咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

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百八十本場:真意

 インターハイ個人決勝後半戦は南二局に入った。

 親は淡。ドラは{六}。

 

 当然、淡は絶対安全圏もダブルリーチの能力も発動した。しかし、今回は前局とは違って、両方ともキャンセルされた。

 卓上には深い霧が立ち込めている。

 穏乃の能力が、卓上を完全に支配している証拠だ。

 

 シンと静まり返った寂しい空間。

 深い霧。

 まさしく穏乃が作り出す世界のはずだが、穏乃からすれば、どこかがおかしい雰囲気だ。どうも思うように支配できていない。

 

 どうやら、穏乃自身も手を作るのに苦労しているようだ。ツモが配牌に殆ど噛み合っていない感じだ。

 もっとも、まるっきり噛み合っていない光や淡よりは、多少はマシであるが、これでは早い手も高い手も望めない。

 恐らく、卓自体は穏乃が支配しているが、穏乃のツモに対しては咲の支配力が影響を及ぼしているのだろう。

 こうなると、全員の手が遅くなるし、聴牌できても手は安い。

 それに、和了れる可能性も格段に下がるだろう。最後の一枚を掴ませてもらえない可能性が極めて高い。

 

 

 中盤に入り、光も淡も穏乃から微かに聴牌気配を感じた。しかし、リーチはかけてこない。ダマ聴だ。

 穏乃自身、余りリーチをかける人間ではないが、今回は特に和了れる自信が無い。それで聴牌流局を視野に入れ、敢えて現状を維持していた。

 

 ところが、穏乃が牌を切り出した直後、急に穏乃に圧し掛かる重圧が消えた。咲の支配が溶けたのだ。

 その直後のツモで、

「ツモ。」

 穏乃は和了り牌を引き当て、手牌を開いた。

 

 開かれた手牌は、

 {一一①②②③③⑨⑨2233}  ツモ{①}

 

 どこかで見たことのある和了り形だが………、今回はツモと七対子以外にはドラも何も無い。本当に七対子のみの手をツモ和了りしただけだ。

「800、1600。」

 一応、これで後半戦2位の淡とは5000点差まで詰め寄った。

 優勝を目指すのではなく、単に順位を上げることだけが目的なら、この和了りにも意味はあるかもしれない。

 

 たしかに後半戦だけなら、点数と順位は、

 1位:咲 42000 ⇒ 暫定+33

 2位:淡 28500 ⇒ 暫定-2

 3位:穏乃 23500 ⇒ 暫定-7

 4位:光 6000 ⇒ 暫定-24

 穏乃は、まだ3位である。

 

 ところが、前後半戦トータルでは、

 1位:咲 暫定+78(前半戦+45)

 2位:穏乃 暫定-24(前半戦-17)

 2位:淡 暫定-24(前半戦-22)

 4位:光 暫定-30(前半戦-6)

 淡と穏乃は同点2位になるのだ。

 

 少なくとも、ここからあと二局、穏乃が連続で和了れば、穏乃の逆転優勝は難しくても単独準優勝は取れる。

 しかも、ここから先は、半荘の中で最も穏乃の支配が強くなる場面。阿知賀女子学院のワンツーフィニッシュの可能性が見えてきたと言える。

 

 

 南三局、咲の親番。ドラは{白}。

 ここでも淡の絶対安全圏とダブルリーチの能力はキャンセルされた。淡としては悔しい限りだが、それでも和了りは諦めない。

 淡だって、穏乃と同じで、ここから二連続で和了れば単独準優勝が取れるのだ。

 たしかにそれだと咲には順位負けするが、穏乃と光には勝てる。この面子を相手に準優勝だ。それだけでも大きな成果だ。

 それに、淡は世界大会のメンバーになれることを強く願っていた。

「(団体はベストフォーだし、個人戦も決勝進出できたから、多分、大丈夫だとは思うけど……)」

 

 昨年の世界大会で、淡はブロック決勝戦に次鋒として参戦した。

 しかし、そこでロシアのステラにトップを取るのを邪魔された。

 ステラは南三局とオーラスで、ラス確定の………しかも淡の和了りを邪魔したアタマハネを連続でジョージアのタチアナから安手を和了り、そのせいで淡は、たった200点差でルーマニアのエカテリーナに敗北したのだ。

 あの時は悔しくて涙が出た。

 日本チームに勝ち星を集中させないための作戦とは言え、淡には『まったくもって』納得できない対局になったのだ。

 今年こそは、世界大会で納得できる戦いをしたい。

 ロシアと当たるかは分からないが、もし当たったならば、ステラには目にモノを見せてやりたい。

 そう思っていたのだ。

 

 

 この局では、今まで光を押さえ付けていた咲のパワーが急に減弱した。オーラスに向けて力を溜めに出ているのだろうか?

