インターハイ団体決勝中堅戦は、後半戦東四局に突入した。
親は麻里香。ドラは{北}。
亜紀が勝ち星を取るには、先ず二連続ハネ満を和了っている麻里香からツキを剥がすことが必須だろう。
ここで亜紀は、静香に動いてもらうことにした。
静香は高い手を狙う。そのため、静香に和了らせるのは本来リスキーだが、明星はヤオチュウ牌支配のため亜紀の捨て牌で鳴かせるのは難しい。
亜紀自身が和了りに向かえるのがベストだが、まだ彼女のパワーが十分回復していない。東初で四暗刻を和了った時に能力を放出し過ぎたのだ。
よって、麻里香のツキを剥がすには、消去法で静香に和了らせる以外に方法が無い。
この局では、静香が亜紀の下家なのは不幸中の幸いと言えよう。亜紀は、持ち前の能力で静香が欲しいところを敢えて捨てることにした。ディフェンス能力の方は枯渇していないので振り込むことは無い。
まず、亜紀は静香の自風である{西}を捨てた。
「ポン!」
これを静香が鳴いた。ドラが{北}なので、{西}はドラ表示牌として一枚使われている。ここで鳴かなければ{西}は使えない牌で終わる。
次巡、亜紀は{1}を捨てた。
これを、
「チー!」
静香が鳴いた。
ただ、これと同時に、亜紀には静香の手牌のうち{79}の部分が赤く点滅して見えるようになった。
つまり嵌{8}待ちで聴牌したのだ。
そのさらに次巡、当然、亜紀は振り込まない。
これが、永水女子高校の春が相手なら差し込むかもしれない。手が安いことを知らせてくれるからだ。
ただ、静香は索子に染めていそうだ。少なくとも西混一色で3900、ここにチャンタ辺りがつけば満貫手になる。さすがに差し込めない。
亜紀は、萬子捨てで静香への振り込みを回避した。
しかし、
「ツモ。西混一チャンタドラ2。3000、6000!」
静香は聴牌即で自ら和了り牌を引いてきた。
やはり高い手だ。ハネ満ある。
これで静香がラスから2位に浮上した。
南入した。
南一局、亜紀の親。ドラは{⑨}。
この局は、配牌終了時点で、亜紀には明星から{東西北白}が見えていた。これが明星の欲している牌だ。
「(これって、多分また混老七対か何かよね? 配牌で、もう三向聴まで出来上がってるってこと?)」
しかも、明星が第一ツモを手に入れると亜紀は明星の手から{白}が見えなくなり、しかも明星は、いきなりドラの{⑨}を捨ててきた。
次巡、明星は{東}をツモリ、打{①}。
三巡目、明星は{西}をツモリ、打{9}。
そして、四巡目。
「ツモ!」
明星は待望の{北}をツモって和了った。
開かれた手牌は、
{一一二二三三東東西西北白白} ツモ{北}
どうやら、配牌時点で{一一二二三三}の一盃口が出来ていたようだ。
ただ、ここでは一盃口を役としては使わずに、単なる三つの対子として用いていた。
「ツモメンホン七対子。3000、6000!」
たった四巡でハネ満ツモ。本当に化物だ。
これで南場での亜紀の親は終わった。
南二局、静香の親。
どうやら、流れは明星に移ったようだ。
今回も手が早い。
たった三巡で、
「ツモ! 混老七対。3000、6000!」
またもやハネ満を和了ってきた。
混老七対子を25符4翻相当ではなく25符5翻として数える本大会のルールは、明星にとって非常に有利である。
配牌の関係で、明星でも必ずしも国士無双に走れるとは限らない。
例えば、他家二人がヤオチュウ牌のうちの二種類を二枚ずつ持っていたら国士無双を聴牌することはできなくなる。
しかし、混老七対子なら、それでも聴牌できる可能性がある。
5翻と言うことは、混老七対子をツモ和了りできればハネ満が約束される。
さらに、対子一つがドラであれば倍満になる。
恐ろしい能力だ。
しかも、これで中堅後半戦の点数と順位は、
1位:明星 120200
2位:亜紀 105800
3位:静香 93800
4位:麻里香 80200
とうとう明星が逆転してトップに立った。
これで、亜紀の四暗刻ツモで始まった大荒れの後半戦も、明星の勝ち星で終わるだろうと、観戦者の殆どが予想し始めた。
