咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百五十八本場:白亜紀

「「「「ありがとうございました。」」」」

 インターハイ団体決勝戦のエース対決(次鋒戦)は、咲の勝利で幕を閉じた。

 

 対局室の外には、既に恭子が咲を迎えに来ている。

 ただ、敬子は咲の点数調整の真意が知りたい。咲が恭子に捕まる前に声をかける。

「ねえ、宮永さん。」

「はい?」

「ちょっと聞いてイイ?」

「うん。」

「どうしてプラマイゼロをやったの? もしかして、点数調整して手を抜いてるの?」

「そんなこと無いよ。私にとって、プラマイゼロは子供の頃から一番慣れている打ち方で、コーチに言わせると一番支配力と言うか強制力が強い打ち方なんだって。」

「でも、準決勝では、あんなに派手に大きいの和了ってたじゃない?」

「あれは、優希ちゃんが最高状態だったから、あれでプラマイゼロをやると、優希ちゃんを逆転出来なさそうだったから…。それに、今回は絶対に勝たなきゃって思ってたから、それでプラマイゼロを利用したんだよ。」

 すると光が、二人の会話に入ってきた。

「今まで、私も一度も破ったことが無いもんね、プラマイゼロは。でも、結局、咲にやられたか。」

「「…。」」

「しかも、お小遣いを取られないように身に着けた技だからね。平和主義の咲ならではの選択だよね。」

「えっ? それって、どういうことなの?」

 こう敬子に聞かれて、咲は一瞬困った表情を見せたが、丁度ここで、

「次鋒選手は速やかに退場してください。」

 スタッフに退場を命じられた。

 それで、咲達は一旦対局室を出た。

 

 

 光は、

「じゃあ、咲。次は個人戦で雪辱するからね!」

 そう言うと、控室に戻って行った。光にとっては、まだ咲とは敵同士なのだ。大会が終わるまでは馴れ合いはしない、そう決めていたようだ。

 

「人の王者よ。」

 咲達の背後から、蒔乃が話しかけてきた。

 その声質は、神降臨バージョンの小蒔と全く同じである。非常に神々しく、本来であれば凡人は近寄りがたい雰囲気に包まれている。

「ひゃっ………ひゃい?」

 卓から離れた咲は、単なる弱者である。神の声が恐れ多くてたまらないようだ。さっきまでとは全然態度が違う。

「凄まじい支配力だった。後半戦は1位を取れたと思ったが、全てがそなたの掌の上だとは恐れ入った。またいつか、対局できる日を楽しみにしておるぞ。」

 そう言うと蒔乃は、その場からテレポーテーションして消えた。

 

 これを見て敬子は目が点になっていた。

 まあ、咲も恭子も、小蒔や霞、初美のテレポーテーションを見ているので特に驚いた様子は無かったが………。

 むしろ、咲は最強神が目の前から消えて、ホッとしている雰囲気さえ感じられた。やはり神を目の前に緊張していたのだ。

 が………、テレポーテーションを目にして咲と恭子が平然としていることが、結果的に敬子を余計に驚かせた。

「ねえ、今の何? それに、宮永さんはどうしてそんなに落ち着いていられるの?」

「ええと、永水の方々は、あれが普通だから。」

「普通じゃないよ! 絶対!」

「だから永水限定で普通ってことで………。」

 敬子は、自分が知らない世界があることを知った。

 世の中は広い。

 …

 …

 …

 

「そうそう。それで、さっきのプラマイゼロの話だけど………。」

「あれね………。」

 咲は、敬子に子供の頃のことから順に話をした。

 家族麻雀の話。

 そのうち、家族内でお金をかけることを強制されたこと。

 そこで、先ずは自分の小遣いを守るため、勝つ麻雀を目指したこと。

 しかし、咲が勝てば元プロの母親の機嫌が悪くなる。それで、勝ちもせず負けもせずのプラスマイナスゼロを身に着けていったこと。

 ところが、それでは咲自身は守れても、その分、照や光に余計に被害が及ぶようになったこと。

 それで、他家の順位や点数も調整し、最終的に全員が勝ち負け無しの状態にまで持ってゆくこと力を身に着けていったこと。

 しかも、その強制力は、元プロ雀士である母親でも破ることの出来ない強烈な力であったことも………。

 

