咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百七十九本場:調整?

 インターハイ個人決勝後半戦は東二局に入った。

 親は淡。ドラは{③}。

 ここでも絶対安全圏とダブルリーチの能力は健在であった。

 

 しかも淡の配牌は、

 {三三三八九④⑤⑥1678東東}

 

 場風で自風の{東}が頭になっていた。前局と同じで、これが鳴ければ役が付く。

 淡は、ここから打{1}。今回もダブルリーチをかけすに役が付くのを狙う。

 

 三巡目、淡はツモ{③}打{⑥}でドラを一枚確保。

 

 四巡目、対面の光が捨てた{東}を、

「ポン!」

 淡は鳴いた。

 そして、ここから打{八}で{九}単騎待ちの聴牌で受けた。これで、配牌時点での待ちである辺{七}から待ちを変えることに成功した。

 ダブルリーチをかけた場合、淡は最後の角を超えないと和了れない縛りがある。

 それに従うなら、淡は辺{七}で待ち続けると、最後の角を超えないと和了れないことになる。それで待ちを敢えて変えたのだ。

 

 次巡、淡はツモ{[⑤]}、打{⑤}で、さらにドラを手に入れた。

 これで淡の手牌は、

 {三三三九③④[⑤]678}  ポン{東横東東}

 

 そして、その二巡後、

「ツモ!」

 淡は待望の{九}を引いてきた。

 ダブ東ドラ2の40符4翻の手。親満だ。

「4000オール!」

 これで、淡は、一気に44900点まで点数を伸ばした。

 

 

 東二局一本場、淡の連荘。ドラは{⑥}。

 ここで卓上に靄がかかってきた。前半戦でもそうだったが、穏乃のスイッチが入るのが早過ぎる。

 しかも前半戦と同じで、いきなり靄のレベルを超えている。一気に濃霧と呼ぶに相応しい状態にまで成長している。

 

 ダブルリーチの能力は、一応、発動していた。配牌で聴牌している。これなら、恐らく絶対安全圏も効いているだろう。

 

 ただ、淡の配牌は、

 {一一一六七八⑧⑨456北北}

 

 前局、前々局とは違って、アタマは役牌ではなかった。それに、チャンタに持って行くにもタンヤオに持って行くにも厳しい状態である。

 ここからリーチ以外で和了り役をどうやって作る?

 しかも、基本的に辺{⑦}から待ちを変えないと和了れないだろう。そう考えると淡にとっては、結構、厳しい配牌だった。

 

 淡の能力は、キャンセルこそされなかったが最高状態からは程遠い状態と言えよう。

 こいつらと卓を囲むと毎回思う。

 それこそ、前半戦でも感じていたことだ。

「(もう忌々しいったらありゃしない!)」

 しかし、そんなことを心の中で叫びつつも、淡の表情は楽しそうだった。

 

 穏乃との相性は最悪だ。宮永照でさえ破れなかった絶対安全圏を、穏乃は世界で唯一、破れる存在である。

 それに加えて、その穏乃の能力を利用し、しかも本人は穏乃の能力を受けないところにいるズッコイ奴もいる。

 自分より強いチームメイト………光も同卓している。

 そんな劣悪な環境の中で淡は勝利を目指す。

 

 正直、この中では自分が一番弱いだろう。

 しかし、自分よりも弱い人間を相手に100連勝するよりも、こいつらを相手に1勝でも挙げられた方がずっと嬉しい。

 それこそ、何万倍なんてオーダーでは無い。嬉しさ無限大である。

 もっと言ってしまえば、こいつらを相手にラスにならないだけでも自分を褒めてあげたいくらいだ。

 

 

 配牌を終えたが、濃霧は一向に晴れる気配がない。前半戦で咲が見せた山頂の風景に変わろうとしない。

 咲も光も本気を出していないのだろうか?

 それとも穏乃の力が瞬間的に咲や光を凌駕しているのだろうか?

 

 絶対安全圏内では、誰がどんなに足掻こうと、他家はツモと鳴きが合計六回ないと聴牌できないはず。

 故に、淡は絶対安全圏内で、さっさと和了りたい。

 しかし、穏乃の山支配が強烈で、淡は今ある聴牌形から別の役無し聴牌形にすら移行することができずにいた。

 せめて{七}や{5}が来てくれれば一盃口を狙ってみようとか思うところだが、来るのは『対子で持っている{北}』以外の字牌のみ。

 なので、淡は、どうにも動きようが無かった。

 

 八巡目、

「カン!」

 咲が{②}を暗槓した。

 これと同時に、卓上が山頂の風景に変わった。辺り一面が晴れ渡っている。

 そして、

「ツモ!」

 お約束どおりである。咲が嶺上開花で和了りを決めた。

 

 開かれた咲の手牌は、

 {二三四⑤⑥⑦⑧34[5]}  暗槓{裏②②裏}  ツモ{[⑤]}  ドラ{⑥}

 五筒開花。

 しかも、赤牌をツモっての和了りであった。

 

