咲-Saki- 阿知賀編入   作:いうえおかきく

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百五十五本場:エース対決開始!

 インターハイ団体決勝戦。先鋒後半戦は、いよいよ南三局に突入した。

 桃子の親番。ドラは{②}。

 ここで淡は、

「(絶対安全圏プラスダブリー!)」

 再び絶対安全圏とダブルリーチの能力を復活させた。桃子に逆転されないため、とにかく早和了りを目指す。

 

 淡の配牌は、

 {一二三四四四③④⑤179南}

 

 ここに第一ツモは{1}。

 一旦、聴牌にとって打{南}。

 すると、

「ポン!」

 この{南}を早々に憧が鳴いた。幸運にも憧は配牌で{南}が一枚あるところに第一ツモで{南}を引いていた。

 

 憧と淡の点差は前後半戦トータルで39300点。そう簡単に逆転できる点差ではないが、憧だって勝ち星を諦めたくない。

 それに、まだ憧は親番が残っている。そこで連荘すれば…………、鳴き麻雀で30符の和了りの連発でも、そこにドラがあれば、まだ何とかなる。

 例えば、今の点数を起点に考えた場合、2000オールを一回、さらに親満級の和了りを二回ツモ和了りできれば逆転は可能だ。望みはある。

 

 一方の桃子も、この親で和了って逆転を目指す。

 そのためには手を最速で進める。

 しかし、

「チー!」

 桃子が切った{9}を憧が鳴いた。しかも、憧は、鳴くと手が加速するように見える。ここに来て、その幻影を見せ付ける。

 その後も憧は順調に手を伸ばした。

 

 憧は配牌で、

 {二五八②④⑧78東南北白中}

 

 このクズ手だったが、第一ツモで{南}をツモり、打{東}。

 

 続いて淡から{南}を鳴いて打{北}。

 

 次巡、桃子から{9}を鳴いて打{白}。

 

 続いてツモ{二}、打{中}。

 

 ツモ{⑥}、打{八}。

 

 ツモ{二}、打{五}。

 

 ツモ{⑤}、ここで打{⑧}でドラ待ち聴牌。

 現段階で、桃子と美誇人は絶対安全圏内だが、憧だけは淡からの鳴きが入った分、手の進みが早い。

 手牌は、

 {二二二②④⑤⑥}  チー{横978}  ポン{南南横南}

 

 そして、次巡、憧は幸運にもドラの{②}を引き当てた。{南}の明刻に{二}の暗刻、そして{②}の単騎ツモで珍しく憧の手は40符に達した。

「ツモ! ダブ南ドラ2。2000、4000!」

 予想以上の手に、憧の点数申告の声にも自然と力が入った。

 

 これで、先鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:桃子 104300

 2位:淡 103400

 3位:憧 101500

 4位:美誇人 90800

 結構混戦状態である。

 

 そして、現段階での前後半戦トータルでは、

 1位:淡 223900

 2位:桃子 217100

 3位:憧 194600

 4位:美誇人 164400

 親満二回のツモ和了りで、憧は淡を逆転できる状態になった。

 当然、憧は、

「(次、絶対に和了る!)」

 貪欲に和了りに向かう気持ちが一層湧き上がる。

 

 

 そして迎えたオーラス。

 美誇人が逆転するにはダブル役満しかない。当然、その意気込みはある。

 ただ、

「(絶対安全面プラスダブリー!)」

 淡が絶対安全圏を使う以上、字牌は美誇人、桃子、憧にばら撒かれる。

 しかも、よりによって今回、

 

 憧の配牌は、

 {一四七②⑧368東南西北白中}

 

 美誇人の配牌は、

 {二五六②④⑨7東南西北白中}

 

 桃子の配牌は、

 {三六九③⑥⑧5東南西北白中}

 

 三人に{東南西北白中}が一枚ずつ分配された。これでは、四喜和や大三元を使ったダブル役満(字一色や四暗刻との複合役満)を作るのは不可能である。

 {一九①⑨19}も配牌に少ない。これでは清老頭四暗刻に持って行くのも実質不可能であろう。

 あと考え得るダブル役満は緑一色四暗刻くらいだが、美誇人の配牌には{23468發}が一枚も無い。

 これで美誇人の大逆転は完全に不可能になったと言って良い。

 憧の連荘も厳しいし、桃子が和了りを目指すのも困難であろう。

 

