばれた先輩、怜、竜華、セーラと同等以上の強さである。それが、巡り合わせの悪さもあるだろうが、勝ち星が未だ無しなのだ。これは、泉にとって完全に想定外だった。

 

 現在の総合得点は、

 1位:永水女子高校 735200

 2位:阿知賀女子学院 657500

 3位:臨海女子高校 576000

 4位:千里山女子高校 431300

 

 もし副将戦で阿知賀女子学院が勝ち星をあげれば、永水女子高校と阿知賀女子学院が共に勝ち星二で決勝進出が決まる。

 副将戦での勝ち星を永水女子高校か臨海女子高校のいずれかが取って行ったならば、千里山女子高校は、大将戦で勝利し、しかも総合2位の阿知賀女子学院との差、226200点を逆転しなければならない。

 

 千里山女子高校が決勝進出を果たすためには、やはり副将戦と大将戦の両方を取るしかないだろう。

 つまり、ここで泉が勝ち星を取れなければ負ける。

 ゆえのプレッシャーだ。

 彼女は毎度の如く、

「(私が高3最強や!)」

 と自分に言い聞かせ、小刻みに身体を震えさせながら対局室へと向かった。

 

 

 対局室には泉が一番乗りだった。

 少しして臨海女子高校の副将、南浦数絵が入室してきた。

 この時、数絵は非常に恐ろしい形相をしていた。

 臨海女子高校としても決勝進出のために副将戦と大将戦で共に勝利したい。総合得点で千里山女子高校を大きく上回っているが、基本的には副将戦、大将戦で勝ち星をあげたいところ。千里山女子高校と条件は似ていると言って良いだろう。

 

 続いて阿知賀女子学院の宇野沢美由紀が対局室に入ってきた。

 この副将戦で唯一の2年生だが、美由紀としても自分のところで勝ち星を取って勝負を決めたい。

 彼女も気の入った怖い表情をしていた。

 しかし、放出系が期待される対局ではないので、某ネット掲示板では、

『気合いが入った顔もカワイイ』←美誇人

『先鋒から副将まで最低一人はオモチがあって嬉しいのです』←玄

『今度、是非オモチ帰りしたい』←美誇人

『オモチを持って帰りたいのは私もなのです!』←玄

『スタイルもイイし顔もイイ』←美誇人

『やっぱりオモチが大きく形が良いのはスバラなのです!』←玄

 二人の住人だけで美由紀をネタに大きく盛り上がっていたようだ。

 

 最後に永水女子高校副将の滝見春が静かに入室してきた。

 そして、全員が卓に付くと、場決めがされ、数絵が起家、春が南家、美由紀が西家、泉が北家に決まった。

 

 

 東一局、数絵の親。ドラは{北}。

 数絵は南場に入らなければスイッチが入らない。

 春は基本的に安手で場を流すだけ。

 なので、泉としては、この東場で大きく稼ぎたいところだ。

 ただ、ここで最初に動いたのは、

「その{西}、ポン!」

 美由紀だった。

 数絵が捨てた{西}をいきなり鳴いた。美由紀にとっては自風だし、ドラ表示牌なので二鳴きもへったくれもない。

 

 その数巡後には、

「チー!」

 春が捨てた{②}を美由紀は鳴いて{横②①③}と副露した。

 そして、打{6}。すると、今度は、その{6}を、

「チー」

 泉が鳴いた。美由紀のスピードに付いて行けなければ競り負けると泉は感じたのだ。

 

 その次巡でも、美由紀は春が捨てた{北}を、

「ポン!」

 速攻で鳴いた。

 一瞬、泉が春を睨みつけた。いくらなんでもドラを鳴かせるとは無防備過ぎる。これで最低でも西ドラ3の満貫手が確定しているのだ。

 

 美由紀に追いついて行くため、泉は美由紀の捨て牌を鳴いて手を進めたかったが、鳴けるところが全然出てこない。

 そして、数巡後、

「ツモ! 西混一ドラ3。3000、6000!」

 美由紀にハネ満をツモ和了りされてしまった。

 泉からすれば納得の出来ないハネ満であろう。数絵と春で美由紀に鳴かせ、手を作らせてしまったのだから………。

 

 

 東二局、春の親。ドラは{⑤}。

 ここでも、

「ポン!」

 美由紀は数絵から{中}を鳴き、さらに、

「ポン!」

 その数巡後には、美由紀は春から{⑤}を鳴いて{横⑤[⑤][⑤]}を副露した。これで中ドラ5のハネ満が決定だ。

 当然、ここでも泉が春を睨み付けるが、春は平然とした表情をしていた。

 そして、さらに数巡後、

「ツモ! 3000、6000!」

 美由紀は中ドラ5をツモ和了りした。

 泉にとっては完全に踏んだり蹴ったりである。もはや、数絵と春が美由紀を援護しているようにしか思えないだろう。

 

 

 東三局、美由紀の親。

 ここでも東場が弱い数絵と、何故か春が美由紀に鳴かせまくり、

「ツモ! 6000オール!」

 結局は美由紀に親ハネをツモ和了りされた。

 

 東三局一本場も、

「ツモ! 8100オール!」

 美由紀がツモ和了りし、続く東三局二本場では、

「ロン! 24600!」

 数絵が美由紀に親倍を振り込んだ。

 

 この時点での副将前半戦の点数と順位は、

 1位:美由紀 190900

 2位:泉 79900

 3位:春 76900

 4位:数絵 52300

 美由紀がブッチギリのトップであった。もはや、誰の目から見ても勝負ありと思えるほどの点差である。

 しかし、泉は諦めるわけが無い。ここで諦めたら千里山女子高校の敗退が決まる。

 泉は両手で両頬を叩き、気合いを入れ直した。

 

