咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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大将戦は、大会時間の都合上、イスだけ取り換えてすぐに行われた設定です。


百六十五本場:インターハイ最後の大将戦

 インターハイ団体決勝戦は、これより大将前半戦が開始される。

 大将選手達は、各々控室を出て対局室へと向かっていった。

 

 

 穏乃は、途中で亜紀に連れられて戻ってくる美由紀に会った。この時、美由紀は制服のスカートの上からタオルを巻いていた。

 もの凄く恥ずかしそうな顔で俯いている。

 

 穏乃は、

「美由紀は頑張ったよ。最後は、和了れなかったけど、凄い猛追だった。元気を分けてもらった気がする!」

 と明るい声で美由紀に言った。

「でも、もし勝てていれば優勝の可能性が大きく上がっていたのに、済みません。」

「私が勝てば大丈夫。じゃあ、行ってくる!」

 この時、美由紀と亜紀は、穏乃の背後に膨大な量の火炎が見えていた。火焔と呼ぶには量が多過ぎる。周りのモノを全て焼き尽くしてしまいそうな勢いだ。

 

 

 同じ頃、みかんは麻里香に連れられて控室に向かっていた。

 みかんは、下半身は麻里香に借りた短パン(体育着)になっていたが、もうびしょ濡れである。

 それが見えないように、彼女もスポーツタオルを巻いて短パンを覆い隠していた。

 

 途中で二人は和に会った。

「和、不甲斐なくてゴメン。」

「みかんの相手は綺亜羅のダブルエースの一人でしたし、強かったと思います。私も穏乃が相手ですし、勝てるかどうかは判りませんがベストを尽くします。」

 それだけ言うと、和は今までに見せたことが無いくらい気合いの入った表情で、対局室へと進んでいった。

 

 みかんは、控室に戻ると、スマホのスイッチを入れた。某掲示板で何が書かれているか心配だったのだ。

 まあ、エロいとか放出がどうこうとか書かれているのだろうとは思っていたが、

「なに、この『みかんジュース』って?」

 思っていた以上に汚名を残したことを知って、orz状態になった。多分、美和が麻雀を打つ限り、みかんジュースの言葉はずっと付いて回る。

「麻里香。約束覚えてるよね?」

「約束?」

「私がお嫁に行けなかったら貰ってくれるって。」

「したね。そんな約束。」

「みかんジュースなんてネタがあったら、もうお嫁に行くのはムリ。」

「でも、その板で楽しんでいる奴ら以外には、短パン姿のウケが良かったみたいでさ。脚が長くてラインが綺麗でって。」

「…。」

「で、新しいスレが立って、みかんがお嫁さんにしたい女子高生雀士ブッチギリの1位なんだけど。(この顔でこのスタイルだもんね。当然っちゃ当然か。)」

「へっ?」

 麻里香に言われて、みかんは別の掲示板を覗いた。すると、特に悪いことは書かれていない。

 それどころか、書込み禁止事項に『ジュース』と書かれているくらいだ。

 敢えて『みかんジュース』にしなかったのは、その言葉を自分達が使えば逆にネタを広めてしまう。なので、より上位概念の『ジュース』を禁止事項にしているのだろう。

 自分のファン達が鎮火に努めてくれているようだ。

 

 みかんジュースネタは、今のところ、あの板限定である。このまま、そのネタが忘れ去られると有り難い。

 少しだけ、みかんは今後の人生に希望が持てるようになった。

 

 

 一方の春も、明星から受け取ったスポーツタオルで濡れた辺りを隠していたが、

「じゃあ、一旦着替えてくる。」

 とだけ言うと、テレポーテーションでその場から消えた。別の巫女服に着替えるため、霧島神境に行ったのだ。非常に便利である。

 

 

 さて、この頃、加害者側の美和は、

「(楽しかった~!)」

 みかん、春、美由紀と言った美女達をイカせまくった上に勝ち星を取って、最高の気分だった。

 

 控室に戻る途中で大将の鳴海に会った。

 美和は、鳴海にハイタッチした。

「じゃあ、鳴海。お願いね。」

「分かってる。ただ、美和は佐々野さんに刺されないように気をつけてね。」

「へっ?」

「某掲示板を見れば分かる。じゃあ、行ってくる。」

「うん。ガンバ!」

 さて、掲示板に何が書かれているのだろうか?

