咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百六十六本場:八百比丘尼

 対局室では、穏乃が一人、卓に付いて目を閉じていた。まるで瞑想しているかのように見える。

 

 ここに、和、湧、鳴海が戻ってきた。

 インターハイ団体決勝戦は、これより大将後半戦が開始される。これがインターハイ団体戦最後の半荘である。

 

 場決めがされ、起家は鳴海、南家は湧、西家は和、北家は穏乃に決まった。

 深山幽谷の化身と呼ばれ、場が進むに連れて強くなる穏乃がラス親なのは、他家三人にとっては嬉しくない。

 

 しかし、それを悪条件とも思わないくらい、この時、鳴海は妙に心が燃えていた。

 良く分からないが、身体の奥底から無尽蔵にエネルギーが満ち溢れてくるような感覚があったのだ。

 前半戦とはまるで違う。

 

 別に、前半戦は不調と言うわけではなかった。ただ、絶好調と言うわけでもない。言わば普通の状態。可もなく不可もなくといったところだ。

 それが、突然自分の中で何かが変わった。

 部内戦でも、こんな感覚になることがたまにある。

 そうなった時には、誰が相手でも勝てる。絶好調………と言うよりも最高状態と言った方がしっくりくる感じだ。

 

 

 東一局、鳴海の親。ドラは{3}。

 配牌を見て、鳴海は自分が最高状態にあることを確信した。

 {一三五七②②78西西西中中中}

 ここから打{一}。

 

 配牌一向聴で、しかも暗刻が二つ。うち、片方はオタ風牌だが、もう片方は三元牌。これで既に和了り役がある。

 鳴海をケアするなら、彼女の自風や場風、三元牌をどのタイミングで切るかは重要になる。鳴き&ドラ麻雀の鳴海には、絶対に役牌を鳴かせたく無いからだ。

 前半戦東一局で、鳴海に{發}を早々に鳴かれて、そこから倍満を和了られているのだから尚更である。

 なので、役牌は誰かが捨てて槓子にならないことが確認されてから捨てるか、もしくは少々危険ではあるが、鳴海の手の中で揃っていない可能性が高い一巡目とか二巡目にさっさと捨てるしかないだろう。

 まあ、普通は前者になる。

 

 しかし、オタ風牌なら殆どの人がノーケアーで切ってくる。案の定、ここでも早々に和が{西}を切ってきた。

「カン!」

 鳴海は、これを待ってましたとばかりに大明槓した。

 新ドラ表示牌は当然のように{南}。副露された{西}の槓子が、あっと言う間にドラ4確定を示す牌に変わる。

 嶺上牌は{9}。嶺上牌が有効牌になるとは調子が良い。

 ここから打{七}。中ドラ4の聴牌である。

 しかも{一七}切りの嵌{四}待ち。何気に筋引っ掛けだ。

 

 それにしても、何故、こんな急に調子が良くなったのか?

 鳴海は、休憩時間中に何があったか考えていた。これだけ調子を好転させる要因は何なのか?

「(考えられるのは、敬子のカップを使ったことくらいか…。)」

 あの時、鳴海は間違って敬子のカップを口にし、偶然にも敬子の口紅の付いたところに口をつけていた。まあ、間接キスだ。

 別に、そんなことでキャーキャー騒ぐものでもないし、鳴海自身は、特に何も気にしていなかった。

「(そう言えば、節子の指も、敬子のカップを使ったら、いきなり治ったって話があったっけ。あの時は、いくら敬子が不思議ちゃんでも、さすがに、そんな力は無いだろうって笑い話になったけど。)」

 ただ、今の敬子は人魚の化身。

 そして、人魚の肉を食べれば不老不死の力を得ることができると言う。あの伝説の八百比丘尼のように………。

 

 別に、敬子を物理的に食べたわけでは無いが、恐らく人魚と化した敬子との間接キスが鳴海の能力を最高状態に引き上げたのだろう。

 最後の最後で嬉しい誤算だ。

「(でも、これって、やっぱりそうだよね。私達にとって、まさに、このインターハイは敬子あっての大会………。でも、私達の中でキチンと敬子のことを理解できていたのは、結局のところ節子だけだったってことか………。)」

 今の自分が今までの能力の範囲内で最高状態なのか、それとも能力が進化しているのか、それは分からない。

 ただ、相手が誰であっても負ける気がしない。

 

 次巡、

「カン!」

 鳴海は{中}をツモり、暗槓した。

 二枚目の新ドラ表示牌は{發}。これで中ドラ8の親倍が確定した。

 しかし、嶺上牌は{①}。

 残念ながら能力が進化したわけではなさそうだ。もし進化しているのなら、ここで嶺上開花が飛び出すだろう。

 和了れていないのだから仕方が無い。鳴海は、聴牌維持で{①}を切った。

 