 咲は配牌で、

 {二四八②⑤⑧14東南西北白}

 

 ここから一切のムダツモなく、

 {三②②②⑥⑦3[5]}

 を引いて暗槓し、和了りへと持って行ったのだ。

「ツモ嶺上開花タンヤオドラ3! 3100、6100!」

 しかもハネ満である。

 まだ淡がトップであるが、淡と咲の点差は7500点。子の満貫一回で逆転される。

 それどころか、ここで咲に親が回る。

 淡にとっては非常に嫌な展開だ。

 

 

 東三局、咲の親。ドラは{西}。

 ここでも配牌から序盤にかけて卓上に濃霧がかかっている。

 しかも、とうとうここで、淡は第一ツモで聴牌できなくなっていた。

「(ダブリーの能力が崩れたか。だとすると…。)」

 淡は、絶対安全圏も機能していない可能性があると覚悟した。

 つまり、ここからは他家が六巡以内に和了るかも知れない。

 

「カン!」

 咲が六巡目に{8}を暗槓してきた。

 嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 当たり前のように、咲は{八}を暗槓した。

 そして、次の嶺上牌で、

「ツモ!」

 当然のように咲は嶺上開花を決めた。

 

 開かれた咲の手牌は、

 {⑤3345[5]}  暗槓{裏八八裏}  暗槓{裏88裏}  ツモ{[⑤]}

 

 またもや、赤牌での五筒開花だ。

「嶺上開花ツモタンヤオ一盃口ドラドラ。6000オール!」

 しかも親ハネ。

 

 これで現在の点数と順位は、

 1位:咲 49300

 2位:淡 32800

 3位:光 9900

 4位:穏乃 8000

 ここで淡は咲に逆転された。

 

 今回も光は咲からプラスマイナスゼロのオーラを感じていた。

 それでいて、咲の点数が50000点近い。

 だとすると答えは一つ。今回も前半戦と同様に、咲は全員に8000点ずつ配った状態を仮想してのプラスマイナスゼロを目指している。

 

 それともう一つ、光は咲から前半戦よりも強烈な支配を受けているように思えた。

 これは、光、淡、穏乃が咲から均等に受けている感じではない。光に向けて、より多くのオーラが咲から放出されているような気がする。

 それ故だろう。光は殆ど有効牌を引けずにいた。

 たしかにムダツモが多い時もある。

 しかし、ここまで酷いのは光としては滅多に無い。そもそも光自身は麻雀に対して運が強く、ムダツモが少ない方なのだ。

「(いくら咲でも、こんな強烈な支配は今までない。いったい、どうして?)」

 まさか咲が、敬子によって常に絶好調状態でいられるようにしてもらえているとは、さすがの光でも想像できなかった。

 

 東三局一本場、咲の連荘。

 ここでも、淡の絶対安全圏もダブルリーチもキャンセルされた。

 

 ちなみに穏乃は敬子から人魚パワーをもらっていない。憧が止めたからだ。

 いくら雀力が上がるとは言え、自分の目の前で穏乃が他の女性………しかも超絶美少女と直接接触するのは憧としても面白くない。

 それで憧が穏乃に人魚パワーが与えられるのを強く拒んだのだ。

 

 今、穏乃が単独で淡の能力を押さえ込んでいるのか、それとも咲が穏乃の能力に正の干渉を起こしているのかは分からない。

 いずれにせよ、結果的に淡の力は押さえ込まれていた。

 

 卓上には深い霧がかかったままだった。

 深山幽谷の世界。

 静まり返った寂しい雰囲気だ。

 しかも、それを背後から強大なエネルギーを放つ巨大な何かが覗いている。そんな不気味な雰囲気を出している。

 

 一向に晴れ上がる気配は無い。

 もっとも、咲は、ここからいきなり山頂の風景に状況を一変させてしまう力があるので展開は読めないと光は感じていたのだが………。

 しかし、中盤に入ってすぐ、穏乃の背後に火炎が見えた。

 その直後、

「ツモ。」

 穏乃が和了りを宣言した。

「タンピンツモドラ3。3100、6100。」

 それも大きい。ハネ満ツモだ。

 これで穏乃が3位に浮上し、光はダンラスとなった。

 

 

 穏乃の火焔は、非能力者には見ることができない。また、和のようにデジタル化を一種の能力として使う人間にも見えないだろう。

 しかし、能力者は直接対決していなくても感じ取ることができるし、テレビモニターを通じて見ることもできる。

 

 観戦室では、綺亜羅高校の面々が穏乃の火焔を、その目で捕らえていた。

 また、綺亜羅高校メンバーの中に、神楽が混ざっていた。

 神楽は粕渕高校メンバーが陣取っている場所から、一人離れて綺亜羅高校メンバーが陣取っている場所に来ていたのだが、これは言うまでもなく神楽に節子の霊が降りていたからであった。