 美和は、恐る恐る某掲示板を覗くと、溢れんばかりの『みかんジュース』ネタ。

「ヤバイ、これ。ちょっと遣り過ぎたみたい。」

 これは、さすがに謝った方が良さそうだ。たしかに刺されてもおかしくない。

 早速、美和はLINEで咲に相談した。咲ならみかんとの仲が良いので間に入ってもらおうとの考えだ。

 

 

 みかんジュース事件のことは、さて置き、対局室に各校大将が出揃った。

 場決めがされ、起家は穏乃、南家は鳴海、西家は和、北家は湧に決まった。

 

 

 東一局、穏乃の親。

 早速、序盤から、

「ポン!」

 鳴海が仕掛けてきた。鳴きのリュウと呼ばれる彼女は、ここから槓すると、槓子が全てドラに化ける。

 副露したのは{發}。

 

 数巡後、

「カン。」

 鳴海が{⑧}を暗槓した。暗槓では回避しようが無い。

 新ドラ表示牌は{⑦}。やはりドラはモロ乗りである。

 そして、嶺上牌を引くと、既に手の中にあった{發}を、

「もう一つカンです。」

 加槓した。

 やはり新ドラ表示牌は{白}。ここでもモロ乗りだ。

 ただ、嶺上牌では和了れずツモ切り。これは他家にとっては救いだろう。

 

 しかし、その数巡後には、

「ツモ。4000、8000!」

 鳴海は自分の和了り牌を自力で引いた。嶺上牌で和了れなくても、普段のツモ自体は引きが良いほうなのだ。

 

 

 東二局、鳴海の親。

 ここでも、

「ポン!」

 鳴海が仕掛けて行く。

 ところが、

「チー。」

 同巡に、穏乃が湧から{③}を鳴いて{横③④[⑤]}を副露した。

 これには多くの観衆が、

『穏乃にしては珍しい』

 と思っていた。

 穏乃は、基本的に門前が多く、しかもまだスイッチが入る局でもない。過去においても東二局で穏乃が仕掛けて行ったことは余り無い。

 

 ただ、これを控室のテレビモニターで見ていた恭子は、

「エエで! 特訓の成果が出たみたいやな!」

 そう言いながら拳に力が入っていた。

 

 穏乃は後半になって調子が上がる。

 しかし、言い換えれば前半は弱い。

 それで前半は、ただ削られるのではなく、安くて良いから早和了りを徹底的に仕掛けて場を流し、大きなマイナスを作ることなく後半戦に入れるように恭子と早和了りの特訓をしたのだ。

 勿論、相手に捨て牌を絞られると鳴くのは難しくなるが、今の上家は湧。おそらく、他家三人の中でもっとも捨て牌が甘い。

 穏乃にとってはラッキーな席順だ。

 

 その後も、

「ポン。」

 穏乃は湧から{8}を鳴き、さらにその数巡後には、

「ツモ。タンヤオドラ1。500、1000。」

 安手ではあるが、一先ず鳴海の手が倍満に化ける前に親を流すことに成功した。

 

 

 東三局、和の親。

 この局も、

「ポン!」

 鳴海が鳴けば、

「チー!」

 穏乃が鳴いて場を流しに行く。

 

 ところが、

「ポン!」

 二人以外にも鳴きを仕掛ける者が現れた。ローカル役満を武器とする湧だ。

 彼女は{9}を鳴いた後、

「ポン!」

 さらに{7}を鳴いた。

 ローカル役満と言う彼女の特性から考えれば、これは紅孔雀か?

 しかし、場には{中}が3枚出ていた。それこそ湧自身が{中}を捨てていたくらいだ。

 だとすると、四跳牌刻か?