南三局、明星の親。ドラは{9}。
まだ、亜紀の能力は完全に復活していない。
しかし、ここで明星に和了られたら取り返しがつかなくなる。
亜紀は、
「(何としてでも流す!)」
配牌時点から限界を超えて能力を振り絞ることにした。
パワー全開。
しかし、配牌終了時点で、もはや亜紀は顔面から血の気が引いてきた。完全に能力の限界を超えたのだ。
ただ、自らの能力で勝ち得た配牌は、
{二三三四四五七七七八八九①}
小蒔や蒔乃に降臨される神が喜びそうなモノであった。
亜紀の第一ツモは{白}。
パワーが弱まっている故だろう。いきなり萬子は引けなかった。ここから打{①}。
第二ツモはドラの{9}。これはツモ切り。
第三ツモは{六}。ここから打{白}で一応、門前清一色聴牌だが……、待ち牌は自分で三枚持っている{七}のみ。これは薄い待ちだ。
第四ツモは{中}。当然ツモ切り。
そして、第五ツモ。ツキがあったようだ。
門前清一色にしては待ちが薄過ぎて絶対に和了れないだろうと思っていた唯一の待ち牌を亜紀は引き当てた。
「ツモ! メンチン。3000、6000。」
ここで{二三三四四五}が一盃口になってくれていたら、或いは{五}が{[五]}なら、このツモ和了りは倍満になっていたが、今は贅沢を言っていられない。
これで中堅後半戦の点数と順位は、
1位:亜紀 117800
2位:明星 114200
3位:静香 90800
4位:麻里香 77200
亜紀が逆転して首位に躍り出た。
しかも、この時点で前後半戦トータルも、
1位:亜紀 219800
2位:明星 219200
3位:静香 190800
4位:麻里香 170200
ギリギリだが亜紀が首位に立った。
次のオーラスで亜紀と明星で和了った方の勝ち星になる。
完全にガス欠状態だが、亜紀は気合を入れて最終局に望む。
オーラス、麻里香の親。
ここで再び、
「リーチ!」
麻里香にツキが回ってきた。たった二巡目でリーチをかけてきたのだ。
豪運の静香が同卓していて、これだけツキが巡ってくるのも珍しい。本当に今日の麻里香は素でツイているのだろう。
そして、
「ツモ! 6000オール!」
親ハネツモ和了りを決めた。
オーラス一本場。
ここでも、
「ポン!」
麻里香は、明星から早々に出てくるチュンチャン牌を鳴き、
「ツモ。2100オール!」
そのまま序盤で30符3翻の手をツモ和了りした。
これで中堅後半戦の点数と順位は、
1位:亜紀 109700
2位:明星 106100
3位:麻里香 101500
4位:静香 82700
麻里香が3位に浮上。
そして、この時点で前後半戦トータルは、
1位:亜紀 211700
2位:明星 211100
3位:麻里香 194500
4位:静香 182700
亜紀と明星の点差は変わらずだが、麻里香は、次に親満をツモ和了り出来ればギリギリ逆転トップ、つまり勝ち星を取れるところまで迫っていた。
静香の逆転勝利の条件は三倍満ツモか役満を誰かから直取りすること。普通なら諦める点差だが、静香の豪運なら不可能ではないだろう。
全員が勝ち星ゲットに向けてアドレナリンが上昇する。
そして迎えたオーラス二本場。ドラは{⑥}。
麻里香の配牌は、
{二三四[五]③⑤⑧⑧246南西發}
亜紀の配牌は、
{二四六⑤⑨13378南北中}
静香の配牌は、
{七③⑥2448白白發發發中}
明星の配牌は、
{一一四①②③⑥159東西北}
四巡目終了時点で、麻里香の手牌は、
{三四[五]③④⑤⑧⑧12368}
まだ一応ツキがあるのだろう。役無しだがドラ1で聴牌。
亜紀の手牌は、
{二三四五六④⑤133678}
一向聴。
彼女も、全くのムダツモ無しの状態。能力は枯渇しているはずだが、それでも限界を超えてパワーを振り絞る。
静香の手牌は、
{24444白白白發發發中中}
嵌{3}待ちの小三元門前混一色三暗刻の倍満。しかも、ここに{中}が来れば大三元聴牌に切り替わる。
河を見ると、{中}は亜紀が一枚切っているだけで、もう一枚は、まだ生きている。当然、最後の大逆転を静香は狙う。
