たった1100点差だが、和が首位に立ち、白糸台高校控室では光をはじめ、淡、みかん、麻里香の士気が上がっていた。
いよいよ念願の打倒阿知賀女子学院を達成できるところまで来たのだ。
これで大将戦を制すれば春夏二連覇。春季大会での優勝もタナボタではないと言い切れるようになる。
この時、対局室では、和が電光掲示板を見ていた。
「(相手は穏乃です。まだ何をしでかすか分かりません。それに、穏乃の親が残っています。ここは、まだ稼ぎます!)」
まだ勝利を確信できない状態にある。
しかし、逆転できたことに、一瞬だが和はホッとした部分があった。
それで僅かに気が緩んだからだろうか?
「ピシッ!」
和の能力で造り出された巨大モニターにヒビが入ったかと思うと、業火に包まれて一瞬にして消え去った。
その業火の発生源………穏乃は、非常に気の入った顔をしていた。逆転されて最後のスイッチが入ったと言ったところだろう。
インターハイ団体決勝戦、大将後半戦は、南三局二本場に突入した。
和の連荘。ドラは{2}。
再び卓上に靄が発生した。そして、それは瞬く間に濃霧と化し、1メートル先ですら見えないような状態となった。
深い山の奥だ。
そんな中でも、和は自身に降りかかる能力分だけはキャンセルできる。当然、彼女だけは濃霧を感じない。普通に対局を進めることは可能だ。
山は穏乃に完全に支配されている。
配牌は悪いしツモも悪い。
それでも和は確率論に従って最善の手を打つ。決め打ちをせずに、手の広がりを第一に考えて捨て牌を選択するのだ。
とは言え、噛み合う牌が来なくては話にならない。
和ほどの選手でも、今の穏乃が相手では、チュンチャン牌しかない状態のところにオタ風牌しかツモれない状態に等しい。
ならば、鳴いて手を進めたいところだが、湧からも鳴海からも鳴ける牌が出てこない。最悪の状態だ。
そう言った中で、穏乃だけが手を進め、
「ポン!」
湧が捨てた{②}を鳴いて聴牌した。これは、恭子直伝の早和了りだ。
そして、鳴いた次巡で、
「タンヤオのみ。300、500の一本場は500、700。」
クイタン………完全なクズ手だが、穏乃は確実に和了りを決め、和の親を蹴ると同時に再び前後半戦トータルで逆転して首位に立った。
オーラス、穏乃の親。
現在の大将前後半戦トータルでは、
1位:穏乃 233300
2位:和 232000
3位:鳴海 195200
4位:湧 139500
穏乃と和の点差は1300点。
それこそ和は、『鳴海か湧からの1000点直取り以外』の和了りを決めれば、再び逆転できる状態にある。
完全に和と穏乃のスピード勝負だ。
さすがに鳴海も、春季大会の敬子のようなマネはしない。狙うは役満ツモ和了りの大逆転のみ。
湧の逆転条件はトリプル役満ツモ、もしくはクァドラプル役満の直取りである。
さすがに、これは実質不可能だ。なので、湧は和了らず振り込まずに徹底するしかないだろう。
和の世界が崩れ、ここでも穏乃の能力が繰り広げる深山幽谷の世界。
しかも、最後のインターハイの最後の半荘のオーラス。これまでにない穏乃の支配力が場を襲っていた。
他家の能力に干渉されないはずの和でさえ、卓上にかかる濃霧が見えていた。
「(こんなオカルト………。しかし、見えている以上、認めなければなりません。これが大星さんの言っていた穏乃の能力ですね。)」
相変わらず配牌もツモも悪い。女子高生雀士の中で牌効率最高とされる和ですら、全然手を進められないでいる。
そんな状態を他家には課しながら、
「ポン!」
穏乃は、和が捨てた{白}を鳴いた。これで和了り役をゲット。