 しかし、既に{3}が場に二枚出ている。四跳牌刻も出来ないだろう。

 

 何を狙っているのかはよく分からない。ただ、少なくとも索子に染めていることだけは湧の捨て牌から容易に想像できた。

 当然、他家は索子を捨てなくなる。

 しかし、ローカル役満ができる方向に湧のツモは自然と動いてゆく。なので、他家が索子を捨ててくれなくても自力で必要な索子を連続で引いて行けるのだ。

 

 そして、数巡後に、

「ツモ! 3000、6000!」

 湧が和了り牌を自らの手で引き当てた。

 

 開かれた手牌は、

 {4666888}  ポン{7横77}  ポン{横999}  ツモ{4}

 

 {45}待ちの高目ツモだが、これは四連続の刻子を揃えたローカル役満、四連刻である。

 しかも、準決勝戦で咲、フレデリカ、蒔乃、優希が見せたローカル役満コレクションの中に入っていない和了り形である。

 まさに、ローカル役満に取り付かれた女が見せた意地であろう。

「3000、6000!」

 ただ、残念ながら、本大会では四連刻どころか三連刻も役として認められていない。そのため、これは清一色対々和のみのハネ満となった。

 

 

 東四局、湧の親。

 卓上にうっすらと靄がかかった。穏乃の能力が発動したのだ。

 そう言えば、このインターハイ団体戦て、阿知賀女子学院が大将戦まで回ったのは、これが初めてである。つまり、穏乃の能力も初披露となる。

 果たして、どの程度のレベルにまで成長しているのであろうか?

 他家としては、非常に不安になる。

 

 途端に鳴海も湧も手が悪くなった。

 湧は、和了り形が全然見えないわけではないが、少なくとも自分の武器であるローカル役満へと手を育てて行ける道筋までは見えていない。

 見えるのは、凡手の安和了りとしての形だけだ。

 

 鳴海の手には、対子はあるが、そこから刻子に進めることが出来ずにいた。ツモって暗刻にするどころか、鳴いて明刻にすることも何故かできない。

 しかも、嫌った牌が何故か来る。自分の河には既に{②}と{七}が三枚ずつある。

 

 一瞬、穏乃の背後に突如として現れた火焔が、鳴海の目に映った。

 春季大会では穏乃との直接対決が無かったので、鳴海にとって穏乃の火焔を直接目の当たりにするのは初めてのことだった。

 事前情報はあっても、実際に目にするとさすがに驚く。

 

 その直後、

「ツモ。2000、4000。」

 穏乃がタンピンツモドラ2を和了った。これは、蔵王権現の力が完全に発動していることの証明であろう。

 

 この強力な支配力。

 春季大会個人戦での咲と対局を思い出させる。

 さすがの鳴海にも、穏乃の対処法が分からなかった。

 

 

 南入した。

 南一局、穏乃の親。

 ここで穏乃のパワーが一気に爆発する。

 

 山は、完全に穏乃の支配下にある。

 鳴海も和も湧も、最低な配牌に最悪のツモだった。クズ手の上に全然、手が進まない状態が続く。

 そのような中で、穏乃だけが手を伸ばしてゆく。

 そして、気が付けば、穏乃の背後に火焔が現れ、

「ツモ。4000オール。」

 穏乃が親満をツモ和了りした。

 ただ、和了った直後、火焔は消えた。やはり和了る直前に火焔が見えるようだ。

 

 南一局一本場。

 ここでも、

「ツモ。2700オール。」

 

 南一局二本場でも、

「ツモ。3900オールの二本場は、4100オール。」

 

 さらに南一局三本場も、

「ツモ。2300オール。」

 穏乃が連続で和了り続けた。

 

 これで大将前半戦の点数と順位は、

 1位:穏乃 138300

 2位:鳴海 96900

 3位:湧 90400

 4位:和 74400

 とうとう、和が25000点持ちであれば箱割れするところまで追い詰められた。

 

 しかし、普通ならメゲて心が折れる状況でも、和は滅多なことでへこたれる女性ではない。むしろ、表には出さないが闘志が湧く。

 

 そして迎えた南一局四本場。

 鳴海と湧が、完全に穏乃の支配に押さえ込まれている中、和が穏乃の支配を跳ね除けてマイペースで手を進め、

「タンピンツモ一盃口ドラ3。3400、6400!」

 ハネ満をツモ和了りし、同時にヤキトリを解消した。

 

