咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百七十二本場:阿知賀vs綺亜羅(個人戦)決着

 個人戦準決勝第一試合は東四局に突入した。

 親は穏乃。

 卓上にかかる靄が、一気に濃くなって行く。団体戦の時と同じだ。最後のインターハイ故のパワーアップなのだろう。

 もはや靄と呼ぶのは相応しくない。完全に濃霧だ。

 しかし、敬子には、この濃霧が見えていない。

 相手の能力が効かない。それが敬子のKY麻雀なのだ。

 

 敬子と穏乃のスピード勝負となった。

 幸い、咲の支配力………と言うか強制力が低下しているように感じる。ここが二人にとって勝負どころであろう。

 

 敬子は、毎度の如く、

 {東南西北白發}

 と捨てて行く。

 デジタル打ちの一般論など関係ない。飽くまでもマイスタイル。それによってマイペースを保つ。

 すると、それに応えるかの如く、何故か欲しいところが順次ツモれるようだ。勿論、これは、敬子に限っての話だが………。

 

 既に穏乃のツモは七巡目に入っている。

 どうやら聴牌したらしい。穏乃の背後にチラチラと炎が見え隠れしている。

 

 同巡、敬子も聴牌。

 しかし、ツモの順番は穏乃が先だ。

「ツモ。2000オール。」

 ツモタンヤオドラ1の手。

 聴牌即で穏乃が和了り牌を掴み取った。

 

 これで点数と順位は、

 1位:咲 36700

 2位:穏乃 28500

 3位:敬子 25300

 4位:美和 9500

 穏乃が2位を奪い返した。

 

 東四局一本場。穏乃の連荘。ドラは{9}。

 美和には、シンと静まり返った寂しい雰囲気が感じられていた。

 これが深山幽谷の化身と恐れられる穏乃が作り出す独特の空間。まるで濃霧に覆われた山の中に一人置き去りにされたような感覚だ。

 

 しかし、これを屁とも思わない輩がいる。

 厳密には、この独特の空間に迷い込まない人魚の化身。2位の座を奪われたら、今度は自らの手で奪い返す。その気迫に満ちている。

 

 敬子の配牌は、

 {一三五八②8東南西北白發中}

 

 これが、七巡後、

 {一二三四五六七八②②78中}  ツモ{九}

 

 全くのムダツモ無しで聴牌した。しかも、これで一気通関が確定している。まるで敬子のマイペース打ちに場が答えてくれているようだ。

 

 ただ、待ちは{69}のドラ筋&ドラ。

 ただでさえ、他家から出難い待ち牌だ。下手にリーチをかければ、余計出てこなくなるだろう。

 故にダマで待つ。

 当然、{中}切りで聴牌。

 一方の穏乃は、まだ一向聴のようだ。

 

 次巡、穏乃は聴牌ならず、敬子も和了れず。

 しかし、そのさらに次巡、

「ツモ平和一通ドラ1。2100、4100!」

 敬子が高目の{9}をツモって和了りを決めた。

 

 これで点数と順位は、

 1位:咲 34600

 2位:敬子 33600

 3位:穏乃 24400

 4位:美和 7400

 再び敬子が2位に返り咲いた。しかも、首位の咲と1000点差である。当然、敬子は今まで以上に気合が入る。

 

 

 南入した。

 南一局、美和の親。

 ただ、気合が入ったのは敬子だけでは無い。穏乃も2位奪還に向けて今まで以上に燃えている。

 そして、とうとう穏乃の背後に火焔がはっきりと見え始めた。これには美和も驚きの色が隠せない。

「(やっぱり、マジで見ると怖いわ…。)」

 能力者の美和は、モニター越しでも穏乃の火焔を感じ取ることが出来る。しかし、穏乃の火焔を直接見たのは今回が初めてである。

 春季大会でも、美和は一度も穏乃と当たっていないし、このインターハイでも、これが穏乃との初対戦である。

 

 しかも、穏乃の支配力が上がったためか、より一層、配牌は酷いしツモも輪をかけて噛み合わない。

 これが山支配なのだろう。対戦者にとっては最悪である。

 

 ところが、これを無効化する人魚の化身は、配牌こそ、

 {一四五八②⑤⑧39東南西白}

 本当に最悪の六向聴だったが、絶好のツモを繰り返し、たった五巡で七対子の一向聴まで辿り着いた。

「(今回も和了る!)」

 敬子が気迫に満ちた顔で六巡目の牌をツモった。

 今や五千人に一人の美女と言われる敬子の顔が、観戦室の巨大モニターにアップで映された。多くの男性観戦者が釘付けになる。

 