 東三局三本場。

 ここは、

「ポン!」

 美由紀よりも先に泉が鳴いた。

 とにかく、この親を流す。そして、次の自分の親番で稼げるだけ稼ぐ。泉は、それだけを考えていた。

 ここでは、

「ツモ! 白ドラ2。1300、2300!」

 何とか泉が早和了りを決めて、長かった美由紀の親を流すことに成功した。

 

 

 東四局、泉の親。

 ここで泉は、

「ポン!」

 速攻に出た。

 ただ、この局ではトップの美由紀が冒険してこない。親の和了りを避けるため、泉に鳴かせないように牌を絞っているようだが、今までの攻めのスタイルから守りのスタイルに切り替わった感じだ。

 今回、美由紀の手は重かった。

 こう言う時には、ムリに和了りを目指さず、場合によっては他家を支援する。美由紀は、そんな打ち方を既に体得していた。

「ポン。」

 美由紀が捨てた{西}を、春が鳴いた。これは、春にとって自風である。

 しかも、春の上家は東場に弱い数絵だ。東場では捨て牌を絞っているが、やはり南場と比べると数段甘い。

 なので、

「チー!」

 春は上家から一応鳴ける牌が出てくる状態にある。泉が勝負するには、場そのものが非常に不利な条件であった。

 結局、ここでは、

「ツモ。500、1000。」

 春に安手で流された。泉にとっては最悪と言える。

 

 

 南入した。

 それと同時に、暖かい風が卓上を吹きつけた。とうとう南場の鬼神、数絵のスイッチが入ったのだ。

 

 南一局、数絵の親。

 数絵は、たった四巡で門前聴牌し、

「リーチ!」

 いつもの如く攻めて来た。

 南場の数絵は裏ドラが乗るし、振り込んだら怖い。他家は一発振り込みを回避するだけで精一杯であった。

 ただ、その他家の打ち回しも空しく、

「ツモ! 6000オール!」

 数絵に一発で親ハネをツモ和了りされた。

 

 南一局一本場も、

「ツモ! 6100オール!」

 南一局二本場も、

「ツモ! 6200オール!」

 数絵は親ハネをツモ和了りした。このたった三回の和了りだけで、数絵は54900点を稼いだのだから見事としか言いようが無い。

 

 ところが、南一局三本場になって急に春の雰囲気が変わった。今までよりも禍々しい空気に包まれたのだ。

 しかも、何故か左手で打っている。

 ただ、数絵にとっては、そんなものは関係ない。

 最短距離で聴牌し、

「リーチ!」

 {南}を切ってリーチをかけた。

 すると、

「ポン!」

 この{南}を春が鳴いた。

 

 通常、鳴きが入っても数絵は和了り牌を引き寄せてくる。それに、この面子では数絵の南場の支配を覆せる者はいないだろう。

 そう数絵自身も自負していた。

 ところが、この局で数絵がリーチ後、最初にツモって来た牌は和了り牌ではなかった。

 已む無くこれを捨てると、

「ロン。ダブ南のみ。2000の三本場は2900。」

 これで春に和了られた。数絵にとっては、まさに信じられない出来事であった。

 とは言え、数絵の南場の親だって普通に流されることはある。

『まあ、偶々だよね!』

 と、この時、数絵は思っていた。それが普通であろう。

 

 

 その後、数絵は気を取り直して、攻めの麻雀で突き進んだ。そして、南二局からオーラスまで数絵は三連続でハネ満ツモを決めた。

 つまり、この三回の和了りだけで36000を稼いだことになる。恐ろしいほどの南場での爆発力だ。

 

 ただ、まこの能力の余波だろうか? 副将前半戦は、人々が思っていたよりも早く終わった感じがする。

 

 

 休憩時間に入った。

 

 副将前半戦の点数と順位は、

 1位:美由紀 157000

 2位:数絵 139100

 3位:泉 52700

 4位:春 51200

 美由紀と数絵の二強状態となった。数絵は美由紀に17900点負けているが、南場の数絵であれば十分追い付ける点数である。

 数絵は、後半戦に向けて気合いを入れ直すため、一旦対局室を出た。

 

 美由紀も対局室を後にした。控室に戻り、アドバイスを貰うためだ。

 

 泉は、一旦トイレに行った。

 別に放水対策ではない。顔を洗って気を入れ直すためだ。

「(このままでは勝ち星一つも取れずに敗退する。二回戦でも阿知賀の2年は強かった。あれはマグレじゃないって認めるしかない。それに、臨海の南浦も強い。私よりも…。)」

 泉の心の声からは、

『同学年最強!』

 の台詞が消えていた。

 もし、この場に船久保浩子(船Q)がいたら、天変地異の前触れでは無いかと騒ぎ捲ること間違いないだろう。

 

 この時、春も珍しく控室に戻った。

 対局室に残って黒糖を食べている印象が強いのだが、どうも今回の彼女は何時もと違うようだ。

 やはり、最後のインターハイと言うことで気の入り方が違うのだろうか?

 春が、控室のソファーに腰を降ろした。

「明星ちゃん。後半戦が終わったら私の荷物は運んでおいて。魔界に寄ってくることになりそうだから。」

「では、あれを?」

「そう。千里山は、もう逆転できない。でも、臨海は分からない。」

「だから、臨海を潰すってこと?」

「そうなる。大将戦では阿知賀が勝つと思うけど、念のため。全ては最強神のため。」

 そう言うと、春は黒糖を食べ始めた。

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