 その強大なパワーなら、光や蒔乃、敬子が相手でも破られないだろう。

 それで、恭子や晴絵と相談した上で、今日の対局では、そのプラスマイナスゼロの強制力を利用することで、他家の支配力を完全に凌駕する作戦に出たのだ。

 

 これを聞いて敬子は、手を抜かれたわけではなく、むしろ、咲の持つ最強の力で対局してくれたことを理解した。

 ただ、少し後悔した。

「そうだったんだ。なんか、聞いちゃいけないような気がした。ゴメンなさい。」

 多分、咲には余り知られたくない過去だったかもしれないからだ。

 敬子も、春季大会時点と比べると随分とKY要素が薄まった。勿論、まだゼロにはなっていないだろうが………。

「ううん。別にイイって。」

「でさぁ、お願いがあるんだけど。」

「何?」

「宮永さんのこと、美和と同じように咲ちゃんって呼んでもイイかな?」

「イイよ。じゃあ、私は敬ちゃんって呼んでもイイかな?」

「うん! あと、美和とやってるLINEに招待してもらってもイイかな?」

「美和ちゃんが良ければ。一応、私の番号を教えとくね!」

 美由紀曰く、

『麻雀している時以外は、全然自分から積極的に動こうとしない』

『周りから声をかけないと、いつも一人で静かに読書していて人との交流が苦手な感じ』

 の咲だが、無事に交友関係を広めることが出来て何よりである。

 

 

 一方、対局室には中堅選手が順次入室していた。

 優勝候補筆頭の阿知賀女子学院からは、小走ゆいに代わって藤白亜紀、1年生。千里山女子高校の元エース藤白七実の妹である。

 

 白糸台高校からは多治比麻里香、3年生。松庵女学院の元エース多治比真佑子の妹で、白糸台高校の美女ランキング3位。全国女子高生雀士顔面偏差値ランキング8位。

 結構ファンも多い。

 超甘党である。

 

 永水女子高校からは石戸明星、2年生。石戸霞の従姉妹で六女仙の一人。ヤオチュウ牌支配を武器とする。

 かなりのオモチの娘。

 全国女子高生雀士顔面偏差値ランキング5位。

 

 綺亜羅高校からは鷲尾静香、3年生。周りからはワシズと呼ばれている。

 極めて成績優秀で、偏差値70が余裕の憧よりも全国模試の順位は上である。超進学校を蹴って綺亜羅高校に入学したとのこと。理由は、家から近いことと同中出身の敬子のことが心配だったこと、それから綺亜羅高校の理事長を務める伯父から入学の依頼があったことの三点らしい(百二十五本場オマケ参照)。

 恐ろしいほどの豪運の持ち主。

 

 

 場決めがされ、起家が静香、南家が亜紀、西家が麻里香、北家が明星に決まった。

 

 東一局、静香の親。ドラは{③}。

 明星の配牌は、八種十一牌。

 流したくても流せない。なので、一般的には最悪な配牌である。

 しかし、彼女にとっては最高の配牌。ここから高打点の手を作ってゆく。

 

 明星のヤオチュウ牌支配は、飽くまでもツモ限定である。配牌には影響しない。

 しかし、ヤオチュウ牌八種が来ることは一定の確率で普通にあることだ。今回は、それが偶々来ただけである。

 

 配牌は、

 {一一九九③4東南北白白發中}

 

 ここから、たった四巡で、

 {一一九九東東南南北白白發發}

 

 混一色混老七対子を聴牌した。恐ろしい引きである。

 混老七対子の扱いはルールによって異なるが、ここでは25符5翻の満貫役として数えることになっていた。

 つまり、この明星の手は倍満手だ。

 こんな爆弾みたいな手が、四巡目で出来ているなど、誰も想像できないだろう。

 

