咲-Saki- 阿知賀編入   作:おこそとのほもよろを

189 / 221
百八十九本場:高校最後の世界大会5  十倍返し

 大会七日目のブロック準々決勝戦。

 先鋒後半戦がスタートした。

 

 東一局、咲の親。ドラは{⑤}。

 咲の配牌は、

 {一五九②⑧2468東南西北發}

 ここから打{②}でスタートした。

 

 今回、淡は大人しい。絶対安全圏のみでダブルリーチはかけなかった。前半戦で楽しませてもらった分、後半戦は咲に華を持たせるつもりのようだ。

 

 9巡目。

 イリーナが聴牌した。

 彼女の手牌は、

 {三四[五]六七[⑤][⑤]⑤⑥⑦556}  ツモ{[5]}

 タンヤオドラ7の倍満手である。

 

 咲の河は、

 {②⑧五一九北南西東}

 どうやらは索子に染め手いるっぽい。

 

 加えて{6}は初牌だが、やはり前半戦でステラが大失点している以上、イリーナとしてもここは大きく稼ぎたい。

「(勝負!)」

 イリーナが{6}を強打した。

 まさに振込み覚悟の賭けである。通れば倍満聴牌だ。

 しかし、

「カン!」

 案の定、咲が、これを大明槓した。

 咲の副露牌は咲とイリーナの間に晒される。この副露牌に乗って咲の強大なオーラがイリーナ目掛けて飛んでくる。

 まさにそれは、白亜紀後期に地球上の食物連鎖の頂上に君臨していた巨大肉食獣が大きな口を開けてイリーナのほうに突進してくるような恐ろしい感覚だ。

「(ヒィッ!)」

 思わずイリーナは、心の中で叫び声を上げた。

 

 そんなのお構い無しに、咲は嶺上牌を引くと、

「(去年、淡ちゃん(麻雀)と私を(美貌対決)泣かせた恨みを、十倍返しにしてやるんだから!)」

 と心の中で声を張り上げながら、

「もいっこ、カン!」

 咲は{8}を暗槓した。

 別に、昨年の大会で淡を泣かせたのも咲を泣かせたのもイリーナではないのだが………、まあ、同じロシアチームの美女ゆえに八つ当たりされている部分はあるのだろう。

 

 再びイリーナを目掛けて咲の強大なオーラが飛んできた。イリーナには、まさに二匹目の巨大肉食獣が彼女の身体に噛み付こうとしている幻が見える。

 

 さらに咲は、次の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {4}を暗槓した。

 イリーナを目掛けて三度目のオーラが飛んできた。

 彼女の頭の中では、既に三匹目の巨大肉食獣が現れており、その三匹がイリーナの身体に喰らい付いている状態だった。

 一匹目が右足に、二匹目は左足に、三匹目は頭に噛み付いている。

 そして、その三匹が強烈な力でイリーナの身体を引っ張り合った。

 

「(死にたくない!)」

 心の中で、イリーナが叫んだ。

 しかし、そんな想いを裏切るかのように、

「(ブチッ!)」

 幻の中でイリーナの身体が見事に三つに引き千切られた。

 現実世界での出来事では無いのに、余りの恐怖に怯えて、イリーナの目からは怒涛の如く涙が流れ出ていた。

 そして、

「ジョボボボボボ………。」

 その恐怖映像に耐え切れず、とうとうイリーナは派手に大放出した。

 

 某掲示板では、

『ヤッたッス! これで丼飯10杯はイケルッス!』

『大放出してナンボ、大放出してナンボですわ!』

『あったかーい』

『ステキです』

『ス・バ・ラ・で・す!』

『やっぱり咲ちゃんは期待を裏切らないじぇい!』

『でも、まだ和了ってないし!』

『お友達ができたよモー!』

『先輩が喜んでるデー!』

『オモチ美女の大放出は見ていて最高ですのだ!』

『やっぱりこれがないと楽しみが減ると思』

『さすが咲様! 完全にお宝映像じゃなかと!』

『やっと予想していた未来がみえたで!』

『黄金水が出るでー!』

『ダル………』

 いつもの住人達が大喜びしていた。

 

 しかし、まだプレイ中である。

 王牌には、あと二枚の嶺上牌が残っている。

 咲は、三枚目の嶺上牌を引くと、

「もいっこ、カン!」

 {2}を暗槓した。

 

「ジョボボボボボ………。」

 まだイリーナの大放出は加速する一方で止まる様子がない。

 涙も止まらない。

 それを横目に咲は、最後の嶺上牌………{發}で、

「ツモ!」

 嶺上開花を決めた。

「緑一色四槓子。96000です。」

 しかもダブル役満。

 この責任払いでイリーナの点棒は、一気に4000点まで削られた。

 