そして、その二巡後、
「ツモ。白のみ。500オール。」
最後の和了りを穏乃が決めた。これも恭子に鍛えられた早和了りによる成果である。
これで大将後半戦の点数と順位は、
1位:和 131900
2位:鳴海 107200
3位:穏乃 102600
4位:湧 58300
そして、大将前後半戦トータルでは、
1位:穏乃 234800
2位:和 231500
3位:鳴海 194700
4位:湧 139000
穏乃は、電光掲示板に示された前後半戦トータルの点数を確認すると、
「これで和了りやめにします。」
連荘拒否を宣言した。
これで、阿知賀女子学院が二つ目の勝ち星を取り、二連続インターハイ団体戦優勝を決めた。
白糸台高校、永水女子高校、綺亜羅高校は、それぞれ勝ち星一のため、2位から4位の順位は先鋒から大将までの総合得点で決められる。
総合得点は以下のとおりとなった。
1位:阿知賀女子学院 1118800
2位:綺亜羅高校 999900
3位:白糸台高校 970400
4位:永水女子高校 910900
よって、準優勝は総合力ナンバーワンと言われた綺亜羅高校となり、白糸台高校は3位、永水女子高校は4位に決まった。
先鋒戦は白糸台高校の第二エース大星淡が、中堅戦は永水女子高校の第二エース石戸明星が、副将戦は綺亜羅高校の第二エース的井美和が、大将戦は阿知賀女子学院の第二エース高鴨穏乃がそれぞれ勝ち星をあげた。
各校第二エース全員が、自分に課せられたノルマを果たしたと言える。
そして、注目の一戦となった次鋒戦………エース対決は、日本の守護神、阿知賀女子学院の宮永咲が勝利した。まさに、エース対決の結果が優勝を決めたと言えよう。
決勝戦参加選手全員が対局室に入場してきた。
これより表彰式が開催される。
永水女子高校各選手には4位の賞状が授与され、3位の白糸台高校各選手の首には銅メダルがかけられた。
2位の綺亜羅高校各選手の首には銀メダルが、そして、優勝校である阿知賀女子学院各選手の首には金メダルがかけられた。
優秀選手には、白糸台高校の宮永光、綺亜羅高校の稲輪敬子、永水女子高校の神代蒔乃の三人が選ばれた。
最優秀選手には宮永咲が選ばれた。これは、文句なしの受賞であろう。
続いて特別賞が順次授与されていった。
先ず片岡賞。これは、天和を和了った選手に授与される賞として、今回より始まった賞である。
その第一回目の受賞者は、本賞の名称の由来となった臨海女子高校の片岡優希に贈られることになった。
続いて宮永賞。これは、最も出現確率が低いとされる四槓子を和了った選手に贈られる賞として今回より始まった。
その第一回目の受賞者は、本賞の名称の由来となった咲に授与されることになった。
次に複合役満賞。これは、その名のとおりダブル役満以上を和了った選手が対象となる。
今回は、準決勝戦で天和緑一色を和了った優希、二回戦で大三元字一色四暗刻四槓子を和了った咲、そして準決勝戦で大三元字一色四暗刻を和了った永水女子高校の滝見春の三人に贈られた。
次に審査員特別賞がいくつか用意された。
一つ目は、『全ての和了りが役満 or ローカル役満』だったABブロック準決勝の次鋒戦選手四人、咲、優希、蒔乃、そして千里山女子高校のフレデリカに贈られた。
二つ目は、決勝戦の先鋒戦、中堅戦、副将戦、大将戦で勝ち星を取った各チームの第二エース、淡、明星、美和、穏乃に贈られた。
三つ目は、その美貌から場内場外問わず大きく沸かせた白糸台高校の佐々野みかんに送られた………のだが、これは審査員のクソジジイ達が『みかんジュース事件』を記念して贈ったらしい。名誉だか不名誉だか良く分からない。
