咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百七十七本場:サキってば、ズッコイ!

 インターハイ個人決勝前半戦は東一局二本場。

 淡の連荘。ドラは{4}。

 ここで、場に靄がかかってきた。

 団体戦でもそうだったが、最後のインターハイと言うことで穏乃の能力もパワーアップしているのだろう。

「(もう来たの、シズノ?)」

 さすがに淡も、イヤな表情が顔に出た。

 いつもなら早くて東四局から現れてくる穏乃の支配力が、もう卓上を覆っている。

 初美じゃないが、

『ないないっ…! そんなのっ…!』

 と言いたくなる。

 

 淡は、絶対安全圏とダブルリーチの能力を発動した。

 しかし、その力は穏乃の無効化能力によって弱められており、他家を四向聴に落とし込むのが限界になっていた。

 また、淡自身も配牌で聴牌できておらず、一向聴になっていた。

 

 淡の配牌は、

 {三四五五六七⑦⑨1119北中}

 

「(やっぱり、こいつムカつく。でも、私は絶対に諦めない。ここからも、さらに和了って見せる!)」

 それでも、淡は決して勝つ気力を失わない。この逆境を跳ね除けて何とか和了りまで持って行き、さらにリードを広げたい。

 

 先ずは打{北}。

 ところが、

「(なにこれ?)」

 何故か、その後、淡には、

 {南西白発①}

 と不要なヤオチュウ牌が連続で来るだけで、六巡目を迎えても、『まったくもって』聴牌することができなかった。

 

 八巡目になって、漸く淡は役無しだが聴牌できた。

 淡の手は、

 {三四五五六七⑤⑦⑨1119}  ツモ{9}

 

 しかし、そこで切った{⑨}で、

「ロン。平和三色ドラ3。12300!」

 

 開かれた穏乃の手牌は、

 {四五六九九④[⑤]⑥⑦⑧4[5]6}  ロン{⑨}  ドラ{4}

 

 {③⑥⑨}の三面聴で、高目への振り込みだった。

 これは、淡にとって非常に痛い一撃となった。

 

 

 東二局、穏乃の親。ドラは{⑥}。

 既に卓上は濃霧で覆われ、場はシンと静まり返っている。完全に深山幽谷の世界。穏乃の能力が卓上を支配している。

 淡のダブルリーチの能力は、前局同様にキャンセルされた。

 当然、絶対安全圏も崩れている。

 

 ところが、六巡目に、急に濃霧が卓上から消えた。強大な力で濃霧が足元付近まで引き下げられたのだ

 まさにこれは、雲の上の世界。

 森林限界の遥か上、標高3000メートルを超えた世界だ。

『頭を雲の上に出し』

 とは良く言ったものだ。

 

 しかし、こんな場所にも好んで生息する多年草………高山植物は存在する。特に冷涼多湿の環境に適応したモノ達だ。

 勿論、それらも立派に花を咲かせる。むしろ、高山植物の方が綺麗な花を咲かせる品種が多いかもしれない。

 

 そして、それらの花を代弁するが如く、

「カン!」

 咲は{南}を暗槓すると、

「ツモ!」

 当たり前のように嶺上開花を決めた。完全に狙って和了った雰囲気が、アリアリと感じられる。

 

 開かれた手牌は、

 {一二三①①①⑧⑧57}  暗槓{裏南南裏}  ツモ{6}  ドラ{⑥}  槓ドラ{9}

 

「ツモ南嶺上開花。70符3翻は、2000、4000!」

 しかも符ハネで満貫である。

 これで咲は原点に復帰した。

 

 

 東三局、咲の親。

 再び濃霧が卓上を覆った。配牌時に、穏乃の能力が全開にされている。

 これでは絶対安全圏は機能しないしダブルリーチの能力も殺される。淡にとっては踏んだり蹴ったりの状態だ。

 

 ところが、配牌の後、数巡が過ぎると、前局のように濃霧が足元付近まで引き下げられた。つまり卓は山頂の景色に変わり、穏乃の能力支配は失われていた。

 こんなことができるのは咲しかいない。

 つまり、今は咲が場を支配していると言えるだろう。

 

「(もしかして、これ?)」

 淡は、敢えて咲が配牌時を穏乃に支配させていることに気が付いた。つまり、咲は穏乃を使って淡の絶対安全圏とダブルリーチを防がせているのだ。

 その後に、咲は自分の能力で場を支配する作戦に出ているに違いない。

 なんて腹黒いヤツだ!