明星の手牌は、
{一一①①③199東東西西北}
混老七対子一向聴。こちらも、ヤオチュウ牌支配によってムダツモ無しで手が進んでいる。正直、全員化物レベルの引きである。
そして、五巡目。
麻里香は四枚目の{3}をツモ切り。
当然、静香は、これをスルー。静香が狙うのは、飽くまでも麻里香からの倍直ではなく三倍満ツモか役満直撃なのだ。
亜紀は、ドラの{⑥}を引いて打{1}。これで平和ドラ1の聴牌。三面待ちの最高の手だ。
これを和了って阿知賀女子学院の二つ目の勝ち星を手に入れたい。しかも、他家は春季大会の上位者ばかり。
ここで勝てば大金星だ。
静香は、{中}を引いて打{4}。ここに来て静香の豪運が爆発した感じだ。
{3}は既に四枚切れで、待ちは{2}のみだが、{2}での和了りは大三元四暗刻のダブル役満。
勝ち星ゲットと同時に総合得点を大きく伸ばせる大逆転手だ。
明星は、{北}を引いて打{1}。手牌にはチュンチャン牌が残っていたが、敢えて混老七対子に取らなかった。
他家からすれば、明星の手は既にヤオチュウ牌で溢れ、{1}が余ったと感じるだろう。そこを狙っての打{1}だ。
続く六巡目。
麻里香の手牌は、
{三四[五]③④⑤⑧⑧12368} ツモ{⑥}
ここでドラの{⑥}を残せばドラ2の手、つまりリーチをかけてツモ和了りできれば前後半戦の逆転トップが取れる。
当然、麻里香は打{③}で、
「リーチ!」
勝負に出た。
しかし、これで、
「ロン。1600の二本場は2200です。」
七対子のみの手を明星が和了った。明星は、ドラ引きで入れ替える{③}を狙ったのだ。
亜紀も静香も一歩足りずと言ったところだ。もし、明星が混老七対子に取っていれば亜紀か静香が和了っていたかもしれない。
麻里香もツキはあったが、最後の最後で、そのツキが裏目に出てしまった。こっちも明星が混老七対子に取っていれば大逆転手を和了れていたかも知れない。
明星の作戦勝ちだ。
これで中堅後半戦の点数と順位は、
1位:亜紀 109700
2位:明星 108300
3位:麻里香 99300
4位:静香 82700
そして、この時点で前後半戦トータルは、
1位:明星 213300
2位:亜紀 211700
3位:麻里香 192300
4位:静香 182700
僅か1600点差。明星がギリギリのところで勝ち星を手に入れた。
ただ、明星は試合には勝てたが、
「(ツキの遣り取りを含めて、結局、卓を支配していたのは阿知賀の1年生か。真の支配者ってとこね。恐ろしい娘を育ててるわね、宮永さん。)」
亜紀の底力に脅威を感じていた。
「(阿知賀の中では、この1年生よりも小走さんの方が強いのでしょうけど、小走さんはブルペンエースの感じが強い。対外的には、この1年生の方が圧倒的に上ね。)」
春季大会では、きっと亜紀は台風の目になる。明星は、そう実感していた。
これで、勝ち星は、白糸台高校、阿知賀女子学院、永水女子高校の三校が各々一つずつ取った形となった。
「「「「ありがとうございました!」」」」
対局後の一礼を終えると、中堅選手達は対局室を出て、それぞれ自分達の控室に向かって移動した。
亜紀は、途中で美由紀に会った。
「先輩、ごめんなさい。一歩足りずでした。」
「ううん。そんなことない。私なら、もっと大敗していたと思うもん。永水の石戸さんは春季個人8位、綺亜羅の人は個人10位だからね。」
「でも…。」
「それに、白糸台の人だって個人19位だよ。その中で2位だったんだもん。春季の個人9位くらいの実力があるってことだよ。」
「でも、能力のペース配分とか持久力とか。宮永先輩に言われていた課題を一つでもクリアしていたら勝ててた気がします。」
「それが、秋季大会に向けての課題だね。じゃあ、行ってくる。相手は春季個人6位の化物だけど。」
「頑張ってください。」
「うん!」
美由紀は、笑顔で亜紀に答えたが、その直後、気合いの入った顔に変わった。
ただ、地顔が超絶カワイイので、毎度の通り、余り怖い感じに見えなかったのは言うまでもない。