 そう言った中、淡の配牌は、

 {二三四八八八②④⑥⑥13白}

 

 ここに{③}をツモ。一旦、聴牌にとって打{白}。

 ただ、ここからクイタンに走ろうにも、当座、他家から出てくる牌は{東南西北白中}であろう。なので、淡は鳴かずにツモのみで手を進めなくてはならない。

 

 次巡、淡は{發}をツモ切り。

 

 三巡目、淡はツモ{[⑤]}。打{⑥}で、一向聴に落とした。待ちを大きく変えるためだ。

 

 四巡目、淡はツモ{1}、打{3}で再び聴牌。できれば{3}の方が欲しかったが、ここで贅沢は言っていられない。

 役無しの{①④⑦}待ちの三面聴だが敢えてリーチをかけず。第一ツモ時点での待ちとは全く異なる待ちに変えることに成功した。

 

 五巡目、六巡目はツモ切り。

 

 そして、続く七巡目、

「ツモ!」

 淡は{①}を引き当て、和了りを宣言した。

「ツモドラ1。500、1000!」

 和了れば何でも良い局面。当然、安手でも淡の声には力が入る。

 

 これで、先鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:淡 105400

 2位:桃子 103800

 3位:憧 100500

 4位:美誇人 90300

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:淡 225900

 2位:桃子 216600

 3位:憧 193600

 4位:美誇人 163900

 白糸台高校の第二エース淡が先鋒戦を征し、一つ目の勝ち星は白糸台高校が手に入れた。やはり、春季大会個人3位の実力はダテではない。

 

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 対局後の一礼がなされた後、先鋒選手達は、それぞれ対局室を後にした。

 

 ただ、控室に戻る途中、勝ち星を得たにも拘らず、淡は恐ろしい程の何かを感じ取って震えて出した。

 一人だけのオーラではない。複数人の強大かつ攻撃的なオーラを感知したのだ。

「なにこれ?」

 そして、控室から少し離れたところで、淡は、その恐ろしい何かを発する一人…………宮永光と会った。

「一つ目の勝ち星、おめでとう。」

「ありがとう。光もガンバ!」

「当然。今度こそ、咲に勝つ!」

 光は、そう言いながら淡とハイタッチすると、触れるモノを全て壊しそうなくらい張り詰めた空気を身に纏いながら対局室へと向かっていった。

 

 

 恐ろしい何かを発する二人目…………宮永咲は、相変わらずチームのみんなから単独行動を許してもらえない。

 今日もコーチの恭子と手を繋いで対局室へと向かった。

 毎度のことながら恐ろしいオーラで身を包んでいる。

 しかも、最後のインターハイ団体戦決勝戦と言うこともあってか、これまでに無いレベルの恐ろしさを発している。

 途中で会った憧は、

「咲! 勝てなくてゴメン。私の分もお願い!」

 と言いながら咲にハイタッチしたが、その時に一瞬吐き気を催したと言う。それ程までに強烈なエネルギーを咲は放っていたのだ。

 

 

 恐ろしい何かを発する三人目…………神代蒔乃(神代小蒔妹)には、既に最強神が降臨していた。

 彼女は、控室を出ると、そのまま対局室の手前までテレポーテーションした。なので、桃子と擦れ違うことは無かった。

 こちらも咲と戦える最後のインターハイであるが故だろう。過去に小蒔に降臨していた時以上に強大なオーラを放っていた。

 

 

 そして、今回は、恐ろしい何かを発する四人目がいた。キラーこと綺亜羅高校の現エース稲輪敬子だ。

 春季大会の時には、顔面偏差値ランキングでは憧と同着11位だった。これは、顔面偏差値と言いながらもKYな娘と言うことで中味に問題ありとされ、持ち前の美貌ほど票が伸びなかったとされている。

 しかし、今回は違う。『輝け! 部活少女!!』で披露した水着姿と50メートルクロールで出した25.01秒と言うスバラなタイムも然ることながら、この時に節子に関する敬子のコメントで人々が勝手に、

『なんて友達思いなんだ!』

 とか、

『信心深いんだ!』

 とかプラスの方に誤解してくれたこともあって、今回の顔面偏差値ランキングでは正当に票が伸びたようだ。

 

