咲-Saki- 阿知賀編入   作:いうえおかきく

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百八十七本場:高校最後の世界大会3  時間跳躍(まこの活躍)

 前半戦に続き、後半戦でも、

「プシャ──────!」

 対局終了と同時にアンネが大放出してしまった。

 前半戦と同様に咲の上家に座っていたため、下家ほどではないにせよ咲のオーラを受けやすかったためであろう。結構派手に大放出していた。

 

 これに一歩遅れて、

「シャ──────!」

 ヒルデも放出し始めた。

 前半戦が咲の下家だったため、死を覚悟するレベルの心的障害を植えつけられた部分はあるのだろう。

 それでアンネほど激しくはなかったが、咲のオーラを最も受けにくい対面にいながらも放出を回避できなかったようだ。

 

 

「「あ…有難うございました。」」

 咲と美和は、対局後の挨拶を済ませると、逃げるように対局室から出て行った。

 

 再び換気・清掃作業が入るため、次鋒戦の開始は三十分後程度遅れることになった。開始五分前に改めて控室にスタッフから連絡が行く。

 

 この頃、某ネット掲示板では、

『ミックスジュース! ミックスジュースですわ!』

『きっと芳醇な香りだじぇい!』

『いや、香と言うよりニオイやろ!』

『それも匂いじゃなくて臭いなのよー』

『世界的に高視聴率だと思』

『でも、ちょっとスウェーデンの先鋒達がカワイソウなのです!』

『世界的に凶悪コンビの名が知れ渡ったと思うッス!』

『たしかにあの二人と卓を囲みたくはなか!』

『インターハイ個人準決勝では光ちゃんと人魚姫が同卓だったし!』

『コクマは光ちゃんと棘姫(ドイツ→長野)やったけど、棘姫は耐えられへんかったな』

『耐えられないのが正常で、耐えられるのが異常じゃ!』←まこ

 毎度の如く盛り上がっていた。

 

 ただ、まこが介入してきたため時間軸が飛び、次鋒戦がスタートした。今、時間軸は非常に不安定となり、いつ再び跳躍が入るか分からない状態となった。

 

 

 次鋒戦は、日本チームからは石見神楽と高鴨穏乃のペアが、スウェーデンチームからはランディ(3年生)とシリエ(1年生)のペアが参戦した。

 

 本来、穏乃は大将以外のポジションでは力を発揮し切れない性格である。

 しかし、今回日本のメンバーとして参加する選手達は、咲と美和以外、全員が合宿中に敬子が使った紙コップを通じて間接キスを義務化していた。そのため、全員が絶好調状態にあった。

 それで敢えて穏乃を大将以外のポジションに置き、それでも調子が下がらないかの検証を行うことになった。

 少なくとも、スウェーデンチームを相手に中堅の咲・光ペアと副将の淡・光ペアが負けるとは思えない。大将の和・敬子ペアまで回さずに勝利できると自負している。

 だからこそ、こう言った冒険もできるのだ。

 

 

 場決めがされ、起家が神楽、南家がランディ、西家がシリエ、北家が穏乃に決まった。

 

 東一局、神楽の親。

 神楽は両手を合わせると精神を集中した。

 彼女の髪が激しく逆立った。生霊を降ろしているのだ。

 そして、髪の逆立ちが収まると、神楽は静かに目を開いた。

「では始めます。」

 神楽がサイを回した。

 出た目は7。対面の山が開く。

 

 配牌が終わり、神楽は普通に打{西}。

 その後も、特に高い手を狙わずに確実に和了りだけを目指す。

「ポン!」

 神楽が{中}を鳴いた。

 そして、その数巡後に、

「ツモ。中のみ。500オール。」

 非常に安い手だが、先ず第一弾の和了りを決めた。

 

 東一局一本場も、

「ツモ。600オール。」

 

 東一局二本場も、

「ツモ。700オール。」

 

 東一局三本場も、

「ツモ。800オール。」

 

 東一局四本場も五本場も、

「ツモ。900オール。」

「ツモ。1000オール。」

 神楽はクズ手を和了り続けた。

 これは、椋真尋(椋千尋再従妹)の麻雀だ。今、神楽に降りているのは現千里山女子高校のナンバー2、真尋の生霊だった。

 

 そして、続く東一局六本場。

 急に卓上の空気が変わった。靄がかかり出したのだ。

 既に六局も打っていたからであろう。まだ東一局ではあったが、穏乃の山支配のスイッチが入ったのだ。

 こんなことは、ランディもシリエも経験したことが無い。

 そもそも卓に靄とか霧とかがかかるなんて、普通は有り得ない。

 ところが、山が一歩一歩と深くなるにつれて穏乃の支配はドンドン強力になって行き、それに伴って靄が次第に濃霧へと進化して行く。

 