 しかも、明星の捨て牌は、

 {中③⑨4}

 

 この手で{中}から切り出しているとは、普通では考えられないだろう。まるで、ツモってくるヤオチュウ牌が事前に分かっているような捨て方である。

 

 そして、五巡目、

「ツモ。4000、8000!」

 豪運の静香にとっては、まさかの倍満親かぶりであった。綺亜羅高校控え室でも、美和達の表情からは驚きの色が隠せなかった。

 

 

 丁度ここに、敬子が戻ってきた。

「遅かったジャン。もしかして、例の件、宮永さんに聞いてきたの?」

 こう言ったのは鳴海。

「うん。プラマイゼロって、咲ちゃんの最終兵器みたい。」

「「「咲ちゃん?」」」

 まさか敬子まで『咲ちゃん』呼びになっているとは………。

「でさぁ、美和と咲ちゃんのLINEに、美和がOKしてくれたら入ってもイイって。咲ちゃんの許可貰ってきたよ。」

「ちょっと、私と咲ちゃんの愛の巣に入ってこないでよ!」

「じゃあ、私は別で咲ちゃんとLINEする。番号教えてもらったし。」

「えっ? 嘘?」

「本当だよ!」

「うぅ。咲ちゃんの浮気者!」

 十人並みと言われる美和と、現在では女子高生雀士顔面偏差値ランキング2位の敬子が咲を取り合っている感じだ。

 しかも、咲は、女子高生雀士顔面偏差値ランキング不動の1位とされる佐々野みかんや同ランキング6位の和とも仲が良い。

 それを考えると、咲は美少女に縁があるなと美誇人は思っていた。

 …

 …

 …

 

「それより敬子。プラマイゼロが最終兵器って?」

 再び鳴海が聞いた。

「それがね………。」

 敬子は、咲から聞いたことを美和達に順に話した。

 結構、重い話である。

 まさか、小学生の頃から培ってきた能力だったとは………。

 美和達は、プラスマイナスゼロの真実について、敬子に聞かせたことを後悔した。知らない方が良かったかもしれない。

 

 

 それを他所に、対局室では中堅戦東二局に突入していた。

 ここでも明星が、たった六巡で混一色混老七対子を聴牌し、

「ツモ。4000、8000!」

 倍満をツモ和了りした。

 二連続の倍満。これだけで役満一回分の和了りになる。とんでもない爆発力だ。

 

 

 東三局、麻里香の親。ドラは{⑤}。

 ここで亜紀の表情が変わった。

「(まだ、一日に何回も使える力じゃないけど、ここで試してみる。)」

 何かを仕掛ける気だ。

 当然、この雰囲気を明星は感じ取っていた。

 明星は、王者宮永咲の下で研鑽している亜紀が、どのような麻雀を見せてくれるのか、楽しみにしていた。それこそ、春季大会個人戦で上位につけた選手として余裕を見せている部分もあった。

 

 ところが、配牌が終わった時、明星は亜紀の手牌から異様な空気を感じ取った。なんだかヤバそうな雰囲気だ。

 とは言え、一先ず、ここでも明星はヤオチュウ牌支配に出た。これは明星の絶対的な武器であり、和了った時の破壊力は大きい。この力で亜紀と勝負する。

 チュンチャン牌の切り出しは、蒔乃(神)とは違ってランダムにする。規則性を持つと狙われる心配があるからだ。

 

 七巡目、明星の手牌は、

 {一九①⑨169東南西北白中}  ツモ{發}

 

 国士無双十三面待ちを聴牌した。

 当然、ここから打{6}。

 すると、

「ロン!」

 対面の亜紀から和了りの宣言が聞こえた。

 これと同時に、頭部に三本の角を持つ巨大な四足の生物が頭から明星に向かって突っ込んで来る幻が見えた。

 その生物は、白亜紀の絶滅したはずのトリケラトプス。その恐竜の持つ三本の角が、明星の両胸と腹に突き刺さった。

 