 加えて、春季大会の後、頭を切り替えるために趣味の水泳にも時間を割いた。それで全身がさらに引き締まり、より一層美しくなっていた。元々1000人に1人の美少女と言われていたが、そこからさらに磨きがかかった感じだ。

 春季大会決勝での失態があるため、阿知賀女子高校ファンからは未だ叩かれている部分はあるものの、見た目は非常に良いためファンも増えていた。

 もっとも、服の着こなしはだらしないし髪もボサボサと、普段の敬子は非常に残念な美少女なのだが、人前に出る際には美和達が敬子の服も髪もキチンとさせていた。そう言ったチームメイト達の努力も評価されるべきところであろう。

 

 ちなみに本大会の顔面偏差値ランキングベスト10は、以下のとおりとされていた。対象は都道府県大会で敗退した高校の選手も含まれている。

 1位:佐々野みかん(白糸台高校)←昨年春季大会より不動の頂点

 2位:稲輪敬子(綺亜羅高校)

 3位:美入人美(姫松高校)

 4位:美入麗佳(姫松高校)

 5位:石戸明星(永水女子高校)

 6位:原村和(白糸台高校)

 7位:宇野沢美由紀(阿知賀星学院)

 8位:多治比麻里香(白糸台高校)

 9位:滝見春(永水女子高校)

 10位:新子憧(阿知賀星学院)

 時点:大星淡(白糸台高校)←アホの娘でなければ票はもっと入ったと言われている

 

 なお、春季大会で8位だった柊かがみ(大酉高校)と9位だった柊つかさ(大酉高校)は、それぞれ11位、12位までランクを落とした。人気は高いのだが、やはり全国大会に出場できないと票が伸びないのかもしれない。

 

 敬子は、美誇人と擦れ違う時、

「美誇人も頑張ったけど、やっぱり大星さんは強いね。」

 と、春季大会のようなKY発言が消えていた。

 基本的にはKYなのだが、色々と節子に夢の中で調教されたようだ。

「大星さんもだけど、あのステルスには参ったよ。敬子の相手は、とんでもない魔物三人だけど、頑張って!」

「できるだけのことはする。それに、あの時のような失態はしないから。」

 敬子は、春季大会個人戦の翌日、咲と打つ機会に恵まれた…………と言うか節子の霊に強制された(138本場オマケ参照)。

 その時、敬子は咲の下家。しかも節子の霊を降ろした神楽も同卓していたこともあって咲がオーラを全開放した。

 これには、さすがにKYな敬子でも咲の強大なオーラを感じ取り、対局直後に巨大湖を形成してしまった。

 同卓した節子(本体は神楽)と茂木紅音(もてきあかね:美和や敬子達の一学年下)も大放水したが、やはり咲の下家だった敬子が最も激しかったと言う。

 しかし、あれから敬子は打倒咲を目指して努力するようになった。節子の悲願でもあるが、敬子自身も全国女子高生雀士の頂点に挑みたくなったのだ。

 

 

 対局室に、咲、光、蒔乃、敬子が姿を現した。各校エースの対決だ。

 場決めがされ、敬子が起家、蒔乃が南家、咲が西家、光が北家に決まった。

 

 決まった席に座ると光が、

「今度こそ咲に勝つ。前回のような点数調整は絶対にさせないからね!」

 咲に宣戦布告した。

 

 蒔乃(神)は、

「高校での大会でそなたと打つのは、これで最後になる。そなたの持つ最高の力と対峙し、それを打ち破ってみせようぞ。」

 咲との戦いを思い切り楽しむつもりでいた。

 この後、コクマが開催される予定だが、咲は3年生のためジュニアAチーム、蒔乃は1年生のためジュニアBチームになる。そのため、コクマでの戦いは叶わない。

 つまり、咲と敵として戦うのは、高校では、これが最後になるのだ。

 

 敬子も、

「今回は、前回のようには行かないからね。」

 闘志剥き出しの表情をしていた。

 この時、咲は、

「(やっぱり、この子、凄く綺麗。みかんちゃんレベルだよね? でも、今回、この卓の雰囲気に耐えられるかな?)」

 と少し敬子のことを心配していた。

 明らかに、敬子の出すオーラは春季大会直後とは全然違う。かなりの実力を持っていると咲は感じていた。

 しかし、やはり面子が面子である。池田華菜でもデク人形と化すレベルの卓だ。

 そんな咲の心配を他所に、敬子がサイを回した。

 