表彰式の最中、鳴海は一つだけ後悔していた。敬子の真の力のことだ。
もし、敬子の人魚パワーを正しく理解していたら、決勝戦の勝敗は違っていたかもしれないのだ。
鳴海自身は、人魚パワーを貰ったにも拘らず勝てなかった。やはり、相手は深山幽谷の化身と呼ばれるだけはある。
しかし、美誇人と静香は別である。
少なくとも、美誇人は淡を捉えることには成功していた。
桃子のステルスにヤラれた感じではあるが、これが絶好調であれば桃子への振り込みは無かったかもしれない。
そうなれば、先鋒戦は美誇人が取っていたかもしれない。
中堅戦だって静香が絶好調であれば、最後の逆転手を和了って、勝ち星は綺亜羅高校が取っていたかもしれないのだ。
敬子の真の力を知ったのが大将戦の後半戦に入ってからだったことが、非常に悔しくてならない。チームとしてベストを尽くせたとは言い難いからだ。
綺亜羅高校としては、悔いの残る大会となった。
しかし、この力は個人戦で使うことにしたい。それで、極力上位者を綺亜羅高校の選手で埋めるつもりだ。
…
…
…
一日置いて、翌々日より個人戦がスタートした。
参加者は、各都道府県代表選手。総勢250人を越える。
ただし、留学生の参加は認められない。これは、昨年、一昨年と同じである。
各都道府県の参加人数だが、殆どの地区で3~4名枠である。
ただ、実績と人口を加味して枠を増やしている地区もそれ相当にある。例えば、人口が少ない割りに実績が高い地区としては、奈良県の5名、鹿児島県の5名があり、人口が多いために枠を増やしている地区としては西東京の10名、東東京の10名、埼玉県の10名、北大阪の10名、南大阪の10名などがある。
昨年同様に、初日はスイスドロー形式で25000点持ち30000点返し、オカありウマなしで半荘全十回戦が行われる。
四回戦が終了した時点で人数を上位128人に絞り、六回戦が終わった段階で人数を上位64人に絞る。
そして、十回戦終了時点での上位16名が決勝トーナメントに進出する。
ルールは赤牌四枚入り、大明槓による責任払いあり、包あり、トビありと、基本的には団体戦と同じルールだが、個人戦の場合は持ち点が25000点のためダブル役満以上は無しとなっていた。
ダブル役満を和了ろうがトリプル役満を和了ろうが、役満以上は全てシングル役満として扱う。
この辺も昨年と全く同じである。
また、今年も昨年同様に決勝卓のみ西入無しになっていた。つまり、全員が25000点のままオーラスを終えても対局終了となる。
どうやら、運営側が昨年の決勝戦………あの奇蹟をもう一度見たいと思っていた部分もあるようだ。
ただ、咲が同じネタを使うとは思えないが………。
それから、強者同士が潰し合わないようにAIが上手に対戦表を作っていた。そのため、咲は予選で光、蒔乃、淡、敬子と言った魔物仲間とは当らなかった。
同様に、同校同士の潰し合いも基本的に回避された。
予選の結果、決勝トーナメント出場者は、以下の16名に決まった。
1位:宮永咲(阿知賀女子学院)
2位:宮永光(白糸台高校)
3位:大星淡(白糸台高校)
4位:稲輪敬子(綺亜羅高校)
5位:的井美和(綺亜羅高校)
6位:石見神楽(粕渕高校)
7位:石戸明星(永水女子高校)
8位:神代蒔乃(永水女子高校)
9位:高鴨穏乃(阿知賀女子学院)
10位:原村和(白糸台高校)
11位:竜崎鳴海(綺亜羅高校)
12位:鬼島美誇人(綺亜羅高校)
13位:鷲尾静香(綺亜羅高校)
14位:園田栄子(風越女子高校)
15位:椋真尋(千里山女子高校)