 しかし、これは光にとって第一弾の和了りを決めるチャンスであった。

 

 光の立場からすれば、ここでツモ和了りすれば咲に親かぶりさせられるし、そのまま自分の親に突入できる。

 前半戦では、第二弾の和了りまで決めて光のラス親に突入したところ、咲に倍満をツモ和了りされた経緯がある。

 当然、今回も咲は、同様にオーラスでの和了りを狙うだろう。自分の優勝………一昨年夏から数えて夏春夏春夏の個人五連覇を決めるために。

 

 当然、光はそれを阻止したい。

 この南三局で和了り、続くラス親で連荘して逆転優勝を狙う。

 簡単に負けるつもりは無いし、これが白糸台高校の宮永光として打倒咲を掲げられる最後のチャンスなのだ。

 やはり最後は、光vs咲の戦いになると言うことか。

 

 光は、指先に力を込めて牌をツモった。自分の能力を最大限に発動し、次々と有効牌を引き入れた。

 配牌三向聴だった手が、たった三巡で聴牌した。

 

 この時の光の手牌は、

 {二三四[五]六②②③④[⑤]678}

 

 {一四七}待ちの三面聴。

 ここから、次巡で{七}を自力で引き当て

「ツモ! タンピンツモドラ2。2000、4000!」

 満貫をツモ和了りした。

 

 これで後半戦の点数と順位は、

 1位:咲 38000 ⇒ 暫定+29

 2位:淡 26200 ⇒ 暫定-4

 3位:穏乃 21500 ⇒ 暫定-9

 4位:光 14000 ⇒ 暫定-16

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:咲 暫定+74(前半戦+45)

 2位:光 暫定-22(前半戦-6)

 3位:穏乃 暫定-26(前半戦-17)

 3位:淡 暫定-26(前半戦-22)

 

 スコアとしてはマイナスだが、光が一応、単独2位に躍り出た。

 しかも、次は光の親番。

 仮にここから、親満ツモ和了りを一回、親ハネツモ和了りを二回達成できれば、後半戦の点数は、

 1位:光 62900 ⇒ +53

 2位:咲 21700 ⇒ -8

 3位:淡 10200 ⇒ -20

 4位:穏乃 5200 ⇒ -25

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:光 +47

 2位:咲 +37

 3位:穏乃 -42

 3位:淡 -42

 

 光が優勝できる。

 当然、親番では力を全て放出して連続和了りを目指す。咲の個人五連覇を絶対に阻止するのだ!

 

 

 オーラス、光の親。ドラは{③}。

 やはり、咲のオーラが今までに無いレベルで膨れ上がった。

 間違いなく、これはプラスマイナスゼロを狙った支配力、いや、強制力を発揮しようとしているのが光には分かる。

 

 ここに来て、淡の絶対安全圏が復活していた。咲の強制力が淡の能力に正の干渉をしたようだ。

 しかし、ダブルリーチの能力はキャンセルされた。

 それどころか、淡自身も六向聴にされていた。淡の配牌に対しては、穏乃の能力に対して咲が正の干渉をしていたのかも知れない。

 

 これで目出度く全員が配牌六向聴。

 

 親の光は、

 {二五八②[⑤]⑧⑨1247白發中}

 ヤオチュウ牌が五枚、その内、字牌が三枚しか来ていないのに最悪の配牌だ。

 ここから打{中}。

 

 穏乃の配牌は、

 {一四八九①⑥⑨1689白發}

 最悪の八種八牌。ただ、字牌は二枚しか来ていない。

 第一ツモは{一}で八種九牌。流すことができない。

 やむなく、ここから打{發}。

 

 淡の配牌は、

 {一三九①④⑦38東西白發中}

 こっちも最悪の八種八牌。ただ、光や穏乃と比べて字牌が多い。

 第一ツモは{東}で八種九牌。穏乃と同様に流すことができない。

 ここから、いっそのこと国士無双での大逆転狙いで打{④}。

 

 咲の配牌は、

 {二四七④⑥258南北白發中}

 第一ツモで引いたのは{南}。

 ここから、いきなり打{8}。

 

 

 ただ、この最悪な配牌にもかかわらず、全員が順調に手を伸ばして行った。

 そして八巡目。

 

 光の手牌は、

 {二三四[五]六②③④[⑤][⑤]234}

 

 高目なら三色がついて倍満だ。

 光には和了り役の翻数上昇が縛りになるため、平和タンヤオのみで和了ることはできない。そのため、ここでは、いきなり倍満を狙うことになる。

 

 穏乃の手牌は、

 {一一一九九九①①①⑨⑨11}

 

 一切のムダツモ無しで、奇蹟の清老頭聴牌まで持っていった。

 ツモ和了りなら四暗刻も付くが、個人戦ではダブル役満なしになっている。

 咲からの出和了りができれば穏乃が優勝である。

 しかし、咲が振り込むとは思えない。なので、穏乃の狙いはツモ和了りになる。

 ただ、これをツモ和了りしても、前後半戦のスコアトータルで咲を追い抜くことはできない。3位に大差をつけた準優勝になる。

 

 一方、淡の手牌は、

 {一九①⑨19東東西西白發中}

 