 妙に視界が悪い。

 それもあって、シリエは穏乃の河を見落としてしまった。

 そして、シリエが切った牌で、

「ロン。7700の六本場は9500。」

 穏乃が和了った。

 平和タンヤオドラ2の満貫級の手だが、芝棒を含めると一万点近い点数になる。この振込みは、シリエとしてもショックであった。

 

 

 東二局、ランディの親。

 ここでも卓上に靄がかかる。

 穏乃の山支配は、後から牌譜を見ても実態を掴むことは難しいだろう。

 恐らく、実際に穏乃と打って、靄や霧を見たり穏乃の支配下に置かれたりして初めて理解できるものである。

 ランディもシリエも、こんなことが起きるなんて想像もできなかった。

 これが日本で一番強い高校の第二エースの力。

 何故、穏乃が深山幽谷の化身と呼ばれるかを、ランディもシリエも始めて理解した。

 

 手が思うように進まないまま、場は終盤に入っていた。

 そして、シリエが不要牌をツモ切りしたとの瞬間だった。

「ロン。7700。」

 またもや穏乃に振込んだ。これで二連続である。

 しかも、今回は穏乃が和了る時に、穏乃の背後に火焔が見えた。既に穏乃はパワー全開になっていた。

 

 その後、穏乃は東三局で、またもやシリエから7700を和了った。

 さらに穏乃は、親でシリエから11600、18000一本付け、18000二本付け、11600三本付け、9600四本付けを和了り………と言うかシリエを徹底して狙い撃ちし、シリエをトバして次鋒前半戦を終了した。

 

 

 一旦休憩に入った。

 と言っても、先鋒戦とは違って清掃作業が入るわけではないし、先鋒戦では前半戦も後半戦も共に、終了後に清掃作業が入ったため、全体的に時間が押している。

 それで、次鋒戦では休憩時間が五分しか与えられなかった。

 特に巨大湖形成とかも心配もない対局であろう。四人とも退室せずに卓に付いてまま目を閉じて休んでいた。

 

 

 対局室にブザーが鳴り響いた。休憩時間が終わったのだ。

 早速、場決めがされ、起家はシリエ、南家が神楽、西家が穏乃、北家がランディに決まった。

 

 東一局、シリエの親。

 ここでいきなり、

「15枚あるのです。チョンボしていまいました。」

 神楽が多牌した。

 多牌は発覚時点でチョンボとなる。開始早々8000点のマイナスで普通なら痛い。

 しかし、今回のチョンボは神楽に降りてきた者が最高の力を発揮するための儀式みたいなもの………。

 この後半戦で、神楽の身体に降りてきたのは夢乃マホの生霊だった。

 

 東一局は、芝棒も増やさずに、やり直しになった。

 本大会では、チョンボの場合は連荘扱いせず、その局自体を最初から仕切り直すルールとなっていた。

 リードしているチームがオーラスでワザとチョンボし、終了させることで勝ち星を手に入れるのを防ぐためである。

 

「リーチ!」

 シリエが先制リーチをかけた。

 すると、

「じゃあ私もぉ~、とおらばぁ~、リーチです!」

 神楽が、まるで狙っていたかのように追っかけリーチをかけた。

 

 そして次巡、シリエがツモ切りした牌で、

「ロン! リーチ一発ドラ2で8000です!」

 神楽はシリエを討ち取った。

 これは、姉帯豊音のコピーである。

 

 

 東二局、神楽の親。

 ここでは、

「捨てる牌がありません。ツモ! 16000オール!」

 優希をコピーした。

 神楽自身も敬子から人魚パワーをもらっていて絶好調………と言うか、生霊のパワーを最大限に引き出せる状況にある。

 それで、インターハイではマホがコピーできなかったレベルの闘牌ができるようになっていた。故の天和である。

 

 しかも、今回は能力のペース配分を考える必要が無い。途中で息切れしても、その後は穏乃が山支配を発動させて何とかしてくれる。

 それもあって、マホの生霊は後先を考えずにフルパワーで行くことにしていた。

 

 東二局一本場では、

「カン! もいっこカンです! もいっこカンです! もいっこカンです! ツモ! 大三元字一色四槓子! 48100オールです!」

 咲のコピーで親のトリプル役満を嶺上開花で和了った。

 