 思わず淡は、

「(サキってば、ズッコイ!)」

 と心の中で声を漏らした。

 しかし、これも作戦のうちである。

 

 咲は、他家の能力を上手に利用する。

 その際に、正の干渉をして相手の能力を強めたり、負の干渉をして相手の能力を抑えたりもする。

 本当に器用な打ち手だ。

 

 そして、この瞬間は、穏乃の支配を自らの能力で押さえつけ、

「カン!」

 咲は自分の麻雀を展開する。

 副露されたのは{西}の暗槓。

 そして、当然の如く、

「ツモ!」

 嶺上開花で咲は和了った。

 普通では有り得ない二連続嶺上開花である。確率的には非常にレアな現象であろう。

 そもそも嶺上開花自体が、出やすい役満よりも出現率が低いとされているのだ。常人では二連続嶺上開花など100%有り得ないと言えよう。

 もっとも、これが日常茶飯事だからこそ、咲は人々に『嶺の上の女王』とか『奇蹟の闘牌』と呼ばれるのだ。

 

 開かれた手牌は、

 {二三四五五④④⑤⑥⑥}  暗槓{裏西西裏}  ツモ{[⑤]}  ドラ{8}  槓ドラ{南}

 

「ツモ一盃口嶺上開花赤1。4000オール!」

 しかも親満。

 これで咲は淡を抜いてトップに立った。

 

 東三局一本場、咲の連荘。

 現在の順位と得点は、

 1位:咲 37100

 2位:淡 30400

 3位:穏乃 21400

 4位:光 11100

 光が、まさかのヤキトリで最下位。

 

 しかし、

「(咲の親を流す!)」

 ここで光は気合を入れ直した。

 ただ、すぐさま能力を全開にはしない。

 能力を常に最大放出していたら、途中で息切れして最後まで持たない。力を使うにもタイミングと言うものがある。

 

 配牌時点では、毎度の如く淡が絶対安全圏とダブルリーチの能力を発揮し、これを穏乃の能力が抑止する。

 それによって、淡は配牌聴牌にはならないが、配牌で一向聴から二向聴の、一般人からすれば非常に良い配牌になる。

 また、絶対安全圏は崩されるが、それでも中途半端には効くので、他家は配牌四向聴程度にはなる。

 

 その後、咲の能力が場を支配し、穏乃の山支配は崩れる。

 ここで光は、咲に横槍を入れるかのように、強力な支配力を放出し始めた。

 つまり、咲が穏乃の上前を撥ねる(?)ような作戦に出ているのに習って、光も咲の上前を撥ねてやろうとの魂胆だ。

 それに、咲だって、この面子を相手に始終能力で押さえつけるのは不可能だ。どこかで瞬間的にパワーダウンするはず。

 まさに、それがこの局と光の直感が告げていた。

 

 そして、光は次々と有効牌を引き入れて、

「ツモ。タンピンドラ2。2100、4100!」

 いきなり出和了り役が2翻となったが、満貫手をツモ和了りした。

 一先ず、これで100点差とは言え、光は3位に浮上した。

 

 

 東四局、光の親。

 通常、第一弾の和了りを決めると、光の手は良くなる。

 しかし、穏乃の山支配で弱められているとは言え、淡の絶対安全圏が中途半端に効いている状態では、いきなり二向聴以上の好配牌は有り得ないようだ。

 

 今回、光の配牌は、

 {一二三六九⑦⑧135西北白白}

 

 三向聴。

 前局の四向聴よりは少しだけマシになったが、恐らく、この面子では、これ以上の配牌は望めないのだろう。

 

 決め打ちでチャンタを狙うか、それとも西北から切り出してツモの流れに従うかは人によって主張が異なると思う。

 ただ、光は翻数上昇の縛りがある。

 なので、白チャンタを狙うしか無い。

 ここから迷わず打{六}。

 

 光が第一打牌を切った直後、急激に咲の支配力が上がって行った。そのパワーは、前局を遥かに凌ぐ。

 もしかして、ここでの和了り………つまり、光の連荘潰しを想定して、咲は力を溜めていたのだろうか?

 

 光は、最初の二回のツモで、

 ツモ{2}、打{5}。

 ツモ{白}、打{北}。

 と連続で有効牌を引いた。

 

 この段階で光の手牌は、

 {一二三九⑦⑧123西白白白}

 の一向聴。

 

 ところが、この光が捨てた{北}を、

「ポン!」

 咲が鳴くと、流れが崩されたためか、次のツモから光は最後のピース………{⑨}が来なくなった。

 第一弾の和了を決めたにも拘らず、光の手は、一向聴まで進めたところで止まってしまったのだ。

 

 普段であれば、すぐさま{⑨}を引いて白チャンタを聴牌し、{九}または{西}で待つところだが、何故か今回は、そうならない。

 完全に咲の支配力によって、手の動きが抑止されてしまっているようだ。

 