 敬子の手は、これで聴牌。

 完全にムダヅモ無しで最短距離を突き進む。これが能力者の麻雀である。まるで、豪運の静香の手を見ているようだ。

 しかし、

「ツモ。」

 一歩遅かった。

「1300、2600。」

 タンピンツモドラ1の凡手だが、先に穏乃に和了られてしまった。

 

 しかし、点数と順位は、

 1位:咲 33300

 2位:敬子 32300

 3位:穏乃 29600

 4位:美和 4800

 まだ順位は抜かれていない。2700点差だが敬子が2位だ。

 とは言え、まだ南一局が終わったばかりだが、美和の点数が5000点を割った。

 恐らく穏乃と自分で次に和了った方が勝つ。敬子は、そう感じていた。

 

 

 南二局、敬子の親。ドラは{8}。

 ここで和了って一気に穏乃を突き放す。

 敬子の顔は、その気合で満ちていた。

 

 この局、敬子の配牌は、

 {四六七八①④38東南北白發}

 

 今回も六向聴である。穏乃の支配が効かないはずだが、これは、純粋に確率の問題なのだろうか?

 ただ、それでも敬子は最短で手を作って行く。

 しかも今回は、七対子以外に平和手狙いでも六向聴である。前局の六向聴とは、良い意味で雲泥の差がある。

 

 そして、この怪物美少女は最短の六巡で、

 {四[五]六七八①④[⑤]34[5]88}  ツモ{③}

 

 {三六九}の三面聴で、しかも高目がタンピン三色ドラ5の親倍を聴牌した。

 当然、敬子は、ここで{①}を強打した。

 

 しかし、この{①}を、

「カン!」

 今まで沈黙を保ってきた咲が大明槓してきた。

 敬子は、穏乃とのシーソーゲームにばかり気を取られて、{①}が初牌であることをすっかり見落としていたのだ。

 今までの配牌六向聴は、穏乃の一人の支配力だけで行われたものではない。咲の支配力も重なって作られたものであった。

 その最悪な配牌から敬子が最短で手を作り上げ、穏乃と対峙するパターンに落とし込んだのだ。

 これにより、敬子の視界から咲自身が完全に消えてノーマークとされることが、咲の狙いだった。

 

 急に場の空気が変わったのを美和は感じた。

 今まで濃霧に覆われていた空間が一気に晴れ渡ったのだ。

 足元を見て、美和は自分達が雲の上にいることが分かった。これは、森林限界を超えたさらに先。咲が作り出す山頂の景色だ。

 

 嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 続けて咲は、{中}を暗槓してきた。

 そして、次の嶺上牌をツモると、

「もいっこ、カン!」

 さらに、咲は{南}を暗槓し、続く三枚目の嶺上牌をツモると、

「ツモ!」

 そのまま毎度の如く、三連槓からの和了りを宣言した。

 

 開かれた手牌は、

 {一一79}  暗槓{裏南南裏}  暗槓{裏中中裏}  明槓{横①①①①}  ツモ{8}

 

「ダブ南中チャンタ三槓子嶺上開花ドラ1。16000です。」

 まさかの倍満責任払い。しかも、敬子が二枚持っているドラの{8}での和了り。さすがの敬子でもメゲるレベルだ。

 これで敬子の点数は一気に16300点まで落ち込んだ。

 

 

 南三局、咲の親。

 この局が開始される前、敬子の歌声は聞こえてこなかった。意気消沈して声すら出せなかったのだ。

 もはや、敬子の顔からは覇気も消えていた。さすがにショックの色は隠せない。

 

 再び場が濃霧で覆われた。ここでは、穏乃の支配が再び場を支配する。

 そして、たった四巡で、

「ツモ。500、1000。」

 穏乃がツモドラ1の手を和了った。

 

 これで、点数と順位は、

 1位:咲 48300

 2位:穏乃 31600

 3位:敬子 15800

 4位:美和 4300

 まだ美和にも三倍満ツモとか役満出和了りとか、一応2位浮上の方法はあるが、そんな高い手を作ることは非現実的である。

 静香じゃあるまいし、美和には不可能だ。

 

 しかし、敬子なら、穏乃から満貫を直取りすれば2位に浮上できる。こっちのほうが、まだ現実味があるだろう。

 敬子は、両頬を両手で叩くと、

「ヨシッ!」

 気合いを入れ直した。

 腑抜けてなんかいられない。これが個人戦決勝進出に向けての最後のチャンスだ。

 

 