 国士無双一向聴だった。

 {南}か{北}をツモれば聴牌するのだが、どうしても引き入れることができないでいた。

 ただ、ここで国士無双をツモ和了りできても、穏乃と同様に前後半戦のスコアトータルで咲を追い抜くことはできない。

 飽くまでも3位に大差をつけた単独準優勝になる。

 とは言え、怪物光と相性最悪の穏乃に勝てる。当然、淡の士気は高まっていた。

 

 

 同巡、咲のツモ番。

 この時、咲の手牌は、

 {四四七七七④⑥南南南北北北}  ツモ{北}

 

 ここから咲は、

「カン!」

 自風の{北}を暗槓した。

 この瞬間、淡の国士無双聴牌は儚い夢で終わった。

 

 勿論、淡だけではない。

 この暗槓を副露する強大なエネルギーを感じて、光は、その強制力が回避不能であることを悟り、自ら手牌を伏せた。

 もう、自分のツモ番は無いと理解したのだ。

 

 嶺上牌は{七}。

 当然、咲は、

「もいっこ、カン!」

 {七}を暗槓した。

 続く嶺上牌は{南}。咲は、これを引き入れると、

「もいっこ、カン!」

 三つ目の暗槓を副露し、三枚目の嶺上牌………{⑤}をツモった。

「ツモ。」

 

 開かれた手牌は、

 {四四④⑥}  暗槓{裏南南裏}  暗槓{裏七七裏}  暗槓{裏北北裏}  ツモ{⑤}

 

「ツモ南北三暗刻三槓子嶺上開花。4000、8000です。」

 前半戦に続き、後半戦でも咲は最後に倍満ツモを決めた。やはり、敬子から人魚パワーをもらった咲の強制力には誰も抗うことが許されなかったようだ。

 

 これで後半戦の点数と順位は、

 1位:咲 54000 ⇒ +45

 2位:淡 22500 ⇒ -8

 3位:穏乃 17500 ⇒ -13

 4位:光 6000 ⇒ -24

 

 そして、前後半戦トータルでは、

 1位:咲 +90(前半戦+45)

 2位:穏乃 -30(前半戦-17)

 2位:淡 -30(前半戦-22)

 2位:光 -30(前半戦-6)

 

 咲以外は全員が-30の横並び。つまり、咲が優勝で、他三名は準優勝となった。

 ただ、獲得素点では、

 1位:咲 108000

 2位:穏乃 30800

 2位:淡 30800

 4位:光 30400

 

 穏乃と淡が同着で光が4位となる。

 本来であれば、咲は穏乃と淡と光の獲得素点も同じにしたかったのだが、咲が前後半戦共に54000丁度を目指した以上、他の三人の獲得素点の同点はありえない。

 それで、

『春季は同着優勝だったからイイよね!』

 と、光の獲得素点だけ少し低めに設定したようだ。

 当然、こんな点数調整をされて光と淡がプルプルと震え出したのは言うまでもない。

 

 

 対局室で、表彰式が行われた

 表彰式には、5位から16位の選手達も呼ばれていた。当然、彼女達にも入賞の賞状が授与されることになっている。

 先に5位から16位の選手まで、下位から順に賞状が授与された。5位以下の順位は以下のとおりである。

 

 5位:稲輪敬子(綺亜羅高校)

 6位:的井美和(綺亜羅高校)

 7位:原村和(白糸台高校)

 8位:園田栄子(風越女子高校)

 9位:神代蒔乃(永水女子高校)

 10位:石見神楽(粕渕高校):中味は故 古津節子(元 綺亜羅高校)

 11位:石戸明星(永水女子高校)

 12位:鬼島美誇人(綺亜羅高校)

 13位:鷲尾静香(綺亜羅高校)

 14位:竜崎鳴海(綺亜羅高校)

 15位:椋真尋(千里山女子高校)

 16位:夢乃マホ(千里山女子高校)

 

 

 続いて穏乃と淡と光が表彰された。

 個人戦のメダルは、春季大会の時と同じで金銀銅を一つずつしか用意されていなかったため、一先ず穏乃の首に銀メダルがかけられ、淡にトロフィー、光に賞状が手渡された。

 後日、三人にはメダルとトロフィーと賞状がセットで送付されるとのことだ。

 

 最後に優勝者である咲が表彰された。

 一昨年のインターハイから数えて夏春夏春夏の個人戦五連覇の大偉業である。

 

 

 表彰式の間、光と淡は笑顔を見せながらも身体が小刻みに震え続けていたのは言うまでもない。完全に春季大会個人戦の表彰式と同じである。

 まさか、三人準優勝と言う奇跡を誰かさんが作り出すとは………。

 結局、打倒宮永咲を達成できずに最後のインターハイも終わった。

 

 光は、

「(この恨みは国民麻雀大会で晴らす!)」

 と心の中で大声を張り上げていた。

 

 

 これで、宮永照の高校デビューから始まり、長きに渡って繰り広げられた宮永時代が終結する。もう、宮永時代での各校対決の公式試合は無い。

 残すは、各都道府県対決の国民麻雀大会と、日本チームが一丸となって戦う世界大会を残すのみとなった。

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