16位:夢乃マホ(千里山女子高校)
ちなみに、咲は全試合で+141をあげ、脅威の計+1410と、以後、現行ルールでは誰にも破られることは無いであろう大記録を樹立した。
綺亜羅高校のメンバーは、嫌がる敬子とムリヤリ、マジキスすることで人魚パワーを手に入れ、無事レギュラー5人全員がベスト16に入った。
春季大会個人戦と順位が大差無いようにも思われるが、そうではない。
本大会では、春季大会で個人戦を辞退した敬子、春季大会時点では日本にいなかったドイツチームのメンバー栄子が参戦している。
また、1年生の蒔乃、真尋、マホと言った新たな化物達もいる。
普通なら順位が下がってもおかしくないところでの順位維持である。確実に人魚パワーの効果が出ていると言えよう。
決勝トーナメントの対戦表は、シードの振り分け方に従って作成された。つまり、上記順位を、そのままトーナメント表に割り当てることになる。
その結果、対戦表は以下の通りになった。
A卓:宮永咲、神代蒔乃、高鴨穏乃、夢乃マホ
B卓:稲輪敬子、的井美和、鬼島美誇人、鷲尾静香
C卓:大星淡、石見神楽、竜崎鳴海、園田栄子
D卓:宮永光、石戸明星、原村和、椋真尋
また、惜しくも本戦出場できなかった選手は以下の通りとなった。
17位:東横桃子(永水女子高校)
18位:南浦数絵(臨海女子高校)
19位:茂木紅音(綺亜羅高校)
20位:宇野沢美由紀(阿知賀女子学院)
21位:新子憧(阿知賀女子学院)
22位:真屋由暉子(有珠山高校)
23位:片岡優希(臨海女子高校)
24位:十曽湧(永水女子高校)
25位:佐々野みかん(白糸台高校)
26位:多治比麻里香(白糸台高校)
27位:美入人美(姫松高校)
28位:小走ゆい(阿知賀女子学院)
29位:堂島喜美子(綺亜羅高校)
30位:及川奈緒(綺亜羅高校)
31位:美入麗佳(姫松高校)
32位:友清朱里(新道寺女子高校)
33位:対木もこ(覚王山高校)
34位:二条泉(千里山女子高校)
35位:寺崎弥生(射水総合高校)
埼玉県の全国個人戦出場枠10名中8名は綺亜羅高校が占めており、大体戦レギュラー以外の3人(茂木紅音、堂島喜美子、及川奈緒)も30位以内に入っていた。恐るべき快挙であろう。
決勝トーナメントは、翌日の朝より行われる。
一回戦及び準決勝戦は、半荘1回のみの戦いになる。
各対局、二名勝ち抜けとなり、準決勝戦は、AB卓各上位二名と、CD卓各上位二名で、それぞれ行われる。
そして、決勝戦は、各準決勝卓の上位二名の計四名によって行われることになる。決勝戦だけは半連荘二回の勝負となる。
なお、決勝戦開始前に、各準決勝卓の下位二名の計四名で5位決定戦が行われる。
一方、AB卓各下位二名と、CD卓各下位二名の対局も行われ、それぞれの卓の上位二名の計四名で9位決定戦が、それぞれの卓の下位二名の計四名で13位決定戦が行われることになる。
9位決定戦と13位決定戦は、5位決定戦と同時開催となる。
…
…
…
翌日朝、決勝トーナメントが開始された。
A卓は咲、蒔乃、穏乃、マホの魔物&魔物候補生対決。
場決めがされ、起家がマホ、南家が穏乃、西家が咲、北家が蒔乃に決まった。
ただ、蒔乃の雰囲気から、どうやら最強神は降りてきていない感じだ。
昨日の予選も蒔乃に降りていたのは二番目に強い神様であり、恐らく今回の相手は、雰囲気からして三番目に強い軍神のようだ。
団体戦の準決勝戦と決勝戦で、最強神は満足されてしまったのだろうか?
そんな状態だが………、咲&穏乃の3年生二人と、蒔乃&マホの1年生二人の対決がスタートする。