 その次巡も、鳴海は和了れなかった。

 しかし、そのさらに二巡後、

「ツモ。」

 鳴海は自力で和了り牌を引き当てた。

「8000オール!」

 しかも、まだ身体中からエネルギーが湧き上がってくる感覚は残っている。まだまだ行けそうだ。

 

 東一局一本場。ドラは{⑨}。

 鳴海の配牌は、

 {五七八①①③⑤111白白白白}

 いきなり{白}が四枚揃っている。これだけ調子が良いのも珍しい。

 当然、ここは、

「カン!」

 初槓だ。

 槓ドラ表示牌は{中}。これで白ドラ4が確定した。とんでもない手だ。

 嶺上牌は{六}。ここから打{五}で嵌{④}待ちの聴牌となった。

 

 同巡、湧が不要牌の{1}を切った。場に{五}が一枚しか出ていないところで初牌を切るなと言われてもムリである。

 当然のように、この{1}を、

「カン!」

 鳴海が大明槓した。

 二枚目の槓ドラ表示牌は{9}。

 これで白ドラ8が確定した。しかも聴牌している。

 そして、その三巡後、

「ツモ! 8100オール!」

 鳴海は和了り牌の{④}を引き当てて、またもや親倍をツモ和了りした。

 

 まさかの連続親倍に、穏乃の顔にも珍しく焦りの表情が浮かび上がっていた。

 穏乃としても、前半戦東二局で見せたような早和了りを目指したいのだが、中々鳴ける牌が出てこないし、鳴海のスピードに全然付いて行けない状態だった。

 

 

 これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:鳴海 148300

 2位:湧 83900(順位は席順による)

 3位:和 83900(順位は席順による)

 4位:穏乃 83900(順位は席順による)

 

 そして、大将前後半戦トータルでは、

 1位:鳴海 235800

 2位:穏乃 216100

 3位:和 183500

 4位:湧 164600

 鳴海が大逆転してトップに立った。

 

 しかし、鳴海としても、まだ気は抜けない。深山幽谷の化身と呼ばれる穏乃が同卓しているのだ。後半になって何をしでかすか分からない。

 それに穏乃の能力無効化の場であっても、それを撥ね退けて和了りに向かって行ける人間………和もいる。その証拠に、和は前半戦では南一局四本場と南二局でハネ満を二連続で和了っている。

 永水女子高校の大将、湧も不気味な存在だ。唐突に高い手を和了ってくる。

 

 こんな連中を相手にしているのだ。まだまだ鳴海は稼ぐつもりでいた。

 それこそ、自分の運が尽きるまで………。

 

 東一局二本場。ドラは{一}。

 鳴海の配牌は、

 {三五五八九③③③⑧257發發}

 まだまだ十分攻めて行ける配牌だ。

 ここから打{⑧}。

 

 二巡目。

 鳴海は待望の{發}を引いた。打{三}。

 

 三巡目。

 ここでも鳴海は{發}を引いた。

 当然、ここは、

「カン!」

 {發}を暗槓した。

 新ドラ表示牌は{②}。これで發ドラ3が確定した。

 嶺上牌は{6}。ここから打{2}で辺{七}待ち聴牌。

 ただ、この時、鳴海は、

「(ここは、發ドラ3の親満かな?」

 と思っていた。

 

 恐らく、この場では誰も{③}を捨ててくれないだろう。{③}を槓して次の新ドラが{發}になるのがモロバレである。

 

 ところが、その次巡。

 鳴海が引いてきたのは、まさかの{③}。何と言うツキの良さ。たしかに、今は絶好調だ。

 当然、鳴海は、これを、

「カン!」

 暗槓した。

 嶺上牌は{西}。

 さすがに嶺上開花はさせてもらえない。これはツモ切り。

 

 しかし、その二巡後、

「ツモ。8200オール!」

 今回も鳴海は自力で和了り牌の{七}を掴み取った。

 ツモ發ドラ8の親倍。

 しかも、これで前後半戦トータルは172900点となり、2位の穏乃との点差は52500点と大きく開いた。

 そう簡単に追い抜かれる点差ではない。

 これで、鳴海は自分達の優勝を、ほぼ確信した。

 

 東一局三本場。ドラは{七}。

 鳴海の配牌は、

 {一二三②②④⑥22東東東白中}

 いきなり一向聴の状態。

 まだまだ和了りを十分過ぎるほど狙える状態だ。

 ここから打{中}。

 

 ただ、今回は{東}も{②}も{2}も、中々自力で引き当てることが出来ずにいた。

 ツキのある日でも、こう言うことが無いわけではない。むしろ、今まで調子が良過ぎたと言えよう。

 

 七巡目。

 ここに来て漸く湧が{2}を捨てた。

 すかさず、これを、

「ポン!」

 鳴海が鳴いた。打{白}で聴牌。

 