 しかし、さすがに二連続で奇跡的な和了を見せればマホも息切れする。

 東二局二本場では、

「ツモ。2200、4200。」

 ランディに満貫をツモ和了りされ、神楽の親が流された。

 

 

 東三局、穏乃の親。

 ここでは、七巡目に、

「リーチ!」

 ランディが東切りで先制リーチをかけた。

 すると、

「ポンです!」

 これを神楽(マホ)が鳴いた。

 

 続くツモ番で穏乃が切った北を、

「ポン!」

 またもや神楽が鳴いた。

 これは、まぎれもなく薄墨初美のコピーである。

 

 その後、神楽は{西}、{西}、{西}、{南}、{南}と五連続でツモって小四喜を聴牌し、次のツモ番でランディが切った{②}で、

「ロン! 32000です!」

 神楽は役満を直取りした。

 

 これで次鋒前半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(マホ) 321100

 2位:穏乃 35700

 3位:シリエ 28700

 4位:ランディ 14500

 神楽が圧倒的なリードを見せた。前半戦の分も合わせると、もはやスウェーデンチームの逆転は不可能と誰もが思った

 

 

 東四局、ランディの親。

 ここに来て卓上に靄がかかった。穏乃の山支配のスイッチが入ったのだ。

 もう、マホの役割は終わりである。

 あとは、穏乃の邪魔にならないようにシリエやランディに振込まないよう注意すれば良い。これは、神楽の他家の手牌を透視する能力で対応すれば問題ない。

 

 この局は、

「ツモ。1300、2600。」

 穏乃がタンピンツモドラ1の凡庸な手を和了ってランディの親を流した。

 

 

 南入した。

 南一局、シリエの親。

 穏乃の山支配は、前局よりも強力になる。ここから、穏乃の支配力はドンドン強まって行くのだ。

 卓上は、より深い霧がかかった深山幽谷の世界………シンと静まり返った寂しい空間へと変わる。

 

 ランディもシリエも、ツモと手牌と噛み合わない。

 妙に視界も悪い。

 そして、気が付くと、

「ツモ。1300、2600。」

 またもや穏乃に和了られていた。

 

 

 南二局も、

「ツモ。1300、2600。」

 同様に穏乃に和了りを許した。

 

 これで次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(マホ) 315900

 2位:穏乃 51300

 3位:シリエ 23500

 4位:ランディ 9300

 ランディが、とうとう10000点を割った。

 

 

 そして、南三局、穏乃の親番が回ってきた。

 卓上には、さらに深い霧………濃霧に覆われていた。穏乃の支配力が、今日一番の状態になったのだ。

 とにかく、シリエもランディも、勝利を目指すにはムリヤリ複合役満を狙うくらいしかない。当然、無茶をする。

 しかし、中盤に入り、ランディが河を良く見ずに切った牌で、

「ロン。」

 穏乃に和了られた。

 しかも、

「平和一盃口ドラ2。11600。」

 親満級の手だ。

 

 これで次鋒後半戦の点数と順位は、

 1位:神楽(マホ) 315900

 2位:穏乃 62900

 3位:シリエ 23500

 4位:ランディ -2300

 ランディのトビで終了した。

 

 前半戦のチームの合計点は日本チームが305700点、スウェーデンチームが94300点。

 後半戦のチームの合計点は日本チームが378800点、スウェーデンチームが21200点。

 前後半戦の合計点は日本チームが684500点、スウェーデンチームが115500点と、日本チームが圧倒的点差で次鋒戦を制した。

 これで日本チームが勝ち星二となった。

 

 

「「「「有難うございました。」」」」

 

 対局後の挨拶を終えると、次鋒選手達は対局室を後にした。

 この時、既にスウェーデンチームのメンバー達からは、勝利に向けた気合いとか気迫が完全に消えていた。

 それもそうであろう。

 次の中堅戦では、日本チームからは咲と光が参戦する。どちらも世界トップレベルの有名選手だ。

 スウェーデンチームも、当然、中堅にはダブルエースを配置するが、日本のダブルエースには到底敵うとは思えない。

 もはや、戦う前から勝負は見えていると、選手達ですら思っていた。

 

 

 中堅選手達が入場してきた。

 スウェーデンチームからはヒルデ(3年生:エース)とアストリ(2年生:第二エース)が参戦するが、二人とも始まる前から青い顔をしていた。

 特にヒルデは、先鋒戦で咲と美和の最悪コンビに思い切り痛い目に合わされていたためであろう。完全に悲観的な表情をしていた。

 

 喜んでいたのは、某ネット掲示板の住民達だけである。ヒルデとアストリが、どれだけ大放出するかで話題沸騰していた。


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