 その三巡後、光は{中}をツモ切り。

 すると、これを、

「ポン!」

 またもや咲に鳴かれた。

 これにより、本来であれば、その次巡で光にくるはずの{⑨}が咲に回った。

 そして、

「カン!」

 咲は、{⑨}を暗槓すると、

「ツモ!」

 またもや嶺上開花で和了った。

 

 まさに、この和了りは、光の手とは紙一重の差であった。

 もし、一巡前に光が切ったのが{中}ではなく{西}であれば、状況は全然違っていたかもしれないのだ。

 そのことを光は、咲の手牌を見て知らされた。

 

 開かれた咲の手牌は、

 {九九九①}  暗槓{裏⑨⑨裏}  ポン{中中横中}  ポン{北北横北}  ツモ{①}

 

「中北混老対々嶺上開花。3000、6000!」

 ハネ満ツモだ。

 

 光が先に{西}を切っていたら咲は鳴けなかった。そして、光は{⑨}をツモって聴牌できたはずだ。

 その後に光が{中}を切った場合、恐らく咲は鳴いて{①}単騎で聴牌。{九}を切ったなら咲は大明槓を仕掛けて嶺上牌の{①}を引き、{①}と{中}のシャボ待ちで聴牌しただろう。

 そこから先は、光と咲の、どちらが和了り牌を掴むかのめくり合いの勝負になる。当然、ツモ次第では光に軍配が上がったかもしれない。

 全ては{中}のツモ切りが、この局の敗因だ。

 悔やまれる選択ミスである。

 

 これで、順位と得点は、

 1位:咲 45000

 2位:淡 25300

 3位:穏乃 20300

 4位:光 12400

 

 プラスマイナスゼロのオーラを出していた割には、咲の点数が高い。

 これを見て光は、

「(全員に8000点ずつ配った状態………。これって、咲だけ1000点で他家は全員33000点スタートの仮想プラマイゼロか!?)」

 咲のやろうとしていることを100%理解した。

 この方法は、以前、和から聞いたヤツだ。

 その発案者は、咲が1年生の時、当時の清澄高校麻雀部部長にて学生議会長だった竹井久。狡猾な策士だ。

 

 もし、このパターンでの仮想プラスマイナスゼロが達成されると、咲の得点は54000点前後となる。

 余程のことがなければトップ確実の点数だ。

 本当にイヤな戦略を咲に教え込んでくれたものだ。

 

 ただ、それで行くと、咲の脳内では東一局で箱割れしていることになる。恐らく、咲自身はトビ無しルールのつもりで打っているのかも知れない。

 

 

 南入した。

 南一局、親は淡。

 淡は、東一局以降、全然和了れていない。

 やはり、一番の問題は穏乃との相性の悪さだろう。しかも、よりによって、その穏乃を咲が利用して来ている。

 

 穏乃としても、利用されるだけでは癪だろう。

 かと言って、淡の絶対安全圏やダブルリーチの能力をキャンセルしなければ、淡が暴れてしまうかも知れない。

 それはそれで困る。

 なので、穏乃としても咲に利用されざるを得ない部分はあるのだろう。

 

 今回も淡の配牌は二向聴。

 これならダブルリーチの能力を使っても使わなくても一緒だ。

 

 淡以外は三から四向聴。

 これだと、絶対安全圏が中途半端に効いているのか、完全にキャンセルされているのか微妙なところに思える。

 

 ただ、この局では、前局とは違って卓上にかかった濃霧の位置が変わることなく、ずっと卓上を覆っていた。

 もしかして、咲は前局で能力を強く放出したため、ここでは支配力が落ちているのか?

 ただ、そうなると穏乃の力と光の力が場の支配を巡って拮抗する。

 淡も何とかしたいのだが、穏乃と光の力に押さえつけられて、自分本来の力を発揮できていない。

 

 穏乃の背後に火焔が見えた。

 とうとう、穏乃のパワーが最高潮に達したようだ。

 しかし、光のパワーで押されていたためであろうか?

「ツモ!」

 穏乃が競り勝って和了ったのだが、

「1000、2000。」

 然程、点数は高くなかった。

 親の淡としては、正直ホッとした。これで淡は原点を割ったが23300点である。大きなマイナスではない。

 

 一方の光は、

「(ここから何とか巻き返さないと…。)」

 両手で了頬を叩いて気合を入れ直した。

 東一局一本場で淡に親満級の手をツモ和了りされて以降、光は、ずっと20000点を割ったままである。

 しかも、東三局一本場で、一度は3位に浮上したが、それ以外はずっと最下位なのだ。

 

『ここから連続で和了って、今度こそ咲に勝つ!』

 光は、心の中で大声を張り上げながら、そう自分に言い聞かせた。

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