 

 東一局、敬子の親。ドラは{7}。

 咲は、早速、靴下を脱いだ。そして、一旦、目を閉じると精神集中し、再び目を開いた時、さらに強大なオーラを放ち始めた。

 これを感じた光は、

「(これ、今まで一度も破れなかったやつ。)」

 咲がプラスマイナスゼロを狙っていると瞬時に理解した。しかも、全員の点数や順位までも操作してくるやつだ。

 ただ、これで咲は前半戦1位も後半戦1位も放棄したことになる。咲が狙うのは前後半戦トータルでの1位だろう。

 ならば、光は前半戦後半戦共に1位を狙う。プラスマイナスゼロの発動は、ある意味、咲に総合点で勝つチャンスでもあるのだ。

 

 一方の蒔乃は、

「最強の支配力か。最後の戦いで、ようやく拝めるの!」

 と言いながら、咲がプラスマイナスゼロを出すのを喜んでいた。咲が持つ最強の支配力との戦いである。

 ここで咲は、25000点持ちで考えた場合に、咲は29600点から30500点の間になるよう点数調整をする。

 つまり、蒔乃(神)は、この対局が咲より点数を上回れるかどうかだけではなく、咲の点数が104600点から105500点に納まるのを阻止出来るかどうかと言う変則的な戦いであることも理解していた。

 当然、勝ち星ゲットと共にプラスマイナスゼロを破りに行くつもりだ。

 

 敬子は、プラスマイナスゼロのことを知らなかったため、純粋に勝利を狙っていた。ただ、前回打った時よりも咲のオーラが強大になっていることは感じていた。

「(あれより上があるの?)」

 今回、敬子は巨大湖形成をしないつもりでいたが、少し自信がなくなってきた。

 

 

 六巡目、蒔乃は九連宝燈を一向聴まで進めた。

 ここで咲が、

「カン!」

 {⑤}を暗槓した。赤牌二枚が副露される。

 そして、嶺上牌を取り込むと、

「リーチ!」

 先制リーチをかけてきた。

 光と敬子は一発回避の安牌切り。蒔乃は相手の和了り牌を察知できるため、当然振り込まない。

 

 咲が一発目のツモを引いた。

 すると、

「カン!」

 今度は{⑧}を暗槓した。

 そして、嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

 

 開かれた手牌は、

 {二二34567}  暗槓{裏⑧⑧裏}  暗槓{裏[⑤][⑤]裏}  ツモ{2}

 

 リーチツモタンヤオ嶺上開花表ドラ1赤2のハネ満だ。

「3000、6000!」

 ただ、二つも槓しておきながらドラは表ドラが一枚に赤ドラ二枚のみ。

 この和了りを見て、

「(本当に噂どおり、自分には裏も槓ドラも槓裏も乗せないんだ。)」

 と敬子は思っていた。

 

 

 東二局、蒔乃の親。ドラは{3}。

 ここでは、六巡目に、

「リーチ!」

 光が{北}を切って先制リーチをかけた。

 

 この時の光の手牌は、

 {二三四九九九2333456}

 

 和了り役はリーチのみだが、{3}を三枚持つ満貫手。

 しかも{1247}の四面聴。

 

 すると敬子が、

「ポン!」

 この{北}を鳴いた。自風だ。

 そして打{南}。

 

 ここまで、敬子の捨て牌は、

 {①91一西南}

 相変わらず読めない捨て牌だ。

 

 蒔乃と咲は和了り牌を見抜くため振り込まず。

 そして、光のツモ番。

「(さっきの鳴きで流れがズレたかな?)」

 ここで光が引いたのは{⑨}。和了り牌を引き当てられずにツモ切りした。

 すると、

「ロン!」

 この{⑨}で敬子が和了った。ただ、この時、咲や光の目には、敬子の姿が美しい人魚の姿のように見えていた。

 

 開かれた手牌は、

 {④[⑤][⑤]⑤⑥⑦⑧東東東}  ポン{横北北北}  ロン{⑨}

 

 {③④⑥⑨}待ちの四面聴。しかも、東北混一色赤2のハネ満だ。

「12000!」

 まさかの直撃。光には、痛い振り込みとなった。


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