 突然、

「プシャ──────!」

 イリーナほど強烈ではなかったが、ステラも派手に放出し始めた。まるで、イリーナから伝染したかのようである。

 卓の下には、巨大な黄金の湖がドンドン大きく広がって行った。

 

 咲は、激しく震えるイリーナから点棒を受け取ると、

「一本場!」

 連荘を宣言した。

 スタッフ達は、一旦ここで試合を中断して清掃作業に入ろうかと思っていたのだが、咲の全身から放出される恐ろしいオーラを受けて動けなくなっていた。

 それで、そのまま試合は続行となった。

 

 東一局一本場。

 当然、この局も絶対安全圏が発動していた。

 しかし、淡は、ここでも特に動く気配はなかった。後半戦は、咲の独壇場と決めているからだ。

 そして七巡目、

「リーチ!」

 咲が先制リーチをかけてきた。

 そもそも配牌六向聴牌である。イリーナもステラも、七巡目では、さすがに聴牌できていなかった。

 一切のムダツモ無しで手を進められること自体がおかしい。

 一先ず、二人とも安牌を切って様子を見た。

 しかし、次巡、

「カン!」

 咲が{西}を暗槓した。

 

 またもやイリーナに向けて強大なオーラが飛んできた。

 再び巨大肉食獣がイリーナを捕食しようと襲い掛かってくる幻が見えた。

 ところが、その直後、突然様子が変わった。地面が裂けて、ところどころからマグマが噴出し始めたのだ。

 そして、イリーナを狙っていた巨大肉食獣がマグマを被って焼け死んでゆく、まさに地獄絵図とも言うべき映像がイリーナの脳裏に浮かんだ。

 食い殺される状況から開放されて一瞬ホッとしたが、当然、自分も生き残れるような環境では無い。

 地面が激しく揺れる。大地震だ。

 マグマの噴出も激しくなる。

 もはや、死を受け入れるのみだ。

 

『死にたくない!』

 などと言う心情を既に通り越していた。

 再びイリーナの目から涙が流れ出た。これは恐怖からのモノでは無い。完全なる絶望とか避けられない悲しみから来る涙であった。

 

 現実世界では、

「ツモ!」

 無情にも、そのまま咲が嶺上開花で和了っていた。

 しかも、

「リーチツモ嶺上開花赤1。4100オールです。」

 親満ツモの一本場。

 これで、イリーナが、たった100点だが箱割れして終了となった。

 

 

「「「「有難うございました!」」」」

 

 咲と淡は、対局後の一礼を済ますと、急いで対局室を出て行った。

 やはり、黄金水のニオイが漂う場所から離れたかったのはあるだろうが、それ以上に大放出させた相手と一緒にいるのはキツイ。

 それで二人は、この場から逃げたのだ。

 

 一方のイリーナとステラは、一礼の後、しばらく動くことができなかった。

 恥ずかしいとか悔しいとか言う次元では無い。怖かったのだ。

 しかし、ずっとここに居座るわけには行かない。二人は、自分の心に活を入れると、重い足取りで何とか対局室を出て行った。

 

 

 清掃作業に入った。

 この頃、某掲示板では、

『次は美和様なんやろ? 掃除するだけムダちゃうか?』←洋榎

『どうせ汚れるのは目に見えてるじぇい!』

『みかんジュースが溢れる未来が見えるで! 掃除なんかムダや!』

『さっさと始めて欲しいし!』

『あたたかくなーい!』

『もう放出したのは冷めてるじょ』

『でも、どうせならイリーナで美和様には遊んで欲しかったッス!』

『私もそう思』

 いつもの住人達が好き勝手なことを書いていた。

 

 

 それから30分余りが過ぎた。

 スタッフから日本チームとロシアチームの控室に試合再開の連絡が入った。

 

 それから数分後、対局室に次鋒選手達が入室してきた。

 日本チームからは神楽と美和、ロシアチームからはレイラ(3年生)とオリガ(2年生)が参戦する。

 レイラとオリガの鋭い視線が神楽と美和に突き刺さった。同朋達が先鋒戦で晒し者にされて心中穏やかではなかったのだ。

 