「やっぱり、ここぞってところで決めてくるよね、高鴨さん。」

 こう言ったのは節子。

「だから、本当は人魚パワーを得た高鴨さんも見たかったんだけどね。残念だな。」

 これは美和の言葉。

 そして、その隣で敬子が、

「でも、いくら私がKYでも、あの新子さんの怖い視線には逆らえないもん。本当に殺されるかと思ったから。」

 と言いながらポップコーンを口いっぱいに頬張っていた。

 この敬子の姿を見て三銃士達は、

「「「(一応、美女ランキング2位なんだから、もっと上品に食べろよ!)」」」

 と思っていた。

 もっとも、自分が美人である自覚が無いのだから仕方が無いのだろうが………。

 

 

 東四局、光の親。ドラは{二}。

 珍しく光が、後半戦では、まだヤキトリ状態である。当然、光からすれば、この親で第一弾の和了りを決めて、そのまま連荘で稼ぎたいところだ。

 しかし、咲の支配力が光に対して強く放たれている。

 三人均等ではない。

 明らかに光の和了りだけは完全に阻止しようとしているのが分かる。

 

 この局では、絶対安全圏とダブルリーチの能力が復活した。咲が穏乃の能力を押さえつけたのだ。

 珍しく卓上には靄がかかっていない。

 しかし、下手にダブルリーチはかけられない。ここには咲がいるからだ。

 ダブルリーチ槓裏4を成立させるためには淡自身が暗槓することになるが、淡は嶺上開花で和了れない。どうしても嶺上牌をツモ切りすることになる。

 ところが、嶺上牌は咲の有効牌または和了り牌である。下手をすれば淡は咲に槓振することになる。

 しかも、今大会は槓振が和了役として認められている。よって、淡が捨てた嶺上牌が咲の和了り牌であれば、役無し聴牌からでも和了られてしまうことになる。

 

 なので、今回も淡は、第一ツモを引いた時点での『役無し聴牌』状態から、『役有り聴牌』の形に移行させるのを狙う。

 基本的にダブルリーチ槓裏4になるはずの手である。ダブルリーチの能力を使った時の淡の配牌には、基本的にドラも赤牌もない。

 

 この局、淡の配牌は、

 {六六六七八九①②345南發}

 

 ここに第一ツモで{發}を引いて聴牌。ここから打{南}。

 次巡、淡はツモ{④}、打{①}。ツモ{⑥}、打{②}と続いた。

 

 ここで咲が{發}を切ってきた。

 淡にとっては、これを鳴けば和了り役がつく。安手確定ではあるが、

「ポン!」

 これを淡が鳴いた。ここから打{九}で嵌{⑤}待ちで聴牌。

 そして、その直後、咲がまさかの打{[⑤]}。赤牌切りである。

 さすがに赤牌は見逃したくない。

 淡は、

「ロン。發ドラ1。2000!」

 これで咲から直取りした。

 

 ただ、これを観戦室で見ていた人達は違和感を覚えていた。咲の手には{[⑤]}以外に切るべき牌………{北}とか、浮いた{⑨}とかがあったのだ。

 何故、先に{[⑤]}を切る必要があるのか?

『まさか差し込み?』

 と多くの人達が思った。

 それと同時に、

『点数調整?』

 と思ったが、何故、ここで2000点放出する必要があるのか、誰にも、その理由が分からなかった。

 

 

 南入した。

 南一局、穏乃の親。ドラは{7}。

 ここでは、三人とも咲の支配力がドンドン上がって行くのを感じていた。

 しかし、今回は絶対安全圏を破られていないし、ダブルリーチの能力も機能していた。

 ここでも淡は、ダブルリーチをかけずに手変わりを目指した。

 しかし、(後半戦の)東二局一本場のように、役あり聴牌に持って行くのが厳しい配牌。ここからの役作りは結構時間がかかりそうだ。

 

 光は、相変わらず咲のオーラを強く受けている。

 そして、穏乃も能力の発動を阻害されている感じを受けていた。

 

 咲の捨て牌は、いきなりドラ。

 いったい何を考えているのか分からない。

 赤牌も出てきた。

 ただ、国士無双を狙っているわけではなさそうだ。ならば染め手か?

 ところが、淡がドラそばを切った直後、

「ロン!」

 咲が和了りを宣言した。

 ただ、開かれた手牌を見て、淡も光も唖然とした。

「七対子。1600。」

 ドラや赤牌を切って七対子のみだとは………。

 前局で2000点を淡に振り込んで、ここで1600点を取り返し、結果的に咲は淡に400点を渡したことになるのだが、まったくもって意味不明だ。

 点数調整の一環であることは想像がつく。しかし、何故、こんなことが必要なのかは、常人には理解できない。

 

 これで現在の点数と順位は、

 1位:咲 42800

 2位:淡 30100

 3位:光 20300

 4位:穏乃 6800

 

 もし、咲が前半戦と同じ54000点を狙うなら、今の点数が42800でも43200でも大差ないように思う。

 どちらのケースでも、12000点を取って1000点捨てれば良いだけだ。

 

 光も淡も穏乃も………、そして、この対局を見ている多くの人達も、その真意を三局後に理解することになる。

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