 

 南二局でも、

「リーチ。」

 和が穏乃の支配を抜けて聴牌し、先制リーチをかけた。

 山支配が強力になる中だ。さすがに一発ツモはできなかったが、他家の能力支配を受け難い和が、

「ツモ! 3000、6000!」

 数巡後にハネツモ和了りを決めた。

 この二度の和了りで、和が一気に2位に浮上した。

 

 現在、穏乃との点差は29300点。

 とは言え、次の親番で親ハネをツモ和了りできれば、穏乃との点差は、一気に5300点まで縮まる。

 当然、和は、このまま攻撃特化で突き進むつもりだ。

 

 

 南三局、和の親。

 いよいよラスト二局。毎度のことながら、ここまで来ると、やはり穏乃の山支配は、とんでもなく強力になる。

 和は、この親にかけるつもりだったが、意気込みと現実が乖離する。穏乃以外は、一巡目から配牌とツモが中々噛み合わない状況が延々と続くのだ。

 勿論、それは和も例外ではなかった。

 

 中盤に入り、ようやく湧の手に有効牌が入った。

 そして、手を進めるために切った{⑥}で、

「ロン。平和ドラ1。2000。」

 穏乃に和了られた。

 

 開かれた手は、

 {三三三四五④[⑤]⑥⑦⑧789}  ロン{⑥}

 ヤオチュウ牌を和了り牌に含む三面聴。チャンタ形への移行や、タンヤオに移行する際に零れる牌を狙った手のように思える。

 

 

 そして、オーラス。湧の親。

 当然、湧は、この親番で100点でも多く取り返そうと攻撃に出ようとした。

 相変わらず強烈な支配力が場を襲うが、序盤に湧は、有効牌を引けた。

 そして、気合いを入れながら不要な字牌、{北}を強打した。

 ところが、

「ロン。」

「えっ?」

 まさかの振り込みだった。穏乃の和了りである。

 

 開かれた手牌は、

 {一一二二三三④⑤⑥567北}  ロン{北}

 

「一盃口のみ。1300。」

 これで大将前半戦が終了した。

 点数と順位は、

 1位:穏乃 132200

 2位:和 99600

 3位:鳴海 87500

 4位:湧 80700

 穏乃の圧勝であった。

 

 

 一旦休憩に入った。

 穏乃は、いつものように卓に付いたまま時間を潰す。

 

 他の三人は、後半戦に向けて控室に戻った。仲間からのアドバイスがあるかもしれないからだ。

 

 

 鳴海は、控室に戻ると、

「やっぱ、怖いわ。宮永さんとは別の意味の怖さだね。」

 と言いながらソファーに腰を降ろし、テーブルの上に紙コップを置いてペットボトルのジュースを注いだ。

「でも、春季は、あれに動じなかったってことは、やっぱり敬子は凄いね。」

「へっ?」

 そうは言われても、あの時、敬子には穏乃の能力が効いていなかったわけだし、そもそも感知できていなかった。当然、鳴海の言っている意味が分からなかった。

 

 テーブルの上には、他の誰かの飲みかけのコップが置いてあったのだが、鳴海は、間違えて、その飲みかけの方のコップを手にした。

 そして、そのまま中のジュースに口を付けた。

「あっ! それっ!」

 声を上げたのは敬子。

「えっ?」

「それ、私のコップ。」

 こう言われて鳴海が紙コップを見ると、たしかに敬子の口紅が付いていた。

 しかも鳴海は、その口紅のところに口を付けたようだ。

 これは、よく見ていなかった鳴海が悪い。

「ああ、ゴメン。敬子は、そっちのコップを使ってイイから。」

「う…うん…。」

「でも、敬子の口紅つきコップなら売れるかもね。」

「えぇ!? そんな変人いるの?」

「まあ、普通にいるでしょ。美女ランク2位だよ。」

「それが信じられないのよね。大体、こんな見飽きた顔のドコがイイんだろ? 自分で言うのもなんだけど、正直言って性格も変だし…。」

 未だに敬子は、自分が美人である自覚が無かった。ある意味、みかんと同じである。

 だから逆に人気があるのかもしれない………。

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