 二人の喧嘩を売るような目をテレビ映像で見ながら、

「あの二人の気持ちも分かるかな。」

「まあね。」

 麻里香とみかんは、かつての自分達………咲を敵視していた頃を思い出していた。

 ただ、今回は、この二人でさえ、ステラには、

『ザマミロ!』

 と思う部分もあった。

 淡と近しいが故、昨年の大会でステラがした行為に対する報復措置に賛同したい気持ちが強かったからだ。

 まあ、今回の咲の攻撃は、やり過ぎな気もしないでもないが………。

 

 

 対局室では場決めがされ、起家が美和、南家が神楽、西家がレイラ、北家がオリガに決まった。

 

 東一局、美和の親。ドラは{3}。

 神楽には、鷲尾静香の生霊が降りていた。豪運かつ頭脳明晰な彼女が、どれだけ美和との連携が取れるかが期待される。

 

 この局、静香の配牌は、

 {二四七八②④⑤13[5]8西北}

 第一ツモは{三}。ここから打{西}。

 

 二巡目、静香はツモ{4}、打{北}。

 

 そして、三巡目に、静香は{六}をツモってきた。

 静香の指が{8}に触れた。ここから、{8}を切ろうとしているのだ。まあ、別に普通の感性からすれば否定されるはずのない打ち方であろう。

 

 ところが、この時、控室では咲が、

「普通なら{8}だけど、コンビ打ちなら、ここは打{②}だよ!」

 と咲が声を上げていた。

 

 静香の脳裏に、

『{②}だよ!』

 一瞬、咲の声が聞こえた気がした。

 しかし、

「(宮永さんの声? どうして聞こえてきたんだろ? でも、よく分からないけど、ここはどう考えても{8}切りでしょ?)」

 普通に静香は、{8}を落とした。

 

 四巡目と五巡目に、静香は立て続けに{②}を引いた。

「(やっぱり{②}を残して正解!)」

 と思いながら、{1}、{⑤}と切って聴牌。

 

 静香の手牌は、

 {二三四六七八②②②④34[5]}

 {③④}待ちである。

 

 ところが、この直後、

「リーチ!」

 美和がリーチをかけてきた。

 

 この時、美和の河には、

 {9西南八東③}

 

 いつもの敬子と大差ない捨て牌であった。

 静香が神楽の透視能力を使って美和の手牌を見ると、

 {二二五[五]六六①[⑤][⑤]33白白}

 

 リーチ七対子ドラ5の倍満手。

 これは、何とかして美和に和了らせたい。コンビ打ちならではの考えである。

 相手チームから、より大きく点棒を奪うには、静香自身が和了るよりも美和に和了らせる方が効率的だ。

 しかし、ロシアチームの二人の手を透視してみたが、どちらも{①}を持っていない。まだ、三枚とも山の中に隠れているのだろう。

 

 頭の良い静香は、何故、咲の{②}切りの声が聞こえたのかが理解できた。

 あそこで{②}を切り、さらに四巡目と五巡目にツモってきた{②}もツモ切りしていれば、{②}の壁ができる。

 しかも、{②}をツモ切りする際に、

『チッ!』

 とでも声を上げながら強打すれば、他家は裏目を引いてイラついているとでも勝手に想像するだろう。

 そうすれば、後々、ロシアチームのどちらかが{①}を引いた時に{②}の壁を信じて{①}を捨てる可能性が高い。

 だからこそ、咲は{②}切りと言ったのだ。

「(今からでもサポートしなきゃ!)」

 静香は同巡で{3}を引いた。ここから打{②}。

 さらに静香は、{6}、{[⑤]}と引いて、残る二枚の{②}も落として行った。

 

 その直後、オリガが{①}を引いた。

 しかし、少し悩んだ後に、オリガは敢えて浮き牌である{①}を手に残して、{①}から遠い牌である{⑨}を落とした。

 リーチ後の{②}の暗刻落としがワザとらしく感じたからである。

 

 コンビ打ちなので、チームメイト同士で通しサインを送っている可能性は十分考えられる。むしろ、そう考える方が普通だろう。

 つまり、オリガは、美和は何らかの形で{①}待ちであることを静香に伝え、それで静香が{②}を落としてきたと考えたのだ。

 美和が聴牌してからの{②}切りは、むしろ逆効果であったと言えよう。

 …

 …

 …

 

 

 結果的に、この局は流局した。

「聴牌!」

「「「ノーテン。」」」

 美和の一人聴牌であった。

 しかも、美和の開いた手を見て、ロシアチームの二人が、

「「(流れてラッキー!)」」

 と思ったのは言うまでもない。

 

 ただ、ここでは親が聴牌しての流局であれば、親流れにならないルールであった。よって、ここでは連荘となる。

「一本場!」

 美和は、気を取り直して連荘を宣言した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。