 オーラス。穏乃の親。

 卓を覆う濃霧が、本日最高状態になった。

 しかし、敬子には関係ないはず。当然、敬子は我が道を進むつもりで対局に臨む。

 

 相変わらず配牌は最悪である。まるで、淡の絶対安全圏をやられているような感じだ。

 それに加えて、何故かツモが悪い。

 たしかに春季大会では、後半の穏乃の支配力に敬子は押されていた。しかし、この半荘では穏乃の支配を突き破って和了りに向かえていたはず。

 それが、ここに来て思うように手が進まなくなった。

 

 これと同じようなことを直近で経験したのは団体決勝戦の次鋒戦。プラスマイナスゼロの強制力だ。

 ただ、この点数の何処がプラスマイナスゼロなのだろうか?

 いや………、可能性はある。

 敬子は、

「(もしかして、咲ちゃんは自分一人が1000点で、他家三人に8000点ずつ渡した状態で仮想プラマイゼロをやってるんじゃ!?)」

 咲がやろうとしていることに気が付いた。

 

 しかし、時既に遅し。

「カン!」

 とうとう咲のフィニッシュブローが発動し始めていた。

 副露されたのは{①}の暗槓。

 嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 続けて咲は、{西}を暗槓した。

 そして、次の嶺上牌を引くと、

「ツモ!」

 そのまま咲は嶺上開花で和了った。

 

 開かれた手牌は、

 {六七八1234}  暗槓{裏西西裏}  暗槓{裏①①裏}  ツモ{1}

 

「嶺上開花ツモ。90符2翻は、1500、2900です。」

 

 これで、点数と順位は、

 1位:咲 54200

 2位:穏乃 28700

 3位:敬子 14300

 4位:美和 2800

 

 これが、咲の頭の中では、全員に8000点ずつ渡しているので以下のようになる。

 1位:穏乃 36700

 2位:咲 30200

 3位:敬子 22300

 4位:美和 10800

 まさに、清澄高校に当時の部長竹井久に言われてチャレンジした仮想プラスマイナスゼロの達成である。

 

 

 これで、準決勝第一試合の卓からは、咲と穏乃が決勝に進出し、敬子と美和が5位決定戦へと進む。

 王者阿知賀女子学院のエースと第二エースが、綺亜羅高校のエースと第二エースを破った試合であった。

 

 

 一方、準決勝第二試合………C卓上位二名とD卓上位二名………淡、光、和、栄子の対局は、起家が淡、南家が和、西家が栄子、北家が光でスタートした。

 

 栄子は、他家から放たれるオーラから、各選手が自分からどの程度の点数を最大で奪えるかを割り出す。

「(大星さんは、一回戦と変わらず18000点。でも………。)」

 信じられないことだが、光の力量はフレデリカに近い。下手をすれば25000点持ちではトバされるレベルだ。

 

 そして、それ以上に問題なのは和。

 能力麻雀の影響を受けない和の上限値は無い。

 実力的には、和は淡よりも若干劣るとして16000点程度と予測していたのだが、完全な誤算である。

 恐らく和には、衝撃波も飛ばなければ、これまで多くの選手達を苦しめてきた栄子の強制力も働かないだろう。

 このような相手は初めてである。

 

 春季大会までの和なら、間違いなく16000点程度が栄子から奪える上限値となっていただろう。

 しかし、最後のインターハイと言うことで、和もデジタルパワーがオーバーフローしているのだ。それで栄子の能力の壁を無効化してしまっているのだろう。

 

 

 東一局、淡の親。

 当然、絶対安全圏で他家を強制六向聴にする。

 自らの手は二向聴。

 淡は、二巡目で早速、

「ポン!」

 和が捨てた{中}を鳴いた。

 ただ、光は、そう簡単に鳴ける牌を出してくれない。ここは、自力で有効牌をツモるしかない。

 六回目のツモで、ようやく淡は聴牌できたが、もう、次巡は全員が絶対安全圏を越える。

 それに、和から淡が鳴いたため、この巡目では和のツモだけは七回目になる。既に和は絶対安全圏を越えているのだ。

 

 しかし、いくら牌効率が良くても、必ずしも七回のツモで六向聴から和了りまでもって行けるわけではない。余程の運とか………、それこそ能力が必要だろう。

 一先ず、この巡目での和の和了りは無かった。それ以前に、和からは聴牌気配を感じられない。

 

 ここでは絶対安全圏を越えたが、

「ツモ。中ドラ2。2000オール。」

 何とか淡が和了って親の連荘にこぎつけた。

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