 その二巡後、今度は穏乃が聴牌したのか、{東}を捨てた。

 当然、鳴海はこれを、

「カン!」

 大明槓した。

 新ドラは{東}。これでダブ東ドラ4が確定した。

 

 嶺上牌は{2}。

 鳴海は、

「カン!」

 さらなる槓ドラを狙って連槓した。

 これでダブ東ドラ8が確定する。しかも、和了り牌として{[⑤]}が引ければダブ東ドラ9の三倍満になる。

 誰でも、こんな状態であれば自然と力が入るであろう。

 しかし、

「ロン!」

 この{2}の加槓で誰かが和了りを宣言した。

「えっ?」

 鳴海が声のした方に目を向けると、和が手牌を開いていた。

 

 開かれた手牌は、

 {三四五[五]六七⑧⑧34[5]67}

 

 タンピン槍槓ドラ3。ハネ満だ。

「12900!」

 鳴海にとっては、まさかの振り込みであった。これで、長い鳴海の親番が終わった。

 

 

 東二局、湧の親番。

 鳴海のドラ麻雀をケアしてか、和も穏乃も序盤から役牌を切ってくれない。

 なので、湧は、この対局では役牌絡みのローカル役満を最初から諦めていた。前半戦で見せた四連刻は、{中}を鳴けないと踏んで紅孔雀を避けた上での和了りだったのだ。

 今回、湧の手の中に{白}と{中}が二枚ずつあったのだが、これをポンするのは難しい。

 ならば、両方とも落として別の役を作り上げる。

 

 湧の配牌は、

 {一三①④⑧2東南西北白白中中}

 

 これが四巡目で、

 {一一三①①④⑧12東南西北}  ツモ{東}

 ここから打{④}。

 

 すると、

「カン!」

 鳴海が大明槓してきた。

 新ドラ表示牌は言うまでも無く{③}。やはり、モロ乗りだ。

 

 その三巡後、湧の手牌は、

 {一一①①⑧11東東南南西北}  ツモ{北}

 ここから打{⑧}でローカル役満の世界一を聴牌した。

 

 すると、ここでも、

「カン!」

 鳴海が{⑧}を大明槓してきた。

 新ドラ表示牌は{⑦}。これで鳴海のドラ8が確定した。

 どうやら、今回の鳴海の狙いはタンヤオドラ8のようだ。

 

 そして、次巡。

 鳴海よりも先に、湧は待望の{西}をツモり、

「ツモ!」

 この手を和了った。

 

 残念ながら、この和了り形を本大会ルールでは役満として認めていない。混老七対子として扱われることになる。

 ただ、本大会では混老七対子を25符5翻として扱う。

 なので、

「混老七対子ツモ! 6000オール!」

 湧の親ハネツモ和了りとなった。

 もっとも、傍目には白と中を落さなければ、もっと早く混老七対子を和了れていると思えるだろうし、巧くやれば混一色混老七対子で倍満になったとも考えられるだろう。

 しかし、ローカル役満を狙ってこそ湧の能力は発動し、和了り形へと持って行く。

 {白}と{中}を残したままでは、聴牌まで到達できていなかったのかもしれない。

 

 東二局一本場、湧の連荘。

 ここでも鳴海は、

「ポン!」

 執拗に攻めて行く。前半戦に比べて鳴海の手が早い。

 今回は、先ず三巡目に穏乃から{②}を鳴いた。

 

 七巡目。

「カン!」

 鳴海が{②}を加槓した。当然のように新ドラ表示牌は{①}。

 そして、その二巡後、

「ポン!」

 さらに鳴海は{8}を鳴いた。これで聴牌。

 

 ところが、その次巡、

「リーチ!」

 和が攻めに出た。二面子を晒して手が狭くなっている鳴海を狙っているのだ。しかも、槓裏まで期待できる。

 同巡、鳴海は待望の{8}をツモってきたが、これを加槓するのを躊躇した。東一局三本場で槍槓されたのが効いているのだ。

 やむなく鳴海は聴牌を崩した。

 

 そして、次巡、

「ツモ!」

 和が一発でツモ和了りした。

 しかも、表ドラ、赤牌、裏ドラ、槓裏が各一枚の計ドラ4となり、

「リーチ一発ツモタンヤオドラ4。4100、8100!」

 タンヤオドラ2の手が倍満に化けることとなった。

 

 これで大将後半戦の点数と順位は、

 1位:鳴海 149900

 2位:和 98900

 3位:湧 85600

 4位:穏乃 65600

 

 そして、大将前後半戦トータルでは、

 1位:鳴海 237400

 2位:和 198500

 3位:穏乃 197800

 4位:湧 166300

 鳴海が2位の和に38900点、3位の穏乃に39600点差をつけ、未だ余裕で1位の座についていた。

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