 亜紀の手牌が開かれた。

 {五五[五]⑤[⑤][⑤]3355[5]66}  ロン{6}  ドラ{⑤}

 

 {2}のことを槍に見立てるが、{2}と同じ模様を三本持つ{6}を、ここでは三本の角に見立てているのだろう。

「タンヤオ対々三暗刻三色同刻ドラ7。32000!」

 亜紀の強烈な一撃が出た。まさかの数え役満だ。

 これで明星は、東一局、東二局で稼いだ分の全てを放出することになった。

 

 明星の顔が、これまでとは打って変わって恐ろしい表情に変わった。初めて咲と対局した時と同じような形相だ。

 ただ、あの時のように復讐心に燃えているわけでは無い。今まで以上に気合が入って表情が変わったのだ。

 1年生だからといって舐めていられない。隙を見せたらヤられる。

 亜紀にはそれだけの力があると、明星が認めた故だ。

 

 

 東四局、明星の親。

 ここでも当然、明星はヤオチュウ牌支配で行く。

 

 高い和了りが武器の明星が親である。

 当然、他家は、この親を流しに行く。

 

 今、この卓には配牌を支配する者も居なければ、他家のツモに干渉する能力を持つ者も居ない。

 純粋に、各々の能力と運のぶつかり合いである。

 

 ここに来て、ようやく静香が先行聴牌できた。

 とは言え、平和形だがタンヤオも一盃口もドラもない。チャンタ形でもジュンチャンでもない。単なる平和のみだ。

 しかし、静香は自分の特性を良く知っている。

「(永水が、まだ大きいの和了るだろうし、ここは攻撃あるのみだね。)」

 迷うことなく、

「リーチ!」

 静香は聴牌即でリーチをかけた。

 一先ず他家は、現物や筋牌で対応する。

 しかし、静香は豪運の持ち主。

 当然のように、

「ツモ!」

 一発で和了り牌を引いてきた。

「リーチ一発ツモ平和に、アタマが裏で乗って3000、6000!」

 出和了り1000点でしかなかった手が、リーチ一発ツモドラ2がついて12000点の手に化けた。

 まるで南場の南浦数絵のような麻雀だ。

 

 

 南入した。ドラは{西}。

 南一局、親は静香。

 さっきの和了りで勢いがついていそうだ。

 亜紀は、

「(宮永先輩に言われた。私に宿る白亜紀の力は、攻撃だけじゃないって。まだ完璧じゃないけど、練習のつもりでやってみよう。)」

 ここで自分の能力を使って静香を流しに出ることにした。

 

 自分が和了って親を流せるのがベストだ。

 しかし、東三局で明星から数え役満を和了った時に攻撃の能力を大量放出し、今は和了りに向かえる状態では無い。

 なら、別の方法を考える。自ら和了るだけが麻雀ではない。

 この時、亜紀には、

「(白亜紀に、植物は花を咲かせるようになって、昆虫をパートナーにした。ここで昆虫役として蜜を吸うのは白糸台。)」

 麻里香の牌の一部が透けて見えていた。これで麻里香が鳴きたい牌が分かるのだ。

 例えば、{24}と持っていて{3}が欲しければ{24}が透けて見えるし、{發}をポンしたければ{發}が二枚透けて見える。

 また、それが鳴きではなく和了り牌であれば、赤く点滅して見える。つまり、鳴きか和了りかも識別することが出来る。

 一先ず、亜紀は麻里香が二枚持つ{發}を捨てた。

「ポン!」

 これで麻里香は聴牌したようだ。

 嵌{3}待ちだ。

 赤く点滅して、まるでアラートを発しているようだ。

 

 その数巡後、

「ツモ! 發西ドラ3。2000、4000!」

 麻里香に満貫をツモ和了りされた。

 亜紀には、想定以上に高い手だ。

 

 しかし、ヤオチュウ牌支配の明星を援護するのは難しいし、恐らく打点も満貫では済まないだろう。

 ここで蜜を吸わせる対象は麻里香しかいない。

「(結果オーライよね、きっと。)」

 亜紀は、そう自分に言い聞かせた。

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